包帯令嬢の恩返し〜顔面難病の少女を助けたら数年後美少女になって俺に会いに来た件〜   作:pelca

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第154話 初めてのお洒落

「――光流、お帰りなさい」

 

 玄関に入ると出迎えてくれたのは母だった。

 

 雪をできるだけ落としてから靴を脱いで家の中へと上がると、母が俺の服に視線を向けた。

 

「あら、ちょっと汚くなってるわね」

「色々あってね……あとで話すよ」

「そうね。まずはお風呂に行ってらっしゃい」

 

 取っ組み合いでもしたの? なんて言われなくて良かった。

 今までそんなことはしたことがないので、そんな考えは出てこないか。

 

 俺はリビングには顔を出さずに母に言われるまま、まずは自分の部屋へと向かい、すぐにお風呂に入ることにした。

 

 

 

 …………

 

 

 

 少し冷えた体は十分に温まり、さっぱりした。

 お風呂から上がり、パジャマに着替えてからリビングに行くと、そこには姉や父も揃っていた。

 俺を待っていたように思えた。

 

 

「光流、どうだった!?」

 

 俺より先にお風呂を済ませていたであろう姉。

 表面がふわふわもこもこに加工されているゼラートミケの可愛い寝間着姿で、ココアを飲みながらソファでくつろいでいた。横にはノワちゃんもいる。

 

 姉は早速ルーシーとのことを聞いてきた。

 

「うん。ちゃんと会えた。母さんから聞いたかもしれないけどその後ルーシーの家に行ったよ」

「良かったじゃない! それで、ルーシーちゃんはどんな顔だったの?」

 

 ルーシーは家族以外には素顔を見せてこなかった。だから俺の家族はルーシーがどんな顔をしているのかを知るはずもなかった。

 五年前、まだ一緒に入院していた時に俺の家族もルーシーの病室へ足を運んだこともあるが、もちろん包帯を巻いていた。

 

「ん〜どうしよう」

 

 一緒に撮った写真はある。

 でもあれはルーシーと密着してるし、家族に見られると恥ずかしい写真でもある。

 

「なによ。私ら心配してたんだからね〜」

 

 そう言われると逃げ場がない。

 

「わかったよぉ」

 

 俺は仕方なくスマホを取り出し、ルーシーと一緒に撮った写真を表示。

 それをソファの前のテーブルの上に置いた。

 

 すると、ダイニングテーブルの方に座っていた父と母もソファの方にやってくる。

 

 

「えっ…………」

「これが、ルーシーちゃんなの?」

「光流、お前……」

 

 

 三人とも同じような反応だった。目が見開いていて、夢か現実かわからなくなっているような表情。

 

「そうだよ、ルーシーだよ」

 

「…………」

 

 

「美人過ぎるっ!!!」

「なんて可愛い子なの!?」

「同じ人間だとは思えないな」

「そうなんだよね……」

 

 一言でまとめてしまえば、ルーシーは女神であり天使であり聖女だったのだ。

 あれ、一言でまとめらていないか。それもそうだ。一言でまとめるなんて失礼極まりない。

 

「あんたくっつきすぎでしょ……」

「だから見せたくなかったんじゃん」

 

 姉がルーシーの肩を抱いて密着している写真の中の俺に視線を向けた。

 

 自分が満面の笑み過ぎて気持ち悪い。幸せそうな顔をしやがって。

 ルーシーの方はと言えば、ニヤけてしまうほど笑顔が可愛い。エンジェルスマイルだ。

 

「宝条さんの奥さんも綺麗な人だったけど、ルーシーちゃんも本当に綺麗ね」

「良い具合に混ざってハーフになっているというか」

 

 母と父の言う通り。

 ルーシーの母であるオリヴィアさんもとてつもなく綺麗な人なのだ。

 四十歳ほどであると思われるが、三十歳前後に見えてもおかしくなかった。しかも、今日会ったオリヴィアさんは五年前のあの時から全く見た目が変わっていなかった。

 ルーシーはその美貌をちゃんと受け継いでいるのだ。

 

「どうしましょう。本当にこの子の中に光流の腎臓があるのよね?」

「あると思う」

「なんか信じられなくなってきたわ」

「今度絶対家に連れてくるから、その時楽しみにしてて」

 

 色々と信じられなくなるくらいルーシーは可愛い。

 だから信じさせるためにも以前、家族にも約束した通りルーシーをこの家に連れてきたい。

 

 ずっと見られているのも恥ずかしいので、俺はテーブルの上のスマホを回収した。

 

「なんかさ、本当に色々あったから、全部説明するの難しいんだよね」

 

 何から話せば良いのか本当にわからない。

 

「あとさ、心して聞いてほしいんだけど……」

 

 後でバレるよりも、今ちゃんと言った方が良いと思った。

 

「ルーシーに会いに行く直前に、事故に遭いそうになったんだよね」

「えっ!?」

 

 言うと、母の表情が険しくなり、慌てたように自分の顔を抑えた。

 

「結論から言うけど、全然大丈夫! だって、俺ここにいるでしょ?」

「そ、そうよね……っ」

 

 先に言わないと落ち着いてくれなさそうだったので、先に結論を話した。

 

「それで、どういうことなんだ?」

 

 同じく心配したような表情になっていた父が聞いてくる。

 

「うん。横断歩道渡ってる途中におばあちゃんがいて、そこにトラックが突っ込んできそうになったら、それを助けた。俺もそのおばあちゃんも無事」

 

 これもルーシーと同じく、家族には死にそうになったとは言うつもりはなかった。

 

「心配するようなことにはなってないから。母さん気づいてたと思うけど、だから少し服が擦り切れてたんだ」

「……でも転んだってことでしょう?」

 

 つまりそういうことだ。

 地面に転がっていなければできない擦り切れた痕だ。

 

「地面が雪だったからね。ちょっと滑っただけ」

「…………とりあえず、腕見せてみなさい」

 

 すると、母が俺のパジャマのボタンを外しだす。

 

「自分で脱ぐからっ」

 

 この歳になって親に服を脱がされるのはさすがに恥ずかしい。

 

「ほら」

 

 俺は上半身裸になった状態で右腕を見せた。

 分厚いダウンジャケットとセーターに守られていたため、傷跡は全くなかった。

 

「うん………確かに見た目は問題なさそうね」

 

 母は訝しげに俺の右腕を凝視する。

 

「でしょ? だから全然だいじょう――いててててっ」

 

 すると、父が俺に右腕を少しだけ力を入れて手で握るように触れてきた。

 何もしてなければ痛みはないが、圧力をかけられるとまだ痛いようだった。

 

「ふむ……もし、痛みが引かないようだったらちゃんと病院に行きなさい」

「それは……わかった」

 

 もう心配をかけてしまっているし、ここは父に従おう。

 

「光流、ちゃんと自分のこと、大切にしなさいね?」

「うん。大切にする」

 

 そう、わかっていてもあの時は体が勝手に動いていた。

 止めようがなかったのは事実だ。

 自分の体を大切に、なんて考える時間はなかった。

 

 結果的に生きていて良かったけど、親に心配はかけたくない。

 

「とりあえず湿布貼っておきなさい」

 

 すると母が救急箱のようなものを持ってくると、そこから湿布を取り出す。

 俺の腕の痛みがあるところに貼ってくれた。

 

「これでよしっ」

「母さんありがとう」

 

 母さんの想いがこもった湿布を見やり、俺は再びパジャマを着た。

 

「ちなみに明日もルーシーと一緒に遊んでくるから」

「そうなの!? デートじゃん!」

 

 姉が食いつく。

 まさか連続で遊ぶことになるとは俺も思っていなかったけど、ルーシーも空いているっていうし。

 

「また夕方からなんだけどね。原宿に行ってくる」

 

 そう言うと、両親と姉が顔を見合わせた。

 

「なら、駅まで私が送ってく」

「え?」

 

 姉はルーシーとの待ち合わせ場所である原宿駅まで着いてくると言った。

 

「あんたね。一人で行動してこうなってるんだから、心配するに決まってるでしょ。明日くらいは我慢しなさい」

 

 再び五年前の過保護が発動したかのように、心配性になる姉。そして同じ想いを持っている両親。

 

「まぁ……駅までなら。姉ちゃん予定ないの?」

「私は夜に佐知の家でクリパあるから、光流を送ったあとで行くから大丈夫」

 

 謎ダンスガールズでまた集まるということだろう。

 

 姉はここしばらくはずっと大学への受験勉強をしていた。

 なので、クリスマスくらいは息抜きしようということなのだろう。

 それが終われば受験日まではずっと勉強なはずだ。

 

「そう、なら良いけど」

「ついでにルーシーちゃんの顔見て行こうかな〜」

「え゙っ」

 

 姉がそう言うと、俺は低い唸り声を出した。

 

「ふふっ。駅までだって。二人の邪魔したくないしね。ちゃんと会うのはあんたが家に連れてきた時にするよ」

「そうしてほしい」

 

 姉の言う通り、できるだけ二人で一緒にいたい。

 ルーシーに対して好奇心旺盛になっている姉をその場で会わせるのは面倒くさいことになりそうだ。

 姉だって、あの謎ダンスガールズの一員なんだから……。

 

「じゃあ、明日もあるし、もう寝るよ」

 

 既に時間は夜十一時を過ぎていた。

 瞼も重い。

 

「もう遅いものね。じゃあおやすみなさい」

「光流、おやすみ」

「バーイっ」

「おやすみ」

 

 母、父、姉と挨拶を済ませ、俺は自室へと向かった。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 ――翌日の朝。

 

 昨日ベッドに入ってから一度も目を覚まさなかった。

 それほど疲れていたらしい。

 

 多分、身体的というより緊張とかそういう精神的なものでの疲れが多かったんだろう。

 

 ルーシーと会うだけならまだしも、ルーシーの家族となればもう大変だった。

 使い慣れない敬語を使ったり、豪華な料理を家族の前で一緒に食べたり、勇務さんとも一対一で話したりもして――。

 

 初めてのことばかりだとやっぱり疲れるものだ。

 

 でも、その疲れも朝起きると綺麗さっぱり取れていたようだった。

 

 腕を伸ばして軽くカーテンを開ける。

 まだ雪は降っていた。

 

 ホワイトクリスマスは今日も続くらしい。

 ただ、昨日よりは降る雪の量は減ったらしく、勢いが弱くなっていた。

 大中小で言えば、昨日が中で今日は小と言った具合だ。

 

 

 俺はベッドの上でスマホを手に取り、画面を操作していく。

 そうして、写真アルバムの中から一つの写真をタップ。

 

 

「ふふふふ…………」

 

 

 昨日家族に見せたルーシーとのツーショット写真。

 それを見て、昨日の出来事は夢じゃなかったと再認識。同時にルーシーの顔を見てニヤける。

 

 

「あ、今日の予定メッセージしないと」

 

 

 ルーシーのメッセージ画面を開くと、昨日もらった五年前の写真がそこにはあった。

 それを見ながら、俺は今日の十七時に原宿駅で待ち合わせにしたいとメッセージをした。

 

 今思えばちゃんとメッセージでやりとりしたのはこれが初めて。

 いくつかメッセージを送り合っていると、返事が来る度に一喜一憂して嬉しい気持ちになる。 

 

 ルーシーの方もその予定で問題ないとのことだったので、十七時に原宿駅で会うことに決まった。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「姉ちゃん! お洒落教えて!?」

 

 

 これまで無頓着だったお洒落。

 でも、いざ二人きりでデートとなると、このままでは申し訳ない気持ちになった。

 

 昨日だって本当ならもっとちゃんとお洒落したほうが良かったのかもしれないけど、そこまで頭が回っていなかった。ただ会いたいという気持ちが先行していた。

 

 そして、お洒落を教わるなら、歳が近い姉が一番身近だ。

 

 

「どうしたのよ〜色気づいちゃって」

 

 

 朝ご飯を済ませたあとにお願いをすると、姉はニヤニヤしながらそう返した。

 

 

「なんか……そうした方が良いと思って……」

「くあ〜っ。この可愛い弟めっ」

 

 すると姉は俺の髪をワシャワシャとしてきた。

 まだシャワーを浴びる前で良かった。

 

「それで、教えてくれる?」

 

 ボンバーヘッドになっていた頭のまま、俺は再度姉に聞いた。

 

「もっちろん! 超絶かっこいい光流にしてあげるっ」

「頼もしい」

 

 こうして、俺と姉のファッションショーが始まったのだ。

 

 

 

 …………

 

 

 

 お昼が過ぎた頃、シャワーも浴びて準備ができた俺は部屋に姉を呼んだ。

 

 

「とりあえず、できることと言ったら服と髪型よね」

 

 

 それは俺も理解していた。

 アクセサリーなんてものは一つも持っていないために、小物でのお洒落はヘッドホン以外には期待できない。

 

 

「ルーシーちゃんの昨日の服装を見る限り、カジュアルというより綺麗めファッションよね」

 

 そういえばそうだ。白のコートだったし……。

 

「そうかも。でも一着しかわからないけどね」

 

 昨日の服装だけで全てを決めつけるにはあまりにもルーシーと会った時間が少なかった。

 

「とりあえず今日は光流も綺麗めで行きましょう。レストランにも行くんだし」

 

 ダウンジャケットを着るだけでカジュアル感が強くなった昨日。

 でも、今日は行くのはイタリアンレストラン。カジュアルよりも綺麗目な方がドレスコードには合っていると思われる。別にお店にドレスコードはないのだが。

 

「ちょっとクローゼット開けるわね」

 

 すると、姉は数分クローゼットやタンスを漁って、俺の持っている服を把握していった。

 

 

 とりあえず、これ着てみなさい。

 そう言って姉がテーブルの上に広げたのは、白シャツにUネックでダークグレーのニットセーターだった。

 

 ただ、そこには足りていないものがあった。

 

「上着とズボンはどうするの?」

「うーん、ちょっと光流が持ってるものだと難しいかも。私の貸してあげたいところだけど、サイズがね……あんたもう大っきいし」

「そうだよね。筋肉もあるからさすがに姉ちゃんのは入らないだろうね」

 

 今では体格が全然違う。

 俺が百七十センチほどだとすれば、姉は百六十センチほど。

 しかも女性なので骨格的にも華奢でもある。例え大きめのサイズだとしても女性物の姉の服が入るわけがないのだ。

 

「とりあえず、それに着替えてて。私お父さんのクローゼット漁ってくるから!」

「わかった」

 

 そうして、俺の部屋を出ていった姉。

 それは着替えることにした。

 

 

 

 俺は等身大の鏡を見ながら姉が選んでくれた服を着てみることにした。

 

 そうか、シャツの上にセーターを重ね着するという手もあるのか。

 今思えば似たような服装を冬矢がしていたこともあったような気がする。

 今度からはあいつに服のこと聞こうかな。

 

 シャツに袖を通してボタンを閉める。そうして上からニットを着ると――、

 

「おお、なんかいい感じかもっ」

 

 さすがは姉だ。

 

 

「――おまたせ〜っ」

 

 

 すると、父の部屋に行っていた姉が戻ってきた。

 

 

「上だけでもいい感じじゃんっ!」

「そうかも。姉ちゃんありがとっ!」

 

 姉にも高評価だった。

 自分が持っているものを組み合わせるだけでも、こんなにお洒落な感じになるのか。

 

「じゃあこれ着てみて?」

 

 姉が手に持っていたのはネイビーのコート、そして茶色のスラックスだった。

 

「わかった」

 

 俺は姉に渡されたコートを上から羽織ってみた。

 

「ジャストサイズより、ちょっと大きめくらいの方がお洒落に見えるものよ。まぁ上下のサイズのバランスはあるけどね。Aラインとか、逆Aラインとか」

 

 ファッション用語が出てきたが、俺にはよくわからなかった。

 ただ、上に羽織ったこのコートは父のものだけあって、少し大きめだった。

 

「それねPコートってやつなんだけど、中の服に合うと思ったんだよね〜」

 

 俺が今羽織ったPコートとは、オランダ語のピイ・エッケルが語源であり、イギリス海軍が軍服として使っていたもので、それが一般化されたものだとか。

 素材はメルトンで厚くて温かく柔らかい。前には大きめのボタンが三つありそれが少し可愛い。丈の長さは俺のお尻が全て隠れるくらいだ。

 

 俺はPコートを着たまま姿見の前に立ってみた。

 

「おおおお〜〜〜。なんかさらに良くなった」

 

 中に着たシャツやニットはジャストサイズではあるが、このPコートは少し大きめ。

 そしてスラックスも履いてみると細すぎず太すぎずのサイズ感だった結果、逆三角形の良い感じのコーディネートに仕上がった。

 

「いいじゃんいいじゃんっ! 良くまとまってると思う!」

 

 姉はスマホを取り出し、パシャっとカメラで撮影した。

 ちなみにPコートも色々形や種類があるそうで、ジャストサイズの細すぎるものは良くないとのことだった。(姉の個人的な意見)あと、前のボタンは閉めるなと言われた。

 

「写真写りもいいかんじ!」

 

 人を褒めるのがうまいカメラマンのようだった。

 

「個人的には黒の革靴っぽいのがあれば良いかなと思ったけど、中学生なのにそれはやり過ぎだと思う。だからあとは持ってる黒のスニーカーで良いと思うよ」

「そういうもんなのか。わかったよ」

 

 現在の俺は正直、顔に比べて大人っぽい服装になっている。

 俺はまだ大人になりきっていない幼い顔立ち。大人っぽいファッションをしても顔に合わないということになる。

 

「じゃあ次は髪型ね」

 

 俺は一度コートを脱ぎ、椅子を姿見の前に持ってくると、そこに座った。

 姉が後ろに立つと、美容師のように見えてきた。

 

 そして姉はスマホで髪型の画像を調べては、鏡越しに俺の顔を見たりと交互にそれを繰り返しながら、どんな髪型が良いか俺の髪をいじっていった。

 

 

「センターパートにしてみよっか」

 

 

 いつもは前髪がある俺の髪型。姉の提案はおでこを出すというものだった。

 他にしたことがある髪型といえば、しずはのコンクールの時のオールバックくらいだ。

 

「姉ちゃんに任せる」

「あんた顔に特徴ないんだから、髪型くらいはお洒落しなきゃね」

 

 顔については余計だ。

 

 

 すると姉は一度、自分の部屋に戻り霧吹きとヘアアイロンを持ってきた。

 

「お客さま〜アイロン温めてる間にちょっとドライヤー使いますね〜」

 

 まさに美容師のような言葉遣いでサービスする姉。

 シュッシュと水の入った霧吹きを俺の頭にかけて少し濡らす。そのあと前髪に分け目ができるようにドライヤーを髪に当てていく。

 姉は右手でドライヤーを当てながら左手で髪を押さえてうまい具合に分け目を作っていった。

 

「よし」

 

 ドライヤーを止めると、温まったヘアアイロンを髪に当てていく。

 すると、前から後ろに流れるようにして髪を癖付けしていった。

 

 しばらくアイロンを繰り返したあとにワックスを少量手に取り髪につけていくと、最後に整えてセットが終わる。

 

「かんせーい!」

 

 セットが完了し、改めて鏡に映る自分を見てみた。

 

「おおおおっ!!!」

 

 顔に特徴のない俺でもかなり良い感じのセンターパートの髪型になった。

 服装は大人っぽいものを着ていたが、髪型のお陰でバランスがとれたように感じた。

 さすがは姉だ。

 

 しかし同じく鏡に映る姉の顔を見ると、どこか不満足な顔をしていた。

 

「……せっかくだし、眉も整えよう! 女の子って結構眉毛見てるんだぞ〜」

 

 眉毛なんて整えたことも手入れをしたこともなかった。

 そこまで重要なものだと思ったこともなかった。

 

 姉によればかなり重要らしい。

 

 再び姉は自分の部屋に戻り、眉毛カット用のハサミとピンセットを持ってきた。

 そうして眉毛の毛抜きとカットを始める。

 

「――いてっ」

「我慢しなさい」

 

 カットはいいのだが、ピンセットで眉毛の毛を抜く作業は普通に痛かった。

 姉は慣れれば痛くないと言うのだが、俺は初めての体験だったので痛いのも当然だった。

 

「はーい完成っ」

 

 そうして再び鏡で自分の顔を見る。

 

「なんかスッキリしてる……」

 

 手入れせずただ太いままだった眉毛。それが今は良い感じの太さになっていて、清潔感が漂っているように見えた。

 

「ほら、結構大事でしょ? 眉毛だけで変わるんだから」

「確かに……」

「それとこれからは化粧水とかもつけなよ。日焼け止めも。若いからって何もしないと老化が早まるよ」

「姉ちゃんだってまだ若いのに……」

「あんたね、学校でも女子の肌をよく見てみなさいよ。男子の何もしてない適当な肌と全然違うでしょ? ルーシーちゃんにかっこいいって思われたいなら、裏で頑張りなさいな」

 

 知識がなかったとは言え、確かに姉の言う通りだと思った。

 しずはだってそうやって色々頑張った結果、見た目があんなに変わったし。

 俺だって、ここからもっと変わることができるのかもしれない。

 

「わかんないことは私に聞きなさい。色々教えてあげるから。とりあえず髪と眉毛のセットくらいは常日頃から自分でできるようになっておきなさい」

「助かる……!」

 

 持つべきものは姉だ!

 

「じゃあ私は時間まで勉強してるから。準備できたら呼びに来てね」

「うん。わかった。受験勉強忙しいのにありがとう」

「全然いいわよ。またあとでね」

 

 そうして、姉は持ってきたヘアアイロンなどを持って自分の部屋に戻っていった。

 

 ルーシーとの約束の時間まであと三時間ほど。一時間くらい前には出発だ。

 

 俺も姉と同じく高校受験に向けて、勉強に取り組むことにした。

 

 

 

 

 

 

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