包帯令嬢の恩返し〜顔面難病の少女を助けたら数年後美少女になって俺に会いに来た件〜   作:pelca

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第162話 ライブ映像鑑賞会

 二階への階段を上がり、俺の部屋に着くまでの間、何も喋らずルーシーは俺の後ろをついてきた。

 

 ただ、なんとなく手を繋いでおいたほうが良いと思い、階段を上がる時からルーシーの手をとった。

 

「――ここが俺の部屋だよ」

 

 俺は自分の部屋の扉を開けて、ルーシーを中に招き入れた。

 

「わぁぁぁ」

 

 ルーシーが何を思ったのかわからない。

 ただ、目がキラキラしていた。

 

「ルーシーの部屋と比べたら物置小屋みたいな広さだけど、ここが俺が長い間過ごしてきた部屋」

 

 正確には覚えていないが、部屋が与えられたのは小学生になる前だったと思う。

 だから大体十年くらいはこの部屋で過ごしてきたはずだ。

 

「ううん、そんなことない。……光流の匂いがする気がする」

「そりゃあ俺の部屋だからね」

 

 自分では自分の匂いはわからない。香水も使わなければ芳香剤を部屋に置いているわけでもない。

 純粋な俺の体臭と衣服の柔軟剤の匂い、あとは少し前に増えたギターの木材の匂いだろうか。

 

「あっ、写真……」

 

 ルーシーが足を進めて辿り着いた先は、俺の勉強机の上。

 

 その机の上には、整理整頓された教科書やノートが置かれている棚。ペンなどが入っている文房具入れ。冬矢の家でのクリスマス会のプレゼント交換でもらった筆箱。暗くしても手元が見えるように置いた黒いデスクライト。

 

 そして机の端に置かれていたのが、真空にもらったフォトフレーム。

 イブの日にルーシーと二人で撮った写真を現像したものがそこには嵌めてあった。

 

「せっかくもらったからすぐに使おうと思って。これでいつでもルーシーを見れる」

「ふふっ。嬉しい……」

 

 ルーシーは笑いながらも喜んでくれた。

 自分で飾って思ったが、スマホで写真を見るのと、こうやって現像した写真を見るのとでは写真の価値というか、見た時の幸福度が違った。

 

「じゃあ、夕食までDVD見たりしようか」

「うんっ」

 

 ルーシーをテーブルの前に座らせると俺はテレビ台の下の棚を開け、そこからPN4とケースに入れておいた文化祭のDVDを取り出した。

 

「ゲーム機だ」

「最近はやる機会減ったけど、冬矢とかとも結構やってたんだよ」

 

 文化祭のライブリハーサルで俺が声が出せなくて落ち込んでいた時、皆でゲームしたっけ。

 あれ以来ゲームはしていない。

 

「私、ゲームしたことない……」

「じゃあ、時間余ったらやってみる?」

「うんっ!」

 

 男子と女子では遊んできた内容は違うことも多いだろう。

 ましてやルーシーは、小学校時代ほとんど家で一人で過ごしてきていた。

 だから多分一人でできる遊びをしていたのかもしれない。

 

 それを思うと、ルーシーと一緒に何でもやりたいと思った。

 

 話しながら、PN4の配線をテレビへと接続し電源を入れる。

 電源を入れてDVDのディスクを挿入して準備完了だ。

 

「じゃあ、再生するね」

「うん、楽しみっ」

 

 俺は再生ボタンを押した。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「――もうお話は聞いているかと思いますが、イブの日に光流くんが家に来たので一緒に食事をしました」

「聞いてますよ。凄いお家だったと驚いてました」

 

 一階のリビングで会話を始めたのは勇務と光流の父である正臣。

 

「元気そうだったと記憶しています。その後も体調は変わりないですか?」

「問題ないですよ。不思議なくらいに元気で、以前よりも体が強くなったみたいです」

「それは良かった」

 

 まず、光流の体を心配した勇務。

 光流はずっと筋トレやジョギングをしてきたことからも屈強な体を手に入れていた。

 これは以前よりも明らかに強い体になったと言っても良かった。

 

 体の内側も全く問題ない。たまに検診を受けてはいるが、これまで異常は見られなかった。

 

「ルーシーちゃん、見ましたよ。本当に病気が治って良かったです。まさかあそこまで綺麗で可愛い子だとは思いませんでしたけど」

「小学校時代の顔の変遷を見られなかったのは残念ですけど、今こうやって治るはずのない病気が治って嬉しい限りです。それに、あの子も光流くんのお陰で性格が良い方向に変わりましたから」

 

 今度は光流の母の希沙良とルーシーの母のオリヴィアの会話。

 コーヒーを飲みながら互いに子どもたちの状況を教え合う。

 

「それでですね、ちょっとお伝えしたいことがありまして……。イブの日、光流くん少し怪我のようなものをしていたかと思います」

「事故に遭ったような話を聞いてはいます。右腕に少し痛みがあったようなので湿布はしておきました。骨には異常はなかったようです」

 

 勇務がなぜこの話題を出したのか、不思議に思う正臣と希沙良。

 その答えはこのあとすぐに判明することとなる。

 

「――実は光流くんがその事故で助けたのが私の母だったみたいなんです……」

「えっ……」

 

 勇務から聞かされたのは衝撃の事実。

 その内容に顔を見合わせる正臣と希沙良。

 

「母の話からトラックに轢かれそうにったところを助けてもらったという話らしく。年齢も年齢なので、気も動転していたと思いますし、どこまで本当なのかわかりません。ただ、命を助けてもらったと話していて……」

「あなた……」

「あぁ……」

 

 光流の話では、横断歩道を渡っている途中におばあちゃんにトラックが突っ込んできそうになったから、それを助けたという話だけ聞いていた。

 しかし、そこでは死にそうになったとは聞いていなかった。

 確かにトラックが突っ込んできそうになったということは死ぬ危険もあったとわかるが、光流からはその言葉は出ていなかった。

 

 勇務が言う『命を助けてもらった』という表現から、死んでいてもおかしくない状況だったと今初めて正臣と希沙良は理解した。そしてソファの方で静かに四人の話を聞いていた灯莉もそれを理解した。

 

「その場には私の妹が駆けつけたのですが、名前も名乗らずにいたようで。でもその日に五年振りに人と会うという話を聞いたらしく、まさかと思ったんです」

「五年振り……ですか」

 

 正臣と希沙良もこの五年というキーワードで思い当たるのは一つしかなかった。

 それは光流とルーシーが五年振りに会うという話だ。

 

「現場から公園の距離も近いですし、光流くんの代わりに池橋冬矢くんと思われる子が姉が来るまで母に付き添っていてくれたらしく。容姿からそう判断しただけですが、多分合っていると思われます」

「冬矢くんが……」

 

 正臣も希沙良も想像できた。

 光流はこの事故に遭ったせいで恐らくルーシーとの約束に遅れることになった。だから、冬矢を呼んで公園に向かったと。

 

「冬矢くんと思われる子の言動からも、母を助けてくれたのは光流くんしかいないと思いまして」

「そうでしたか……」

「はい、ですのでその報告とお礼を兼ねて今回はこちらに来た次第です」

 

 勇務たちが今回家に来た目的は、ルーシーがいる場で揃ってお礼を言うためだけではなかった。

 ルーシーのみならず、別の意味で母を救ってくれた光流へお礼をするためでもあった。

 

「まさか宝条さんのお家の方だったとは……どこで繋がっているかわかりませんね」

「私も聞いた時は驚きました。イブの日、家に来た光流くんにお礼を言おうと思ったのですが、うまく時間を作れなくて」

 

 あの時はルーシーが部屋に突入してきて、勇務は言いたいことを言えていなかった。

 

「光流くんに今回の件を伝えるかどうかはお任せします」

「わかりました」

「では私たちは今日はこれでお暇します。ルーシーのこと、よろしくお願いします」

 

 こうして、ルーシーの両親は光流の家を後にした。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 DVDを再生するとまずテレビ画面に映ったのは、バンドメンバー四人の姿。

 

 確かこの時は俺は目の前の人全員をルーシーだと思って笑っていた気がする。

 そんな中しずはが叫びだす。そうして突然ベートーヴェンの『熱情』を弾き始め、会場を一気に引き込む。

 

「えっ、ええええっ!?」

 

 見ていたルーシーもいきなりのことに度肝を抜かれたようだった。

 

「これがしずはちゃん……? 印象と違う……」

 

 この時のしずははこれまで見たことのないくらいロックだったからな。俺も驚いた。

 

「凄い……光流歌ってる……かっこいい」

 

 一曲目が流れる中、ルーシーは画面を見ながらそう呟いた。

 やはり画面越しの自分の姿を見られるのは恥ずかしい。ルーシーはずっと画面に集中していた。

 

 そうして一曲目が終わる。

 

「すごいすごいっ! 光流すごいっ!」

 

 ルーシーは会場にいてライブをリアルに楽しんでいるかのうように拍手をくれた。

 

 すると最初のMCが始まり、自己紹介に。

 

「冬矢くん、結構人気あるんだね……」

 

 冬矢の名前が上がると黄色い声がかなり飛んでいった。

 最後にしずはの名前が呼ばれると――、

 

「わぁっ」

 

 しずはに対する声援の多さにルーシーが驚く。

 

「冬矢くん以上に人気あるんだね。こんなに可愛いのにキーボードも上手いんだもんそうだよね」

 

 ただ、ルーシーは知らない。しずはがキーボードを弾く姿を見せたのはこれが初めて。

 九割以上の生徒がしずはのことをトップレベルのジュニアピアニストだとは知らなかった。

 

 そうして、一番の問題に差し掛かる。

 

 陸がバンド名をルーシーだと言い始めたのだ。

 

「ええっ!? わたし!?」

 

 予想通りに驚く。

 

 そうして陸がルーシーの名前を叫び、観客を煽る。

 すると、観客も陸に従ってルーシーの名前を叫んだ。

 

『『『ルーシーっ! ルーシーっ! ルーシーっ!』』』

 

「ど、どういうこと!?」

「俺も知りたいんだけどね……。陸はルーシーの名前を出せば俺が元気になると思ったらしい」

「ふふ、なにそれ〜。で、元気にはなったの?」

「なったけど……」

 

 ニヤニヤするルーシー。俺がルーシーの名前で元気になったことが嬉しいようだった。

 実際ルーシーの名前を言われて元気になったのは、リハーサルで失敗した日だったけど、この日も嬉しくなった。

 

「勝手に名前使ってごめんね」

「ううん、良いよ。多分ほとんどの人が私の名前だって知らないんだよね」

「そうだね。観客はよくわからないでノリで言ってるだけだよ」

 

 それだけ一曲目で盛り上がったという証拠でもあった。

 

 

 画面の映像が進み、二曲目に入る。

 

 そうして二曲目が終わると、一曲目同様にルーシーは拍手をくれた。

 

 

「光流、すっごい良い顔してるね……」

「うん。多分歌も演奏も上手く行って、観客も盛り上がったくれたから」

 

 

 この時はここまで盛り上がるなんて想像もできなかった。

 俺のことを知らない人も盛り上がってくれていたと思うから、音楽って本当に偉大だ。

 

 

「あ……オリジナル曲」

 

 

 三曲目の紹介。そこで俺たちはオリジナル曲だと説明していた。

 そして歌詞を考えたのは俺だとも……。

 

 そうして、俺がルーシーを想って作った曲『空想ライティング』が始まった。

 

 ルーシーはずっと画面を見つめる。

 ふと見るその横顔は、誰よりも綺麗だった。そんな中、ルーシーに変化が訪れる。

 

「ぐすっ……ぐすっ……」

 

 目線はテレビ画面のままだったが、その目からは涙が溢れていいた。

 

 演奏は終盤。冬矢としずはがわざと難しく作った俺のギターソロ。

 なんとかそれを弾き終え、最後サビを歌いきって演奏が終わった。

 

「うぅ……うぅ……っ。ひかるすごいっ。ひかるすごいっ……」

 

 俺はルーシーの背中を撫でながらその言葉を聞き入れた。

 

「一応ルーシーのこと考えて作った曲なんだ。本当は生で聞いてほしかったけど、今こうやって見せることが出来てよかったよ」

「あぁ……ぁぁ……嬉しい、嬉しいよ……ひかる……っ」

 

 喜んでくれた。しかも泣きながら。

 作って良かった。ちゃんと届いて良かった……。

 

「あれ……もう一曲、あるの?」

 

 すると、泣きながらもルーシーはまだ終わらないライブに疑問を持った。

 画面の中の俺が時間があるからと、もう一曲やると言い出した。

 

 最後の曲を紹介する自分の声が聞こえてくる。

 

 

『――皆、『エルアール』って知ってる?』

 

「えっ……」

 

 俺が画面の中でそう言った瞬間、隣にいるルーシーが目を見開く。

 

『練習期間が凄く短くて……でも、やろうって決めました』

『じゃあ本当に最後の曲です! 聴いてください『エルアール』で『星空のような雨』!』

 

「えっ……えっ……」

 

 ルーシーが戸惑いを見せたまま、最後の曲が始まった。

 

 難しい歌、時間のない中、練習した演奏。画面越しの四人は必死に音を奏でていた。

 体力的に辛くて、目が笑っていないにもかかわらず、口だけは必死に笑顔を作り、楽しんでいた。

 

 そうして最後の曲を演奏しきって、ライブが終わり、舞台の幕が閉じていった。

 

 

「――ひかるっ!!」

「わっ」

 

 

 映像が終わったと同時に隣に座っていた俺の胸へとルーシーが飛び込んでいた。

 

 

「うぅ……すごいっ、すごいよひかるっ! もうなんて言ったら良いか……オリジナルの曲もそうだし……ぐすっ……まさか私の歌まで……感情が、追いつかないよぉ……っ」

 

 

 ルーシーは涙を流しながら、ゆっくりとライブの感想を伝えてくれた。

 

 

「驚いたでしょ。でもルーシーの歌すっごい大変だったよ。キーは変えたけど、男が歌えるもんじゃないよ。さすがはルーシーだね」

「ううんっ。すごい良かった。私と違って光流なりの良さがあった……素敵な声だった……」

 

 俺は胸元で泣くルーシーの頭を撫でながら、言葉を交わす。

 

「なんでこんなにすごいの? なんでこんなに泣かせるの? 光流ずるいよ……」

「ルーシーのためにギターも歌も頑張ったからね。それが伝わって良かった」

「もう……両手じゃ足りないよ……。光流からの気持ち、持ちきれないほどたくさんもらってるよ……」

「零してもいいよ。足りなくならないようにずっと溢れ続けさせるから」

「なに、それぇ……」

 

 俺たち二人は今、優しい雰囲気に包まれていた。

 純粋に俺の音楽がルーシーに伝わったこと、それが嬉しかった。まさか泣いてもらえるほどになるとは思ってもいなかったけど、それだけ想いが届いたということだ。

 

「もう夕食近いけど、俺ちょっとお茶淹れてくるよ。少しだけ待ってて」

「うん……」

 

 俺は自分の代わりにクッションを渡し、ルーシーにそれを抱かせた。

 そうして、俺は一階へと降りてリビングにお茶を淹れに行った。

 

 

 

 

 

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