包帯令嬢の恩返し〜顔面難病の少女を助けたら数年後美少女になって俺に会いに来た件〜   作:pelca

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第165話 しずはへの相談

 ルーシーが帰ったあと、お風呂に入っていつでも寝られる状況になってから、早速しずはにメッセージを送ってみた。

 

『しずは……ちょっと聞きたいことがあるんだけど』

 

『なーに?』

 

 思いの外、すぐに返事がきた。

 冬休みだからか、しずはも夜更かしをしているのかもしれない。

 

『初詣、予定ある? また皆で行けないかなって』

『予定はないよ』

『そっか』

『ルーシーちゃんと行かないの?』

 

 

 ――え?

 

 

 バクンと心臓をハンマーで打ち付けられたような気持ちになった。

 

 ちょっと待って……どういうこと。

 こう発言するってことは、俺とルーシーが会ってるって知ってるってこと?

 

『耳に入ってきてる情報と今年クリスマス会がなかったこと、初詣を誘うのがギリギリなこと、色々考えればすぐにわかることでしょ』

 

 しずはは続けてメッセージを送ってきた。

 

 これが女の勘ってやつなのだろうか。

 

 俺はなんて返したら良いかわからなくて、既読がついたまま、数分が経過してしまった。

 

『もう……あんた明日時間作りなさい。直接話しましょ』

 

 しずはは俺より何倍も男らしかった。

 

『わかった。明日なら一日空いてるから』

『なら、灯莉さんが働いてるカフェで待ち合わせね』

『え!?』

『なんか文句でもあるの?』

『ないけど……』

『なら、十二時集合で』

『わかった』

 

 ポンポンと予定を決められてしまった。

 俺がさっさと話を切り出さなければいけないのに。

 

 なんだか全てを見透かされているような気がしてならない。

 多分しずはも断片的にしか情報は知らないはずだ。

 

 けど、その流れで俺とルーシーが初詣に行くのではないかという予想まで立てていた。

 女の子って皆こうなのかな……。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 光流のお家から、家へ帰宅と帰宅。

 

 

「ルーシーっ!!」

「わぁっ」

 

 どデカいテレビを正面に、複数のソファがあり、暖炉までもが設置されている巨大なリビング。

 そこに顔を出すと、一目散に飛び出してきて私に抱き着いたのは真空だった。

 

「んん……? 男の匂いがする……」

「ちょっ!? 嗅がないでぇっ!?」

 

 光流のベッドにも寝転がってしまったし、光流とも抱き合った。

 そのせいか私の体には光流の匂いが少し染み付いたらしい。

 

 それは嬉しいことなのだが、間接的にその匂いを真空に嗅がれるというのもなんだか恥ずかしくなった。

 

「――もしかしてチューした!?」

「してないっ!!」

 

 私は顔が真っ赤になった。

 真空はいじわるが過ぎる。

 

「まっ、真空こそジュード兄とどこ行ってたのよ!」

「ふふーん。な・い・しょっ」

「ずるいずるい! 私のことは知ってるくせに、真空は教えてくれないの!?」

「人には一つや二つ秘密があるのだよ、ルーシーくん」

 

 変な言い回しをする真空。

 ジュードとのことは教えてくれないらしい。

 

「ルーシーが想像してるようなことは何もないって」

「ほんとかなぁ〜」

 

 真空は冬矢くんともすぐに打ち解けたし、多分ジュードともすぐに打ち解けたんだ。

 私と違って、人とすぐに仲良くなって接することができることはとても羨ましい。

 

「うーん。その表情は楽しかった八割。何か悩み事が増えたこと二割ってとこかな?」

「…………なんでわかるの」

 

 真空は心の透視能力者なのかもしれない。

 

「包帯を外す前のルーシーをずっと見てきたからね。包帯を外した今のルーシーならなんでもわかっちゃうよ」

「もう……良いことなのか悪いことなのか」

「ほら、早くお風呂はいろっ。私もまだだからさ、そこで話聞くよっ」

「わかったよぉ」

 

 真空に背中を押されるまま二階へ進み、部屋に荷物を置いてから風呂場へと向かった。

 

 

 

 …………

 

 

 

「はぁ〜ん。そういうことでしたか」

「そういうことです」

 

 檜風呂の浴槽に二人で浸かりながら、私は今日の出来事を真空に話した。

 

「藤間、しずはちゃん……ね。私も会ってみたいな〜」

「あれ……? 名前知ってたの?」

 

 私は話をする中で"しずはちゃん"としか名前を言っていなかったのに、真空は名字まで知っていた。

 

「まぁ、冬矢のやつからね、ちょっと。ちなみに文化祭の動画まで見せてもらった」

「なにそれっ! いつそんなこと!」

「今は私のことじゃないでしょ」

「でも……っ」

 

 まぁ、いいか。

 今は私の話を聞いてもらいたかったし。

 

「しずはちゃんがどんな子なのかにもよるんじゃない?」

「でもそういうのわからないから、誘うこと自体だめなんじゃないかって……」

「もう中学も卒業だよ? 大人になってるでしょ。告白だって、もう一年以上経ってるわけだし」

「そ、そういう問題じゃないのっ。好きだったら一年くらいじゃ忘れることなんてできないよっ」

「そうとも言える」

 

 どっちなの〜っ。

 真空のどっちつかずの発言に、どうしたら良かったのかわからなくなってくる。

 

「でもルーシーがワガママなのは最初からわかってたよ」

「えっ、そうなの?」

「そもそもね。こんな凄い家に生まれてお金ではほとんどの物が買えるだろうし、ワガママな子に育たないとか普通にありえないって」

「あっ……」

 

 そっか。家柄とかも性格に関係あるんだ。

 五歳より前の私はわからないけど、多分欲しいものを欲しいだけ買ってもらっていたんだろう。

 何でも買ってもらえていたなら、ワガママに育ってしまうのはしょうがないのだろうか。

 

「ああう〜」

 

 それを聞いて、私は頭を抱えた。

 

「自分がワガママだってわかって嫌になった?」

「それはそうでしょ。今までの色々なことだって、悪気すらなく普通にワガママに振る舞ってたってことなんだから……」

「そんなに気負うことじゃないと思うけどな。私は今のルーシーが好きだけどな。今のルーシーだから多分友達になれたんだと思うし」

「真空……」

 

 真空も私とは違うけど、転校を繰り返してきて、大変な思いをしてきたはずだ。

 なのに、私よりずっと大人の考えを持っている。

 

「ルーシーの思うままに話せば良いよ。それで自分の言葉に引っ掛かりを覚えたなら、今回みたいにごめんなさいすれば良いよ」

「そうなのかな……」

「ルーシーはいじめっ子とは違う。言いたいことがあるなら言えば良い。でも自分の言葉に責任は持つこと。それが何倍にもなって返ってくることもあるんだから。しずはちゃんだって同じだよ。ルーシーの言葉が刃になってたなら、その数倍の威力で返されるかもしれない」

「自分の言葉に責任……か」

 

 真空は凄い。私にはない考えをたくさん知っている。

 

「まぁ、漫画の受け売りなんだけどね〜っ」

「ふふ、なにそれ〜っ」

 

 私は真空の言動に笑ったものの、その漫画の知識を吸収して、私のためにしてくれている。

 漫画の言葉の受け売りだとしても、言われた本人の心に刺さる言葉ならそれは良い言葉だ。

 

 

「それで? この胸を光流くんに押し付けたのか? ほれっ」

「なにするのっ!? ちょっと、このぉっ!」

 

 急に真空が私の胸を揉みしだいてきたので、私も真空の胸を揉み返した。

 

「ちょっ! 痛い痛いっ! もげる!!」

「先にやってきたのはどっちだ! 私よりまだ大きいくせにっ!!」

 

 真空の胸は私より大きい。

 魅力が詰まったこの胸が羨ましい。

 

「抱き締め合ったってことは、その胸押し付けたはずだよね〜? 絶対光流くん意識してるよ?」

「そんなこと考えもしなかった。……確かに意識はされてるかもしれないけど」

 

 今思えば、インナーで抱き締め合ったのは初めてだった。

 光流の体温がすごく感じられて、私は温かいと言ったんだ。

 

 胸を押し付けるようにして、また変態だって思われたかな?

 

「光流くんが悩んだり落ち込んでる時には、その胸で顔を挟んであげればすぐに元気になるからやってみな?」

「胸で挟む!? なにそれっ。絶対変態じゃんっ」

「ルーシーったら、漫画貸してるのにまだその程度なの? ……もっと過激なのを貸す必要があるか……」

 

 真空の性知識が先に進みすぎていて、全然ついていけない。

 

「でも、少しはスッキリした。真空、ありがとう」

「でしょーっ。褒めて褒めてっ」

 

 真空が私の肩に頭を乗せて甘えてくる。

 その頭を軽く撫でてあげた。

 

 満足そうなその表情は、頭を撫でられた猫のようだった。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 十二月二十八日。十二時。

 

 俺は姉の働いている『FOREST BEANS COFFEE』に来ていた。

 

 しずはより少し先に入店し、店員として働いている姉に、今日はしずはと会うから余計なことは言わないでと釘を刺しておいた。

 

 

「いらっしゃいませ~」

「――あ、いた」

 

 一人で窓際の席に座っていると、しずはがお店に入ってきた。

 俺を見つけるなり、ゆっくりとテーブルの間をぬって席までやってきた。

 

 

「おはよっ」

「おはよう」

 

 

 よくわからないが、今日のしずはは少しだけ明るい気がした。

 

 今日の服装はラフ。

 ベージュのキャップに白いダウンジャケット、インナーは黒のタートルネック。

 ズボンは青い一般的なジーパンで、靴は白いスニーカーだった。

 

 どちらかというと、小さい頃はこういった服装もよくしていたので、俺はこっちの方がしずはらしいと思っている。

 

「しずはちゃん、おひさっ」

「あ、灯莉さん。こんにちは」

 

 しずはがダウンジャケットを脱いで席に座ると、姉が早速挨拶をしにきた。

 手には水が入ったコップが二つあり、それを俺としずはの前に置いていく。

 

「なんか、今日のしずはちゃんすっごく可愛くない? メイク変えた?」

「いえ、最近はこんなものかと思いますけど……」

「そう? 顔の血色が良いからかな?」

「血色が良いのは、昨日家族で温泉に行ってきたからかもしれません」

 

 しずはは温泉に行ってきたらしい。

 確かに温泉に入ると血行が促進され、顔色も良くなりそうだ。

 

「温泉っ! 私もしばらく行ってないなぁ〜」

「姉ちゃん、世間話は良いから。オーダーとってよ。ランチのお勧めある?」

「へいへーい」

 

 口を尖らせた姉はテーブルの端にセットされていたメニューを持って開くとランチのページを広げる。

 

「お勧めは季節の野菜のカレー、海老とアボカドのジェノベーゼ、あとはデミグラスソースのオムハヤシね」

「オムハヤシ!!」

 

 オムライスと言えば、しずはの母である花理さんに食べさせてもらったオムライスの記憶が蘇る。

 卵料理も大好きなので、オムハヤシの言葉に反応してしまった。

 

「カレーか……」

「しずはちゃん、わかるわよ。カレー食べると口の中がカレーになっちゃうし気になるわよね」

「そうですね……」

 

 確かにカレーを食べた後は、息すらのカレーになってしまう。

 女子の場合そういったことも気にするのか。頭に入れておこう。

 

「光流はオムハヤシ頼みそうだし、私はジェノベーゼにしておこうかな」

「良いの? ジェノベーゼも歯が青のりみたいにならない? ニンニクも多いし」

「そっか、そういうパスタか……って、別に良いよ光流だし。歯についたらとってよ」

「とるのはあれだけど、教えてあげるね」

 

 ということで、俺としずははオムハヤシとジェノベーゼを頼んだ。

 

 

「はい、お土産」

「おっ」

 

 食事が運ばれてくるまでの間、しずはが持ってきた紙袋を手渡してくれた。

 

「温泉まんじゅうだ……ありがとう。どこ行ってきたの?」

「箱根だよ。だからすぐ行ける距離」

 

 箱根は東京からだと車で二時間かからず行ける距離だ。

 俺も昔に行ったことはあるが、最近は全然行っていない。

 

「温泉良いなぁ……」

「良いでしょ。でも箱根の坂やばかったよ。なんかアイスバーンみたいにツルツルになっててさ、タイヤ変えてなかったら登れなかったかも」

「そういえば箱根って急坂あるもんね」

 

 透柳さんは事前に冬タイヤに変えていたようだ。

 箱根は山なので、東京よりは冷えていそうだ。なら地面はツルツルに凍っていてもおかしくない。

 

 

 

 …………

 

 

 

 しばらく雑談をしながらいると、ジェノベーゼとオムハヤシが運ばれてきた。

 

 

「匂いが気になると思ってニンニクは少な目にしたよ。でも味は保証するから安心して!」

「気遣ってもらってありがとうございます」

「しずは……オムハヤシと交換する?」

「もう良いわよ。私の口からニンニク臭がしても、それだけでいちいち嫌わないでしょ」

「そりゃそうだ」 

 

 俺としずははもうそういう関係だ。

 細かいことを気にする関係ではなくなってきている。

 

「さて、本題を話す?」

「お、おうっ」

 

 出来立て熱々の料理を前に、しずはから切り出してくれた。

 

 

「――しずははどこまで知ってるの?」

 

 ルーシーが来ていることを恐らく知っている。

 とりあえずそれから聞きたかった。

 

「あんたがルーシーちゃんと会うってことくらいかな。もう会ってるんだと思うけど」

 

 さほど詳しい話は知らないようだ。

 ただ、ルーシーが来ていることは知っているらしい。

 

「情報源はどこからとかは聞かないけどさ、それに関わることでしずはに話したいことがあったんだ」

 

 まさか、直接呼び出されるとは思っていなかったけど。

 それも俺がメッセージで色々反応してしまった結果ではある。

 

「それで、なんの話?」

「心して聞いて欲しい……ええと、ルーシーがしずはに会いたいらしい……」

 

 

「…………」

 

 

 そう言った瞬間、俺たちのテーブルが静寂に包まれた。

 

 

「ふーん、そういう子なんだ」

「あっ、いやっ。なんて言えば良いのか……」

「ふふ、わかってるって。煽ってるんじゃないんでしょ? 純粋に会ってみたいってことなんでしょ」

「えっ? 今のやりとりでそれわかるの?」

 

 理解が早すぎて戸惑う。

 しかも笑みすら見せた。その笑みは表面的なものかもしれないが……。

 

「考えてみればわかるよ。光流の周りにいる子は皆良い子じゃん。男子も女子も。だからそういう子を引き寄せてるんだよ。だからルーシーちゃんも悪い子じゃないのはわかるって」

「しずは……」

「でも、結果的に煽ってるようなことになってるけどね」

「まぁ、そうなるよなぁ……」

 

 俺は少し頭を抱えた。しずはにそういう気持ちにさせたくはなかったけど、意図せずとも煽りだと受け取られてしまう。

 

「それで? 話の続き。会いたいってだけじゃないでしょ」

「うん。初詣の話はメッセージしたよね? ルーシーたちと一緒に初詣どうかなって。冬矢とかも誘うつもりだけど」

「あ〜、そこで会おうってことね」

「そうです……どう、かな?」

 

 ついに今日しずはに一番言いたかったことを言った。

 

「そのくらい別に良いわよ」

「えっ!? いいの」

 

 思った以上にあっけらかんとした答えが返ってきた。

 だから俺は反応に困った。

 

「私だってルーシーちゃんを見てみたいし。興味がないわけじゃない。光流が好きになった子がどんな子なのか気になるでしょ」

「…………」

 

 またもや答えづらい返しだ。

 

「あんたはもうルーシーちゃんと良い感じになってるかもしれないけどさ。心の整理なんて簡単にできるものじゃないよ。私はまだ光流しか見えてないから」

「うん……だから誘うの凄い躊躇ったというかさ。しずはの気持ちもわかってるつもりだから」

「ほんっとにあんたはお人好しだよね。ここまで私に気遣って。って、この話は前にもしたか」

「したね。しずはは数少ない大切に思える友達だから。絶対に蔑ろになんかできない」

「あんたってやつは……」

 

 そう言いながらしずはは、ジェノベーゼの中にあったさやいんげんをフォークで刺して、俺のオムハヤシに添えてあったサラダの容器の中に入れる。

 真剣な話をしているというのにこいつは……まぁ食うけどさ。

 

「あとさ、朝比奈真空っていうルーシーがアメリカで仲良くなった日本人の友達もいるけど大丈夫?」

「えっ、どういうこと? 話が見えない」

 

 それはそうだろうな。アメリカなのに日本人。

 しかも一緒に初詣に行くとかこれだけでは伝わるわけがない。

 

「来年からルーシーが日本に戻ってくるんだけどさ。それで、アメリカで仲良くなった真空って子がルーシーのお家でお世話になるらしくて」

「つまり、アメリカに住んでる日本人の子だけど、あっちでルーシーちゃんと仲良くなったから来年一緒に住むことになったと。それで今も一緒に日本に来てるってことね?」

「素晴らしい理解力……っ」

 

 しずはが言いたいことを綺麗にまとめてくれた。

 

「しかも二人とも秋皇を受ける予定だって」

「ははぁん。そういうこと。光流と一緒の学校に行きたいわけね」

「そう、みたいです……」

 

 これも女の勘だろうか。理由は聞いていないはずなのに、すぐに見抜いてくる。

 

「別に良いんじゃない、一緒に行っても。一人や二人増えるくらい変わらないでしょ」

「ありがとう。ならそう伝えるね。しずはも深月とか誘っても良いからね」

「わかった。深月に言っておく」

 

 良かった。なんとか話せた。話がまとまった。

 俺よりしずはの方がかなり冷静で話をしていたように思える。

 

 しずはだって、何かを感じていないはずはないのに。

 

 

「はぁ〜〜〜っ、緊張した〜〜」

「だからあんたは気を回しすぎなのよ」

「いや、だって……」

「私だって、自分のことは自分でなんとかするわよ。それで受け止めきれなかったら、私には深月がいるから。深月がダメなら千彩都だって話を聞いてくれるし」

「そっか、友達……いるもんな……」

「そうそう。だから私に気を遣い過ぎないでね」

 

 最後にしずはが言った言葉。

 とても優しく、柔らかく、心がこもった声音だった。

 

「ほら、手が進んでないわよ。さやいんげんちゃんと食べなさいよ」

「しずはが入れたんじゃないか!」

「さぁ? 最初からそこにあったと思うけど」

「この……っ」

 

 そんな会話もしながら、お互いの料理を食べ終えてランチを済ませた。

 

 

「――しずは、俺トイレ行くけど、行く?」

「あーうん。なら光流先に行ってきなよ」

「わかった」

 

 

 俺は席から立ち上がって、トイレに向かう。

 直ぐ様トイレを済ませると、再度席に座る。

 

 そうして交代でしずはがトイレへと向かった。

 

「すみませーん」

 

 俺はレジ向かい姉を呼んだ。

 しずははバッグを持ってトイレに行ったので、席に残る必要はないと思ってのことだ。

 

「これ、会計で」

「あ、あ……あんた……っ」

 

 俺は伝票とお金をトレーに置いた。

 姉はなぜか目を見開いて口を震わせたが、そのままお金を受け取ると、お釣りをくれた。

 

 会計が終わったので、俺はしずはが戻るのを席で待った。

 

 

「お待たせ」

「じゃあ行こっか」

「うん」

 

 

 そうして、俺はしずはと共にお店を出ようとする。

 しかし――、

 

 

「ちょちょちょちょ! 光流! 会計!」

「びっくりしたぁ。会計はもう済ませたよ。後は出るだけ。ほら行くよ」

 

 

 お店を出る時に、姉から退店の挨拶が飛んできた。

 

 

「ありがとうございました〜!」

 

 

 そして俺がお店の扉を開けて、外に出たのに、しずはの足がその場で止まっていた。

 

「…………」

 

「しずは?」

 

 すると、しずははため息をつきながら、やっとお店の外に出てきた。

 

 

「ねぇ、光流…………」

「え?」

 

 しずははキャップを被り直し、頭を抱えていた。

 

「そういうのは特別な相手だけにしなさいよね……」

「あ……」

 

 しずはに言われてやっと気づいた。

 俺はルーシーにしたスマートに会計を済ます術をしずはに対してもやってしまっていたのだ。

 

「あんた、気づかずにやってたってことは……もうルーシーちゃんにやったのね」

「いや……ええと……」

「その反応で答え出てるわよ」

 

 簡単に見抜かれた。

 

「なんでしちゃったんだろ。でもしずはだって特別だし……あ、特別っていうのは友達として……!」

「そんなのわかってるわよ。はぁ……光流って本当に……」

 

 呆れ顔で嘆息するしずは。

 ただ、しずはの表情は少し笑顔だった。

 

「これからはルーシーちゃんだけにしてあげなさいよ。でも、本当に私にこういったことがしたいなら、その時はちゃんと言ってね」

「わかったよ……」

「とりあえず、ありがとうは言っておく」

 

 俺は、しずはにはこういうことをしても良いような気がしていた。

 だって自然とやってしまうくらいの人、ということだから。

 しずはなら、こういう機会でスマートに奢ることくらい、なんてことはない。

 

「さぁーて、これからどうする!?」

「えっ。ここから遊ぶの?」

「あんたね。そっちのお願い聞いてあげたんだから、こっちのお願い聞いてくれても良いでしょ!」

「あぁ……それは言い返せない」

「とりあえず化粧品見に行く!」

「それ……俺一緒にいる必要ある?」

「このくらい付き合ってあげないとルーシーちゃんに嫌われるよ!」

「俺を動かすための言葉として使うのは卑怯でしょ……」

 

 そうして、このあとしずはのお買い物やカフェなどに付き合った。

 

 ルーシーがいる状態で初詣にしずはを呼ぶこと、彼女にとっては良いものとは思えなかったが、今のしずはの表情は明るいものだった。

 俺が見る限り、その笑顔の裏には曇ったものなどはないように思えた。

 

 しずはもすっかり性格が変わってしまった。

 どちらかと言えば、昔は振り回されるほうだったしずはも、今では俺が振り回されている。

 

 ひとまず、しずはが初詣に参加することになったことをルーシーに報告することにした。

 

 

 

 

 

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