包帯令嬢の恩返し〜顔面難病の少女を助けたら数年後美少女になって俺に会いに来た件〜   作:pelca

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第168話 運命は自分で決める

「あいつらおせーなぁ」

 

 屋台で買ったソース焼きそばを頬張りながら冬矢がふと呟いた。

 あいつらとは、ルーシーとしずはのことだ。

 

 二人がトイレに行ってから、もう二十分ほど経ったろうか。さすがに長いトイレに少し心配になる。

 

「多分二人で話し込んでるんだと思うよ」

 

 その心配を打ち消すように真空がニヤニヤしながら答えた。彼女は手元を温めるようにペットボトルのホットココアを持っていた。

 真空がルーシーに着いていなかったことを考えても、わざと二人きりしたのではと思えた。

 

「ほんとに大丈夫かよ……」

「大丈夫大丈夫っ。なるようになるって」

「お前は軽いんだよ」

「はぁ? あんたに言われたくないんですけど!」

 

 また冬矢と真空の言い合いが始まった。

 そして、その二人のやりとりを深月が静かに睨みつけていた。

 

「冬矢、それくらいにしときなよ。真空も」

「へいへい」

「はーい」

 

 深月の目が恐ろしい。だから俺はすぐに二人を仲裁した。

 

 これは嫉妬しているということだろうか。

 それがわからない冬矢でもないはずなのに。

 

 もしかして冬矢も深月にだけには、他の女子にできたことができなかったりするのだろうか。

 深月は今までいなかった女子らしいし、それなら合点がいくのだが……。

 

「あ、ルーシーちゃん来たみたいだぞ」

 

 たこ焼きを一つ咀嚼していた開渡がこちらに走ってくるルーシーを視界に捉えた。

 

「ん? なんか様子おかしくねーか?」

 

 冬矢が目を細めてルーシーを眺める。

 その答えはすぐに判明した。

 

「ひかるっ! はぁっ……ひかるっ!! はぁっ、はぁっ、しずはちゃんがっ! しずはちゃんがっ!!」

 

 俺たちのいるテーブルまで全速力で走ってきたルーシー。

 只事ではない雰囲気を一瞬で感じ取った。

 

 そんなルーシーの瞳は涙目になっており、緊急性を感じた。

 

「ルーシーどうした? ゆっくり話してみて。深呼吸」

 

 俺はまずルーシーに深呼吸をさせた。

 全力で走ってきたと思われるその姿。息が辛そうだった。

 

 スーハーと二回だけ深呼吸をさせた後、ルーシーは何があったのかをカタコトで話してくれた。

 

「しずはちゃん、助けてっ! 男の人たちにっ、連れて行かれそうになって!」

「!?」

 

 それを聞いて、俺は顔面蒼白になり息が詰まった。

 

 これで三度目だろうか。

 このような場面に遭遇するのは。

 

「しずはちゃんは自分が囮みたいになってくれて、それで私を逃してくれて……だから今、しずはちゃんは……っ」

「ルーシー! ありがとうっ!!」

「ベンチ! トイレのすぐ横のベンチにいたの!」

「わかった!」

 

 俺はルーシーにお礼を言いながら、全速力で雪道を駆けた。

 

 

 

 …………

 

 

 

 トイレ近くのベンチにいるという情報だった。

 しかし、俺が到着した時、既にその場所には誰もおらず、もぬけの殻だった。

 

「クソっ……! なんであいつばっかり……」

 

 しずはに何かあったらと思うと心が張り裂けそうだった。

 だから俺は必死にその周囲、駐車場を走り回った。

 

 それほど大きくない駐車場。車と車の間を縫うように駆けながら、獲物を追う蛇のごとく体を動かした、

 そんな時、視界に入ったのは白のワンボックスカー。

 そして、今まさに男三人としずはが車に乗り込もうとしていた。

 

 その車へと一直線に猛ダッシュした。

 

 

「――しずはっ!」

 

 

 

 

「――しずはっ!!」

 

 

 

 

「――しずはっ!!!」

 

 

 名前を叫びながら俺はしずはの手首を掴んでいた男を膝裏を折るようにして思い切り右足でローキックして蹴り飛ばした。

 

 

「いでぇぇぇっ!?」

 

 

 男はキックがあまりにも痛かったのか掴んでいたしずはの手首を離して、そのまま吹っ飛んで倒れ込んだ。

 しずはは手を離されるとそのまま雪で濡れたコンクリートの地面に座り込むようにしてお尻を着いた。

 

 

「てめぇ! 何すんだよ!!」

 

 

 倒れ込んだ男とは別の男が俺に敵意を向けた。

 あまり呂律が回っていないようだった。多分、お酒だ。顔も少し赤かった。

 

 

「うるせぇ!! お前もこいつと同じようにされたいのか!」

 

 

 俺は怒りとハッタリで、その男より三倍は大きく声を張り上げた。

 

 

「うおっ」

 

 

 表情と声の大きさに驚いたのか、男は怯んで一歩後退りをした。

 

 

「おいおい、オメーはなんなんだよ」

 

 

 すると最後の一人の男が、他の男に並ぶようにしてこちらに足を進めた。

 この男だけが他の男たちとは違い、冷静な口調で言葉を発した。

 

 倒れ込んだ男の顔は赤かく、もう一人の男は呂律が回っていない。

 そこから考えると、この男は車の運転手。酒を飲むわけにはいかなかったのだろう。

 

 

「この子は俺の友達だ! いいからこの場から去れ!!」

「だからなんだ? 友達だろうが、俺らには関係ないねぇ」

 

 

 彼らは引き下がらなかった。

 それは、お酒が回っているせいで態度が大きくなっているのか、それとも元からなのかわからないが、俺は舐められているようだった。

 

 

「じゃあ、俺とやるしかないな」

 

 

 ちらりとしずはを見ると、精神的に消耗しており、動けそうになかった。できれば男たちとやり合っている間に逃げて欲しかったが、それは難しそうだ。

 なら、今ここで男たちをどうにかするしかないと思い、啖呵をきった。

 

 

 すると、よろけながらも俺に蹴り飛ばされた男も立ち上がってくる。

 

 

「てめぇ、さっきはやってくれたなぁ……」

 

 

 男三人が俺一人をターゲットに見定めた。

 

 

 もう、戦いからは逃げられない。

 

 ここで喧嘩をして、もし俺がこいつらを殴ったとしたら。

 この件を誰かが見ていて、通報でもされたら。

 

 

 ――受験が受けられなくなるかもしれない。

 

 ましてや、最悪、退学……もしくは休学。

 残り三ヶ月を残して卒業できなくなる可能性もある。

 

 

 この一瞬、色々な未来の景色が俺の脳裏を過った。

 

 皆で秋皇に通って、笑ったり遊んだり、勉強したり。学校行事やそれ以外でも楽しんで。

 

 そこには、中学で仲良くしたメンバーもいて、そしてルーシーや真空もいて。まだ見ぬ高校で出会った誰かもいて……。

 

 絶対……絶対に楽しい学校生活になる。

 

 今、俺がここで手を出したら、そんな未来もなくなるかもしれない。

 

 でも、手を出さずに抵抗しなければ、俺がやられてそのまましずはがどこかへ連れて行かれるかもしれない。

 

 最初から選択肢は決まっていた。

 

 

「覚悟はできてんだろうな。このクソガキ……っ」

 

 

 半歩ずつ足を進め、徐々に詰め寄る三人。

 

 俺は右手の拳をぎゅっと強く握りしめた。

 足場おぼつかない一度倒れた男から仕留めようと狙いを定めた。

 

 

「このおぉぉぉぉぉっ!!!」

 

 

 右手を振りかぶり、一人の男に向かって全力を込めた右ストレートで殴りかかろうとしたその時だった――、

 

 

「ぐわっ!?」

 

「えっ……?」 

 

 

 ゴツっと鈍い音を立てながら、俺の前に割って入った誰かが、男三人をまとめてラリアットしていた。

 

 

 すると一瞬にして男たちは同時に仰向けの状態で地面へと倒れ込んだ。

 そのまま沈黙。全員、意識を失っていた……。

 

 

「あ、あの……」

「――九藤光流だな」

「え?」

 

 

 ラリアット一発で男三人をノックアウトした凶暴な男が振り返る。

 その男はなぜか俺の名前を知っていた。

 

 

「契約期間外だが、これはサービスだ」

「…………?」

 

 

 意味不明なことを話す男。

 その男は、とても大きかった。

 

 世界で活躍するスポーツ選手でもこの大きさの人物は中々いない。彼はそんな類稀なる身体を持っていた。

 俺よりも三十センチほど背が高いように見えた。つまり二メートル近い身長だ。

 そして、デカいだけでなく横にも広かった。それは太っているという意味ではない。屈強な筋肉による太さだ。

 

 

「こいつらは任せておけ。じゃあな……」

「……あ、ありがとうございますっ!」

 

 

 呆然としていた俺は、ただお礼を言うことしかできなかった。

 軽く会話しただけで、大柄な男はそのまま男三人を引きずり、駐車場の奥の暗闇へと消えていった。

 

 

「…………」

 

 

 その場に残された、俺としずは。

 俺はしゃがみこんでしずはに近寄った。

 

 

「しず――」

「――ひかるっ! ひかるぅっ! こわがっだよぉぉぉぉっ!!! ひかるぅぅぅぅぅっ!!!」

 

 

 名前を呼ぶ暇もなく、涙を流しながら俺に抱き着いてきた。

 

 

「しずは……怖かったよな……。ごめんな……ごめんな……」

 

 

 多分、俺が謝る必要はなかった。

 でも、それが俺なりの彼女を安心させる言葉だった。

 

 

「ひがるぅっ! ひがるぅっ!! あ゙ぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 

 こんなに叫んで涙を流しているしずははいつ振りだろうか。

 あの文化祭で俺に告白してきた時以来だろうか……。

 

 俺は胸に顔をうずめるしずはを優しく抱き締め返した。

 そして背中に手を回して撫でてあげた。

 

 これが良いのか悪いのかわからない。

 ルーシーにこの姿を見られたらと思うと少し気が引けたが、今のしずはのことを考えるとこれが最善の行動だと思った。

 

 

 そんな中、後ろから複数の足音が聞こえてきた。

 

 

「――しずはちゃんっ! しずはちゃんっ!!」

 

 

 走ってきたルーシーがこちらに近づくと俺がしずはを抱き締めていることには言及せず、そのまま俺と一緒になってしずはをぎゅっと抱き締めた。

 しずはは今、俺とルーシーにサンドイッチされた状態になっていた。

 

 

「ごめんっ、ごめんなさいっ! 私が一緒にトイレに行くなんて言ったから……っ! ごめん、ごめん……っ」

 

 

 そう謝罪しながら抱き締めるルーシーの目にも涙が浮かんでいた。

 

 

「あ゙ぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 

 

 しずはは、未だに大声で泣き続けていた。

 

 これは多分、色々なものが詰まった涙だ。

 ただ男たちに連れ去られようとしたことだけが原因ではないような気がした。

 

 

 

「――どうなってんだよ、これ……」

 

 

 すぐ後ろから冬矢の声が聞こえた。

 

 振り返るとそこには冬矢だけでなく、深月、千彩都、開渡、真空も一緒にいて、こちらを見つめていた。

 

 

「ルーシー、しずはちゃん……」

 

 さっきまでニヤニヤしていた真空も、心配した表情でこちらを見ていた。

 そして、深月はなぜか俺を睨んでいた。勘弁してくれ……。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 あれから十分ほどが時間が経過した。

 

 やっとしずはが落ち着き、泣き止んだ。

 涙が枯れたといっても良い。

 

 いつまでもこの場にいても体が冷えてしまう。

 だから、温かい屋台の近くに移動しようとしずはの肩抱いて移動することにした。

 

 しずはの肩を持ったのは二人。左にはルーシー、右には深月。

 二人がゆっくりとしずはを歩かせて、先ほどまで食事していた屋台のテーブルまで戻った。

 

 

 しずはの顔はぐしゃぐしゃになっていた。

 目元は赤く、綺麗にしていたメイクも少し剥がれていた。顔は伏し目がちでほとんど下を向いていた。

 

 

 何も言葉を発さないしずは。

 なので、経緯をルーシーから聞いた。

 

 二人きりでトイレ近くのベンチで話していたところ、男三人に話しかけられたとか。

 しずはが怒ったところ、男に手首を掴まれてしまった。そこでルーシーだけでもと逃げるよう言ったそうだ。

 そして、ルーシーはその場から逃げて、俺たちに助けを求めに行き、あのような状態になっていたようだ。

 

 ルーシーのボディガードはどうしていたのだろうか。もしくはルーシーだけ守るように指示されていたとか。それならしずはを助けないのはわかるが、いるならいるで、もっと近くで見守ってほしかった。

 

 でも、俺だって、どこかそれに頼って二人に着いていかなかった。

 オリヴィアさんにも守るように言われていたはずなのに……。

 

 まさかあの大柄な男がボディガード……?

 でも私服だったし、顔もそれほど大人に見えなかった……そんなわけないか。

 

 

「――今日はもう帰ろっか」

 

 

 俺が謎の男のことを考えていると千彩都が切り出した。

 ぴくりとも動かないしずは以外の全員が頭を縦に振った――ように見えた。

 

 しかし、ただ一人頭を縦に振らなかった人物がいた。

 それはルーシーだった。

 

 

「まだ、帰りたくない……」

 

 

 ただのワガママのように聞こえた彼女の呟き。

 実際そうだったかもしれない。

 

 

「ルーシー、それはさすがに……」

 

 

 親友の真空でさえも、ルーシーに同意しなかった。

 

 

「わかってる。わかってるけど……」

 

 

 ルーシーの表情はとても悔しそうだった。

 歯を食いしばり、こんな状況になったことを嘆いていた。

 

 

「今日は正月なんだよ? 一年の始まりなんだよ? だから今日は良い日にしなくちゃいけない。ここで帰ったら多分良い日にならない。だから、良い日にして帰りたいよ……っ!」

「ルーシー……」

 

 

 そう強く言葉を発するルーシーの目には涙が溜まり始めていた。

 

 おそらく自分のせいで、しずはがこうなったと思っている。

 けど、ルーシーのせいなんかじゃない。

 

 でも、彼女はそう思っている。だからこんな正月の終わり方はしたくないと言っているんだ。

 これは自分一人が良い思い出にしたいからじゃない。全員が良い思い出にしてほしいからそう言っていると感じた。

 

 

「やっぱり……おみくじ引きたい」

 

 ふと、ルーシーが突拍子もないことを呟いた。

 

 

「しずはちゃんっ! おみくじ! おみくじ引こう!!」

「…………え?」

 

 ルーシーが隣に座るしずはに迫った。

 その接し方は、もう最初にしずはと対面した時とは全く違っていた。

 それはここにいる誰もが感じただろう。これが本当のルーシーなんだと。

 

 しずはは冬の乾燥した空気をたくさん吸ったせいか、もしくは泣き続けたせいか、声が掠れていた。

 

 

「皆、言ったよね。凶とか悪い結果を引いたら受験に影響出るかもしれないって……でも、私はそんなのに負けない!」

「どういうこと?」

 

 ルーシーの言葉に真空が返す。

 

「ここで言ってもうまく説明できない! だから、皆おみくじのところまで来て!」

 

 何をしようとしているかわからまない。

 ただ、ルーシーの目は真剣だった。

 

 その真剣な気持ちが伝わったのか、ルーシーに意見する人は出なかった。

 俺たちは揃っておみくじ売り場へと向かった。

 

 

 

 …………

 

 

 

「しずはちゃん……見てて!」

 

 

 するとルーシーが財布から百円を取り出し、設置されていたおみくじ用の賽銭箱に投入した。

 

 そして、壁に貼ってあった指示書に従い、番号がついた棒が入っている箱をカシャカシャと振り回す。数秒後、箱の穴からカランという音で出てきたのは一つの棒。

 

 ルーシーは棒に書いてあった数字を確認。おみくじが入ってある棚から同じ数字の引き出しを開ける。そうして、一番上の紙を一枚だけ取り出した。

 

 その紙を開いて中身を見ると、そこに書かれていたのは――、

 

 

「――大凶っ!!!」

 

 

 ルーシーは俺たちに紙を見せびらかした。

 

 大凶という史上最悪の運勢がその紙には堂々と刻まれていた。

 なのに、ルーシーは全く悔しい顔をしていなかった。

 

 

「こんなの罰当たりかもしれない。おみくじの意味はないのかもしれない。でも、私は運命は自分で決めたい! ――だから今日は大吉の日なの!」

 

 高らかにそう宣言するルーシー。

 ただ、誰もルーシーがしたいことを理解していなかった。

 

 しかし、次の行動でルーシーが何をしたいのかようやく理解することができた。

 

 ルーシーは再度財布から百円を取り出し、賽銭箱の中に入れる。

 そして、棒を取り出して棚の引き出しからおみくじを引いた。

 

 つまり、ルーシーはもう一度おみくじを引いたのだ。

 

 

「ル、ルーシー?」

 

 

 誰もが目を点にしていた。

 先ほどまで一言もしゃべらずにいたしずはですら、ルーシーの行動に呆然としていた。

 

 おみくじを引いたルーシーが中身を確認してこちらまで歩いてくる。

 

「はい、しずはちゃん」

 

 そして、しずはの正面に立ちおみくじの紙をポンと手に渡した。

 

「え…………」

「見てみて」

 

 恐る恐る、しずはがその紙を見ると――、

 

 

「大吉……」

 

 

 ルーシーはふんすと勝ち誇ったようなドヤ顔をしていた。

 

 

「今年のしずはちゃんは大吉! おめでとうっ!!」

 

 

 ルーシーは小さな子供のように笑い、一人でパチパチと拍手した。

 しずはは、ただただ、呆然と固まっていたが……。

 

 

「バカじゃないの。こんなの……こんなの……罰が当たるよ……」

 

 

 その言葉はルーシーの行動を受け入れられないような言葉だった。

 しかし――、

 

「ふふ……ふふふ……」

 

 

 次の瞬間、しずはは小さな微笑みを見せた。

 ルーシーの奇怪な行動に感情を抑えきれず笑ってしまったようだった。

 

「しずはちゃん! さっき言った言葉、そのまんま返してあげる! 『あんたでも気持ち悪い笑い方するのね』……どうだ!」

「あはははははっ……ほんとバカみたい……っ」

 

 

 もうそこには、先ほどまで暗い表情をしていたしずははいなかった。

 そして、それを成したのは紛れもないルーシーだった。

 

 

「他の人のも引こうと思ったけど、やっぱりは辞めておく。本当に罰が当たりそうだから」

「ここにきて怖気づくとか、しょうもなっ」

「うるさいっ! 一人だけ大吉もらっておいて……ならさっき私がもらった大凶はどうなるのよ! 私だけ大凶じゃない!」

「今が大凶ってことは、それ以上運気が下がらないってことだよ。良かったねルーシーちゃん」

「この〜〜〜っ!! しずはちゃんのバカっ!!」

 

 喧嘩のような喧嘩じゃない言い合い。

 なぜなら、二人は笑って話していたから。

 

「――しずはで良い。私もルーシーって呼ぶから」

「…………」

 

 その言葉にルーシーは目を見開いた。キラキラした目だった。

 

「じゃあ、友達になってくれるってこと?」

 

 それは、ルーシーがしずはとなりたい関係だった。

 しかし――、

 

「それは違う。多分私は、一生ルーシーとは友達になれない……わかるでしょ? でも、そうね……好敵手と書いてライバル。それならならなってあげてもいい」

「なにそれ……それなら友達でいいじゃん。変なのっ」

「あんたに変って言われたら、この世の全員が変だわ」

 

 もうこの二人はどう見ても心の中を探り合うような微妙な関係ではなかった。

 それは、互いに相手のことを認めているような言葉遣いになっているから。

 

「ルーシー……私、あんたのこと嫌いだから」

「しずは。私はあなたのこと、好きだよ」

 

 相容れない二つの感情。

 相容れないはずなのに、二人の雰囲気は似ていて。

 

 俺にはもう二人は仲の良い友達に見えていた。

 

 そんな時だった――、

 

 

「――やっぱり私もおみくじ引こーっ!」

 

 

 千彩都が声を上げて、財布から百円を取り出す。

 

「じゃあ、俺も引くか……」

 

 千彩都に続いて、開渡も財布から百円を取り出す。

 

「しゃーねぇ。大凶が出たらルーシーちゃん恨むぞっ」

「はぁ? ルーシーのせいにするなら引くな!」

 

 冬矢もおみくじを買おうと足を進めると、その言葉に反応した真空も財布から百円を取り出した。

 

「…………」

 

 深月は無言で財布から百円を取り出していた。

 彼女の行動は恐らくしずはのため。一人きりにさせないためだ。

 

「じゃあ、俺も引くよ!」

 

 そう言って財布から百円を取り出して、俺はおみくじ売り場へと向かった。

 

 

 

 …………

 

 

 

「「「せーっの!」」」

 

 

 

 同時におみくじの紙を開いた六人。

 

 結果は……。

 

 

「きたー! 大吉っ!!」

 

 最初に声を上げたのは冬矢だった。

 

 その瞬間、真空と深月が冬矢を睨む。

 

「吉か〜普通だなぁ」

「俺は中吉。まずまずだな」

 

 千彩都と開渡。普通くらいの結果だった。

 

「わぁっ! 末吉!? なにこれっ!!」

 

 真空だった。

 

「真空。大丈夫だよ。私大凶だから……」

「しずはちゃんにあげたやつ、やっぱり返してもらえば?」

「別に良いよ。私は運に振り回されないから」

 

 ルーシーは強かった。

 吹っ切れた彼女は、俺よりも強いかもしれない。

 

「…………大吉」

 

 深月だった。

 

「ふふっ。深月、私と同じだねっ」

 

 しずはが笑顔で深月のおみくじの紙を覗き込むようにして近づいた。

 

「あんたのは人からもらったやつでしょうが」

「いいじゃん。ルーシーがくれるって言うんだから」

 

 泣きはらした目元も今ではそれを感じさせない。

 しずははもう大丈夫そうだった。

 

 最後は俺。

 開いた紙に視線を落とした。

 

 

「大……」

 

 

 最初に見えたのは"大"の文字。

 そして――、

 

 

「凶……うわああああああっ!!!!」

 

 

 俺はお化けを見たような声を上げた。

 

 

「光流だっさ! 俺と反対じゃんっ!」

 

 冬矢が俺を煽ってくる。

 

 別に良い。受験に落ちるだなんて毛ほども思っていない。

 落ちるとしたら、名前の書き忘れか受験票を忘れるかくらいだ。

 

「へへ……光流、私とおんなじだね」

「あぁ……」

 

 ルーシーが俺に近づいてきて、小さな声で同じおみくじの結果に喜んだ。

 

「もう一回引かなくて良いの?」

「あー、最初は何度でも引こうと思ったんだけど、やっぱり心の持ちようかなって。だって、今の私の気持ちは大吉なんだもん」

 

 揺るぎない、ルーシーの絶対的な自信。

 大凶を引いたとは思えない、まさに大吉を引いたような表情をしていた。

 

「そうだな。俺だって小吉くらいの気持ちでいる」

「光流……せめて吉くらいには自信持ってよ……」

「はは、俺は少しだけショックを受けてるらしい」

 

 引いてしまったものはしょうがない。

 

「じゃあ、あっちに結びに行こっか」

「あ、そうなんだ。わかった!」

 

 

 俺はルーシーと一緒に大凶のおみくじを所定の場所に結びに行った。

 そうして十数秒後、再び皆のところへと戻った。

 

 

「――じゃあ、今度こそ帰ろうか」

 

 

 俺は皆に向けてそう言った。

 ルーシーも今度こそ文句はないようだった。

 

 スマホの時計を見ると、既に二時になろうかという時間になっていた。

 

「ルーシーはお迎えが来る感じ?」

「うん。どこかで待機してるみたい」

「そっか、なら安心だね」

「うん。皆乗せてく?」

「ううん、家近いから大丈夫」

「そっか、わかった」

 

 その後、ルーシーは電話をかけて、車の位置を特定する。

 そして、真空と一緒に帰ることとなった。

 

 俺たちは神社を出て、最初に集まった場所へと来ていた。

 

「しずはちゃん。また、会えるよね?」

「さぁ、秋皇に受かれば会えるんじゃない?」

「そっか。絶対受かってね」

「また煽る。ほんと良い性格してるね」

「だって私推薦枠だもん。勉強だけが取り柄だったから」

「ふーん。そう……私は受かるかわからないけどね」

「受かるよ! 絶対の絶対。だって、私の大吉がついてるもん」

「家に帰ったら捨てようかな」

「だめーっ!!」

 

 二人はもう冗談を言い合える関係になっていた。

 見ていて微笑ましかった。

 

「最後に……」

「はぁっ!?」

 

 ルーシーは皆の前でしずはに抱き着いた。

 しずはの方は少し恥ずかしそうにしていて、腕は下ろしたままだった。

 

「あんたね……調子狂うのよ……」

「だって私、変な人だもん。普通のことわからないもん」

「ああ言えばこう言う……」

「しずはちゃ……しずはだって同じだよ」

「まだ名前良い慣れてないでやんの」

「うるさい……っ!」

 

 ルーシーがしずはを抱き締めながら、そんな会話を二人して展開する。

 

「ルーシー……また会えるの、楽しみにしてるから」

「――っ! しずはっ!!」

 

 最後にしずはは、ルーシーにとって嬉しい言葉をかけた。

 それを聞いたルーシーはぎゅっとしずはの体をもう一度抱き締めた。

 

 

「じゃあ……光流、皆っ、またねっ!」

「またね!」

 

 ルーシーと真空が、黒塗りの高級車が停車している道へと歩いていった。

 その二人の背中を全員で見送った。

 

 

「――よし! じゃあ私たちも帰ろっか!」

「そうだね」

 

 

 千彩都の言葉で俺たちも帰路へとついた。

 

 

 

 

 

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