包帯令嬢の恩返し〜顔面難病の少女を助けたら数年後美少女になって俺に会いに来た件〜   作:pelca

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第97話 ベース選び

 ――波乱の誕生日会が終わりさらに二週間が経過した頃。

 

 その間に冬矢は手術をして退院した。

 

 しばらくは松葉杖生活で、以前のように俺が補助で冬矢に付き添い、学校まで一緒に行ったり帰ったりするようになった。

 

 まだ松葉杖生活が抜けきれていない中、透柳さんに連絡して冬矢のベースを選びに行くことになった。

 

 今回はしずはも一緒に三人でしずはの家に向かうことになった。

 

「なぁ、しずはの姉ちゃんってどんな人なんだ?」

 

 学校からしずはの家に向かう途中、冬矢が気になっていたのかしずはに質問した。

 

「一言で言えばだらしない人」

「マジ……?」

「マジ。……光流、わかるでしょ?」

 

 しずはにそう同意を求められた。

 夕花里さんは客が来ても薄着のままでいることが多く、その点においてはそう思えるが他の部分はよく知らない。

 

「どうなんだろ。確かに服装的には少し思うところあるけど。俺の知らない夕花里さんある?」

「ん〜。お酒好きで飲んだらめんどくさくなるところ。演奏の本番以外は全部適当だと思っていい」

 

 そうなのか。ならあのままの印象じゃないか。

 そういえば、俺はお酒飲んでいる場面に出くわしたことはないが、どんな感じになるのだろうか。

 

「ふーん。でも怖そうな人じゃなくてよかった」

「まぁ年も離れてるし。私達なんて子供にしか見えないよ」

「何歳なんだ?」

「二十六」

「めちゃ大人じゃねーか」

 

 しずはとそれ以外の兄弟は結構年が離れてるんだよな。

 そう思えば、二十代前半で子供を産んだことになる。花理さんも透柳さんも子供を育てながら音楽活動を頑張っていたということか。

 

「光流のお家にいた佐知さんって人に似てる感じはするかも」

「あ〜。確かに気さくな感じはそうかもね」

 

 初対面からガンガンに距離を詰めてくるあの感じ。

 陽キャぽくありながらあまり深いことを考えていなさそうなノリで生きてるようなタイプ。 

 似ているところはありそうだ。

 

「俺も光流の誕生日会行きたかったなー!」

 

 あんなに人が来るなら冬矢も来て欲しかったかもしれない。

 

「でも冬矢は女目当てでしょ」

「はは。光流の姉ちゃんの友達がいるなら行くしかないでしょ!」

「あの人達は本当に大変だよ。でも冬矢ならやっていけるかもね」

 

 冬矢のコミュ力なら謎DGの中でもやっていけるだろう。

 ノリとかも合いそうだし。

 

「でも冬矢は来なくて良かったかも……色々カオスだったし」

「…………」

 

 俺がそう言うと、しずはが少し黙る。

 

「なんだよ。お前らまたなんかあったのか!? 絶対おもしろいじゃん!」

 

 いや、あったにはあったけど。

 

「何もないですっ!!」

 

 しずはが少し怒った口調で、そう言う。

 

「絶対なんかあったような言い方じゃん。見たかったな〜」

 

 あの時のしずはは謎DGに煽られて、顔が赤くなりながらも色々と俺への想いを叫んでいた。

 そして、家まで送った帰り道で俺に隙ができるなら……という話もしていた。

 

 そういう話を含めて、しずはからすればあまり冬矢には話したくない内容かもしれない。

 

「……まぁこの話はいいじゃん。ほら、もうしずはの家」

 

 会話しているうちにしずはの家に到着。

 しずはが玄関の鍵を開けて、三人で中に入った。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 俺達は広いリビングに通されると、冬矢が第一声。

 

「失礼します……って、ひろっ!!」

 

 俺も同じこと言った気がする。

 そういえば、冬矢がここにきたのは初めてだったか。

 

「失礼します」

 

 俺も二人に続いてリビングに入り、挨拶する。

 

 リビングにいたのは二人だった。

 透柳さんと夕花里さんだ。花理さんは買い物にでも行っているのかもしれない。

 兄の創司さんもいないが、そもそも俺がここに練習しに来ている時でもほとんど見かけない。

 

「やぁやぁ〜! 君が私のベースちゃんを借りたいという男の子だね?」

 

 するとソファで横になりだらけていた夕花里さんちらっと冬矢の足の状態を見ながらそう言ってきた。

 透柳さんはこちらに手を振りながらダイニングテーブルの方でコーヒーを飲んでいた。

 

「はい。池橋冬矢です! 綺麗なお姉さん、今日はよろしくお願いします!」

 

 冬矢が褒め言葉を交えつつ元気に答える。

 

「おうおう〜。冬矢くんね。私は夕花里よろしくね。君は女の子に慣れてそうだねぇ〜」

「いえ、そんなことはありません! お姉さん凄い美人ですね!」

「はは。ありがとう。十個以上も年下の子に言われるとはね」

 

 すぐに人の懐に入ろうとする冬矢。本当にどこで学んできたのやら。

 今まではあまり気にしてこなかったが、確かに夕花里も美人だ。あの親にして、しずはも美人だ。その姉も美人なのは確定事項だろう。

 ただ、花理さんやしずはにある優雅さや清純さが見られないないので、どこかで美人を台無しにしている要素が透けて見えてくるのだ。

 

「じゃあ早速ベース見に行こっか?」

 

 そう夕花里さんが行ったので、俺達三人はついて行くことにした。

 ちなみに夕花里さんの今日の服装は普通だ。露出が多いわけではなかった。とりあえずそれが救いだった。

 

 

 

 …………

 

 

 

 夕花里さんのベース部屋に到着すると、ギター部屋同様に無数のベースが並べられていた。

 

「すっげえ! これ全部夕花里さんのですか?」

「そうだよ〜かっこいいでしょ〜」

 

 冬矢がたくさんのベースを見て驚く。

 すると夕花里さんが人数分の椅子を用意してくれる。

 

 俺は冬矢を少し支えながら椅子に座らせた。

 

「さてと、冬矢くん。その足どうしたの?」

 

 やはり気になっていたのか夕花里さんが冬矢に聞いた。

 

「サッカーでちょっとやっちゃいまして」

「ふーん。そうなんだ。もうサッカーはしないの?」

 

 ズバズバと聞く人だ。

 

「しないです。まぁ遊びでくらいなら」

「そっか。もう決めてるみたいだね。なら私から言う事はなし!」

 

 なんだかいつもの夕花里さんとは少し違った。

 あまり真面目な話をしないイメージなのに、今は真剣な目をしていた。

 

「そういやなんで冬矢くんはベースなの?」

 

 夕花里さんが話題を変える。

 

「それはベースが一番イカすからです!」

「めっっっっちゃわかってるじゃんっ!!」

 

 冬矢がそういうと夕花里さんがはしゃぐように笑顔になる。

 

「一見目立たないように思われますけど、低音で支えるあの感じ最高です!」

「いいね、いいねぇ!」

「しかもバンドでベースやってる人って皆イカしてます!」

「それなのよ! ベースやってるやつが結局一番ロックなんだよね!」

 

 なんだそれ。

 俺にはよくわからなかった。

 

「よし! 好きなベース持ってけ!」

「はいっ!」

 

 ノリと勢いで会話してるなこの二人。

 

 ということで再び俺は冬矢を立ち上がらせて、壁際に置かれているベース達を見て回る。

 

「その青いのはマリン! あ、そっちはフレド! それはイエル!」

「…………えーと、さっきから言っているそれはなんでしょうか?」

 

 夕花里さんがベースを見る度に意味不明な言葉を喋っていた。

 なので俺はその意味を聞いた。

 

「名前だよ名前〜。名前つけたほうが情が湧くでしょ? だからつけてるの〜」

「へ〜……」

 

 それしか言えなかった。こういうのはよくあることなのだろうか。

 漫画とかでは見たことはあるが。

 

 すると冬矢が足を止めた。

 そこにあったのは赤い色をしたベースだった。

 

「――俺、これが良いです」

 

 冬矢がベースを決めたようだった。

 

「ルビーちゃん!」

 

 赤い宝石の名前を呼んだ夕花里さん。その名前の通り、冬矢が選んだのは真っ赤なボディのベースだった。

 

「なんか、この赤がカッコいい!」

 

 冬矢らしい派手なイメージのベース。確かに持っている姿を想像すると似合う感じがした。

 

「夕花里さん、これいいですかね?」

「いいよー! 大事にしてねっ!」

「はい!」

 

 こうして冬矢が借りるベースが決まった。

 

「あの、夕花里さんのベース聴いてみたいです!」

 

 すると冬矢が突然にそう言い出した。

 俺も初めてこの家にきた時はしずはにお願いしたっけ。

 

「ははーん。私の演奏はお高いぞ〜。プロプロのベーシストですから」

「わかってます! でも聴きたいです!」

 

 年上に対してはほんと言葉遣いはちゃんとしてるんだよな。

 

「はいはい、わかったよぉ。特別だゾっ」

「ありがとうございます!」

 

 すると夕花里さんは椅子から立ち上がり、ベースを一つ持ってきて、再度座った。

 

「じゃあ軽くね」

 

 そう言うと夕花里さんがベースを弾き始める。

 

 ピックを持たないスタイルで右手の指はダンスするように滑らかに弾かれていく。

 ギターのピックを使った弾き方とは全く違う弾き方で、指の動きが変則的だった。

 ベースの低音が鳴り響き、俺が好きなロック調の音楽が奏でられた。

 

「はいっ、こんな感じ」

 

 凄い。プロ凄い。これまでベースがどんな音を奏でているのか理解していなかったが、こうやってベース単独で聞くとよくわかった。

 ベースがあるからこそ他の音も際立つ。当たり前だが昔しずはに弾いてもらった演奏より数倍凄い演奏だった。

 

「すっげええええ……っ」

 

 冬矢は目を見開いて拍手していた。

 俺も一緒に拍手をした。

 

「でしょ〜。まぁプロだからこれくらいは普通よ」

「俺もそんなふうに弾きたいです」

「毎日練習してたら弾けるようになるよ。頑張りな」

「はいっ!」

 

 それから俺達は夕花里さんとも連絡先を交換して、冬矢がベースでわからないことは夕花里さんに聞くということになった。

 ただ、透柳さんみたいに直接教えるような時間はあまりないそうなので、基本的には自主練になるようだ。

 

 本格的に練習を始めるのは冬矢の足が回復してからになるだろう。

 あとは色々と解決しなければいけない問題があるのだが、本当にいけるのだろうか。

 

 冬矢はまだ言うつもりはないらしいが。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 そうして俺達がしずはの家から帰宅する時、冬矢からある誘いがあった。

 

「――なぁ、お前ら。二十四日だけど俺の家でパーティしないか?」

 

 そう、クリスマスパーティーのお誘いだった。

 

「俺は全然良いよ」

 

 クリスマスは空けようと思えば空けられる。今までは予定がなかったので家で過ごしていたけど。

 

「しずはは?」

「私は……深月が来るなら?」

「オッケー! そしたら深月にも聞いてもらっていいか?」

「わかった」

 

 そんなこんなで、冬矢の家でクリスマスパーティーをすることになった。

 

 

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