雨上がる頃に星空を   作:ミスブルー

5 / 5
雨上がる頃に天の川を。そして星空を

前方車両の扉を開ける。

 

「ここってウチら以外誰か来たことあるのかな?」

 

「ないと思う。ここに来る前にみんなは動けないはずだから」

 

「そっかそうだよね」

 

「そして生きたままあの怪物に刃物を突き立てられるんだ。何度も何度も。……」

 

「…穹?大丈夫?」

 

「ああ、大丈夫だ」

 

なのが俺の顔を覗き込むように見ていた。

 

『次は解体 解体』

 

ノコギリを持った複数の猿が襲い掛かる。

 

「丹恒、いつも通り即戦即決だ」

 

俺がバットを振りノコギリを壊した所を丹恒は槍で的確に突いていく。

 

『お客さん電車内ではお静かに』

 

「そう思うならウチらを返してこれ以上襲うのやめたらいいじゃん」

 

『次は挽き肉 挽き肉』

 

なのの言葉に返事はなくアナウンスが流れた。

 

次はなにが来るかと思ったら、しかしなにも出てこなかった。

丹恒は周囲を警戒しつつ呟く。

 

「ハッタリにしては物騒な言葉だ」

 

「わからない。先に進もう」

 

俺達は三両目の電車にたどり着いた。

俺達は驚き足を止めた。

 

「あいつは…」

 

「どうして夢にいるの」

 

「……」

 

俺達の目の前には星核ハンターで丹恒と大きな因縁がある人。

…刃がそこにいた。

 

「刃…!」

 

丹恒が槍を構える。

 

刃が俺達に気付いた。

 

「お前達か…そして会いたかったぞ飲月…!」

 

「俺はこんなところで会いたくは無かったが」

 

「というかこんなところであいつと戦ってる場合じゃないよ!あれじゃまるでこの先の扉を刃が守ってるみたいじゃん!」

 

なのが言った。

 

その言葉は最もだ。

 

刃はまるでこの先へ行かせないように立っているように見えた。

その言葉に俺達は…特に丹恒は冷静になった。

 

「その通りだな…あいつがここを守るようなメリットは何もない。刃…この先へ行かせてくれ」

 

「この先に?それは俺を倒すということだが…」

 

「どうしても戦わないといけないのか」

 

「当然だろう?何のために俺はここにいると?」

 

そして刃は剣を抜く。

剣に手を擦り赤く染まっていく。

 

「ッ!!」

 

殺気を肌で感じるように痛かった。

 

丹恒は覚悟を決めたように槍を握り直し構える。

 

「三月、穹。俺が隙を作る。

お前達は一瞬でも隙が出来たらすぐに次の車両に向かうんだ」

 

そう言って丹恒と刃は戦闘を始める。

座席は吹き飛び壁はボロボロになり吊り革が千切れ宙を舞う。よく分からない広告が破れ床に落ちる。

剣と槍の過擦音が激しく響き丹恒が刃を押し返した。

 

「二人共!走れ!」

 

丹恒の声が俺達に響く。

 

「行こう穹!」

 

「分かった…!丹恒、後で会おう!」

 

俺達は次の車両に走り抜ける。

今度は丹恒が刃に吹き飛ばされる。

俺達は振り返ることはなく次の車両の扉へ手を掛けた。

 

次の車両に踏み入れると真っ暗だった。

 

「暗い!真っ暗!」

 

「なんでここはこんなに真っ暗なんだ?何よりここは」

 

「部屋みたいだよね…乗車した人が座る感じもしないし…」

 

「たしかに」

 

「そういえばあれから電車のアナウンスが流れてた挽き肉が来なかったけど結局なんだったんだろう…」

 

「多分刃のことだったのかもしれないな」

 

「う…たしかにあいつなら挽き肉くらいやっちゃえそう」

 

 

 

本物の刃がここにいるはずがない。

 

ここは夢だ。

もしかしたらあいつは夢として現れたのかもしれない。

 

それにしては殺気も強さも本物と瓜二つだった。

 

そんなことを考えているとテーブルがありプリンが2つ置いてあった。

 

「なんでプリンなんだ?」

 

「穹これ知らないの?今めっちゃ美味しいってやってたやつ!。並んでも食べれないってくらいなんだよ!それに見て!手紙も置いてある」

 

ゴメンナサイゴメンナサイワルギハアリマセンデシタ

ユルシテクダサイオワビノプリンデス

 

と書いてあった。

なのはスプーンを持っていた。

 

「なの、食べるなよ」

 

「え!どうして!」

 

「絶対これ毒入りだぞ」

 

「え?!うー…そうかもしれないけど…もったいない」

 

何度もプリンを見る。

 

「だめだぞ」

 

「…分かったよ。…」

 

それでもプリンを見てスプーンを手放さなかった。

やがてため息をつき俺を見た。

 

「じゃあ帰ったらさ…これじゃなくていいからなんか奢ってよ」

 

「いいぞ。好きなの奢ってやる」

 

「…え?ほんとに…!?やった!」

 

なのは笑った。

そしてようやくスプーンを置いてくれた。

 

「じゃあさっさと猿山の大将倒さないとね。行こう!」

 

「そうだな。この先が最前車両。車掌室のはずだ」

 

普段のなのなら毒だと分かったらスプーンをすぐに置いてくれそうなものだったはず。

 

丹恒に関してもそうだ。

 

刃がこんなところにいるはずない。

 

恐れや欲がこの猿夢には強く現れて抗うことが難しくなっているのかもしれない。

 

そして俺は明晰夢らしい。

自分でも分かるが敵討ちに燃えているのがよく分かる。

 

この明晰夢がどれだけこの悪夢に抗えるか。

 

俺は次の扉を開ける。

 

ガタンゴトン、ガタンゴトンと揺れる音が響く。

 

思ったよりも広かった。

 

運転席には誰かがいた。

 

「追い詰めたぞ猿夢」

 

俺はバットを、なのは弓を向けた。

 

運転手が背を向けたまま口を開く。

アナウンスと同じ声だった。

 

「お客さんいけませんねぇ…ここは関係者以外立入禁止禁止ですよ」

 

「散々人間を殺しておいてよく言えるな」

 

「ここは私の世界なんですから」

 

「その世界もここで終わりだ」

 

「終わりですか。それは困りましたねー」

 

「猿夢どうしてこんなことをする?」

 

 

俺は黒百合からもらった札を確認する。

この夢のどこかに心臓部と脳の役割を果たしてる場所が存在してるはず。

どこにある?

 

「どうして?お客さん、妖が強くなるにはどうすればいいかご存知ない?」

 

「興味ないな」

 

「残念ですねー。特別に教えてあげますよ。

それはですね恐怖ですよ。畏怖や恐怖と言った感情が私達を強くするんです。怖がる人間を見る様は何とも素晴らしくてですね。自分が絶対的な上位に立ちそしていつ喰われるか恐れる姿を見るのが最高なんです」

 

「趣味悪いし最低…」

 

なのが呟く。

 

「ご理解頂けなくて残念です。

ですがそれはお客さんが妖ではなく人間の味を知らないからです」

 

「人間の味?」

 

「えぇ、そうです。例えばお客さん方美味しそうですよね。

お嬢さんは神秘を味わえそうな味がしそうです。

既に美味しそうな香りが漂ってます。そちらの方は魂に太陽のようなものを持っていますね。お二人共、最高の高級食材です」

 

「ウチら…こ、高級食材…」

 

なの驚くのはそこか。

 

しかもこいつは星核の事を言ってきた。

 

俺はここに来てから一度も星核の話しをしたことはない。

 

「私はですね。食材は調理して味わうのが好きなので保存とかする派なんですがたまには…そうですねぇ。野性的にかぶり付くのも悪く無さそうですね」

 

今まで背を向けていた運転手がこちらを向いた。

 

とても大きな赤い体毛を纏った赤い瞳をした猿だった。

服が弾け飛び上半身が露になり胸をドンドン叩く。

 

そして咆哮した。

 

俺達は耳を抑える。

 

「猿夢の力見せてヤロウ。マズハ頭からかぶり付イテヤル!」

 

赤い閃光が動き俺の頭上に移動した。

俺は体勢をかわし回避する。

着地した猿夢になのは矢を放つ。

 

「なの反撃は任せる!」

 

「分かった!」

 

「イイ攻撃、イイ連携ダ。ダガ俺には効カンナ」

 

猿夢は右手に斧を持ち振るう。

 

俺のバットを重さで弾き飛ばす。

猿夢は斧を振り上げ振りかぶる。

斧に突き刺さったのは帽子だけだった。

 

「帽子ダト?」

 

その帽子は星の光を放ち消え俺の手元に顕現する。

 

「コラボスタートだ」

 

俺は帽子を投擲し弾け星の光が猿夢を貫通する。

 

腕や足を抑えて膝を付く猿夢。

 

「効いている!これなら…!」

 

「穹!後ろ!」

 

斧が俺の背中を襲う。

六相氷の結晶がそれを阻み砕けるが俺は飛ばされてしまう。

 

「穹大丈夫?怪我してない?!」

 

「ああ助かった。ありがとう。でもいつの間にか後ろを取られてた」

 

「見てアイツ!」

 

傷を負った猿夢の身体は一瞬ですっかり元に戻っていた。

 

「回復だと…?」

 

「言っただロウ。恐怖が俺達を強くするト」

 

「…!どうすればいい?心臓はどこだ…?」

 

「心臓…。そういえば黒百合言ってたね。心臓と脳の役割をしてる場所を探してって」

 

「それがわからない限りこの繰り返しで俺達の体力が先に底を突く…」

 

なのは反撃と防御、丹恒はまだきっと刃を相手にしてるはず。

 

俺が前衛に立つしかない。

 

「なの、心臓部と脳の役割を見つけれるか?」

 

なのは驚いたように俺を見た。

考えてくれたんだろう。

首を左右に振った。

 

「…ごめん。ウチじゃ自信がない…」

 

「そっか」

 

時間は掛かるかもしれないけど俺が前に立って戦うしかない。

そう思った時「待って」と…なのが俺の肩を掴んだ。

 

「なの?」

 

「穹、アンタなら見つけれる?」

 

「え?」

 

俺は周囲を見渡した。

 

どこかに必ずある。

それを見つけれるのはもしかしたら明晰夢である俺だけかもしれない。

猿夢は言った。『少し困りましたねー』と。

 

「必ず見つける!」

 

俺がそう言うとなのは笑った。

 

「分かった!じゃあここからウチ一人で頑張ってみる。

穹は探して。そして必ず見つけて!」

 

「なの…どうする気だ?」

 

なのはそのまま何も言わず猿夢に向かって走る。

 

「ソンナ弓で俺を倒せナイ」

 

斧を振りかぶり、なのはそれを交わしたと同時に猿夢の両腕を切断した。

 

「腕がァァァ!俺の腕がァァァ!」

 

「なの!」

 

「穹、大丈夫!ウチも前に立って戦えるよ」

 

なのは両手に長剣を握っていた。

片方は金属剣でもう片方は六相氷で作られた剣だ。

 

「穹!早く行って!探して!」

 

「任せてくれ!信じてるからな!」

 

俺は猿夢の間を通り抜け猿夢はそれを追おうとしたが六相氷の刃が足元に突き刺さり猿夢は足を止める。

 

「行かせないよ絶対に」

 

 

 

 

~~~~

 

 

 

俺は真っ暗な部屋に戻ってきた。

プリンはもう無かった。

やっぱり毒入りだったかと思った。

脳と心臓の役割をしてる場所。

それはやはりここなんじゃないかと俺は考えた。

 

明晰夢を強くして心臓か脳をここへ露出させるんだ。

 

俺は存護の槍を握る。

 

「行くぞ!」

 

俺は爆炎を起こし真っ暗な部屋を炎で包んだ。

明るくなった部屋にもう1つ扉があるのを見つけた。

 

「あった…見つけた!」

 

俺はその扉に飛び付き扉を開けるが開かない。

前方車両が大きく揺れた。

 

もしかしたら猿夢はここが発見されたことを気付いて焦っているのかもしれない。

俺はもらったお札を思い出し貼り付けた。

お札が赤く輝いた。

扉が緩くなる。

そんな実感があった。

 

「これならいける」

 

俺は再びバットを握る。

 

そのままバッティングフォームで構えて声を出し

 

 

「ルールは破るためにある!!!」

 

その言葉と共に扉を吹っ飛ばす。

 

 

中から悲鳴が聞こえた気がした。

なのじゃない声だ。

 

俺は中へ入ると「っ!?!」

 

そこには歳陽にも似ている火の玉が数え切れないくらいいた。

 

「これはいったい…!」

 

俺が近づくと火の玉は下がる。

まるで怯えているようにも見えた。

1つの火の玉が後ろに下がらずにいた。

俺は手を伸ばすと火の玉もゆっくり近付き俺に触れると、頭に俺の知らない人生が見えた。

誰かの人生を追経験したようなそんな感覚に陥ったが俺は悪くないと感じ何より知っている光景を俺は見た。

俺はこの人を知っている。

 

同窓会の記憶で俺が映り確信した。

 

「ホムラ…?」

 

そう口にすると火の玉は頷くように動く。

俺は顔を上げ火の玉達に言う。

 

「大丈夫だ。もう大丈夫。助けに来た。

もう大丈夫だ。俺が助けに来た。

この悪夢は俺が…俺達が必ず終わらせる!絶対に!」

 

初めは火の玉は俺から離れるように距離があった。

 

俺は分かってくれるように何度も何度も大声で言った。

何度も言う内に火の玉達が俺に集まってくる。

 

やがて全ての火の玉が俺に集まると俺は部屋を出る。

この火の玉を外に逃がさないといけない。

まだ猿夢は終わってないからだ。

どうすればいい。

 

「扉を作ろう穹」

 

後方車両にいた丹恒が傷だらけでやって来た。

 

「丹恒!無事で良かった」

 

「何とかな。そっちも上手くいったみたいで良かった」

 

「あぁ…!なのが猿夢と単独で戦ってくれてるおかげだ」

 

「三月が…?そうか。演舞典礼での成果なんだな」

 

「でもこの火の玉を外に逃がさないといけない」

 

「そうだな。だが先に三月の元へ行った方がいいだろう。俺はここで少し休むと同時に彼らを守っている」

 

丹恒は火の玉を見た。

俺は頷く。

 

「分かった。ここには丹恒がいてくれる安心してくれ。みんなすぐに戻る。待っててくれ」

 

火の玉に告げて、そして俺は前方車両…なのがいる車両へ走る。

 

 

 

 

 

「なの!大丈夫か!」

「穹!ウチもう…なんとか…!でも…限界…!」

 

なのは息切れで肩で大きく呼吸してる状態だった。

かなりギリギリだったようだ。

 

「でも穹やってくれたんだ…!やったじゃん…!ほら見てアイツ…!」

 

猿夢は身体がどろどろと溶け出していた。

まるで思考を失くした獣のように叫び辺り構わず斧を振り回している。

 

「突然アイツ、頭抱え出して暴れ回ったんだ…そしたら身体が溶け始めたんだ」

 

「心臓と脳の役割を果たしてるどちらかを破壊できたのかもしれない。あと一つは…」

 

俺は猿夢を見る。

溶けている身体の頭部の額に水晶らしき物が浮き出ていた。

 

それがギラギラと発光している。

 

「さっきまであんなの無かった。

あの猿の頭にある石みたいなの…あれがきっとそうなんだよね」

 

「あの猿夢の頭の石にお札を貼って攻撃を当てればいいんだ」

 

「そっか。…じゃあここからアンタに任せて大丈夫?」

 

「あぁ。なのはサポートを頼む」

 

「任せて」

 

なのは剣をしまうと弓に切り替えた。

バットを持ちそのまま猿夢の斧とぶつかり合う。

金属音が重なり火花が散る。

バットを放したら負けだ。

ぶつかる過擦音が電車を揺らす。

斧が振り下ろされた瞬間を狙い、バットを斧の腹へ打ち込み斧を叩き折ることが出来た。

今しかない!。

お札を取り出し額に目掛けて貼り付けると猿夢はそれが何か気付いているのか剥がそうとしたが両腕は凍って動かなかった。

 

「穹!今だよ!!!」

 

「ありがとう!!。

これで…悪夢は終わりだ!」

 

お札が赤く輝くと同時に俺はバットを振るう。

 

壊滅の一撃が猿夢の額の石を打ち砕く。

 

猿夢が悲鳴を上げた。

 

額の石が失くなると全身が紫の炎に包まれる。

 

「タスケテクダサイ…ワルギハナカッタタスケテクダサイ」

 

猿夢が俺達を見て言った。

俺は首を左右に振った。

 

「散々人間を苦しめたんだ。お前に殺された人間は涙を流して恐怖しながら死んだんだ。お前を助けるなんて絶対にない」

 

「ァァァァ…ニンゲンフゼイメ…」

 

これ以上喋らせるつもりはなかった。

俺は存護の槍を持ち横に薙ぐと紅蓮の炎に包まれて猿夢は消えた。

 

 

 

~~~

 

 

 

俺達は後方車両に戻った。

丹恒は俺達の姿を見て表情は変えなかったが安堵したような感じに見えた。

火の玉は一斉に俺に集まった。

 

微かに「ありがとう」「ありがとうございます」

 

そんな声が聞こえるような気がした。

 

そして夢から覚めれないのと覚める前にやらないといけないことがある。

 

「札は持ってるな?」

 

「俺はもう使いきった」

 

「ウチ持ってるよ」

 

「ならそれを使ってここを扉に変えるんだ。変えるのは穹。お前だ」

 

「分かった」

 

なのからお札を受け取り俺は再びお札を壁に貼る。

赤く輝きお札が消えると扉に変わった。

 

「行くぞ穹」

 

「分かった!」

 

俺と丹恒は武器を構えて扉を叩き壊した。

風が入り火の玉が一斉にぶわっと空へ旅立つ。

 

「すごい綺麗!」

 

なのがそんなことを言う。

 

「そうだな綺麗だ」

 

外を見ると晴れていた。

 

あれは天の川だ。

一面の星空だった。

 

丹恒は星空を眺めながら言う。

 

「この電車は猿夢が殺した人間の魂を閉じ込める為の電車だったようだな」

 

「魂を…?そういえば火の玉があった場所は…」

 

「あぁ。お前が壊した場所がまさにそうだっただろう。

閉じ込められた魂は生まれ変わることも次の輪廻に乗ることもない。猿夢に食べられてしまえば消滅を意味し猿夢の力になるしかない。つまりここはいつ自分が喰われてしまうか分からない魂の監獄だったんだ」

 

「真っ暗で何も見えなくて…心細くて怖かっただろうね…」

 

「三月の言う通りだな。そういえば穹、あれはお前の知り合いじゃないか?」

 

「え?」

 

俺が振り返ると最後の一つとなった火の玉がいた。

 

もう行ったのかと思っていた。

 

「…行ってきていいか?」

 

「うん」

 

「あぁ」

 

俺は近付くと火の玉も俺に寄ってくれた。

しゃがんで手を出すとそこに乗ってくれた。

 

「ホムラ…ごめん。俺また助けること出来なかったよ」

 

自分がもっと強ければ助けることが出来ただろうか。

 

「俺がもっと強ければ良かっただろうか」

 

ピノコニーでホタルがネムリに刺されてしまったあの光景が焼き付いて離れない。

 

これは後悔というやつだ。

 

 

『そんなことないよ。助けてくれてありがとう』

 

そんな声が一瞬聞こえて俺は思わず顔を上げた。

 

もう何も聞こえなかった。

それでも俺は口を開いて言葉にする。

 

「そうか。それなら…良かった。…どういたしましてホムラ」

 

俺は立ち上がると外に近付き風が吹き込む星空を見る。

 

 

「起きてるかホムラ!!!。見えるか!あれが天の川だ!!」

 

風が強くて声が自然と大声になる。

でもそれでいい。

俺はホムラに聞こえるように大声で言った。

 

「ホムラが見たがっていた天の川だ!見れたぞ!銀河鉄道の夜だ!あれも俺読んだんだぞ!」

 

俺の大声は丹恒やなのに丸聞こえだろう。

 

二人は俺の大声に目を閉じ笑ってくれる。

 

火の玉は俺の手のひらに留まり夜空を眺めるようにしばらくじっとしていた。

 

俺もまた夜空を眺めた。

 

しばらくして満足したのか火の玉がくるりと回った。

 

そろそろ行かないと…そんなことを言ってるように感じた。

火の玉は俺から離れて俺の周りをくるくる回るとやがて星空に向かって飛び立っていく。

 

「ホムラ…またな」

 

火の玉が星空と溶けるように見えなくなる。

 

 

 

「もう大丈夫…?」

 

なのが俺のそばにいた。

 

「うん。ありがとう。ごめん」

 

「いいって。星空、綺麗だね」

 

「あぁ綺麗だ」

 

「丹恒も!こっち来て見ようよ!」

 

「あぁ分かった」

 

俺達三人は夜空を眺める。

 

「雨上がる頃に星空をってやつだね」

 

 

なのの言葉に「そうだな」と俺も丹恒も返す。

 

太陽がうっすらと見えた。

 

「夜も終わりだな。主を失くした悪夢はただの夢だ。俺達も時期に覚めるだろう」

 

「なんでわかる?」

 

「俺の視界はもう白いんだ。すまない…先に俺は起きるとする」

 

そう言うと風が吹き込む。

丹恒の姿はなかった。

 

「あ、じゃあウチもだ。また起きたらね!」

 

そう言ってなのも姿が消えた。

 

俺は一人残った。

電車は動いている。

 

運転席へ足を運んだ。

何となくこうしておいた方がいいと感じた。

運転レバーのブレーキを握る。

アナウンスのマイクを握り口を開く。

また新たなる悪夢がこれを媒介にして動き出すとも分からない。

だからここでやる意味があると感じた。

 

「次は終点、終点です。この電車はもう二度と動きません。

この電車はもう二度と動きません。お降りの際はお忘れ物がないようにお願いします」

 

電車が止まると俺は扉を全て開ける。

やれることはやった。

丹恒と幻の刃の戦いでボロボロと思われた車両も元に戻って普通の電車と変わらない状態に戻っていた。

一番最後尾の車両にたどり着く。

 

「俺も降りよう」

 

俺は電車を降りると…視界が白くなる。

 

思わず目を閉じ再び開けると天井が見えた。

 

「穹、起きたか?俺のことは分かるか?」

 

ヴェルトがそこにいた。

 

「ヴェルト…。おはよう…みんなは…?」

 

「おはよう。みんな無事だ。よくやったな。着替えたら朝ごはんにしよう」

 

 

 

 

~~~~

 

 

 

 

 

メッセージ

 

姫子:事情は全部ヴェルトから聞いているわ。お疲れ様。

そろそろパムが出発するって話をしているの。学校には話を私から通しておくわ。

やり残したことがないようにしてちょうだいね。

 

 

 

~~~~

 

 

「黒百合、力を貸してくれてありがとう」

 

「どういたしましてっ」

 

「これは残りの札だ。俺達には今はもう必要がない」

 

「ありがとう。役に立てて良かったよ」

 

お札を受け取り黒百合はしまう。

 

俺達は黒百合に会いに行った。

彼女は今日、中等部のトイレ前にいた。

 

「今日はトイレにいるって言うからびっくりだよ!」

 

なのはトイレを見て言う。

 

「ここは何があるんだ?」

 

俺は尋ねると黒百合は笑って答える。

 

「トイレの花子さんがずーっと住んでるの」

 

「トイレの花子さん…?なにそれ?」

 

「この女子トイレの奥に住み着いてるんだ。昼間はいないけど毎日夕方になる前に使用禁止にするの」

 

「…へぇ…」

 

 

なのは深くは聞かなかった。

 

「さて、移動しよう。あそこでいい?」

 

そう言って俺達は廊下を抜けた外の連絡通路に出る。

外は晴れていた。

 

「今日は良い天気。ここならいいね。改めて、話すこととかある?」

 

「ある。俺達そろそろ出発するんだ」

 

「そうなの?じゃあこの世界での冒険ももう終わりなんだね。

どうだった青の世界、地球は?」

 

俺達は顔を見合わせ答える。

 

「貴重な体験と不可思議な話。そしてこの世界でも戦いがあることを知った」

 

丹恒の後になのが口を開く。

 

「美味しいものいっぱいあって不思議な出来事もあって学校生活すっごく楽しかった!あ!

穹!この後ウチに奢ってよ!」

 

その言葉に俺は頷く。

 

「わかってるよ」

 

なのに答えて黒百合に俺は向き直る。

 

「黒百合」

 

「うん、どうぞ」

 

長く重い話をすると彼女はわかったのだろう。

それでも黒百合は笑って答えてくれた。

 

「…俺も楽しかった。…。俺この世界で助けたい人がいたけど結局は間に合わなかった。

それでも夢の中で助けてくれてありがとうって言われた気がしたんだ。…以前にも助けたかった人がいたんだ。

その子は最終的に生きてた。嬉しかった。

でも俺の力じゃ助けることが出来なくてずっと考えてた」

 

「きっとその子は今でもあなたにありがとうって思ってる」

 

「…。うん…、ありがとう。だから深く考え込むのは少し止めようって思ったんだ。ホタルにもホムラにもそんなことを考え続けてたら悲しむ気がしたんだ。俺は前を向くよ」

 

「そっか。いい答えじゃん」

 

黒百合は笑う。

俺もそれを聞いて頭を下げた。

 

「本当にありがとう」

 

「どういたしまして。

それでは星穹列車の皆様、またの訪問をお待ちしています!」

黒百合はそう言って締めくくった。

 

太陽が射す。

俺達は一瞬視界を閉じて再び目を開けた時、黒百合の姿はそこにはいなかった。

 

ーーーー

 

 

 

あれから2日程経った。

俺達は今日この世界を出発する予定だ。

 

なのは友達のみんなと少しおしゃべりをするそうで俺と丹恒は同窓会の片付けを手伝っていた。

 

「ありがとうございます~人手全然足りなくて。列車のみなさんも帰り支度で忙しいはずなのにー」

 

夕七はそう答えてすぐにどこかに行ってしまう。

 

忙しい人だ。

いろいろありがとうと言う暇もないとは。

 

「集めた短冊はどうするんだ?」

 

「うむ、その箱に入れておいてくれ」

 

丹恒と御影が話している。

俺も短冊を集めているとホムラの短冊を見つけた。

 

「…………」

 

俺はそれを読んで小さく笑いみんなの短冊が入ってる箱にしまう。

御影の元に箱を持って渡す。

 

「感謝する助かったぞ。主らはそろそろここを発つんじゃったな」

 

「あぁ」

 

「うむ、達者でな。またいつでも帰ってくるといい」

 

「ありがとう。夕七によろしくと伝えておいてくれ。言う暇もなくてな」

 

「任せておけ。必ず妾が伝えよう」

 

俺と丹恒はその場を後にする。

 

教員室前ではヴェルトが花束や貰い物をどっさり貰っていた。

 

「ヴェルト」

 

「二人とも来てくれたか」

 

「随分いろいろ受け取ったみたいですねヴェルトさん」

 

「あぁ…ちょっと多すぎるくらいだ。今生の別れみたいになってるからまた訪れた時が不安になってくるよ」

 

ヴェルトは苦笑しながら答える。

 

「持つの手伝います」

 

「俺も手伝うよ」

 

俺と丹恒は荷物を少し受けとる。

 

「さてと、いろいろ済んだかな?。準備が出来たらみんなで列車に戻ろう」

 

ヴェルトの言葉に俺達は頷く。

列車に戻ると既になのもいた。

 

 

「なんかいっぱいもらってる!なにこれ!すご!」

 

そんな感じではしゃいでいた。

 

今日も雨。

梅雨は雨の季節だ。

 

もうすぐ夏がやってくるそうだ。

 

とても暑いらしい。

 

いつか再びここへみんなで来て忘れられない思い出と開拓をしよう。

 

パムが跳躍の合図をする。

 

なのは相変わらずど真ん中に立っている。

 

丹恒は部屋でアーカイブを操作しているんだろう。

 

姫子はコーヒーを飲み、ヴェルトは外を見て俺達を見渡し俺の視線に気付くと頷く。

 

俺も頷き返す。

 

なのが夢で言っていたことを思い出した。

 

それを今回この世界での出来事のタイトルにしよう。

 

俺も外を見る。

 

あの雨の向こうには天の川が広がっている。

それはきっとこうだ。

 

 

雨上がる頃に星空を。

 

END

 




ここまで読んでくれてありがとうございました。

星穹列車が地球で過ごすというより学校生活を送る。
という感じになりました。

今回は怪談「猿夢」がメインでありそれを星穹列車が解決するという形になりました。

開拓者に出来たこの世界での友達は猿夢に囚われてしまい殺されてしまい魂を幽閉されてしまいます。

開拓者はピノコニーでホタルを守り切れなかったことを悔いているような印象があるように感じたので今回それを強く出しています。
ホタルは最終的には生きていたことがピノコニーでは開拓者の救いだったのではと私は思っています。

この世界では結果的に彼女は死んでしまいました。
ですが開拓者本人が彼女の魂を助けることが出来て感謝の言葉をもらったので少し前を向けるかもしれないと思いました。

怪談も重要視していますが今回七夕、梅雨、雨、とお祭り。6月から7月の学校行事の青春を色濃く反映させてみたつもりです。
読んでくれた人に伝われば幸いです。

そしてまだ公開は一部しかされていませんが三月なのかさんには演舞典礼で公開される新しい運命をここで披露させていただきました。
この物語は演舞典礼が終わった後を描いた予想として書きました。
演舞典礼のイベントが楽しみです。

今回はここまで。
読んでくれてありがとうございました。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(必須:10文字~500文字)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。