ヴァルキューレ警察学校警備局内。犯罪対策部別室と書かれた表札がある部屋の中、白紙の名札が置かれているデスクで一人の生徒が電話を受けていた。
「…子ウサギタウンでSRTの小隊が公園を占拠してデモ?あの学園は…たしか解散して撤去って話じゃ?」
解体したはずの学園がなぜそんなことを。そう思いながら
「その解体に反対してのデモらしいですね。ヴァルキューレがてこずっているとか。マサミ今日は警備局ですよね?様子を見てきてもらえませんか。必要であれば対処もお願いします。」
「参ったねあのひよっこ達には…。でもまあヴァルキューレのかわいい後輩ちゃんのためだ、ひと肌ぬぐかい。わかったよ。」
「それと現場にはあのシャーレの先生が向かうことになったみたいです。そちらも見てきてください。」
「ふーん…。シャーレの。ま、了解!承服いたしました防衛室長殿!行ってくる。」
「ふふ、ありがとう。お願いします。」
通話が切れた。
「SRTか。カヤの計画を知ってる身からすれば手を出すのは気が引けるけど…。しゃーねーな!」
通話を切ると一つ溜息をついてから椅子にかけていたジャケットを羽織り、愛銃を掴んで部屋を後にした。
醍醐マサミはヴァルキューレ警察学校の警備局に籍を置いている。
六角のヘイローを持ち、少し高めの身長で緑がかった黒髪を肩ほどまで無造作に伸ばしている。
銃床を切り詰めた上下二連の散弾銃を腰に差し、ヴァルキューレ制式支給の盾を背負っていた。
警備局には警備課犯罪対策部別室という部署があり、そこにマサミは配属されていた。
警備局の施設内部に部屋はあるが常駐する人員はおらず基本的に無人の状態が多い。
不知火カヤが防衛室長になりしばらくしてから設立されたこの部署は表向きは警備課の予備人員とされているが、実際は防衛室長直属の
この事実は防衛室長の他にはヴァルキューレ警察学校の限られた者にしか知られておらず、ヴァルキューレの生徒からはたまに学校に来る存在程度に認識されている。
現場に行くという車輌に同乗し学校を後にした。
デモが行われているという子ウサギ公園に着くと何人かの生徒と大人が話し合っていた。恐らくあの大人が先生とやらなのだろう。
何回か顔を合わせたことがある犬耳の生徒に近づき話しかける。
「ハァーイ
「醍醐…!…もっと早く来てくれればな…。いや、言ってもしょうがないことか。状況は説明する。」
ヴァルキューレ警察学校公安局局長である尾刃カンナから現状の説明を受ける。
警備局と公安局の戦力は軒並みSRTの小隊に返り討ちにあい残りの人員は生活安全局の数名だけらしい。
「なるほど、そんな感じか。ところでそちらの人が先生かい?初対面だし紹介してよ。」
「ああ。この方が連邦捜査部シャーレ顧問の先生だ。」
「はじめまして!ヴァルキューレ警察学校警備局の醍醐マサミです。
活躍は聞いてますよ。よろしくどうぞお願いしますね。」
「”はじめまして。よろしくね。”」
見た目には普通に見える大人をマサミはちらと観察する。
様々な問題を解決してきたというが見た感じは本当に何の変哲もない、という修飾がふさわしく思える風体だった。
思考を切り替え話し合いに耳を傾ける。
状況としては兵力はほとんど残っておらず士気も良くない。
そんな中、生活安全局の中務キリノは先生を頼りに出動しようと意気を昂らせる。
ずいぶん信用があるなと思いながら面々を見やった。
「意欲は買おう。しかし気合だけではどうにもならない。
我々が他の方法を見つけるまで、とにかくここで待機していろ。」
「は、はい…。」
冷静なカンナの指摘に退いた。猪ではないらしい。
「いいんじゃないのやらせてみれば~。だめでもともとうまくいったら儲けもんですよ。」
「茶化すな。なにを無責任なことを…。」
マサミの茶々を受け流してその後もカンナからの説明が続く。
公園を占拠している生徒はSRT特殊学園所属の一年生”RABBIT小隊”。
ヴァルキューレ警察学校の警備局に転校予定だったのが突如公園を占拠し、
閉校の取り消しを求めデモを始めた。最先端の装備に手を焼き今の状況になったことなどが語られた。
その間にも中継を行っていたクロノススクールのドローンが撃墜される。
「雑な奴らだな……どうしてあんなやつらが、SRTに入学できたんだ?」
「こりゃまた派手にかますじゃん。あの子たち頭に血が上ってんじゃね。」
カンナの悪態を横に過剰火力を受け墜落する撮影用ドローンを眺めた。
そうこうしているうちに先生が何か思いついたのかカンナから戦闘可能な生徒へ先生主導の作戦開始が宣言される。
「生活安全局の生徒だけで?まじか…。」
「お前は出ないのか?」
「とりあえずは様子見。先生のお手並み拝見といくよ。それでだめならわたしが出る。いいよね?」
「…好きにしろ。私にお前への命令権は無いからな。」
マサミは所属はヴァルキューレだが特殊な立ち位置にいる。
防衛室長直属の名のもとある程度の自由裁量が認められていた。
会話を終わらせ先生の指揮を眺める。次々と制圧されるRABBIT小隊の様子を見て敵に回すと厄介そうだと評価を上げた。
「ひゅー、やるじゃん。さすが先生ってところ?」
(不自然なほどに順調…。予想以上だね。これほどなの?これが、大人の力…?)
「まさか本当に生活安全局の生徒だけで、SRTを制圧するとは……。」
「ひょえー。すげーじゃんか!ほんとにやるとはわたしも思ってなかったよ!まじビックリ!」
「”二人とも頑張ってくれたからね。”」
「いやいや実際すごいですよ。こいつは驚きモモンガだ。」
「桃の木だろう。ともかく、ヴァルキューレ警察学校を代表として、感謝いたします。」
ひとしきりの称賛の後カンナより生活安全局の生徒へ報酬についての連絡がなされる。
一喜一憂する生徒を後にして先生はRABBIT小隊の面々に近づいた。
会話とも呼べない言葉の応酬を聞けばはじめましての挨拶もそこそこに初対面の生徒からボロクソに言葉を叩き付けられている。
(先生めちゃくちゃ言われてるよ…。)
理不尽な扱いに少し可哀想になる。だが先生は気にした様子は無かった。
そこの辺りはさすが大人というべきか寛容さが見えた。マサミにはそれが無い。
気に入らなければ法に触れぬ範囲で叩きのめす。そういう癖があった。
学ぶべきところかもしれないと心に留めた。
「”あの子たちは、これからどうなるの?”」
「まずは取り調べです。普段ならその後、ヴァルキューレが処罰を決める流れなのですが……。ある程度連邦生徒会が関わりましたので、恐らくそうはなりませんね。防衛室長が処遇を決めることになるかと。」
「ふむ、そうなんだ…。それわたしも同席していいかな。ほら、尾刃ちゃんはわたしの立場知ってるでしょ?後で防衛室長に報告しなきゃなので。」
「いいだろう。問題は無い。先生もご希望でしたら取り調べの様子を見ることが可能かと思います。では、ひとまずお疲れ様でした。」
マサミはSRTの一年生とは話したことがない。
例の計画を知らない当事者はどんなものかと考えつつヴァルキューレ警察学校へ戻ることにした。
たったこれだけの文章を用意するのに一ヶ月半もの時間がかかった。
ストーリーの見直しとアルコール摂取の必須が故だ。
売文作成、その苦難の道の一端に触れた気がする。