不知火カヤの無二の相棒   作:備後のカッパ

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5.

数日がたった。カンナからの連絡を受けたマサミは公安局に来ていた。

自治区内の放浪者を追い出す作戦をすると聞かされていた。

 

「おお……?なんか、ずいぶん装備の質が上がったんでないかい。」

 

いつもとは違う装備を身につけ待機する生徒に大げさな声をあげた。

公安局に来て合流したところで生徒の装備がいつもとは違うことに気づいたのだった。

真新しい上等そうな装備を手にする生徒に顔を近づけていた。

 

「放浪者の追い出しって話だったけど……。気合入ってんじゃんか。どうしたのよ、これ?」

 

「……スポンサーからの支援だ。協力を、得られたからな。」

 

マサミの問いにカンナが苦い顔で答えた。

 

「ほお、スポンサー。ふーん……なるほどな。……尾刃ちゃんも頑張ってるねえ。」

 

カンナの表情になにかを察したマサミが困ったように眉を下げた。この間のカヤの圧力のせいだなと思った。

おそらく、カイザーなのだろう。カヤが利用しようとしている企業だ。

カイザーコーポレーション。

キヴォトスで多岐にわたる系列会社を有しているグループ企業である。

金融、建設、戦力派遣、流通。さまざまな分野のものがあった。カヤから聞いた知識だ。

公安局に武装の提供をしたのは、たぶんカイザーインダストリーだ。カイザー系列の軍産企業である。

カイザーインダストリーが公安局に武装の支援を行う。

それにより装備の差によって手が出せなかった子ウサギタウンにいる連中の追い出しができる。

そして再開発計画を進行することができる。

子ウサギタウンの再開発計画に噛んでいるのがカイザーコンストラクションという会社だ。

カイザーコンストラクションは再開発計画を進めることによって利益が得られる。

その利益によって公安局へ行った支援分を補填する。

同じ系列の会社ゆえ二社間における資金の移動は難しくない。

公安局への支援を補填して余りある利益のはずだった。

そういう内容の取引があったのだろう。

一般的な取引として知られるやり方ではある。しかし公的な職種において行われることは違法であった。

カンナはそのことを知っているはずである。

知っていてなお、その選択をする苦悩が感じられた。

 

「……カヤのせいだろ。尾刃ちゃんのやり方じゃないものな。」

 

「……。」

 

探るような視線にカンナは目を逸らした。

 

「やっぱりな。でも勘弁してやってくれ。あれでカヤは、……焦ってるんだ。」

 

「焦る?」

 

「そう。治安維持やら、色々ね。……まあ過ぎたことはいい。わたし達がやるべきは未来のことだ。これから子ウサギタウンの掃除だろ?行こうぜ。わたしはいつでもいけるよ。」

 

「ああ。……これより子ウサギタウン内における住所不定放浪者の取り締まりを行う!装備の確認は済んでいるな、行くぞ!」

 

カンナの号令で出発した。新しい装備を身につけた公安局の生徒が続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういや住所不定放浪者って言ってたけど、……それじゃーどこにいるかわかんなくね?」

 

「……集めた情報と地理的な要素から、拠点にしそうな場所はある程度絞り込める。もうすぐ着く。……あそこだ。」

 

道を歩きながら問いかけるマサミに答えながらカンナは先にある建物を指した。

見た目には特別なところはない建物だった。少し離れた場所で止まった。

すこし観察すれば確かに武装した放浪者が出入りしているのが見える。

放浪者たちの塒で間違いなさそうだった。

 

「お、いるいる……。ほんで、どうする?いきなり行くか?」

 

「時間をかけるつもりはない。このまま行く。今の装備であれば十分対抗できるはずだ。」

 

「突撃か?いいじゃん。実にわたし好みだ。」

 

マサミは背負っていた盾を左手に装備し、警棒を取り出した。

 

「だったら一番槍は任せてよ。せっかく助っ人で来たんだし。わたしが入って少ししたら来てくれ。それでどう?」

 

「……わかった、いいだろう。」

 

「いいねえ!よおし、突撃だ!アタック!」

 

興奮した様子のマサミが目的の建物に入っていった。

 

「……カンナ局長、あの人大丈夫なんですか?あんな装備だし、警棒なんて……。」

 

後ろにいた公安局の生徒が眉をひそめてカンナに話しかけた。マサミについてだった。

カンナが呼んだ警備局の生徒だと聞いてはいた。

やりとりを見ていると態度は社交的といえるが、悪くいえば軽薄だ。

作戦行動中という状況では親しみより不安が先に立ってしまう。

それに加え、見た限りマサミの装備は制式支給の盾と警棒、上下二連式の散弾銃のみだ。

放浪者が屯する場所に一人で乗り込むにしては頼りない装備だった。

今まで公安局が対抗しきれなかった放浪者の武装に対して不用心に思えた。

当たり前に意気揚々と一人で乗り込んでいったが、正気を疑う行動だった。

放浪者達をどうにかできるとは思えない。返り討ちにされ、すぐさま引き返してくる未来が容易に想像できる。

簡単に一人で行くのを許したカンナの判断も理解ができなかった。

声には出さないが他にも同じことを思う生徒はいた。あれはどうなんだ、と視線でカンナに問いかけていた。

 

「あいつはあれでいい。」

 

生徒たちに向かってカンナは言葉少なに答えた。

 

「え、でも……。」

 

「すぐにわかる。百聞は一見に如かず、だ。……お前たちが思っている以上に、あいつはやる。」

 

「……。」

 

あっさりと言い切るカンナの態度に公安局の生徒は黙した。

マサミはともかく、カンナには公安局の局長としての信頼があった。冗談を言う人間でもない。

それにマサミがいようといなかろうと結局やることは変わらない。任務を遂行するだけである。そう思うことにした。

納得したわけではないが、引き下がった。

生徒から視線を外し、カンナが携帯端末で時間を確認した。突入の命令を出そうとした時だった。

 

「よし、私達もそろそろ行く──」

 

建物の中から続けざまに銃声が起こり、次いで怒号が聞こえた。

 

「始まったか……。」

 

戦闘が始まったであろう音に建物へ目を向けると、中から窓を突き破りなにかが飛び出してきた。

放浪者だった。出てきた勢いのまま道を転がりそのまま動かなくなった。

気絶しているようだった。よく見ればひどく打ちのめされている。

突然の出来事に待機していた生徒たちに困惑が広がった。互いに顔を見合わせた。

呆気にとられる生徒にカンナが号令を発した。

 

「行くぞ!」

 

武装を構え、突入した。

建物に入ってすぐに銃声は止んだ。

 

「……音が止まったな。」

 

「や、やられたんじゃ?やっぱり無茶ですよ一人でなんて!」

 

「……。」

 

マサミを案じる声を無視し、さらに進むと開けた空間に出た。

広い部屋のようだった。

部屋を見回すと、何人もの放浪者たちが床に倒れ伏していた。全員が気を失っていた。

その中心、累々と横たわる放浪者の中にマサミがいた。

意識のない放浪者の胸ぐらをつかみ警棒を振るっていた。足元には盾が転がっている。

殴られる音のみがあった。

目に映る光景に生徒達が息をのんだ。わけがわからなかった。

マサミが建物に入ってから大した時間は経っていない。

異様な状況に目を丸くして固まっていた。

マサミの背中にカンナが声をかけた。

 

「……醍醐。」

 

呼びかけに気が付くと、手を止め振り返った。カンナを認識すると放浪者を無造作に投げ捨てた。

足元の放浪者を蹴り飛ばし、盾を拾った。気の抜けた表情で警棒を弄びながら近づいてきた。

 

「ああ尾刃ちゃん、来たかい。……準備運動で終わっちゃったよ。骨がないやつらだ。」

 

「ここはこれで全員か……?」

 

カンナが警戒しながら辺りを見回した。

襤褸のようになった放浪者達がうめいている。マサミはそれらを興味の失せた目で一瞥した。

 

「うん。ここはもうよさそうだ。……まだあるんだろ?もう次に行こう。」

 

「ああ。そうしよう。」

 

「まあ、これならわたしは引っ込んでた方がいいかもな。次からは控えにまわるよ。後輩ちゃんたちにも経験させなくっちゃあね。装備もいいやつに変えてきたんだし。」

 

「……そうだな。」

 

マサミの言葉に頷いた。

何人かの生徒に残るように言って、事後処理の指示を出した。

指示を出すカンナにマサミが呟いた。

 

「殺せばいいじゃないかよ、どうせこいつら生きてても何の役にも立たない。片付けも面倒だし、見せしめにすれば?」

 

「馬鹿が、我々は警官だぞ!そんな野蛮なまねができるか!」

 

カンナがマサミを睨み一喝した。いちいち言うことが極端なのだ。それに冗談なのか本気なのかの判断ができない。

良くも悪くも有言実行なところがある。止めるものがいなければ本当にやりかねない。

実際に犯罪者を殺しかけた現場を過去に見たことがある。

目が届く範囲では行動を牽制しておく必要があった。

 

「……い、いや冗談だよ。……そうさ、わたしたちは法に則って動かないとね。さっさとやって次に行こうよ。」

 

「はあ、少し待て……。」

 

溜息を一つ吐いた。

萎縮したような態度を見せるマサミに訝しげな視線を向けつつ携帯端末を取り出し地図を見た。

放浪者の拠点として見繕った場所はいくつかある。

次の目的地を目指し出発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく歩き、似たような建物に到着した。

カンナと公安局の生徒達が少しのやり取りの後入っていった。

マサミはその様子をつまらなそうに見ていた。

 

「控えにまわるって言ったけど・・・・・。まあ、さぼるわけにもいかんよな。」

 

そもそもが手伝うと言った手前、ただ後ろで腕を組んで見ているわけにもいかない。

カンナ達の後に続いた。一応は働かなくては、との思いがあった。

ゆっくりと建物に足を向けた。

 

「ヴァルキューレ公安局だ!動くな!」

 

中に入るとカンナの声が響いた。すぐ後に銃声が起こった。

 

「ん、始まったな。後輩ちゃんたちの活躍は、どうかな~?」

 

丁度カンナ達がいる部屋を覗いたところで銃撃戦が始まった。お互いが手にした銃を撃ちまくっていた。

しばらく情勢を眺めていた。装備の質が上がったおかげかヴァルキューレ側が優勢に見えた。

装備の質が同程度なら勝敗を分けるのは地力の差である。

そういう意味では当然の光景と言えた。満足げにマサミはそれを見ていた。

怒号と銃声が飛び交っていた。

ふとその光景に、闘争心が、疼いた。

盾と警棒に手が伸びた。

 

「別に、いいよね……?……手伝うって、言ってあるし?もう行ってもいいよね、いいよなあ!?」

 

警棒を抜き、飛び出した。

戦意をみなぎらせ敵陣に突き刺さっていった。

弾丸が飛び交う中を駆け、放浪者達に向かって声を張り上げた。

 

「かかってこいよ浪人者ども!さあ、やろうぜ!」

 

盾と警棒を構えたマサミが犬歯をむき出しにして獰猛に嗤った。

 

「な、なんだこいつは!一人で突っ込んできやがった!」

 

突撃してくるマサミに動揺しながらも放浪者が銃を向けた。

マサミは飛来する弾を盾で防ぎながら放浪者に接近し腕を警棒で叩き折った。

痛みに銃を落としたところに顎先を狙い再び警棒を振るった。意識を刈り取られた放浪者が頽れた。

 

「怯むな、こっちは銃を持ってるんだ!」

 

接近戦を仕掛けるマサミに放浪者達が銃口を向け引き金に指をかけた。それを視界に捉え、マサミが床を蹴った。

一瞬で放浪者達に近づき、盾で銃を撥ね上げると蹴りを放った。

蹴られた放浪者はその勢いのまま壁に叩きつけられ気絶した。

 

「なんだよおい、その程度か!上等な装備が泣いてるぞ!」

 

敵陣に一人突撃したマサミが咆えた。盾と警棒を振るい放浪者を次々と無力化していった。

 

「くそ!近寄らせるな!一撃でも喰らえばやられ──」

 

放浪者が仲間に警戒を促したが言い終わらないうちに飛んできた銃弾に沈黙した。

乱入してきたマサミに気を取られたがその間も公安局の生徒による銃撃がある。

どちらかに対応すればどちらかにやられる。

だんだんと放浪者達は数を減らしていった。

最後の一人を前にマサミが止まった。苦し紛れに銃を向けられたが、盾を投げ、弾き飛ばした。

 

「おまえさんが最後だな……。」

 

歩いて近づいていった。警棒をしまい、腰から散弾銃を抜いた。

 

「……戦うのは好きだ。わたしはな、相手を屈服させるのが好きなんだ……。圧倒的優位性を感じることに快感を覚える。あまり褒められたもんじゃないと自覚はあるが、性ってやつだろうな。いかんともしがたい。だからわたしは戦いが好きだ。」

 

そう言って近づきながら上下二連式散弾銃の銃身を折った。

腰の弾帯から銃弾を取り、緩んだ表情を見せながら余裕を持った動きで装填していた。

 

「きみたちはまあまあ楽しめた。及第点をやるよ。」

 

銃弾の装填を終え、銃身を戻す。顔面に銃口を向けると引き金を引いた。

放浪者が跳ねあがり、気を失った。気絶したのを見てからマサミが振り返り放浪者に質した。

 

「さて、こういう集団にはまとめ役ってのがいるはずだが……。頭はどいつだ?」

 

銃を向けるマサミの言葉に拘束された放浪者達が周囲を見回した。

ここにはいないようだった。

 

「……いないみたいだ。どっかに逃げたのか、あるいは最初からいなかったか。運のいいやつ。」

 

嘘をついているふうでも無いその様子に目的の存在がいないことを察した。

事後処理の指示を出していたカンナがマサミに言った。

 

「まあいい。……これから子ウサギ公園に向かう。そこで最後だ。」

 

「へえ、子ウサギ公園か。……面白い。」

 

たしかSRTの生徒がいる場所だ。今もデモと称して滞在しているはずである。

この間の先生の話では先日の大雨でかなりの被害を被ったと言っていた。

装備がほとんど浸水し、中古品を売ってまでして新しく装備を手に入れたこともカンナから聞いている。

装備を新調したヴァルキューレの生徒と、先日の大雨で装備の多くを失ったSRT。

面白そうな展開だと、口角を上げた。

そもそも特殊部隊ごときに警察官が劣る道理は無い。

強力な火器を有していようと所詮はそれだけだ。

警官には、あらゆる状況に対応する鍛え抜かれた能力がある。

ヨーイドン、で正面から撃ちあうしか能がない連中とは違う。

それに警官は一人一人が自分で考えて動くことができる。

指示がなければ動けない体系ではない。鉄の掟と仲間をも疑う猜疑心がある。組織としての強靭さがそこにはあった。マサミの私見である。

先を行く公安局の生徒達に続き、公園に向かって歩を進めた。




RABBIT小隊は嫌いだ。
最初に話の流れを考えたとき、RABBIT小隊のやつらは全員殺してやろうと思っていた。

しかしどうもそういう感じじゃなくなってきた。
そもそも彼女たちは殺されるようなことはしていないのだ。気に入らないにしてもやり過ぎである。
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