悪平等(ぼく)の箱庭アカデミア   作:小豆小路

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第一話「ヒーローだった」

 

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 およそ旧来の物理学・生物学では一切説明のつかない異常を縦横に振るう「超人」たちの出現によって、人間社会は一変した。伝染病のように世界各地に広まった“個性”という名のその異能は、旧時代に“特別(スペシャル)”や“異常(アブノーマル)”と呼ばれたものに勝るとも劣らない摩訶不思議な力を、今や総人口の八割にも及ぶ人間に与えている。

 

 “個性”の起源を辿ることは、数年が経ってからはすっかり諦められた。それほどまでに“個性”とは説明不能で、理解を拒む、文字通りの超常現象であった。

 

 当然ながら、この人類の進化ともいうべき現象によって地上に楽園が形成されるようなことはなかった。

 

 幻覚を見せる“個性”であれば詐欺を、足が速くなる“個性”であれば窃盗を、そして力が増す“個性”であれば殺人を。

 

 “個性”は保持者に全能感とそれに見合うだけの力を与え、結果として社会は荒れに荒れた。

 

 “個性”を用いて悪虐の限りを尽くす者は、“個性”を身につけた人類が増えるとともに着々と数を増やし続けた。

 

 いつしか、彼らはその行状から「(ヴィラン)」と呼ばれるようになる。

 

 “個性”とは不平等に分配された物理法則への反抗の権利であり、既存の法では彼らを裁くことさえ容易ではなかった。

 

 そこで、そんな(ヴィラン)たちを、こちらも“個性”を用いて鎮圧・捕縛する者たちが現れる。

 

 彼らは、旧時代に語られ夢見られた存在になぞらえて、「英雄(ヒーロー)」と呼ばれた。

 

*

 

 そして現在。雄英高校入学試験・実技試験会場。

 

 とある金髪の少年が、群立するビルを倒壊させながら進撃する巨大ロボットから、必死になって逃げていた。

 

「ヤバいヤバいヤバいヤバい、ありゃあ絶対にヤバい!」

 

 つい先ほど蹴り倒した人間より一回り大きい機械たちにも背を向け一目散に逃げる少年はそう叫んでいる。

 

「何がヤバいって、あんなにデカくて危険なのを()()()()()()()()()()()()()……」

 

「あはははは!!」

 

 彼の言葉を上書きするように、壊れた機械部品の散乱する廃ビル群に似つかわしくない高らかな笑い声が辺りに響いた。ビルの合間から機械の破片を撒き散らしながら飛び出してきたのは、黒紫の髪と凛とした瞳の少女であった。彼女の着ている制服らしきものは大胆に改造されており、その露出度はどのような学校も認めないレベルにまで達している。

 

 彼女は少年の姿を認めると、彼の前に躍り出た。少年は慌てて立ち止まる。

 

善吉(ぜんきち)ではないか! この試験、ヒーローとしての資質を見るにはどうかとも思ったが、機械相手というのも存外に楽しいものだぞ! 何せ力を加減しなくてよい!」

 

 言って、彼女は両手にそれぞれ握っていたロボットの金属製の頭部を()()()()()()

 

「それでどうしたのだ善吉、そんなに慌てて。まさか逃げているのか?」

 

 不穏なものを感じ取り逃げようとしても遅い。少女の掌は既に伸び、少年の頭頂部をがっしりと掴んでいる。少女はそのまま、少年が駆けていたのとは逆方向、ビルの上から顔を覗かせ巨大な履帯で地面を揺らすロボットの元へと走り始めた。

 

 頭を掴まれ引き摺られるというあんまりな扱いを受けている善吉と呼ばれた少年が怒鳴る。

 

「いたたたた、ちょッ、やめろッ! おいめだかちゃん、まさかとは思うが……」

 

 めだかと呼ばれた少女はニッと笑う。

 

「無論! ヒーローを目指す者として、あのような危険物、捨て置けるわけがない!」

 

「馬っ鹿お前、あの〈0〉ってマークが見えねえのか!? ありゃあプレゼントマイクが説明してたお邪魔ロボだ! つまりただのステージギミック、この試験じゃあ破壊するのも無意味なんだぞ!」

 

 善吉の必死の説得も、めだかはどこ吹く風のように受け流す。

 

「うむ! しかし、ヒーローたる者、どんな困難にも立ち向かうものだ! 意味のない善行であっても、益のない人助けであっても! この黒神めだか、見知らぬ他人の役に立つため生まれてきたのだから!」

 

「だーかーらー、それもプレゼントマイクが言ってただろ! 試験場にはプロヒーローが待機してて受験生のサポートに当たってる! 万に一つのことでもあれば雄英の名に傷が付くから、採点のためにどっかから見てる教師たちも目を光らせてるはず! つまり今困ってる人なんていねーんだよ! 強いて言うなら今お前に引き摺られてる俺だけだっての!」

 

 言われためだかは立ち止まる。ようやく解放されると思い、彼女の顔を見上げた善吉は、予想外にも鋭い眼光に射抜かれた。

 

「私とてもちろん先生方は信頼しているが、どんな人間にも不注意はある。あれだけ大きな機械だ、予想外の挙動もあるだろう。何より…」

 

 めだかは一度言葉を切り、懐から扇を取り出してバッ! と開いた。

 

「ヒーローとは助け合うものであり、だからこそ、先生方が見張っているということは駆けつけない理由にはならん! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()、なのに駆け出さないヒーローなどいてたまるか!」

 

 凛と言い放っためだかは、善吉を離して再び走り始めた。

 

「そして私は貴様も信頼しているぞ善吉! 貴様は私よりも、誰よりもヒーローなのだからな!」

 

 去り際に、笑いながらそう言い残して。

 

 見上げれば巨大機械はかなり近いが、運良く進行方向はこちらではない。

 

 試験時間はもう残り少ないはずだ。

 

 挙げ句の果てに、最後の数ポイント上乗せにちょうどよい機械が数体、まるで去っていっためだかを恐れていたかのように顔を出してきた。

 

「はぁーーーーーあ……」

 

 一つ長いため息を吐いた善吉は、ガシガシと頭を掻いた。

 

「んなこと言われたって行かねーぞ俺は、プロヒーローがいるなかでお前はともかく俺なんかがいてどうするって話だし、第一お前に追いつくためには少しでもポイントが欲しいんだよこちとら、そんな状況で無駄なことに時間を、ああもうクソッ!」

 

 少年は走り出す。いつものように、幼馴染を追いかけて。

 

*

 

 根本的に。人吉(ひとよし)善吉(ぜんきち)はヒーローになる気などなかった。

 

 そりゃあ稼ぎがいいと聞くプロヒーロー業に就ければ女手一つで自分を育ててくれた母親に楽をさせられるし、人並みに人助けへの関心はあった。中学時代は少し擦れたりもしたが、それだって(本人が当時それを「デビルかっけえ」と思っていた事実は横に置くとして)当時の生徒会長のために荒れ放題だった中学から幼馴染を守ってやろうと思ってのことだった。

 

 しかし、だからと言ってプロヒーローを目指そうということにはならないし、ましてや国内どころか世界的に見ても高難度・高倍率で知られる雄英の入学試験に挑戦しようということにはならない。

 

 “個性”こそあるが、別に戦闘向きではない「はずれ」のものだ。

 

 そもそも普通にして平凡なる自分にとって、プロヒーローになることはおろか、雄英の入試を突破することすら想像を絶するほど難しいということは、当の善吉自身がよく弁えていた。

 

 それでは何故、人吉善吉は場違いにも全国の中学生のうちから一握りのエリートを選別する場に立っているのか。

 

 それは(ひとえ)に彼の幼馴染、黒神めだかのせいであった。

 

 黒神(くろかみ)めだか。成績優秀、運動万能、頭脳明晰、容姿端麗、金剛不壊、天下布武、巨大怪獣、インテル入ってる。

 

 後半四つの称号は彼女の周囲の人間によって密やかに囁かれたものに過ぎないとしても、その存在の凄まじさは中学三年生にして彼女の名前が国内外のあらゆる記録を塗り替えたものとして記録されていることからもわかるだろう。加えて彼女は世界に冠たる黒神グループの生まれであり、その次代当主とも目される存在でもある。

 

 およそ考え得る全ての才と権力に恵まれ、いくらでも傲慢になれる力と立場を持つ彼女は、しかし「自分は見知らぬ他人の役に立つために生まれてきた」と公言して(はばか)らない。

 

 そんな彼女がヒーローを目指すきっかけとなったのはトップヒーロー、オールマイトの活躍を当時流行していた動画で見たことであった。当時弱冠6歳にして既にそこらの研究者よりも博識かつ聡明であった彼女は、しかし燃え盛り崩れ落ちるビルから現れたかのトップヒーローの豪快な救命活動を目にして年相応の少女のように目を輝かせた。

 

「みんなを笑顔にするって、()()()()()()なんだ!」

 

 その日から彼女はプロヒーローになるべく自らを鍛え始めた。

 

 その鍛錬は苛烈という他なく、朝晩の筋トレに始まり、直談判で成立させたプロヒーローの事務所への出稽古、重りをつけた状態での近隣の街のパトロール、そして一日のルーチンが終了したのちのフルマラソン走破。これに付き合おうとした幼き日の善吉少年が一日も経たず挫折したのはいうまでもない。子供どころか成人、いや並のプロヒーローでさえ音を上げるであろう過酷なトレーニングもめだかはこなし、遂には小学校入学まで通院と自分で設定した休日以外は一日も欠かさずこれを続けた。

 

 当時の主治医もこれには匙を投げた。当然だろう。

 

 幼児期にこれだけの負荷をかけ、人体が破損しないはずがない。恐らく何らかの“個性”であろうが、しかし尋常ならざる学習能力と耐久性以外に目立った異常はない。瞬間的に効果を発揮する身体増強系の“個性”であれば連用にはやはり幼児では耐え難い負荷があり、恒常強化、俗に言う異形系の“個性”であれば身体のどこかに変質が現れる。かといって、“個性”は一人一つという「超常」発生以来絶対視されてきたルールを疑うわけにもいかない。

 

 元より彼の勤める病院は、超人社会の尺度で測ってさえ頭抜けて大きな効果や影響を持つ“個性”を発現した子供を対象としたデータ採取や心身の健康維持を目的としたものだったが、様々な“個性”関連の症例を見てきた彼の目から見てさえ黒神めだかは異常(アブノーマル)だった。

 

 閑話休題。

 

 とにもかくにもめだかは天賦の才と情熱に恵まれ、それらを最大限に活用し自らを鍛えることを厭わなかった。彼女が「是非とも入学してほしい」と国内トップのヒーロー育成校たる雄英高校から逆指名(スカウト)されたのも、当然の流れであった。

 

 ところか彼女は推薦による入学を自ら蹴った。雄英高校校長・根津との面会を通じ、彼女の放った台詞はこうだ。

 

「私は元々雄英を受けるつもりでしたが、同胞となり良き仲間となる同級生たちと同等の条件で入学しないとは我慢なりません。かと言って、私の我儘のために本来ならば雄英に入学できていた仲間が減るということも同等に我慢ならない。そこで、私が公正なる入学試験を受験し、もし私が受かったのなら、私が入学することになるクラスの受け入れ枠を2()()増やす。この条件のもとであれば、雄英に入学しましょう」

 

 なぜ2つなのか訊いた根津校長に、めだかは不思議そうな顔をして返した。

 

「? 善吉も受かりますからね。私の我儘のため、という点は同じなのですから、当然でしょう?」

 

 結局、根負けした根津校長はこれを了承。めだかの雄英高校受験が決まった次の日、うきうきとした顔のめだかからこのことを聞いた善吉は絶句すると同時に、一つの覚悟を決め、一つの夢を再確認した。

 

*

 

「クソッ、何なんだあの機械!」

 

「いいから逃げろ、踏み潰されるぞ!」

 

「邪魔だ邪魔!」

 

 めだかを追い、脇道から飛び出た善吉を出迎えたのは、巨大機械から逃げる人の群れだった。

 

「ったく、なんだ……。結局徒労じゃねえか」

 

 そもそも彼らは自分と対等な立場の受験生であり、雄英のヒーロー科を受験する以上ある程度腕に覚えもあるはず。であれば、やはり他人の心配などせずに自分のポイントを稼いだ方がよかったのではないか?

 

 そんなことを考えながら路地の入り口に突っ立っていた善吉の耳に、聴き慣れた幼馴染の声が届いた。

 

「落ち着け皆の者! こいつは足が遅い、焦らず遠ざかれば安全だ!」

 

 見れば、どうやって登ったのか、少し遠くでめだかが電柱の上から逃げ惑う受験生たちへ呼びかけていた。

 

 自分も協力しよう。そう思い、踏み出そうとした瞬間、善吉の目の端にある光景が映った。群の最後尾を走っていたおかっぱの少女が、地面へ叩きつけられた拳の生み出した振動のために転び、起き上がれないでいる。

 

 めだかは気づいていないか、気づいていたとしてもすぐには手出しできない位置にいる。

 

 既に受験生の大部分は先へ逃げ、残っている者も脇目も振らず逃げている。

 

 そして、巨大機械が、足元を殴りつけんと拳を振り上げている。

 

「クソッ!」

 

 そこまで一目で認識して、善吉は駆け出した。走り始めてすぐに、巨大機械とは反対方向、受験生たちが逃げていった方から駆け寄ってくる緑髪の少年の姿が見える。

 

「おい、一緒に抱えるぞ!」

 

 叫んだ善吉に、少年は走りながら首を振った。

 

「僕が、壊す!」

 

 少年はそう叫ぶとそのまま善吉の脇を駆け抜け、道路のコンクリートを砕くほど強く踏み込んで大きく跳んだ。

 

「はあ!?」

 

 善吉は思わず彼の姿を振り仰ぐ。少年はそのまま大きく拳を振りかぶり、まさにその手を少女へ叩きつけようとしていた機械へ向かって叫んだ。

 

SMAAAAAASH!!

 

 直後、少年の拳が振り抜かれる。

 

 爆散。そう表現する他ないほどの大きな衝撃音を頭部から撒き散らしながら、ロボットはゆっくりと仰向けに倒れ、身体の各所を爆発させた。

 

「おいおいおいおい、マジか!」

 

 少女の元へ辿り着いた善吉は、転倒と爆発の風圧に煽られ飛んでくる拳大の瓦礫のうち少女と自分に当たりそうなものから蹴り退ける。空を見上げると、パンチ一つでビルよりも大きな機械の頭部を木っ端微塵にした当の少年は、そのまま急速に落下してきている。

 

「……アイツ着地できるんだろうな!?」

 

 今の一撃は間違いなく“個性”によるものだろう。それを使って少女を救出しなかったということは恐らく瞬間発動の増強系の“個性”。そうであれば着地の際にも使えば問題はないはずだが、当の緑髪の少年が何やら叫びながら落ちてきているところを見るに、余裕があるわけではないらしい。

 

「……こうなれば……」

 

 俺が受け止めるしかないか、と呟いたところで。

 

「それは私が受け持とう」

 

声と共に、先程の緑髪の少年と同じ、コンクリートを砕く勢いの踏み込みの音が善吉の横から聞こえた。一筋の黒紫が空中へ跳び上がり、落下してくる少年の体を空中で抱きとめると、その勢いのままビルの一つに突き刺さり、その一室へ転がり込んだ。

 

「見事だったぞ、ヒーロー」

 

『試験、終ーー了ッ!!』

 

*

 

「おやおや、随分と酷いことになってるねえ」

 

 足を捻ったらしい少女へ肩を貸した善吉が、ビルの中から緑髪の少年を抱えて出てきためだかとともに試験会場入り口へ歩いていると、正面から白衣を着た老婆が歩いてきた。

 

「ほれ、そこの緑の坊やを地面に寝かせてやりな。そっちの嬢ちゃんも足をやったみたいだね、こっちへ来るさね」

 

「あんたは?」

 

 善吉が訝しげな表情で問うと、老婆より先にめだかが反応した。

 

「善吉、こちらは雄英高校の養護教諭、リカバリーガール先生だ。雄英がこのような入試ができるのも全てこの方のお陰であって…」

 

「ほら早くしな、嬢ちゃんはともかく坊やは早く処置すべきだからねえ」

 

 老婆は横たえられ唸る緑髪の少年へ近づくと、その場にひざまづいた。不思議なことに、彼女の唇が口吻のように伸び始める。

 

「チユーーーーーー!」

 

 老婆は伸びた唇を少年の額のあたりにくっつけ、キスをした。すると、それまでどす黒い紫に変色していた少年の右腕が固定に用いられていためだかの学生服の合間からでもわかるほど健康的な色へ戻り、また捻じ曲がったままだった少年の両足首も本来あるべき形を取り戻した。

 

「さ、次はあんたさね」

 

 リカバリーガールはおかっぱの少女に近づくと、少年の変化に驚いたままの彼女のくるぶしにキスをした。少女は驚いた顔をして、恐る恐る右足を地面につき、二、三度その場で跳ぶ。

 

「わ、すごい! ありがと、おばあちゃん!」

 

 喜ぶおかっぱの少女へ、リカバリーガールは鞄から取り出したグミを一粒差し出した。

 

「はい、グミをお食べ。回復に使われるのはあんたのエネルギーだからね、今日一日は激しい運動をするんじゃないよ」

 

 呆気に取られてこれを見ていた善吉は、ここにきて一筋の冷や汗を流した。

 

「これ、流れからして……」

 

「あんたもさね。見たところ大きな怪我はしてないみたいだけど、それでもその腕の擦り傷も雑菌が入っちまえば大変だしね」

 

 そう言って善吉の手を外見に似合わないスピードで取り、そこへキスをしてグミを一粒押し付けると、リカバリーガールは今度はめだかの方を見た。

 

「……あんたは大丈夫みたいだねえ。ま、いいわ。緑の坊やとおかっぱ嬢ちゃんは後で外のテントへ行きな、大丈夫だとは思うけどそこでもう一度診てもらうんだよ」

 

 それきりでリカバリーガールは去っていき、近くにいた他の受験生の掌を取ってキスし始めた。

 

*

 

「……ねえねえ、君たちはなんて名前なの?」

 

 リカバリーガールの去った後。受験会場の入り口に着いたおかっぱの少女は、未だ手の甲をさすっていた善吉とプロヒーローの活躍を現場で見られたことに目を輝かせていた緑髪の少年、そしてめだかに問いかけた。

 

「俺は人吉善吉」

 

「黒神めだかだ」

 

「あっ、あの……。緑谷(みどりや)出久(いずく)です……」

 

「善吉くんにめだかちゃん、それに出久くんだね! 私は麗日(うららか)茶子(ちゃこ)! 善吉くん出久くん、今日はありがと! めだかちゃんも出久くんを助けてくれてありがと! 三人とも、一緒に合格してたら嬉しいね!」

 

 にぱっと笑ったお茶子に、出久は力無く苦笑した。

 

「……あはは……。それは、どうだろうね……」

 

「弱気なことを言うものではないぞ緑谷同級生。麗日同級生を助けんと一目散に飛び出した貴様の度量に大迫力の最後の一撃、どちらも見事なものだった」

 

 めだかが言う。

 

「先生方もそこを考慮してくださることだろう」

 

「そう、かなぁ。そうだといいなぁ……」

 

 出久はまだ納得し切れないようだった。事前説明によれば実技試験での得点はそのままエネミーを倒した数とのことだったので、余程エネミーの撃破数が悪かったのだろう。

 

「せめて、1ポイントでもあればなあ……」

 

 うなだれた彼は、ぼそりとそう呟いていた。そんな出久の様子に、善吉は見ていられないとばかりに首を振る。

 

「カッ! メソメソするもんじゃねぇぜ緑谷! 女の子一人の命を助けられたんだ、それだけで上々だろ! お前はあのとき、あの場の誰よりもヒーローだったって、少なくとも俺は保証できるぞ!」

 

「うむ、私もだ」

 

「あ、私も私も!」

 

 三人の賛同に、出久はよほど感じるものがあったようだった。目の端に光る物を溜めて、慌ててそれを拭き取る。

 

「三人、とも……。……うん、ありがとう!」

 

 四人はそれぞれに握手を交わし、別れた。

 

「それではな、緑谷同級生に麗日同級生! 今度は共に学ぶ同志として、また会おう!」

 

*

 

「なあ、めだかちゃん」

 

 受験が一通り終わり、試験を受けた学生たちが沈む夕日とともに帰路に着くころ。善吉は、なんとはなしに隣を歩くめだかに話しかけた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 めだかの視力なら充分に彼女が見えて、めだかの脚力なら充分に彼女のもとへ辿り着けて、めだかの腕力なら充分に彼女を救け出せたはず。そう言う意味の、責めるような眼差しを伴った問いかけに、めだかは力なく頬を掻いた。

 

「いや、それがな…。確かに麗日同級生の窮地は見たし、すぐに動き出しはしたのだ。しかし、そこで緑谷同級生に追い越されてな。思わず目で追ってしまっていた」

 

「目で追ってたって……。そんなことしてる場合じゃなかっただろ、さっきの状況は」

 

「それがどうにも目を離せなかったのだ。あれは、そう、あまりに見事な力の躍動で……」

 

 めだかは一度言葉を切り、少しの間しっくりくる言葉を探すかのように押し黙った。

 

()()()()()()()()()()()()()……。誰もが目を惹きつけられて止まない、そんな姿だった」

 

 今度は善吉が口を噤む番だった。言われてみれば確かに自分も出久の跳躍に一瞬とはいえ見惚れていたし、そのことで幼馴染を責める道理はないように思えた。それに、あの黒神めだかが他人を助けるための行いにただ手を抜くはずがない。そうである以上、めだかの言っていることは真実であるに違いないのだ。

 

(誰の技術、誰の力でも学習して超えられるめだかちゃんだからこそ、一度観察を始めたらすぐにはやめられなかった、ってとこか……。にしても、あのめだかちゃんに観察を()()()とはな。最初から思っちゃあいたが、あの緑谷出久ってヤツやっぱり只者じゃないな)

 

「カッ! まあそういうことなら仕方ねえな。にしても、()()()()()に時間取られて思ったよりポイント稼げなかったなあ……。緑谷もあの様子じゃ厳しそうだったし、上手くいかねえもんだな」

 

 善吉は残念そうに肩を竦める。隣をちらりと見ると、広げた扇の後ろで笑んでいるめだかの姿が目に入る。

 

「ああ、そのことなら安心しろ善吉。この試験、恐らく告知されていない判断基準がある。未来のヒーローを選ぶ場において、人助けが評価されないことなどあってたまるか」

 

「あん? そりゃどういう……。つーか見てたのかよお前!」

 

「無論だ。貴様の邪魔にならないよう控えていたがな」

 

「それ本当にやめろ、恥ずかしいだろうが!」

 

 などと、言い合いながら。黒神めだかと人吉善吉の雄英高校入試は無事に終了した。

 




出久はめだかがキャッチしたため気絶していません。

また、幼少期から目指すものが明確に定まっていためだかは箱庭学園入学時と比べ「普通の高校生とは呼べないレベル」から「普通のヒーロー志望生とは呼べないレベル」まで強化されています。そんな彼女の隣に立とうと頑張る善吉もまた然り。
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