元勇者、悪役令嬢になる   作:☆☆☆宮☆☆☆太郎

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コリアンダー公爵家をブルーム王国有数の貴族から、三家しかない王族の血を引く一族という設定に変更しました。


王立才華学園 入学編
一年の変化


☆☆☆

 

前世では学園生活というものには縁が無かった。

物心つく頃には父親に鍛えられて戦士としての技術と心構えを叩きこまれていた。

友達は、いなかった。

作る暇が無かった。似たようなもので言えば義勇軍の仲間たちが挙げられるかもしれないが…ハッキリ言って彼らとは年齢が離れすぎていて友達と言うよりも叔父さんや年の離れた兄という印象の方が強かった。

 

だからそう、実を言うとこの学園生活というものに胸躍らせていたのだ。

それこそ、今すぐにでも小躍りしたくなるほどに

俺は数日前から目の届く範囲に掛けていた制服を手に取る。

 

そして、慣れた手つきで制服に袖を通していく。

当然使用人の手は借りない。

元々勇者として自分の身の回りのことは自分でしていたため、着替え程度で使用人の手を借りることへの羞恥心があった。実際に着替えさせてもらった際に自分が着替えも出来ない子供に戻ったようで居心地が悪かった。

それに、折角の学校、制服くらい自分の力で着たい、という気持ちもあった。

一人で制服を着て姿見でその姿を確認する。可笑しなところが無いかというよりも学生になった自分を見て悦に浸りたかった。

そして、一通り自分の姿を見た後、これまた大切に飾っていた学校指定の鞄を肩にかける。

靴も今まで使っていたフラットシューズから、学園指定のローファーに履き替える。

 

忘れ物が無いか、鞄の中身もメモ帳片手に念入りに確認する。

この時、鞄に入っていた場合はチェックをつけることで見落としなどが無くなる。勇者時代から活用していたちょっとした生活の知恵だ。

全ての準備を完璧に終えてから再度、部屋に立てかけられている姿見で自身の格好を確認してみるが、おかしな所は無い。

ピッチピチの女学生だ。友達百人作ることも夢ではない。

 

女子生徒に囲まれてキャッキャウフフする自分、それを想像してだらしない顔をしそうになる。

だが、そこで少しだけ不安になる。俺は元男だし、そもそも戦場にいることが殆どでそこまで身嗜みを気にかけることも無かった。もしかしたら、女性の視点からは気になる点とかもあるかもしれない。

冷静になった俺は俺の専属使用人に意見を聞いてみる。

 

「(変な所はないか?)変な所は無いかしら?ノエル」

「はい、非常にお似合いですよ。お嬢様」

 

メイド服の上からでも分かるおっp……魔王の一撃も耐えるのではと思わせる張り、形、大きさ三拍子そろった立派な胸部装甲。

そして、愛嬌があり、ニコニコとした笑顔の映える均整の取れたフェイスを持つ俺の専属使用人ノエルは両手を合わせて、こちらをジッと見つめ、俺の姿を、学生姿を褒めてくれる。

良かった。

ノエルがそう言うなら問題は無いのだろう。

なんせノエルは俺の服の襟が曲がっていたり、ボタンがほつれたりしていただけで、違和感に気が付き、次の瞬間には違和感の原因を突き止め服の乱れを直してしまうのだ。

 

その手際の良さたるや針子もかくやという程だった。

一体どこでこれ程の技術を習得してくるのかと思い、問うてみたこともあったのだが。ノエルは「専属使用人は主人に努力をする姿は見せないんです」と笑ってはぐらかしてしまう。

 

「とはいえ、お嬢様、最近目元の隈が酷いですね。何かありましたか?」

 

訝しむような瞳。

先程両手を合わせてニコニコと微笑んでいたのが嘘なのではないかと思う程の変わりよう。

白を切りたい所なのだが、彼女の目がそうはさせないと訴えてくる。

 

この一年の付き合いでこういった時の彼女が騙せないことが分かった

 

苦情を言いに来た近所の家の住人が玄関の扉を勢いよく叩くように強く早く鳴り響く心臓に手を当てて必死に押さえつけようとする。

 

だが、胸部に手を当てた所でその奥にある心臓の鼓動は止められない。

 

もう観念するしかない。

正直に言えばこの話をすればノエルは一日中俺に張り付きかねないため絶対に言いたくは無かった。

だが、ここまでバレてしまえばどっちみちノエルは一日中張り付き、俺の抱えている悩みを暴きに来るだろう。

そんな俺の胸の内を知らないノエルは眉を寄せて追求してくる。

 

「お嬢様、何か悩みがあるのでしたら、私にも教えてください。

必ずやお役に立って見せます!」

「(そういう所が心配なんだが……)むしろ、そうやって、張り切ってしまうのが私は心配なのだけど……」

 

心の底からの懸念だった。

先程も言ったが、この話を聞いたノエルは一日中、俺に張り付いて来るだろう。

ただ、俺を守りたいという一心で。

 

一年前、正確には11か月前のノエルとは違い、今のノエルは俺に対する異常な執着を持っている。

 

この一年という月日、いや、この一年の間に起こったある事件がノエルを変えてしまった。

 

あらゆるものから子犬を守る母犬のように俺をを守ろうとするようになってしまった。

 

一応言って置くと俺自身は全く気にしていない

それなのに、ノエルは自身の責任だと己を責め続けている。

そして、それが悪い方向に働いているのだ。

起きている間はべったりと張り付き、何があっても俺を守ると意気込んでいる。

最初は、不謹慎だが少し可愛いと思ってみていたのだが、その執着はどんどんと悪化していって…正直もう、ストーカーと大差ないほどだ。

そんなノエルの心を傷つけないように出来るだけオブラートにそれこそ、中身が見えなくなるほどぼかして言ったつもりだったんだが、ノエルは膝から崩れ落ちて、泣き出してしまう。

 

「そ、そんな……お嬢様が夜も眠れぬほどに不安に苛まれているのに、私には何も出来ないんですか!?

 

そんな…………もし、そうなら、お嬢様が不快に思った人間、お嬢様に不利益を被らせようとする人間、お嬢様の悪口を言う人間、一人ずつ殺していく以外に私に出来ることなんてないじゃないですか!!」

「(冗談だよな?)…………冗談よね?」

 

目の光を失い、どこまでも続く底の見えない奈落のような瞳のノエルに念のため確認する。

だが、ノエルはその端正な顔立ちで、それはもう可愛らしく小首を傾げるだけ…。

その光景をノエルのことを知らない人が見れば、世間を知らない無垢な箱入り娘のようにも見えただろう。

 

だが、俺には分かった。

この一年の付き合いで分かってしまった。

 

ノエルは本気だ。

これは不味い、俺が一日中張り付かれるよりもよっぽど不味い。

 

下手をすれば貴族連中のうち1割と商人のうち何割か、あとは俺の悪口を言った平民達まで残らず屍に変わるだろう。

隠しておいて俺が被る不利益と民の命、俺の天秤は直ぐに民の命へと傾いた。

 

深い、深い、ため息。

…これはもう、隠せない。

 

「(分かった。話すよ)分かった。話す。話すわ。話すからそれはやめてちょうだい。」

「……分かりました。ただ、目障りな連中を消したくなったら何時でも言ってくださいね?」

 

肩を落とし、少しだけ落ち込むノエル。

何でちょっと残念そうなんだ?

もしかして、ノエルの方が俺の悪評を流したり、陥れようとする人間に腹を立ててたのか?

口実さえあれば、殺そうとするほどに?

 

只でさえ頭が痛くなってきていたのに、今のノエルの言葉が更に俺の頭痛に拍車をかけた。

誤用として知られている頭痛が痛いという言葉はこういう時のためにある言葉なのだと思ったほどだ。

ノエルはいつ爆発しても可笑しくない爆弾だ。それも俺の頭ごと破裂(ストレスで)させる恐れのある強力な爆弾。

ただ、それは今じゃない。きっとそうだ。

 

俺は未来への不安を忘れるために急いで話題を変える。

 

「(あ~、それよりも、俺の悩みを聞いて欲しいんだが)……そんなことよりも私の悩み、聞いてくれないかしら?」

 

俺はノエルに近づくと露骨な程に可愛い上目遣いを意識する。

童貞と言わず、異性であれば即殺出来る程の破壊力があると自負する完璧なポージング

手を胸の前で組み、相手の視点から見て自分が一番かわいく見える角度を計算した一撃

しかし、それもあくまで異性限定。

仮にこれが普通のメイドであれば、可愛いと思いつつもそのあざとさから多少の反感を買ってしまう。

ただ、何故かノエルに対しては効果覿面だったのだ。

前に試した時は鼻血を噴き出しながらひっくり返っていたくらいに

 

そして、当然今日も効果抜群で、ノエルは俺の肩を凄い勢いで掴み、目線を合わせると血走らせた目を、顔を近づけてくる。

この時、ノエルの息が荒く、飢えた肉食獣を連想してしまった。

 

「ええ!お任せくださいお嬢様の悩みはこのノエル!全身全霊でもって解決して見せましょう!!!」

「あ、ありがとう

そ、それで私の悩みなんだけど……」

「はい!何でしょう!」

 

俺は勇者として磨いた体術を使い巧みにノエルの拘束、と本人は思っていないだろうが……肩を掴む手を解き、距離をとる。

ノエルは一瞬名残惜しそうに手をこちらに向けてきていたが、自分の立場を分かっているからか、もしくは俺が嫌がっているのに気づいたためか、掴みかかってくることはなかった。

 

そして、十分距離が空いたところで、一度咳払いをすると、3ヶ月前から続く異変について話す。

 

「実は3ヶ月ほど前からなんだけど、花を摘みにいく時や就寝時にネットリとした視線を感じるのよ。

一応殺意や害意、悪意は感じなかったから。

暫くすれば収まると思っていたのだけど、全然収まらなくて……」

「そ、そんな…………。

誰ですか!!!その変態豚野郎は!!!!」

ノエルは怒りの余り、床を思い切り叩く。

それによって床に穴が空いているのだが…ノエルはそれが見えていないのか、全く意にも介さず更に言葉を続ける。

 

「申し訳ありません、お嬢様。

常に私が見守っていたにも関わらずその豚野郎を見つけ出し火炙りにすることが出来ませんでした。」

 

そう言い切ると、深く、深く、頭を下げるノエル。

そうノエルは土下座をしていた。

…床に穴を開けたことに対する謝罪であるのなら分からなくも無いのだが、覗き魔に気づけなかったことに関して言えばノエルが悪いわけでは決してない。

なんせ勇者である俺ですら、視線の主を捕捉することが出来ていない。

なら、戦い方を教えて一年と経たないノエルが責任を感じるのはお門違いも良い所だ。

只単に相手の方が何枚も上手なだけ

 

俺は土下座をするノエルに近づくと膝を折る。

 

「(頭をあげてくれ、これは君の失敗ではないんだ)頭を上げなさいノエル。

これは貴女の失態ではないわ

何より貴女だって四六時中私に侍っている訳ではないでしょう?」

「いえ、四六時中侍っていますよ?」

 

俺の言葉に従い頭を上げたノエル、だけど、頭を上げたノエルは直ぐに不思議そうに小首を傾げる。

俺の発したフォローの言葉に否と応える。

その瞬間生じた違和感。

それが何なのか、それについて考えるまでも無く、勇者だったころの直感が教えてくれる。

 

ノエルの気配を俺は感じていただろうか?

いや、少なくともこれがノエルの気配だと思えるものはトイレやベッドにいる際、終ぞ感じたことが無かった。

俺が感じた気配は一つ

 

そのことに気づいた瞬間、氷結魔法を受けた訳でもないのに体が、そして空気が凍った

実際に凍ったという訳ではない。俺の表情と思考が凍り付いたのだ。

 

……いや、だって

 

「……それって私が花を摘みに行っている時や就寝時もってこと?」

「はい!勿論です!」

 

後ろめたさは勿論、悪びれる様子も微塵も見せることなく無邪気に頷くノエル。

どう考えても犯罪行為だと思うのだが、それを言った所で彼女の心には響かないのだろう。

俺は何と言えばいいのか、言葉に窮する。

当然、そうしている間も時間は流れるもので、暴走列車の如く、或いはニトロを取り付けた自動車のように彼女は更に嬉しくない提案をしてくる。それも善意で

 

 

「あ!ただ、お嬢様がそんな危険な状況にいるのであれば、これからはより警備を厳重にし、広範囲を索敵しますね!」

「貴女、じゃないかしら?」

「え?」

 

本当に、心底何を言っているか分からないというようにノエルは首を傾げる。

それこそ、先ほど同様、可愛く首を傾げている。

だが、そうとしか考えられないんじゃないか?

 

先程も言ったが、少なくとも俺はノエルだ、といえる気配をトイレでもベッドでも感じていない。

そもそも、俺に捕捉されない程の隠遁の使い手が悪意もなく近づいているというのが、異常というか、心底可笑しい。

お前はそこで何をしている?案件なのだ。

 

暇を持て余した変態貴族や只のストーカーには絶対に出来ない所業。

それでいて、悪意は無く、だけどネットリした視線。

いやもう、これ…ダウトだろ。

 

俺のそんな疑念の視線にノエルは両手をバタバタと振り、無実を訴えてくる。

 

「ちょっと待ってください!私がお嬢様に心労をかけてるっていうんですか?

変態豚野郎だって言うんですか!

私はお嬢様に相応しい完全無欠最強メイドですよ!?

それに、お嬢様に心労をかけないように気配だって消しています」

 

それでか……。

正直、今のノエルは諜報、索敵に関してはアイリス・コリアンダー(今の俺)を超えている。

 

そのノエルが本気で姿を隠せば俺ですらどこにいるかなんて分からない、のかもしれない…

流石にそれ程の力量差があるか首を傾げてしまうところだが、今はいい。

気にしている暇がない。

 

それよりも今すぐにでも辞めさせたい。

ただ、辞めさせたいという気持ちはあるが、彼女にそれを言っても平行線になるだけなのは想像に難くない。

そしてそれは、俺が彼女を専属使用人から外そうが、使用人をクビにしようが変わらないだろう。

…それに、こうなってしまった一因は俺にもある。出来れば強硬手段は取りたくない

だからこそ、ここで話の落とし所を辞めさせることから別の内容へと替える。

 

「…確かに、貴女とは限らないわね。

だけど念のため、今夜は見守りをしないで貰っても良いかしら?

ほら、今日から学園生活だし、あの変な視線もなくなるかもしれないじゃない?」

「いえ……むしろ、相手はお嬢様が学園に来た後にその身を狙っている可能性があります。

お嬢様が一人になるのは非常に危険です。

 

……それと、お嬢様?もしかしてまだ私が犯人だと疑っていませんか?

もう一度言います。

私が…完璧最強メイドである私がお嬢様の言うような変態豚野郎に見えますか?」

 

俺の小細工をノエルは直ぐに看破する。それと同時に瞳からハイライトが消える。足元から徐々に人化が解けている。

不味い、完全にキレている。憤りを感じている。

勿論それで彼女が俺に対して危害を加えることは万に一つもない。

だが、何故無実の自分がこんな濡れ衣を着せられているんだと、その思いを犯人に向けるだろう。いや、それこそ、どれだけ被害が出ようが犯人を炙り出す、という気概がその雰囲気から見て取れた。

それにこのままでは彼女の身だって危ない。

 

俺は急いでノエルを宥める

 

「ノエル!?落ち着いて!!

あと、変態ストーカーのことを変態豚野郎って言ったのは私じゃなく、ノエルよ!!」

 

光を映さない瞳で俺のことを超至近距離でジッと見るノエルに対し俺は半ば叫びながら弁明し、距離をとる。

 

仕方ないとは言え、日に日にノエルがホラーと化してるな

一度こうなってしまえばノエルはもう止まらない。

絶対に今日、いかなる手を使ってでも犯人を捕まえる気だ。それこそ、自分の身すら顧みない可能性がある

それが嫌なら、俺が代替案を出すしかない。

 

「分かったわ。

なら、私と貴女が一緒の部屋で寝るというのはどう?

そうすれば今よりもずっと真犯人を見つけやすくなるでしょう?」

 

咄嗟に口から出て来たにしては割と悪くない提案だと思った。しかし、俺がどう思うかではなくノエルがどう思うかが重要なのだ。

 

俺はノエルの様子を伺う。納得してくれと切に願う。…これでだめなら実力行使しかない。

だが、彼女のことは傷つけたくない。この一年で俺の中でも彼女の存在は大きくなっているのだ

 

時が止まったように静まりかえる自室で固唾を飲み、ジッとノエルの答えを待つ

一応、人化が解けかかっていた下半身は再度人間の足に戻っている。

ただ、顔に関しては能面のように微動だにしない。

 

やはり、実力行使しか…俺は魔力を滾らせ、肉体を《強化》する。

 

しかし、《強化》したところでノエルが顔…どころか首まで真っ赤に染める。

そして、俺の先ほどの提案を思い切り拒否してくる。…拒否しているのか?

 

「そ、そんにゃ!んん!!そんな、恐れ多いです。

私とお嬢様が同じ部屋、同じベッドで一夜を共にするなんて……きゃ♡」

 

その姿には先ほどのようなホラーチックな様子はなりを潜め、只の恋する乙女のようだった。

それも、初恋の男子が初デートに赴く時の様な初々しい青春の風を感じるタイプの甘酸っぱいやつだ。

俺は身体強化を解くと同時に、体から力が抜けていくのを感じる。

さっきの緊迫感はどこに行ってしまったのか

 

「うん、別に同じベッドとは言って無いわ

 

 

 

……はぁ、聞いてないみたいね」

 

頬を紅潮させ、よだれを垂らし、鼻息を荒げながら天井を見上げるノエルの顔は控えめに言って美少女がしていい顔ではなかった。

……完全に自分の世界に入っている

 

この前聞いたときは身体的にも精神的にも全く問題ないと言っていたが、本当に大丈夫だろうか?

彼女がおこなった儀式の副作用を考えれば自我を無くしても何ら可笑しくなかった。

それを考えればむしろ彼女はノエルとしての記憶と人間としての体、そして精神を留めているだけ健康的だとすら言える。

認識的にも自分をノエルだと思っているようだし…

ただ、今この瞬間精神に負荷が掛かり、自我が消失しかけていても可笑しくはない。

 

「ねぇ?ノエル、本当に大丈夫?

苦しいとか、そう言うのはない?

精神的でも肉体的でも」

「へっ!?

……ええ、大丈夫ですよ。お嬢様のお陰で私は今も私を保っていられます。」

 

その言葉に俺は取りあえず安心する。

ただ、直ぐに顔を引き締める。

言わなければいけないことがある。

いや、意味のないことだ、俺の中の冷徹な部分がそう告げる。

もう何度もぶつけた酷い言葉

だけど、意味が無いと分かっていても、傷つけるだけだと分かっていてもやはり言わずにはいられなかった。

 

「そう、だけど、今更言っても意味が無いけれど、私は、貴女のやり方は反対よ。

何より、私のために貴女がそこまで体を張る必要なんて無かったわ。

……それも私の目の届かない場所で勝手にやって……」

 

意味の無い、最早嫌みでしかない言葉をノエルにぶつける。

気に病む必要なんて無いのに、勝手に気に病んで、取り返しのつかないことになっている、それがどうしても許せなかったのだ、悲しかったのだ。

折角、体を張ったのに台無しにされたと、そう思わされたのだ。

 

しかし、ノエルは淡く笑みを浮かべると首をゆるゆると振り、俺の頬を優しく撫でる。

 

「申し訳ありませんお嬢様。

でも私は後悔なんてしていません。

この力があれば、お嬢様を、自分の身を顧みずに他者を助けてしまうお嬢様をお守りすることが出来るのですから」

「貴女は……本当に馬鹿、馬鹿ね」

 

そう言うしかなかった。

何故なら、もうノエルが人に戻ることは出来ないからだ。

賢者の魔法でも俺の持つ魂闘術の知識を総動員しても絶対に不可能。

 

仮にノエルが自我を失うことになったとしても俺にしてやれることはない。

今このとき精神を蝕まれていても何もしてやることは出来ない。

 

俺は俺の頬を撫でるノエルの手を両手でそっと包む。

何もしてやることは出来ないけれど、せめて最後まで傍にいてやりたかったのだ。

 

ただ、俺がノエルの両手を握ってからそれ程時間が経たずに誰かが俺の部屋の扉をノックする。

 

「何してるんですか~、お嬢様~ノエルちゃん~。学校遅刻しちゃいますよ~?」

「それじゃあ、行きましょうか。お嬢様」

「ええ、そうね。」

 

外からメリアの声が聞こえてくる。

私とノエルは学校に遅刻しないために、部屋を出て、外にある馬車まで向かう。

 

「荷物は積んでいるわね?ノエル」

「ええ、既に」

「ほんと~に~、ノエルちゃん立派になったよね~」

 

「ありがとうございます。これもメリア先輩のお陰です」

 

馬車に乗り込むノエルと私に手を振ってくるメリアに私たちは軽く手を振り替えす

そして、馬車は動き出す。

まだ見ぬ学園へと向かって。

 

「お嬢様、楽しみですか?」

「ふん、どこも同じよ。屋敷も学園もね。ノエルはどうなの?」

「私も変わりません。お嬢様がいる場所が私のいる場所なので」

「そう」

「ただ、お嬢さまがどのような交友関係を築いていくのか、それは気になります」

 

「そう、それは、確かに私も少し楽しみね」

 

俺は本心からそう同意した。

 

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