☆☆☆
私には物心ついた頃から仲の良かった友達がいた。
名前は光雪蘭
笑顔が素敵で周りをよく見ている優しい子だ。
私と光雪蘭……蘭ちゃんはいつも一緒にいた。
彼女は私にとって食事と一緒で無くてならないものだった。
酸素……とは少し違う。
目に見えなくて普段はあまり意識しない、感謝の念を抱きづらいものではなかった。
少なくとも、私は常に彼女の存在を意識していたし、彼女と一緒に居られることに感謝していた。
だから、彼女の力になれるように努力した。
ただ、中には幼さ故の短慮で空回りしてしまっていたこともあった。
例えば、砂遊びが好きな蘭ちゃんのためにいつも一人で砂場を占領する男を追い払った時の仕打ちは良くなかったかもしれない。
何故なら作った泥団子を占領している男に投げた時、蘭ちゃんが少し引いていたのだ。
だけど、幼さ故の短慮が功を奏したこともある。
特に変顔大会は蘭ちゃんに凄い受けた。
小学生の頃も話題に上がることがあったし、何なら落ち込んでいるときは偶に披露することもあった。
親は私の変顔にいい顔をしなかったが、それでも私が胸を張って特技だと言える事の1つには変顔があった。
私にとって唯一無二の掛け替えのない存在である蘭ちゃんを笑顔に出来ることが何よりも誇らしかった。
それに彼女があまりにも大笑いするものだから、一時期は彼女の好みは面白い人だと勘違いをして、有名なお笑い番組を録画して必死にお笑いの勉強をしていた。
ただ、その勘違いは砂場でお城を作っている時、私が蘭ちゃんにとある話題を振ったことで正されることになった。
「蘭ちゃんはなんでよくお城を作るの?」
「えっ!」
特段意味なんてない、ふとした疑問だったのだけれど彼女にとっては非常に重要な事柄だったらしく、頬を赤らめしどろもどろになる。
それでも、彼女は消え入りそうな声で私にだけ教えてくれた。
「えっとね……実は私、お姫様に憧れてるの
お姫様にはね、王子様が迎えに来てくれるんだって」
二人だけの秘密だよ。
彼女はそう言うと口元に人差し指を持っていき、静かに微笑んだ。
二人だけの秘密。
とっても甘美な響き
その言葉を聞いた瞬間、全身に電流が走り脳に直接生クリームを突っ込まれたような多幸感を覚える。
それに静かに微笑む彼女も美しかった。
子供ながらに彼女を貪り尽くしたいと思った。
その思いは私の中に芽生えつつあった理性が必死に押さえてくれたが、あの時のことは今でも鮮明に覚えている。
いや、鮮明に覚えているどころか、良く夢に見て下着を濡らしてしまっていることも珍しくない。
ああ、この言い方だとまるで私が幼い頃の蘭ちゃんに惚れているみたいだ。
一応補足を入れるのであれば、当然、中学に上がった彼女の魅力はあの頃から磨かれより一層輝いている。
それでも、あの出来事は私にとって1つのターニングポイントであり、深く心に残っている、と言う話だ。
いい話でしょ?
にしても、彼女の可愛さは留まる所を知らない。
今の彼女は魅力的に過ぎるのだ。そのため、私は学校にいく際に下着を十枚は持参しなくてはいけない。まぁ、彼女と過ごせる日々を考えれば、それも苦では無いんだけど。
ああ、本題から逸れてしまった。
今は蘭ちゃんと私の馴れ初めについて話しているんだった。
あれ?どこまで話したか…………そう、そうだ蘭ちゃんがお姫様に憧れているって話までだった。
それで、彼女が王子とやらを好きだといった後私は彼女の言う王子は具体的にどういう者かを問うた。
すると
「……えっとね。王子様はね。らんのピンチにいつも駆けつけてくれて、強くて、かっこよくて、優しくて、えっと…………後、とても頭が良いの!」
……何という完璧超人。
流石の私もこれには唖然とするほか無かった。
いや……彼女の隣に立つ者だ。その位のスペックはあって当然。
私はこの日、自身が目指す頂の高さを知ることとなった。
知ることが出来た。
それとお姫様に憧れていると言いながら、偶にやるお姫様ごっこで彼女がお姫様をやらない理由も分かった。
お姫様ごっこの王子様は当然だが同年代の人間がやる。
子供っぽくて賢くなく、強くも無い。
実際に子供なのだから仕方が無いが、彼女を苦難から助け出すのは到底不可能。となると、そんな人間の相手をするくらいなら下働きの役に徹した方が良いという考えるのも自然だろう。
私は彼女には悟られない様に自信の拳を固く握った。結婚できる年までには彼女に相応しい人間にならなくては
それからは鍛錬の日々だった。初めは速力。彼女がピンチの時、直ぐに駆けつけられるように足の速さを磨いた。
結果、幼稚園にしてはそこそこ速い程度にはなった。
そして迎えた幼稚園最後の運動会、私は蘭ちゃんに自身の能力を出来るだけ良く見せるために
母にはバレてこっぴどく怒られたし、祖母には筋が良いと喜ばれたが……。
そして、小学生。
私はコミュニケーション能力を磨いた。
いや、王子様の定義の中には入っていなかったはずなのだが彼女がやたらと私とクラスメイトの仲を取り持とうとするので一応はクラスメイトに寄り添ってみたのだ。
正直に言えば、私にとって他人とはジロジロと人のことを不躾に見てくる不審者でしかなく、理由さえあれば排除しても良いとさえ思っていたのだが、どうやらそうもいかないらしい。
特にそれが身にしみたのは小学生になった頃、私と彼女だけの秘密を侵した愚物が現われた。名前はとうに忘れたが、非常に不愉快だったのを覚えている。
特に「茜ちゃんの方がお姫様っぽい~」と言ったと知ったときは思わず蘭ちゃんの目の届かない場所で殴ってしまった。
王子様を目指す私と誰よりもお姫様である蘭ちゃんへの侮辱。
私の暴力はどこからどう見ても正当なものであったが、大多数の人間は暴力を振るった理由よりも暴力というものを嫌悪するようで私は親を呼ばれ、相手側に無理矢理頭を下げさせられた。
蘭ちゃんは遠回しにそのことを私に教えてくれていたのだ。
それからは表ではできる限りいい顔をすることを心がけた。
本当なら私と蘭ちゃん以外の人間なんていなくなったって良い。
だけど、世界中にいる人間全員を殺して回っていたら、私と蘭ちゃんが穏やかに暮らせる日はずっと先になってしまう。
この時の私は直ぐにその考えに行き着き思いとどまることが出来た。
その後も不愉快な人間は時々現れたが、私は私の中にある殺意をグッと抑え、笑顔を振りまいた。
私に不躾な態度を取る男も、ありもしない憧憬を押しつける女も、まるで聖女を見るように勝手に見取れる愚かな大人も磨いたコミュニケーション能力で適当にあしらってきた。
そうして、私は蘭ちゃんとの平穏な日常を過ごしながら、小学校を卒業した。
……ここからだ。
曲がりなりにも私と蘭ちゃんは幸せに過ごしていた私と蘭ちゃんの生活は中学に上がり、狂いだした。
☆☆☆
中学生に上がった蘭ちゃんは一本の恋愛シミュレーションゲームにはまった。
名前は……何だったか?
トゥルー…………まぁ良い。
経緯を聞いたところ、どうやらお義姉様が蘭ちゃんにプレゼントしたゲームだそうだ。
それは良い。
ゲームを嗜むのも別に構わない。
それが恋愛シミュレーションゲームであったとしても……まぁ、いい。
問題は蘭ちゃんが私と二人っきりで遊ぶときもゲームをしたいと言い出したり、折角、おしゃべりしているのにゲームの話ばかりするのだ。
あんな、決められたことを永遠と話しているだけの機械の何が良いんだ!!
私はあいつらとは違って触れあえるし、酸いも甘いも分かち合える。あんな機械なんかより絶対いい。
いや、でも事実として蘭ちゃんの天秤はあのゲームのキャラクター達に傾きはじめていた。
(どうすれば良い?
どうすれば良いんだ。)
私は頭を抱えて悩みに悩んだ。
蘭ちゃんの心を完全に奪われる恐怖と心の奥底から湧き上がる嫉妬で1週間はまともに睡眠を取ることが出来なかった。
だが、そんな私に天啓が降りてきた。
私の魅力があのイラスト共よりも劣っているというのなら自身の魅力を今より磨けば良いだけの話だ。
この際だ、とても、とても、それこそ、胸が張り裂けそうな程悲しいけれど、蘭ちゃんから一旦距離をおこう。
そうすれば、蘭ちゃんも私が如何に蘭ちゃんにとって大きな存在であったか、再認識することだろう。
そうして、私は蘭ちゃんから距離を取り、先ずはファッションと剣道を習った。
昔に聞いた王子様の定義にもとっても強いというのがあった。
恐らく剣術を磨くのは間違っていないだろう。
また、ゲームのキャラクターには共通点と呼べるものが殆ど無かったが、『○○君はカッコいい』『○○ちゃんは可愛い』と言っていたので恐らく全員ファッションセンスが良いのだろう。
だからこそ、取りあえず色んな服を着て蘭ちゃんが気に入る服を探った。
今までは全然気にしたことが無かったけど、蘭ちゃんに少しでもカッコいいとか可愛いと思って欲しくて画角とかも気にして写真を取った。
だけど……
『似合ってる。良いね!』や『うわぁ、私といたときはあんまりそう言う服を着てるの見たこと無かったけど、やっぱりあーちゃんは何でも似合うよね!』
とかだった。
……ゲームのキャラクターの話をするときとは全然違う。
この前、偶々あったときだって
『ケリア様はね王太子としていつも気丈に振る舞っているけど実は血を見るのが怖かったり、誰かに裏切られるのを恐れてるんだよ
理由はケリア様のお母様サルビア様が幼い頃に暗殺されていたからなんだ。
それからケリア様は弱味を見せないように、王太子として立派に振る舞っているけど、ふとした瞬間ポロッとケリア様の本心が垣間見える瞬間があってそれが良いんだよね!
仲良くなるほどに距離を取ってくる攻略対象って感じで!
いや、本当に良い。
それなのに、時々一緒に出かけられたかと思うと、お洒落して来ちゃんだよ!服も、いつもとは違うちょっとゆるふわ系の服を着てくるのが良いんだよ!』
という感じに矢継ぎ早に褒め言葉が飛び出していた。
褒められたことが嬉しくないわけじゃない。だけど、気が狂いそうな程に悔しい。
ゲームキャラクターに劣っていると思うと頭が可笑しくなりそうだ。
私はこの気持ちをどこにぶつければ良い?
当然だけど、蘭ちゃんにぶつけることはあり得ない。
そんなのは只の八つ当たりだ。
蘭ちゃんは優しくて可愛い。そんな存在に八つ当たりなど出来るはずが無い。
じゃあ、他の人間に対して?
いや、それも駄目だ。人間としてどうかしている。私は蘭ちゃんの王子様となる人間。なら王子様の名に恥じない生き方をしなくてはいけない。
蘭ちゃんと添い遂げる為にも、胸を張れる生き方をしなくてはいけない。
……こうやって考えられるようになったのは蘭ちゃんと離れて周りに目を向けることが出来るようになったが故かもしれない。
蘭ちゃんにべったりとくっついていた頃は蘭ちゃんのあまりの神々しさに目が眩み周りをあまり見れていなかった。
そうして、色々考えた結果
私は悔しさを剣道にぶつけた。
その甲斐あってか只でさえ人よりも物覚えの良かった私はデビュー戦から及第点の活躍が出来た。
本当は蘭ちゃんにも来て欲しくて呼んではみたけど、蘭ちゃんは今もまだあのイラスト男共に心を奪われているのか大会には来てくれなかった。
試合終わり、胴着を脱ぎ私服に着替えているとマネージャーの女の子がスポーツドリンクを差し出してくる。
「茜先輩!すっごいかっこよかったです!」
何故だか頬を赤らめている。熱いのだろうか?
黒髪につり目が特徴の女の子
確か、一年の赤熊さん……
何故かよく分からないが私のことを慕ってくれている。
「ありがとう。これ貰っても良いの?」
私はスポーツドリンクを指さしながら首を傾げる。
すると、赤熊さんはぶんぶんと取れてしまうのでは無いかと言うほど勢い良く首を縦に振る。
「も、勿論です!そのために持ってきたんです!」
「そっか、ありがとう」
やっぱり試合終わりのスポーツドリンクは美味しい。
砂漠に水を溢したときのように吸い込まれるようにいくらでも飲めてしまう。
「先輩……やっぱり昔からのお友達、来てくれなかったの辛いんですか?」
「え、なんで……」
ずきりと胸が痛む。無意識のうちに半分ほど無くなっているスポーツドリンクをグシャリと握り潰す。
貼り付けていた笑みが引きつるのが分かった。
図星を突かれたことと、何故お前なんかにそんなことを言われなければいけないという思いが綯い交ぜになる。
私と蘭ちゃんの事情に外野が口を挟むなと胸ぐらを掴み、ロッカーに押しつけながら叫んでやりたかった。
その思いを無理矢理押し込んで、言葉を絞り出す。
「……まぁ、蘭ちゃんは忙しいから、さ」
「……やっぱり、そうなんですね。」
赤熊さんは突然私に抱きつく。
思わず、抱き留めてしまったけど、一体どういうつもりだろうか?
私は彼女の意図が分からず、目を白黒させていると、彼女は思いのほか大きい声を出す。
「私!
……先輩の幼馴染にはなれないけど、辛いときは言ってください。
傍にいるので、先輩が辛くなくなるまでずっと!傍にいるので!!」
傍にいる…か…
そういえば、蘭ちゃんと離れて生活するようになってから特定の誰かと一緒にいること自体無くなったなとそんな何気ない思考が脳裏を過った。
別にそれがどうという訳じゃない。
彼女が言うように私にとって蘭ちゃんとは唯一無二にして世界で一番可愛い女の子。
蘭ちゃんを忘れて他の人を好きになることなんて出来ない。
私は蘭ちゃんに彼氏が出来ようが旦那が出来ようが一生蘭ちゃんを想い続けるだろう。
だけど、そうだな
「じゃあ、さ
私の友達になってくれないかな?今まで友達出来たことなくて」
私がそういうと赤熊さんは顔を上げ、私の顔を見上げてくる。
そして、只でさえ大きいつり気味の目を目一杯開くとポロポロと涙をこぼす。
涙を流すということはそれだけ彼女の中で何かしらの感情が渦を巻いているのだろう。
だけど私にはその涙がどういったものか、何を意味するのか、詮索する気も気に掛ける気もなかった。
私に対する哀れみか、それとも私の言葉の裏にある意味を読み取ったのか、はたまたそれ以外か……
どうでも良かった。
究極の所、私は彼女に興味が無かった。
今、友達になって欲しいと言ったことも只の気まぐれでしかない。
傍から見れば私は酷い人間なのかもしれない。
結局のところ蘭ちゃんのことしか頭になくて、それ以外は二の次なのだから。
だけど、こんなひどい人間と友達になってくれるというなら、蘭ちゃんとその家族の次くらいには大切にしたいと思った。
「…はい、はいっ喜んで」
…………この時の彼女がどういう表情をしていたかは、私の胸の内にしまって墓までもっていこう。
だからそう、言える事があるとしたら1つだけ、私にもこうして友人といえる人間が出来たのだ。
蘭ちゃんがいない学校生活なんて灰色である、ということに変わりはない。それでもこうして彼女が私の友達になり、私の心を支えてくれていたのは揺るぎない事実だろう。
特にファッションを選ぶときは彼女や彼女の友人である花鐘さんや郡さんとは色々と最近の流行というものについて聞いたり、一緒に買い物に行ったりもした。
私には蘭ちゃんを振り向かせるという目標があったから、純粋に楽しめていたかわからないが、それでも彼女たちには感謝していた。
そんなある日、何気ない会話の中、赤熊さんの友人である花鐘さんは私に蘭ちゃんとの関係について聞いてきた。
「そういえば先輩は幼馴染ちゃんのこと今でも好きなんですか?」
「それは勿論」
私は一も二もなく頷く。
未来永劫変わることがない。言わば真理だ。
「ふ~ん、でも幼馴染さんは乙女ゲームにご執心みたいじゃないですか?
この前も一人で攻略サイト見てましたよ?」
「それは…私の魅力が足りないから…」
「そうですかね~。私にはそうは思えませんよ。
少なくとも、うちの学校で一番の美人と言われればみんな茜先輩の名前を出しますよ?」
「でも、私にとっては蘭ちゃんに認められることが重要だから」
これだけは勘違いされないようにきっぱりと言っておく。
すると、花鐘さんも納得したのか、一度頷くと、新たに質問をしてくる。
「じゃ~、先輩の想い人ちゃんが、乙女ゲームにご執心なのはどう思ってるんですか~?」
「それはさっきも言ったけど私の「そういうことが聞きたいんじゃないです」」
「先輩は~、乙女ゲームに関してはどう思ってるんですか~」
乙女ゲームをどう思っている、か
そういえば乙女ゲームに関しては敢えて考えないようにしていた部分もあるし、どう思っていたかなんて考えたことも無かったな。
だけど
「憎い相手、かな」
自然とその言葉が口をついた。花鐘さんは目を細めると、私の言葉の意味について追求してくる。
「憎い相手っていうのは?」
今まで乙女ゲームについてなんて考えたことが無い。そんなことを聞かれても具体的な言葉なんて出てこない。その筈なのに私の口からは自然と乙女ゲームへの不平不満が飛び出してくる。
「決められたことしか言わないし、触れもしない。
ありもしない幻想なのに私から大切な人を奪っていった。
はっきり言って存在自体が許せないし、ありえない、ありえちゃいけないって思ってる」
乙女ゲームが好きな人には悪いと思うけど…でも、もっと現実でその人のことを好いてくれている人を見てほしい。
私はお茶を濁すように最後にそんな言葉を付け足した。いや、本当は最後の言葉こそ私にとって本音だった。
本当は最後の言葉を蘭ちゃんに伝えたかったのだ。ずっと前から……
そんな私の言葉に対し、花鐘さんは
「…少しブーメラン刺さってると思いますけどね」
小さくそんなことを言っていた。
ぶーめらん?よくわからない言葉に私は首を傾げてしまう。しかし、花鐘さんは「いえ、こちらの話です~」そういうと、この話を打ち切ってしまった。
花鐘さん…確か、赤熊さんと特に仲の良かった子だ。
私と蘭ちゃんの様に幼い頃からの幼馴染、だったはず…もしかして私が蘭ちゃんに抱いているような好意を赤熊さんに抱いているのだろうか?
前に聞いたときは友達として大切に想っている、と言っていたが…
仮にそうであるのなら、ブーメランが何か重要な意味を持っているのだろう。
しかし、いくら考えてもブーメランという言葉がどういう意味を持っているのか全く分からない。
そのままの意味と言うことはないだろうが……
このときの私は確かに少し首を傾げていた。
ただ、心の底から興味を持つことが出来ず、直ぐに忘れてしまうのだった。
それから月日は流れる。
相も変わらず蘭ちゃんは乙女ゲームに夢中だ。
少し前はいくらはまっているとはいえ、ゲームなんだし、少ししたら飽きて私の元に戻ってきてくれるんじゃ無いかって思っていたんだけど、今の所その気配は無かった。
「はぁ」
「……やっぱり茜先輩。光雪先輩のことが大切なんですか?」
「そりゃね」
屋上で一緒にご飯を食べている赤熊さんが当たり前のことを聞いてくる。
偶に似たようなことを聞かれるため、私は少ししつこく感じてしまい。ついつい素っ気ない言葉を使ってしまう。
それに対し、赤熊さんは箸を置くと私の目を見据えてくる。
「先輩はもう光雪先輩のことを忘れて幸せになっても良いと思います。
だって、あの人茜先輩がどれだけ誘っても1回だって来たこと無いじゃないですか
なら、別の人を……「はぁ、勝手でしょ?」え……」
「そんなの私の勝手でしょ
ちょっとしつこいよ
人の恋路に首突っ込んで何がしたいの?
私の心を、私に一方的な選択を強いないでよ」
私はそれだけ言うと、お弁当箱をしまいその場を後にする。
彼女とは良い関係を築けていると思っていたのだが、どうやらそれは私の勘違いだったみたいだ。
私はその日それ以上彼女と口を聞くことはなかった。
剣道部も休みだった、というのも一因としてあったが、兎に角その時私は彼女と話をしたくなかった。
そして放課後特に用事も無かったため、誰もいない教室でスマートフォンを使い美味しいお菓子屋さんをピックアップする。
真っ直ぐ帰るであろう彼女たちと顔を合わせたく無くて帰る時間をずらしたかったのと、兎に角ヤケ食いがしたかった。
美味しい物をお腹いっぱい食べて今日あった嫌なこと全部忘れたかった。
いや、彼女たちと過ごした楽しかった思い出も全部上書きしたかった。
私はケーキ屋へと足を運ぶ。好きな物を食べに行くのだ。その筈なのに何故だが足取りが重い。
なんでこんなに足取りが重いのか自分自身にも分からなかった。
そんなとき、丁度校門前で泣いている蘭ちゃんを見かけてしまった。
その瞬間、私の頭からは赤熊さん達のことなんて頭から消えて蘭ちゃんに駆け寄っていた。
「ど、どうしたの!蘭ちゃん」
「……いや、さっき蘭ちゃんの友達に……」
「友達!?もしかしてあの子達が蘭ちゃんに酷いこと言ったの!?」
あいつら!!!
友達と言われて私の頭には直ぐに赤熊達の顔が浮かぶ。
私に無駄口を叩くだけじゃ飽き足らず蘭ちゃんにもちょっかいを出すなんて!!!!
赤熊達への怒りが募り、今すぐにでもあいつらを殴りに行きたい衝動に駆られる。
だけど、それよりも今は蘭ちゃんに寄り添ってあげるのが先だ。
そう思い蘭ちゃんを抱きしめようと近づくけど、蘭ちゃんは私から距離を取る。
何故!どうして!そう叫びたくなる。理解が追いつかなくて理解したくなくて頭が混乱してしまう。もしかして、私が蘭ちゃんから距離を取ったことで彼女の心も私から離れてしまっているのだろうか?
今、この大切な状況で拒絶されるほどに私は彼女を傷つけてしまったのだろうか?
そう思っていると、蘭ちゃんが、突然彼女たちにフォローを入れはじめる。
「あ、あの!一応言っておくと、あーちゃんの友達は何も悪くないからね!
ただ、親切で色々教えてくれたの!」
親切で?彼女たちが一体あーちゃんに何を教えるというのだろうか?
そんな私の困惑を読み取ったように蘭ちゃんは口をもごもごさせ、暫くして意を決したように口を開ける。
「ごめん、ただ、あの子達にあーちゃんの気持ち聞いちゃった……」
私の気持ち?それはもしかして、私が蘭ちゃんを一人の女の子として好きと言うことだろうか?
今まで言うことが出来ずに……いや、蘭ちゃんに相応しくなってからと先延ばしにし続けた積もりに積もった私の想い。
だから、彼女は私から距離を取ったのか……
本当は私を恋の対象として認識してもらってから話したかった。
引かれてしまっただろうか?ずっと昔から、隣で笑い合っているときも自分をそんな不純な目でいていたのかと、糾弾されてしまうだろうか?
これで、完全に縁を絶たれたらどうしよう。
でも、
それでも
「そっか……。
蘭ちゃんごめんね。蘭ちゃんを傷つけたかった訳じゃないんだ。私自身蘭ちゃんとずっと友達でいたかったんだ……だけど、自分の気持ちには嘘、付けなくて……」
私に出来るのは正直に白状することだけだった。
そんな私に蘭ちゃんはいつも通り優しく寄り添ってくれた。
「ううん、良いの。
私もあーちゃんの気持ち見ないふりしてたんだと思う。本当はずっと前から分かってた」
その言葉に何故だか私の胸に針で刺されたようなチクリとした痛みが走る。
でも、今はそれよりも、答えを聞きたかった。
バレてしまったのなら、蘭ちゃんが私をどう思っているのか、今の私をどう思っているのか聞きたかった。私は蘭ちゃんに相応しい存在になれたのだろうか?
「それで、答え、聞かせて貰っても良いかな」
まともに蘭ちゃんの顔が見れない。
聞きたいという思いに嘘は無かったはずなのに、答えを求めるように言葉を紡いだ瞬間。
何故だか時間を巻き戻したいような衝動に駆られる。
答えなんて聞きたくない。今までのままでいいから蘭ちゃんと一緒に居たいと思う自分がいた。
だけど、その思いを私はこの後直ぐに撤回することになる。
「……大丈夫、だよ」
大丈夫。
私はその言葉を聞いた瞬間。体から力が抜けると共に、言いようのない高揚感が体から湧き上がってくる。
蘭ちゃんも私のこと好きだったんだ。私の片思いじゃ無かった。
今までどれだけ蘭ちゃんと笑い合っているときだって、悔しさを分かち合っている時だって、蘭ちゃんを喜ばせている時だって、拒絶されたらどうしようという不安が常に付きまとっていた。
特に蘭ちゃんは乙女ゲームをやってることから、普通に男性が恋愛対象で私みたいな人間は受け入れられないのでは、と不安で仕方が無かった。
もしかしたら、乙女ゲームが嫌いだったのは性別という覆しようのない不条理に対する憎しみもあったのかもしれない。
でも、今は全てがどうでも良い細事に思えてくる。
だって、今私は蘭ちゃんに受け入れられたのだから
長年抱えていた不安も、乙女ゲームへの嫉妬も全てが自身の中から消えていくのが分かる。
そう、全て細事だ。
「……そっか、良かった」
本当はもっと色々と言いたかったはずなのに、私の口から出た言葉は不思議とそれだけだった。
もう少しだけこの幸せなに気持ちに浸っていたいとそう思った。
「それじゃあ、私もう帰るね」
だけど、そんな私を置いて蘭ちゃんは先に帰ってしまう。
なんで?と思ったけど、私がそれを彼女に伝えるよりも早く、彼女はこの世からいなくなってしまった。
☆☆☆
蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい蘭ちゃんに会いたい
もうそれだけしか考えられなかった。
だから、私はお婆ちゃんの元を訪れた。
お母さんがお婆ちゃんにはあまり近づくなと言って距離おいているものだから、殆ど話したことは無かったけどそれでも私は知っていた。
「ねぇ、家は元々霊術を生業にする一族だったんだよね?」
「ケヒヒっ、そうだねぇ。
なんだい茜、お前さん霊術を習いたいのかい?」
くだらない問答なんてする気が無かった私はお婆ちゃんの話を無視する。
「霊術には死者と話す方法はあるの?」
「ああ、あるよ。とは言え、それはまだ転生していなかったらの話だね。
もし、転生した魂と会いたいんならうちの奥義を身につけるしか無い」
「奥義?」
「そう奥義だ。それさえ使えばお前は記憶を保持したまま転生することが出来る。それにお前が望めば会いたい人間の近くに転生することだって出来るだろうよ
まぁ、奥義を会得した人間はいないと言われてはいるがね」
「その奥義早く教えて!」
私はこの日からお婆ちゃんに師事した。
正直、元々物覚えが良く尚且つ霊術への高い適性があった私は直ぐに殆どの術を身につけた。
その頃になって、お婆ちゃんはくだらない説法を説きはじめた。
『いいかい茜。お前ほどの才能がないものであってもお前の周りにいるものもまた人間だ』
『茜、お前のように出来なくても、お前同様人は感情を発露させ念じることが出来る。』
『奥義を使うのはもう少し、霊術を磨いてからでも遅くはないだろう』
口うるさくて仕方が無かった。
何よりも蘭ちゃんが待っているのだ。
私は自信を持って奥義を発動できる程に熟達したあたりで自身の胸にナイフを突き刺し、奥義を使う。
待っててね蘭ちゃん。
「ああ、茜……あんたって子は……」
私の意識が途絶える瞬間、お婆ちゃんのそんな声が聞こえた気がしたけど知ったことでは無かった。
はい、感想欄で指摘してくれてる人もいましたが、実は二人はすれ違っていました。
勘の良いガキは…………………………好きだよ!!
それでは次回からは学園サイドを書いていこうと思います!