元勇者、悪役令嬢になる   作:☆☆☆宮☆☆☆太郎

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イレギュラーが多すぎる!!(フリージア視点)

☆☆☆

 

 

王立才華魔法学園。

ここは平民、貴族、王族、果ては他国の人間まで魔法の才あるものに対し広く門戸を開いている学園だ。

 

とはいえ、この学園への入学が簡単な訳ではない。

何故なら、魔法の才あるものは基本的に貴族に集中しており、平民には殆どいない。

いたとしても、直ぐに貴族に吸収されるため、平民に魔力持ちが生まれることは非常に少ない。

逆に魔力さえあれば貴族に召し抱えられる可能性が高く、その時点で勝ち組と言える。

因みに私は平民でありながら、かなりの量の魔力を持っている。

つまり、現在進行形の勝ち組である。

そして、これから更なる勝ち組になるため、乙女ゲービクトリーロードを駆け上がるのだ。

 

私は自身のデータベースから目下のライバルとなる人間の情報を引き出す。

先ず一人はアイリス・コリアンダー

 

この子ははっきり言って……弱い。

魔法も勉学もサロンでの立ち回りもてんで駄目。

ステータスを全てCランクまで上げていれば、完封できる。

それに、突っかかってはくるけど、実はこのルートの攻略対象であるケリア様、王太子ケリア・ブルームとは親戚以上の関係はないのだ。

物語中盤で分かるけど面識も殆ど無い。

 

なら、なんで突っかかってくるかというと只単純に平民であるフリージアが気に食わなくて突っかかっていたんだと…。

王太子ルートのライバルがこれで良いのかと思われるかもしれないけど、まぁゲームにはチュートリアル的存在が必要不可欠、彼女はプレイヤーのための犠牲になったのだ!

 

次にエピフィルム・カリカルパ

この子はアイリスとは違い強敵だ。

普通に全ステータスが高い上に性格が良い。

欠点は攻略対象であるセージ様の婚約者でありながら実際の所はそこまで深い関係ではないということ

俗に言う政略結婚だ。

だからこそ、つけいる隙はある。

だが、それはエピフィルムの病弱属性を取り除いた後!

彼女は生まれつき膨大な魔力を身に宿しており、その代わりにとても体が弱いのだ。

そして、セージ様はその体質を治すために躍起になっている。

だからこそ、ヒロインである私はエピフィルムの体質を改善させる必要がある。

やれやれ、セージを惚れさせつつ、ライバルヒロインまで助けなくちゃいけない……両方やらなきゃいけないってのが、ヒロインの辛い所だぜ

 

最後にカンナ・ライラック

この子ははっきり言って未知数のライバルキャラだ。

というのも、魔法と勉学に関してはそこまで高いわけでは無い。

ステータスは魔法がB、勉学はCと言った所。

しかし、攻略対象であるアキレア様の幼馴染みで非常に仲が良い。

しかも、アキレアルートの最後にはカンナと戦うことになるのだけど、このときの戦闘ではカンナの好感度によって難易度が変わる。

具体的に言うと、好感度が0の場合は先ず勝つことが出来ない。

勝つためには最低でも好感度を30まで上げておく必要がある。

因みにこれはカンナを倒すための最低ラインであり、この場合はステータスを魔法S(最大値)にして更にアキレアルートでは殆ど役に立たないステータス、戦闘力(剣術や棒術、槍術などの総称)もS(最大値)まで上げる必要がある。

 

ただ、先ほども言ったようにカンナ・ライラックとの戦闘は好感度によって難易度が変わるため、仮に好感度を50まで上げた場合であれば、魔法をA、戦闘力もAにすれば倒すことが出来る。

因みに、アキレアルートではバトルがないというだけでルートによってはバリバリ戦闘を行うため、戦闘アイテムが豊富にあり、一応はアイテムと戦略によってはA以下のステータスでも倒すことが可能だ。ただ、公式の推奨ステータスはどちらもAであるため、それ以下の場合はかなり難易度が上がる。

 

因みに好感度が80の場合なら推奨ステータス魔法B、戦闘力Bとなり、好感度を90以上に出来れば魔法B、戦闘力Cでも倒せるようになる。

 

その点を鑑みれば彼女とも友好関係を築かなければいけない。

 

 

……しかし、友好関係を築いた結果、私の方がセージ様やアキレア様から身を引くことになるかもしれない。

まぁ、それも致し方ないだろう。

 

男よりも友達の方が大事だからね。

 

「はぁ」

 

それを考えるとやっぱり一番ありがたいのはアイリスだ。

だって、アイリスからケリア様をぶん捕っても全く心が痛まないもん。

 

むしろ、何故お前が主人公の邪魔をしてるんじゃい!と言う話である。

 

(やっぱり、セージ様とアキレア様に関しては場合によっては諦めた方が良いかな?)

 

エピフィルムもカンナも出し抜いてやる!と意気込んだ手前、こういうのもなんだけど、情報を整理してみると、あの二人に関しては私完全に泥棒猫だし、友達になってから結局身を引くことにしました、となるくらいなら初めから狙わない方が良い気がする……それに、そもそも彼氏とか1人居れば良い気がするし……

 

乙女ゲーム世界ということで感覚が麻痺していたが、3人と付き合うとか普通にないかも

人間関係とか面倒くさいし……。

 

転生して気づいた事実。どうやら、私の両手はドリルで出来ていたようだ。

でも、ほら、おらぁぁやってやるぜ!!と思っていても実際に現場にいくと尻込みしてしまうことってあるよね。

 

「……であるからして……」

 

因みに今が何の時間かと言うと入学式の途中である。

ここが乙女ゲー世界とはいえ、入学式のお偉いさん達の話というのは…………まあ、その、あれだ。

うん………。

……本当は一言一句聞き逃さないように耳を澄ませておきたいのだが、残念ながら今は時間が無いため、泣く泣く偉い人達の貴重なお話の時間を使い、乙女ゲー知識を整理していたのだ。

別に退屈だったとかでは無い。決して無い。

だけど……実は入学式終わった後(昼食時)に必須イベントとかがあるから、そのために持っている知識を整理する必要があっただけだ。

一生懸命壇上で喋っていた学園長や副学園長には非常に申し訳ないことをしていると思っています。はい。

 

あ!因みに言うと、この後ケリア様は新入生代表として、セージ様は魔法主席、アキレア様は剣術主席としてそれぞれ挨拶をしてくれる。因みにここでいう剣術とは魔力を使い肉体を強化して行う人外剣術である。

 

魔法学校らしくちゃんと魔法に関係がある項目なのだ。

……いや、それでも剣術主席とかいう謎の枠は流石に無理があるんじゃ?そう思ったそこのあなた!

ここは元々乙女ゲー世界である。最序盤でどうしても主要攻略対象は出しておかないといけないのだ!

だから、剣術主席が壇上で挨拶をするのもやむなしなのである。

 

にしても、楽しみだなぁ、こうして画面越しじゃなくて直に攻略対象達を拝めるなんて……

 

「え~、では続きまして、新入生代表ケリア・ブルーム壇上へ」

「はい!」

 

おお、来た来た!

パッケージのど真ん中!

サラサラの黄色い髪に切れ長の黄色い瞳。

一見冷たい印象のあるクール系イケメンに見えるけど、実のところ甘えたがりで可愛い物が大好きな長身イケメン、ケリア・ブルーム王太子殿下。

彼は体に針金でも入っているのかと言うほど姿勢良く壇上まで上がると壇上を見上げる私たちに視線を向けていく

それだけで、場の雰囲気が変わったのが分かる。

画面の向こう側から見ていたときは面が良いなとしか思っていなかったけど、成る程、これが王族ってやつか……

 

「今回は恐縮ながら新入生代表を務めさせて貰うことになったケリア・ブルームだ。

知っている者も多いとは思うがこの国の王太子という立場でもある。

しかし!この学び舎に通う以上は俺も君たちも一生徒でしか無い。

 

故に貴族も平民も他国からきた客人もお互いを差別すること無く、皆が対等の立場で影響を与えあい、自身の内にある能力を開花させることを祈っている。」

 

ケリア様はそれだけ言うと頭を下げ、壇上を降りる。それと同時に教員だけで無く生徒からもあらん限りの拍手が送られる、

流石、ケリア様。

簡潔に言いたいことを纏めて、手早く挨拶を終える。

民衆に伝える上では重要な技術なのだろう。実際、心に残る演説だったと思う。

ま、私の場合は攻略対象補正が入っているかもだけど。

 

では次!

 

「それでは魔法主席セージ・スターチス。壇上へ!」

「はい」

 

うぉぉぉぉぉ!

何だろう。ケリア様みたいな身分の高い人の歩き方ってよりは、こう頭の良さそうな歩き方だ。

いや、自分で言っていてもよく分からないけど……。

何というか生徒会長をしてそうな感じが体から滲み出ているのだ。

多分、歩く度に彼の溢れんばかりの知能指数が漏れ出てしまっているのだろう。

因みに彼の頭の良さは歩き方だけで無く服装にも表れている。

特に眼鏡!

 

心なしか眼鏡から後光が差している気さえする。いや、瞳に宿る知能指数が目から漏れ出ているのかもしれない。

それに髪の色が青紫色なのも何だか頭が良さそうだ。寒色だし、クールに見えるんだと思う。多分ね!

後、瞳が緑なのも頭が良さそうに見える。不思議だね。

もしかしたら、只単純に攻略対象補正が掛かっているのかもしれない。

彼は壇上に上がると眼鏡をくいっとした。

その瞬間、辺りに知能指数が散布される。

心なしか私も頭が良くなった気がした。

 

「魔法という1つの分野ではありますが、主席を獲らせていただいたセージ・スターチスです。

僕は何をするにも目標というものが大切だと思っています。

何のために努力をするのか、その具体性が必要です。

 

僕自身、この学校にはある目標があり、入学しました。

ここで多くのことを学び、学んだことを活かして目標に少しでも近づきたいと思っています。よろしくお願いします。」

 

効率厨な側面を持つセージ様らしい挨拶だった。

因みにこの目標というのは婚約者であるエピフィルムの体質改善である。

……やっぱり、セージルートもなしだな。

 

なんかエピフィルムと幸せになって欲しいし……

 

よし、次

「剣術主席ルビア・ティンクトラム!前へ」

「はい」

 

来たぁぁぁぁ!ルビア!

 

……え?

ちょっと待って?

ルビア・ティンクトラムって誰?

 

剣術主席はアキレア・ダイアンサスでしょ?

私がそう思っていても、事態は私を置き去りにして進んでしまう。

人生にはストップもスキップも、セーブもリトライも存在しない。

 

ルビア・ティンクトラムと呼ばれた白い長髪を後ろで括り、ポニーテールにした線の細い……男子生徒?それとも女子生徒?は壇上へと上がっていく。

剣術は基本的には男子生徒しか受けられないし、ズボンを履いているから男の子な気はするけど、若干胸に起伏を感じるんだよなぁ……。

さらしで隠してるんじゃ無いかな?

となると、男子生徒に成りすましている女子生徒ってことか?

 

私がそんな風に首を傾げている間にルビアさんは壇上につく。

彼女は目元を仮面で隠しているため、その素顔を見ることは出来ないのだが、何だろう……どこかで見たことがある気がする。

いや、でも、ゲームにはこんなキャラは居なかった。

もしかして、続編の攻略対象とか?仮面越しでも容姿が優れているのがよく分かる。その可能性は十分にあるだろう。

しかし、

 

(私は続編の情報とかは知らない、よね。

それとも転生した際に記憶が欠落しちゃってる、とか)

 

その可能性も捨てきれないとは思う。

だけど!だけど!!それよりも重要なことがある!

 

そう、アキレア様の挨拶!

 

見たかった。

見たかったよぉ……。

いや、でもこれは現実だし、主席を取れるかどうかは実力主義だ。

仕方が無い。仕方が無いんだ。

 

でも見たかった!アキレア様の挨拶。

 

「皆さんは運命というものを信じますか?」

 

私が悔しがっているとルビアさんは急に新手の宗教みたいなことを言い出す。

 

「私は信じています。

世の中には……それこそ、死別したとしてもまた巡り会う運命というものがあるのです。

そう、例えば運命の赤い糸と言う言葉がありますよね。

あれもまた目に見えないだけで実在しているのです。

私はその運命を感じこの学園に入学しました。

 

この学園で私は運命の相手を見つけ、愛を育みたいと思います!」

 

周囲を凍り付かせる演説。

いや、最高に乙女ゲームしていたかもしれない。

なまじ、顔と声が良いから、もしかして自分かも?と思っている女子生徒もいるみたいだし……

 

ってあれ?アイリス・コリアンダー寝てない!?周りの様子をちらちらと見ていたから気づけたけど、よく見るとアイリスの瞳が閉じられている。

でも、姿勢は凄い綺麗だし……もしかして耳を澄ませているだけなの!?

 

流石に寝ているなんてこと無いよね?

確かに横暴な所はあったけど、こういった式典では礼節を重んじてたもんね?

やばい、ルビアさんのことよりもアイリスの方が気になりすぎる。

 

そうして私は暫く目を瞑るアイリスに気を取られてしまう。

彼女が寝ているのか起きているのか、どちらか気になって仕方が無い。

 

いや、別に寝てたからといって私には関係が無い話ではあるんだけど、でも気になる。

船を漕いでいる様子は無い。

それに近くに侍っているメイドさんも膝掛けを掛けてあげるだけで、肩を揺すったりはしていない。

仮に寝ていたとしたら、お家の恥になりかねないし、流石に起こすよね。

なら、やっぱり起きてるのかな。

 

私は暫くの間、そんな風にアイリスの様子に一喜一憂していた。

だけど、一瞬、本当に一瞬だけ、視線を感じてそちらへと視線を移す。

そこには壇上から降りてくるルビアさんの姿があった。

彼女の瞳が私を捉え、それと同時に口角が上がっていたように見えた。

 

けど……気のせいか!

 

彼女と私に接点なんて無いしね。

 

それにしてもかなり癖の強い挨拶をしていた割にルビアさんの挨拶は皆から受け入れられているみたいだ。

社交辞令とか、一般常識だからと言う理由で拍手をしているとは思えないほど大きな拍手がチラホラとルビアさんへと向けられる。

勿論ケリア様が挨拶を終えたときほどでは無いけれども、彼女にも人を惹きつけるカリスマのようなものがあるのかもしれない。

 

☆☆☆

 

ケリア様とフリージアのファーストコンタクトは学園生活初日の昼食、カフェテラスにフリージアが座ってしまうことに起因する。

 

魔法才華学園は『魔法の才ある者は皆平等』を謳ってはいるが、実際の所、生徒の手によって平民と貴族の間に待遇の差が出来ていた。

それもその筈で、魔力持ちは平民より貴族の方が圧倒的に多い。

それに、成績に関しても古くから魔力を持っており、魔法に対する深い知識と、高い魔力さえ持っていれば平民すら取り込む魔力への貪欲さを持つ貴族の方が圧倒的に良いのだ。

結果として学園内での立場も貴族優位になっている。

 

そうなると、どうしても平民は肩身が狭くなってしまう。貴族と平民の壁は校風1つでは無くならないのだ。

実際そのカフェテラスも待遇の差の1つで、生徒同士の間では平民は座ってはいけないという暗黙了解があった。

 

しかし、残念ながら入学したてのフリージアがそんな仕来り知っている訳もない。

むしろ、初めの彼女は『魔法の才ある者は皆平等』を本気で信じていたのだ。

 

それにフリージアにこの学校の実態を教えてくれるはずの平民の先輩達もフリージアの純真無垢な雰囲気と平民とは思えない程の魔力からどこかの貴族の令嬢だと勘違いし、彼女の行動を止めることが出来なかった。

 

そんな中、運悪くフリージアは公爵令嬢であるアイリス・コリアンダーに目を付けられてしまう。

 

『あら?あなた私が座ろうとしていた席になんで座っているのかしら?

さっさと退いてくださらない?』

 

そういうアイリスにフリージアは負けじと言い返す。

 

『ここは私が先に座っていました!退く理由はないと思います。』

『……あら、私は公爵令嬢よ?』

 

それに対し、フリージアは目を細め睨み付けてくる。

だが、フリージアは引かなかった。

 

『この学校では平民も貴族も皆が平等なんですよね?だったら、貴女が公爵令嬢であったとしても私が退く理由にはなりません!』

 

お互いがお互いを睨み付ける。周りにいる貴族の子息令嬢たちも立ち上がる。

平民の子供達はフリージアの態度に顔を覆う。

 

普通であればフリージアは貴族の子供達によって強制的に席を立ち退かされる筈だった。

だけど、ここで王太子であるケリア様がフリージアを助けてくれるのだ。

 

そして、これを機にケリア様は平民であるフリージアを気に掛けてくれるようになる。

というのがゲームでのシナリオだ。

 

 

 

そして、今は丁度、午前のオリエンテーションが終わり昼食の時間。

私は件のカフェテリアを陣取っている。

そして食事を摂りながら、今か今かとアイリスのことを待つ。

ふふっ、ちょっとわくわくするな。

原作のあの場面が目の前で見れるのか……。

なんか、自分が守られることよりも、伝説のあの場面を直に見れることの方が嬉しいんだけど。

 

そんな風に思っていると、アイリスがこちらに近づいてくる。

来た来た。

ちょっとドキドキする。

地に足がついていないふわふわとした気持ちになり、心臓が高鳴る。

 

「あら、私も座ろうと思っていたのだけど……もう埋まってしまっているわね」

「どうします?お嬢様」

「そうねぇ……」

 

そう言うと、私の席をジッと見つめる。

……ちょっと会話の内容が本編と違うけど、来るか?原作再現!

そう思っていたのだけど、アイリスは私が座っている席の向かい側、もう一脚置かれている椅子に一瞬だけ目を向けると、自身の制服のポケットに手を入れる。

何をするつもりなのだろうか?

 

「あった!これこれ」

 

そう言うと、宝石と金属で出来たお洒落なブレスレットとハンカチを取り出す。

……まさか、腕輪とハンカチを渡して私をこの席から退かす気だろうか?

いや、でもアイリスはそんな殊勝な性格ではない筈。

 

一体どういうつもりだろうか?

 

私が内心で首を傾げているとアイリスは地面に腕輪を捨てる。

一体何がしたいのか?

もしかして、

 

『ほら、平民……貧しい暮らしをしている貴女はこれが欲しいでしょう?』ってやる気だろうか?

 

その手には乗らんぞ!!

私が気持ちを強く持ったのも束の間。

腕輪とハンカチがどんどんと肥大化し、お洒落な椅子とテーブル、テーブルクロス、そしてパラソルへと変わる。

何を言っているか分からないだろうが、私もなにが起こったか分からない。

もしかして、コリアンダー公爵家に代々伝わる魔法道具か何かだろか?

 

実際『トゥラブ』には神具と呼ばれる神々が創ったとされる唯一無二の強力な遺物群が存在する位だし、この程度の魔法道具なら普通に持っていても可笑しくない、と思う。

 

私は自身をそう納得させようとした。だけど……

 

「流石です。お嬢様」

「ふふっ、そうでしょうそうでしょう。私も即席にしては良く出来たと思っていたのよ!」

 

アイリスとアイリスの使用人がそんな会話をしている。

会話の内容からはまるでアイリスがあのおしゃれなテラス席を作ったように聞こえる。

しかし、彼女の魔法ステータスは主人公基準でC以下。

こんな器用なこと出来るはずがない。

というか、あれどうなっているんだろう?

 

土魔法の応用だろうか?確か、土を極めれば金属を生み出したり操ったり出来た筈だ。

だけど、そもそもアイリスの属性は水だし……金属操作と生成なんて主人公基準でも魔法ステータスS相当だ。

一体何が起こっているのだろう。

 

というか、この場合ケリア様のイベントはどうなるんだろうか?

本当に、どうなってしまうのだろうか……

 

私は和気藹々と席に座り、食事を摂り始める主従を眺めながら遠い目をするのだった。

 

☆☆☆

 

私が仲よさげに食事を摂るアイリスとアイリスの使用人を眺めながら1人寂しく食事を摂っていると、前に誰かが座る気配を感じる。

もしかして、ケリア様!

そう思って前を向くと、目の前には剣術主席のルビア・ティンクトラムさんが座っていた。

 

「やぁ、もし良かったら食事でも一緒にどうかな?」

 

速報 アイリス・コリアンダーが原作無視をした結果、ケリア様イベントがルビアさんイベントに変わったんだが……。

 

いや、別にルビアさんが悪いというわけではない。

だけど、ほら、普通この流れはケリア様かなって思うじゃない?

 

「ふふっ、そんな残念そうな顔をしないでよ。悲しくなっちゃうよ。」

 

ルビアさんはその鈴の音のように美しい声のトーンを少し下げると、悲しそうな目をする。

私は流石に初対面の人に露骨に残念そうな態度を取ってしまったことは良くないと思い、急いで否定する。

 

「いえ、どうぞ!座ってください!……ってもう座ってるけど……」

「ははっ、ありがとう。…トリトマ。私の分の食事を持ってきてくれ」

「はい!お任せください」

 

ルビアさんは多分彼女の専属メイドである赤い髪に赤い瞳をした垂れ目の非常に優しそうな少女に食事を持ってくるように促す。

 

「さて、では改めて

私の名前はルビア・ティンクトラム。

隣国のバディング帝国の侯爵令嬢なんだ。

よろしくね」

「はい、よろしくお願いします。」

 

令嬢だったんだ。

私は頭を下げると、ある疑問を口にする。因みに、なんでズボン履いているんですか?とか剣術をやってるんですか?とかじゃない。それは流石に初対面の人に聞くにはディープな内容だからね。

 

「あの、なんで私と食事を摂ろうと思ったんですか?席は他にもありましたよね」

 

そう、これが疑問だった。

仮にアイリスが私から席を盗ろうとしているのであれば、原作のケリア様のように私を庇うために同じ席に座るというのも可笑しくはない。

だけど、アイリスは私の隣の席に座り、私にちょっかいをかけてくる様子はない。

それに、他の貴族達も私なんかよりも、使用人と当たり前のように食事を共にしているアイリスに目がいっているようだった。

そんな私の疑問にルビアはクスリと笑うと、テーブルに身を乗り出し、私にだけ聞こえる声量で話す。

 

「君が私の運命の人だからだよ。

私たちは前世で出会っているんだ」

 

彼女は怪しげに笑いながらそんなことを言うが、残念ながら私には身に覚えがない。

だから、正直に答える

 

「いや、そんなことないと思います」

「ふふっ、今はそうかもね」

 

私の言葉に彼女は動じた様子を見せずに仮面を右手でさする。

いや、なんなんだろうか、この人。

申し訳ないが……ちょっと気持ち悪い。

いやだって、急に知らん人に運命の人だの、前世で会ったことがあるだの言われたら気味が悪いだろう。

幸い、私の場合は前世の記憶があるから、絶対に面識はないと否定できるが、これが前世の記憶など無い普通の女の子の場合はもっと怖かっただろう。

 

いや、むしろ、顔だけは良いからコロッと騙される子も出てくるのだろうか?

 

私が彼女の顔をまじまじと見ながら、そんなことを思っていると、彼女の食事を取りに行った使用人の少女が帰ってくる。

 

「ルビア様!

天ぷら蕎麦があったのでそれにしました!」

「ありがとう」

 

ルビアはそれだけ言うと、お椀を受け取る。

 

「お蕎麦、お好きなんですか?」

「ふふっ、ああ、そうなんだ」

 

彼は意味も無く笑う。いや、なんで急に笑っているんだろう。本当怖いなこの人。

私とルビアさんの心の距離は出会ったばかりにも関わらず恐ろしい速さで離れていく。

それに気づいたのか使用人の少女は急いでフォローを入れる。

 

「あ、あの!ルビア様はとっても優しい方なんです!

例えば……お菓子とかをこっそりくれることがあるんです!他にもお仕事をサボってお昼寝をしていても見ないふりをしてくれることもあります。

 

だから、えっと、どうかルビア様のことよろしくお願いします。」

 

お菓子はともかく、仕事中に昼寝は不味くない?出会って間もない私なんかに話して良い内容なのだろうか?いや、多少弱味を見せてでも主のフォローをしたかったのか?

私が少女の真意について考えていると件の少女は思いきり、頭を下げる。

もう少しで私たちのいるテーブルに額が付いてしまいそうだった。

いや、ちょっと待って?

額を上げた少女の額から血が出ていた。

これ、テーブルに額突いてたわ。

 

私は自身のハンカチで少女の額の血を拭う。

 

「額から血が出てるよ。」

「え……ホントだ!ありがとうございます!」

 

少女は本当に今気づいたようで只でさえ大きい目をまん丸にして驚くと同時、額を拭う私に対し、にぱぁっと笑う。後光が差しているのではと思うほどに明るい笑みだ。

 

子どもの様な無邪気な笑み。

ルビアさんはちょっと気味が悪いけど、トリトマちゃんは可愛いなぁって思ったのだった。

出会って間もないけど私と、トリトマちゃんの心の距離はちょっと近づいたと思う。

 

 

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