元勇者、悪役令嬢になる   作:☆☆☆宮☆☆☆太郎

22 / 33
変わりの者のアイリス(フリージア視点)

☆☆☆

 

アイリスがあまりにもイレギュラーな行動をしたため、ケリア様との最初のイベントは失敗(不発)に終わってしまったが、恐らくここからリカバリーが効く筈!

食事を終え、教室に帰りながら私は決意を新たにする。

 

ケリア様は私とは違いSクラス。それに対し、1年目のフリージアは必ずEクラスからスタートする。

因みにクラスは入学試験の実力によってSクラスからEクラスのいずれかに振り分けられている。

これだけ聞けばケリア様との接点なんてないように思えるかもしれないが、ケリア検定1級保持者である私はケリア様が必ず行く穴場スポットを知っているのだ。

そこは本来、ケリアルートに突入してからでないといくことが出来ない場所だが現実である以上そんなことは関係ない。

 

放課後はそこに行ってみよう。

そうすれば、ケリア様と会うことが出来るはずだ。

多分!

 

ケリア様は原作で入学初日に偶々見つけたっていってたから、会える筈だ!

 

とはいえ、今はしっかりと教師の話に耳を傾けるのが大切だ。

私は学園の設備とそれぞれの教室について説明している教師の言葉を忘れないようメモ帳を取り出す。

ゲーム内でも学校内を散策することはあったけど、学園サイドは基本的に選択肢で行き先を選択するというノベルゲーム仕様、散策した回数はそれ程多くはない。

だから教室移動の際、胸を張って迷わず目的地につける自信がないのだ。ちゃんと教師の話を聞いておかないといけない。

……いけないのだが

 

(なんでここにアイリスが!

しかも、1人だけ安楽椅子に座って眠りこけてるし)

 

意識がアイリスに持って行かれる。

 

先ず初めに補足しておくと、曲がりなりにも公爵家の令嬢であるアイリス・コリアンダーは原作においてCクラス(魔法を使っての社会貢献が可能なレベル)に組み分けされていたはずだ。

決して、魔力を持っているだけの人間が入るEクラスではない。

 

というか、昼間見せた彼女の魔法技術ならSクラスでもなんら不思議ではない。

なのに、何故彼女はこのEクラスに組み分けされているのだろう。

 

それに、Eクラスに組み分けされているのにそれについて教師に突っかかる様子もない。

原作ではCクラスに組み分けされた際、何故自分がCクラスなのかと教師に詰め寄ったという話が途中で語られていた筈なんだけど

私がそう思っていると、教師がアイリスに近づいていく

 

「アイリスさん分かりましたか?」

 

そして、至近距離で寝ているアイリスに声を掛ける。

彼女は曲がりなりにも公爵令嬢、普通であれば教師と生徒という立場であろうと、こんなことをするなんて怖くて出来ないだろう。

だが、ここは魔法絶対至上主義の魔法学園。

魔力だけを持っている落ちこぼれに怯える人間など誰1人としていない。

実際、原作でもアイリスが自身をAクラスに上げろと教師を脅したことがあったらしいのだけど、その時も彼女の要望を聞く人間は誰1人としていなかったそうだ。

 

これにはブルーム王国が魔法によって繁栄してきた歴史があるためだと公式資料集に書かれていた。

 

その点で言えば、魔力を持っているだけの彼女は公爵令嬢という立場があってもこの国で上層部に認められるというのは難しいだろう。

 

「ん、あら……私はいつの間に寝ていたの」

 

しかし、そこはアイリス・コリアンダー。

魔法が使えなかろうと教師に目を付けられようと動じた様子を見せずにマイペースに目をさすっている。

目の前に教師がいるというのに、何という豪胆な態度だろうか、それに随分と熟睡していたのか、口から涎が垂れている。

お付きのメイドがそれに気づきアイリスの代わりにハンカチで口を拭ってあげる。

 

「ありがとう。ノエル」

「ふふっ、大丈夫ですよお嬢様」

 

2人には目の前に居るはずの教師が見えていないのか、互いの世界を展開していた。

 

普通、仕えている主が授業中に寝ていて教師に目を付けられるなんて家の恥以外の何ものでもないと思うのだけど、あのメイドさんはそう言ったことを気にしているようには見えない。

 

やはり彼女の主が公爵家の出であるから、教師に目を付けられてもどうということはないと思っているのだろうか?

それとも、彼女のマイペースな態度に関してはもう既に諦めてしまっているのか?どちらかは分からないが、ことこの魔法学園においてはその考えは勘違い以外の何ものでも無い。

 

「アイリス・コリアンダー

君は自身が落ちこぼれであるという自覚がないのか!

本来君のような人間は少しでもマシな魔法使いになれるように授業以外にも自習の時間を多く取り、他の人間の何倍も努力しないといけないのだぞ!

それなのに、あろうことか授業中に居眠りだと?恥を知れ!」

 

一般生徒ならともかく公爵令嬢に対し用いる言葉とは思えない暴言。

普通であれば首を刎ねられても文句は言えない。

 

だが、この魔法学園では話が変わる。

恐らく、アイリスがこの教師の言った言葉を糾弾したとしても学園長が彼を庇うだろう。

とはいえ、アイリスも泣き寝入りする性格ではない。

目を血走らせ必ず、突っかかっていくだろう。

ほら、アイリスが教師を見据え口を開ける。

 

「あら、ごめんなさい。

次からは気を付けるわ」

 

アイリスが謝った。

 

……

……

 

え!?あのアイリスが謝った?

嘘でしょ!

教師もそう思ったみたいで一瞬だけ呆ける。

だが、直ぐに気を取り直したようでアイリスを睨み付ける。

 

「そうか。

殊勝な心がけ大変結構。

だが、ならば先ずその安楽椅子から我が校が用意している椅子に座り直して貰おうか?」

 

そう、アイリスは現在、1人だけ柔らかそうなクッションのついた安楽椅子に座っている。

とはいえ、貴族の中には学園の椅子は気に入らないと自身で別の椅子を用意することも珍しくない。実際アイリスは『トゥラブ』でも自分専用の椅子を持ってきていた。その時は、そこまで問題にはなっていなかったみたいだけど流石に今から寝ますという形の安楽椅子は不味かったみたいだ。

もしくは彼女がEクラスに所属しているからかもしれないが……。

 

「椅子ね……申し訳ないのだけどそれは出来ないわ」

 

一瞬眉尻を下げ、申し訳なさそうに首を横に振るう。

やはり、アイリスはアイリスということだろうか?でも……あの顔何か訳あり?

椅子を隠されてしまって手持ちがあれしか無いとか?

いや、公爵令嬢にそんなことが出来る人間が一体この学園にどれ程いるんだろうか?

その可能性は低い、と思う。

 

教師は椅子を変える気がないというアイリスに青筋を立てる。いや、まぁ実は反省していないんじゃ無いかって思うよね。

 

だが、次の行動は流石にラインを超えていた。教師は魔力を高ぶらせ、嗜虐的な笑みを浮かべたのだ。

 

アイリスに向かって魔法を使う気?流石にそれはちょっと不味いんじゃ……

 

「良かろう。どうやら栄えある魔法学園に入学しながら、貴族としての甘えが抜けていないらしいな。

ここは私が一肌脱いでやろう。

 

水の精霊よ!我が魔力を贄とし、顕現せよ!

瀑布は我が手に!我を中心に渦巻く力は我が外敵へと降り注ぐ!《水撃(アクアフォール)》」

 

水撃(アクアフォール)》、水属性魔法の中でもBランク(対魔物一般攻撃魔法)に分類されている非常に殺傷能力が高い魔法だ。

魔法自体はあくまでも水を相手へと飛ばすという至って単純な仕組みだが、その威力は厚さ5センチの鉄板に穴を開けることが出来るほどだ。

この至近距離で人間に向けていい魔法では断じてない。

 

いくら魔法学園の教員だからと言ってこんなことをしてはアイリスの父であるコリアンダー公爵が黙っていない。あの教師は何らかの形で報復されるだろう。

それに何よりも、1人の少女が殺されそうになっているのを黙ってみているわけにはいかない。

私は席から立ち上がり、教師を止めようと動き出す。

だけど間に合わない!

只でさえ《水撃(アクアフォール)》は魔法発動から着弾までが速い。

私は、アイリスに手を伸ばすことしか出来なかった。

だけど、

 

「お止めください。」

 

今まで教師とアイリスの会話に入らなかったアイリスのメイドが口を開いた。

 

それだけじゃない。何時の間にかメイドの腕がアイリスと教師の間に伸びていたのだ。

その位置は丁度魔法の軌道の直線上でメイドの手が少しだけ濡れているのが分かる。

 

メイドがアイリスを庇った、のか?

だけど、使用人の腕には傷のようなものは出来ていない。

いや、そもそもあの魔法を生身で受けて只で済むとは思えないし、着弾したにしてはその際に生じる衝撃音が聞こえ無かった。

ならばもしかして、彼女は魔法がアイリスに飛んでいくのと同時に魔法を打ち消したのだろうか?

それはそれで荒唐無稽な話ではあるが……。

 

なんせ魔法の無効化……それが出来るのは光属性魔法だけだ。

そして、この『トゥラブ』世界において光属性魔法への適性は魔力持ちの中でも100万人に1人と言われている。

実際、『トゥラブ』本編でもこの属性を持っているのはフリージア只1人だけだ。様々な才ある者が出てくる乙女ゲームの世界において主人公しか持ってない程希少な光属性持ちの魔法使いを召し抱えているとは、流石はコリアンダー公爵家と言った所か。

 

しかも、あのメイドさんはそれを無詠唱かつ、魔力の熾りを感じさせること無く発動したのだ。

 

これがどのくらい凄いのかというと、目の前に人が居る中、火柱が上がるほどの火を熾し、それを他の人に認識されるよりも早く消化したという例えが最も近い。それくらい凄いことなのだ。

とはいえ、Eクラスは今まで魔法に触れたことがない人間が殆どであり、その考えに行き着いた者は少なく事態についていけずに呆然とみている生徒が殆どだ。だが教師は違う。

彼もまた、私と同じ考えに行き着いたようで額から冷や汗を流す。

 

魔法才華学園は魔法至上主義。

特に貴族であろうと物怖じせずに突っかかってくる教師はその考えをより顕著に持っている。

何故なら彼らがそうやって貴族に突っかかっても許されているのは彼らが優れた魔法能力を持っているからだ。

ならば、逆に自分よりも優れた魔法能力を持っている者が現われたのだとすれば……

 

「どうやらあなたは私がお嬢様の為に用意したこの椅子が気に食わない様子。

それについては申し訳ありません。教室についた際、お嬢様の椅子だけ用意されていなかったため、長時間座るのに適した椅子を急遽用意する必要がありました。ですが、急だったものでこの椅子しか用意することが出来ませんでした。

……これは公爵家の専属メイドである私の失態。頭を下げろというのであればいくらでも下げましょう。

 

……ですが、お嬢様に害をなすというのであれば、専属メイドとして黙っている訳にはまいりません。」

 

深々と頭を下げるメイドさん。

それにしどろもどろになる教師。

魔法という優位性を失ってしまいどうすれば良いのか分からないのだろう。

地位も上、魔法能力も自身よりも高い存在を侍らせている。

となると、彼には教師という立場以外に彼女を叱る義務はない。

そして、この縦社会において教師というのはあまりにも弱かった。

しかも話を聞く限り、今回アイリスは何者かの悪意によってこの椅子に座らざるを得ない状況にされていた。それを知らなかったとは言え教師はアイリスを殺しかけている。

もはや、教師という肩書きも風前の灯火だ。

 

「い、いや、良いんだ。ああ、そう、これは……そうだ!ちょっとしたデモンストレーションという奴だ。

皆には魔法というのが具体的にどういうものか知って欲しくてな。

今回はとても優秀な彼女の専属使用人にも協力して貰って、魔法の実演をしてみたんだ。

ああ、勿論アイリス君はそのまま授業を受けてくれて構わない」

「あら、そうなの?何だか気を使わせてしまったみたいで申し訳ないわね」

 

アイリスは眉尻を下げると一度ぺこりと頭を下げる。

あれ……本当にアイリスなのだろうか?

いや……今はそれよりもさっきの教師の言葉……。

多分、嘘だよね。

アイリスが「ノエル何時、先生と打ち合わせしたの?私に教えてくれても良かったのに意地悪だわ」と言っているのに対し、使用人は曖昧に笑うと「秘密です」と言っていた。

 

それに、あの時の教師の怒りようが演技だったとは私にはどうも思えなかった。

 

だけど、結果として何も起こらなかったんだから、突っ込まない方が良いんだよね。

使用人の子が話を合わせたのだって多分そっちの方が都合が良かったからだろうし……。

 

あくまでも私の推測、というか妄想だけど、さっきの教師の『ああ、アイリス君はそのまま授業を受けてくれて構わない』って言葉は安楽椅子で授業を受けても寝ていても、文句は言わないって事だと思う。

それをメイドの人も察したから教師に合わせている。

既に教師に安楽椅子を用意した経緯を話してしまったのだから、通常の椅子を用意して貰うことも出来ただろうに……。

 

きっと、学園の椅子よりも安楽椅子の方が主が快適に過ごせるからだ。……主のことを考えての行動。

彼女は間違いなく主思いのいい従者なんだろう。どのように行動すればより主に益をもたらすのかいつも考えているのだろう。

 

だけど、こういうやり方は正直あんまり好きじゃないなぁ。

 

綺麗事だけどね。

 

☆☆☆

 

それから午後のオリエンテーションも恙なく終わった。

アイリスに関しては最初のうちは背もたれから背を離し、真面目に聞く姿勢を作っていたんだけど、最終的には睡魔に負けてぐっすり眠ってしまっていた。

 

なんというか根っからの不真面目って感じはしなかった。

ただ、恐ろしく勉強とか人の話を聞くのに向いていないタイプな気がする。

逆に運動とかは肝が据わってるから得意そうだけど。

 

私はそう思いながら荷物を纏めていると、私に声を掛ける人が現われる。

 

「ちょっと貴女!」

 

黄色い髪に、紫の瞳を持つ少女。

アイリス・コリアンダーその人だ。

厄介な人物に絡まれた。

しかも、これは既存のイベントには存在していない。

何かあってもケリア様などが助けてくれる可能性は限りなく低いだろう。

 

「えっと、何でしょうか?」

「あなた!私があの教師に害されそうになったとき助けようとしてくれてたわね!」

 

ああ、確かに自分はアイリスを助ける為に飛び出していたけど、アイリスがそのことを知っている事が驚きだ。

アイリスの席は最前列から二番目の一番右側の席で、私の席は後ろから二番目かつ左から二番目の席だ。

どう考えても、は流石に言い過ぎだけど、それでも視界に入りづらい場所にいた。専属のメイドさんが教えてくれたのだろうか?

 

私は自然とメイドさんの方へと視線を向ける。

それに対し、メイドさんは不思議そうに首を傾げた。

私の視線の意味には気づいていないようだった。

 

「どうかされましたか?」

「えっと、もしかしてあなたが?」

 

言葉足らずで申し訳ないが、大貴族、それも原作では悪役令嬢として君臨しているアイリスを前にしているからか、頭で考えていたことをそのまま言葉として出力していた。

これだけじゃ、わかんないよね。

私は慌てて、補足の言葉を入れようとする。

 

しかし、それよりも早く、顎の手を当て私の言葉の意味を吟味していたメイドさんが口を開けた。

 

「それは……貴女がお嬢様を助けようとしていたということを私がお嬢様に伝えた、ということでしょうか?」

「あ、はい、そうです」

 

良かった。どうやらちゃんと伝わったようだ。

自分にとっては特段可笑しくのない言葉回しとか表現を使っていても相手に悪い方向に受け取られるということがあるからね。

本当に良かった。

特に相手は公爵令嬢のメイドさんだからね。

 

「そういうことであれば違います。

お嬢様はあの教師に魔法を向けられていた際も周囲への警戒を怠っていなかった、というだけの話です」

 

警戒を怠っていなかっただけ、か。

椅子を隠されたようだし、警戒するのは分かるけど一体いつそんな技能を身につけたんだ。

 

幼少期にそんな技能必要無かっただろうに……。

流石にここまで来ると原作との乖離が酷すぎる気がする。

……もしかして、だけど、このアイリス……転生者?

実際私という前例があるわけだし、アイリスの中身が転生者だったとしても別段可笑しくはない。

 

「あなた!細かいこと気にするのね!」

「え!?」

 

もしかして、心の声を聞かれた!?

転生者と言うことであれば、チート能力の1つや2つは授けられていても可笑しくはない。

いや、私はそんなチート能力は授けられていないんだけど、いや、主人公というだけで才能と伸びしろは担保されているわけだし、チートではあるか。

ってそうじゃない!!

 

仮に心の声を聞かれていたら、今の声も聞かれていることになるし、何よりも彼女が転生者であるのなら原作への軌道修正は不可能!

私のビクトリーロードが!ってこの声も聞かれてるってことじゃない!

 

私がアイリスを踏み台にしてケリア様とくっつくつもりでいたことも筒抜けに!

ま、不味い、死んだ。

アイリスの口が開き音を発するまでの時間がスローモーションとなる。これは俗に言う走馬灯。

前世の死に際にも味わったことが無かったのに!確定演出だよ

 

「私自身が助けてくれようとしているのを見ていても、ノエルが代わりに見ていても大した差は無いでしょ?」

「え、あ、ああぁ、そ、そうでしょね」

 

か、噛んだ。

で、でも良かったぁぁぁ

 

あくまでも、私がメイドさんに『私がアイリスを助けようとしたのを教えたのはあなたか』と聞いたことにたいして、言及していただけだった。

 

心が読めるわけじゃないみたい。

い、いや、そうだよね。もし読めてたら昼食時私がアイリスを待ち構えていたのを知っているってことだし、その時点で何かアクションを起こすよね。

 

「それでね。もしよければなんだけど、私の友達になってくれないかしら!

あなたとなら良い友人関係が築けそうだわ!」

 

と、友達かぁ……アイリス、悪役令嬢だし、一応ケリア様ルートのライバルなんだよなぁ

友達になったら、ケリア様諦めなくちゃいけなくなるかもだしなぁ……

 

う~ん、ここは遠回しに断っておく方が良いかなぁ。

 

「で、でも私とアイリス様は身分が違いすぎますよ。

私、平民の出ですよ?

アイリス様とは釣り合わないんじゃないかなって……」

 

よし!完璧。

アイリスは原作でも自分が高貴な身分であることを鼻に掛ける性格だったし、私が平民だと知れば、直ぐに手の平を返すことだろう。

多分

 

『なに?あなた平民だったの?はっ、なら私を助けるのも当然の義務だったというだけね。あ~あ汚らわしい。あなたと話したせいで私の高貴さに陰りが出たらどうするのかしら』

とかいって、去って行くに違いない。

これで、心置きなくケリア様の元へ迎える。

そう思っていたのだが、そう、このアイリスは原作とはちょっと違った。

 

「そんなことはどうでも良いわ!重要なのは貴女が私を助けてくれたということでしょ

う?」

 

平民と知りながら私の両手を自身の両手で包み込むと、グイッと顔を寄せてくる。

なまじ、顔面偏差値が高いせいでちょっとドキドキしてしまう。

ま、不味い、私にそっちの気はないのに!?

 

「い、いや、でも貴族と平民の差は大きいというか……覆しようのない絶対的格差というか……」

 

必死に顔を背けながら必死に言い訳をする私。

だけど、この言葉はこの世界の真実でもある。

実際、この世界で11年ほど生きてきて嫌という程見せつけられた。

いや、幸い私の家は王都でも非常に人気のあるパン屋に生まれていたからそんな酷い暮らしはしていなかったけど、ちょっと外を歩けば病的に線が細くて暗い表情をした人を多く見かける。

 

だからこそ、原作フリージアは皆がお腹一杯パンを食べれる世界を望んで邁進していたんだよね。

まぁ、その話は置いておいて、それだけの格差があるんだから、私と彼女が友達になるなんて不可能だろう。

 

王太子落とそうとしている人間が何を言っているんだって話でもあるけど……

そんな私にアイリスは可笑しそうに笑う。

 

「ふふっ、貴女本当に細かいことを気にするのね。

貴族であろうと、お腹が空けばご飯を食べたくなるし、傷を負えば泣き叫ぶ。

ギリギリの極限状態なら非道なことに手を染めることだってあるかもしれない。

死にたくないと怨嗟の声を上げることだってあると思う。

そして、平民からだって英雄は生まれることがある。

 

私が何を言いたいか分かるかしら?」

 

普通に考えれば、貴族も平民も同じ人間ってことだろうけど……もしかして、少し外してきてこの世は能力至上主義とか言い出したりしないよね。

 

いや、このアイリスはなんだか、そんな捻くれたことは言いそうにない。いや、原作アイリスも捻くれたことは言わなかったけど、ストレートに暴言を吐いてきていたし……。

 

よし!

 

「貴族も平民も同じってことですか?」

「ふふっ、私が言いたいことはちょっと違うわ」

 

な、なに!やはり、このアイリスちょっと捻くれているのか?

一瞬そう思ったのだけど

 

「私が言いたかったのはね。友達って言うのは家柄とか、学校が付けた能力じゃ無くてね、自分で選ぶものなのよ」

 

花が咲き誇るようにクスリと笑うアイリスに思わず見とれてしまう。

 

な、な、な、なにぃぃぃ!!

なんだこのアイリス、陽キャステータスカンストしてるんじゃないか!?もしかしたらあーちゃんより性格が良いんじゃないか!?

自分の胸と私の胸をさして、笑うアイリスに危うく浄化され掛けたんだが……

 

くぅぅぅぅ、こんなことを言われちゃったら、もう友達になるしかないじゃないか!

 

い、いや、でも冷静になれ!私!ケリア様をケリア様を諦めても良いのか?

このアイリスがケリア様を好きと言ったならば私は絶対ケリア様を諦めてしまうだろう。

 

「……えぇ、でも、ほら、友達になったら、好きな人が被ったときに気まずくなっちゃいませんか?」

 

しまった!もう少しオブラートに包もうと思ったけど、精神面での衝撃が大きすぎてそのまま言葉が出てしまった。

しかも、よく考えれば今日二回目の失敗!

だけど、只でさえ混乱してる私に更なる衝撃が襲う

アイリスは一瞬だけメイドさんの方に視線を向けると

 

「え、あなた……もしかしての、ノエルのことが好きなの!?

だ、駄目よ!ノエルは私のなんだから」

「お、お嬢様、私の、なんて……ぽっ」

 

私の言葉に反応してノエルを力一杯抱きしめるアイリスとそんなアイリスを受け止め頬を染める専属使用人のノエルさん。

何故か私の瞳には彼女たちを取り囲む満開の百合の花が映った。

しかも、百合の花々は祝福するように踊り狂っている。

幻術?

新手の魔法を掛けられているのかもしれない。

 

いやそれよりも、もしかして2人ってそう言う関係?

 

……そういえば、この2人主従関係なのに昼食時当たり前のように一緒にご飯を食べていたな。

そういうことか……

 

なら、私が心配していた様なことは起きないってこと?

 

なら、全然友達になっても良いじゃん。

 

「あ、あの、なんていうか……その、好きな人は被らない、気がしてきたので是非友達に、なんて……」

 

あれ、私ちょっと失礼なこと言ってない?

取りあえず笑って誤魔化そう。

えへへぇ。

いや、だってノエルさんは凄い可愛いけど、私男の子好きなんだもん!

 

心の中で言い訳を言う私。

幸い2人は私の言葉を気にしている様子は無く。

私の提案を受け入れてくれた。

 

「そう!良かったわ。友達になれたことも!恋敵にならなかったことも、ね」

 

あ、うそ、アイリスさんは最後の方、目が笑ってなかった。

恋敵になったら容赦はしないと雄弁に物語っていた。

 

「も、もう、お嬢様ったら!心配性ですね!」

 

真っ赤に染まった顔を両手で押さえふるふると左右に振るメイドさん……

今、大分修羅場というか一触即発の状況だと思うんだけど、何でこの状況で自分の世界に入れるのだろうか?というかお嬢様を止めてくれよ……命の危機を感じたんだよ?

それとも、これが2人の平常運転なのだろうか?

いや、癖強すぎないか?特にこのメイドさん。何ならメンタル強者でもあるし……

もしかして私がメンタル弱者なだけなの?

まぁ、それよりも今は

 

「ひゃ、ひゃい!」

 

メンタル弱者である私にはそういうことしか出来ないのだった。

 

 




ちょっとした補足

①アイリスなら《整形》の魔法で安楽椅子を普通の椅子にすることも出来ますが、何故それをしないのかというと、アイリスにとってこの椅子はノエルからの贈り物という認識だからです。また、《整形》で別の椅子を作らないのも同じ理由です。

アイリス「ノエルが折角用意してくれたんだもの!なら使ってあげなくちゃね!(彼女が授業の際にと態々用意してくれたんだ。なら、俺はこの椅子を使いたい)

②メイドが近くに侍っていたら黒板が見えにくいんじゃ無いか?と思われるかもしれませんが、魔法学園の文字は宙に浮きます。それでも見えづらそうにしている生徒がいる場合は分裂して、それぞれの席に飛んでいくこともあります。

③アイリスが何故Eクラスにいるのか……それは…………今後本編で触れます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。