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初日を無事に終え、二日目、三日目と時間は流れる。
俺は……残念ながら未だフリージアしか友人はいないが、それでも彼女とは着々と友情を育めていると思う。
「ふぅ、今日こそ、昼食にフリージアを誘うわよ。ノエル」
「はい、頑張ってくださいお嬢様」
ノエルは握りこぶしを作り俺を応援してくれている。勇気が溢れてくるのを感じる。
友達になってから二日間、勇気が出ずに昼食に誘うことが出来なかったが、今日は誘えそうだ。
それに打算的な話になってしまうが流石にそろそろ断られる心配もないだろう。
なんせ、既に友達歴も二日、親友と言って差し支え無いはずだ。
俺は全速力でフリージアの前まで移動し、立ち塞がると腰に手を当てた。
「フリージア!今日は一緒に食事でもどうかしら?」
フリージアは突然目の前に現れた俺にびっくりしたのか肩を跳ねさせる。
けれど、直ぐに私の言葉の意味を吟味すると私の後ろにいるノエルへと視線を移した。
「折角のお誘いありがとうございます。……けれど、お二人の時間を邪魔するのもどうかと思うので……」
もしかして、この前の私の行動を真に受けているのだろうか?
ならば、丁度良いその勘違いも一緒に正すとしよう。
「言っておくけれど、私とノエルはあくまでも主従関係というだけで貴女の思っているようなことは一切ないわ!
それに、もう一つ言うのであればノエルとは昼だけでなく夜も一緒に居るのだから、一々気にかける心配はないわ」
「そうですよ、フリージア様。お嬢様と私は同じベッドで寝るほど親密な仲。
今更、昼食を他の方と共にとったところで問題などございません。それで浮気を疑うフェイズはとっくに過ぎ去っています。」
聞き捨てならない言葉に私はノエルをキッと睨む。
フリージアの前で何ふざけているの!!
「ちょっと待ちなさい?ノエル。
何出鱈目言っているの?私と貴女が同じベッドで寝ている?貴女は使用人用のベッドで寝ているでしょう!」
「はい、お嬢様が寝付くまでは使用人用のベッドに待機し、寝静まった所でお嬢様のベッドに潜り込んでいます」
………………はい?
呆然として一瞬言葉を失うが、何時までも昔の私じゃない。
ここら辺でビシッと言って主の威厳を見せなければ。
今のノエルは少し私を舐めているのだ。
だから私を良くからかう。
「誰の許可を得てそんなことをしているのかしら?まぁ主である私以外に、私のベッドへ潜りこむ許可を出せる人間なんて居ませんけどね?」
さぁ、どう答えるの?ノエル。
どう答えたって私は許さないけれどね!
罰するのは可哀想だからしないけれど、頭を撫でるだけじゃ絶対に許してやらないんだから!せめて手料理くらい作らせないと!!!
「それは……当然お嬢様ですが?」
「ふんっ、言うに事欠いて私の名前を出すなんてね。いくら私が勉強が苦手だからってノエルに命じたことなら覚えているわ。
そして当然そんな命令出した覚え………………」
ないわ。そう言おうとして、脳裏に浮かぶ入学する少し前の記憶。
『分かったわ。
なら、私と貴女が一緒の部屋で寝るというのはどう?
そうすれば今よりもずっと真犯人を見つけやすくなるでしょう?』
「……言った」
「あっ言ったんですね」
直ぐそばで私たちの会話を聞いていたフリージアが呟く。
でも、違うのだけれど、確かに言ったけれど、それには深い意味があって……
「聞いてくださいフリージア様。
お嬢様は確かにこう言ったのです。『ノエル!!俺……夜は滾って仕方が無いよ。だ・か・ら☆俺のベッドで寝ろよ……ベイベー』と」
「言ってないわよ!!今度こそホントに言ってないのだけれど!!
脚色どころか改悪じゃない!!」
私はノエルに噛みつく。今すぐにでもこの巨悪を倒さなければいけないと拳を握る。
そして、ぽこぽこと痛くないくらいに胸を殴ってやろうとして、フリージアに止められる。
「大丈夫、アイリス様。ちゃんと分かってますから?」
「フリージア!」
やっぱり持つべきものは友達だ。けっして主人を舐め腐っている使用人などではない。
私は目尻についた涙を拭くとフリージアに向き直る。
そこには何故かサムズアップしたフリージアがいた。
「私、これでも結構理解がある方だと思うので……百合ってやつですよね?
良いと思いますよ?そういうのも、あ、私、用事オモイダシチャッター」
私に背を向け爆速で去って行くフリージア。
「ちょ、ちょっと待って!話を、話を聞いて頂戴ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!」
手を伸ばすが、彼女はまるでユニコーンの如き速さで去って行ってしまい。私の手は宙を彷徨い、暫くして力なく垂れ下がった。
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「もう!貴女のせいなんだからね!ノエル」
「申し訳ありませんお嬢様。私たちの熱い情事はお子ちゃまには少し早かったようですね」
「だから、そういう根も葉もない話をしないで頂戴!特に外では!」
フリージアとの仲良く昼食プランを跡形も無くぶち壊した元凶は尚も飄々としていた。
どうすればこの難ありメイドに反省を促せるのか、真剣に考えた方が良いかもしれない。
私がそう思いながら歩いていると、廊下の端から見知らぬ女子生徒が現れる。
……それだけなら別に気にする程のことでも無いのだけれど、その女子生徒は確かに私のことを見ていた。
偶々目が合ったんじゃ無い。狙って目を合わせてきたのだ。
私は気を引き締める。それと同時に後ろにいるノエルも女子生徒を警戒するのが分かった。
「話は本当だったんですねぇ」
「話?それよりも先ずは名前を名乗ったらどうかしら?」
牽制も込めて冷たくそう言ってやれば、少女はそういえばそうだったと笑い、両手の五指を合わせる。
「私はプラティー・コウドンと言います。コウドン男爵の娘です。初めましてアイリス様。」
男爵……確か一番下か、下から二番目の爵位、だったかしら?
私と直接的な関係は無いはずだけれど一体何の用かしら。
あまり良い予感はしないのだけれど……
「そう……私はアイリス・コリアンダー公爵令嬢。それで単刀直入に聞くけれど、一体私に何の用かしら?私、暇ではないのだけれど」
「ええ、実は貴女に興味がありまして、是非私とお友達になっていただければと」
友達!
いえ、おちつきなさい私。
何だか、少し胡散臭いし、公爵令嬢の立場を目的にしているだけの可能性もある。
お友達選びは慎重に、ね。
「一応言っておくけれど、私、自分の立場を利用しようと近づいてくる人と友達になんてならないわ。それを前提に聞くけれど貴女、なんで私とお友達になりたいの?」
「ふふっ、そうですねぇ。初めは確かに公爵家の人間と言うことで興味を示しましたが、今は違います。貴女という一個人に興味を持ったんですよ。」
一個人に?
つまり、私と彼女は……友達って事?
「成る程ね。私たちが友達になるのは運命づけられていたんでしょうね」
「はっ?え、ああ、まあそうかもですね(ちょ、ちょっと、ちょろすぎじゃないでしょうか?この人。断ってくれた方が良かったんですけど………)」
「なら、そうね。一緒にご飯でもどうかしら?」
ふふふ、フリージアは逃してしまったけれど、新たな友達が出来たわ!
今度は逃げられないようにプラティーの手をギュッと握る。
それと、ノエルには釘を刺す。
「良いかしら?ノエル。プラティーの前で変なこと言っちゃ駄目なんだからね?
もし、変なこと言ったら、もうノエルとは…………三日間口を聞いてあげないんだから!」
「勿論です。お嬢様。
……お嬢様が三日も私と口を聞かないでいられるか……見物ですね。ふふっ」
「言った時のことを考えないの!私が言うなって言ったら言っちゃ駄目なの!!分かった!?」
まーったくノエルは!
いつか絶対主従関係を体に叩き込んでやるんだから!!
眉間に皺を寄せ、一度睨み付けておく。
なのに、ノエルときたら!
「ああ、お嬢様私でエッチな妄想をしないでください」
「ッしてないわよ!」
全くノエルは!!
変なことばっかり言う。
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先ほどの話通り、俺とプラティーは同じ席で食事を摂っていた。
そこは問題ない。
けれど、
「どうかしましたか?お嬢様」
いつもなら一緒にご飯を食べるノエルが今は気を利かせて立っている。
確かに、普通の主従は一緒にご飯を食べない。
けれど、
「1つ良いかしら?」
「どうかされましたか?アイリス様」
「その……ノエルを同席させても良いかしら?いつも一緒に食べてるから……」
俺にとってはノエルと一緒に食事を摂るのが普通だ。
彼女を後ろに控えさせて一人だけ食事を摂るなど俺には出来ない。
俺はプラティーに頭を下げて頼み込む。
人によっては使用人や平民、果ては下級貴族と食事を共にするなど貴族としての格が下がると思っている人がいるというのは知っている。
それでも、譲れないのだ。これで断られたら俺は彼女と友達は続けられないだろう。
その覚悟を込めていた。
「本当に、仲がよろしいですね」
「……?」
「いえ、何でもないですよぉ。どうぞ、座ってください」
そう言ってくれたので、ノエルには俺の隣に座って貰う。
けれど、それよりも一瞬だけプラティーが少し寂しそうな、羨ましそうな表情をしているように見えた。あれは俺の勘違いだったんだろか?
……杞憂かもしれない。出会ったばかり、まだ親友の域に達したわけではない。
けれど、それでも……
「もし何か困っていれば直ぐに言うのよ?助け合うのが友達なんだから」
俺がそう言った刹那、プラティーは瞳を大きく開ける。けれど、それも一瞬、俺が元勇者でなければ見逃していただろう。
その位の時間。けれど、確証は得た。
「そう言っていただけるのは光栄ですぅ。けれど、私は何も困っていないので大丈夫ですよ。
あ、それよりも、今、ケリア王太子殿下とフリージアさんと第三庭園で猫の世話をしているのですけど、フリージア様もどうですか?
あ、野良猫が大丈夫なら、ですけど」
露骨に話を逸らされてしまった。
けれど、いずれは話してくれるかもしれない。
今は彼女との友情を育むことに勤しむとしよう。
先ずは折角誘ってくれた猫の世話か
「大丈夫よ。猫だろうと獅子だろうとドンとこいよ!」
俺は胸を張るとそう答えた。
「いえ、流石に獅子がいたら先生を呼んでください」
プラティーには冷静にそう突っ込まれてしまった。
……確かに、普通はそうよね。
でも、ちょっとした冗談のつもりだったのよ……。
もう友達になってから30分以上は経っているから、そろそろ冗談を言い合っても良い間柄じゃない……もしかしてプラティーは冗談が通じないタイプなのかしら?
私は友達に対するファーストジョークが滑りしゅんとするのだった。
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授業が終わった私はいつも通り第三庭園へと向かう。
原作でもここまで頻繁に第三庭園に行ってはいなかったと思うんだけど、私とケリア様、そしてプラティーちゃんの三人は誰が誘うでもなく、何故かいつもこの第三庭園に集まっていた。
けれど、この日、新たなメンバーが私たちの輪に加わることになる。
白い髪に黄色い瞳の少女が第三庭園へと訪れたのだ。
それもプラティーちゃんと共に。
プラティーちゃんの友達、だろうか?
「こんにちはプラティーさん。そちらの方はどなたでしょうか?」
私が首を傾げ、尋ねると白い髪の少女は何が可笑しいのか大きな声で笑う。
清楚な見た目からは想像できないくらい大きな口を開けて笑うものだから、不快感よりも困惑が勝つ。
それに、暫くすると後ろの使用人の方が彼女を窘めてくれた。
使用人がしっかり注意出来る関係性というのは良い主従だと原作セージ様が言ってたな。
「もう、変なことを言うわね。リンデンよ!!忘れちゃったの?」
いや、誰?
少なくとも自分の知り合いにリンデンという方はいなかったと思うけど……。
でも、今家名を名乗っていなかったから、もしかして同じクラスの平民の女の子?
いや、でも、使用人がついてるし、貴族っぽいんだよな。
もしくは平民は平民でも商人の子供と言う可能性もあるのか?豪商なら使用人を雇っていてもおかしくないし……。
私がどう対応すべきか悩んでいるとプラティーちゃんが耳打ちをしてくれる。
「あの方はリンデン・ビバーナム伯爵令嬢。コンドン男爵家はビバーナム伯爵家に多くの借りが……ってそれは良いですね。えぇっと、この前あの方が第三庭園に興味を示したので、今回は直接来て貰ったんです。
あと、馴れ馴れしいのは元からなのでお気になさらず」
成る程、大分ぼかしていて全容は見えてこないけど、どうやらラプテーちゃんも苦労しているようだ。
「二人とも何をしてるの!早く猫の世話を教えて頂戴!」
そう呼びかけてくるリンデンに私とプラティーちゃんは互いに顔を合わせる。
随分とお転婆なお嬢様だ。
そう思っていた所、後ろからケリア様の声がする。
「あれは……確かリンデン・ビバーナム伯爵令嬢か……。前あったときとは大分雰囲気が違うが……」
「おはようございます。ケリア様も来てたんですね」
「いや、今来たところさ。」
そう言うと私たち三人は歩き出す。
リンデンのいる広場の中心へと。