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私の学園生活は概ね悪くなく過ぎていっていた。
本来の予定ではアイリスと友達になるということは無かったけれど、それだって悪い変化では無かっただろう。
第三庭園にプラティーがいたとき、それとリンデンが来たときは多少焦ることもあったけど今の所ケリア様に色目を使っている様子もないし、そこまで悪い状況では無い。
むしろ、サークルのような形になってケリア様の警戒も薄くなっているような気がする。
私自身今の状況に居心地の良さを感じていた。
そうだ、今度アイリスも誘ってみようかな?
食事とかも断っちゃうことも多いし、一緒に居られる時間を取りたいと思った。
だって、何だか彼女だけのけ者にしているみたいですわりが悪いし、猫に触れるかは分からないけれど、触れるなら一緒に遊びたい。
いや、世話は遊びじゃ無いけれど……
そんなことを考えながら教室の仲に入ると何故だか今日はやけに教室が騒がしかった。
入った際にただ事では無いと悟ったくらいだ。
私は比較的親しい隣の席の女の子に事情を聞くことにした。
「ねぇ、なんかあったの?」
「え、えぇっと、あのね」
そういうと、これだけ大きな声で騒いでいる内容であるにも関わらず隣の少女は私の耳元に口を近づけ囁くように伝えてきた。
「あのね、アイリス・コリアンダーが下級貴族の子をいじめてたんだって……」
「嘘だ」
そんな筈は無いだろうアイリスがそんなことをするはずが無い。だって平民である私とも友達になってくれた子だ。
そんなことをするはずが無い。
「え?」
「…あっ、何でも無いよ?」
私の言葉に狼狽える少女に誤魔化しの笑みを向けると私はアイリスが来るのを待った。
本当の話を聞かないといけない。
だけど、結局その日アイリスがクラスに来ることは無かった。
だから、私は直接彼女の部屋へと押しかけた。
何か話を聞ければ力になってあげられるかもしれない。
そう思って訪れたのだけど、部屋を何度叩いても返事は返ってこなかった。
他に、他に事情を知る方法はないか……。
私は必死に考えを巡らせる。そしてふとケリア様の顔が浮かんだ。
彼はこの国の王子。
学内の問題なら既に耳に入っているかもしれない。
一度その案が脳裏に浮かべば居ても立っても居られなくなり、私は第三庭園へと向かった。
けれど、この時の私に浮ついた思いは無かった。
走って、彼の元へと向かうと、詰め寄るようにケリア様を問いただした。
「アイリス!アイリス・コリアンダーの件で何か知っていることはありませんか!」
私の手は自然と胸倉を掴んでおり、あろうことかこの国の王太子を睨み付けていた。
その剣幕にケリア様は気圧されながら、それでも彼女のことについて語ってくれる。
「ああ、そのことに関してなら、多少は知っている。
そ、それと、手を離してくれ。
他の人に見られたら君が危うい立場になるだろう?」
そう言われて、私は少しずつ胸倉から手を離し、彼から距離を取る。
「……すいません。それで、彼女について知っていること話して貰えるんですよね。」
「……ああ、それについてはまぁ、問題無いか……。
既に校内に広がっているし、君と無関係の話と断じることも出来ないしな。
それで、今回の件についてなんだが、アイリスがプラティーをいじめていた、そうだ。
それをリンデンが俺に報告してきた。」
アイリスが、プラティーをいじめていた?
それにリンデン?
私は三人の友達の顔を浮かべて、頭がおかしくなりそうになった。
それを必死に堪える。
額に手を当てて、必死に彼女たちのことを、事情を整理する。
なんでリンデン?
いや、彼女とプラティーは確か家族同士の付き合い。
だから、出てきても可笑しくはない。
だけれど、アイリスがなんでプラティーを、そもそも一体どこで知り合ったというのか……。
今までそんな素振り見せていなかった。
アイリスはいつも通り私と接していたし、プラティーもいじめられている様子なんて微塵も感じさせなかった。
やっぱり、何か間違っているんじゃないか?
だって、アイリスがそんなことをするはずが無い。
「それで?」
「なに?」
「それで……アイリスは今どこに?
王太子様本気でその話を真に受けているわけでも無いでしょう?」
「君……今日は様子がおかしいぞ?」
おかしい?
友達が絶体絶命なのだ。
気が動転するのの何がおかしいというのか……。
私は彼女の無罪を証明しないと。
「少なくとも、彼女の人物像からすれば、こういった事件を起こすのも時間の問題だと思っていた。
それと、アイリスに関してはリンデンが身柄を拘束すると言っていた。
公爵家の力で揉み消されたら適わないと言ってな」
馬鹿か!この王太子は!!
彼女のことを何も知らない分際で!
あの子がそんなことをするはずがないのだ!
「少し聞きたいのだが、君は何でそんなに彼女の事に必死になっている?
いや、同じクラスということは知っているし、友達になりたいと言われたと言うことも知っている。
けれど、君がそこまで取り乱す理由が俺には分からないんだ」
はっ、分からない。
友達を大切に思っているのだから、ピンチになったら焦るのは当然だろう?
「私は友達を信じているだけですよ?王太子殿下?」
「だが、それなら、プラティー達の言い分は信じないのか?」
プラティー達は騙されているのだ。
何者かの手によって
そうとしか考えられない。
それ以外の可能性は存在しない。
「申し訳ありません。私はリンデンさんにも話を聞いてこないといけないので」
それだけ言うと、会釈をしてリンデンの元へと向かう。
彼女たちは善良だ。
話を聞きに行けば、色々と教えてくれるはずだ。
そもそも、彼女と私の仲だ。
きっとアイリスの人柄を知れば彼女を解放してくれるかもしれない。
そう思って、私は彼女の寮の一室へと足を向けた。
「すいません!フリージアです!!リンデンさんはいますか?」
私は強く、強く扉を叩く。
ノックと言うには少々手荒で貴族達からすれば眉唾物かもしれないが、それどころじゃないし、彼女なら許してくれるだろう。
「うるっさいわね!誰かしら!?こんな品性の欠片もない猿みたいなノックをする奴は。」
そう言うと、勢い良く扉が開けられ、私はドアにぶつかり勢い良く尻餅をつく。
どうやら、扉を開けたのは使用人だったようだ。
中から眉を顰めるリンデンが出てきた。
「あっ、リンデンさん!アイリスさんの話について詳しく聞かせてください!」
「はぁ、ていうか誰?あなた…田舎くさい……」
私を見下ろしながらそう呟くリンデン。
けれど、私をまじまじと見ると目を丸くする。
「……あら、その容姿に名前……第三庭園のフリージア?であってるかしら!」
どうやら、私だと気付いてくれたようだ。
私は頭をぶんぶんと振り、頷くと話を促す。
「それで!アイリスさんについてなんですけど……」
「ハッ、あなたに話す事なんてないわ。さっさと扉を閉めなさい」
冷たくそれだけ言い捨てると、使用人の手によって扉は閉められていく。
待って!
自然とその叫びが口から飛び出たけれど、彼女たちが再度扉を開けてくれることは無かった。
何が起きてるんだ。
何で彼女はあんな態度を…………。
いつも第三庭園で見る姿とは全然違う。
やっぱり、彼女達は何か大きな問題を抱えているのだろうか?
だから、私を突き放すようなことを言ったのだろうか?
いや、今は兎に角行動だ!
私は次にプラティーの元へと向かう。
庭園には王太子しかいなかったから、彼女も寮だろう。
そう思い、彼女の元まで急ぐ。
けれど、寮まで来た私はまたも門前払いを……いや、今度は顔すら出してもらえなかった。
何が、何が起こっているんだ!
その後もどうにかして接触を試みようとしたが、全くと言っていいほど上手くいかなかった
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昨日は全然上手くいかなかった。
だから、私は方法を変えることにした。
そう、プラティーだって授業は受けている筈なのだから、授業終わりに捕まえればいいのだ。
そう思い、私は適当な言い訳を使い途中で授業を抜け出した。
後は彼女のいるBクラス前で待ち伏せすればいいだけの話だ。
そう思いながら廊下を歩いていると思いがけない人物から声をかけられることとなった。
「あれ?フリージア様?こんな所で何をしてるんですか?」
ちょこちょこと走り寄ってくるその人物は確か、ルビアの専属メイドのトリトマだ。
彼女こそ何をしているのだろうか?
私は校庭にある時計に目をやり、まだ時間に余裕があることを確認すると彼女に話しかける。
「トリトマちゃんこそどうしてこんな所に?」
私はもしかして彼女も何か今回の件に関わっているのでは無いかと警戒する。
けれど、彼女は邪気を感じさせない笑顔を私に見せた。
「私はルビア様より授業中は好きにしていいと言われているので、校内を探検していたのです!」
「そう……そうなんだ。
じゃあ、探検頑張ってね?」
私は彼女に怪しいものを感じなかったから、直ぐにBクラスへと向かおうとした。
けれど、トリトマは私の袖を掴み、歩みを止める。
「待ってください!困りごとがあるなら、力になりましょうか?」
……その気持ちは嬉しい。
けれど、彼女に一体何が出来るというのか……。
私は曖昧に笑うと、彼女の手をそっと外し、首を横に振った。
「気持ちは嬉しいけど、今回の件はトリトマちゃんには少し早いかもしれない」
「何でですか?」
「えっと……」
なんと応えればいいか、というよりも、あまり時間を割かせないで欲しい。
多少余裕があるとはいえ、早く向かわなければ授業のチャイムが鳴ってしまうかもしれない。
私はそんな焦燥感と苛つきを感じながら、曖昧に笑う。
その様子をジッと見ていたトリトマちゃんは顎に手を当てると、思いがけない言葉を発した。
「もしかして、アイリス・コリアンダー公爵令嬢がプラティー・コウドン男爵令嬢をいじめていたって話についてですか?」
「え、な、なんで……
なんでそれを知ってるの!」
私は彼女の肩を思い切り掴む。それにトリトマは一瞬顔を歪めるも、私の目をしっかりと見据えてくる。
「落ち着いてください。ルビア様のメイドとして情報収集を欠かしていないだけです。
それと、もし本当にお困りなら…………もう一度言います。
手を貸しましょうか?
私、情報収集に関しては貴女よりも一日の長がありますよ?」
そう言うトリトマはいつもとは違い非常に大人びていたように見えた。
私はその雰囲気に一瞬呑まれかけるも、直ぐに返答する。
「……お願い。手伝って」
今は何よりも情報が必要だった。何が起きているのかしっかりと把握しないといけなかった。
だからこそ、彼女の力は有用だった。
トリトマは大きく頷くと先ほどの雰囲気は何だったのかという程に幼く一見無垢に思える口調を作った。
「よ~し、それではトリトマ探偵団出動ですね!」
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トリトマと協力関係を結んだ私は元々の予定通りプラティーを待ち伏せした。
「プラティー!!」
心なしか元気がなさそうに見える彼女。
やはり、何が裏がある気がしてならない。
彼女は私の声に反応し、顔を上げると一瞬驚いた表情を見せたけど、直ぐに私の前から立ち去ろうとする。
「まって!」
ここで立ち去れては困る。
私は彼女の手を握る。
ここで逃げられる訳にはいかない。
しかし、私の手はあっさりと彼女の手から剥がれる。
彼女が私の手をはね除けたのだ。
「すいませぇん。次の授業の準備と予習がしたいので~今度でいいですか~」
いつもとは違う話し方。
冷たい声に距離を感じてしまい一瞬固まる。
何で?何でなの?プラティー……
そして、彼女は外に置いてあったロッカーから教科書を取り出すと自分の席に戻り、教科書を開く。
私は意を決して教室の中へと入ろうとした。
けれど、
「ちょっと、ここはBクラスなんだけど?部外者が勝手に入んないで貰ってもいいかしら?」
そう言い、入り口で通せんぼする生徒達
それでも私は彼らを押しのけて入ろうと決断し、一歩を踏み出す。
「そこまでです。一端帰りましょう?」
トリトマがそれを止めた。
協力すると言って何で止めるのか?
本当は彼らと結託して私の邪魔をしようとしているんじゃ無いのか?
そう思ったのだけれど、彼女は耳元で「分かったことがある」と言うと、私の手を取って歩き出した。
暫く歩くと、人通り少ない空き教室についた。
その教室の扉を開けると、中へと入り、黒板の粉受けの下の部分を弄り出す。
すると、小さな振動と共に粉受けの下に入り口が出来た。
恐らく隠し部屋の1つだろう。
彼女はそこにためらいも無く入っていく。
「行きましょう」
私も当然それに続いた。
そして、入り口を潜った後は、隠し部屋にあったレバーを引いた。それと同時に閉まる入り口。
そして完全に扉が閉まるのを見届けた彼女は私に視線を合わせてくる。
「それで何か分かりましたか?」
「は?」
『何か分かりましたか?』というトリトマに私はクエスチョンマークを頭に浮かべた。
分かったことがあると言ったのはトリトマの方だろう?
それとも、さっきのは嘘だったのだろうか?
「騙したの?」
私は彼女を睨めつける。
しかし、彼女は私の怒りをどこ吹く風のように流す。
「あの場はああ言うほか無かったんですよ。
気付いていましたか?あの時教室の前で入り口を塞いでいた生徒の殆どがリンデン派閥でした。
あの場で無理に教室に侵入すればアイリス・コリアンダー公爵令嬢の件について嗅ぎ回っており、尚且つアイリス・コリアンダー公爵令嬢と親しかった貴女は下手すればこんな噂を流されていたかもしれません。
『フリージアはアイリスが虐めていたと言う事実をプラティーに撤回させようとしている』とね。
そうなれば我々の旗色は今とは比べ物にならないほど悪くなっていたでしょう。」
「っなら!私たちは何も収穫を得ることも出来ずに帰ってきたってこと!?」
「収穫があるか無いかは貴女次第でしょう?
私よりもプラティーと深く関わりのある貴女から見て今の彼女はどうでしたか?」
彼女の行動や言動に思うところが無いわけではない。
あまりにも悠長に構えすぎている。
けど、他に出来ることがない。今は大人しく従っておくべきか……。
私は彼女に言われたとおり、あの時のプラティーのことを思い返してみる。
「……先ず口調が可笑しかった。
いつもはあんな如何にも胡散臭い感じに語尾を伸ばしたりはしてない。
それと、私に冷たかった。」
「ふむ、先ず、冷たいというのは……貴女がアイリス・コリアンダー公爵令嬢と仲がいいことを考えれば別段可笑しいことはないでしょう。
単に警戒されていた、と考えれば……ですが……。
ただ、口調に関してはふむ……。
あの口調で話すことは今までに一度もありませんでしたか?」
一度も……少なくとも私と話すときは無かった。
他の人……そういえばリンデンと話すときは……
「リンデンさんと話すときはあんな感じだったと思う。
確か……だけど」
「……成る程……。
……そういえば、フリージア様は良く第三庭園でリンデンさんやプラティー様と会っていましたよね。
あそこでは何を?」
「只の野良猫の世話だけど?」
「部活動みたいなものですか?」
「まぁ、学校の許可は取っていないけど……そんな感じかな?」
トリトマは私の話す内容を一言一句逃すこと無くノートにメモしていく。
そして、メモを閉じて、私の方を向く
「分かりました。
取りあえず、フリージア様は今まで通り第三庭園での活動も継続してください。
そして、何か異変があれば漏らすこと無く私に知らせてください。
いいですね?」
「……それはいいけど、トリトマちゃんは何をするの?」
「私は情報収集を続けていきます。
それと、フリージア様は情報収集をしないでください。
現状あなたはリンデン派閥に警戒されていますから」
何故私が情報収集をしてはいけないんだ!
心はそう思うけど、理性は彼女のいうことに一理あると頷いている。
悔しいし、反感が無いわけでは無いけど、今は彼女の指示に従うべきか。
私は理路整然と話す彼女を信じることにした。
「えと、それとごめんね。もう授業終わりだし、本当はルビアさんの所に戻んないとなんだよね?」
「いえ、まぁ……ルビア様は殆ど私を必要としませんし、今は貴方の方を手助けする方がいいと判断しただけですので」
方針が決まり、やるべきことが見えてきた段階で漸く私は彼女が仕事を放棄して私に協力してくれていることに気づけたのだった。