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「可哀そうじゃないですか…なんでそんなことするんですか?」
叩き落とされた猫は毛を逆立てながらもトリトマちゃんの方へと駆け出す。
その猫を膝を曲げて優しく抱き上げるトリトマちゃんの顔は眉を寄せて瞳を震わせ、慈愛に溢れたシスターのように見える。
けれど、彼女は恐らくだけどこうなることを予想していたように見える。
私は事態について行けずなんて声をかけていいか思い悩む。
トリトマちゃんに対し、怒ればいいのか、それとも、リンデンさんがなんでそんなことをするのか問い質せばいいのか…先ずは叩いたリンデンさんを叱ればいいのだろうか?
理解がついて来ていない。
常識だと思っていたことが覆された。
リンデンさんだと思っていた人は違う誰かで、今目の前にいる人がリンデンさんで、トリトマちゃんは一体何を考えているのかさっぱりで、怪しい事この上ないのに彼女は私の為に行動していて、けれど彼女は猫が痛い思いをするシチュエーションを作った元凶で……けれど、猫を労わるような素振りを見せていて……。
何が何だか分からなかった。
私は只々体も思考も止まったまま事態を眺めるしか出来なかった。
「なんで何時もみたいに撫でてあげないんですか?抱き上げてあげないんですか?」
トリトマちゃんは困惑の表情を崩すことなく一歩前に足を踏み出し、リンデンさんに近寄る。
それに合わせるように顔を恐怖に引き攣らせたリンデンさんは横に首を振りながら一歩後ろに下がる。
しかし、後ろには壁があり、壁に当ったリンデンさんは後ろを振り向くと先ほどと比べてもより一層顔を歪める。
元来の綺麗な顔は鳴りを潜め、ぐちゃぐちゃに丸めた紙を再度広げた時の様な皺くちゃな顔をしている。
おでこから鼻筋にかけては特に酷く、アイロンが服の皺を伸ばすことが出来るように人間の顔の皺を伸ばすことが出来る道具が存在したとしてもあの皺を伸ばすことはきっと出来ないだろうと言えるほどにしっかりと深く、濃く刻み込まれていた。
アニメなどで例えるとギャグパートで劇画風になる、という表現がしっくり来た。
それ程までの変容ぶりだった。
「や、辞めて!お、お願いだからそれだけはやめて頂戴。
薄汚い野良猫なんて私に近づけないで頂戴!びょ、病気が伝染ってしまうでしょう?
あ、あなたもほら!その野良猫を捨てた方が良いわよ!
感染症は野生の動物が運んでくることが多いのよ?」
その台詞に少なくない動揺が私の中で生まれた。
確かに野生の動物は衛生的な面で言えばあまり良いものでは無いし、感染症を運んでくるというのも嘘ではない。
貴族の間でそう言う話が広がっていたのも原作知識で知っている。
けれど、今まであれだけ一緒に世話をしたのに今更そんなことを言うことが信じられなかった。
いや、彼女が私の知っているリンデンさんじゃないというのは会話の流れから察してはいた。
けれど、それでも私の目には前の彼女も今までの彼女も等しくリンデンさんに見えているのだ。
直ぐに彼女を別人と割り切るなんて不可能だろう。
でも、今の言動からそれは決定的なものになった。
追いつかなかった心が無理やり引っ張られ、理解させられる。彼女はリンデン・ビバーナムじゃない、いや、私の知っているリンデンとこのリンデンは別人であるのだと。
「なら、貴女が第三庭園に行っていなかったって認めてくださいますか?
第三庭園に足を運んでいたのはアイリス・コリアンダーだと」
「ッ!
それとこれとは話が違うわ!…いえ、私が第三庭園に行っていなかったのは認めるほかないでしょう。
けれど、第三庭園に行っていたのはアイリス・コリアンダーではなく、私の派閥の人間よ。
私が指示して、第三庭園で活動させていたのよ。ケリア王子と懇意にしたくて!」
そう言いながらケリア王子をちらりと見るリンデン。
その顔には先ほどまでの皺は綺麗さっぱり魔法のように消えており、何処にでもいる、と言うには髪もサラサラで肌も透き通った白でかなり容姿が整っているが、頬を赤らめた一人の乙女がそこにいた。
その主張を聞いていたケリア王子は先程の野良猫への仕打ちが気に入らなかったのか、眉を寄せて険しい顔でリンデンを見ていた。
完全な拒絶とまではいかないまでも複雑そうな心情がその瞳からは感じられた。
ケリア王子は原作でも純粋な好意を無下にするタイプではないし、自分に好意を向けてくれたことに関しては満更でもない、と言う程プラスではないにしても悪くない感情を抱いていたのだろうが、それよりも猫への仕打ちが見過ごせないと顔にかいていた。
人間関係は単純な足し算、引き算では測れないからこそあんな表情にもなってしまうのだろう。
私としては既にリンデンの評価は地の底にまで下がっているので既に彼女に関しては関心の埒外にいる訳だが…。
私はそれよりもトリトマちゃんが話していた第三庭園に来ていたのがアイリスだったという話に興味を持ち、手を挙げる。
すると、口元に手を当てているトリトマちゃんがこちらに視線を寄こして来た。
…あの口元の奥には笑みを隠しているのだろう。
彼女に関しては一度説教をした方が良いだろう。
特に、小動物の扱いに関して。
今日の会話で性格の歪みを感じずにはいられない。このまま大人になったら、将来自分や周りの利益の為に、もっと多くの生き物を傷つける気がしてならない。
口元から手を離した彼女は愛くるしいニッコリ笑顔を浮かべる。
「どうしましたか?フリージアさん」
「アイリスさんが第三庭園に来てたっていうのはどういうこと?」
「その件に関しては、予想です。
ですが、私が聞き取り調査を行った結果、アイリス・コリアンダー公爵令嬢とプラティー・コウドン男爵令嬢を見たと語った
「ッ!さっきと話が違うじゃない!!」
私とトリトマちゃんの会話にリンデンが割って入る。その姿は野良猫を抱えていることも忘れて今にもトリトマちゃんの肩を掴んで壁に押し付けるのではないかと言う程に鬼気迫るものがあった。
顔もまた先ほどとは別ベクトルで歪んでいた。
般若と言うには焦りが強く出ていたが、それでも間違いなく怒りの感情も有しているのが分かった。
トリトマちゃんはそんなリンデンにお構いなしで涼し気な視線をケリア王子に向ける。
まるで相手にしないというのはこういうことを言うんだと言外に伝えているようだった。
トリトマちゃんにはリンデンが見えていないんじゃないかとすら思う。
「王太子殿下。気になるのであれば後で存分に確認してくださいね?」
「…分かった。」
「待ちなさい!まだ私の主張が嘘だと断定された訳ではないでしょう!!
そもそもコリアンダーは公爵家!例え本当は見ていなくても彼女に恩を売ろうと嘘の証言をするかもしれないでしょう!?
もし、嘘だったらどうする気?プラティーはまた苛められることになるじゃない!
今度は頼れる人もいない中で耐え続けろっていうの!?」
手を大きく振るい、次いで胸に手を当てる。
ここだけ切り取るとまるで友人を助けるために孤立無援になりながらも必死に戦うヒロインのようだ。
けれど、猫を叩く姿を見てしまった私からするとどこか薄っぺらいというか白々しい気がしてならない。
とはいえ、だ。
仮に、あり得ないこととはいえ、彼女の言にも多少の事実が込められていたのなら事だ。
完膚なきまでに彼女の主張が砕け散るまでは彼女の話に乗ってあげるべきだと思った。
そして、それはトリトマちゃんも同様だったようだ。
唇に指を当てた彼女はそれはもう嗜虐心を隠すことのない。
いや、ひくひくと動く唇から隠そうとはしているが隠し切れていない顔をリンデンさんに向ける。
「なら、
それが出来ないのであれば、一度アイリス・コリアンダー公爵令嬢を解放し、彼女からも話を聞く必要があるでしょうね?
なんせ、彼女が無実の可能性が浮上してきたんですから」
リンデンは押し黙り、射殺さんばかりに彼女のことを睨みつける。息も先程よりも荒く、彼女が追い詰められていることが分かった。
それは私だけではなく、ケリア王子は彼女が何か仕出かす前に止められるように身構えていた。
彼は攻略対象の中でも万能型に属している。
少なくとも只の伯爵令嬢ではいとも容易く拘束されることだろう。
けれど、リンデンは暫くして目を見開くと口元を歪めた。傍から見ても何か思いついた、と言うのが伝わって来た。
貴族はポーカーフェイスを欠かさないものだと原作では言われていたが、どうやらそれすらも忘れるほどに追い詰められているのだろう。
「貴女、論点をずらしていたわね?
仮にコリアンダーが私の代わりに…いえ、私に変装して第三庭園に通っていたとしても、それは
貴女はコリアンダーがプラティーと共に第三庭園で活動していた場合、第三庭園で見せた二人の仲の良さと私が影武者をコリアンダーに頼んだという事実を隠したことから犯人である、と睨んでいるようだけど…
第三庭園の件で距離が近くになり、何かコリアンダーにとって気に入らないことが出来たことで苛めの対象になった…というバックグラウンドも考えられるわ
つまり、私を犯人とする証拠にはならないのよ?」
「弱いですね。確かに断定することは出来ませんが、疑う材料としては十分でしょう?それに、もし貴女が真っ白であるなら私が『第三庭園に足を運んでいたのはアイリス・コリアンダーだ』と主張した際に肯定すべきでした。
そして、今行った話をすべきだったんです。
その場合でも、私はプラティーさんを呼び、リンデンさんと口裏を合わせられない状態で事実確認をしたでしょうが…少なくとも今の無茶苦茶な主張よりは一考の価値がありました。
しかし、貴女は先程否定を選んだ。
プラティーさんのことを思うのなら、そして自分に疑いの目を向けられないためには正直に答えるべきだったに、です。
矛盾なく説明するなら虚偽の報告なんてすべきでは無いですしね。
それと、確かに初めは第三庭園にいたのがリンデン・ビバーナム伯爵令嬢であろうが、その派閥の人間であろうが、アイリス・コリアンダー公爵令嬢であろうが、アイリス・コリアンダー公爵令嬢がプラティー・コウドン男爵令嬢を苛めていたという事実を否定する材料足りませんでした。
けれど、貴女が影武者はアイリス・コリアンダー公爵令嬢ではないと否定してくれたことでここがアイリス・コリアンダー公爵令嬢の無実を証明する分水嶺になったんですよ」
「…なんですって?」
長々と得意げに話すトリトマちゃんとは対照的にリンデンさんは唖然としたように、思考が追い付かないという様に口を閉じることも忘れて、動揺から一歩後ろに引き、壁にぶつかる。
トリトマちゃんは抱えていた猫を優しく地面に降ろすとそれはもう爽やかな笑顔を浮かべた。ただそれは一周回って人を小馬鹿にする笑みだった。
今日までで一生分の笑顔を見たんじゃないかって気さえした。
「だって、もしこれでアイリス・コリアンダー公爵令嬢が第三庭園に来ていたという事実を証明できれば、貴女にはそれを隠さないくちゃいけない理由があったということになります。
それはなぜか、自分が第三庭園にいたリンデンではないと気づかれたくなかったから?違いますね。それなら、影武者がいると口にした時点で意味が無くなっている。ならアイリス・コリアンダー公爵令嬢を利用しておいて最終的に公の場で断罪することになってしまったことに対する後ろめたさから?
確かに可能性としては考えられます。
けれど、そうなってくると疑問が浮上してきます。
先ほど申しましたが、615人中388人がアイリス・コリアンダー公爵令嬢とプラティー・コウドン男爵令嬢が一緒にいたと言っており、その内、120人が放課後に目撃しており、34人は苛めの現場を見たと語っていました。
ならば、残りの234人はなんて答えたのか…正解は昼休みに仲良く食事を摂っていた、ですよ。
仮にプラティー・コウドン男爵令嬢のことをアイリス・コリアンダー公爵令嬢が苛めていたのであればそれは不可解だと思うんです。
影武者として働く時以外に共にいる理由が無いでしょう?そして仲が良いのであれば断罪する必要はない。貴女個人に彼女を断罪したい理由がない限りは…。
さて、貴女はどう思われますか?」
ジッとリンデンを見据え、問いかけるトリトマちゃん。
リンデンはメイドを自身の前に侍らせ猫が向かって来た時のための壁にしながらも先程までの取り乱し様が嘘のように冷徹な瞳でトリトマちゃんを睨み返す。
自身が猫に近寄られる不安が無くなったことで余裕を取り戻したみたいだった。
そして、余裕を取り戻したリンデンはトリトマちゃんの言葉を受け、それを鼻で笑う。
「いいかしら、アイリス・コリアンダー公爵令嬢は公爵家の人間よ?
男爵家であるリンデンを無理やり従わせていた可能性が考えられるわ。
それにあなた先ほど仲良く昼食を摂っていたと言っていたけれどそれって目撃者たちの主観でしょう?
周りから見れば仲睦まじくしているように見せて苛めてくる人間だっていると思うのだけれど、それに……公爵家である人間が誰かを苛めていたとして、それをあなたのような一使用人に正直に伝える人間が一体どれだけいるのかしら?」
攻勢に出たリンデンの鋭い指摘、それにトリトマちゃんは一瞬だけ顔を顰める。
私はアイリスがそんなことをする人間では決してないことを知っているが、それもまた私の主観であり、この話し合いの場では大した効力は持たない。
ケリア王子は今の所静観を貫き話の行く末を見守る方針のようだ。
私はジッとトリトマちゃんを見つめる。
彼女だけが頼りだ。
今の私ではリンデンとの会話に割って入った所で揚げ足を取られてしまうことだろう。今までの会話から冷静に分析する。
そんな中、トリトマちゃんはあからさまなまるで見せつけるような大きいため息をすると肩を竦め、馬鹿にするように肩眉だけを上げた。
「やれやれですね。ここまで往生際が悪いとは……。
公爵家なら男爵家を従えられる。
ええ、確かにそうですね。
ですが!それは伯爵家であるあなたも同じ……いえ、コウドン男爵家を自身の派閥に取り込んでいるあなたの方がコウドン男爵家に対する発言力は高いですよね?」
「何が言いたいのかイマイチ分からないわね?」
腕を組んだ状態で頬に指を当て可愛らしくリンデンさんは柔らかな笑みを浮かべている。
その仕草からは彼女を信じてはいけないというそこはかとないうさん臭さを感じると共にまだまだ、自身は追い詰められてなどいないという圧倒的な自信が垣間見えた。
そんな中、トリトマちゃんはのらりくらりと自身の言及を躱してくるリンデンに嫌気がさしたのか自身の頭をガシガシ乱暴に掻く。
それにより、彼女の整えられたサラサラの髪が酷く乱れてしまうが本人は些かの躊躇すらしていなかった。
「…本当にあなたは…良くそこまでいけしゃあしゃあと思っていないことが言えるものです。
悪魔か怪物なんじゃないですか?」
乱れた髪はトリトマちゃんの目元を隠す。けれど、それでも目元を隠す髪の隙間から軽蔑の色が濃く表れた瞳がリンデンを突き刺す。
そして、乱雑に前髪をどかすと、二度ほど深呼吸をし、語りだす。
「プラティー・コウドン男爵令嬢に命令をしてアイリス・コリアンダー公爵令嬢に接触させる。友好関係を築かせた後は第三庭園に誘導する。
そうすれば、貴女はこの国の王家筋であるケリア・ブルーム王太子殿下との友好関係を築け、それと同時に自身よりも王太子殿下と身分が近く同い年であるアイリス・コリアンダー公爵令嬢を排除できる。
こう考えれば全てが説明できるんですよ。
プラティー・コウドン男爵令嬢とアイリス・コリアンダー公爵令嬢が共に食事を摂っていたことも、リンデンの姿をした何者かがフリージア様に初見で友好的に話しかけたことも*1、疑われているにも関わらず貴女がその人物を今すぐにここに呼びつけられないことも、放課後に二人の目撃情報があったことも反対にアイリス・コリアンダー公爵令嬢がプラティー・コウドン男爵令嬢を苛めていたと証言した人間の殆どがリンデン派閥であったことも」
「あなたの妄想の中ではそうかもしれないわね?けれど、それならアイリスは何のために私のふりをしたのかしら?」
確かに、アイリスは何のためにリンデンのふりをしたんだろう?
私からしてもトリトマちゃんの言い分が少し不可解だった。
だって、初手で私と親しく接したら正体がバレちゃうかもしれないし…
「…確かにそこはずっと引っかかっていました。そもそも、公爵家というこの国でも指折りに高貴な身分であるアイリス・コリアンダー公爵令嬢が
「はぁ、一体どうやって?魔法を使ったとしてもそんなことは出来ないでしょう」
「ええ、魔法では出来ません。けれど神具であればどうでしょう?不可能とはいえないんじゃないですか?」
「ッ!!それはそうかもしれないけれど、そんなの当たり前でしょう!!!」
「本気で言っているのか?トリトマ嬢?」
リンデンは怒りからか顔を真っ赤に染めて、息を荒げながら怒りを露わにする。
あの姿を淑女と言うのは些か躊躇いが生まれてしまう位には酷い。
それに対し、ケリア王子もまた嘘を許さないという気持ちが現れているのか、今までとは比べ物にならない程厳かな声を出す。
実際、その位驚くべきことだ。
神具とは効果によっては国一つ揺るがすほど強力な正に神の奇跡。
そんなものを個人で所持するなど正気の沙汰でない。間違いなく国に対する背信行為だ。
当然このブルーム王国でも貴族が手に入れた場合は速やかに王家へと納めなければならないという決まりがある。
その約定を本気で守っている貴族が一体ブルーム王国史でどれだけいたかは別としても所持しているとバレた場合は直ぐに回収されるべきものだ。
それをリンデンが?
まともな貴族ならいくら愛娘の幸せのためとはいえ、こんな下らないことに使わせるとは思えない。
「確証は、ありません。
けれど、そうでもなければ説明が出来ません」
「はっ!それは自分の言葉が妄想と言っているのと同じじゃないかしら?」
「ケリア王太子殿下
貴方はどうお考えですか?」
ケリア王子へと視線を移すトリトマちゃん。
これが話し合いの序盤で切り出されていればケリア王子はトリトマちゃんの主張を鼻で笑っていただろう。
けれど、第三庭園であったのがリンデンさんでは無かったという事実、プラティーちゃんとアイリスの関係、リンデンが第三庭園に通っていた人物をここに連れ出せない理由、ボイスレコーダーに録音された内容。
そういった小さい不信感がつもりに積もっている中でのこの言葉。
トリトマちゃんの狙いは初めからそれだったのだろう。
クロと分かっていながらもこそこそと証拠を集めるだけでは相手を裁くだけの、アイリスさんを解放するだけの証拠を提示できないからこそ、ケリア王子を呼び合法的に彼女たちの部屋を調べ上げ、更にリンデンとプラティーちゃんに事情を聴く機会を得る。そのための話し合いだったのだろう。
そんなことを考えながらも私はある神具を自身の頭に浮かべていた。
名前は確か…
「
「ッ!」
「なんですか?」
「…もしかしたら、その神具見分けられるかもしれない。」
私は恐る恐る手を挙げる。
張り詰めた空気と混沌とし始めた舌戦の中で自身から挙手するのには勇気が必要だったけれど、これでアイリスを救えるなら、と思ったのだ。
「本当か!?ならば、本来は王宮に連絡を入れる所だが、今回は私たちが先に入って捜索させて貰うとしよう。
本来は婚約前の淑女の部屋へ入るのは良くないが、緊急事態だ。
許してくれるか?リンデン・ビバーナム伯爵令嬢?」
許してくれるか?なんて言い方をしているけど、王家のそれも神具に関する嫌疑を掛けられている中でこの聞き方は捜索させろと言っているようなもの、拒否権はない。
「…分かりましたわケリア様」
こうして、私たちはリンデンの部屋へと赴いたのだった。