元勇者、悪役令嬢になる   作:☆☆☆宮☆☆☆太郎

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黒幕と幕引き

☆☆☆

 

肉と臓物が焼け、血と臓物の中に入っていた様々な物が蒸発し、部屋に悪臭が満ちる。

部屋の主はそのことにこれ以上無い程辟易としながら浄化魔法を使う。

 

「ゆ、許さない。許さない」

 

そして、その匂いの本である肉塊を靴で踏みつけながら声をかける。

 

「汝は本当に使えぬなリンデン」

 

笛の音を想起させるような美しい声が部屋に満ちる。

しかし、発された言葉には目の前の肉塊に対する侮蔑が見て取れた。

それだけではない。

声の主は踏みつけている肉塊に魔法を発動する。

 

「ぴぎぃぃぃぃぃぃ」

 

肉塊はのたうち回り地面に体液を振りまく。

そして、徐々にその姿を変えていく。

足が生え、腕が生え、頭が、鼻が口が耳が、人間とは思えなかった肉塊は徐々に人の形を取り戻していく。

けれど、あくまでも人の形を取り戻しただけ、肉塊につけられた火傷の跡が消えることは無い。

それにも関わらず声の主は部屋に置いてあった姿見を引っ張ってくるとリンデン・ビバーナムの前まで持ってくる。

 

「さて、汝は我に利することは何も出来なかった訳だが、我が意に従い行動を起こした。

ならば、我も汝の望みを聞き届ける義務がある。

…ケリア・ブルームの心をお主に向けるだったか?

叶えてやっても良いぞ」

 

リンデンは息を呑む。彼女は既に正気に戻っていた。

だが、だからこそ、リンデンの意識は鏡の向こうの自分へと集中する。

無意識に顔に残っている火傷跡を指でなぞってしまう。

こんな顔は嫌だ。

 

リンデンの頭に自然とその考えが浮かんでくる。

当然だ。誰だって顔に傷があるのは嫌だろう。それが恋に焦がれる年齢の少女なら尚更だ。

けれど、それを目の前の存在の前で思うのはあまりに危険だった。正確には火傷跡を消したいと願うことは問題ではない。

リンデン・ビバーナムが願うのが問題だった。

けれど、そう思ってしまったのだ。

そして、あまつさえそれを口に出してしまった。

 

「エピフィルム様…どうか、どうか、ケリア様の心を私にくださる前に顔の傷を消していただくことが出来ないでしょうか?」

 

その言葉に声の主、エピフィルム・カリカルパは目を細める。

そこには目の前の者を見定める意図があった。

 

「ふむ、それはケリア・ブルームの心をお前に向かせるのとどちらの方がお前にとって大切か?」

 

リンデンは悩むことは無かった。

どれだけケリア・ブルームが好きであったとしてもそれはあくまで自分の次にだ。

もっと言えば、ケリア・ブルームなど自分の装飾品(パートナー)に相応しい肩書とスペックを持っている人間というだけに過ぎない。

 

自分よりも装飾品を大事にする人間がどこにいるというのか。

そもそも、自分は選ばれた存在なのだから、ケリア王子に関してはいずれ手に入る。リンデンは本気でそう信じていた。

 

勿論、それは顔の怪我に関しても同じであるが、選ばれた存在である自分にこの顔は相応しくない一秒でも早く元の美しい顔に戻らなければという考えがリンデンの中にあった。

更に言えば、鏡を見るたびにこの顔が移り込むのは気が滅入るし、他人にこんな顔を見られるのは以ての外だ。

 

「顔を、先ず顔を治してくださいませんか?」

「…リンデンよ。

我の故郷では貧しき時に対価を払い得たものは必ず汝にとって掛け替えの無い物になるという言葉があった。」

 

急に何を?

リンデンは本気で目の前の存在が何を言いたいのかが分からなかった。

確かにリンデンにとって顔を治せばより一層顔を大事にするようになるかもしれない。

けれど、それがこの存在と一体何の関係があるというのか?

その疑問はエピフィルムの次の言葉で解消された。

少なくともリンデンの中では

 

「なぁ、リンデン。

仮に我が汝の顔の傷を治せば汝は我に更なる忠誠を誓うか?」

「ええ、勿論でございます。

今回の失態の分を取り返し、いえ、それすら細事に思えるほどの成果をあげてみせましょう。」

「…そうか、そうか」

 

エピフィルムは顎に手を当てながら、リンデンを見つめる。

生憎、リンデンにはその様子は見えない。

エピフィルムの前で膝を折り、頭を垂れているからだ。

けれど、確信はしていた。

エピフィルムは自身の言葉に感銘を受け、私の傷を治そうとしているのだと。

 

「リンデン、実は先ほどの言葉には続きがあるんだ。

その内容と言うのが、但し富んでいる時に得たものが汝にとって掛け替えのない物かは汝にすら分からない。故に富んでいるのならば常に考えねばならない本当に汝に必要なものなのか、というものだ。

だが、我からすればこれは弱者の戯言に過ぎぬ。

自身の中に芯があるのなら、そんなものは必要ない。どんな状況であったとしても真に必要なものは自ずと見えてくるものだ。そして、芯を持たぬ人間は信用に値しない。

言いたいことは分かるな?」

「お、お待ちください!」

 

リンデンは思わず顔を上げ、懇願する。

けれど、リンデンの視界一杯にエピフィルムの手が広がっていた。

迸る魔力光、展開される魔法式、けれど、リンデンにはそれらが何か分からない。

何故ならこの世界の魔法とは精霊を介し扱うもの。

更に言えばエピフィルムが使う魔法、それに用いられる魔力すらこの世界の魔力とは根本から違う。

分からなくて当然だった。

けれど一つ、そんなリンデンにも分かることがあった。

それは己の死。

それが覆ることのない運命だと

 

「いいや、待たぬよ」

 

最早リンデンには死という己の運命から目を背けることしか出来ない。

目を瞑ることしか出来ない。

 

そうリンデンには

 

「ちょ~っと、待ってもろてええですか?」

 

エピフィルムの手を掴み、魔法の発動を阻害する人物が現れた。

それに対し、エピフィルムは激高し、邪魔をした人間に魔法を向ける、ことはなく、舌打ちだけして手を振り解いた。

 

「リンドウ。何のようだ?」

「いや、只単に勇者様の殺害に失敗したみたいやから、今後の方針について話しに来ただけですよ~」

「ふん、それで我の邪魔をする理由はなんだ?」

「格の問題ですよ~。一時的な利害の一致とはいえ、ラスボスであるボクの協力者なんですから無闇矢鱈と部下を殺すような真似はよして欲しいんです。」

「ふんっ、また格か。その気色の悪い関西弁モドキを指摘した時も同じようなことを言っていたな。」

「気色の悪いって傷つくなぁ。まぁ、エセ関西弁っていうのは事実ですし、仕方ないと思いますけど。」

 

エピフィルムを協力者と呼び、対等に話す男。

糸目に癖のある茶髪、胡散臭い笑みを張り付けており、深くかかわってはいけない者特有の雰囲気を漂わせている。それでいて身嗜みは整えており小奇麗な印象も受ける。

要警戒対象ではあるが、この男のお陰でリンデンの首は繋がったままだ。

 

リンデンは取り敢えず心の中で息を吐く。

今もエピフィルムの視線はリンドウに向いている。このまま自分を殺すという話も流れてしまえば…リンデンは本気でそう願った。

けれど、そう上手くはいかなかった。というよりも庇ってくれたリンドウがこちらに視線を向けたせいで自然とエピフィルムの視線もリンデンへと向いた。

 

「取り敢えず、怪我治してあげんと可哀そうやなぁ」

 

リンドウは懐から枝を取り出しながらそう呟く。

一見普通の枝にしか見えないが、そうでないことは次の瞬間に分かった。

リンドウが枝を振るうと緑の風がリンデンを包んだ。

 

何が起こったのか、初めの内は分からなかった。

けれど、偶々、エピフィルムが持ってきた姿見を見たことで状況を察する。

 

「傷が…」

「どや、凄いやろ?

万治の枝(アスクレピオス)』っちゅうどんな怪我も治せる神具なんです」

 

リンドウがリンデンに何か話しかけているが、リンデンはそれに反応している余裕がない。

しきりに自身の顔を確認する。

 

それを横目にエピフィルムはリンドウを睨みつける。

余計なことをしてくれたと、言外に非難する。

 

「リンドウ。此奴の面倒は貴様が見ろ。

我は此奴が信用ならぬ。

何より()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()成果を挙げられぬ者の面倒を見る理由が無い。」

「いやいや、面倒見ろて、犬猫じゃないんですから。

リンデンちゃんだって急に上司が変わるのは嫌に決まってるじゃないですか。

ね~」

 

エピフィルムが自身の今後について話し始めたことで漸く現実に戻って来たリンデンはリンドウの言葉に悩む。

リンデンの個人的な意思としてはこの得体の知れない男に付くくらいならエピフィルムの下にいた方がマシである。

けれど、それを言った場合自分はエピフィルムになんと言われるか…ついついリンデンはエピフィルムの顔色を伺ってしまう。

 

エピフィルムは無機質な目でそんな自分に視線を向けた後、リンドウに向き直る。

エピフィルムは一体何を思ったのか、それがリンデンは不安で仕方が無かった。

 

「此奴の生殺与奪は我が握っている。

此奴に選択権はない。」

 

その言葉にリンデンは複雑な気持ちになる。

自身の言葉で命の危機に瀕することはなさそうだが、人間としては見られていないようなものだ。

とはいえ、今は生き残ることが重要だ。口出しはしない。

 

「それってボクが拒否したらその子死んでまうってことですやん。

やめて欲しいなぁ。ボクみたいな優しい人間に向かってそんなこと言うの。

断れなくなってしまいますよ。」

「貴様が優しいのであればこの世界に住む大半の人間は優しいことになるだろうよ」

「ははは、言いますねぇ。まっそれじゃあ、エピさんよりは優しいボクはその子連れて退散しますわ。

あっ、それと…次はボクの方から部下出します。

悪党のお手本見せたげますよ」

 

リンドウはリンデンを俵担ぎで抱える。

 

「きゃあ!ちょっと!」

 

その際にリンデンから乙女のような悲鳴と非難の声が漏れるがリンドウは気にすることなく窓に手をかけると振り返りその前が見えているのかも不明な糸目を開け、蛇のような縦長の瞳孔を覗かせる。

 

「好きにしろ」

 

それに対し、エピフィルムはそれだけ伝えた。

 

そこには既にリンドウはいなかったが、きっと伝わったことだろう。

 

(彼奴はそう言う男だからな)

 

エピフィルムは冷たい風の入ってくる窓を睨みつけた。

 

☆☆☆

 

窓から日差しが入ってくる。それによって灯りがついていないにも関わらず部屋は明るかった。

その際に日差しによって埃が反射しキラキラと光る。

見た目は綺麗だが、長く掃除をしていなかった部屋特有の現象と言えるだろう。

それでも部屋の中は最近掃除されたのか、床や本棚、テーブルに埃は残っていなかった。

長年、掃除していなかったツケが回ってきているといった所だ。

 

そんな部屋で四人の少女たちが集まりお茶とお茶菓子、そして談笑を楽しもうとしていた。

 

「今日は猫世話同盟の女子会に集まってくれてありがとう!

そして、今日の主役は私!アイリス・コリアンダーよ!!」

 

この部屋にいる少女の内二人の目が丸くなる。

その二人とはフリージアとプラティーだ。

そして、動じていなかったのは当然ノエル。

彼女はアイリスの言葉に手を叩きこの集まりを歓迎している。

いや、普通に大好きな主の成すことに肯定の意を示しているだけだが…。

 

目を丸くしていた内の一人であるフリージアはアイリスの堂々とした宣言とノエルの拍手を見て空気を読んで自身も手を叩いて歓迎の意を示した。

けれど、只一人、プラティーだけは待ったをかける。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!

私の謝罪の機会を作っていただいた、と言う話じゃなかったでしたっけ?」

「え~っと、私も大切な話があるって伺ったから来たんだけど…。」

 

フリージアは恐る恐る手を挙げ、プラティーに同調する。

しかし、アイリスはノエルと目を合わせる。

そう言えばそうだったっけ?という確認を込めているのが傍目からでもありありと伝わって来た。

 

「ノエル?私そんな話してたかしら?」

 

いや、目線だけでなく普通に聞いた。

 

「お嬢様。恐れながらお嬢さまにその気は無かったと思いますが、プラティー様に話を振った時の流れを考えればそう取られても可笑しくないかと」

 

ノエルにそう指摘されてプラティーを誘った時のことを思い出す。

そう、確かあの時の会話は

 

『アイリス様、この前のことを謝らせてください。ごめんなさい!って、これじゃあ何について謝ってるんだって話ですよね!え~っと…』

 

プラティーにそう言われて、そう言えばプラティーのこと、まだ全然知らないんだったなということを思い出して、

 

『プラティー!折角だし皆でお話しましょう!』

 

私も無事にこの世界に帰って来れたし、そのお祝いも兼ねて夢にまでみた女子会をやって見ようと想い至ったんだ。

私はその後、どんなお菓子を用意しようか悩んでいたけど、そう言えばプラティーがその時

 

『そ、そうですよね。皆さんに謝らないとですしね。

謝る場を設けて頂きありがとうございます。」

 

っていた気がする。

それで、その時は確か反射的に

 

『え、ああ、どういたしまして』

 

って答えたんだったか…。

なるほど…成程!

 

確かに、勘違いされても仕方がない。

いや、しかし、考え事をしてたにも関わらず、プラティーの会話に関しても鮮明に覚えている。

やはり私は天才だ。

 

アイリスは心の中で自画自賛した。

 

けれど、周りからすれば急に黙り込んだかと思えばドヤ顔をかます変な人でしかなかった。

フリージアとプラティーはその様子に当然ながら困惑する。

そんな中、アイリスの思考回路を完全に理解しているアイリス検定特級保持者であるノエルがすかさず今アイリスが辿ったであろうプロセスを懇切丁寧に説明する。

 

それによって今度は紛れもない尊敬から来る拍手が部屋に巻き起こる。

 

「す、凄い。これが専属使用人の為せる技」

「わ、私もアイリス様の思考を辿れるようにならなければ」

 

片やその理解度に感心して、片や尊敬に+して新たなる目標を定めるにまで至った。

そして、褒められたノエルは満更でもない表情をする。

 

「ふふっ、この領域に来るのは至難の業ですよ?

けれど、この領域に立てた時、更なるお嬢さまの愛くるしさに気づくことが出来るのです!!

ぐへへ」

 

何を想像したのか、頬が緩み涎が垂れる。

そんなはしたない従者の脛を爪先で小突く。

その顔は眉間に皺を寄せたフグのようだった。

 

「ちょっとノエル!

私のことを変な人みたいに言わないでよね!」

「そんな!お嬢さま私にそんな意図はございません。

先程の唐突なドヤ顔も人目が無い時に最近お尻が大きくなってきたんじゃないかと不安になり、お尻を擦っている所も最高にキュートにございます!!」

「ちょっと!?何で私がお尻を擦ってることしってるのよ!!」

「専属使用人なら当然にございます!何ならほくろの数だって言えますよ?」

「そ、そんなのエッチじゃない!」

 

アイリスは赤面しながら、思わず己の体を抱きしめる。

けれど、ノエルは両掌をそれぞれ上に向けると、やれやれという様にため息を吐きながら首を横に振った。

「お嬢様、今更に何を言っているんですか?

何時も一緒に寝ている中じゃないですか?」

「「え?」」

 

今までノエルとアイリスの世界に入っていく事が出来ずに置いてけぼりにされていた二人が思わずと言う様に同時に声を発した。

因みにフリージアの前では以前も同じやり取りをしているため、知っている筈だが…それでも改めて聞かされて思わず声が漏れてしまったのだろう

 

「え、えと…二人ってどういう関係ですか?」

 

そして、代表してプラティーが恐る恐る問う。

 

アイリスはプラティーの言葉にどう返そうか悩む。

ただの専属使用人、というのは違う。ならば友達と答えるのが良いだろうか?

けれど、ノエルとは只の友達とは違う様な…ずっと一緒にいたくなるし、一緒に居たら居たで喜や楽以外にも感情が揺れ動く、それも怒、苦とも違う全く未知なものに…これはやはり、友達の中の友達、トップオブフレンド、つまり親友と言うやつだろうか?

 

そこまで思考し、口にしようとした所で邪魔が入った。

それもトップオブフレンドであるノエルから

 

ノエルはアイリスの腕に自身の腕を絡ませ、その大きな双丘で腕が埋もれる程密着する。

そして、プラティーを見て勝ち誇った顔をする。

 

「私とお嬢様はこういう関係です」

 

堂々とした宣戦布告。

それを受けた奥手な少女は顔を赤らめ手をバタバタと動かしたのち手で目元を隠す。

隙間からチラチラと覗いているが。

因みにプラティーの隣に座っていたフリージアもまた顔を赤らめパニックに陥っている。

 

(え?もうその段階?まだ、その段階では無いと思ってたんだけど…。

少なくともアイリスはノエルさんのことをそう言う意味で好きではないと踏んでいたのに)

 

実際それは間違っていない。

それを証明するようにアイリスはこれまた顔を茹でだこのように真っ赤にさせながらも弁明する。

 

「ちょ、ちょっと、寝てると言っても本当に一緒に寝てるだけでいかがわしいことは無いのよ?只の主と従者の関係だし?」

「ふ~ん、そうですか。

ですがお嬢様、本当に私たちの関係が只の従者と主の関係であるのなら、私が腕を組んでこんなにも接近してきたら拒むのではありませんか?」

 

ノエルはアイリスの耳元まで顔を近づけると囁くようにそう言った。

撫でるように、擽るようにノエルの吐息がアイリスにかかる。

背中に一本針金が差し込まれたように背筋が伸びる。

ノエルの甘い匂いが鼻腔を擽り、考えが上手く纏まらない。

 

ずっと、このままで良いかもしれないなんて考えが脳裏に過る。

 

「ねぇ、お嬢さま?

プラティー様に言いましたよね?

嫌なら自分のハグを拒むべきだって?プラティー様とフリージア様に勘違いされるのが嫌なら拒んでも良いんですよ?」

「ちょ、ちょっとノエル…」

 

アイリスは身を捩る。

顔を赤らめながらも、目を潤ませながらも、距離を取ろうとする。

けれど、ノエルはそれを見て薄っすらと笑みを浮かべる。

 

「あら?力が全然入っていませんよ、お嬢様。お嬢さまなら私の拘束なんて簡単に解ける筈でしょう?

それとも嫌がるポーズだけで本当は嫌では無いんでしょうか?」

 

今にも何かが始まりそうな予感。

フリージアはそれを眺めていることしか出来ない。

けれど、一応貴族社会の出身であり、今まで上級貴族に振り回されてきたプラティーは意を決しアイリスに問う。

 

「あ、あの、もしかして、アイリス様は女性の方が好き、なんでしょうか?」

「「え?」」

 

アイリスとフリージアの声が重なる。

 

「えっと、貴族の中には使用人に手を出す方がいるというのは時々聞きます。

だから、ノエルさんに手を出していることは特に可笑しいとは思いません。

けれどその、もしかして私のこともそう言う目で見てるのかなって…。

いえ、嫌とかでは無いんですよ!!ただ、心の準備が出来ていなかっただけで!!!」

 

胸の前で両手をギュッと握り大きな声でそう伝えるプラティー。

余りの大きさにフリージアなんかは反射的に耳を塞いでしまいなんと言っていたか聞こえなかったが、アイリスとアイリスの隣にいたノエルにはしっかりと届いていた。

ここに鈍感気取りの人間はいなかった。

 

「プラティー!ち、違うわ!私はそんなつもりで貴女と友達になったわけでは無いの!

も、勿論気持ちは嬉しいけどね!

あ、勿論貴女は可愛くて魅力的だけど、是非これからも良いお友達でいましょう?」

「そうです!そうです!お嬢さまにはこのノエルがいれば十分です!!」

「そ…そうですか?」

 

(ちょ、ちょっと落ち込んでしまってるわ!)

 

アイリスはプラティーの様子に少し胸を痛める。

とはいえ、こういうのはしっかり言っておかないとプラティーにとっても良くないだろう。

折角可愛い女の子と良い感じになれたのにと心の中で血涙を流しながらも、そう自分に言い聞かせる。

 

そんな中、この流れに便乗する女がいた。

その女の名はフリージア!彼女は電波塔と見紛う程綺麗な挙手を見せる。

指先から天まで伸びるレーザービームが打てそうな程だ。

 

「はい!ノエルさんはどうなんでしょうか?他の女の子を見て何か感じたりするんでしょうか!後学のために知りたいです!」

「いえ特に何も、人間が歩いているなとしか思いません。

そもそも人類自体私からすればお嬢様とそれ以外という区別しかありませんから」

「ア、 ソウデスカ」

 

友達の彼女に手を出すほど無粋ではないと自負しているフリージア。

それは今も同じであり、今すぐにノエルに手を出す気は無かった。

けれど、仮に二人の仲が自然消滅とかした時は私にもチャンスとかあったりするんじゃないかなぁっと邪な考えを抱いていたが…敢え無く玉砕した。

 

(いや…別に良いんだけどね…ノエルさんの片思いって訳じゃなくて……アイリスも…本人は気づいてるか知らないけど……結構満更でもなさそうだし?

その時点で二人を全力で応援する方向にシフトしてましたし?

 

ふぅ…はぁ……やばい目から汗が……)

 

フリージアは俯き目元を抑える。

プラティーに続き、フリージアまで落ち込んでしまいアイリスは慌てる。

因みにノエルは我関せずだった。

 

落ち込むプラティー、泣き出すフリージア、気にせず抱き着くノエルそんなカオスな状況の収集をつけるのにアイリスは暫しの時間を取られるのだった。

 

 

(女子会……空間を掘ってこの世界に戻ってくるよりずっと大変じゃない!)

 

そんなアイリスの心の叫びを誰かが聞き届けることは…当然ながら無かった。

 

☆☆☆

 

アイリスの奮闘により、女子会は無事再開した。

少々、アイリスの顔から生気が抜け、髪がパサついているような気はするが、気にするほどではないだろう。

 

「えっと、渡しておきたい物とかもありますが…先ずは、その、今回は本当にすいませんでした!

アイリス様を騙したこと、フリージア様を殺そうとしたこと、ノエルさんの影武者を見殺しにしたこと…謝って許されることでは無いと思いますが、この場を借りて改めて言わせてください。

本当にすいませんでした!!」

 

 

深く深く頭を下げるプラティー。

最初はそれこそ、土下座をしようとしていたのだが、それは流石にアイリスとフリージアが止めた。

今回の件について知れば知るほどプラティーには同情できる点があり、プラティー自身も反省している。

何よりも結果論ではあるが皆無事に帰ってくることが出来たたのだ。

これが少しでも…それこそ、体には怪我などが残っていなくても、心に傷を負っていた場合何かしらの処罰が必要であっただろうが、幸い特にそう言ったことも無かった。

心が強いと言えば良いのか、図太いと言えばいいのか、言い方は人それぞれだろうが、とにかく、ここにいないトリトマとケリアも含めて何事も無く日常に帰還した。

 

とはいえ、それもここが現代日本とは違う異世界だからこその措置だとフリージアは考えている。それと同時に民衆の力が弱く、権力が貴族と言う特権階級に集中しているこの世界だからこそ起きた騒動であるため、一概にここが異世界で良かったねとも言いづらいのが実情だ…。

 

色々言えることはあるが、フリージアは今回殺されそうになった人間としてプラティーに何かフォローを入れようとする。

しかし、そこで女子会に割り込む闖入者が現れた。

 

「ほっほっほ、そう言うことなら儂も謝らせて貰おうかのぉ」

 

モップを思わせる程立派な白髭を貯える好々爺が()()()()の扉を開け中へと入ってくる。

一歩歩くたびに着ているローブが風を切る。

最近は教師ですらローブを着ている人間などいないというのにこれ以上似合う人間はいないのではという程見事に着こなしている。

それもその筈でこの者こそ

 

「すまんかったのぉ、本来は学園長である儂が解決せねばならん問題じゃった。

今回の件は生徒が抱え込むには余りに重い事案じゃったな。

皆の者、よくぞ無事に帰って来てくれた。本当に良かった…。

 

…それと、今回『人魚姫の涙(トラジックティア)』を使用するのに利用された場所は第三庭園へ向かう際に通る人気の無い一角じゃな?そして『人魚姫の涙(トラジックティア)』を使用していたのはコウドンお主なのじゃろう?」

 

その言葉に、フリージアは『トゥラブ』において第三庭園に向かった際に主人公が貴族の生徒に絡まれるイベントを思い出す。*1

そして、実際にその場所こそが『人魚姫の涙(トラジックティア)』を使用する際に使われた場所だった。

 

「はい、いくら『人魚姫の涙』に認識改変の力があるからと言って目の前で急にアイリス様がリンデンに変わったりなんかしたらリンデンかアイリス様のどちらかが神具を持っていると勘づかれてしまうので第三庭園に向かう際は私がアイリス様を先導し、死角に入った所で『人魚姫の涙』を使っていました。

あの、すいません。隠す気は無かったんです。

人魚姫の涙に関しても持ち逃げしようとしていた訳では無くて…」

 

プラティーは学生服のブレザーから『人魚姫の涙』を出すとテーブルに置く。

それを学園長は手に取り、自然な動きでローブの内に仕舞う。

 

「なぁに疑ってなどおらぬよ。

もし、持ち逃げしようと思っていたのなら、態々こんな集まりがあるにも関わらず、無用心にブレザーなどに入れておかないじゃろうしな!

…それに本来あの場所の監視は学園長である儂の仕事でもあった。すまなかったのぉ」

「え?学園長にそんなお仕事があるんですか?」

 

『トゥラブ』の知識を持つフリージアは思わず、聞き返してしまう。

それもその筈で、『トゥラブ』のイベントにおいてもケリア王子が助けに来てくれることはあっても学園長が助けに来ることは無い。

それに、その後今回のように学園長が謝りに来るというイベントも当然ながら無かった。

 

(…現実になったからこその辻褄合わせ?設定資料集にも載って無かったし…)

 

「ほっほっほ、意外じゃろう?

けれど実はな、あの一角はこの学園が建てられる時に意図的に作られたものなんじゃ」

「それは…一体何のためにですか?」

 

今度はプラティーが聞き返す。自分自身あの一角を利用したからこそ、あの場所の危険性は理解しているつもりだった。

だからこそ、疑問だった。健全な教育機関には絶対に必要のない一角。それを態々作る理由が。

 

「全く持って作られた意図が分からないと言いたげじゃなコウドン」

「え、はい。その通りです。」

「そんな委縮しなくてもよい。この隠し部屋と同じじゃよ。貴族は若いうちから婚約者が決められておる。じゃからこそ学園内では貴族としての責務を忘れて、立場を忘れて青春を謳歌して欲しいという初代学長の願いから作られたのじゃよ。

つまり、逢瀬の場じゃな!!」

 

その余りにもしょうもない理由にプラティーとフリージアはズッコケそうになる。

学園長が態々監視しなければいけない場所がそんな理由で作られていたなんて、と

 

「ちょっと、待ちなさい。

プラティーが持ち逃げしようとしてなかったというのには同意だけど、何で貴方はローブの中にその神具をしまった訳?」

 

そんな中アイリスは自然な動きで『人魚姫の涙』をローブに仕舞った学園長に対し疑いの目を向ける。

それに対し、学園長は動じた様子を見せず、それどころか笑みを浮かべて対応する。

 

「儂の手から王子に渡そうと思っての!

コウドンから渡してしもうたら後々王家に睨まれることになるじゃろう?

コリアンダーから渡した場合もコウドン程でないにしても王家との関係に蟠りが出来てしまうのは避けられん。

じゃから儂から渡すのじゃよ。

儂であれば学園を歩いている時に偶々拾ったと言えば有耶無耶に出来るのでな」

 

そこまで言うとローブを翻し、この部屋を出て行こうとする。

けれど、最後一度振り返ると、にこやかな笑みと共にアイリスたちに手を振った。

 

「それでは邪魔したの!

学生時代は有限じゃ!友を大切にの!」

 

その言葉と共に学園長はこの場を後にする。

それを見届けたアイリスはと言うと

 

「私、何となくあの人苦手だわ」

 

そう言って舌を出すのだった。

 

 

 

*1
タイトル『知らない少女』 他にも人気なイベントとしては、この隠れスポットに行くまでの道には周りから見えない完全な死角があり、そこで貴族の生徒に絡まれるというものもある。




ということでこの章はこれで終わりとなります。
ここまで見て下さった方本当にありがとうございます。

それと、実は私が受験する資格試験がそろそろ迫ってきているので暫くは更新が止まると思います。

それではまたいつかお会いしましょう!
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