TS剣客少女(闇)は、乙女ゲームの世界で自由気ままに生きる   作:さえぐさ

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第23話 リリアナちゃんとズレと+α

 私の世界は色づいていると思う。前世でも今世でもそう。草は緑だし、花も色とりどりだ。人だってそうで、顔や髪、体型に至るまで色んな見え方がある。

 

「リリアナさん、貴方のおっしゃることは大変面白いですね」

 

 交流は大事。今日も初めましてなご令嬢とお茶会。私は私の目的のために様々な人と仲良くしようとしている。庶民の私が貴族相手にまともに扱われるまでそれなりに時間がかかったけど、それもオフィーリア様のおかげでかなり短縮されたと思う。

 今日のお相手はお家は中堅クラスのご令嬢。文武両道を目指していて、周りの評判も悪くない。それなりお嬢様だ。

 

「いえいえ、そんな私なんて……。それこそカサンドラ様はどうですか? 面白い話など持っていたりしませんか?」

 

 人は喋りたい生き物だ。喋るだけで幸福感が生まれる。良い会話を行うには相手に多く喋らせることが重要らしい。だからって、ただ聞いているだけの人間相手に気持ちよく喋る人は少ない。良い聞き役とは、ちゃんと自分も喋る人間のことだと思う。そしてその塩梅を私は見極めなければならない。

 

「例えば、――みたいなことだったり」

「……そうですね、でしたらこのようなお話はどうでしょう」

 

 使えるものは何でも使う。私が庶民であるからこそ、向こうの心理的な壁がなくなることもある。貴族同士だとどうしても家同士のうんぬんかんぬんがあるけれど、庶民の私に対してはそれを気にする必要はない。だけど色んな貴族と交流しているから貴族の話は通じるし、時にはメッセンジャー的な役割だってこなせる。何より、この学園で地位を二分している王子とオフィーリア様のどちらとも仲が良い。どちらの派閥とも自然と交流が出来る貴重な存在だ。

 

「その時、私はこう言って差し上げましたのよ――」

 

 会話のコツはシンプルだ。興味を持って相手の話を聞き、楽しもうとする。それで実際楽しめたら、それが向こうに伝わる。もし楽しめなかった時は、話についていけないと困惑してみたりする。すると向こうは、庶民だから仕方ないと誇りを保ったまま収めてくれる。貴族はその性質上、察しが良い人が多い。というか貴族で察しが悪いとカモにされる。

 現状、カサンドラ様は気持ちよさそうに語っている。語りたいタイプのようだ。

 

「私は多趣味であらなければならないと思うのです。ですから私は年少の頃より――」

 

 この世界の貴族様というのは子どもの頃からあれこれと習わされるのが一般的だ。もちろん折衝能力は大事だが、その上で一芸に秀でていると貴族内の評価が高くなるとのこと。単純に憶えてもらいやすいらしい。だからか下位貴族ほどそういう教育に熱心だ。でもカサンドラ様は中位くらいだから、おそらく本人が何かを習得することに積極的なんだろう。自慢話も長い。

 満足したみたいだし、――そろそろ頃合いかな。

 

「それなりに時間が経ちましたし、休憩でもどうですか?」

 

 こういうのは少しもったいぶるほうがいい。期待を煽ると効果が上がる。

 

「……そうですね。私も少し喉が乾いてきました」

 

 ツンとした様子だけど、ちゃんと返事は貰えた。

 

「では少々お時間を頂いてもよろしいですか? せっかくお話出来るとのことだったので、提供したいものがありまして」

「ええ、構いませんわ」

 

 席を立ち、学園の厨房へ向かう。まあ互いに分かりきった流れだ。私と会話すると特典がついてくる。これは周知のこととなっていて、皆その特典を求めてる。

 ここは、貴族の学園ということもあって、氷室がある。

 そして準備はすでに出来ている。

 

「よしっ」

 

 慣れたもので、さくっと作ってしまう。待たせるとそれだけ損する。待つことに慣れていない人を相手する時は特にそうだ。

 

「――お待たせしました」

「いえ」

 

 一見そっけない態度だが、視線がティーテーブルにちらちら行ってる。ホール状の銀の蓋を被せているから、中身は確認出来ない。でも期待通りのものが中にあるのか気になっているはずだ。蓋を外す際に、ちらっと確認すると目が少し輝いていた。

 

「こちらが店で出しているクレープです」

「……これが」

 

 クレープは庶民でも買えることにしたせいで、ある程度高位の貴族からすると買いにくいものなってしまった。使用人に並ばせようにも、持ち帰るころには温くなってしまう。でも並ぶことは体面上出来ない。と、そこで私である。交流の一環として提供出来る。それも、味を見て気に入った場合は、どうか貴族の中でも広めてくださいという免罪符まで用意してる。すると「そういうことなら協力しよう」という名目が使える。しかもこれはオフィーリア様と共同で行っていることなので、身分に関する体面上の言い訳もしやすい。

 

 こんな感じで交流を深めていき、しれっと情報も集めていく。明確に敵対してる人はもはやいない。たまに偉そうな人もいるけど、その時はちらっとオフィーリア様か王子の名前を出すと鳴りを潜めてくれる。

 

 カサンドラ様も初めは冷たい眼差しを向けてきた側の人だったけど、色んな人と交流しているうちに、向こうからお茶でもどうかと話を持ちかけてきた。遠回しだったけど。まあ気まずかったのだと思う。

 そんなカサンドラ様の顔色は良い。期待通りといった様子だ。

 

「――今日はここまでにしましょう」

 

 カサンドラ様からの終わりの合図。こちらからは切り出しづらいので助かった。

 

「はい。今日は楽しかったです」

「いえ、私も楽しめましたわ。また機会があればお誘いします」

「ありがとうございます」

 

 この手の人が言葉を濁さずに言ってくる時は、お世辞ではないパターンだ。どうやら上手くいったっぽい。

 

 一人になった後、肺から空気を押し出す。

 別につまらないとかではないけれど、やっぱり疲れはする。

 でも目的に向かって頑張ってる。それは間違いない。

 けれど偶に、『私の人生はこれでいいのか』といったようなことを思うことがある。

 私の幸せとは何だろう。私は本当に今のままでいいのだろうか。寝る前とかにそう考えてしまう。

 楽しいのに。充実しているのに。私に足りていないものがある気がする。その想いを捨て去ることが出来ない。でもそんな感傷に浸っている余裕なんて私にはない。少なくともこの学園において、私が誰よりも貴族の内情に詳しくなることで、王子やオフィーリア様に提供出来る情報を増やしたい。

 そして二人の苦難を少しでも減らす。でもこれだけじゃ二人を物理的な危険から守ることが出来ないのも事実だ。

 

「アリシアちゃんの時はどうしたんだろう……」

 

 ゲームでは好感度が上がっていくと、進研ゼミ的に物語が好転していった。でもこの世界だとどうなるんだろう。恋愛面の進行度で問題が解決しないのであれば、正攻法で解決しなければいけないのかもしれない。

 もしそうだとしたら、ゲームにあった最も悲惨なエンディングよりもさらに酷いエンディングが訪れる可能性だってある。だって全てが不確定になってしまうし。

 ……何があっても、命だけは救わなければ。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 さらに日が経つと、ようやく王子が帰って来た。

 ちょっとした合間の時間。庭の木陰に呼び出して話をしてみると、何かが前と違っていた。これが成長というやつなのかな? と思ったのだけど、

 

「リリィは何か変わったね?」

 

 と逆に言われた。

 私は何を聞かれているのだろう。こういう時の正しい返しは、相手に率直に聞いてしまうことだ。

 

「私がですか?」

「うん。前に比べて、はっきりとした気がする」

「はぁ」

 

 身に覚えは特にない。もしかしたら最近忙しくてちょっと痩せたせいかも。

 

「そういえば旅の途中に面白い子と会ってね、その子を見てると不思議と君のことを思い出したよ」

「はぁ」

「とても可愛いらしい子だったんだ」

「えっ!?」

 

 こ、恋の予感ですか? で、でもまだアリシアちゃんが――。っは。違う、そうじゃない。ついに来たんだ。

 

「そ、その子の特徴について教えてもらってもいいですか?」

「えっとね、まずとても可愛らしい感じで良い子だったね」

 

 本物かもしれない!!

 

「表情は薄いんだけど、愛嬌があってね。あと冗談も多かったな」

 

 ……あれ、そんな感じだっけ? 何かちょっと違う気もするけど、いやでも人の印象なんてその時々で変わるし。

 

「そしてとっても強いんだ」

「え、強い?」

「ああ。詳しいことは話せないけど、剣一つで成り上がれるくらいだと思うよ」

 

 違うのかもしれない。ただの武芸者の話だったのかも。

 

「あと、こういうのは本人に失礼かもしれないけど、頬に付いた返り血がやけに似合ってた」

 

 違うかもしれないどころじゃなかった。なんだその化け物。夜に見たら絶叫する自信がある。

 

「君とは良い友達になれそうで、いつか紹介したいなって」

「い、いえ、遠慮しておきます。命大事なので」

「そう? 話すと面白いけどなぁ」

 

 じゃあ話さないと怖いんじゃ?

 いやでも待てよ、そんだけ強い人が王子の味方になったのなら、王子の生存確率が上がるかもしれない。

 

「その人は王子のお仲間になったんですか?」

「いや、王都に入ってから別れたよ。今度お礼する時に会うけどね」

 

 何だろう。見ず知らずの人だけど、絶妙に期待を外し続けられて文句の一つでも言いたい気分になってきた。

 というか何かおかしくない? 上手くいかずに帰って来た王子は落ち込んでるはずなんだけど? そして反乱の話が王都まで届いてさらに落ち込むはずで……。

 でも今の王子は、何かがとても上手く行った後のように見える。何でだろう?

 

「……今回の旅のことについて聞かせてもらえませんか? とても興味があって――」

「あー、実は話せないことが多いんだ。後で色々情報が入ってくると思うけど、とあることに居合わせてね。それで色々と上手くいったんだ」

「ほわっつ?」

「ん? どうかしたかい?」

「あ、いえなんでも」

 

 何がどうなってるんだろう? 色々と上手くいった? 何が何をどうして? いやでもそれ自体は歓迎すべきことだと思う。でも何で?

 

「それでね、母上が喜んだ顔を久しぶりに見た気がするよ」

「へ?」

 

 母上って女王のことだよね? 女王は背景があまり語られていないキャラだけど、王子の超えるべき壁のようにして存在している人だった。そしてゲームが進行すると途中で暗殺されて退場してしまう人だ。その時の王子は「子どもの時以降、母上の喜んだ顔を見れなかった」と言って涙を流すことになる。

 何だこれ。一体何が起こっているんだろう?

 

「そうだ。今度僕にもクレープというものを食べさせてよ」

「え? ――ああ、是非!」

「あの子もそういうのが好きそうなんだよね」

「さっき言われていた方のことですか?」

「うん。アリアって言うんだ。髪がピンク色で珍しいから分かりやすいよ」

 

 アリシアちゃんと名前が似てるけど……、やっぱり違った。いや違って良かったんだ。アリシアちゃんの髪は栗色だし、そのアリアって人とは違う。きっと血染めとかしてそんな色になったんだろう。

 

「雰囲気は、何か猫みたいだったね」

「ね、猫ですか?」

 

 猫はまずい。猫みたいな雰囲気で可愛いとなれば、私は陥落する自信がある。いや待てよ、今から犬派に宗旨変えしよう。私は犬好き。私は犬好き。いや犬は元から好きだった。その三倍くらい猫が好きなだけで。

 

「――じゃあ僕はそろそろ行くよ。まだ挨拶して回らないといけないからね」

「あ、はい。頑張ってください」

「うん」

 

 後ろから見ても、王子の足取りは軽かった。

 何だか分からないけれど、一つ課題がクリアされた。次は何だろう。今、一番懸念してることといえば、オフィーリア様の誘拐事件だろうか。ゲームでは、この先のどこかで自分の屋敷にいたオフィーリア様が誘拐されることになる。ただこれはすぐに助かる。それもまるで自演かのように。でもオフィーリア様はそれを機に周りに対してかなりキツく当たるようになってしまう。この詳細はゲームでは語られていない。

 一応対処として、お嬢様度を上げてはいるけどまだ足りないかもしれない。間に合わせる必要がある。あとそれとなく気をつけさせるようなことも吹き込んでおかないと。ただ直接言っちゃうと、まるで私が犯人みたいで怪しくなっちゃうから上手くやらないといけない。

 ああ、今日も明日もやることがいっぱいだ。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇   SIDE : MAIN   ◇◆◇

 

 

 

 

 

 王都には人が多く住んでいる。人が多いということはそれだけ仕事も増える。

 そんな王都の一角に、職業安定所のような施設があった。

 その職業安定所ではいつも人がごった返しており、がやがやと活気があった。

 そんな中、目立つ容姿をした少女が、壁に貼られていた一枚のチラシを手に取った。

 

「……庶民メイド募集? なにこれ」

 

 きっと頭がおかしいやつが考えたに違いないと、少女は訝しんだ。

 そんな少女に、横にいた男が声をかける。

 

「あー嬢ちゃん。それはやめときな。給金は良いが、誰も受かりゃしねえんだよ」

「これはこれは親切っぽいおじさん」

「『っぽい』はいらねえ。ただの親切なおじさんだ」

「で、受からないって何でですか?」

「勤め先を見てみな。そんな高位の貴族の使用人なんて、それこそ貴族くらいしか務まらねえよ」

「でも庶民って書いてますよ?」

「よく分からねえけど、庶民にも使える庶民がいたから試しに募集してみるとかそういう話らしい」

「何すかそれ」

「さあな」

 

 男は肩をすくめた。

 

「まあとにかく、受けるだけ無駄だ。なんでも貴族並みの礼儀作法を身に着けてないと駄目って話だぜ。そんなやつ庶民にいるわけねえってのにな。ま、貴族様には俺たちのことなんて分からねえんだろうけどな」

「でも食事、寝床付き。そして高給」

「確かに待遇は良いが、諦めな。嬢ちゃんみたいな礼儀作法からは地の果てほどに遠いような、ぽわっとしたやつには別の仕事がある。定食屋の給仕とかすると看板娘になれるんじゃないか? きびきび動けるようになるぞ」

 

 少女は挑発に滅法弱かった。

 

「――ムカついたので、受けます」

「……えぇ?」

「そんで受かった上で、ぽいおじさんを煽りに来ます」

「ぽいだけ残すな」

 

 少女は「それでは」と言うと、そのチラシを受付まで持っていった。

 

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