TS剣客少女(闇)は、乙女ゲームの世界で自由気ままに生きる   作:さえぐさ

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第27話 運も賽もコロコロ転がって

 良い夢もあれば悪い夢もある。寝苦しさを感じれば悪夢を見やすいが、快適だからって悪夢を見ないとは限らない。十全の努力など嘲笑えてしまえるのが運の力である。

 とはいってもひとえに運の良し悪しなど決定付けることなんて出来るだろうか。振ったサイコロの出目なんて確率で割り出されてしまうものだから、そこに関しては間違いなく平等なのかもしれない。しかし、どのタイミングでどの出目が出るか、それは平等ではないように思える。タイミングが全てなのかもしれない。そこに不平等の素が隠されている気がする。

 その不平等さは運命さえも変えてしまえるのかもしれない。例えば生きる運命を死ぬ運命に、死ぬ運命を生きる運命に。定められた運命に従っていれば、サイコロの出目、そのタイミングで己の生死が決まることだってある。また逆に、定められたものに反逆すれば、生死のタイミングも変えてしまえることもあるかもしれない。

 

 闇の中、男たちは影の中に潜んでいた。

 

「手はずを確認するぞ」

 

 兵の配置も、誰がどこで寝ているのかも、すべて紙の上で記された屋敷。全てが予定調和のように、全てが仕組まれている思える屋敷の構造。

 その庭に、男たちはいた。

 

「少し月が明るいが、問題はないだろう」

「まあ騒ぎを起こせともありましたし」

 

 騒ぎを起こすなら、多少は明るい方がいい。

 

「よく分からない指示だが、余計なことは考えるな。知れば死に繋がることがどこに落ちてるか分からないからな」

 

 地図には、ご丁寧に侵入箇所に赤丸まで付けてあった。それも複数。よりどりみどりである。

 

「予定通り、まずは候補一と二から確認していくぞ」

 

 ちゃんと使えるかどうかを把握してから最終決定を行う。プロの仕事。慣れたものだった。

 黒尽くめの集団は二手に分かれた。

 そして――、

 

「――あの」

 

 戻ってきた部下は困ったような顔をしていた。指揮している男はすぐに見当がついた。

 

「……塞がっていたか?」

「はい。――もしかしてそちらも?」

「ああ。だがまあいい。侵入経路はまだいくらでもある。――三と四だ」

「――了解」

 

 そして闇に消え、

 

「あの、また――」

 

 戻って来た後、似たようなことを言った。

 

「どうなっている、こっちもだぞっ」

 

 指揮している男が、音を乗せずに声を荒げた。

 

「しかし侵入経路はまだありますが」

「そう言うが、お前はどう思う? ここまで来たらそこも塞がっていると思わないか?」

「それは……」

「……いや、やるしかないか。行くぞ――」

 

 そしてまた二手に別れ、

 

「駄目でした」

「……もしや掴まされたか?」

 

 ガセか、それとも単純に嵌められたか。指揮を取っている男はこのまま任務を続行することを悩み始めた。何かがおかしい。それだけは間違いなかった。だがここで帰れば評価はガタ落ちだ。酒場でのやり取りを思い返した。

 

「っち。あいつに負けるわけには、――いや待てよ」

 

 気付いた。思えばあの時から何かがおかしかった。前なら少し嫌そうな顔くらいは見せたはずの男が、達観したような悟ったような表情をしていた。強がりだと思い込んでいたが、今思えば何かあったのではないか。

 

「まさか、な……」

 

 どちらにしても時間は有限である。判断しなければならない。動かないこと、それこそがリスクである。この場にいる全員がそれを知っていた。

 

「頭、どうしますか? 引き返しますか?」

「……引き返す、か」

 

 男は迷った。確かに『まだ引き返せる』と、そう思った。それに勘に従うなら、部下の言う通りにした方がいいと感じている。だが同時に負けたくないとも思っていた。競い合ってきたライバルが落ちた。そして自分には上に這い上がるための縄が降りてきた。これを掴まないなんて――。

 

「――まだ手段はある」

「頭?」

 

 要は成功すればいい。それだけのことだった。

 

「一つ、使われていない部屋があったはずだ。そこから忍び込める。ターゲットに関しては、もう仕方がない。外壁から行く」

「なるほど分かりました。では本題ですが、あれ、――登れますか?」

 

 部下の男は外壁を指差した。

 中々キツそうな壁だった。しっかりそれ用の道具を準備していたら登れるだろうが、現在の装備では心もとない。とはいっても、何とか引っ掛けれそうな箇所は確認出来た。

 

「途中までならいける」

「じゃあ途中からはどうするんですか」

「窓をぶち割るしかねえだろ」

「音も立って、目立つでしょうねえ」

「そこを上手いことやるんだよ」

「そんな行き当たりばったりな」

「――いいか? プロってのは臨機応変に手段を変えないといけねえ」

 

 予定外こそ予定通りなのだと。自分たちの仕事というのは、そういう仕事じゃないかと説得した。

 

「いや、人を攫おうってのに、いきなり騒ぎ起こしちゃまずいと思うんですけど」

「ならお前たちがなんとかしろ」

「へ?」

「お前らがなんかこう騒ぎを起こして、その隙に俺達が仕事をこなす。もしくは、俺達が失敗した時はお前たちが上手いことやって攫え」

「えぇ……、そんな素人みたいな仕事ありますか?」

「馬鹿野郎。一見素人みてえなことをさらっとやっちまうのがプロだろうが」

「昔それで下手こいてフェザーの野郎に呆れられてませんでしたっけ」

「うるせえな。嫌なこと思い出せんな。いいからやるったらやるんだよ」

「まぁ、やるってならやりますけどねぇ……」

 

 そういうことになった。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 運命の女神というような存在がいるのならどういう存在なのかは知らないが、少なくともここでは一人の少女が該当するのかもしれない。ただその少女は酷く気まぐれで、思いやりがあるかと思えば簡単に非情になれるような厄介な存在であった。

 別働隊として動いた者たちは、よりにもよってその運命の女神みたいな存在がいる部屋に、空き部屋だからという情報を元に入ろうとしていた。

 

「ここだな――」

 

 数人、頷き合う。

 出来るだけ音を立てないようにして窓ガラスを割り、窓を開け、侵入した。

 部屋の中には、

 

「よし、誰もいないな」

 

 ざっと見渡す限りでは、人の存在は確認出来なかった。

 と思いきや――、

 

「あ、あそこに――」

「ん?」

 

 指し示されたとこには、猫が身を縮めて隅に入り込んでいてこちらを見ていた。

 

「なんだ猫か、後にしてくれ。大体、俺は犬派なんだ。猫は自由すぎていかん」

 

 視線をきったが、再度、慌てた声が、

 

「っ違います。そうじゃなくっ」

「ん?」

 

 振り返った途端、部下の影がすっ飛んだ。

 

「っな」

 

 驚く間に、もう一人すっ飛んだ。

 

 ――敵だ。

 

 そう判断して身構える間にも、もう一人すっ飛んだ。

 

「誰だっ!」

 

 叫んだ。

 返ってきた言葉は、

 

「いや、そっちが誰なん?」

 

 至極真っ当な答えだった。

 

「っち、黙れっ――」

 

 とにかく排除しようとするが、

 

「話しかけてきたのそっちじゃん?」

「っが――」

 

 蹴り飛ばされて、壁に激突した。

 その者たちが入った部屋にいたのは、運命の女神なんかじゃなくて死神みたいなやつだった。だが、運命か、それとも単純な運か、死にはしなかった。びっくりするくらい簡単にぶっ飛ばされただけである。

 

「で、えっと何だっけ? ――犬派だっけ?」

 

 賽は投げられた。

 問いかけられた男は身体の痛む部分を押さえると、何と答えるか悩んだ。己に訪れた死の気配を背中から喉につっかえるほどに感じ取っている。眼の前の存在の気まぐれで、本当に自分の生死が決まってしまうことを理解させられている。

 

「その――」

 

 ここまでくれば運なのかもしれない。男は腹をくくった。

 男が出目の操作をするにあたって、不正だろうが誇りだろうがそういったものは関係なかった。迷うことなんてなかった。男には自宅で待っているワンちゃんがいた。

 

「――あの、実は猫派でした」

「ふぅん?」

 

 疑ってそうな雰囲気に、男は言葉を付け足す必要があった。たとえ一時宗旨変えしてでも絞り出さなければいけなかった。

 

「……その、猫っていいですよね。その何か、耳とか」

「耳だけ?」

「手足もいいですよね!!」

「ほお」

 

 運命の女神もとい死神は、面白適性が高そうな人間に弱かった。

 

「じゃあ聞いたことに答えてくれる? ちなみに犬も良き。とても従順なところとか」

「――何でも喋らさせて下さいワン」

「よろしい」

 

 即答だった。迷いはなかった。

 従順になった犬が聞かれたことをぺらぺらと話していく。

 死神もといアリアは事態を把握した。

 

(ってことは、お嬢様は今ごろ運ばれているころか)

 

 ゆっくりと情報を聞きすぎた。今からでは追っても間に合うか怪しい。しかし問題はなかった。

 集合場所は分かったのなら、そこに向かってしまえばいい。アリアは外出の準備を終えると、窓に足をかけた。ちらっと部屋の隅を見ると、突然の荒事に、瞳に怯えを映した猫がいた。

 

「まあ無理もない」

 

 アリアは夜の闇へと消えた。

 

 

 

 部屋に残された者たちは顔を上げると、

 

「……生き残ったのか?」

 

 互いの無事を確かめ合った。打撲で済めば無事の範疇だったと皆分かっていた。

 

「顔を上げたら殺されるんじゃないかと思って、全力で死体の振りしてたわ」

 

 ここでは死人は出なかった。だが、向こうはどうなるか。

 

(かしら)は大丈夫だろうか?」

「……怪しいな」

 

 男たちは、よたよたと痛む身体を動かして、屋敷から消えていった。

 義務よりも優先すべきものがあった。

 

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