TS剣客少女(闇)は、乙女ゲームの世界で自由気ままに生きる   作:さえぐさ

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第37話 食事会 1/2

 部屋を出ると兵士が待っていた。案内だと言う兵士にアリアは黙って頷くと、そのまま付いていった。

 途中、足を止めると、

 

「えっくし!」

 

 くしゃみをした。周りをきょろきょろと見回す。

 

(誰かが私についての素敵な噂をしているに違いない)

 

 何となく癪だったので、妙な前向きな思考をした。

 

(それにしても変なおっさんだったな。初対面の人間の思想を変えるにしても、相手の弱みや困りごとを聞き出してからすべきだろうに)

 

 アリアには二世分の教養がある。

 

(今度あったら、大衆扇動について教えて上げてもいいかもしれない。って、……ん?)

 

 アリアは己の違和感に気付いた。

 一日ずっと寝てる猫でも、狩りの時や身の危険が迫った時には、野生を起こし俊敏さを思い出すものである。アリアも同じように、通常時には省エネの如くぽわっとしてるが、身の危険、――はともかく狩りの時は、野生を起こして蛮族感を表に出す。

 違和感の正体が分かってきた。

 

(何かちょっとエンジンかかってる感じがする)

 

 意図的ではない。憶えがない。無意識だった。

 

(ともすれば、あのおっさんか――)

 

 危険を感じたとは思わなかった。その気になれば、数秒であの部屋に存在していた全ての生き物を物体に変えてしまえる自信があった。

 

(じゃあ何だろ?)

 

 アリアは、あの問答で、己がわずかに覚えた不快感に気付いていなかった。

 

(何か美味しいものが食べたくなってきた)

 

 少し歩き、案内されたのは、小さな晩餐室だった。

 そこに先にいたのはいくらかの使用人と、王子のエリオットだった。

 

「やぁ、良かった。無事に来てくれて」

「無事に? 何かあったんですか?」

「いや君のことを信用していないわけじゃないんだけど、急に他にやりたいことが出来たとかで来ないこともあるんじゃないかって」

「それはつまり信用していないのでは」

「そんなことはない。ただその上で、って話だよ」

「一応言っておきますが、私は約束を守ろうとする側の人間なのです」

 

 胸に手を当てて自信のある顔で言うアリアだったが、『守ろうとする』と言っただけで、『守る』とは言っていない。

 エリオットには伝わっていた。

 

「うん、そこは信用しているんだよ」

「どうなんそれ」

 

 自分で振っておきながら自分でツッコんだ。そんなアリアに、王子は誤魔化すように笑った。

 

「でもそんな感じかなって」

 

 思いやりがない人間ではない。ただ気まぐれなだけで。それが過ぎるだけで。それを制御する理由を持っていないだけで。

 エリオットは生まれの境遇もあって、人を見る目があった。

 

「君は手を出されない限りは手を出さない。根元にそういう善性がある」

 

 アリアは「うんうん」と頷いた。気分が良くなってきた。

 

「そう。誰が何と言うと、私は平和主義なのです。首を飛ばされる方に問題があるというものなのですよ、ええ」

 

 中々気づいてもらえないところを褒められて、アリアは上機嫌になった。デザートの前のオードブルにしては上等だった。

 そうやって話していると、主催である女王アデレードがやってきた。

 アデレードは会釈程度に頭を下げて謝意を示すと、簡易的に自己紹介を行った。

 三者が席につき、ようやく食事会が始まった。

 

(わくわくが止まらない)

 

 さてどんなものが食べれるのかと、アリアは野菜的なものが配膳されていくのを期待ながらに眺めた。

 配膳が終わると、人払いがされ、部屋には三人だけとなった。

 まずはアデレードが口を開いた。

 

「我が息子、つまりは王子から其方のことは少し聞いている。今日呼んだのは感謝の意もあるが、その他に其方の武勇伝なども聞いてみたくてな」

「武勇伝ですか?」

「腕が立つと聞いている。いくつもあるのだろう?」

「うーん、特に……?」

 

 『何も浮かばないなあ』と、アリアは葉っぱをむしゃむしゃと食んだ。ドレッシングの酸味が中々良かった。

 

「しかし息子を助けた折には、大立ち回りだったと聞いているが」

「邪魔が入ったってことですぐに相手が引いただけなので、別に大した事でもなかったですね」

「……そうなのか。何か活躍をしたことを聞きたかったのだが」

 

 アデレードの陰る表情に、アリアは少し迷った。何か言わないとちょっと気まずい。記憶を辿り、何か出来事を探す。

 見つかった。

 

「あ、じゃあ――」

 

 最近の一番大きな出来事。

 

「猫を拾いました」

 

 しなやかな四肢、手入れが行き届いていて、空気をよく含んだ羽毛のような毛並み。顔をうずめると、まるで天上の雲に触れているかのような心地。

 

「白くてふわっとしてます。可愛いですよ。飼いませんか?」

「……動物を飼うわけにはいかん」

「癒やされるのに」

 

 心の中の猫丸が「にゃん」と鳴いたと同時に、扉が開いた。配膳の時だけ使用人が入ってくるらしく、終わるとそのまま出て行った。

 アリアは配膳されたポタージュを、スプーンですくって口に運んだ。素朴な感じがしつつも品があった。

 

「そもそも愛玩動物など飼えば、我に向かって直接手を出せぬ者が嫌がらせで毒を盛りかねん」

「え?」

 

 野菜本来の旨味がどうたらと堪能していたアリアは、顔を上げた。

 アデレードは少し顔をしかめていた。

 

「当人は、きっと脅すためだとか、思い知らせるためだとか自分で言い訳するだろうがな」

「そんなやついるんですか」

「いるさ。この城には多くな」

「何と言うことでしょう。生きてることについて、言い訳させてやりましょう。そうしましょう」

「えぇ……」

 

 女王はちょっと引いた。危ないやつだったかもしれない。そう危惧した。息子に近づけていいのかと迷った。

 

「大体、気に入ってるなら他人に飼わせずに、自分で飼ったらいいだろう」

「似たようなことになりかねないので、避けてます」

「似たような? 命でも狙われているのか?」

「はい。ちょっと喧嘩してる人たちがいます」

 

 特になんてことない様に言うアリアだったが、そこには気軽には聞けない妖しさがあった。

 

「でもだいぶ風通しが良くなったので、そろそろゆっくりしたいと思ってます」

「ふん。ならばこの国は不適正だろうな。どこもかしこもきな臭い」

「いやほんとに。行くとこ行くとこで何か起こってる気がします」

 

 その口ぶりに、アデレードはアリアが何かを知っていることを確信した。事前に聞いた話でも、旅をしてきたという。この先は、どこに行くつもりだろうか。意を決した。

 

「……其方の出身はどこだ?」

 

 少しためらった質問でもあった。人は詮索されていると感じれば、心を閉じてしまうものである。

 そんな慎重なアデレードに対し、アリアはあっさりとしていた。

 

「――領です。そこに居られなくなったので、旅して成り行きでここまで来ました」

「そうなのか……」

 

 聞こえてきたその単語に、女王は迷った。その場所であれば、多少踏み込んででも聞きたいことがあった。「いやしかし」と声に出したものの、続きが途絶えた。

 そんな中、良くも悪くも空気感を察していなかったエリオットは、友人に尋ねるくらいの温度感で聞いた。

 

「でも出会った場所から考えると森の向こうだよね? まさか森を抜けてきたわけじゃないだろう?」

「抜けてきましたよ」

「でもあそこは、魔物が」

「人間というのも一つの魔物みたいなものですよ」

「そ、そうなのかな……?」

「そうなんです」

 

 納得しかけているエリオットの様子に、アデレードはがっくりと肩を落とした。騙されやす過ぎるにも程がある。軽く咳払いをすると、続きを聞くべく口を開いた。

 

「答えづらいのであれば、答えなくてもよい。だが聞かせてはほしい」

「はいどうぞ」

「もし森を抜けてきたと言うのであれば、あの領地で何があったかを知っているはずだ。何でもいいから教えてはくれないだろうか。我々はそこで何があったかを知らないのだ」

「何故です?」

「何故とはどういう意味だ」

 

 女王には質問の意図が分からなかった。

 

「隣国に与した領からやってきた兵と戦ってる最中、王都から援軍が来たかと思ったら裏切って挟み打ちにしたのは国軍ではありませんか。それを何故この国の王が知らないんです?」

「……何だそれは」

 

 アデレードの表情が驚愕と焦燥に染まっていく。

 

「闇の世界に行けば、買うことすら可能な情報ですよ」

「……くそっ!」

 

 激しい感情が起こった。

 

「――っ母上?」

「陛下と呼べ!」

 

 八つ当たりのフォローにも心をさいていられない。もはや防衛本能に近かった。アデレードの頭脳が最悪を導き出し、実際にそれが起こっているであろうことを確信付けた。

 

「あいつ! よりによって国を売り渡すつもりかっ!」

 

 激するアデレードに、ためらいながら聞くエリオット。

 

「それは一体どういうことで……?」

「簡単な話だ! 玄関を作り上げ、歓待の準備をしている。本来迎える側であるはずのこちらは、驚きもいいところだ。それどころか内部分裂中でまとまって対処することなど出来やしない。そもそも分裂を図っているやつが、玄関を作った本人なのだからな」

 

 まさしく亡国の憂い。最悪の筋書きがそこにあった。

 

「手が、とにかく手が足りんぞっ」

 

 正規兵の大元は、国に忠誠を誓っている。あれらは国を守るために戦うだろう。しかし、その戦闘を維持させる基盤には綻びばかりだ。各地の貴族は派閥争いに明け暮れ、スムーズな連携など期待するだけ無駄だ。そもそも派兵されてしまえば、王都の兵が手薄になる。そうなればクーデターでも何でもありだ。上がすげ替わるだけなら、王国の兵はそのまま何も変わらずに国に忠誠を誓うだろう。

 ダムの決壊のようなものかもしれない。あらゆるところの綻びに各地で水漏れが発生し、対処しようにも資材どころかその人員の確保すらままならない。不足してしまったはずの時間が長く感じるほどにどうしようもなかった。見ていることしか出来ない。演者のつもりが観客に変わっていた。

 何をしようにも手駒がない。全て取られた。今からまた集め始めて間に合うはずがない。

 

「駄目なのか……?」

 

 額に手を当てるアデレード。

 

「……やはり我では代替にもならんのか?」

「……母上?」

 

 エリオットはたまらず心配した。

 




長くなったので、分割してます。
明日朝に投稿予定です。
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