TS剣客少女(闇)は、乙女ゲームの世界で自由気ままに生きる   作:さえぐさ

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第47話 砂糖菓子の城郭

 アリアは、オフィーリアの屋敷に来ていた。

 オフィーリアの私室で街の散策について話している。

 説明から始まったそれは、オフィーリアだけに伝える策謀へと変じた。落とし穴に自ら落ちた友達に対して、『落とし穴の中にいるよ』と、事実を伝えようとする悪どい計略だった。

 

「――というわけで協力をしていただきたく」

 

 アリアの説明にオフィーリアは目を輝かせた。

 

「もしかしてそれは――、王子と平民の恋物語で有名な、あのロメロの休日ですわね!」

 

 オフィーリアはとある演劇の題目を口にした。対面で茶をすすってるアリアは知らなかったが、知ってる風を装って頷いた。

 

「――はい。お嬢様には協力をしてほしくて」

「素晴らしいですわ! 素晴らしいですわ!」

 

 オフィーリアはがばっと立ち上がった。膝にいた猫丸が落ちるように降りる。

 

「どうどう」

 

 馬を大人しくさせるように、オフィーリアを落ち着かせようとするアリア。

 

「私にその話を持ってきたことを褒めて差し上げますわ! ……身分差の恋。その始まり。揺れ動く心。周りの応援と協力。困難を打ち破り、見事成就! なんて素晴らしいのでしょう!」

 

 オフィーリアは恋愛系の物語が大好きだった。その大好きな系統の物語を、演劇ではなく、現実のものとして参加出来ると聞いて昂ぶった。心温まる物語や、ハッピーエンドが大好きだった。反面、シリアスシーンは大の苦手で、目をそむけてしまうほどだった。

 

「しかしリリアナさんが、ですか。……意外、とまでは思いませんが、まさかこのような身分違いの恋が現実に起こるとは驚きですわ。そして素晴らしいですわ。――ああ、それで私の役目は何ですの?」

 

 わくわくオフィーリア。

 

「意地悪な恋敵です」

「え?」

「ご期待通り、『王子は私のものよ! この泥棒猫!』という台詞を用意しました」

「全然期待通りではありませんけど」

「じゃあ『庶民ごときが思い上がるんじゃありませんわ。床でも舐めてなさい!』にしますか?」

「変更してくださいます? まず恋敵ではないものがいいですわ」

「それなら『我が人生に一片の悔いなし』とかはどうですか?」

「何ですの、その壮絶な最期を迎えてそうな台詞は」

 

 恋敵から恋が外れ、敵だけが残った。

 

「私が言っているのは、もっとこう、時には叱咤し、時には背中を押すようなそんな配役を」

 

 オフィーリアは身振り手振り、何かを表現しようとした。

 アリアにはよく分からなかった。

 

「いつも叱咤し、時には崖際で背中を押すような?」

「……私のことを何だと思っていますの? どうしてそんな悪役みたいなものばかり」

「悪役なご令嬢に憧れてるって聞きましたけど」

「誰です? そのような……」

「リリアナちゃんです」

「あのくそ庶民」

「ほら」

「ほら、じゃありません。こうなったら何が何でも絡んで、私が一番の立役者となってやりますわ!」

「お嬢様ってその――」

「その……?」

 

 アリアは名誉のために黙った。

 

(根っからの善人みたいですねなんて失礼すぎて言えない。こんな悪役みたいな人に……)

 

 アリアはうんうんと頷いた。己の善行に思わず感じ入ってしまった。

 

「……何だか分かりませんけれど、今心の中で私のことを馬鹿にしましたわね」

「つい褒めそうになったので黙っただけです」

「だとしたら、どこに黙る必要がありまして?」

 

 ジトっとした目で見られるアリア。さっと顔を逸らすと、近くにいた猫丸を抱き上げた。喉を鳴らす音が聞こえる。

 

「そんなことより、猫の鼻が湿ってる理由とか知りたくないですか?」

「興味ありませんわ」

 

 ため息をつくオフィーリア。

 

「……それより、これをお返ししますわ」

 

 オフィーリアは指輪を出した。リリアナが攫われたことを知らせに来たオフィーリアに、アリアが仲間の証として渡したもの。

 

「あれ? どうしてですか?」

「どうしてと言われましても……」

 

 仲間の証とやらを何時までも持ち続けるのも居心地が悪い。そんな律儀なオフィーリアだったが、

 

「危機を共にした仲というのは、つまり仲間じゃないですか」

 

 オフィーリアは不意を突かれた。

 

「そ、それはそうですけど」

「お嬢様が危ない時は私が助けに行きますよ」

「アリア……」

 

 オフィーリアの目がじーんと潤む。

 涙を拭いながら言った。

 

「人をからかわないと死ぬ病気だと思っていましたけど、人間には良いところが一つくらいはありますのね」

「うーん、我ながらちょっと言い返しづらい」

「ちょっと?」

「だいぶ」

「よろしい」

 

 この後、お菓子を楽しみながら計画について話した。

 

「じゃあ、その時になったらいい感じに状況に合わせて上手くやるということで――」

 

 実りはなかった。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 当日。

 王都。雰囲気の良い喫茶店にて。

 四人掛けのテーブルにその四人はいた。衆人の中で、遠巻きにされている。

 アリアは不満を口にした。

 

「二人とも目立ちすぎなんですけど。どうにかなりませんか」

 

 そう言うと、アリアはフォークをケーキに突き刺し、口に入れた。

 エリオットは困った様子で答えた。

 

「どうにかと言われても、目立つこと自体は仕方がないというか、避けれないというか」

 

 頷くオフィーリア。

 

「その通りですわ。そもそもある程度は目立つ必要もありますし」

 

 やれやれといった感じ言うオフィーリアに、アリアはため息をついてやれやれ返しをした。

 

「見て下さいよ、このケーキ」

 

 皆の視線が卓上のケーキに集まる。

 

「なんで金粉がのってるんですか。前の店でも、頼んでもないものが勝手に出てくるし、心なしか全体的にサイズが一回り大きかったし」

 

 王子は何とも言えないような顔をした。

 

「その、別に問題はないんじゃないかな……? 向こうも気を使うだろうし」

「何言ってるんですか。これでは普段と違くて評価が出来ないじゃないですか」

「普段? 評価?」

 

 アリアはお手製のグルメマップを取り出した。

 

「これです」

「……もしかして自作?」

「今も鋭意制作中です」

 

 覗き見たオフィーリアは呆れ顔をした。

 

「もしかして店を選ぶのが貴方だった理由って、自分が行きたい店に行くためだったってことですの?」

「違います。『行きたい』ではなく、『行かなければいけない』だったのです。なのに二人が目立ちすぎたせいで……」

 

 黙って話を聞いていたリリアナは、グルメマップを手に取ると「おぉー」と感心していた。リリアナ目線でも結構上手く出来ていた。

 

「色々言いたいことはありますが、たとえ私たちが協力したとしても目立つものは目立ちます。計画に無理があったと思うべきですわ」

「いや、気配を薄くしたり、周りと波長を同じようにして溶け込ませば目立たないように出来ます。さあ、皆で風景になりきりましょう」

「どこの達人ですの?」

「私はいつもやってます。この程度造作もありません」

 

 リリアナだけは納得した。

 

「ああ、そういうことなんだ。人類史上で最可愛なアリアちゃんが街を出歩いて、どうして秩序が保たれてるんだろうと不思議に思ってたんだよね」

 

 ファンの行列が国境を越えるくらいになってもおかしくないのにと、普段からリリアナは本気で思っていた。

 アリアは然りと頷いた。

 

「木を隠すなら森の中、人を隠すなら人の中です」

 

 何故か得意気だった。

 

「仕方ないので、お嬢様には気配の操作を覚えてもらいます」

「……どうして私なのです?」

 

 もう一人候補いるだろうと思ったオフィーリアだったが、意味ありげな視線をアリアに送られると黙った。

 間を置かずにオフィーリアは悟った。自分が気配を消せるようになることで、王子とリリアナの恋物語が始まるのだと。

 残念なことに、頭の中にツッコミ役はいなかった。

 

「ま、まあ貴方が直々に教えるというのであれば、やってやらないこともないですわ」

「よっしゃ」

 

 当然、残った二人は話についていけていない。目を見合わせると『?』を浮かべた。それはともかく、アリアと何かするのが羨ましかったリリアナは手を上げた。

 

「じゃあ私もアリアちゃんと……」

「いえ――」

 

 アリアはすかさずエリオットに視線を送った。未来のケーキのためなら仕事だってする。

 

「リリアナちゃんは最近陛下と話すことも増えたので、王子が陛下の性格とか教えてあげると助かるんじゃないでしょうか」

 

 そのパスはしっかりと受け取られた。エリオットは他人の意図を察することには長けている。これまでの経験がそうさせた。

 

「――ああ、そうだね。色々誤解も多い人だし、僕からも説明させて欲しいな」

「え? あ、はい」

 

 リリアナは逃げ出せないように強固な壁で囲われていた。同情出来ない点としては、自ら飛び込み、自分の足元に穴を掘って自分で嵌まったことだろうか。それともそのまま土台を築いて城でも建ててしまえそうなことだろうか。もしくはそれら全て自分で造ってるところだろうか。

 進展しそうな二人を見て、アリアは「うむうむ」と頷いた。

 

「青春を謳歌するのだ、若人よ」

「何役ですの?」

 

 オフィーリアはツッコんだ。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 夜。

 報告にやって来たアリアを、アデレードは私室で迎え入れた。

 

「――というような感じでした」

 

 アデレードは反応するまで、少しの時間を要した。

 

「……よく分からんが、上手くいったということでいいのか?」

 

 アデレードは視線を逸らすと、髪の毛先を指でつまみ、遊ばせた。理解することはもう諦めた。経過はともかく結果は持ってくることは分かっている。逆に経過を気にすれば頭がおかしくなる。

 

「いえ、今日行ったお店にはもう一度行く必要が出たので判断は難しいところです」

「第一目標が取り換ってしまったことは分かった。それより監視はどうだった?」

「正直分からなかったです。目立ちすぎてて判別出来るような感じではなかったので。やはりあっさり方面から攻めるべきでした」

「なるほどな。……うん?」

 

 話が噛み合ってない。

 

「大丈夫です。気配操作の技術を教え込むので、次からはいつも通りの品が出てくるはずです」

「何をやってる?」

 

 そろそろ頭痛薬が必要な気がした。しかし薬は出来るだけ飲みたくない。いつ毒を盛られるか分かったものではない。食事も初期の頃は死に繋がらない程度の毒をよく入れられた。犯人を罰していたら、いつの間にかそれが悪名になった。気まぐれで刑罰を与えるなどと広められ、弁明にはまったく効果がなかった。

 やがて食事に気を使うのが嫌になったので、今では王都の店を丸ごと買い取って城の厨房で働いてもらうことにした。エリオットにも足繁く通わせて、人心を掴み裏切り者が出づらいようにした。

 最近では桃色髪の少女がつまみ食いによく来るとかいう話もある。当人に聞いたら「毒見です」と言われ、考えるのが面倒くさくなった。勘は良いので万が一の時とかに意味はあると思うことにした。

 

「――ああ、そう言えば我にも伝えることがあるぞ」

「何ですか? 新規開店のお店なら頭に入ってますよ」

「そんなもの捨てて常識を入れてこい」

「ひどい」

 

 咳払いをして、ほっとけばギャグになる空気を整えた。

 

「騎士の件だ」

「あぁ」

「断られたぞ」

「え?」

 

 アリアは訳が分からない顔。

 

「それも一度ではない二度だ」

「……仮にも、騎士とは主君に忠誠を誓うものでは?」

「巷ではそう言うらしいな」

「ここでは違うと」

 

 アリアは少し不愉快そうな顔を見せた。アリアの中の騎士の像は、自身を逃がそうと命を張った騎士たちが基本にある。

 

「話をしたいという願いすらも聞き遂げられんとは、まったく王として飾りもいいところだな。発言力と軍事力は比例するが、軍事力を得るに必要なものが何かが分からん」

「……まぁ、大義名分でしょうか?」

 

 答えてはみつつも、本心ではなさそうなアリア。

 

「三度目を今度送ろうと思うが、このままでは意味をなさないのは明らかだ。何か良い案はないか?」

「まあ、相手の大事なものを揺さぶるとかじゃないですかね」

 

 アリアが活き活きし始めた。

 

「例えば、名誉とかですかね。もしくは相手の非をなじるのも。忠心がないなら来なくてもいいとか。それか民衆に広まる形で場を設けようとするとか。あとは……。――とか、それか――とかも。ああ、こういうのも――」

 

 いっぱい出てきた。

 性格が良すぎる。

 

「……なるほど。使えそうなものを盛り込んでみよう。しかし腹を立てそうだな」

「来ないよりかはマシだと思いますよ。仮に腹を立てて詰め寄ってくるようなら、別の手段が取れます。――斬れと言われたら、その場で斬りますよ」

「斬ってどうする。味方を作ろうとしてるの忘れてないか?」

「そう言えばそうでした。もう敵認定してました」

「おい」

 

 アリアの剣はくしゃみより軽いのかもしれない。

 

「味方にならないまでも、敵となるのは困る。どっちつかずも腹立たしくはあるが」

「え、斬ります?」

「斬るな。まだ早い」

「うずうず」

「敵認定やめろ」

「はい」

 

 アリアはふと、真の用件を思い出した。

 

「そう言えば真面目な報告がありました」

「何だ」

「うちの玄関口から、隣国より素敵な観光客たちが来てるそうですよ」

「……数は?」

「今のところは二百に満たないくらいだそうです」

 

 多いとは言えないまでも、決して無視出来る数ではない。それに――。

 

「時間と共に増え続けるだろうな」

「間違いなく。それと、どれも腕が立つようなので、精鋭だけ呼んでるっぽいです」

「……事を起こすつもりか」

「おそらく」

「先回り出来ないか?」

 

 頼んだら何でも出来そうに思えた。

 

「正直難しいです。うちの戦闘員は兵士と真っ向勝負は苦手です。でも指揮官級を裏でグサッととかならわりといけます。問題はどいつが指揮官なのか分からないってことですけど」

「……やはりあの騎士どもを味方にするしかないか」

 

 アデレードはこめかみを押さえた。

 

「『あの騎士ども』って、味方にするんじゃ?」

 

 アリアのツッコミ。

 

「うるさいな」

 

 アデレードはそっぽを向いた。

 

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