TS剣客少女(闇)は、乙女ゲームの世界で自由気ままに生きる   作:さえぐさ

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第50話 魔物討伐2 熱狂

 近隣の村はあらかた回り終えた。

 行軍中、ハーヴェイはエリオットに進言した。

 

「そろそろ、こちらから攻めに行く時かと」

「……そうか」

 

 表情を固くしたエリオットに、ハーヴェイは後ろを振り返ってみせた。つられてエリオットも振り返ると、戦意に溢れる村人たちが見えた。力強さを感じつつも、同時に圧力もあった。彼らは皆、英雄の王子という虚像に期待している。今更否定するわけにいかないエリオットは、心を決めなければならなかった。

 

「――考えを聞かせてくれ」

「はい。斥候によると、この先の町に魔物が多く見られるようです。恐らくは付近に拠点があると思われますので、ここを攻略したく――」

 

 拠点といっても、人間のそれとは比較にならない粗末なものである。防御力はなく、魔物が多くいるということだけが脅威だった。つまり、戦闘に勝てさえすれば撃滅出来る。

 そんな公算もあり、ハーヴェイはエリオットを頷かせたかった。天から降ってきたような武功の機会を逃したくなかった。今後のためにも拠点を撃破したという戦果が欲しい。成功すれば風評はさらに増していくことが予想出来た。それに今まで苦戦すらしていない。村人からなる民兵も、戦闘経験を経てそれなりに動けるようになっている。

 

「わかった。――でも危なくなったら逃げよう。それが出来るならやるよ」

「命だけはこの身に代えてもお守りします」

「……僕だけじゃなくて、皆の分も大事なんだ。この命一つ助かったところで何も出来ない。でも僕は立場上死ぬわけにはいかない。だから、どちらかではなく、両方を選ばなければならないんだ。だから安全重視でいくことが必須条件になる」

「……承知しました。無理はしないことを誓います」

「頼むよ」

 

 ハーヴェイは頭を下げると、エリオットから少し離れた。しばし空を見上げると、息を吐いた。考えることが多い。

 

(無理はしないと言ってもなぁ)

 

 ハーヴェイは困っていた。

 

(どうしたものか)

 

 さすがに表情にまでは出さない。

 戦場に来ておいて安全重視も何もないが、言いたいことは分かる。後ろでお飾りのように配置するわけにもいかないが、最前線に行かせるわけにもいかない。それどころか周りの騎士の損耗も限りなく避けなければいけない。無理難題もいいところだが、それを曲がりなりにもやってみせるのが能臣というものではないか。あの王子が歴史に名を残すような人物になるであれば、その臣下には必ず能臣がいるはずだ。

 

 ――俺がそうだ。

 

 ハーヴェイは己の能力に自負があった。出世欲も野望もありながら宰相側につかなかったのは、この自負こそだった。己がついた側が勝つ。そう思うようにしていた。戦いさえ起これば何とかしてみせる、と。

 やがて考えをまとめると、エリオットに報告した。

 

「まずは攻撃を受けている町の救援に行きましょう」

 

 エリオットは多くを問わずに頷いた。

 エリオットは確認したいことだけ確認出来れば、後は任せてしまえる人間だった。それに性格的に救援という言葉に弱い。異議はなかった。

 後ろの民兵たちに向かって町の救援に行くことを宣言すると、大きな歓声が上がった。士気と熱の高まりを感じた。

 日が沈みかけた頃、目的の町に着いた。

 夕焼けの中、町の周囲には争った後が見えた。そこに生きた魔物の姿はない。

 町に入ると町長が慌てて出て来た。いくらかやり取りを交わし本題に入った。エリオットも慣れてきている。

 

「魔物の襲撃はどのような感じですか?」

「はい。今日の日中にも来ていました。幸いこの町には、領主様の兵が割り振られておりますので今のところは耐えれています。ですが、日に日に魔物の数が増していることもあり、精神的に苦しいものが……」

 

 エリオットは安心させるように頷いた。安心感を与え信頼を得たい。

 

「我々に任せてください。それと、増しているとはいえ、魔物は夜には来ないんですね?」

「はい。今のところは来ておりません。夜目が利かない魔物ばかりだからでしょうか」

「なるほど……」

 

 話を終えると、町の中の様子を見て回った。

 すると町民たちや領主の兵までもが、王子を一目見ようと詰めかけた。また、村人が参加しているということで、『自分も』と、参加を願い出る町民も多かった。王子に付き従う騎士の中には、『夢に見た光景』だと涙する者もいた。

 夜になり、ハーヴェイは重要な人間を集めると、町長に提案した。

 

「明日の朝、こちらから攻撃を仕掛けたいのですがいかがでしょうか?」

 

 町長は突然のことに驚いたが、町の兵の指揮をとっていた領主の兵長が同意したため、攻撃が決まった。

 領主の兵も含め、指揮権はエリオットのものになった。兵たちから不満の声は出ず、逆に頬を紅色させていた。兵からすればハズレくじが当たりくじに化けたようなものだった。街の守備に就く方が安全だろうと思っていたら、危なそうな地方の町へ行かされた。だがそこにエリオットがやって来た。

 その転機に、兵たちは色めき立った。

 

「まさか王子の軍に参加出来るとは」

 

 英雄譚に参加出来るかもしれないと、突然の幸運に喜んだ。

 

 

 

 明朝。

 戦意に沸き立つ兵を連れ、エリオットたちは町を発った。

 その際には、民から大歓声を浴びせられ、兵たちは未来に勝ち取るであろう勝利と称賛を想像した。

 そのように昇り調子で気を良くする者もいれば、逆に警戒心が強まる者もいる。アリアはそのタイプだった。

 道中の休息時に、エリオットに危惧を話した。

 

「敗北を知らない軍というのは強いは強いんですけど、脆くもあるんですよね」

「それは一体どういう?」

「負けそうになると崩れやすいです。勝つことしか考えてないから、予想外の負けに動揺しやすくなります」

「なるほど……」

「訓練された兵であれば粘りも利くでしょうが、民兵では期待は出来ません。――しかし経験は最大の訓練です」

 

 アリアは、民兵たちに負けを経験させたいという旨の話をした。

 エリオットやその仲間たちは神妙な面持ちで聞いた。正直、危険過ぎると思った。

 エリオットは懸念を口にした。

 

「その、……わざと負けるというのも変じゃない? 少なからず犠牲も出てしまうし」

「ですが擬似的に負ける練習は出来ます。それに犠牲は勝っても負けても出るものです。これは大きな犠牲を出さないための練兵だと思ってください」

 

 アリアは虚空を指でなぞった。

 

「負けて逃げるフリして。敵を引き込むとかどうでしょう」

 

 作戦は理解したが、民兵がそれに耐えられるかエリオットは不安だった。

 

「やっぱり危険じゃない?」

「もちろん危険は危険なんですけど、戦場にいる以上は今更というかなんというか。それに魔物なんて頭わるわるなんで、簡単に騙されてくれますよ」

 

 これまでの戦場での働きによって、アリアの発言力は高くなっている。

 

「安全に勝つのもいいですけど、優勢を維持するだけだと魔物は逃げてしまいます。他の村々から兵を抽出してる以上は、魔物を散らばらせるのは得策とは言えません。ここらで一気に撃滅するべきです」

 

 一理あると悩むエリオットに、ハーヴェイは賛成を示した。

 

「悪くないと思います。魔物が散ってしまえば、各地に斥候を放って逐一動向を注視する必要があります。知らせを受けて駆けつけても、間に合わないなんてことも起こるでしょうし」

「……でも」

 

 エリオットは決めきれなかった。虚像とはいえ己を慕ってくれている人たちを、戦う前に危険に晒すことを許諾する。それが簡単なはずがない。人の想いに敏感なエリオットには特に難しかった。

 察したアリアが重ねて進言する。

 

「王子、嫌なことを言うと、もう既に犠牲は出ています。生き残った人間がやるべきことは、出てしまった犠牲の先に行くことではありませんか」

 

 損切りが必要なことだってあるし、降りないことが正しいこともある。世界には絶対的な正解が用意されていない。であれば不確かな答えを正解だと信じて選ぶしかない。

 エリオットは唾液を飲み込むと、

 

「……分かった」

 

 と少し震えた声で言った。

 そのまま堪えるように目を閉じた。笑顔で腕を上げて戦意を示す民兵たちの人影の幾つかが、真っ黒に塗りつぶされる幻視が起こる。今、その生命を切り捨てたと思うと心が軋んだ。奥歯をぐっと噛み締めることで、やっと目を開くことが出来た。

 

「……作戦を詰めよう」

 

 決まった。

 アリアとハーヴェイが中心になって作戦が形になっていく。気を遣ってか、皆神妙な面持ちだった。アリアも空気を読んだ。

 しばらくすると斥候が戻ってきた。

 

「ここで間違いありません」

 

 斥候は地図上の林を指した。この付近では一番大きな林だった。その林を奥に進むと木が密集していき、やがて森となる。その範囲は広く、領地の境を優に越えるほどだった。

 

「では、そろそろ――」

 

 民兵たちの様子を見て休息を終え、出発となった。

 道中にも、ちらほらと魔物がいたが、しっかりと討ち取り、進んでいく。

 目的の林まで着くと、木々の中から生き物が蠢くような気配を多く感じた。実際に姿も確認出来た。林の中が慌ただしいのが分かる。

 兵たちの武器を握る手がぐっと強くなる。

 

「王子、丁度いいんじゃないんですか」

「……そうだね」

 

 このまま林に突っ込んで魔物とやり合うのは得策ではない。可能であれば木々が薄い場所で戦いたい。つまりは魔物を引きずり出したい。

 我慢比べとなれば、人間のほうが圧倒的に有利だった。

 先に動きを見せたのは魔物で、林の中から咆哮が放たれる。

 ゴブリンやオークなどの魔物が林を飛び出し、一斉に向かって来た。

 ハーヴェイも号令をかけた。

 突撃命令。歩兵を突っ込ませた。

 その初当たりに、いきなり誤算が生じた。

 

「うおおおお!」

「くたばれクソ魔物ども!!」

 

 劣勢になると踏んでいた民兵がやけに強く、退かせることが出来なかった。民兵はそのまま前へ前へと進んでいき、次々とゴブリンやオークを屠った。

 

「隊長、作戦を変更するべきでは――」

 

 ハーヴェイに進言があった。

 実際、このまま押し切れるのであれば騎士が控えている理由はない。今すぐにでも突撃するべきである。

 しかしハーヴェイは横に首を振った。

 

「予定通りに動く」

「しかし」

「よく見てみろ」

 

 困惑した騎士が確認するように前を見ると、民兵の進みが鈍っていくのが見えた。

 

「最初だけは意思で誤魔化せるだろうが、これは命の取り合いだ。気力の削られ方は凄まじい。訓練を受けていない人間が持つわけがない。そろそろだ。さあ、やるぞ――」

 

 鈍った進みが止まるのを見て、ハーヴェイは退却命令を下した。

 背を向けて走り出す民兵。逃げれば恐怖がやってきた。民兵の視界の先には、受け皿として騎士が並んでいた。民兵たちは騎士の頼もしさを感じ、恐怖と焦りが少しずつ抜けていった。

 これを好機とばかりに追撃してきた魔物が、騎士とぶつかる。それに併せ、左右の少し後方で待機していた騎士が前へと動き出し、釣られてきた魔物を横から挟撃した。

 作戦は成功した。

 だが、

 

「っち、左右に割き過ぎた――」

 

 おびき寄せが上手く行き過ぎたせいで、前面の負担が想定外に上がった。瞬間的に高まった圧力が、騎士の壁を打ち破ろうとしていた。

 ハーヴェイは判断に迷った。こちらの挟撃が完遂するのが先か、前面が崩れる方が先か。当然、前面が崩れれば作戦は失敗である。それどころか、前面にはエリオットもいる。

 ハーヴェイの脳裏に退却もよぎったが、エリオットの様子を確認すると護衛につけた桃色髪の少女が安全地帯を作り上げていた。一番大事なものは無事だった。とはいえ安堵は出来ない。陣としては崩れる可能性は、依然として高い。

 しかし、戦場とは理外のことが起こるものである。民兵の一人が声を上げた。

 

「み、みんな待て! まずいぞ!」

「何だっ?」

「王子がっ!」

 

 民兵たちの身体が前を向いた。

 

「うおおおおお!」

「突撃だぁぁ!」

「王子を守れええ!」

 

 民兵たちは魔物目掛けて走り始めた。

 

「っな。いや――」

 

 混乱したハーヴェイだったが、同時に勝機を見出した。前面を支える兵が増え、崩れることはなくなった。あとは粘れば勝つ。それまで民兵が耐えられるか。ハーヴェイの不安はそこだけだった。

 実際、民兵は苦戦した。

 

「くそ! やっぱり強え!」

「おい、大丈夫か?!」

「痛ぇ! 肩をやられた!」

 

 その場で膝をつく者も出始めた。

 トドメとばかりに、槌を振り上げるオーク。

 エリオットは気付いていた。

 

「っ――」

 

 民の前に走り出る。

 訓練を積んでいる分、エリオットの方が戦闘能力は高い。しかし身分が違う。気付いた騎士が「お守りするぞ!」と叫ぶように言ったその時、エリオットの周囲から鮮血が上がった。護衛の仕事ぶりは凄まじかった。しいていうなら、守りより攻めで使いたい人材でもあった。

 ハーヴェイは状況を把握するやいなや、声を張り上げた。

 

「負けるな! 押し返せ!」

 

 続けて幾人かの騎士の名前を呼ぶと、エリオットの下へとやった。

 エリオットに対して、下がれと言っても下がるとは思えなかったので、兵を前に進ませることで壁を作った。

 耐えていると、ようやく挟撃が深く食い込み始めた。

 戦況が優勢に傾いていく。

 横から絞られて血を流していく魔物たちが背を向け始めた。

 そうとなれば、林に逃げ込まれる前に多く刈り取りたい。

 

「追い討て! 討ち漏らすなよ!」

 

 突っ込む騎士、――の前に民兵が走り出た。

 

「うおおおお!」

「死ねええ!!」

 

 彼らは軽装だった。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 エリオットたちが訪れている領には二つの都があった。そのうちの一つ、ブリーズウッドという都では、耐え忍ぶ戦いが繰り返されていた。延々と続く防衛戦は、民衆に閉塞感を生ませた。夜に襲撃はなかったが、その静けさが生命について考えさせられた。

 

「いつになったらこの状況から解放されるんだ」

「待つしかねえよ」

「それがいつだって話だよ」

「領主軍が勝つまでだろ」

「負けたら俺たち皆魔物のエサかよ」

「それを言うなよ」

 

 魔物は人を食べる。人が多くいるところには、襲撃してくる魔物も多かった。民衆は恐怖に耐えねばならなかった。都の外はもっと危険であることを知っている以上、逃げ出すことも出来ずに縮こまるしかない。

 

「俺たちでこうなら、外の村はどうなってんだろうな」

「想像もしたくねえな……」

 

 物事には順番というものがあった。兵力は領主の住む都に集中している。まずはそこの領都の魔物を撃滅してから各地を回るという算段だったが、優先度が高いはずのブリーズウッドに本軍がやって来ていないということが、事態の停滞を表していた。

 しかしそこに、

 

「補給が来たぞ!」

 

 珍しく吉報が届いた。物資と人が送られてきた。焚き木を中心に民衆が集まった。

 

「新鮮な野菜だ!」

「肉もあるぞ!」

 

 人々は笑顔を思い出した。

 物資を輸送してきた兵の一人が言う。

 

「なに、すぐに元通りになるさ」

 

 民衆の一人が滅入ったような声で言った。

 

「そうなるといいけどな……」

 

 周りの喜びのトーンが落ちた。未来を考えてしまった。

 その様子を見た兵は笑顔を見せた。

 

「大丈夫だ。俺たちには王子がいる」

「……王子? 何だって王子が関係するんだ?」

「それはだな――」

 

 兵の語った武勇伝は、夜に関わらず、街中に届いた。

 囃し立てるように広がっていく。

 誰かが言う。

 

「聞いたか!? 王子が魔物を追い散らしてるって話だぞ!?」

「いや俺が聞いた話だと、追い散らして逃げる魔物をさらに追いかけて殲滅したって」

「まじかよ!? じゃあ、いつかここにも――」

「当たり前だろ! 何たって先王の息子だぜ? 慈悲深いに決まってらぁ!」

 

 希望が生まれ期待に変わり、願望が混じる。

 

「俺はこう聞いたぞ! 地を埋め尽くさんばかりの大群を率いて魔物を討ち回してるって!」

「それは俺も聞いたぜ! 発する気だけで魔物が怯えるって話だ!」

「お、俺も聞いた! 今にも殺されそうになった村人の前に庇うようにして前に出たって!」

「馬鹿野郎! それだと王子が怪我するだろうが!」

「違うんだよ。庇ったと同時に魔物は斬られたって」

「――なるほどな! それなら納得だ!」

「あと何か王子の周りだけ静からしい」

「それってもしかして」

「ああ。王子の周りの魔物はすぐに斬られて絶命するらしい」

「王子すげえ……」

 

 伝言ゲームというのは不確かで、変化が頻発する。そしてその変化は願望に影響された。確かめようにも、厄介なことに事実が混じっている。補給にやって来た兵が語る内容には、戦場で見た内容が含まれていて、裏付けがあった。ただその兵が戦っていた場所は王子の位置からは多少離れていた。とある桃色が見えないくらいに。

 とにかく民は興奮した。

 

「俺もやりてえなぁ……」

「お前、魔物と戦おうってのか? 死ぬぞ?」

「でも憧れるじゃんか」

「分からなくはないが、やめとけよ。そもそもこの街に来るかも分かんねえのに」

「来るさ。俺には分かるんだ」

「ただの願望だろ」

「うるせえ。来るって言ったら来るんだよ」

 

 数日経つと、魔物の侵攻が強まった。総攻撃さながらの勢いに民衆は恐怖した。

 

「何だってこんな……」

「王子にやられた残党が集まって、こっちに合流したらしい」

「嘘だろ……」

 

 壁の向こうから届く魔物の声の圧に、誰もが恐怖した。守備につく兵も例外ではない。いつまで耐え忍べばいいのか。さらなる救援は来るのか。不安の中にいた。

 食料も抑えられ、配給になって久しい。空腹が気をくじく。

 人々は救いを求めた。

 

「王子さえ来てくれたら」

 

 魔物を駆逐し回っている王子さえ来れば、きっと変わる。そんな願望にすがるしかなかった。しかし不安だけは拭えななかった。

 

「……そもそもそれ、本当なのか?」

「何?」

「王子って、今までそんな評判なかったじゃないか。もしかしてなんかの間違いなんじゃ」

「そんなこと……」

 

 不安が疑いを呼んでいく。

 

「本当だったら何で来ないんだよ」

「そ、それは他の所に行ってるからだって」

「だったらそろそろここに来てもいいじゃないか。来ないってことはやっぱり噂でしかなかったってことだろ」

「いい加減にしないか!」

 

 兵士の制止。声色に怒気が混じっていた。

 

「俺はあの人に助けられたんだ! 疑うなんて許さんぞ!」

「本当なのか?」

 

 別の兵士も反応した。

 

「あいつだけじゃない! 俺も見たんだ! 少し遠くからではあったが、王子が突っ込むやいなや、周りの魔物が倒れていく様を! まるで王子は何もしていないようだったのに、魔物は血を流したんだ!」

「す、すげぇ……」

「やっぱ王子すごいのか……」

 

 兵士の言葉は力強かった。

 

「きっと王子は天に愛されてるんだ。――俺は信じる。この都が天に見放されていない限りは王子は来るということを!」

 

 民はすっかり感化された。

 

「じゃあいつか王子がここの魔物を蹴散らすのか」

「近くで見てえなぁ」

「何言ってんだ危険だろ! 邪魔になるぞ!」

「違う! 一緒に戦えばいいじゃないか!」

「――た、確かに!」

 

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