TS剣客少女(闇)は、乙女ゲームの世界で自由気ままに生きる   作:さえぐさ

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第51話 魔物討伐3 暴発

 林の拠点を壊滅させたエリオットたちは、近くの町を拠点として、周囲に残存する魔物を掃討していた。それも数日すると魔物の姿が見えなくなり、町や村々の民は大いに喜んだ。

 

「――このあたりで一度休憩にしよう」

 

 ひとまず目的は達したということで、町で身体を休めることになった。ここ最近の戦い続きだった慌ただしさはなくなり、ゆっくりとした時間が訪れる。その急な変化に落ち着かなくなる者も多かった。

 とにかく一定の目標は遂げた。

 軍を解いて、民兵たちを帰すべきか。そこまでも検討され始めた頃、ハーヴェイは民と交流しているエリオットを連れ出した。

 

「エリオット様、この度の我々の遠征は、成功といって差し支えはないものと思えます」

「そうだね。母上も喜んでくれると思う」

「つきましては、この辺りで進軍を止めることを一考していただきたく」

 

 エリオットはすぐには頷かなかった。

 

「……まだ困っている人は多いと思うけど」

 

 エリオットの頭の中には民がいる。話までして、身の上まで知ってしまった。後ろ髪を引かれる気持ちになっている。

 対してハーヴェイは現実的だった。

 

「この先となると、領主軍が手間取っている都市周辺となります。……正直我々は良くやりました。出来過ぎと言っていいくらいです。期待以上のものを得ております。これ以上は危険が大きく割に合いません」

「……言ってることが分からないわけじゃない。でも、まだもう少しやれることはあるかもしれない。危険が少ないところだって探せば――」

「魔物の動向は調べてあります。魔物にも多少の知恵はございますので、あいつらも分散するとやられるということに気付いたようです。魔物は続々と、二つある都市のどちらかに集まっていっているとの報告を受けております」

「うーん」

 

 これ以上は領主軍に耐えてもらうことが現実的だった。救援に行くにも、中央の騎士の到来を待つべきだった。

 

「……皆を死なせるわけにはいかないか」

 

 エリオットは目を閉じると、鼻から空気をゆっくりと押し出した。ハーヴェイは「ご英断です」と言い、緊張を解いた。

 そこに早馬が来た。

 息を切らしながらエリオットの方まで誘導されると、膝をついて訴えた。

 

「――救援をっ!」

「どうされましたか?」

「ブリーズウッドより救援の要請です。どうかっ、お受けいただけないでしょうか!」

 

 伝令兵は懇願するような表情でありながらも、エリオットを見る瞳は妙に熱っぽかった。内情を語る前に、自分が伝え聞いたエリオットの武勇伝を語り始めた。

 エリオットは困惑した。

 

「その、……まずは状況を教えてもらっても?」

「も、申し訳ありません!」

 

 はっとした伝令の兵が伝えたのは、都市を攻める魔物たちが増えているとのこと。そしてこのまま増え続ければ、いずれ持たなくなるとのこと。

 

「領主様も可能であれば救援をと、言っていたとのことです」

「領主がですか」

「はい。また、ブリーズウッドの城主からも救援を乞う書状を受けております」

「……ハーヴェイ」

 

 エリオットは判断を仰いだ。この状況で断るのは風評に関わるし、エリオットとしてはやはり救援に行きたい気持ちもあった。

 

「そうですね――」

 

 ハーヴェイは、まず、何とか自分のせいにして行かないように出来ないかを考えた。部下の勝手な判断で退いただけであって、王子の意思は無視された。そういう形を作れないだろうか。今無理をしなければそれだけで充分過ぎるほどの戦果と名声を持ち帰れる。これ以上は望むべきではない。

 そこでアリアが口を出した。

 

「都市が陥落したら全て台無しなんですから、行ったほうがいいんじゃないですか。後で『王子が助けに行ってれば』とか言われるかもしれませんし」

 

 ハーヴェイはゆっくり瞬きをすると固まった。『その通りだ』と思ってしまった。一理ではなく、真理だと思った。大前提として、都市が陥落するようなことがあれば、その魔物がそのまま各地に襲撃をかけるだろう。そうなれば、村や町を回って稼いだ風評は霧散するどころか、悲惨な出来事で上書きされてしまう。これまでに獲得したものを持ち帰るためには、領地には勝ってもらう必要があった。

 

「……エリオット様、どうやら行かない選択はなさそうです」

 

 エリオットは嬉しい気持ち半分、いざ行くとなれば失われることになるだろう多くの命を想像し、恐ろしい気持ちにもなった。

 ハーヴェイは心得ていた。

 

「無理はしません。こちらは大掛かりな装備はない分、足は軽いですので、遊軍として動きましょう」

「……大丈夫かな」

「魔物の本隊は向こうに任せて、我々は端を切り取る方向で――」

 

 語られた作戦方針にエリオットは神妙に頷くと、伝令兵に向き直った。

 

「行きましょう」

 

 そのエリオットの言葉に、伝令兵は目を潤ませた。想いが喉をわずかに震わせた。

 

「伝説の英雄だ……」

「え?」

 

 即断即決の英雄像もあれば、周りの意見にしっかりと耳を傾ける英雄像もある。エリオットは後者として映っていた。

 

「あ、いえ! 何でもありません! それでは私はすぐに――」

 

 伝令兵は疾走するような足取りで去っていった。

 エリオットに、ふと、とある予想が脳裏を過った。

 

「もしかして向こうに魔物が集まったのって、僕たちが原因なんじゃ……」

 

 そんな王子の危惧というか事実に、アリアは目を逸らすと、

 

「部分的にそうかもしれません」

 

 と、曖昧に肯定した。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 すぐに出立し、目的の都まで近づくと、その攻防戦が見えてきた。

 ゴブリンにオークに、複数体のオーガ。さらに大きな狼や猿のような魔物までいた。しかし、魔物の攻めは人間から見ると雑そのもので、包囲することもせずに片方から力押ししているだけだった。ただし数だけは多い。

 

「厳しいな……」

 

 ハーヴェイはこれ以上寄るのを躊躇った。オークはもちろん、オーガと正面から対峙するには人の体格では不足がある。それに兵の多くは民兵である。装備も訓練も充分ではない。

 民兵のことを考えると、ゴブリンはともかく、オークは基本複数人かけてようやく互角であり、オーガに至っては戦うこと自体避ける必要がある。

 騎士をオーガにぶつけるとしても、オーガだけに集中出来るように周囲の魔物を対処する人員がいる。騎士だけでも数百人は欲しい。しかしそうすれば、民兵たちだけで他の魔物と戦うことになる。それも避けたい。

 そもそも、オーガを倒せるだけの武装もなかった。本来なら、攻城兵器や防衛兵器を直接当てたり、火や油を使ってどうにかするような相手である。せめて大型の槍程度の武器は欲しかった。

 

「向こうさんにどうにかしてもらいたいもんだが……」

 

 城壁に守られている都市を見ながら、ハーヴェイは難しい顔をした。

 都市側は壁と防衛兵器で守られているが、こちらは肉体で当たる必要がある。その危険は比にもならない。

 

「引き寄せて数を削るしかないと思うが、それでも危険が大きいな……」

「オーガまで来たら、とんでもないことになりますね」

「うーむ」

 

 騎兵はいいが、歩兵は逃げるといっても限界がある。

 アリアも迷っていた。答えは持っているが、いくつか問題があった。

 

「まああいつらが付き従ってる理由は力による服従ですので、オーガを討っていけば雑魚に元通りだと思うんですよね」

「だがオーガを討てるような装備がなぁ……」

 

 ハーヴェイは首をひねった。

 エリオットたちの軍の大半は、武器を持っただけの民兵である。仮に上手くオーガを討てたとしても、被害は甚大だろう。せっかく上がった名声に傷が出来てしまう恐れもある。

 本音はやはり都市の兵にやってほしい。

 振り返ると、民兵たちが驚いているのが分かった。

 

「あれがオーガか……」

「ここからでも分かるくらいでけえぞ」

「今からあれとやるのか……」

 

 さすがの民兵たちも、いつもどおりの戦意とはいかなそうだった。

 向き直ると、ハーヴェイは案を募った。

 

「何かないか」

 

 案とはたたき台である。初めから結論である必要はない。アリアは思いつきを口にした。

 

「陣地作って、騎兵が囮をやるのはどうですか。地面に細工して魔物の進行を阻害して、歩兵が逃げやすいようにしたり」

 

 物理的な罠を用意して嵌める。そんな旨を語った。

 

「今の王子の人気があれば勝算は十分だと思います。囮に王子が交じってれば、兵の怯えは王子を助けなきゃという意思に上書きされるはずです。何より陣地を作ることで安心することも出来ます」

「いやそれは……」

 

 囮にエリオットを混ぜるというのは、騎士たちにとって許容出来ないことだった。しかしここは仮定の話であり、案そのものを否定する時でもない。

 

「だが陣地を作るというのは悪くない。ただ今から作るとなると、資材を調達する必要もあるな」

「まあ戻るしかないですよね」

 

 ハーヴェイは話の流れに喜んだ。眼の前の都市が今日明日陥落する、なんてということはなさそうに見えた。であれば、今ここで決戦を挑む必要がない。一度ここまで近寄っただけでも意味はある。とにかく一度退いてしまいたかった。

 

「一度戻ろう」

 

 ハーヴェイが同意を得ようと、エリオットの方に視線をやると、エリオットは複雑そうな顔をしていた。

 

「……エリオット様?」

「見捨てるわけじゃないって分かってはいるんだけど」

 

 来ただけで何もせずに帰る。それも攻撃されているところを見ておきながらである。エリオットにはそれがどうしても気が引かれた。とはいっても、感情を優先させることはなく、戻る決断をしようとした。

 退くことを伝えるために振り返ると、立ち並ぶ兵たちがよく見えた。思えば五十騎で始まったのが嘘だと思うくらいに立派な軍勢となっていた。この兵たちに一度退くと伝えることが残念だった。しかし蛮勇で死なせるわけにはいかない。騎士も民も、皆、家族や友人、恋人がいる。

 エリオットの脳裏に王都の様子が思い浮かんだ。自分にもかけがえのないものがあると。

 

「……この戦いが終わったら、リリィに告白しようかな」

 

 アリアは目を見開いて驚いた。

 

「だ、駄目です」

「え、何で?」

「何でもいいですけど今はまずいです。縁起でもないですよ」

「えぇ?」

「――良いですね?」

「う、うん。分かった。」

 

 アリアは「ふぅ」と、額の汗を拭った。

 その時、城壁の向こうから雲を押しやるような大喚声が上がった。

 一体何が、と思った矢先のこと。魔物の主軍が集まっていたのとは裏側、手薄だった側の門が開いた。そのまま門から兵たちが出てきて、魔物に向かっていった。

 

「――なっ」

 

 エリオットたちはその光景に固まった。

 守っていれば耐えれるところを、わざわざ打って出るのはどういう策なのか。

 また、出てきた兵は、遠目には民兵ばかりに見えた。吠えながら周囲の魔物に襲いかかっていく。

 

「うぉぉぉぉ!」

 

 その光景は熱気に浮かされたようにしか見えなかった。危ういというより、自殺行為である。とんでもない暴発であり、そんなものに併せて動くわけにもいかなかったが、その民兵たちは揃いも揃って同じことを叫んだ。

 

「王子に続けぇぇぇ!」

「は?」

 

 エリオットは口をぽかんと開けた。

 

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