TS剣客少女(闇)は、乙女ゲームの世界で自由気ままに生きる   作:さえぐさ

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第60話 凱旋パレード

 朝日が窓からリリアナの部屋に差し込んだ。

 その眩しさに目を覚ましたリリアナは、空気を入れ替えようと窓を開いた。早朝の空気は澄んでいて、肺を潤わせた。

 

(元気出そう)

 

 元気はいくらあっても良かった。

 ここ最近ずっと忙しかったが、今はさらに忙しい日々を過ごしている。

 英雄王子の帰還を利用して民衆の心を掴もうと、いくつかの催し物を考えることになった。会議したりなんだりとあれこれやって、ひとまず凱旋パレードを行うことになった。

 もちろん凱旋パレードなんて事前計画にはなかったが、用意していた元の計画である食の祭典を改変することで間に合わせた。

 

(今日が本番だ)

 

 当初、女王の『何かやれ』という要請には驚いたものの、与えられた裁量は大きく、自身の目的に沿って変えることが出来た。ただ王子を祝賀するだけじゃない。国内各地の食材を使用した料理を提供することで、旅とかしなくても王都にいるだけで色んなものが食べれるようにした。また各地からの人を呼び寄せた影響により、王都はぐっと活気づいた。皆、英雄が見たいらしい。

 

(王子様には感謝しなくちゃ。仕事の相談や打ち合わせとかで、アリアちゃんと関わることが増えたし)

 

 物事を進めるに必要な力は、強力なリーダーシップだけではない。リリアナは人を円滑に動かすための折衝に尽力している。どう組み合わせるといいか。そういうことを考え、実際に実現させている。

 それは学園内で貴族のコネというコネをこね回せたからこそ出来た芸当であった。女王側で仕事をしつつもオフィーリアとの親交を続けたことで、様々な立場の貴族からも協力を得れた。今回のことにより、派閥間の軋轢や不利益を心配していた貴族からは大変感謝された。難しい立場の貴族であっても、リリアナという特殊な立場であれば近づきやすく、頼られた。

 

「頑張るぞー」

 

 計画書を見たアデレードが、リリアナを化け物でも見るような目で見始めたこと以外は何も問題はなかった。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 王都。

 昼前になると、出店から食欲を誘うような香りが漂ってきた。

 砂糖が溶ける甘い匂いや、肉が焼ける香ばしさ。どこも盛況で行列が出来ていた。

 また出店は多種多様で、民芸品や生活用品まで様々なものが売られていた。

 出店は主に大通りに立ち並んでいる。広場では食事を取るための場所が設けられ、老若男女が思い思いに楽しんでいる。子供が楽しそうにしている姿は、この都がいかに安全であるかを証明しているようだった。

 そんな中、とある出店にて、美味しそうな串焼きを買おうとした一人の少女が手持ちのお金が足りないことに気づき、急に周りに溶け込ませていた雰囲気をやめて、どことなく美少女感を醸し出すことで値引きを成功させていた。

 

(まったく、これだから金っていうやつは)

 

 美少女感を引っ込めた少女アリアは、おまけしてもらったくせに金の存在に文句を言っていた。

 

(そういえば――)

 

 アリアは自分が金欠であることに気付いた。

 当然だった。昔はよくいた歩くお小遣い袋はもういない。収入がなければ増えようがない。

 そしてもう一つ気付いた。

 

(結構働いているはずなのに、報酬をもらっていない)

 

 解決法はすぐに出た。

 

「陛下にせびるか」

 

 思えば、いろいろと働いてるはずなのに報酬をもらったおぼえがない。それはもう素晴らしい報酬が待っているに違いなかった。

 さっそく城まで行ってお金をねだりにいったアリアは、寝耳に水な話を聞かされた。

 

「報酬ならその都度やってるだろう。貰ってないのか?」

「何がですか」

「ほら、お前の代理で来ている男にだ」

「何がですか」

「あいつに全部渡しているぞ」

「ちょっと所用を思い出したので失礼します」

 

 アリアは腰に下げた剣の柄を撫でた。何か色々とみなぎってきた。

 退出直前、呼び止められた。

 

「待て」

 

 振り返ったアリアに映ったのは、親切心を顔に出したアデレードだった。

 

「今すぐ入り用なら手配するぞ」

「さすがは陛下」

「ちなみに何に使うんだ? 言いづらいなら答えなくてもいいが」

「食べ歩きです」

「そうか」

 

 お小遣いを手にしたアリアは、すぐさまとある酒場に向かった。準備中の札がかかっている扉を開き、中に入る。

 お目当ての人物は中で談笑していた。

 何かを察した者たちがささっと引いていき、その空いた席にアリアは座った。

 

「さてワンちゃん。――弁明をしてもらおうか」

 

 ヴァイトは露骨に嫌そうな顔をした。

 

「……何の弁明だよ」

「報酬を独り占めした件について」

「独り占めしてねえよ。ちゃんと分けてる。詳細は俺じゃなくて会計担当に聞いてくれ。ちなみに、お前の命令でそいつの部下を何人も引き抜いたせいで不満たらたらだったぞ」

「ごめんなさいでした」

 

 アリアは早々に白旗を上げた。

 

「俺に言ってもしょうがねえだろ」

「んだぁてめぇ」

 

 アリアは何か悔しいので抗議した。

 

「それと、お前の分はちゃんと分けて取ってある」

「んだぁてめぇ」

「何でだよ」

 

 ツッコまないと心に誓っていたヴァイトは秒で折れた。

 

「……まあいい。それより報告がある」

「んだてめ?」

「……敵さんに動きありだ」

 

 ヴァイトは今度は耐えた。

 

「王子の名声の上がり方に焦ったみたいだぜ。こそこそとやってたのを止めて大っぴらになってきやがった。もうバレてもいいって腹だ」

 

 王都には、続々と怪し気な人が入ってきている。今まで巧妙に隠そうとしていたものが、速度と数を優先するようになってきた。

 緊張感がヴァイトから出る。

 

「……吐かせた情報だと、政変でも起こそうって感じだぜ。この祭りを機だととらえているのかもな」

 

 末端の人間を捕らえて情報を聞き出しても、大したものは出てこない。やはり狙うなら上の人間だが、その辺りの人間は簡単には尻尾を出さない。

 とはいえ、実際に何をやるつもりなのかは分からずとも、兵を使うこととタイミングは分かった。それだけでもいくらか対策は立てれる。

 話を聞いて、アリアは疑念を口にした。

 

「でもそれだとあいつの思惑通りとはならない気がする」

 

 アリアはベネディクトがどういう人間であるかを知っている。遠回しに手を施すことを好み、リスクは避ける傾向がある。

 

「単純に俺達が邪魔しすぎて方針転換したんじゃねえか?」

「そうかもしれないけど、そうじゃない気がする。あれの頭脳から出たものとは思えない」

 

 アリアは確証はないまでも確信はあった。勘である。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 とある離れの屋敷。

 人払いのされた一室に、二人の男が向かい合っていた。

 今にも爆発しそうな剣呑な雰囲気だった。

 ベネディクトは怒気を込めて抗議した。

 

「――何故こんな性急な真似を」

 

 ヴェイルモントは冷たく答えた。

 

「本国の命令だ。俺に言われても困る」

「……どういう方針か聞かせてもらえるか?」

「ああ、それなら問題ない。――本国は貴殿の失態に不満とのことだ。ということで、いつも通りの手法を取ることに決めたそうだ」

「それはつまり、ただの力押しか?」

「そうだ」

 

 その手法は、ベネディクトにとっては気に食わないものだった。

 

「そんなことをすれば少なくない打撃がこの国を襲う。統治する予定であるなら、力押しなど避けるべきだ」

「ああ、俺もそう思ってるし、本国もそうだった。しかし、失敗を重ねすぎたな。単純に待ち切れないらしい」

「国の大事だぞ? 待ち切れないなどと――」

「本国は他国とも争っている。ここにも兵をいくらか派遣してる以上、長引かせたくないとのことだ」

「愚かな。そんな野蛮な手段で他国を併合して反乱が起きないわけがないだろう。そんなことも分からないのか?」

「それを俺に言われても困る。そもそも本国は反乱を鎮圧出来なかったことは一度もない。こんな脆弱な国での反乱なぞ、派兵すれば簡単に潰せてしまえる」

 

 ベネディクトは感情を抑え、頭を動かした。

 

「……それで私はどうなる?」

「何だ自分の心配か?」

「違う。採れる選択肢を知る必要があるからだ」

「安心しろ。お前に関することは既定路線のままだ。別に評判が落ちたわけでもないから、統治後は総督として赴任してもらう。あれこれ言ったが反乱なんてものは起きないに越したことはない。望む展開としては、英雄を亡き者にした悪の帝国と、その帝国を相手に交渉する総督様というわけだ」

「……分かった。であれば私の評判を落とさず、この国の弱体化を図ることが最善か」

 

 ベネディクトは考える。

 今回のことで王子の名声は確かに上がったが、代わりに王国の盾を中心とする騎士の名声は下がった。これを逆に利用出来ないか。

 

「戦士とは名誉を尊ぶというが、――その名誉を侮辱されるとどう感じる?」

「……戦士とは己の死に様を考えるものだ。そこは生死を超えた命題だからな」

「それは使えそうだ」

「まぁ、戦士としては好ましい話じゃないが」

「しかしそれで動くのであれば、王国の騎士を弱体化させられる」

 

 あの騎士どもの腹も暴けるとなると、悪くはなかった。

 

「まあ俺としては寂しさ半分だよ。全盛期の王国の盾と勝負したかった。ああそう言えば、名声を大きく上げた王子はどうなんだ? 実力を隠していたのだろう? でなければ有り得ない戦果だ」

「そんなわけがない。そんなことを本気で信じているのは愚かな民衆だけだ」

「じゃああの戦果はどこから来た?」

「あいつには策士が付いてる」

「何だ、そっちの方か。つまらん」

「いや、強引な手段でもいいからそいつを排除出来れば全てが上手くいくかもしれん」

「それほどか?」

「それほどだ」

 

 ベネディクトは確信していた。

 

「帰らないというお前の弟子も、恐らくはそいつに嵌められたのだろう」

「ほう? 詳細を聞きたいな」

「悪いが、今は先のことを優先させる」

 

 ベネディクトは方針を語った。

 

「まずは女王を排除して機能不全にさせる。王子は残し、その不手際を押し付けて名声に傷をつける。民衆から、戦闘以外は出来ないと思わせる」

 

 今の王子の名声を傷つけることは不可能でも、未来の王子になら可能である。熱狂など冷ましてしまえばいい。やり方はいくらでもある。

 

「やり方としては、女王と騎士を反目させ争わせる。その後、残った方を貴殿に討ってもらう」

「簡単でいいな。騎士が生き残ることを願おうか」

「願う必要はない。女王が生き残ることはない。王座に向けて兵を送る。それだけで終わる」

 

 王座を捨てて逃げない限り、生き残ることはない。逃げるのであれば、その事実を喧伝するだけでいい。犯人は帝国の暴走で片付く。民衆には砂糖をまぶした正義を提供するだけで、良いように踊ってくれるだろう。

 部屋を出て一人になったベネディクトは、愚痴を口にした。

 

「……ここまで根回しをして、最後は力押しか」

 

 ため息が出た。

 

「まあ、己の不手際だと思うしかないか」

 

 馬鹿らしさと共に虚しさもあった。

 しかし、この状況下で女王がいなくなるのは大きい。王政の延命を一人で担っているような存在である。敵だからこそその能力を疑っていない。あの王子に代わりが務まるとは到底思えない。

 

「王子には、自分の無用な働きのせいで母親が死ぬことになったと教えてやる」

 

 ベネディクトは、自分が考えていた絶好の機会とはいかなかったことの不満をエリオットにぶつけることにした。

 

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