TS剣客少女(闇)は、乙女ゲームの世界で自由気ままに生きる   作:さえぐさ

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第61話 多分相手が悪かっただけの人たち

 リリアナは城内を練り歩き、ようやく探し人を見つけた。

 

「あ、アリアちゃん!」

「なんじゃい」

 

 その探し人の足元には当たり前のように猫がいた。

 その光景は、リリアナどころか、もはや城内の誰もが違和感を抱くことはなくなっていた。城内にはいつも猫がいる。初めはせっせと外にまで運搬していたが、何度運び出しても入ってくるものだから、いつしか諦めて城内で世話をすることになった。運び出される猫を見るのが名物になる前に対処したのではないかと一部では噂された。また、犬も良いんじゃないかという一派も誕生した。

 そんなこんなで猫の世話をするだけの仕事が生まれ、リリアナは自身がいた孤児院の子どもに仕事を斡旋することに成功した。人柄は知悉している。

 猫はさておき、リリアナは用件を切り出した。

 

「実は、アリアちゃんが喜びそうなものを用意してて」

「なぬ」

 

 アリアが喜ぶものの選定が難しい。食べ物関連を除けばだが。

 リリアナは数枚の紙を手渡した。

 

「これ、出店表なんだけど。今日までに集計した感想とかも載ってるから、参考にしてね」

「こ、これは――」

 

 アリアは出店表を食い入るように見た。

 店名の横に名物料理や普段の人気、今回限定の料理やレビューなどが書いてあった。

 

「アリアちゃんはこういうのが喜ぶかなって」

「神」

 

 信仰に目覚めたアリアは、出店表を大事にふところにしまった。

 

「ああでも気をつけて欲しいことがあって」

「食べ過ぎですか」

「いやアリアちゃんはもうちょっと肉を付けたほうがいいかもしれないけど、そうじゃないの」

「そうじゃないんですか」

 

 アリアは食べる時には食べるが、食べない時は食べない。

 リリアナには懸念があった。

 

「何か女王様の敵対勢力が邪魔するかもって話があって注意してほしくて」

「不届き者ですね」

「警備はかなり強化してるんだけど、完璧ってわけにはいかないから裏路地とかには行かないようにしてほしくて」

「なるほど」

「まあ危ないところにわざわざ行くような真似、アリアちゃんはしないと思うけど一応ね?」

「はい、危ないところには行かないようにします」

「良かった! アリアちゃんは猫味マシマシで可愛いから気をつけないとね!」

「猫味とは」

 

 なお、この王都にアリアにとって危ない場所が存在するかどうかは別の話である。アリアがいる場所が一番危ないと言う人もいるかもしれない。あくまで可能性として。

 

「本当は私も一緒に回りたかったんだけど、さすがに主催者なんで仕事が多くて……」

「何かあれば手伝いますよ」

「――ありがとう! アリアちゃんがいれば百人力だね!」

 

 何かウキウキになったリリアナは去っていった。

 信仰に目覚めたはずのアリアは、なんとも言えない気持ちでリリアナを見送った。

 

 

 昼が近づく頃には、王都は既に盛大に賑わっていた。

 広場等の各所に用意された飲食スペースでは、老若男女が雑談に花を咲かせながら食事を楽しんでいた。家族連れからカップル、友達同士やソロまで、様々な人が利用していた。

 その中の一つにアリアはいた。

 四人掛けのテーブルを一人で占領している。テーブルの上には料理がずらりと並んでおり、アリアはそれらをパクモグしていた。

 その光景はさすがに注目された。

 

「あの子すごいな……」

「気づけば料理が増えてるのなんでだ?」

 

 食の万国博覧会が開催されていた。

 祭りが盛況なのはいいが、盛況過ぎるがゆえにどの店も混んでいる。そのために複数の店の料理を食べようとするのは難易度が高いはずだった。

 

「んまい」

 

 種も仕掛けもあった。そして簡単だった。

 通り過ぎる風で、そっと料理を追加していく心優しい部下たちがいた。涙ぐましい仕事である。

 しばらく経ち、目星を付けていたものをある程度食べると、アリアは席を立った。

 

「そろそろ限定クレープの時間だ」

 

 裏路地へと消えていった。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 路地裏は、昼にも関わらず薄暗いところが多い。大通りの盛況さとはうってかわって、そこは静かだった。その落差が独特な雰囲気を作り出していた。

 路地裏の一角で、三人の男が何やらこそこそと話していた。

 

「……いいか、誰にも気取られるなよ」

「――うっす」

「俺達の役目は混乱を起こすことだ。血を流し騒ぎを起こすぞ」

「浮かれたやつらに恐怖を与えてやりやしょう」

「そうだ。注意を分散させることが我らの役目だ。他の箇所でも準備が行われているはずだ」

 

 そんな緊迫とした空気の中に、異物が入ってきた。

 

「ちかみち、ちかみち――」

 

 慌てて、その異物を確認する男たち。

 

「っなんだ、女! もしや今の聞いていたか!?」

「な、何ですか。急に大声で――」

 

 驚いたような様子の少女。足元には数匹の猫。

 男たちはひとまず安堵した。

 異物は異物でも、警戒には値しなさそうな感じだった。

 

「……ただの住民か」

「はい、ただの住民です。五十食限定の限定クレープのために急いでるだけです」

 

 祭りだからと浮かれて警戒心を薄くしたがために、危険な裏路地に入って来た愚かな女だと、男たちは判断した。どうであれ、愚かさの代償を払わせる必要がある。男たちは対応を考えた。

 

「……兄貴、こいつよく見てくだせえ。とんでもねえ上玉ですぜ」

「任務を優先させろ。……いや、聞かれていたかもしれん。――斬れ」

「もったいねえなあ」

 

 一見、荒事とは縁遠そうな少女は、この状況下で説教のようなものを口にした。

 

「悪いことは駄目ですよ。いつか痛い目見ますよ」

「ははは、そうかい? そうなるといいなっ――」

 

 男の一人が腕を広げ、少女に襲いかかった。

 当然のことが、当然のように起きた。暴れ牛の前に飛び出したようなものである。悪魔も悲鳴を上げて逃げ出すようなか弱そうな少女に襲いかかった可愛そうな暴漢がぶっ飛ばされた。とても悲痛な話だった。

 

「ぶべっ!」

 

 壁に激突する暴漢。身体の芯なる部分が砕けた音がした。

 

「はっ!?」

 

 男たちは何かがやばいことを理解した。

 

「いや、ちょまっ――」

「悪いことは良くないです」

 

 と、少女は言いながら、ゆっくりと剣を抜いた。

 悪いことは良くないこと。子どもの頃に大抵習うものである。

 人を傷つけてはいけない。共通の道徳である。これも習う。

 ――さておき、少女はひどく面倒くさがりだった。

 抜かれた剣が、解決のために動いた。

 

「ぁ」

 

 ごとりと、首が落ちた。

 残った男が、首を失った仲間に声をかけた。

 

「お、おい! しっかりしろっ」

 

 現実に心が付いていけてなかった。

 追い付けないまま、首に異物が差し込まれた。もう一つ転がった。

 評するなら運と相手が悪かった。『うんうん、よく分かった』と言いながら剣を抜く面倒くさがりに敵意を向けたのが、全てだった。

 そんな事件現場に、乱入者がやってきた。

 

「――あ、いた! どこほっつき歩いてんだ!」

 

 剣に付着した血を飛ばしていた少女は、見覚えのある乱入者に少し機嫌を良くした。

 

「にゃんですか」

「ワンだよ! って、違えよ! ヴァイトだ!」

「おお」

 

 アリアは拍手を送った。

 アリアはいつだってからかいがいのあるツッコミ役を欲していた。ヴァイトは満点だった。

 そんなヴァイトは、緊迫した様子で切り出した。

 

「――やべえぞ。向こうさん、本気で事を起こすつもりだぜ」

「事って?」

「何かまでは分からねえが、とにかく本気だ。方針決める前に対処したやつの正体が阿呆だと分かったのは良いが、事態としては後手を踏んでる」

「あの、話についていけてないんだけど。そんで今阿呆って言わなかった?」

「あわせて騎士共も動きそうな雰囲気だ」

「今阿呆って」

「祭りも中止になる手筈だ。女王から聞いてないのか?」

「本日の出店で一番美味しいもの選手権がまだ決まってないから、まだ会いに行ってない」

「何言ってんだ。店なんてすぐに閉まるに決まってるだろ」

「なぬ」

「当然だろ。この後、外出禁止になるから店開ける意味ねえだろ。大体お前のせいだろ。内政も軍事も上手くいかせすぎたんだよ。敵が急いて事を起こし始めやがった」

「にゃんと」

 

 アリアは猫を抱き上げると、ヴァイトに向けた。無言の時間が流れた。

 特に意図はない。

 

「とにかくどうする?」

「まだ間に合うんじゃないかな」

「何がだ」

「お店」

「おい」

 

 アリアは猫を自分の方に向け、鼻と鼻をちょんっと合わせると、猫を降ろした。

 

「じゃあ、騒ぎが起こる前に敵をしばき回して、騒ぎが起こった後もしばき回し続けて、お祭りは中止させない方向でいこう」

「そんな上手く、――いきそうなのがお前の怖いところだな。天でも味方に付いてんじゃねえか」

「実はリリアナ神がついてる。元凶に天罰を下してやんないと」

 

 アリアは敬虔な信徒としての聖戦を起こすことを決めた。敵をしばいてしばいてしばき回す。アリアは勤勉になった。

 それはさておき、思い出した。

 

「ところで、さっき阿呆って」

「よし急ぐぞ――」

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 誤魔化すためではなく、不思議と勤労意欲に駆られたヴァイトにより指令が下された。方針さえ決まってしまえば早かった。何かあったら責任はあいつに被せようと言った発言そのものまで言質に取られたヴァイトは、人の手配をそれはもう頑張った。一番功績を上げたやつには秘蔵のボトルまで出すと身銭まで切り出したヴァイトだったが、それが一番アリアをやる気にさせてしまうことに言ってから気付いた。もう遅かった。

 当のアリアはボトルなぞに興味はなかったが、勝てば気持ち良く煽れることだろうと思い、真面目に仕事することにした。秘蔵のボトルとやらをエサにして、他の構成員から獲物の情報を得た。

 アリアの組織にとって、王都の裏路地は庭である。

 完璧な潜伏は無理があった。泳がさずに処すと決まれば、事は早かった。

 当の潜伏している者たちは、自分たちがゲームの得点扱いされていることに気付いていなかった。

 

「……この任務をやり遂げることで、俺は組織内での地位を――」

「何だハズレか。雑魚の得点は低いんだよね」

「何だ貴様っ」

「何でもないです。泳がされていたことに気付きもしなかった雑魚に言うことも聞くこともないし」

「何だと――」

 

 男は荒々しく叫んだ。

 

「馬鹿にしているのか貴様!」

 

 アリアは顔色一つ変えなかった。

 

「馬鹿にしてるというより雑魚だと思ってる」

「ふざけるなっ。人を何だと思っている。俺は命懸けでっ――」

 

 言ってる途中で、男の肩に剣が突き刺さった。関節部分に食い込み、激痛に絶叫が上がった。

 アリアは嘲笑った。

 

「嫌だな。人殺しがカッコつけるなんて」

 

 歯を食いしばり痛みを抑え込んだ男は、アリアを睨んだ。

 

「貴様もだろっ」

「あれ? カッコつけてるように見えた? そりゃびっくり」

「ぐっ――」

 

 肩から抜かれた剣。

 首を通り抜けていった。

 

「さて次――」

 

 アリアは鼻歌交じりで歩き出した。

 すぐに得点が見えた。

 明らかに敵、というか変なやつだった。

 さすがのアリアもちょっと引いた。

 

「その、何か嫌なことでもあったんですか?」

 

 長い髪を逆立てた目の隈がすごい男が、何かくねくねしながら何も無い所で双剣を振り回していた。どう見てもヤバいやつだった。

 

「きひゃひゃひゃひゃ!! 斬り刻んでやるぜぇ!」

 

 アリアはどうやって王都に入ったのだろうかと不思議がった。検問が機能していないようにしか思えない。

 

「血だ! 血を寄越せぇ!」

 

 人間は、動揺している人を見ると冷静になるという。アリアは、冗談も煽りも忘れて素で言った。

 

「その何と言うか、真面目にやった方がいいんじゃなかなって思うんですけど」

「ああ? 真面目? なんだぁそりゃ!? 何だかよく分かんねえが、テメエ死んだゼェ!?」

 

 くねくねしてる男は、アリアに向かって剣を振り上げながら急速に近寄った。

 

「キヒヒッ」

 

 それは突進に見せかけたフェイントだった。

 引かせた身体。誘い込まれた敵を刈り取る剣術。これまでに死体を十数人単位で築いたものだった。

 

「馬鹿がァ! 終わりだゼェ!」

 

 広げられた両腕が、咲いた花がツボミに戻るように閉じる。フェイントにかかったアリアの身体を双剣が切り裂いた――なんてことはなく、アリアは普通に相手が引いた分踏み込んで、その後に普通に剣を振り下ろした。

 

「えいっ」

「へ?」

 

 男の額から血が流れた。感じる出血量から致死を自身で悟った。

 

「は? え? ……これで俺、終わり?」

「だから真面目にやれって言ったのに。対雑魚用の雑魚剣術なんてするから……」

 

 男は倒れた。

 世の中には色んな人間がいるんだなぁと感慨にふけりながら、アリアは散歩を再開した。現状、祭りが中止される様子はなかった。どうやら皆頑張っているらしい。アリアは慈悲を覚えた。ヴァイトには煽って煽って煽り散らかすことで許してやろうと思った。慈愛に溢れていた。

 続けて、貰った情報を元に歩いていると、何か偉そうな男と鉢合わせした。無駄にマントがなびいていた。

 

「ふんっ。この剣の錆にしてくれよう」

「はい、本日はお日柄もよく」

 

 醸し出す雰囲気から、それなりの使い手らしいことが分かった。

 そして本当に何か偉そうだった。口髭が両端で上向きに曲がっていた。

 

「お前も剣を持っているなら、剣士の端くれではあるだろう。見るがいい、この剣を――」

 

 偉そうな髭の男は、剣を突き出して見せた。

 

「美しいだろう? 俺は名剣の類には目がなくてな。欲しいものは奪ってでも手に入れるのだ」

「何その歪な弁慶」

「……べんけい? まぁいい。さぁ、お前も抜け。ただ者ではないことは分かっているぞ」

「はぁ」

 

 アリアはやる気なさそうに剣を抜いた。

 その瞬間、髭の男は、血の淀みのような雰囲気がアリアの剣から醸し出されていると感じた。血液が滴り落ちるような幻視をするほどの妖しい気。背筋がゾクッとする程の恐れと興奮。髭の男はニヤけそうになる顔を止め、冷静に務めた。

 

「……中々斬れそうな剣だ。随分と血も吸っているようだな。――名のある剣だろう?」

「実はそう――」

「聞こうじゃないか」

 

 アリアは神妙に語り出した。

 

「――これは、かの名工ゴットフリート・バルバロッサ・シシャモが打ち鍛えた伝説の剣ライオンハート・ザ・メザシ、――を模して作られた剣を、――参考にして量産されたそこそこ斬れる剣です」

 

 適当だった。

 信じた髭の男は、失望した。

 

「……駄剣か。聞いたこともない剣の模造品に用はない。死ねい!」

 

 男の剣が、上から下へと移動する。

 その斬撃は、音もなく鋭かった。

 が、アリアはひょいっと躱した。

 

「なっ」

 

 空振りに終わった動作、その戻りに合わせてアリアは踏み込んだ。アリアの剣が、相手の手首よりも先に駆け、上に向かう運動だけが残った手首が宙を舞う。

 アリアはその手首を左手で掴み取ると、そのまま横に振った。硬直した手首の先の名剣が、持ち主の首に到達する。

 

「ぎゃっ」

 

 名剣は途中で止まった。

 

「あら、なまくら」

 

 アリアは淡々と言った。

 

「斬るのは、剣ではなく己だろうに」

 

 何だかんだで、気持ち良く煽れたことでアリアは気分が良くなった。

 散歩を再開することにした。

 それはそれとして、一つ気になることがあった。

 

 ――思ったより数が少ない。

 

 案外騎士が頑張っているのかもしれない。そんなことを思った。

 

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