TS剣客少女(闇)は、乙女ゲームの世界で自由気ままに生きる   作:さえぐさ

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第65話 行軍開始

 一段落して今後の相談をしていたところ、緊急の報告が入ってきた。

 ベネディクトの動向について語られる。

 

「そうか、あいつは既に帝国に向っていたのか」

 

 アデレードは難しい顔をした。アラスターも似たような顔付きをした。

 

「誤報だとは思えませんな」

 

 誰もが黙った。そういう手筈だったことは容易に想像出来た。王都から出さないようにして捕らえることが出来ればと、過ぎたことを考えた。

 間を置いて、アラスターが口を開いた。

 

「そういうことか――」

 

 アラスターは、推測したベネディクトの意図を語った。

 

「陛下を亡き者にしてから、時をおかずにこの国に攻め入る。そうなれば我らはまとまることが出来ず、ロクな抵抗が出来なかったでしょう。実際、ヴェイルモントは、王も騎士団長も亡き者にすると語っていました。それが成っていれば、エリオット王子はまとめられるはずのないものを率いて、無謀な戦いに挑むことになったでしょう。王子の名声を下げるにはこれ以上はないと思われます」

 

 アデレードは深く頷いた。

 

「……手の早いことだ。自身はすぐさま帝国へと向かえば、追いつかれることはない。そもそも追跡を開始するだけで、どれだけの日を要するか」

「ええ。ですが――」

 

 深刻な話の中、二人は表情を緩めた。

 

「手が早すぎたな。結果を知る前に行動したために墓穴を掘った。よもやこの結果を予想さえしなかったということだ。大きな優位点だな」

 

 計画の結果は、女王が生き残り、騎士たちとは協調し、ヴェイルモントが討ち死にとなった。ここまで成果がないというのは、悲観論者でもなければ出来ない予想だった。

 とはいえアデレードは油断はしない。

 

「問題は物理的に追いつけないことくらいだな。帝国の奥に引っ込んでしまえば面倒だ」

「元宰相の身柄は、帝国が攻め込んで来る際の大義に使われるでしょう」

「対して我々の大義は国賊を罰することになるが、結局のところ大義なんてものは大義でしかない。内政干渉だと不満をぶつけても解決にはならん」

 

 アデレードは政治で解決したいとは思っていない。多少の損をしてでも、ベネディクトの命を消すつもりだった。

 アラスターも心得ている。

 

「どれだけ迅速に軍を差し向けられるかが勝負となりますが、……我らが中央を離れてしまうのはやはり危険です」

「後者なら対策済みだ。宰相の座が空いた場合の後釜は用意している」

「どなたでしょう?」

 

 アラスターの脳裏には、思い当たる人物がすぐには出てこなかった。

 

「やつの娘さ。話は既に通している。これで派閥間の協力は取りやすくなる。つまり、ここで協力すれば所領を安堵してやると示してやるのさ。逃亡したやつの家を取り潰すことなく、娘をそのまま使う。これ以上に分かりやすい証明はないだろうよ」

「懸念を口にさせて下さい。役職が役職です。内面や能力のほどは、確認済みということですか?」

「我は会ったことはない。だが、手の者は向かわせている。聞くところによると、実に良い友人がいるそうだから協力してもらうことにする」

「友人ですか?」

「ああ。やれることは全て押し付けたいやつだが、本当にそうすると過労で倒れかねん」

 

 アデレードの優しさだった。妃と宰相の二足のわらじは辛かろうと、ひとまずは宰相補助にしてあげた。その話を聞いたアリアも、『ちゃんリリ頑張れ』と、思わずハンカチで目をぬぐいかけた。

 そんなアリアから案が出た。

 

「あの場所から出国するのであれば、多少は時間が稼げるはずです」

「ほう?」

 

 アリアにとっての故郷。現在では帝国の出入り口。

 他の国境沿いの領地と違って大胆な行動がしやすく、また端にあるため、戦争になった際に挟まれにくく防御力も高い。 

 

「影を一番配置しているのはその場所ですから、妨害くらいは出来るでしょう。問題は察知出来るか、指示なくともやってくれるか、というところですが、実践で機転が利く者を向かわせてますので、期待はしても良さそうです」

 

 猟犬が敵を嗅ぎ取ることが仕事なら、鳥は敵の動向を察知することが仕事だった。

 

「とはいえ、ある程度まとまった軍をまとめるのも時間が要るでしょうから、小競り合い程度が出来る兵を先遣させたいと思います」

「どうやるつもりだ?」

「先日の件で手に入れた騎士たちを使います」

「それでも既に途中まで進んでいるやつには――」

「近道があります」

 

 ベネディクトの進路は、大きく下に迂回していくものだった。迂回せず、真っ直ぐには進まない。強力な魔物が跋扈する大森林が壁になって、進めないためである。アリアの案はそこを真っ直ぐ突っ切るものだった。

 

「その森に入るのだけは自殺行為となるぞ。軍隊を派遣しても軍隊丸ごと壊滅してしまうようなところだ」

「そこを何か頑張って直進します。敵もびっくりでしょう」

「……それはさすがに認められん」

「でもしばらく住んでましたし」

「今は冗談はいらんぞ」

「あれ? 話してませんでしたっけ?」

「ん?」

「森に住んでたことですけど」

「……ん?」

「その森を抜けた先の街で、元宰相の部下を斬ったのが私ですよ」

「……真実というなら、――いや、さすがに危険過ぎる」

「魔物なんて、逆に逃げていきますよ」

「それはそれでどうなんだ?」

 

 どう考えても一番やべーやつである。

 

「しかし大量の人間が森に入るとなれば、お前がいたとしても魔物はやって来るんじゃないか?」

「そんな頑張り屋さんはいないと思います。結構間引いたんで」

「魔物より魔物してないか?」

「してないです」

 

 周りの騎士たちとの距離が心なしか開いた。

 だがその長だけは踏み込んだ。

 

「陛下、口を挟んでしまいますが、その娘、……いやアリアの言うことは採用する価値があるかと思われます」

「おお」

 

 思わぬ援護が来た。

 

「世界最強を掲げた男を圧倒した存在です。もはや人を超えた強さ、いや単純に人外と言ってもいいやもしれません」

「全然よくない」

 

 何か微妙に援護じゃなかった。

 アリアは面倒くさいながらも自分で擁護することにした。

 

「考えてもみてください、この身があの場所に早く辿り着くことの利点は大きいです。あの場所が、反乱の気運が高まっていることは、この前に報告した通りです。焚き付ければ、現地で兵を得れます」

「その場合、お前は」

「旗に出来そうなのがまだ生きてるので、それを使います。きっと協力してくれるでしょう」

「きっと、か――」

「まあどうであれ強制させますし、最悪は捨てた名前を名乗ります。もう名に囚われるほど不自由はしていません」

 

 今のアリアは確固たる自由を手にしている。

 剣一つ振るうだけで、大概のものは手に入る。

 

「それにあの場所には放置したものがありますから、いつかは行かないといけません」

 

 アデレードは承諾したくなかった。だがアリアの功績を考えると承諾すべきだとも思った。既存の理屈を組み替えてどうにか出来なかったからこそ、これまでどうにも上手くいかなかったのであり、そこを逸脱したからこそ今がある。

 

「では信じるとは言わず、――賭けると言おう」

 

 勝ち馬に乗るほど簡単なものもないはずだ。理外の利を掴み取るために、アデレードは己の意思を抑え込んだ。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 決まれば早かった。

 すぐさまイザベラへ伝令を遣わせ、急がせた。その間に、すぐに動かせる兵を集め準備させた。

 民衆も気付いた。

 この間凱旋パレードが終わったばかりだと言うのに、もう出陣ということで民衆はいくらかの動揺を見せた。

 

「一体何が――」

「早く平和になってほしいよなぁ」

 

 エリオットは壇上に登った。

 

「聞いてほしい――」

 

 通る声。もちろん練習の成果である。

 語ったのは、宰相ベネディクトが逃走した件、そして明るみになった悪事。

 少し前までなら信じられなかったかもしれない事柄でも、今のエリオットなら信じさせてしまえる説得力があった。

 

「彼に言い分があるのならば、聞くつもりだ! この場で、皆の前で! ――しかし! 帝国へ逃げるとならば、それが反逆の証明となるだろう!」

 

 正義が勝利に必要な要素になるのかは不明だが、戦争には大義名分というものを必要とする。

 エリオットとしては、一方的に罰するつもりはなく、弁明の機会を与えると説明することで民心を得ようとした。もちろん、弁明することに意味がないからこそ相手は逃げるわけでもあるが、ここではもはや関係はない。

 それどころか、距離的制約により、このような形で追われるようになるとは、当人のベネディクトが気付けていない。

 

 

 

 イザベラの騎士団が到着すると、出発となった。

 速度重視ということで、騎馬だけで行軍した。

 目的地はグレイストーン。アリアが森を出て初めにやって来た街である。

 それまでの道中でも、王党寄りの貴族から兵を拠出させる。ここで兵を貸すことが得することしかないことに貴族側も承知しているので、自身や息子が付いてくるほどだった。

 

 ――正直助かった。

 

 敵対していた貴族たちの多くがそう思った。派閥の旗色の悪さに悩む者も、心情としては敵対するつもりはなくても情勢で宰相派閥に入っていた家もいる。彼らはこれを好機と見て、急いで兵を送った。

 本来ならば、派閥の長が逃亡したとなれば、前途に頭を抱えたものだったが、その宰相の後釜が元宰相の娘であれば、生き残りの希望を持てた。

 ともあれば、活躍することに越したことはない。それも都合良く、流通が活発になったおかげで物資も送りやすく、その面でも恩を売れた。ちょうど街道の整備も進めていたところも、本当に都合が良かった。

 そんな援助を受け、先行するエリオットやその周りの騎士たちは気力に満ちていた。

 騎士の中には、正義を掲げてベネディクトを追うことをどれだけ夢に見たことかと、馬上で涙を浮かべる者までいた。

 無理もなかった。

 つい数年前まで絶望の最中だった。意義のためにしか足掻くことが出来ることがない日々だった。

 それが今では中央の騎士が味方につき、周囲の貴族たちはこぞって兵を送ってくる。先頭を行くのは英雄エリオット。運命というのは酷く気まぐれなのだとしか思えなかった。

 その明るさは行軍にも現れ、緊張感はありつつもどこか余裕があった。

 雑談も起こる。

 

「知ってるか? 中央では今猫が流行ってるらしいぞ」

「猫? そんなのいつも流行ってるようなもんだと思うが」

「なんか幸運を招くってことで、猫のぬいぐるみとかを店前に置くらしい」

「なんか、平和だな」

「――ああ、頑張らないとな」

 

 行軍はとても早い。エリオットたちは、最短ルートを駆け抜けた。

 数日すると、大森林前の領地に着いた。

 そこはアリアが初めて訪れた領地であり、アリアに斬られた領主の後釜にはしっかり女王の息がかかった者がその地位に就いている。早馬により事態を少し早めに知っていたこともあり、準備は済まされていた。

 時刻は、既に日暮れ時だった。

 行軍の疲れを癒すべく、その日は休息となった。

 明日は森に入るということもあり、酒を飲む者は少なく、体を出来るだけ休めようとする者が多かった。

 領主軍の一軍を率いる者がエリオットに挨拶しに来た。

 壮年の男だった。

 

「――お久しぶりです」

 

 エリオットは頷いた。

 

「うん、久しぶり。覚えているよ」

 

 前に共闘した騎士のウォルターだった。

 アリアと目が合うと、驚いた顔をしたが、すぐに取り繕い頭を下げた。

 

「このような形で再会するとは思いませんでしたが、光栄でございます」

 

 握手をした。

 

「今回は一緒に戦える。互いに頑張ろう」

「微力ではありますが、全力を尽くします」

 

 挨拶を終えると、諸事の打ち合わせを行った。

 最後に、ウォルターは憶測を語った。

 

「――前領主の狙いは、森にあったと思われます」

 

 エリオットは耳を傾ける。

 

「以前、あの森に先発隊を何度も差し向けて領民を殺し続けたことが、やはり奇妙でした。しかし、残った資料や、やり取りから、おぼろげながらも見えてきたことがあります。何故、あのような無理な税の徴収をして、領地を疲弊させたのか。領民に無理な賦役を課したのか」

 

 無意味の中に隠れた意味。

 

「おそらくなのですが、前領主は森に道を通そうとしたと考えられます」

「……あの森に?」

「はい。およそ不可能と思えますが、しかしながらそう考えると辻褄が合うのです」

 

 重々しく言うウォルター。

 

「何故以前の元々の領主があまりにも露骨に弑され、その後釜に軍人が領主になったのか。あいつが残した資料には、森の向こう側の領地の情報が多くありました。さすがに元宰相とのやり取りの文章までは見つけれませんでしたが」

 

 エリオットは思い当たった。

 

「じゃあ、ここを拠点にしようとしたってこと?」

「半分はそうだと思います。しかし実情はもっと危ないものだったと思われます。森の向こう側の領がやられたこと、そしてこの領地に軍人がやってきたこと。森に道を通そうとしたこと。なにより、この領地から王都まで遠くないこと」

「まさか」

「ここは帝国からの侵入ルートのために、我々は苦しめられたということになります」

 

 アリアは目を大きくした。

 己が追われた理由が分かった。そしてなぜ、あの領だったのかという疑問も解けた。そこまで考えいたると、次の疑問も解けた。

 アリアは理解したことを口にした。

 

「じゃああの領は、帝国が占領しながらも半ば元のままでもある妙な状態というのは、介入するため?」

「どういうこと?」

 

 エリオットの疑問に、アリアはさらっと答えた。

 

「何か無理矢理にでも問題をでっち上げて、兵を堂々と使うような理由を作るためにあやふやな状態にしてるんじゃないかなって」

「……あり得るな」

 

 ウォルターが頷く。

 

「で、その時というのは恐らく森に道を通せた時ってことになるんだけど、ここの前領主がやられちゃったから、事前計画だけ残ったままみたいな」

 

 アリアには確信があった。

 計画を立てる際には、当然上手くいかなかった場合の予備計画も作っておくものである。

 たとえば、玄関口として使うために壊滅させた領から、森の反対側にまで抜けれる人間がいるかもしれないということであったり。もしくは、その地の反乱を成功させられることも、派遣した腕が立つはずの将軍が逃げることも出来ずに斬られることもそうである。他には、そこで王子にさしむけた追手が失敗するどころか味方になることも、そしてそのままなんか裏の手勢を全部失うことになることもである。さらに言えば、挽回するために悪評を流そうと食糧危機を起こそうとしたら早々に察知されることも、であればと現場に赴いた王子を亡き者にしようとしたら英雄になって帰ってくることも、少なくとも味方になることはないと思った騎士団が味方になることも、世界最強の負けなしのはずの戦士が斬られることも、全てを含めて不測の事態が起こった時の対応策を用意しておくべきだった。

 ベネディクトが大体のことがあの桃色髪のせいだと疑った際、本当にその桃色髪のせいで滅茶苦茶に負けまくってることに本気で向き合うべきだった。そしてその全部を斬って解決してるだけということにも気付くべきだった。

 打ち合わせが終わると、アリアはご飯を食べた後、就寝した。何かぐっすり寝れた。

 

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