TS剣客少女(闇)は、乙女ゲームの世界で自由気ままに生きる   作:さえぐさ

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第67話 決心

 アリアたちがソルグレン側に姿を見せる前のこと。

 兵たちは、森を眼の前にして覚悟を新たにした。

 

 ――エリオット様とならきっと大丈夫だ。

 

 森に入るには勇気が必要だった。担保は英雄への信頼。震えそうになる足を律して、踏み入れた。

 森は薄暗く、いつ茂みから魔物が襲い掛かってるくるか分からなかった。反面、空気は瑞々しく滝のそばにいるようで、身体を動かすということに関しては問題なかった。

 緊張の中、黙々と進みゆく兵たちの表情は硬い。

 見えぬ魔物に警戒しながら足を進めなければいけない状況。死に向かって前進しているような感覚だった。

 恐怖と勇気のせめぎ合い。

 しかし、兵たちは考えもしなかった。実は魔物の方が恐怖していることを。そしてとっくに逃げ去っていることも。

 そんな裏事情もあって、兵たちは魔物と会うことすらなく森を抜けれた。

 森を抜けると、光あふれる平地が現れた

 驚きが言葉に出る。

 

「ゴブリンの一匹も出なかった」

「まさかこんなことが」

「天運が味方してるに違いない」

 

 奇跡の生還とばかりに表情を明るくする兵たちだった。

 エリオットは嬉しそうにアリアに寄ると、感謝を述べた。

 

「さすがだね。君の言う通りにしてると何でも上手くいくんじゃないかって思えてくるよ」

「……うーん」

 

 アリアはちょっと不満だった。本当に魔物が現れないとは思わなかった。馬鹿なゴブリンくらいは出てくると思ったのに気配すら近くに寄ってこなかった。まるで自分が危ないやつみたいだった。

 鬱憤を晴らすために、エリオットで憂さ晴らしすることにした。

 

「じゃあ次の助言として、リリアナちゃんへの告白を」

「え」

「この遠征が終わると同時に――」

「あ、打ち合わせが」

 

 エリオットはそそくさと離れて行った。戦略的撤退というやつだった。

 無言で見送るアリアも、今優先すべきがあると寛容になることにした。

 しばし進み、街に近づくと向こうが騒がしくなった。

 馬に乗った一人の兵が慌ただしく出てきた。

 用向きを問われる。

 

「貴君らは、どこの所属の兵で、何の目的で――」

 

 エリオットは顔を出さずに、代わりにハーヴェイが対応した。

 

「旗が見えないか? 自国の王旗が分からないとは言わせないぞ」

「いや、それは」

「それと目的を述べる前に、まずはそちらの所属を明かしてもらおう」

「は……?」

 

 言葉の意味が分からないとばかりに、困惑をあらわにする兵。

 

「だから、どこの国の所属かと聞いてる」

「それは、その……?」

「敵か味方かを聞いている。時間稼ぎであれば、攻め入るが」

「お、お待ち下さい! 私では権限が」

「関係ない。我らがここまで来ていることを察しろ。これ以上の問答は――」

 

 ハーヴェイは急かした。ここで足止めをされては、何のために急いだのか分からない。早く現地の情勢を把握したかった。可能であれば、膠着状態に持っていきたい。相手の動きをどこまで制限させれるかを図っていた。

 使者は馬を降り、その場に跪いた。

 顔を伏せ、感情を隠した声で言う。

 

「……我らは亡き領主様に仕えた領兵であります。いつか復讐をと、耐えて来ました」

 

 そこまで言うと、顔を上げた。

 

「――是非とも、復讐の機会を」

 

 負けた領兵の心情からすれば、仲間と思っていた中央軍から後ろから襲い掛かられて負けたのであって、まともにやれば負けないというのがあった。そしてそれは、中央軍に対しての不信にも繋がっている。

 

「無論、そちらが共に戦ってくれるのであれば、ですが」

「では、君たちは味方ということだな?」

「我らの敵はソルグレンです」

 

 兵は、味方かどうかの問いには肯定せず、敵を示した。裏切られた側からすれば、根は浅くない。

 ハーヴェイは、その心情を汲むことで味方につけようとした。

 

「あれはこちらの不手際によるものだ。謝罪もしたい。贖罪としても、この領に巣食う虫を払うつもりだ。――責任者をここまで呼べないだろうか?」

「承知しました」

 

 使者は頭を下げると、街の方へと向かっていった。

 ハーヴェイは自身の安堵をエリオットに伝えた。

 

「幸先は良さそうです。領主軍と共闘出来るかどうかはかなり重要でしたから」

「そうだね。それに彼らの不満を解消してあげたい」

 

 責任者はすぐにやってきた。

 中年を過ぎたあたりの男だった。

 さらっと礼を済ませると、本題に入った。

 今度は、エリオットが姿を出して尋ねた。

 

「貴方が将軍ということでいいのかな?」

「いえ、そんな大それたものではありません。今ではただの警備隊長です」

 

 男は恐縮したように答えた。

 壊滅したとはいえ、元領主兵の生き残りはそれなりにいる。ソルグレンとしてもそれらを完全に放置というわけにはいかず、街の警備や魔物の警戒などにあたらせることで各地に分散させた。男もそういう類いの扱いを受けていた。

 

「実績に見合った役職だと思っております」

 

 謙遜という風にも見えなかった。辛そうな顔が一瞬映る。

 訳ありであるらしいと、エリオットは触れずに話を進めようとした。

 

「でも反乱を起こそうと?」

「……はい。しかし、向こうはその反乱自体を望んでいたようですので、上手く動けず難儀しておりました」

「――望んでいた? どうしてなのか教えてほしい」

 

 答えようとした男は、ふとエリオットの近くにいたアリアに目をとめた。

 

「……お、お嬢様?」

 

 視線を向けられたアリアは驚いた。

 そしてすぐに思い出した。己を逃がそうとした時にいた男である。死んだとばかり思っていた。

 アリアが疑問を口にする前に、男は答えを口にした。

 

「……我らは戦って死ぬつもりでした。しかしあろうことか離反者がおり、戦うことすら出来ずに捕縛されました。――その後、貴方が死んだと聞き、己の不甲斐なさに耐えれずに自死を考えました。ですが、どうせ死ぬのなら戦って死んでやろうと恥を忍んでここまで生きておりました」

 

 男の目から涙が溢れる。

 

「……本当に良かった。何度、後悔し続けたことでしょうか。何度、夢に見たでしょうか」

 

 アリアはその想いに答えてみせた。

 

「前と違って、一緒に戦える。今度は背を向ける必要もない」

「――はい」

 

 男はふっきれたような表情になった。

 

「是非、死ねとご命じ下さい。一人でも多くの敵を道連れにして地獄へ赴きましょう」

「期待してる」

 

 アリアの言葉に、男は満足そうに笑った。

 アリアは己の言葉の苛烈さを理解した上で、相手が望んでいる言葉を口にした。自責の念に苛まれているのならば、それを晴らしてやる方がいい。命を大事にしろと言えば逆効果となってしまう。

 その様子を見守っていたハーヴェイは、幸先の良さを感じた。思わぬ展開だったが、現地の兵を吸収出来た。

 

「では、この先について――」

 

 とはいえ、攻めるとなると、現状では兵数が大きく足りない。この状態で攻めれば、敵に打撃を与えることも出来ないまま、ベネディクトに逃げられかねない。やはり各地の兵が欲しい。

 とはいえ戦闘を完全に避けるわけではない。向こうが攻めてくるのであれば、迎え撃つ。森に引き込んででも、遅滞させる。粘ってる印象になるように立ち回りたかった。

 

 ハーヴェイは、向こうが攻めて来ることはないと考えていた。

 過去の領主兵が一部でもこちらにつけば、各地に散っている元領主兵が多少なりとも援軍として来るはずである。兵数の予測が不確かなうえ、ソルグレンが吸収していた兵から離反が出る恐れがある。さらには、民衆の暴動が起こることも危惧されるので、鎮圧するための兵を用意しておかなければならない。

 失敗した時のことを考えれば、現場の指揮官では判断出来ないことだった。

 それに、時間は互いにとって味方だった。

 両軍ともに本軍が別にいて、援軍を期待していた。

 ハーヴェイとしても派手な動きは避けたかった。実際、ベネディクトの輸送を妨ぐだけでも役目は果たしている。向こうがベネディクトを輸送するには、輸送の兵と領地の守備兵とで兵を分ける必要がある。その兵力分散により、守っていれば負けないはずの勝負に負ける可能性が生じてしまう。そのため、ソルグレン側の動きは極端に鈍くなっている。

 結果、両軍とも援軍を頼ることになり、一触即発でありながらも、奇妙な膠着状態となった。

 

 その間、エリオットたちは忙しかった。

 寝床は、近くの村や街から借りた資材でテントを張って見繕った。

 次の優先事項としては、民心を得る必要があった。『前に裏切った中央のやつら』という印象を払いたかった。

 よって、布告合戦となった。

 エリオットは解放者としてのアピールを行い、ソルグレン側はエリオットの軍の少なさを強調した。さらに、反乱が起こった場合は、参加不参加問わず、まとめて滅ぼすと加えた。

 当事者となった民からは、様々な意見が出た。

 

「他国の兵が居座ってる方が気に入らねえだろ」

「それに加担したのは中央もだ」

「だからってこのまま耐えてるのかよ」

「でも、もう一度裏切られるのは勘弁だぜ」

 

 布告合戦は互角だった。

 

 ――やはり旗が要る。

 

 報告を聞いたアリアはそんなことを思った。

 ここで言う旗とは、象徴を指した。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 街では、警戒度が高まったことで、取り締まりが厳しくなった。

 ソルグレン兵が反乱を強く警戒するようになったため、今までは問題なかったことでも取り締まるようになった。

 「締め付けが厳しくなった」と不満を口にしただけでも、兵から反意ありと判断され捕縛されることが起きた。畏怖を与えるために公開処刑も行われるようになり、民衆たちは恐怖と不満を覚えた。

 ソルグレン兵による疑心は加速していき、捕縛される者が一気に増えていった。

 

「なっ、俺は何もっ――」

「黙れ! お前も仲間であることは調べがついている!」

 

 実際に潜んでいたアリアの部下たちも、行動が大きく制限され動けなくなった。

 報告を受けたフェザーは嫌そうに言った。

 

「勝手にコケてくれたと思ったが、ここまで発展するとはな。正直、面倒なことになった」

 

 同意する部下。

 報告は終わっていなかった。

 

「……それと、一人いかれました」

「ちっ」

 

 フェザーの脳裏に奪還の二文字が浮かぶも、後の影響を考えると動けない。しかしこのままでは、状況に耐えかねた民衆が暴発してしまうことも考えられた。そうなれば戦力として使う前に消えてしまうことになる。

 

「上は何か言っていたか?」

「暴発だけは抑えろとのことです。その他は一任されております」

「そうか」

 

 エリオットたちは動けていない。この膠着を出来るだけ崩したくないとの判断だった。やはり、中央からの本軍が到着するのを待ちたい。

 フェザーは仲間のことを想った。

 

「あいつはいいやつだったな」

「……はい」

 

 理解はしていても、やり切れないものはある。

 

「例のメイドと打ち合わせしていた時でしたので、おそらくは――」

「有力なパイプが失われたか」

「……後手を踏むことになりますね」

 

 ここまで厳戒態勢を敷かれれば、やれる事は少ない。次のフェーズに移りかけているものの、まだ軍のぶつかり合いの段階でもない。

 

 ――何か打開出来るものは。

 

 フェザーは考えた。

 

「ちなみに、あいつに伝えたのか?」

「ボスにですか? 直接には伝えてませんが、報告を受け取っているかと」

「いや、それなら直に知らせてくれ。何か変わるかもしれん」

「承知しました」

 

 フェザーは、仲間とメイドのことを想った。覚悟は持っていただろう。だがここまできて未然で命を失うのは無念だろう。一目くらいは会ってからでもいいはずだ。

 

 ――あいつはあれで身内には甘いからな。

 

 希望はあった。

 

 

 

 部下はすぐにアリアの元に向かった。

 報告を受け取ったアリアは、淡泊に答えた。

 

「――分かった」

 

 近くにいたエリオットは、その様子が気になった。

 

「どうしたの?」

「いえ」

 

 エリオットは違和感を覚えた。何かを我慢しているかのような、アリアらしくない様子。

 

「……僕はアリアには本当に感謝してる。僕は評価とは違って、大して優秀じゃない。だから間違った選択もしてしまうと思う。でもそれでも支えてくれる人がいるなら、巻き返せるって信じてる」

 

 エリオットは素直な想いを言葉にした。そこに打算はなかった。

 

「ここまで来れたのは君のおかげだ。だから、君の行動で失敗したとしても僕は責めない。何かあっても、僕が命令したことだとして責を引き受けるつもりだ。それに今の僕の評判なら色々と誤魔化せる部分もあると思う。――何よりこの名声は君のおかげで高まったものだしね」

 

 アリアは背中を押され、心を決めた。

 

「――少し、行ってきます」

「うん。待ってるよ」

 

 アリアは闇に消えた。

 

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