TS剣客少女(闇)は、乙女ゲームの世界で自由気ままに生きる   作:さえぐさ

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第76話 いい感じの棒

 数か月も経つと、王国はすっかり平時の営みを取り戻した。

 リリアナの激務も緩和され、余暇を楽しむ隙も出た。

 そんな折、アリアはエリオットに呼び出された。

 

「その、アリア、お願いがあるんだけど」

「にゃんですか」

「今日こそリリィに想いを告げようと思うんだ。それでその、背中を押してくれないか」

 

 アリアは白けた目をした。

 

「もはや押し飛ばしてるくらいに押してるはずなんですけどね」

「でも」

「英雄なんですから気合入れてください」

「そんなこと言われても、功績の方が僕の前に転がってきてるだけだし……」

 

 何か凄いことを言った。

 そんなエリオットは決意を示すように、握り拳を作った。

 

「だからその、もっと押してほしいんだ」

「転ばないといいですけど」

 

 結果、背中を押し飛ばされて飛翔したエリオットは、リリアナと二人で食事することに成功した。進展したと喜んだのはヘタレオットだけで、側近の者たちは進展の遅さに肩を落としていた。なおアデレードにいたっては、「いい加減にしろ」とちょっと怒っていた。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 ある日の夕方こと。

 オフィーリアは職務を終えて、屋敷に帰ってきた。

 中々の激務である。

 ハーブティーでも飲んで安らごうと考えて自室に入ると、何かアリアがいた。

 

「あ、お疲れ様です」

「もはや自然に思えてきているのが不思議な感じですわね」

 

 アリアは猫丸をフードのように頭に被せていた。

 

「にゃっす」

 

 アリアは頭に乗った猫丸の前足を掴むと、横に揺らして挨拶を演出した。

 

「何かもうどうとでもなれですわ」

 

 オフィーリアはそう言うと、柔らかなソファに身体を預けた。疲れているのか、大きく息を吐いた。

 

「代理とはいえ、宰相職はかなり疲れますわ……。リリアナさんと一緒ではありますが、まだ慣れないことも多く大変ですわ」

「早く慣れてあげて下さい」

「もういっそリリアナさんがやったらいいのではないかと思うのですけど」

「リリアナちゃんにはなるべきものありますから」

 

 オフィーリアの恋愛脳が刺激され、答えが導き出された。

 

「――っは、そういうことですのね!」

「そういうことです。リリアナちゃんに自由時間を作らないと進展するものもしませんからね」

 

 不思議な力でオフィーリアの体力が回復した。栄養を得た脳があまりにも当然な疑問を浮かび上がらせた。

 

「思うのですが、エリオット王子が愛を囁けばいいのではありませんの?」

「おっと」

「……何ですの?」

「そう、あれは先日のこと――」

 

 アリアはヘタレオット事件について話した。

 

「喝、――ですわ!」

「おお」

 

 オフィーリアは立ち上がった。義憤のような何かがオフィーリアを支配していた。

 

「この国難、立ち上がらずしてどうします!! 敵は王城にありますわ!」

「元気だなぁ」

 

 第二の反逆が起ころうとしていた。血は争えないのかもしれない。

 

「貴方も協力するんですのよ!」

「そんな」

 

 また課題はいくつかあれど、問題はエリオットだけではないということを、そろそろ誰かが気付く必要があるのかもしれない。リリアナの脳内を『アリアちゃん可愛い』が占有していることに問題が多少あるかもしれない。いや、かなりそうかもしれない。だがあまりにも通常通りすぎて誰も違和感を抱けないでいる。

 

「まぁ、今度リリアナちゃんに話をしてみます」

「絶対ですわよ」

 

 アリアの頭に乗っている猫丸が欠伸をした。眠そうだった。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 リリアナは、今日も今日とて仕事に励んでいた。

 その仕事内容にはアデレードの補佐も入っている。国の顔としての仕事もしれっと含まれており、そこには明らかに裏の意図があったが、当のリリアナは欠片も気付いていなかった。

 そんな二人は、休憩室でちょっと困っていた。

 視線は下にある。

 

「妙な献上品だな」

「そうですね……。どうしましょうか?」

 

 足元では、毛玉感のある小動物たちが可愛い鳴き声を上げていた。わらわら、わちゃわちゃしている。癒されはするが、問題があった。

 

「この量はさすがに……」

「いや好きなものを選べとさ」

「ああ、そういうことだったんですね」

 

 元気に走り回るものや、大人しく隅っこでじっとしているものや、興味津々に色んな所を触っているものなど様々だった。

 そんな部屋に客人がやってきた。

 

「どうも」

「あ、アリアちゃん!」

 

 リリアナが駆け寄るよりも先に、アリアは襲撃を受けた。

 

「ぬわっーー」

 

 体勢を崩されて倒れ込んだ。

 

「あぁっ! アリアちゃんが毛玉感のある小動物にたかられてる!」

 

 それはそれとして、アデレードは会議の時間を思い出した。

 

「リリアナ、そろそろ行くぞ」

「え、あっ、はい――」

 

 リリアナは去り際に振り返ってアリアを確認した。

 そこには何か大きな毛玉が出来がっていた。気にはなるものの、行かなければいけなかった。

 会議は一時間ほどで終わり、リリアナは休憩室に帰ってきた。

 毛玉状態は解除されていたが、アリアはうつ伏せになって倒れていた。

 

「あぁっ! アリアちゃんが古びた人形みたいにくたくたになって床に落ちてる!」

 

 リリアナは駆け寄り、ぐったりとしているアリアの肩を揺すった。

 

「アリアちゃん、大丈夫!?」

 

 意識を取り戻したアリアは、喉をわずかに震わせた。

 

「も、もふ……」

 

 その言葉を最期に、アリアはがっくりと力尽きた。

 

「アリアちゃぁぁぁぁぁぁん」

 

 リリアナは慟哭した。

 

 

 

 

 

 -Fin-

 

 

 

 

 




 これにて完結です。
 ここまでお読みくださり大変ありがとうございました。
 更新頻度もまばらで特に最後の方は空きが多かったですし、主人公死亡エンドですし、いくつか端折った所もありましたが、何とか最後まで来れました。
 お付き合いいただけた皆様には感謝の念が堪えません。
 コメントや評価、励みになりました。おかげでここまで来れたと思います。
 それではまたどこかで出会えることを願って。
 (アリアの復活の呪文は多分三文字です)







---

「あれ? アリアちゃん、何持ってるの?」
「いい感じの棒です」
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