キヴォトス最後の魔法使い -非科学の象徴が行く銃撃戦だらけの青春-   作:ふぃーあ

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拝啓師匠、魔法使いの戦闘は綱渡りすぎます

 五分ほどの時が経つ。戦闘は未だ継続中だった。

 

 すなわちそれは、ゲヘナの最強が未だ戦闘に介入していないことを意味する。

 

「これでどうだっ!!」

「まだ甘いです……よっと。別に私も回避行動はしますからね?」

 

 私は極めて焦りつつも冷静に攻撃を捌く。イオリさんの攻撃にも多少の慣れが伺えるようになり、神秘の残量は6割を切った。

 

「イオリさん、なかなかいい腕してますよね。当ててくるようになったじゃないですか。《六角防御結界(ハニカムガーダー)》は盾を多重に展開する魔法なんですけどね? 随分削られちゃいました」

「手の内晒しなんて、余裕だ、ねっ!!」

「あはは、まあ……まだ本命がお控えですのに本気出せるわけもないじゃないですか?」

 

 それは私の本音本心。空崎ヒナを控えとしているという状況は、それだけで酷く私を恐れさせる。私は世界を知らない。人を知らない。空崎ヒナというひとつの到達点の、その高さを知らない。

 

 故にこそ、恐ろしい。神秘量のその膨大さ。それに研ぎ澄まされた循環が魔法現象に近づく程の熟練度。目の前のイオリさんとて、決して弱いわけじゃあないです。いえ、どころか明確に最上級に割り振っても良い敵ですとも。

 

 普通の敵は六角の盾に傷1つ入れることも出来ないのですから、こうも削られているというのはおかしいのです。

 

 それなのに、それなのに奥にそれを遥かに上回る敵がいる! 

 

「あぁ、既知は臆するに値せず、未知の敵ほどに恐ろしい……あぁ嫌だ嫌だ、銀鏡さんの全てを知りたいのに、後ろに深淵が待ってるなんてたまったもんじゃないです」

 

 地上に着弾する炎や、水、土の塊。

 

 魔法律式第122番《三元素展開弾(テトラバレット)》……魔法において重視される要素である、火水木金土の五行思想からなる5元素から3つを選んで展開し、相手に打ち込む基礎の術理です。

 

 これをとにかく空中から撒き散らしながら、様々に準備を整えるのが今の私のやることなのでした。

 

「魔法律式257番《大気中神秘回収(エーテルキャッチャー)》」

 

 発動中常に神秘を回収し続けるようになる魔法。

 

「魔法律式254番《魔法律拡張式(マジカルエクステンド)》」

 

 魔法を発動するにあたり、その威力を上げる状態を付与する魔法。

 

「魔法律式第244番《神秘再利用状態(エーテルリジェネレーション)》」

 

 使用した神秘の一部を再利用可能にして実質消費を抑える魔法。

 

 バフを盛りに盛る。そうでもしないとやってられない。

 

 そうして、10分が経過した、その瞬間。

 

「喰らえッ……!!」

「手榴弾を撃ち抜きますか! やるじゃないです……まずっ」

「え?」

 

 私は視界の端に映る紫を見た。全ての残存する《六角防御結界(ハニカムガーダー)》をそこへ一極集中。

 

 手榴弾の直撃を受けて吹っ飛びながらも、やや角度をつけたことによって貫かれたが角度を変えた弾丸を見て安堵に息を漏らす。

 

「腰重すぎません? やっと上げましたか、ヒナさん」

「10分経過したから……いや、事前に10分後に参戦するとかは言ってないのだけれど。さて……まずは、降りてもらうわ」

「委員長……!」

「イオリ。あなたにはあなたにしかできないことがある……やってほしい」

「分かってる、任せて!」

「さて、準備はいい?」

「……ヤバっ」

 

 ズガガガガガガガガガガガガッッッッッ!!! 

 

 これなんの音だと思います? 空中にいる私の身体を正確無比に追っかけて当ててこようとしてるけど私がぎりっぎりかわしてるので壁に当たってる弾丸の音です。怖っ!! 

 

「まずっ、魔法が使いにくい……こうなれば仕方ありませんねぇ! 乗ってあげますよ地上戦……魔法律式第86番《驚き跳ねる閃光(キャットトリック)》!」

 

 どうにか地上に向かって光の玉を放つと、光の玉が増えて跳ね回り、ヒナさんがぎょっとした表情を作る。

 

「続けて魔法律式第87番《窮鼠花火(チュー・イン・ボム)》!」

 

 増えて跳ねた光の玉が、一斉に爆発。凄まじい光を放ち、目眩ましを行った。

 

「っ、フラッシュバンだったのね……!」

「限られた範囲ですが、初手それなりに本気で行きますよ? 《魔法律定義書(ルールブック)》、《最大稼働(フルオーダー)》」

 

 ふわりと浮き上がった本がページを一斉に解き放つ。浮かび上がったページたちが私の周りに浮かび上がるのと、ヒナさんの復帰は同時。

 

「構わない。これで終幕だから」

「ありったけです! 198(断氷の弧)240(成したる礫)258(魔法門)284(魔法模倣)!!」

 

 4枚の対応するページが光り輝く。《最大稼働(フルオーダー)》は魔法の同時発動を可能にする奥義、従って彼女の銃口から解き放たれた圧倒的な暴威に、正面から抗いうる! 

 

 198番、氷の円弧を飛ばす攻撃。240番、石のつぶてを強化して飛ばす技。258番、発動した魔法を再発動する門を設置。284番、直前に発動した魔法を1.5倍の消費でコピーする。

 

 二つの門から十重二十重と生み出された氷の円弧と石つぶての波がガトリングの扇形斉射(普通そんなことになります? なってんだからどうしようもないですけど)へと立ち向かい、抗って消え、拮抗する。

 

「これなら……これで……!」

 

 開かれた術式は魔法律式第852番《世は斯くして黎明に至る(オール・サンライズ)》。収束した光を一点に集め、放たれる日の始まりを告げる太陽の極光。

 

「勝った……ッ!!」

「いいや、そうはならない!!」

 

 詠唱を破棄、発動寸前まで至り、ページが今にも光らんとするその瞬間、凄まじいスピードで、ひとつの影がその姿を場に踊らせた。

 

 残存の神秘の八割を攻撃の権能に回したこの状態は、本体がきわめて手薄。それはその手薄さを攻撃で補う算段故に、当然のことで。故に。

 

「がぁぁぁぁっ!!?」

 

 近距離から放たれる、スナイパーライフルの一撃が打ち込まれ、私の意識が白く染まる。

 

「お前がヒナ委員長のことばかり見るから、死角だらけだ。……忘れてくれるなんて、随分委員長にお熱だったみたいだな」

 

 イオリさんがそういうと同時に、ヒナさんも射撃を止める。戦闘はここまでなのでしょう。神秘操作が乱れて暴発しそうになった魔法たちを気合いで押しとどめ、待機させて本をしまいます。

 

「あー……しんどいです、ほんとに」

「あなたの戦闘能力、かなり高いわね。ゲヘナをひとりでぶらつく見知らぬ顔、なんてとんだ命知らずも居たものと思ったからこの結果の如何ではとか思ったのだけれど」

「結果はどうです?」

「私と真っ向勝負できるのでしょう? 何も言うことがないわ」

 

 あー、と軽く頭をかいた。それはですね、と言い訳をする。

 

「イオリさん相手に空飛んでる時に色々と準備してました。いつヒナさんが来るか分からなかったので」

「普通の生徒ならそもそもイオリ相手に準備とか易々とできないから。安心していい」

「……私、余裕の前座判定されてたのか」

「いや……それは……」

 

 イオリさんが落ち込むが、次の瞬間華麗なリカバリーが入る。チナツさんだった。

 

「……いえ、あの。たぶんですけどマリさんの内心、限りなく辛かったのでは?」

「えぇ……その、なんと言うか……邪神の前に魔王がいる、とかそういう感じのバトルさせられてたので……」

 

 マジでしんどかった。願わくば二度とこんなことがありませんようにと願うレベルに。でも多分いっぱいあるんでしょうね、こんなこと。

 

「魔王はイオリ? なら誰が邪神なのかしら」

「嫌だなぁ、ヒナさん。分かってんでしょ……」

 

 軽口を叩いて、私は立ち上がる。むすっとした顔のヒナさんを軽く小突いて、本を胸元へしまい込む。

 

「さ、戻りましょう。それともこれで解放ですか?」

「……いいえ。そのくらい『できる』ならむしろ頼み事ができた。お願いがあるから、次は任意でついてきて欲しい」

「はぁー……《魔法使い》に願い事だなんて。高くつきますよ?」

 

 その言葉を聞き流しながら、ヒナさんは歩んでいく。仕方ないから後を追う私の後ろをイオリさんとチナツさんが塞ぐように並び歩み、アコさんが前を歩むヒナさんに追いつくと、なるほどこれが風紀委員会のいつもの並びと言うやつなのでしょう。

 

 どうもお邪魔感が半端ではありません。いたたまれなさを感じながら到着した2度目の執務室で、私はヒナさんに早速問うことにしました。

 

「で、何をご所望ですか?」

「……後日、アビドス砂漠で風紀委員会は作戦行動を行う。その際、あなたにも力を借りたい」

「ふぅん……あなた方が全員出張るようなこと。相当な規模ですか?」

 

 ヒナさんは頷いた。黙々とその横でいつもやっているのか、広げられた地図の上にアコさんとチナツさんがコマを配置していく。

 

「ここ」

 

 ヒナさんが指差した部分に、多くの敵戦力と思われる黒のコマが配置されている。

 

「私たちは大戦力を本命の部隊にかち合わせないための当て駒。だから、ここを叩く必要がある。本来は、ここから複数に分裂して様々な方位に広がるのを、イオリ指揮の部隊、アコ指揮の部隊でそれぞれ叩き、私が後備えになる予定だったのだけれど」

 

 そこで私は頷いた。対多数という領域において、《魔法使い》の右に出る人物はこの世に存在しない。そう断言しても良い。

 

 だから、私はそれも良いが、とそう前置して。

 

「んー、皆さんの仕事、無かったことにしちゃってもいいですよ?」

 

 傲慢に、そう言い放ってみた。私の傲慢は、その仔細の提示により受け入れられて。

 

 

 

 アビドス砂漠。そこは、そう呼ばれる地。一人の少女を連れ戻すべく、一人の大人が死力を尽くし、繋がった絆を全て使う最初の一戦。

 

 その一戦の相手は「カイザーPMC」の大戦力……そうなるはず、だったのだ。

 

「何だ、これは……!?」

「どうなっている!?」

 

 カイザーPMCのオートマタたちが狼狽える。それは、続々と戦力がロストしていく恐怖故か。それとも、最初に脱落した戦力が全体の3割を数えたからか。

 

 対応して分散する予定だった故に一所に集ったPMCらを襲ったのは、「突如として発生した砂漠の大崩落」と、「上空からの大量の砂の塊の落下」によって発生した、「軍ひとつまるまる生き埋め」という状態である。

 

 耳が良くて、たまたまその者の近くにいたのなら、もしかしたら聴こえた者がいたかもしれない。

 

「魔法律式第766番《寝床、落下する天蓋つき(ユア・ワースト・スリープ)》」

 

 そう呟く少女の声が。

 

 小鳥遊ホシノ奪還作戦は、かくしてその火蓋が落とされる前に、致命的な一撃を加えた状態でスタートしたのである。

 

 そして、この一撃だけが彼女の仕事であり、ここから先は彼女の趣味であった。

 

「地中をなにやらすごい勢いで突っ込んでくる魔術的アプローチの機械……なんでしょう、これ? 準備だけしときますかね……」

 

 趣味、それは探求。《魔法》と聞けば飛んでいく。物理的に。故に、彼女は頬を吊り上げた。

 

「顔だけでも見せてくださいよ……気になりますから」

 

 その探求のためならば、全てを敵に回したって良いとする狂気とも言える覚悟の一端が、その笑みに見え隠れしていた。




・魔法律式

マリほどの使い手になると詠唱を素直にする必要が無い。普段は「魔法式番号」+「魔法名」で起動するが、これはそのふたつの組み合わせをマリが「魔法の詠唱」として規定しているためである。

本来は全てに長ったらしい詠唱があり、それを込にするとやはり銃器ある世界で戦うには力不足だったのだろうか?

いいや、いいや、そんなことはない。起こせる事象の質と規模において、科学を凌駕するのが《魔法》である。

魔法式の番号が100刻みで進む度行使する難易度が上がったり、起こせる現象が強めになる。が、900番台は《禁忌》に指定されているため800番台が最高峰の《魔法》となる。

・《寝床、落下する天蓋つき(ユア・ワースト・スリープ)

砂漠特攻の大魔法。地面をくり抜いて相手を落とし、その上からくり抜いた地面を叩きつける。砂、という性質が悪さをし、「くり抜ける範囲」そのものや、「降ってくる地面」の質が極めて悪質になってしまった。

本来は軍隊ひとつを生き埋めにするような魔法ではないが、マリの様々なバフや上述した要因によって可能になってしまったので仕方ないのかもしれない。

アビドス編に特に誰とも因縁がある訳じゃあないがヒナに協力する形で参陣したマリのぶっぱなした魔法。事情とかは一切聞いていない(説明はされた)し、別にそれでやる気が落ちる上がるに繋がってもないので徹頭徹尾自分の魔法行使の腕試し(とヒナへの義理立てもあるが)として参陣している。
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