本編に入らなさそうなシーンを短編としてまとめました。語り手も時系列もバラバラ、場面設定も曖昧です。
番外編のようなものなので、読まなくても問題はないです。
(若干『夢十夜』要素が入ってます。)
「これは全部悪い夢」
●戦果
(ポルナレフ+太なり)
ポルナレフは夢を見た。
真白い部屋の中、まんなかに立っている。彼は一つ息を吸い、ここはどこだと彷徨った。
壁もない部屋でそのうち途方に暮れ、とうとうへたり込みそうになったとき、突然後ろから声がした。つい先日失った、幼い友人の声であった。
小さな友人、燈は気さくに挨拶をしてくる。「やあ」と左手を軽く上げながら微笑むその仕草は、間違いなく燈のものだった。
ポルナレフはようやく、これが夢なのではないかと疑い始めた。すると燈が「夢だよ」と言う。なるほど、夢だ。
しかし夢ならばどうして、燈は自分に笑いかけるのだろう。
「おれが憎くないのか。お前はおれを追いかけたせいで死んだのに」
「けれどもきみはおれの期待にこたえてくれたじゃないか」
ポルナレフは彼に酷いことを言った。彼の愛する人にも酷いことを言った。謝ることもできないままに死なせてしまった。
燈は自分を恨んでいるだろう。まったくそう考えていたので、たとい夢の中であろうと、彼が自分に微笑むのはおかしいと、夢だからこそおかしいと思った。
だがポルナレフが問いかけても、燈は笑顔を崩さなかった。
「きみは『勝った』。そして『生き残った』。十分な成果だ。素晴らしいことだ……」
●ともらぬかんばせ
(承太郎+太なり)
承太郎は夢を見た。
知り合いの男が目の前にいる。男は特徴的な赤毛と、それに黒いリボンを飾っている。
男の顔の真ん中は……穴が空いていた。大穴が。顔の全てを覆うほどにくり抜かれ、そこにあった。
大穴の中は深淵だった。真っ黒な大穴から、一つ目だけの目玉がギョロリとのぞいて、承太郎を見ている。見られている。見透かされている。
「またか」
もう毎晩になる。
それはホテルのベッドであろうと、外の寝袋であろうと、構わず承太郎の夢枕に立ってはなにも言わずに何時間もこちらを監視してくる。承太郎がなにを問いかけても答えたことはない。
男、伊東燈の考えていることが、承太郎にはちっとも分からなかった。燈がまだ生きていた頃から、ちょうど今みたいに表情が上手く見えなくて、うっすらと鳥肌がたつような視線ばかり送られてくるのだ。
「そろそろノイローゼになりそうだぜ」
「……」
「なあ、なにが目的なんだ。おれのことが嫌いなら、なぜこんな熱心におれの夢に現れる」
「……」
「……答えてみろよ。一言でいい、から」
答えは返ってこなかった。思うところがあるならば言葉にしろと、先に言ったのは燈だというのに。
●最終列車
(ジョセフ+太なり)
ジョセフは夢を見た。
手に何か持っている。切符だ。次の列車に乗るための、切符は7枚必要なのだ。
しかしジョセフの手には6枚しか切符がなかった。
しまった。買い間違えた。あるいはどこかで一枚なくしたか。
ショックを受けるジョセフの横から、子供がひょいと顔を出す。
「それで合っているじゃあないですか」
「しかしこれでは一人乗れんぞ」
「だっておれは乗らないから」
子どもは、燈はまっすぐな目でジョセフを見ていた。
早く乗らなければ列車が出てしまう。急いで娘ホリィの元へ帰るには、この列車に乗らなければならない、ああ、しかし、しかしだ。
「帰りはあなたたちだけです、ジョースターさん。5人と1匹、それだけ」
「お前さん、どこへ行く気じゃ」
「どこへも行きませんよ。どこへも行けません。だから電車には乗れないんです」
「燈!」
「お気をつけて」
背中を押されて乗車する。進む鉄の箱、過ぎる光景と、揺れる赤髪が平行に重なった。
もう朝が来る。まあるい赤。まあるい光。朝が、来る。
●いつかの旅路
(花京院+太なり)
花京院は夢を見た。
そこは船の上だった。
花京院はすぐに、ここが夢の中であることがわかった。ついこの間、香港からシンガポールへ渡った船と全く同じものだったのだ。
リクライニングチェアに腰掛けて本を読んでいると、隣のチェアから小さく笑い声が聞こえた。
「典明くん。ハイエロファントをしまってください。触脚がダダ漏れすぎる」
「夢の中だからいいじゃないですか。ここにはきみしかいないし、隠す必要なんかない」
「あのなァ……そんなこと言って、夢の中でスタンド使いに襲われたらどうするんです」
「夢の中で?」
「ありえない話じゃないでしょ?」
目を細めて友人は笑った。
たしかに、スタンド使いというのはいつどこから襲ってくるか分からないものだ。脳の中に入り込むスタンドがいるなら、夢の中に入り込むスタンドだっているかもしれない。
「……そうですね。用心しておこう」
「頼むよ。きみが一番冷静で、マイペースなんだから。みんなを導いてあげてくださいね」
そう言われてしまったらもうしょうがない。花京院は「ええ」と短く返し、ハイエロファントに戻ってくるよう伝えると、また読書に戻った。
●炎炎として
(アヴドゥル×太なり)
アヴドゥルは夢を見た。
なにか、燃やしている。
自分のスタンドで、人を燃やしている。肉の焦げた人体は恐ろしい悪臭を発しているが、アヴドゥルにはそれが不思議と不快ではなかった。
悲鳴は聞こえなかった。時折、泣くのを我慢しているような嗚咽だけが響いて耳に障る。子供の泣き声のようだった。
ふと、炎の切れ目から見えるものがある。燃えていたのはやはり小さな子供であった。
豊かな赤毛と。光と同じ色の目。すべて火炙りにされて溶ける。その瞬間「あ、」と声が出て、けれども火を止められなかった。
アヴドゥルはやっと理解した。いま、自分はあの子を燃やしているのだ。かわいくてかっこよくて、甘えたなのに強かな、あの子を燃やしているのだ。
「モモちゃん」
あの子が名前を呼んでいる。泣きそうな声で、アヴドゥルを呼んでいる。けれども助けを求めもしなければ、呪詛のひとつ吐いてこない。
やがて子供は皮膚を失い、骨まで燃え尽き、跡形もなく消えた。
アヴドゥルの心に残ったのは多幸感であった。気が狂うほどの深い深い満足感だった。
●こんな夢を見た
(アヴドゥル×太なり)
「綺麗な三つ編みですね」
朝、アヴドゥルは後ろ髪を綺麗に編んで現れた。
細かなそれはアヴドゥルのエキゾチックな様子によく馴染んだが、その先に結ばれた黒いリボンはそれに似合わぬ大ぶりで、なんだかかわいらしかった。
花京院が指摘すると、アヴドゥルは溌剌な目を細めてはにかんだ。
「燈がいれば『推しの新衣装!』とか言って喜んだでしょうに」
「想像できるな」
「……そのリボンは、彼から?」
「無断で拝借してしまった。咄嗟に持てるものがこれしかなくて」
それからアヴドゥルはちいさく、本当にちいさく、秘密をささやいた。
「本当は、遺体を燃やそうと近づいたんだ。できなかった。……結局手に入れたのはこれだけだ」
耳の奥で嗚咽が反響している。日本語で喚いた愛し子が、ひとりにしないでと泣いている。
一人にしてしまったことを永遠に悔やんでいく。あの地に置いて生きていく。果たせなかった約束だけを抱えている。かの火はアヴドゥルのものだろう。