チビでガリで弱いけど太陽になりたいよ   作:望スープ絶割り

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今回はちゃんねる風ではないです。普通にSSです。
本編に入らなさそうなシーンを短編としてまとめました。語り手も時系列もバラバラ、場面設定も曖昧です。
番外編のようなものなので、読まなくても問題はないです。


太陽になりたいよ短編集3

●01

(太なり×アヴドゥル)

 

 卓上でバラバラに散らばるタロット・カード。その背を撫で、掻き回し、めちゃくちゃにシャッフルする。

 

「実際にカードに触ったことは?」

「一応……自分のものを持ってたよ。一日の終わりに、日記を書くついでで占うことが多かった」

「ワンオラクル(一枚引き)?」

「ううん、スリーカード(三枚引き)」

 

 すっきり混ざったら山に整える。三つの束を作って入れ替えた。

 カットまで整えば、あとはそこからカードを引くだけだ。

 

「『一番上から』か」

「あ……七枚目からの方が?」

「お前の好きな方に合わせなさい」

「きみのカードなのに」

「今の占い師はお前だろう」

 

 山札の上で刹那、手が彷徨う。タロットの引き方、並べ方は流派さまざまであるが、大切なのは『引くものの意志』だ。

 

「『1』って番号、好きなんだ。きみの番号だから……最初とか初々しさって、特別な意味を持つと思って。おれの過去を構成する特別そのものだ。だから『一枚目』派かな」

 

 今度は迷いなくカードを手に取る。

 

「わあ……」

「話につられて出てきたのかな」

「ふふ。運命みたい」

 

 正位置の『魔術師』が過去に笑っている。つられたギグルに揺れる赤髪、その運命に彼らは乗り込む。一番最初に乗り込む。

 

 

●チョコレートブックとおやすみ

(太なり×アヴドゥル+ジョセフ)

 

「こんばんはジョースターさん。どうしました?」

「明日のことでアヴドゥルに相談があるのだが」

「モモちゃんは部屋にいますよ。ただ……」

 

 そういって燈はジョセフを部屋に招いた。

 奥を覗くとベッドに横倒れているアヴドゥルがいる。手元と膝下、三冊の本が(一体荷物のどこにあったのか知らないが)転がっているのが見える。

 

「よっぽど疲れていたみたいですね。本を読んだまま眠ってしまった」

 

 疲れの最も大きな原因はおれでしょうが……と燈は苦笑しながらアヴドゥルの本を回収し、傷まないようにサイドチェストに隔離した。

 

「普段から可愛いのに寝顔まで最高にキュートなの絶対卑怯だと思うんですよね。あどけなくて愛おしい」

「よくまあそう甘い言葉ばかり吐けるもんじゃの」

「そんなに甘いかなァ……ね、ジョースターさん、知ってますか。古本からはチョコレートの匂いがするんです」

「チョコレート?」

「ええ。バニラとも形容されますが、ともかく甘くて落ち着く匂いだ。眠りを誘うにはもってこいですよ」

 

 『甘い』で思い出したと彼は楽しそうに笑った。ちいさな手が眠っているアヴドゥルの髪を梳く。

 

「……いつもはモモちゃんに守られることを嬉しいと思ってしまう。けれどもおれだって、好きな人を守ってあげたい。この安らかな寝顔を守りたい。他の何を賭けてでも……ま、モモちゃんはそれを許してくれないんですけどね

 

 チョコ色と同じ肌をちいさな指が撫ぜる。流れの遅い空気が、時間までを滑り止めしているみたいだ。

 むず痒そうに時折深く息を吐くアヴドゥルは燈の手を少しも警戒しないので、もうそれだけで十分なのではないかと、しかしジョセフは言い出すことができなかったのだ。

 

 

●喧嘩のルール

(承太郎+太なり+花京院)

 

 ──知っていましたか? 彼らの喧嘩には、実はちゃんとしたルールがあるんですよ。

 ほら。承太郎は燈のリボンにだけは手をかけないんです。逆に燈は承太郎の帽子にだけは手をかけない。

 お互いの大事なもの、お守りにだけは絶対に触らないようにしているんです。喧嘩のときだけじゃあなくて日常生活でもね。

 

「……って典明くんがポルくんたちに言ってたのを聞いたんだけどさ、お前アレ意識してやってたの?」

「多少は」

「多少かあ」

「てめーこそ。おれの帽子に触らないってのは」

「意識してたよ。多少な。帽子で目を隠すの、お前の癖だろう。気まずい時によくやってるアレよ。喧嘩の後なんかより気まずいってのに、その癖まで取り上げちまうのは酷じゃねーか。だから帽子は……手を出さない方が良いかなって」

 

 側から見れば無表情だが、承太郎の内心は驚愕の二文字で埋め尽くされていた。これは驚いた、まさか、このクソガキに自分は気を遣われているのか。そして自分もまた……。それをなんでもないように言われたのだ。

 だから言い返した。

 

「後ろ髪、よく掻いてる」

「え?」

「疲れた時の癖だろ。てめーの……よくやってる」

「えっ何それ知らん。おれそんなことしてたの? 完全に無意識だった」

 

 今度は燈が目を丸くする。元々丸い瞳が真円になるんじゃあないかというほど、丸く、まあるく。

 

「なあんだ。おれたち同じことしてたのか」

 

 まあるく……笑ったのが、人間そっくりだった。

 

「にしても典明くんの観察眼はやばいわ。おれらの喧嘩のパターンまで分析してるの強すぎるだろ」

「あいつのことは二度と敵に回したくねーな。弱点を見抜かれすぎた。今戦ったら何繰り出されるか分からん」

「なー……」

 

 

●あの子はすごいから

(アヴドゥル×太なり+ジョセフ)

 

 昼間の銃撃戦がこたえたのか、アヴドゥルは宿の部屋扉をくぐった途端、歩く気がしないと言ったように足を止めた。靴を脱ぐ様子を見せない彼に、同室のジョセフが声をかける。

 

「自分を責めているかね」

 

 否、ジョセフには分かっていた。アヴドゥルの疲労はホル・ホースと対峙したことだけが原因ではないことを。

 アヴドゥルによく懐いていた、大切な仲間の一人が道半ばに命を落とした。そのショックが、休憩と共に波のように訪れるのだ。後悔も罪悪感もいっぺんに、身を潰すのは津波の混濁だった。

 

「ジョースターさん、わたしは、わたしは大変なことをしでかしてしまった」

「アヴドゥル……」

「ポルナレフの言う通りだ。わたしにはあの子を止める勇気がなかった。あの子の名前を呼ぶことに恐怖してしまった。まともに戦えもしないあの子を、それでもあの子の強さに、甘えてしまった。あの子を抱きかかえるべきはおれだったのに!」

 

 堰を切って吐き出された声は震えていて悲壮感を煽る。握り込んだ手まで、緊張なのか恐怖なのか、ガタガタと軋んでかわいそうだ。

 ジョセフは苦悩する。どう宥めてやるのが正解なのか。宥めるべきなのか。何か言わなければはち切れそうな部屋の空気。

 だがここで『燈は生きている』とは言えない。今は全員の安全のために秘密にしなくては……。

 

「残念だが……悲しみに暮れている暇はない。先に進むしかない。DIOを倒すため、因縁に決着をつけるのだ……。全て終わったらもう一度来ようじゃあないか。燈に良い報告ができるようにな……」

 

──もしシーザーって大声で呼んだのに返事が返ってこなかったら……。

 

 記憶の裏で冬の風がよぎった。無い雪の匂いがした。

 

(ああ。この子は五十年前のわしじゃ。シーザーの名を呼ばなかった……)

 

 ジョセフだけが燈が生きていることを知っている。

 けれども咽ぶアヴドゥルを見てしまえば、よっぽど抱きしめてやろうかという気持ちになる。相手は30手前の、自分とそう変わらない体格だというのに、それでも二回り歳の離れた若造の友人に激しく同情してしまうのだ。

 

 

●良い人間になりたいか

(テレンス+太なり)

 

 薄暗がりの中、テディ──テレンス・T・ダービーは目を凝らして進む。

 

 どうしても眠れなかった。あるいは、眠ることがどうしようもなく恐ろしい夜であった。病室にいたら、自分の内にある獣が家具でも薙ぎ倒すのではないかと、心配が頂点に達して、訳もわからないまま庭に出てきてしまった。

 夜風にあたろう。それで気が済むだろう。落ち着いたら、誰にもバレないように戻るんだ。そう思って、落ち着ける場所まで歩いていた。

 

 その時だ。向こうのベンチに、人影を見たのは。

 

「燈……」

 

 予期せぬ先客に気づかないふりをして戻ることもできた。

 そうだ。もし燈の横顔に涙が浮かんでいなければ、すぐにでも自分の病室へ帰ったことだろう。

 テレンスは、燈に一切を明かして欲しかったのだ。滑稽かもしれない、人並みに、親友のように、そして自分も身分全て話せてしまえばどうしようもない暗闇も去るのではないかと、期待してしまった。

 ベンチの右、燈から見て左隣、少し隙間を開けてテレンスは座った。

 

「良い人間になりたいか?」

 

 燈が言った。

 問いかけか独り言か、丁度中間ほどの頼りない声量だ。答えて良いものか分からなかった。

 

「なれっこないさ」

 

 その友人が続けて言う。いつになく投げやりに言葉を使う様は、彼もまた夜の冷えを恐れているのだ、と思う。

 テレンスは小さな友人の柔軟性、あるいは感情に素直で人好きする様を快く感じていたがしかし、裏側に潜められたかなしみと怒りもまた、心底より赦せていた。

 

「だが悪い人間にもなりたくなかっただろう。進むべき道もない、ただ下り坂を鈍足で渡るだけの、悪い人間には」

「…………」

「不安かね、今夜は」

「……そうですね。今夜ばかりは」

 

 愁眉を開かぬままに彼は笑った。テレンスは素直にうなづくことができた。

 普段なら『NO』を返しただろう。心の内を隠して、弱いところなんか一欠片だって見せびらかさないようにしただろう。傲慢に背を伸ばしただろう。今日だけはそれをやめた。

 

 今まさに足先が千切れそうなのだ。不安で不安で、星屑に塗れてしまったら擦り傷だらけで不安なのだ!

 

「ああ……なんにもおかしいことじゃあない。おれたちは人間なんだ。当たり前さ。ほんの少し、恐怖に敏感で、怖がりで、どうしても手放せないものがあるだけの人間だ。吸血鬼でも地下の生命体でもないのだから、暗がりってのは全く恐ろしいものだよ」

 

 ほろ、と崩れた。何がだ。語尾か、声の調子だったか、ともかくパンパンに頬を膨らせるハリセンボンの緊張が、いま瓦解した。

 テレンスのたった一つの肯定で。

 

 ようやく涙を拭って、燈は涙を乾燥させるべくまたたく。手元の本はPP加工の表紙で、悲しみを撥水したようだった。

 

「……もし良かったらさ、読書に付き合ってくれないかな? 僭越ながら最初から朗読させていただこうじゃあないか。ね、毛布はいるかい?」

 

 毛布を受け取る。手慰みの感触があった。木漏れ日色の毛布の端っこ、小さな鳥の刺繍こそ少年の閑散である。

 

 

●世界をぶっ壊せマインスイーパ!

(太なり+ジョセフ)

 

「デーボくん懐柔できました」

「なんて?」

 

 燈が戦線離脱後、ジョセフは数日おきにインドの病院へ電話するようにしていた。ジョセフしか彼の生存を知らないので、コソコソと連絡を取り合うのはしばしば面倒だったが、お互いの体調の方がやはり気に掛かる。

 

 それでパキスタンを発って少ししたころ、これまで通りに通話を始めたものの、最初に聞こえてきたセリフにジョセフは唖然としたのだった。

 

「ほら、財団員さんが悩んでたじゃないですか。矢の一件でスタンド使いが爆増するかもしれないから、財団の方でもなんかしらプロジェクト起こそうって」

「い、言っとったな」

「だったら味方のスタンド使いは一人でも多い方がいいでしょう? だからおれ、頑張って説得してきちゃいました」

「オーノー……一体どっからツッコめばいいんじゃ」

 

 伊東燈という男はどうしてこうなのだろう。

 書痴故の人心掌握の巧みさは、計画者でありアメリカン・ドリームの体現者であるジョセフの目からしても原石の粗光を窺われる──ひょっとすればかつての悪友シュトロハイム顔負けの豪胆さだが、それにしたって無謀が過ぎる。

 アヴドゥルがよく頭を悩ませているように、ジョセフも彼の子の恐怖を上書きする情熱にほとほと呆れ返った。

 

「ジョースターさんにも財団にもお世話になりっぱなしなんですから、せめてもの恩返しぐらいさせてくださいな」

「わしとしては安静にして早く怪我治してメンバーのメンタル回復に来てくれた方が助かるんじゃがのう」

「ピョ……」

「なんじゃその鳴き声」

「はやく戦線復帰したいです……お医者さんの許可でないです…………ヴ……」

「わかった、わかった」

 

 結局、みんなお互いのことが好き過ぎるのだ。ウッカリ手でも足でも出してしまうくらい、お互いのことが大好きで、何かしてあげたくなってしまう。つまりはスーパービッグラヴなのだな。アクセル全開で。

 はて、しかし、『手も足も出さないでくれ』と思うのもまた、愛だったのだが?

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