かの莉愛トリロジー   作:古手 忍

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矢宵かのこと阿見莉愛と水波レナが魔女を退治する話。
2022年にpixivに投稿した作品です。
かのこさんのドッペル&冬服実装記念。


心綻び創り繕う

 放課後の教室。矢宵かのこは自分の席に座って、じっとスマホを見つめていた。その背後に立つ阿見莉愛も、かのこのスマホを覗き込んでいた。

 二人きりの教室。灼け付くような西日。やけに綺麗な姿勢で、じっと動かず腰掛けるかのこ。彼女の机に置かれた莉愛の右手は、汗ばんでいた。

「来た」

 かのこが声を出す。

 液晶画面に、新たな情報が表示された。そこに「矢宵かのこ」という名前は載っていなかった。

「ダメだったかぁあああ!」

 かのこはスマホを手放した。スマホは天板とぶつかって、ゴトンと音を立てた。

「私も残念ですわ……」

 莉愛はかのこの正面に回った。

「ですが、ここで諦めないで欲しいですわ。日々デザインセンスを磨いて、他のコンテストにも積極的に参加すれば、必ず……!」

「はい! 早速、次のコンテストに備えて創り始めています!」

「立ち直りが速いですわ⁉」

 赤い日の色に染まった床を踏みしめ、かのこは椅子から立ち上がる。

「夢に追い付くまで、私は進み続けるだけですから! こんなところで、へこんでいるわけにはいきません!」

 莉愛は眩しそうに目を逸らす。

「何だか、申し訳なくなってきましたわ。入賞できなかったのは、私のアドバイスが悪かった所為でもありますわ」

「阿見さんがそんな風に思う必要無いですよ! むしろ、あの冬服を創れたのは、阿見さんのおかげなんですから! 感謝してます!」

「そう言っていただけると嬉しいですわ。良ければ今後も、どんどん頼ってくださいな」

 

 がらりと音がして、教室の引き戸が開けられたのはその時だった。

 二人が振り向くとそこには、水名女学園の制服を着た水波レナがいた。

「学校の教室で何いちゃついてるわけ?」

「な……! いつも秋野さんといちゃついている、あなたに言われたくありませんわ!」

「レ、レナは別にかえでのことなんて……!」

「ねえねえ、その制服どうしたの?」

「目立たないために固有魔法で『水名女学園の制服を着たレナ』に変身したの。って、こんなことを話しに来たんじゃあないわよ」

 レナは、莉愛とかのこに歩み寄る。そして、周りを見回した後、声を低くして言った。

「神浜マギアユニオンの仕事、頼める?」

 

 

 

 

 

「ユニオンの仕事というと、また魔女退治?」

 かのこも声量を抑える。この時間帯、一般生徒が通りかかることはほぼ無いだろうが、念のためだ。

「そう。水名区に強力な魔女がまた現れたみたい。それで、水名の魔法少女と協力して倒してって、いろは達に頼まれたの」

 莉愛は右手の人差し指をピンと立てる。

「私達に任せなさい! 水名の地理に詳しいし、魔法少女としての実力もトップクラス、そして何より、自分達の街の魔女を、見過ごすわけにはいきませんわ!」

 かのこも深く頷く。そして、レナの手を取った。

「そうと決まれば、今すぐ行こう!」

「ちょっ」

 勢いよくかのこが、引っ張られるようにしてレナが、そして最後を飾るように莉愛が、教室を飛び出した。

 

 少女達が手始めに調べたのは、水名城の周りだった。

 お堀の外縁に集まった観光客達は、ある者はスマホを城に向け、ある者は隣に立つ恋人に話しかけていた。

 昏くなってきた世界に、夕日の残り火と街灯の光が滲む。

 石畳の端の方に、ゆるキャラの描かれたマンホールがぽつんと取り残されていた。

「最近、水名城のライトアップをするようになりましたの。夜になればもっと人が増えると思いますわ」

 しかし、莉愛の手の中のソウルジェムに、反応は無かった。

「人が多いところなら、魔女が現れると思ったんだけどなぁ。なんか魔女の特徴とか無いの?」

 かのこに訊かれて、レナはスマホのメモを確認する。

「『SNSの投稿とか、魔法少女の目撃証言とかを分析してみた結果――魔女の移動ルートに規則性はありませーん! 水名区内を移動していることは確かみたいだけどにゃー。ここまで不規則なのは珍しい、というか正直、異常なんだよねー』だって」

「神出鬼没ってやつかぁ」

 かのこは腕を組んだ。

 三人はしばしそのまま歩いた。同じ制服に身を包んだ彼女達は、傍からは、女子生徒が一緒に下校しているようにしか見えないだろう。

 少しして、莉愛が提案する。

「今度は逆に、人気(ひとけ)の無い場所に言ってみませんこと?」

 かのことレナもそれに同意した。

 三人は、水名城に背を向け、陰の支配する路地裏へと足を踏み入れた。喧騒が遠ざかっていく。肌寒い風が、逢魔が時を告げていた。

 

 白塗りの壁に囲われた袋小路は、眠っているかのように静かだった。

 その宵闇の淀みの中に、蠢くものがあった。

 ――魔女結界。

「私の言った通りでしたわ!」

 莉愛の金色の髪は、暗がりの中でも輝いていた。

「この前の魔女と同じ魔力パターン。狩り損ねた使い魔が成長したのかな?」

 かのこがソウルジェムを確認しながら言った。

 三人は次々と、魔法少女の姿に変身した

「よし、魔女退治、ばっちり決めるから!」

 かのこがレイピアで結界を斬り裂き、そこから、魔法少女達は結界の中に飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 魔女結界の中は『非現実』が『現実』と重なり合って存在している。

 束ねられたカーテン、切り紙、額に入った絵、歯車。それらが、空間そのものに貼り付けられて存在していた。

 莉愛は魔力の矢を次々と放った。ぴょんぴょんと飛び跳ねる使い魔達が撃ち抜かれる。

「使い魔は私が引き受けますわ。二人は魔女を」

 莉愛が切り開いた道を、かのことレナは駆け抜ける。

 結界の奥には、時計めいた姿の巨大な魔女が鎮座していた。逆さに唇の付いた振り子が揺れている。

 二人は息を合わせて跳躍し、レイピアと槍を――

「ギギッーーー」

 その一撃は速かった。

 振り下ろされた魔女の体の一部――額縁が、空中の二人を叩き落とした。

 かのことレナは石畳の上でバウンドし、呻き声を上げる。

 魔女の口から、紫色の泡が無数に吐き出される。

 立ち上がったレナが、それをまともに浴びて、再び膝を突く。

「ぐッ――毒ッ⁉」

 さらにレナの足元から、魔女の鋭い触手が、木の根のごとく生え出る。触手はレナの身体を貫いた。

 水色と白の衣装に、血の花が咲き乱れた。

「まずいわ!」

 そう叫んだ莉愛に、振り子が直撃する。

「阿見さんッ!」

 後ろに吹き飛ばされながら、莉愛は言葉を紡ぐ。

「私より水波さんを!」

 そのまま莉愛は、結界の外まで宙を舞っていった。

 かのこはレナの方を向く。

 使い魔達が、血だまりに倒れ伏すレナに迫っていた。

「させないッ!」

 地面を蹴って加速し、レイピアでまとめて貫く。

 そして、レナの前で急停止し、再び動き出した触手を切断する。

 そこからは、ただひたすらに刃を振るった。

 襲い来る使い魔達を刺し続けた。

 魔女の攻撃は、レナを抱えて回避した。

 だが、全てを捌き切るのは不可能だった。

 使い魔による針金の刺突が衣装を裂き、掠めた魔女の振り子が肌を抉る。

 血液が流れ出ていく。生命が流れ出ていく。

 それでもなお、魔力を振り絞って肉体を強化し、レイピアを閃かせる。

 しかし、使い魔の数に限りは無く、魔女の攻撃に終わりは無かった。

 たった一人だけで、仲間を守りながらでは、反撃の機会も無かった。

 とうとう、プツリと、電池が切れたように身体から力が抜ける。

 ソウルジェムは濁り切っていた。

 手から落ちたレイピアが、何かにぶつかって金属音を立てるのを、かのこは意識の端で聞いた。

 

 ――そして、かのこのドッペルは現れた。

 その形状は、異形のキノコだった。

 穴だらけのカサに、柄から生えた菌糸。最下部から伸びる白い腕のようなものの先端は、糸切りの形をしていた。

 ドッペルは、魔女へと向かっていく。使い魔達が突撃するが気にも留めない。

 ドッペルのてっぺんに付いているリボンがほどけた。すると、カサが翼のように開き、胞子がまき散らされる。

 胞子が魔女に触れると、そこから、魔女の肉体が糸状に分解されていく。

「ボッボボーーン」

 魔女はもがくが、もはや手遅れだった。ほつれは加速度的に拡がっていく。

 身体の形を保てなくなり、パーツがボロボロと崩落する。

 やがて、魔女の姿は、完全にこの世界から消え去った。グリーフシードだけが残った。

 

「申し訳ありませんわ。意識を失っていましたの」

 後頭部にたんこぶをこしらえた莉愛が、駆け戻った時、結界は消滅していた。

「矢宵さんがドッペルで倒したのね。助かりましたわ。さあ矢宵さん、取り敢えずドッペルを解除して、水波さんを……」

 莉愛の呼びかけに応えず、かのこのドッペルは、胞子をばら撒きながらずんずんと進み続ける。

「もしかして、コントロールできていないんですの⁉」

 胞子は、魔女を失い逃げ出した使い魔達の身体を分解していく。

 それだけではない。路面から壁から、辺りの物体をところ構わず、ドッペルの胞子は破壊し始める。

「止めないとまずいですわ。このままでは甚大な被害が……!」

 莉愛はドッペルを狙って矢を発射する。しかし、それすらも空気中の胞子が分解してしまう。

「攻撃が効かない⁉ ど、どうすればいいんですの⁉」

「方法はあるわよ」

 

 

 

 

 

 答えたのは、水波レナだった。全身から血を滴らせながら、槍を杖代わりにして立っていた。

「水波さん……! 大丈夫ですの⁉」

「そんなことより、今はあれを止めるのが先よ。みたまさんが言っていた。ドッペルは『心の影』の表面化。だから、ウワサを引き剥がすのと近い方法で解除できる」

 レナの身体が一瞬ふらつく。吐息が零れ出た。

「コネクトするの。心を通じ合わせて『心の光』を表側に引っ張り出せば、ドッペルは解除される」

「わ、判りましたわ!」

 莉愛は弓を握りしめる。

「まずは、あの胞子をどうにかしないことには、矢宵さんの身体に近づくことすらままならないですわ。でも――」

 躊躇っている間にも、着実に周囲は分解されていく。やがては、莉愛たちも――。

「レナがドッペルの動きを止める」

「え――」

 莉愛はレナに視線を向ける。真っ直ぐな視線が返ってきた。

「その身体では無謀ですわ!」

「大丈夫。身体はちょっとヤバいけど、魔力は全然残っているから。それに――」

 レナは石畳から槍を引き抜いた。そして、自分の足で立つ。

「足手まといになって、庇われるだけで、何一つ為すべきことができない。『そんなレナ』なんて、レナは嫌なんだから!」

 金色のツインテールが揺れる。莉愛はかのこのドッペルに向き直った。

「頼みましたわ! 水波さん!」

「オーケー! 『インフィニットポセイドン』ッ!」

 かのこのドッペルを囲むように、しかし、胞子がギリギリ届かない位置に、複数の鏡が出現する。全ての鏡には、レナの姿が映っていた。

 鏡の一枚から、レナが飛び出した。ドッペルを槍で突き刺すと、分解される前に、他の鏡の中に飛び込む。そしてまた別の鏡からレナは出現し、刺突を繰り出し、対面の鏡の中に消えていく。

 ドッペルの身体がぐらついた。その隙をついて、空中高く跳び上がったレナは、槍に水流を纏わせる。

「とどめッ!」

 水流で巨大化した槍を、レナは投擲する。

 槍はキノコ状のドッペルの柄を貫き、その全身を固定した。

 着地したレナがよろめきながら叫ぶ。

「今しかないわよ! コネクトで心を繋げて!」

「い、今更ですけど、私と矢宵さんで心を通じ合わせるってできるのかしら⁉」

「何よ! さっきまで学校の教室でいちゃついていたでしょ!」

 ――莉愛は跳んだ。

 空気中の胞子が彼女を襲う。しかし、レナの攻撃で胞子の放出が停止していたので、衣装がほつれる程度だった。

 魔法少女の跳躍力で、ドッペルの上部、すなわち、かのこの身体へと到達する。

「コネクト!」

 莉愛は手を伸ばした。

 

 

 

 

 

 私は気付くと、ミシンの前にいた。

 自分のデザインを形にしようと、布を縫い合わせていた。けれど、縫っても縫っても、そこから、綻んでいってしまうのだった。

「どうして――」

「私の夢は叶わないから」

 いつの間にか、私は矢宵板金の工場(こうば)にいた。

「そんなことないよ!」

「無理だよ。コンテスト、受賞できなかったでしょ」

「それは……」

 足先の感覚が無くなる。

「私にはセンスが無い。ファッションデザイナーなんてなれっこない」

「でも、ファッションデザイナーは私の夢だから……!」

「諦めようよ。実家を継げばいい。服は趣味の範囲で、時々、創ればいいじゃん」

「だけど……」

 膝から下の感覚が無くなった。私の身体(こころ)は綻んでいた。

「綻ばないものは無い。人生はいつか終わる。夢もいつか諦める。だからもう、創るのをやめていいんだよ」

 電灯が消えて、真っ暗になった。

 太腿が、腰が、腹が、綻んでいく。

 ミシンを使うために、デザイン画を描くために、必要だったこの両手も――。

 

 

 

 

 

「矢宵かのこぉぉぉぉおおおお!」

 私を呼ぶ声がした。光が差した。

 莉愛さんが、私に、手を差し伸べていた。

「あなたにはセンスがありますわ! コンテストの服、スタイリッシュで素敵でしたわ! これから磨けば、もっともっと光りますわ!」

「本当に――?」

「この阿見莉愛が言うのだから、間違いありませんわ! だから、手を取って! あなたが綻んでも、何度だって私が繕いますわ!」

 私は、ほどけかけた手を伸ばす。それは、莉愛さんの指に触れると、形を取り戻していく。

「そっか――。この絆は、絶対に綻ばないんだ」

 私達は光に包まれていた。

 莉愛さんの手をぎゅっと握る。

「私は夢を諦めない。服を創り続ける。人生はいつか終わるのだから、私は私の道を生き抜く!」

 

 

 

 

 

 かのこと莉愛は、さっきまでドッペルのあった所に仰向けで寝ていた。

 二人は固く固く、互いの手を握っていた。

 視界には夜空が広がっていた。

 やおら二人は上体を起こした。

「ね、レナの言った通り、何とかなったでしょ」

 レナは、壊れかけた壁に寄りかかって、座っていた。

 かのこは、レナの傷だらけの身体を認識した。

「大変、早くみたまさんの所へ! いや、いろはちゃんの所に行った方が近いかな⁉」

「そういうあなたも、酷い傷ですわよ。ここは私が……」

 莉愛が立ち上がったところに、かのこのレイピアが転がってきた。

「なんで急に……」

 レイピアが元あった方を見ると、そこにはマンホールがあった。蓋が開いていた。

 莉愛は全てを理解した。

 灯花にすら、移動ルートが予測できない魔女。その真相は、地下水路を使って移動していたのだ。だが、マギウスの翼はミザリーリュトンのウワサに地下水路を利用していた。だから、灯花が、魔女が地下水路を移動する可能性に気付かないはずが無い。地下水路の他に、もう一つの理由が合わさって、灯花の目すらも誤魔化したのだ。それは――

「同じ魔女がもう一体――!」

 狩り損ねた使い魔は二体いたのだ。そしてその両方が魔女にまで成長した。

 二体の魔女の目撃情報が混ざったせいで、正確な移動ルートが判別できなくなっていたのだ。

 そして今まさに、マンホールの蓋と、その上にかのこが落としたレイピアを跳ね飛ばして、第二の魔女が現れた。

 マンホールの面積からして、明らかに通れないはずだが、魔女にとって重要なのは、誰かが通るための道がある、という事実なのだ。物理法則など問題ではない。

 魔女の結界に、少女達は、世界は、取り込まれていく。

「私がやるしかありませんわ!」

 莉愛は矢を放つ。

「ボボーン」

 矢に当たった魔女は、あっさり反転した。

「あら、逃げ出しますの? 案外、臆病なのね」

 莉愛は弓弦を引き絞って――そこで停止した。

「いいえ、地下水路に追い返すのはまずいわ! 水名城の近くにもマンホールが!」

 黒い靴で石畳を踏みしめて、かのこが立ち上がる。

「任せて!」

 レイピアを新たに五本、生成して投げる。レイピアは、魔女の周りを飛び回り、魔力の糸を絡みつかせ、最後に壁や地面に刺さって固定される。

 魔女は身悶えするが、糸が千切れることは無い。

「ワルプルギスの夜だって、私の固有魔法で縫い留めたんだから!」

「見事ですわ!」

 莉愛が狙いを定め直す。

「とどめは私が!」

「私にやらせてください!」

 かのこが遮った。

「その身体で大丈夫ですの?」

「大丈夫です! 今の私は、やる気とか元気とかアイデアとかが、溢れ出て止まらないんだから!」

 莉愛は弦の緊張を緩める。

「なら、お願いいたしますわ。派手なのをかまして頂戴」

「はい!」

 かのこは魔力で輝くレイピアを、魔女へと向ける。

「これが私の魔法、どんな綻びも縫い合わせる針! 『ヤヨイコレクション』ッ!」

 魔女の結界が、かのこのランウェイへと塗り替えられた。

 魔力の糸が空間を走り抜け、刃のように魔女を斬り裂く。

 最後に、かのこが疾走し、レイピアで魔女を貫いた。

 そして、空間は元に戻る。かのこの背後で、断末魔と共に魔女は爆散した。

「スタイリッシュに勝ち!」

 爆風が、かのこの髪と腰のリボンを揺らした。

 

 

 

 

 

「大変だったんですね」

 いろはは、話を聞き終えるとそう言った。

 かのこ、莉愛、レナは、みかづき荘で、いろはの治療を受けて回復した。

「ええ。でもこれで終わりではありませんわ」

 莉愛は、リビングのソファに、長い足を組んで腰掛けていた。

「地下水路には、使い魔が残っているかもしれませんわ。できるだけ早く、斃しにいかなければなりませんわ」

「今度こそ、取りこぼさないようにしなさいよね」

 レナはテーブルに着いて、出された紅茶を飲んでいた。

「あのー、私がドッペルで壊したものは……」

「それは心配いりません。元マギウスの翼の中に、物を直す固有魔法の子がいるので。今、みふゆさんに連絡を取ってもらっています」

「よかったー」

 かのこも紅茶に口をつけた。

「ドッペルの影響は大丈夫ですか?」

 いろはは、かのこの顔を見つめる。

「平気です! 色々と大変だったけど、自分と向き合えたし、ドッペルには、少しだけ感謝してます」

「そういうことも、あるのかもしれませんね」

 いろはは微笑んだ。

「あ、そうだ」

 レナは、空になったティーカップを置いた。

「レナが回収しておいた、一体目の魔女のグリーフシード、いろはにあげるわ」

「え、いいの?」

「回復してくれたお礼よ。つべこべ言わず、受け取りなさいよね」

 そう言ってレナはポケットから取り出した。

「あれ……?」

 ――元々はグリーフシードだった、ボロボロの何かを。

「もしかして、これ、私のドッペルの胞子のせい……?」

「そう言えば、魔女を斃した後、レナが回収するまで、そのまま放置されてたから……」

 レナはグリーフシードを握る。それはくしゃりと簡単に潰れた。

「あ、あはは……」

 いろはは取り敢えず笑おうとした。

「やれやれですわ」

 莉愛は嘆息した。

「かのこーー!」

 レナは叫んだ。

「やっぱりドッペルに感謝しないーーーー!」

 かのこも叫んだ。

 みかづき荘のリビングは、明るい光で満ちていた。

                                  おしまい

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