エルデンクエスト   作:凍り灯

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燎曲過去を謡わず

 

 

 

 

 

真っ暗だ。空は星を映すこともなく、どこまでも深い暗闇に包まれている。

地を踏みしめた時の足元の感覚だけがまだ意識があることを教えてくれる。

砂のような雪のような、ザクリとした、形の定まらない感覚だけが頼りだ。

そうしたらいつの間にか近くに、先の光る、黒い樹木のようなものがある。

小さい火を灯したそれは、この真っ暗な中でもしかと黒い姿を認識できた。

点々と、先へ先へとそれらは並び続け、迷わないように私を導いてくれる。

だがある時、それは突然に途切れた、後ろを振り向いても全て消えている。

私は迷い子のように困り果てた、思い出さなくてはならない、でも何を?

思い出さないというのならば、代わりに"何か"を置いていかねばならない。

 

そして青白く冷たい炎が私を導く。あぁ、待ってくれ、せめてもう一度そ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

くらり、と足を踏み外した感覚。

思わず何も見えないま地面を踏みつけようと、力強く反対の足を前に出したところで、視界が明るく色付いた。

 

「…っ」

「!…戻ったか…成程、褪せ人とはこう蘇るのか」

「…知っているものかと思ったが、そうか。ブライヴはあまり群れなかったな」

 

あのザリガニ!

 

メリディアンは見事、地中に潜り込んだあまりにデカすぎるザリガニに捕らえられ、巨大な挟みで抵抗虚しくバッキリ折られてしまったのだ。

元々トレントを狙ったものだったようだが、乗ったままのメリナが勘付き動きを止め、その結果先を歩いていたメリディアンが標的になった。何も、メリナが見捨てたわけではない。呼びかける暇もないほどの速攻の奇襲だった、それだけである。

 

「貴公の仇討ちじゃぁないが、しっかりと戦い勝ってきたぞ!」

「あぁ…狙われたのが私でよかったよ…あれは反則だ」

「だから事前に見分け方を教えたというのに」

「簡単に出来れば苦労はしないのだがな…」

 

ザリガニが潜んでいることはブライヴが前もって教えてくれていた、集団でまとまっていると危険だから少しだけ散らばった方がいいということも。…逆にそれが仇となり、安全な場所を見分けられなかったメリディアンが犠牲になってしまったのだが。

 

「私とトレントが気づくのに遅れたのも、悪かったと思う…大丈夫?」

「ヒヒン」

「特には支障はなさそうだ、すぐ動ける。メリナも二人を連れて来てくれてありがとう」

 

辿ってきた"祝福"、それを目印に褪せ人は戻ってくる。逆に言えば祝福が見えない者たちにはどこに褪せ人が戻るかわからない。ブライヴとアレキサンダーが見えない以上、メリナがいなければ二人をここまで案内することも出来なかっただろう。

 

「…今回は無理を通した俺も悪かった。違うルートで行くことにしよう」

「ワハハ!急がば回れということだな、俺も近道をしたがるから気をつけねば」

「ああ、慎重に行こう」

 

────そうだ。ブライヴも、アレキサンダーも、失うわけにはいかない。

 

貴重な前衛だからとか、そういうのは関係なく。メリディアンは久々に一度死ぬことで気が引き締まった気がした。…どうにも自身の死が軽いと、他も軽く考えてしまうようになるのが褪せ人の恐ろしいところだ。そういうつもりがなくとも、そうなってしまう。

 

────ブライヴもまた、認識を改めた。

少なからず、目の前でメリディアンが殺されたのは衝撃だったのだ。生き返るとはいえ、理屈と感情は違う。

誰にでも得て不得手はあり、騎士上がりの彼は斥候のようなノウハウに強いわけもない。

 

どうにも、俺にしてはこの男を信用するのが早い。戦いやすさ、話しやすさ、そして誠実さ、それ相応のものを証明してもらったとは言え、だ。

 

違和感というよりは、不思議な居心地の良さ、同類と共にしたような感覚があったことをブライヴは認める。

過信しすぎたな、らしくもない…そうやって狼は同じ過ちを繰り返さないようにと牙を噛み締め(いまし)める。

 

メリディアンが立ち上がったのを確認したブライヴは、今度は先ほどとは別の方向へと進路を切った。今度はザリガニがいない道を行くために。

続くアレキサンダーとトレントに乗ったメリナ。メリディアンもその後に続こうとして────ふと、先ほどの、祝福に戻る直前の暗闇を思い浮かべる。

 

 

────…?あぁそうか、また思い出せないか…

 

 

夢のようなものを見ていた気がする。真っ暗な、ただそれだけしか思い出せないけれど。

 

先を歩くブライヴとアレキサンダー。突然立ち止まったメリディアンに、メリナだけが気がつき、トレントの上から振り向き視線を合わせる。

ジトっと視線につい、彼は半歩引きそうになった。

 

「…何かあるのね、歩きながら聞かせて」

「…良くわかったな」

「皆言ってるでしょう?わかりやすいの、声に出さなくても」

 

それだけ言って彼女は先を行く。

円卓での話以降、彼女も以前より少しづつ歩み寄ろうとしていた。それは私が彼女の"使命"を思い出すきっかけになる可能性がある存在だからだろうか?

 

どちらにせよ、互いに思い出さなければいけないことは多い。

 

メリナの夢の話、メリディアンの夢の話。全くもってどうしてもっと分かりやすくならないのか。嘆いたところでどうしようもなく、歩きながら四人で話せどやはり何もわからない。

 

けれど死んだ時に見た、果たして夢かもわからない話については、少しだけブライヴが興味を示したような気がした。

それを無理に聞こうとする者は、やはりこの中に誰もいないのだけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"ならず者は、大事な首飾りを奪っていきました。それを取り返してほしいのです"

 

とは、"ラーヤ"という若草色の上等なローブを着た娘がメリディアンに向けた言葉だ。

猫背と幼子のような赤い頬を持つ特徴的な彼女は、主の使いで旅をしていた途中、"ならず者"なるものに首飾りを奪われてしまい、途方に暮れていたそうだ。そこで偶然通りかかった彼らに希望を託そうとした。

 

「…なるほど」

 

そのならず者、話は出来そうだ。

メリディアン以外もそう感じただろう。正気を失った人ばかりが溢れている中、殺さずに金品だけ巻き上げるなんぞ、かなり理性が残っている証拠。パッチにも見習ってほしいものだ。

 

そのパッチも、先ほど近くで再会したばかり。まだちゃんと商いをしているらしく、仕入れのためにここまで足を運んだらしい…ほんとかな?ちなみにラーヤのことは、彼から聞いた。

 

「同胞と争うことに抵抗があれば、無理にはお願いできませんが…」

「よし、行こうかラーヤ」

 

ラーヤの頭上に疑問符、現る。

 

ブライヴはまた寄り道か…と半ば諦め気味だ。開き直って、さっさと済まそうと彼の言葉の続きを待つ。

アレキサンダーはいつも通り楽しんでいるし、メリナに至ってはメリディアンの行動に疑問を抱かなくなりつつあった、毒されている。

 

軽い困惑と共にラーヤは聞き返す。

 

「…?首飾りを、取り戻しに行くのでしょう?」

「君も一緒にな」

「………??…いえ、私はここで…」

「まぁまぁまぁ」

「道案内がいるとすぐ終わるわ。それに、この人数ならばあなたも安全のはず」

「それは…そうなのですが…」

「さっさと行って終わらすぞ、メリディアン」

「うむ!今度はいかな戦士に出会えるか!」

 

ダメだ、話を聞いてくれない!

ラーヤは押しに弱い子であった。ドナドナとトレントにメリナと一緒に乗せられ運ばれるラーヤ。

 

「行くぞパッチ」

「………………え!?俺!?」

 

通りすがりにメリディアンがそう言えば、ブライヴに首根っこを掴まれてドナドナが増える。

明らかにグルっぽかったからだこの二人は!そもそもパッチが他人の心配とか冗談にも程がある。ひでぇぜ旦那!?

 

「なんだこいつら…」

 

────さて、囚人の鉄兜を被ったならず者は困惑した。

 

急に話しかけてきた妙な女から大事そうにしていた首飾りをひったくり────この時大した抵抗がなかったのもまた"妙な女"と言う由縁なのだが…────自身の成果に満足しつつ、小エビをデカいエビの目を避けつつ狩る。

ホクホク顔で仮拠点のボロ小屋の外で、使い込んだ大鍋でさぞ美味しそうな茹でエビを作っていたらこれである。

さもありなん。

 

褪せ人はまだいい。

 

馬に乗った女共も、まぁいい…いや良くはない。一人は首飾りを奪った相手だ。すわ復讐か!?………と思ったのだが、ならず者はこの珍妙過ぎる団体に対し反応に困ってしまった。なんせ毛ほども悪意を感じない…デカい壺人はともかく、一番怖い狼顔に至っては面倒くさそうに顔をしかめているばかりだ。

 

…そしてその狼顔に首を掴まれて意識を失いそうになりながら運ばれる禿褪せ人。

 

「どういう状況だ?」

 

もうならず者は聞くしかなかった。

グツグツと煮える大鍋の音がやたら大きく聞こえる。

 

 

 

 

 

「エビ好きに悪い奴はいねぇ…そうだろう」

「いや全くだぜ旦那」

「まさにその通り。なんだ、やはり話せばわかる男じゃあないか」

 

ならず者…"ビック・ボギー"と名乗った男は、やはり話せる男だった。一悶着もなく、話し合いだけで首飾り問題は解決したのだ。今ではこの通り、鍋を皆で囲っている。

 

「あなたたち…」

「ところでよぅ、このエビで一稼ぎしようって話なんだが」

「パッチさんあなた…」

 

さしものメリナも、あまりの馴染みの早さぶりに引き気味ではあったが。

ラーヤもパッチに呆れている。ちなみに二人が知り合いなのはパッチが即効でゲロった。どうせそんなことだろうと思ったよ、とはアレキサンダーを除く三人の呆れ声。

 

しかし彼らの間にどういったやりとりがあったのだろうか?

 

────首飾り?…ほう、お前たち、あの首飾りが欲しいのか。

────ああ。どうにかして返してもらうことはできないだろうか。

────ふむう、そうだなあ…それなりの誠意を見せてくれよ。そうすれば、譲ってやっても構わないぞ。どうせ、行きずりで手に入れただけだしなあ。

────む、誠意か…

 

…しかしこのメンツにすごい度胸の男である。

 

いや、どうにも締まらないやつらなのは間違いないが、それにしてもだ。そんなもんだからメリディアンとアレキサンダーは秒で気に入っていたりする。平然と語るような彼の足が実は震えているということは気にしないであげた。見栄を張るのもまた勇気である。

 

"誠意"と言われてメリディアンはトレントに預けている荷物をひっくり返して並べることにした。ならず者ことボギーはそこで塩に目をつける。

なんせ料理には、いや茹でエビには塩が欠かせない!いくらあっても困ることはないのだ。メリディアンが多く調達しているものだからとりあえずそれを分けることで首飾りを返してもらえることになった。

 

そこでボギーは気が付く。メリディアンの自家製ドレッシング等、充実した調味料の存在に!

 

ついに始まってしまった料理談義。趣味は偉大、人と人はやはり興味がある物が被ると気を許してしまうのか。

気が付けばエビが茹でられている鍋を囲んで座り込んでいるではないか!

 

手元の茹でエビを剥いて口に放り込んだブライヴは自身が空気に流されていることに気が付いてハッとしたが、その茹でエビを食べて少し驚く。

 

「意外とイケるな…俺がやった時は、不味過ぎて食うどころではなかったが…」

 

いや食ったのかよ。

メリディアンは口には出しはしなかった。というのも、エビというかこれはザリガニだからである。誰も何も言わないが、さっき自分を殺したザリガニと同じなのである。

 

「素人にはこのビック・ボギーの真似事は出来やしねぇよ…この塩加減のな」

「おお…」

 

はららっ!と鍋よりほどほど高い位置で彼は塩を振りかける。この塩捌き!

ブライヴは素直に称賛した。彼は食うことに関しては頭が上がらないのである。

 

こそり、とメリディアンとメリナは耳打ちしあう。

 

「あの動き必要か?」

「…さぁ…」

「聞こえてんぞメリメリ姉妹が」

「女顔をいじられたのは久しぶりだな」

 

枯葉色の長髪を後ろで団子にしたメリディアンがしみじみと呟く。

意外にもメリディアン、調理はまじめで遊び心がない。これは騎士出身のせいもあるだろう。変な所でノリが悪い男であった。

 

それじゃいけねぇ、それじゃぁいけないのよ。ならず者はこれだから騎士様は…と呆れ気味。(いわ)く、試行錯誤こそ大事なのだと。塩の量を変え、収穫期を変え、水を変え鍋を変えタイミングを変えポーズを変え。

それすら出来ない奴に俺が追い付かれることはない。

絶対の自信であった。

 

パチパチパチとラーヤとアレキサンダーの拍手がならず者の耳に届く。

いや…壺はともかくお前が拍手するのか。やっぱ変わった娘だな…と、ついさっきまで奪い、奪い返しに来た者同士とは思えないやり取り。

 

なんだか小っ恥ずかしくなったならず者はまたエビを茹で始めた。

 

────試行錯誤か…

 

確かに、思えば堅実に知っている調理法しか行っていなかった…馴染んだものに対してのチャレンジ精神がなかったことは、気が付かされたことである。

エルデンリングを求める無謀な旅を行う自分が、なんとも日和見であったと恥じ入るばかりだ。

 

 

旅…それでメリディアンが思いついたことは、これからの戦いのこと。

 

 

今の戦い方も、前衛を任せきりのスタイルで力押ししている節がある。もちろん色々と考えてはいるが、基本の陣形がメリディアンが後ろなのが当然になっていた。後衛なのだからそうだろう、と言われればそうなのだが、しかしいつも通り戦えないことの方が多いのが"戦い"というもの。

 

"試行錯誤"…メリディアンはゴドリックにとどめをさした、湾曲した短刀を思い浮かべる。

 

────今の内に、他の戦い方も手を出すか…

 

チラリと、メリディアンはブライヴとアレキサンダーを見やる。

 

ブライヴは"任務"が終われば、アレキサンダーは"戦祭り"のためにと、いつか別れることもあるだろう。その時に「戦えません」じゃ、話にならないのだ。

それなりに()()()つもりとは言え、それで歩ける道ではない。

 

加えて、あのモーゴットと再び刃を交える可能性があるのだ。どちらにせよ、このままではいられまい。

 

 

…ふと、ブライヴのことを見てメリディアンは気になったことがあった。

 

 

「ブライヴ、お前はずっとこの狭間の地にいたのか?」

「どうした突然だな…あぁ、そうだ。俺には仕えている人がいると知っているだろう、一度たりとも外に出たことはない」

 

ブライヴが、根野菜と干したキノコのスープを掻き込みながら答える。ボギー(ならず者)の鍋の横で一緒に作っていた頑健になる薬効のあるスープだ。

さっき調達した蟹たまが入っていて、割って飲むとこれまた美味い。

 

「出たいと思ったことは?」

「ないな。だがもし、ここを出る時があれば…そうだな、彼らと共に行くだろうさ…何故こんなことを聞く」

「私の探す(半狼)が狭間の地にいなければコトだと思ってな」

「それならば大丈夫だろう?」

「そうなのか?」

 

メリディアンの探す"半狼"への手がかりは未だ少ない。

一つだけ、円卓で興味深い話があったが手をつけてはいなかった。

 

ブライヴは意外そうに言葉を返す。

 

「知らなかったのか…いや、覚えてないのかもな」

 

 

半狼は、狭間の地から出られない────普通の方法では。

 

 

「お前の言う"半狼"がまだ生きている上に、ただの亜人でなければの話だがな」

 

出られない。

そうだ、よくよく考えればその通りだ、こんなことも忘れていたのか。メリディアンは得心がいった。

半狼とは狭間の地では特別な存在。似たような亜人や獣人がいるために、全てがとは言えないが、確かに特別な意味があり、ブライヴは間違いなくそれだという確信はある。彼もまた、ここから出ることはできないのだろう。

 

だが、ブライヴのこの言い方は、()()()()()()()()で狭間の地を離れる可能性があることを示していた。

重要そうなことをさらっと言うようになったブライヴに、メリディアンは驚く。ある程度馴れ合いはしても、そこまでとは思っていなかったからだ。

 

小さな驚きを余所に、構わず口挟むのはこの男、パッチ。後はもう、皆好き勝手話すばかりだ。

ははっと、笑ってメリディアンはハープボウを取り出す。

 

そうだな…あぁ、そうだそうだ。曲もせっかくだ、即興で演奏するとしよう。

過去ばかり見るべきではない…今を想って、弦に乗せて弾く。

 

この一時に、少しでも安らぎを。ゆるやかに演奏が始まった。

 

「自分は特別な騎士様気取りってか?っへ、まぁ勇猛なのは俺にもわかるがよお」

「お前にはどうでもいいことだろう?エビもう一つ」

「まぁ待て、嬢ちゃん方がまだだからな、それからだ…ほらよ」

「…待って、これよく見たら、ザリガニ…」

「巫女様、とても美味しいですよ?どうかしましたか?」

 

ホロン、ホロリ。

パッチがブライヴの機嫌を損ねない程度に(なじ)る。

ブライヴがパッチを軽くいなし、エビを要求する。

鍋の中をあまり意識していなかったメリナがたじろぐ。

全く気にしていないラーヤがエビを摘まむ。

 

皆の言葉を行動を、曲に紡ぐ。音楽として、旅の記憶を忘れないようにと作り上げていくメリディアン。

 

 

曲を奏でていれば、心が澄む。

 

 

平和ないつかを感じられて、戦いのない日々を思い出せそうな気がして…あぁけれど、多くが霧の彼方のまま。

 

過去は朧気なことばかり、それでも私の使命は過去のためではない、未来のためにある。自分の名前すら思い出せないが、それだけはハッキリと理解して、この旅を成し遂げようとしている。

 

私も、メリナも、過去に縛られている。思い出せないから、思い出すことが、先へ進むことに繋がると確信していた。狭間の地に来る前の私はそうだった、そしてメリナと出会い、使()()()()()()()()

そういう意味では彼女はまだ、スタート地点にすら立てていないのだろう。

 

だからこそ私も黄金樹の麓へ行くのだ。

その道行を、黄金ばかり見て歩くには長すぎる。もっと色鮮やかな物を見上げて、見下ろして、共に歩くのだ。

 

ただ思い出すだけの旅は、きっと寂しいから。

 

演奏の手は止まらず、けれどもこの平和な輪に入るために私は口を開いた。

 

「なぁボギー、もしやカニもいけないか?これ」

「おー悪くねぇな…次はカニに決まりだな」

「あの…褪せ人様は王都を目指しているのでしょうか?」

「元々そちらの出身でな、道は険しいだろうが…必ず辿り着くだろう」

「うめぇぞ茹でたカニは…脚も味噌も絶品だ、俺の茹で加減にかかれば…だがな」

「ほぅ…そいつは楽しみだな。こういうのも悪くないものだ。どうにも肉ばかりだからな。…あぁ、そうだアレキサンダー、その中に投げ込んでいいか?」

「いいぞブライヴ!」

「そのデケェ蓋をこっちに投げるんじゃねぇよ!?鍋蓋にするぞ!?」

「へっへっへ、むしろあの壺まるまる鍋にしてやるってのはどうだ?」

「あの中身人の死体だぞ」

「…忘れてたぜ、蓋もいらねぇや…」

「ん?どうした貴公ら!このエビは絶品だな!」

「エビ好きに悪い奴はいねぇ、間違いねぇや」

「ははは」

 

笑う、笑う。

ホロホロリ、ポロロ。

 

「…あ、おいし…」

「メリナ、メリナ、旨そうなやつがあったからこれもやろう…あぁ、演奏中だから悪いが私の皿から取っていってくれ」

「………このような人を繋ぐ"強さ"というのも、英雄たる由縁なのかもしれませんね…ラーヤは一つまた学びを得ました…ところで、なぜその楽器のような弓を?」

「持ち運びやすい楽器だからな」

「使わないと思ったら楽器としての用途が主だったのね…」

「長弓と短弓、二張りも弓を持つとは相当の自負があるのですね、褪せ人様」

 

ラーヤの言葉に、メリディアンは思わず苦笑いを浮かべながら目を閉じた。やはり演奏する手は止まらない。

 

彼は少しだけ、昔を思い出す。

自身の前に立ち塞がった全てを打ち倒した、あの大きな背中を。ただそれをずっと見ていたかったからなんだ、なんて青すぎた理由は言えなくて。

 

ホロン、とハープの音が喧騒(けんそう)に溶ける。 

 

「はは、私は後ろで弦を弾くしか、能がないのさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 









昨日は普通に忙しくて投稿できなかったです。申し訳ないです。

明日の投稿でしばらく連日の投稿を止めますのでよろしくです。ストック切れですね。
終わりまで一気に書いてから出そうかちょっと考え中です…。ちなみに実は最終話とか半分くらい出来上がってたり。

改めて言いますが、基本的にはDLCの要素は取り入れないのでご了承ください。
ただ、齟齬なくそれとなく取り込めるならばさらっと触れる程度はするかもしれません。まだあまり進んでないしな!

DLCの話は触れない程度に、感想等お気軽にどうぞー
あと燎曲はりょうきょくと読みます。造語です。


■メリディアン
暗闇しか思い出せない。あの冷たい炎も何も。
過去が朧気な私たちは、だからこそ今を良き思い出にするために弦を弾く。せめて少しでもそう想ってもらいたい。


■メリナ
何も思い出せない。使命すらも何もかも。
盲目的な信頼ではなく、対等な信頼をメリディアンは欲していた。少しだけ近づいたけれど、まだどこか遠いままだ。
当人はこれでも大分遠慮がなくなったと思い込んでいるのが難しいところ。


■ブライヴ
昔仕留めたザリガニを食べてすごい顔をしたことがある。
どうにもメリディアンに気を許す、らしくもなく。気を引き締めながら、故にあの人に合わせるのだ。


■アレキサンダー
壺の中に放り投げれば味が分かるっぽい。
…どうやって?とかは知らない方がいいのかもしれない。


■ラーヤ
同胞に手をかけることを(いと)わない褪せ人を求めてたけど、これもこれでありかもしれないと思い始めた。
重いとこは重いけど、さっぱりしてるとこはさっぱりしてる子。


■ならず者
色々と巻き込まれてることに気が付いていないし、実はまた巻き込まれる。
この塩加減!塩捌き!戦士としてではなく趣味仲間として息があったせいか、メリディアンはたまに乗ってくれない。ひどい男である。


■パッチ
メリディアンのことが少し気に入って、ブライヴがちょっと苦手になった。狼は好きだが、狗は好きではないのだ。



-祝福の記憶-

死せる褪せ人を狭間の地に導いた
最初の祝福の記憶

すべてのルーンを失い
最後に訪れた祝福に移動する

それはただ、繰り返す
エルデンリングに見えよ。エルデの王になるがよい


-ならず者の鉄仮面-

罪を侵した囚人が、被せられる鉄の仮面
ならず者こと、ビック・ボギーの装備

それは彼にとって
己の危うさを誇張する、脅しの道具であり
虚勢の殻でもあったのだろう


-ゆでエビ-

茹で上げられたエビの身肉
プリプリとして汁気もある見事なもの
塩加減にコツがあるらしい

実際には、ザリガニの身肉のようだ
まあ、美味ければそれでよいのだが


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