エルデンクエスト   作:凍り灯

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臨まれた結び

 

 

 

 

 

破砕戦争で、人は大切なものを忘れてしまった。

 

そう(なげ)くのはここ"結びの教会"の司祭である"ミリエル"だ。

 

破砕戦争以前、エルデンリングが砕けるよりも前の話。かつて"黄金樹"と"月"、二つの王家が和睦(わぼく)を結び、"英雄ラダゴン"と、"満月のレナラ"が、(ちぎ)りを結んだ場所。

そして今や壊れた結びであるその二つ、王都の黄金樹と、レアルカリアの学院が再び繋がることを(のぞ)んでいる教会。

ミリエルは信じていた。

この地に宿る奇跡が、またいつか、世界を結び、今度こそ、決して反故にはされぬのだと。

 

彼はその巨大な、石のような薄灰色の亀の身体を身動(みじろ)ぎさせて語るのだ。

 

────"ラダゴン"、エルデの王、女王マリカの二人目の伴侶。

 

壊れた、とはそう言うことだ。

ラダゴンは、一人目の王であるゴッドフレイが追放された後レナラを捨て、王都へと一人向かい、玉座に坐した。

"美しくも偉大なる満月の魔術師"、とはミリエルの言葉だが、その彼女はラダゴンに捨てられたことで心を壊し、後に学院がレナラら王家に反旗を(ひるがえ)したときにそのまま"大書庫"の虜囚(りょしゅう)となってしまったのだという。

 

満月の女王レナラ…ブライヴが以前レアルカリアの連中をボロクソに(けな)していたが、彼はレナラだけは庇っているようにメリディアンには見えた。レアルカリアから、それと対立してしまったカーリア王家にまで多少は物申していたが、レナラについてだけはついぞ何も触れなかったのだ。

 

 

それでそのブライヴなのだが、現在はメリディアンと一緒にはいない。

 

 

喧嘩別れしたとかそういう話ではなく、ブライヴの仕事の話だ。

彼は一度、仕えている人物への報告も兼ねて別行動したいと言って出たのだ。

 

しゅんとして「そうか…」と返したメリディアンに苦笑いを一つ、すぐ戻るからと合流地点を決めて別れ、北西に向かったブライヴに対して、北東へとメリディアンは進路をとることになる。曰く、通らない反対側に行っておきたい。観光じゃねぇんだぞ。

特に文句もないメリナと、アレキサンダーも快諾………するかと思いきや?

 

「む、そっちは…そうか…いや、気にするな貴公ら!さぁ行こう!ん?どうしたその顔は?」

 

当然聞き出した。

 

メリディアンは自分が似た態度を取っていたことをより自覚して反省した。

で、どうやらアレキサンダーの故郷が近くにあったゆえの反応らしい。二度と帰らぬと決めた我が故郷、されど近づいたとなれば弱気が顔を出しもする。だから迷ったそうだ。…けれども、もう、大丈夫だとアレキサンダーは言う。

 

「英雄を目指すものならば、郷愁(きょうしゅう)は捨てていかねばならない…貴公らの戦いを間近で見ていたからこそ、俺は今、そう思えたんだよ」

「郷愁か…私も一度はそれに惹かれてしまった」

 

祝福がこの身を立ち上がらせた時、狭間の地に駆ける思いはそれだった。だがメリディアンも、今はもう違う。与えられた使命、或いは願いを、己の意志で叶え、その先に行くのだ。

行くぞ同士よ!待ち合わせの時間まで暇だから練り歩きに!

 

なんだか楽しそうな二人に、メリナもどこか微笑ましい雰囲気を(まと)わせていたとかいないとか。

 

そして辿り着いたのがここ、結びの教会だったのだ。

結びの教会の歴史を聞き終え、ミリエルの許可を得てしばし身体を休めることにする一行。トレントにおやつのロアの実を食べさせているメリディアンの、その(あらわ)になっている横顔を見て、メリナはふと呟く。

 

「…そう言えばあなた、その髪の毛は切らないの?」

「────あー…そうだな、確かに邪魔ではあるな」

 

暗に邪魔じゃないか?という問いにメリディアンもまた()と答える。

昔もそうだったの?いや、そんなことはない、もっとすっきりしていた。そんなやりとりをすれば、メリディアンが理由があって伸ばしっぱなしにしていたことぐらいは気が付く。

 

しかしメリナは、理由はどうあれメリディアンの髪の毛をばっさりいくつもりだった。何故か?

 

────メリナはいまだに夢をみる。そして以前程ではないが、自分と、夢の中の人物とを混同しそうになる時がある。

 

それではいけないのだ。

要因の一つに、夢の中の彼女とそっくりなメリディアンのこともあったりする。ふと気を抜いている時に彼の顔を見ると、夢のことばかり頭に(よぎ)るものだから困ったものだ。だから区別、ではないが少しでも遠ざけようとぶった切ろうと考えたのだ。メリナはやる気だった。

 

メリディアンはその初めて見るやる気スイッチONにたじろぐ。

 

「"結び"の名を冠する教会で"切る"行為は良くないのでは」

「いえいえ、頭髪を騎士がご婦人に任せることは信頼の証。ゆえにこれもまた結びの一つなのですよ」

「…もしや今考えなかったか?」

「ふふふ、さてどうでしょうか?如何せん、長く生き過ぎたものですから、はてどちらでしたでしょうか」

 

中々愉快な性格しているな??

穏やかに笑うミリエルにメリディアンはそれ以上返せなくなる。そうこうしているうちにトレントの鞍嚢(あんのう)からハサミを取り出したメリナが戻ってきた。

 

「それで、あなたが髪を伸ばしていた理由を聞いてもいい?」

 

切り落とす前に聞いてやる。

別にそういう言い方ではないが、有無を言わさない何かがあったような気がしなくもない。メリディアンは介錯(かいしゃく)前の侍の気持ちを知った。

 

そして目の前に置かれるハサミ。そう、目の前に置かれたのだ…まさか切腹を!?ではなくて、え?とメリナを見るメリディアン。察して真顔になるミリエル。

 

「…どうしたの?」

 

完全にメリナが切ってくれる流れと思っていたメリディアンとミリエルはとても気まずくなった。

気を取り直して先ほどの問いに言葉を返す。

 

「メリナ、君に話したろう…あー、アレキサンダーにはまだだったか」

 

それはメリディアンの母の話。

 

顔はまるで同一人物かのように瓜二つ。そもメリディアンという名前自体が母から借りているに過ぎず、本当の自分の名はわからない。髪色は違ったが…鏡を見れば、それでもいつでも思い出すことが出来るほどだ。髪を伸ばせば余計に。

褪せ人となって追放された後は、だから伸ばしていた。

…母もまた、彼にとっては未練の一つだったのだ。

 

「そうか、名を思い出せないとは難儀(なんぎ)だな…む、貴公。では母上の方は探さなくて良いのか?」

 

純粋な問い。

しかし探さない理由は、メリナにも察することができた。メリディアンは(はかな)く笑いながら暗青色(あんせいしょく)の瞳を伏せる。

 

「もう、生きてはいないさ…わかるんだ」

「そうか…それは酷なことを聞いてしまったな」

「いいさ」

 

不思議と、わかってしまったのだ。この狭間の地に足を踏み入れ、理解してしまったのだ。それがなぜかは、わからないけれど。

 

…そんなもんだから未練がましく伸ばしっぱなしだった、ということらしい。

けれど引っ張り続ければいつか足下まで(すく)われそうだ。アレキサンダーが自らの郷愁をすっぱり切り捨てたように、自分もそうしてしまおうとメリディアンは決意する。

 

肩甲骨を軽く過ぎる長さの枯れ葉色の長髪を持ち上げ、少しだけ哀しそうにするメリディアン。

メリナはそんな彼を見て、視線を一度地面に落とし…やがて上げてからある提案を口にした。

 

「私にやらせて、メリディアン」

 

驚いたメリディアン。その後ろでミリエルがニコニコと笑顔を取り戻したのを見たのは、大きな壺が一柱だけだ。

 

 

 

 

 

枯れ葉のような色の髪を()くと、私は(かす)かに懐かしさを感じる。

教会の敷地の外で、アレキサンダーが正拳突きを繰り返す(やかま)しい声を背景に、それ以外は至って静かな微風(そよかぜ)が通り過ぎるばかり。

 

「うぉおりゃぁッ!」

「セイヤァッ!」

「ホオいやぁあああッ!」

 

…全然穏やかではないが、手元が狂う程でもないだろう。

 

自然と、いつもやるように手が動く。

けれどまた夢の誰かを自分と混同することはない。彼と彼女は…髪色が違う、夢の中の彼女は真っ赤な髪の毛だった。

 

…?

 

いや、彼女が、"メリディアン"が黒いヴェールを外した時の姿は一度しか見れていないが、その時は()()()()()()()()。どうして赤だと思ったのか。

 

────はぁ、と溜息を一つ。どうにも、翻弄(ほんろう)され過ぎだ。

 

「…どうしたんだ?…もしや、臭うか?不快な匂いがするなら言ってくれ」

「無臭ね、驚くくらいに」

 

スン、と手に取った彼の髪の毛を軽く嗅ぎながら、いちいち夢を気にしても仕方がないと自身に言いつける。煙のような、(くすぶ)るような微かな香りを見逃して。

 

────夢のあの人も、彼の母にこうしたことがあったのだろうか。

 

「…あ」

 

よく手元のハサミを見れば、刃の一部が欠けていた。切ることは出来るだろうが、少しやり辛くなってしまうか…

 

「…ご婦人、そのハサミはどうやら欠けているようですな」

「…!そうだったか…ボックには悪いことをした。どうする、やめておくか?」

 

私の深緑のローブを散髪ケープの代わりに羽織ったメリディアンが私を振り向き見上げる。次いで赤と青の瞳が私の手元のハサミへと向けられた。

このローブを羽織ってもらってるのは、彼が普段調理する時に使う前掛けを使おうとして、私がそれを止めて代わりにと貸したからだ。食事を作る時に使うものなのに、髪の毛を張り付けるのはよくないって思ったから。

 

彼の真紅のサーコートは、近くに畳まれている。

 

そもそもの話、このハサミは髪を切るためのものではなく、あくまで裁縫道具のハサミだ。メリディアンが亜人の子(ボック)から彼の裁縫道具を取り返した時に、多めに持っていた道具を分けてもらったもの。

 

「────裁縫道具、ですか。…失礼ですがメリディアン殿、教会の奥に、古びた箱が幾つかあります…その下に、とても分かりづらいのですが、小さな隠し戸があるのです」

「ちょっと待っててくれ………これか?」

 

ローブ姿のままのメリディアンは椅子から立ち上がり、枯れ葉色の髪の毛を垂らしながら一つの、黄金樹の紋様が描かれた包みを持ってくる。

 

「ええ、それです。その中に、ハサミが入っていたはずですよ。よろしければ、そちらの包みごと持って行っても構いません」

「────…これは…ミリエル殿、しかしこれは」

 

メリディアンが包みを広げる。

 

包まれていたのは、黄金で作られた裁縫道具だった。意匠はどれも細密で美しく、糸すら黄金。しかし普通の防具や布地などを縫うには()められた()()が強過ぎる。

それは以前パッチから買い取った、マルギット(モーゴット)の拘束具が帯びていたものに近い。つまり王家、黄金樹由来の品だということ。

 

「────赤髪ラダゴンの、婿入り道具?」

「おや、ご存知でしたか?そうです、それはかつてカーリアの女王たる彼女の伴侶となる時にお持ちになられた品…しかしラダゴン様が去ってからはここにずっと仕舞われていた、もはや誰も手にすることのなかったものです…しかし、一体どこでそのことを…?」

 

私はその問いに答えられない。

つい、口から出てきてしまったが、何故滑り出たかもわからない。言葉を選んでいる私を置いて、メリディアンがすかさず代わりに答えた。

 

「彼女もまた王家の一族に関わる人物なんだ…だがすまない、彼女も、そして私も昔の記憶が曖昧なんだ」

「そうでありましたか。良いのですよ、なんであれ、それは是非ともあなたたちに貰っていただきたい」

「…どうして、私たちなの?」

 

ミリエルはその人好きする岩のような顔で微笑む。

 

「それが、私にも良くわからないのです。ですが、あなたたちに持っておいてほしいと思った、その自身の直感に従いました…司祭が勘などと、お笑いになりますか?」

「…いや、どのような時でも、経験に基づいた第六感は馬鹿にはできない。ありがとう、ミリエル殿」

 

メリディアンは素直に感謝し、美しいハサミを一つ道具入れから抜き取ってから丁寧に包みを畳んでいく。そしてそれを私に手渡し、もう一度椅子に背を向けて座った。

 

「ボックに、ハサミをダメにしたことはこの黄金の裁縫道具で許してもらおう。不足はしないだろうな」

萎縮(いしゅく)しなければいいけれど」

「ヒヒン」

 

近くにいつの間にか来ていたトレントが、メリディアンが置いた裁縫道具の匂いを嗅いで、そしてその横に足を畳んで体を休めた。トレントもまた、この王家の一品に興味があるようだ。

私はそれから、手に馴染むハサミを彼の髪の毛に通していく。

 

シィン、と静かな音が鳴る。以前のハサミとは比べ物にならない程の使いやすさだった。

 

『───、───、そんなに丁寧にやらなくていいわ…忙しいんでしょう?適当にやっていいのよ』

「メリナ、メリナ、そんなに丁寧にやる必要はないぞ?ザクっと適当にやって構わない」

「…黙って前を向いていなさい」

『黙って前を向いていろ…私が好きでやってることだ』

 

まるで白昼夢か、何かが重なる。けれども夢の人物よりも短く切り揃えていくたびに、夢の声は遠ざかっていった。彼の未練と共に。

 

アレキサンダーが戻ってくる頃には、私は彼の髪の毛を以前よりも半分ほどまで短く切り揃えていた。

 

「おお貴公!少しさっぱりしたな!前の長いままも似合っていたが、今も良い良い。メリナ嬢の腕がいいのだろうな!」

「ああ、すっかり軽くなった」

「まだ動かないで、終わってないわ」

「ん?もう十分さ、これ以上手間をかけさせるわけに(ジャキン!)すまん」

「ワッハッハ!」

 

一度だけ大げさにハサミを閉じた後、グイっと彼の顔を掴んで元の向きに戻す。以前より短くなったとはいえ、肩にかかる程度には抑えている。

昔はもっと短かったようだが、なんとなく勿体無い気がしたのだ。そんな感傷があるとは、自分でも思っていなかったけれど。

 

まだ細かい所が残っているのでそこを整えていく。

 

集中する私を余所に、彼らは再び話し始めた。

満月の女王レナラについてだ。

 

「ミリエル…実は、仲間の一人が女王レナラと関係があるかもしれないんだ。どうにも、その様子から少し聞き辛くてな…良ければ、また話を聞かせてくれないか?"琥珀の卵"についてなんだが」

 

メリディアンの言葉に、ブライヴの様子を思い出す。レアルカリアへの罵詈雑言(ばりぞうごん)を聞けば、確かに尋ねづらいか。

 

「そこまでご存じであれば、あの卵に大ルーンが宿っていることもご存じのようですね」

 

"産まれ直し"の秘術

 

ラダゴンから贈られた琥珀のタマゴにレナラは(つづ)り、許されぬ術に耽っているのだという。

ミリエルはそれを(おぞ)ましい術と評する。

その琥珀の卵は産まれなかったデミゴッドそのものだった。ゆえにエルデンリングが砕けた時に、レナラではなく琥珀の卵に大ルーンが宿った。

 

「産まれ直しは不完全なのです…その術をかけられた者は皆脆弱(ぜいじゃく)で短命。幼く無邪気に全てを忘れてしまう…その命すらも瞬きの内に」

「…けれども女王は繰り返すばかり、か」

「はい。かつてのレナラ様の偉大なる叡智(えいち)は見る影もないのです。もう戻ることはないのかもしれません…ですが、それでも臨んでいるのですよ」

 

またいつか、結び直すことが出来ると。

 

かつてラダゴンが"星の雫"で自らを清め、カーリアへの侵略の戦いを悔い、レナラへの愛を誓った時のように。

誰もが結ばれるとは思いもしなかった黄金樹の律と月の運命が結ばれた時のように。

争いの傷が全て清算されたあの時からこの結びの教会に宿る、あの"奇跡"を臨んでいる。

 

…だからこそ、ミリエルは覚えておいて欲しいと私たちに言う。

 

「…皆様方、覚えておいてくだされ…結びは、それが反故にされたとき、より惨たらしく壊れるのです」

「うぅむ…なんとも哀れな話だ。英雄ラダゴン、彼の英雄(たん)の影にはそのような悲劇があったとは」

 

流石の英雄好きのアレキサンダーも、この話にはむむむと腕を組んで悩ましそうだ。対してメリディアンは、私からは顔を見ることは出来ないが、あるがままの事実を受け入れているようだった。

 

ミリエルの忠告に神妙に頷こうとしたメリディアンの頭をまた抑え付け、それに苦笑いをした彼はもう一つ、気になっていることを尋ねた。

今度は、赤髪のラダゴンについてだ。

 

「…ラダゴン様、でございますか?私としたことが説明不足のままでした。ラダゴン様は、赤い髪を(なび)かせた、英雄でございました」

 

黄金樹の軍勢を率いてこの地を訪れ、しかし戦いの中でレナラと出会い、侵略の戦いを悔い、カーリアの女王たる彼女の伴侶となった。そこまでは先ほどの話でも出てきていた話だ。

最初のエルデの王、ゴッドフレイが狭間を追放された時に彼はレナラを捨て、黄金樹の王都に戻り、女王マリカの王配、二番目の夫となり、二人目のエルデの王となった。そこも、最初に聞いた話のままだ。

 

「────…そして、誰も知ってはいないのですよ」

 

ここからが、まだ聞いていなかった話。

 

「ラダゴン様が、なぜレナラ様を捨てたのか…いえそもそも、一介の英雄にすぎなかった彼が、なぜエルデの王として選ばれたのか」

 

加えてラダゴンには秘密があったそうだ。

レナラの夫となったラダゴンが、カーリアの魔術師教授たちに「我がことは全て秘匿と心得よ」と強いた、その言葉だけが残されていたという。

 

…後に、黄金樹の王都の、ある高名な彫刻家が、ラダゴンの大彫像を作るために召し出され、秘密を垣間見た。そして、大彫像にその秘密を隠したのだと。

 

「そのようなことを、私たちに教えても良かったのか?」

「…エルデンリングは砕け、この地の結びは解けていくばかり…どうして秘密が秘密で在り続けることが出来るでしょうか」

 

もはやカーリア王家もレアルカリアの学院も、それ以外も壊れてしまった。再びそれらを結ぶと言うのならば、生半(なまなか)な所業では不可能。それこそ、新たな王が壊れた"律"を結び直さない限り。

そう言った彼は、私たちを見ながら続ける。

 

ミリエルは予感している、不確かな、けれども己の感覚が訴えているのだそうだ。

 

エルデンリングが砕けた時にラダゴンもまた、女王マリカと共に隠れてしまったが、何処かで存命なのではないかと。

…エルデの王を目指さんとする褪せ人の前に、立ち塞がるのではないかと。

もし、もしもそのようなことが起こってしまったのならば………ミリエルは、苦渋の決断を下したかのように重々しく言葉を絞り出した。

 

「────…私は、信じているのです。この地に宿る奇跡が、またいつか、世界を結ぶのだと。そしてそれは、今度こそ、決して反故にはされぬのだと…褪せ人の御仁、もしエルデの王にならんとするなら。そういう王に、なって下されよ」

 

暗に、彼はラダゴンを討つことを良しとする言葉を吐く。

一介の司祭が、何をと思うかもしれない。けれどもミリエルの言葉は、彼の岩のような身体より重くのし掛かるような、幾千もの苦悩が折り重なっている。長い時を経て薄い布を天高く重ね、縫い合わせ続けたかのような、年輪のような。私は、そう感じた。

 

彼がまた、私たちにこのような言葉を伝えた背景には、どんな決意があったのか。

何を思って、私たちにそれを託さんとしたのか。

私たちが成し遂げると、彼の言う直感がまた彼に(ささや)いたのだろうか。

 

メリディアンの髪の毛に差し込む私のハサミの音は止まらず、枯れ葉色が地面の上に積もる。

少しだけ、メリディアンがミリエルの言葉に困っているのを私は感じとれた。一体どの言葉によって、そうなったのか…さっきまでそんなことはなかったのに。どうにも急に、居心地が悪そうだ。

 

小さく息を吐き、私はハサミを動かす手を、止める。

 

何故かばつの悪そうな彼の頭を、私はバサバサと思い切りかき混ぜた。切り落とした髪の毛を払うためだ、それ以上のことはない。

 

うわっと慌てる彼は、少しだけ気分が軽くなったような顔をして、私に小さく礼を言う。

髪の毛を切ったことの礼だけ、私は受け取ることにした。

 

それ以上は、ないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 









結びの地で断ち切る話。

髪の毛にはスピリチュアルな話がとても多いですよね。
神託を受ける巫女などが髪を伸ばしているのは、髪の毛に魔力があり、長い程に強力と言われていたから。
逆に悪いものを引き寄せるとも言われていて、そういう時に切ってしまうことで邪気などを切り離せるとも言われています。

お守りにする、なんて話も聞きますね。彼は未練のためと言いましたが、他にもありそうです。


さて、これにて書き溜めたストックが切れました。
折り返し地点…かと思っていたら、三分の一…いえ、五分の二?くらいですかねこれで。当初の予定通りあと14話くらいで想定していますが、感覚的に少し伸びそうな気がします。
途中途中で出来上がってる話もあるのですが、しばらくは投稿を控える…かはわかりませんが、一気に書いてから順次投稿していきたいとは思っています…予定は未定!そこはどうなってもノリで対処してください、イグアス。

というか挿絵機能直らないですね!直ったらしれっと表紙的なものとして一枚掲載しておきますね。

相変わらずDLCの話は配慮していただいた上でなのですが、感想等お気軽にお待ちしておりますー。
いつも感想、お気に入り登録ありがとうございます!
あと誤字報告もありがとうございます!修正適用させていただきました。


■メリディアン
郷愁のためにこの地に戻った。今は使命のためだと言ってはいたが、それでも残る未練はどうしてもある。せめて少しでも断ち切れたかな。
それはある種の儀式に近かった。

何やらアレキサンダーと切った髪の毛で何かしようとしている。


■メリナ
メリナなりに、ただ連れて行ってもらうのではなく自ら先へ進もうとしている。
彼女が手ずから黄金のハサミで"切る"という行為は、本来ある種の儀式に近い。特にこの場所で、相手が彼であったのならば。

本編でメリナはボックをさん付けしていたが、良くも悪くも距離感が近づいているので変わっていたり。
ちなみにメリナは彼の髪の毛を自分と同じくらいの髪の長さまで切った。いよいよ姉妹か。


■ブライヴ
別行動中。
デカいタコもいるからほんと気をつけろよと言い残して去っていった。
エビいけんならタコ料理もいけるんじゃね?と思っていたのは誰も知らない。


■アレキサンダー
純粋だからこそ、空気が読めないからこそ聞けてしまう話もある。
アレキサンダーを"一柱"と表現したのは骨壷と同じ数え方でやっただけ、特に意味はない。

メリディアンと、彼の髪の毛で何かしようとしているようだ。


■ミリエル
切ることで結ばれるものもある。人はそれを言葉の(あや)というのだろうけれど、それが信仰なのだ。信じ、力を見出せるというのならば。

ミリエルは長命だが、メリディアンという名前を知らなかった。
或いは、伝わっていない理由があるのだろうか。



-黄金の裁縫道具-

黄金で作られた裁縫道具一式
赤髪のラダゴンの婿入り道具


-百智卿、ギデオン=オーフニールのセリフより抜粋-

…だがレナラ自身はデミゴッドではない
彼女を捨て、女王マリカの二人目の夫となった、王配ラダゴン
その男から贈られたという、琥珀のタマゴに、大ルーンは宿っているのだよ


-幼年学徒の帽子-

レアルカリアの長たる女王レナラ
その琥珀のタマゴにより産まれ直した
幼年の魔術学徒たちの帽子

しかし、その産まれ直しは完全ではなく
彼らはそれを、ずっと繰り返し
いつかそれに依存してしまう

夜眠り、朝目覚めるように
彼らは産まれ直し、すべてを忘れいく


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