エルデンクエスト   作:凍り灯

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黄下の燈篭

 

 

 

 

 

 

夢を見る。

 

メリディアン()の頭髪を断ち切ったからなのだろうか?いつもとはまた違う夢だ。

いつもいるはずのメリディア(女性)ンが、今回はいない。

 

いるのは■■■と、獣人の彼だけだ。

それは他愛もない、意味のない話から始まっていた。

 

「なぁ────よ、お前は─────と一体何を話しているのだ」

「───、何故そのようなことを聞く」

「ただの興味本位だ。お前が世間話をする姿など想像がつかん」

 

広い書斎、大きな扉を正面に、それよりも大きすぎる窓を背にした位置に座る■■■。窓の外には、黄金樹がその大きな窓一杯に入りきらぬほどの存在感を見せつけていた。

 

座る■■■の目の前の机は広く、しかし実用的な造りであり暗めの黄褐色(おうかっしょく)が重々しい雰囲気を(さら)し出している。不思議と、(まばゆ)い光が背後から射しているはずが、自身の影によって手元が暗くなることはない。

 

その手元には、一枚のパピルス。それ程大きくもなく、黄金の紋様によって(ふち)どられていた。

 

■■■は黄金の羽ペンによって、迷いなく文字を(つづ)っていく。

 

「…………………食事の話だ」

 

ペン先の動きが止まる。

 

「お前が?………想像がつかん」

「つかずとも、している」

「嘘をついているなどとは思っていない。虚をつかれただけだ…そうか、食事か…あの子は多芸だからな」

「ああ」

 

再び動き出すペン先。■■■は手元から視線を外さないままに、少し考えているようだ。

短い沈黙の中で、壁際に坐すだけの獣人もまた何も言わないまま。

 

カリカリと文字が生み出される小さな音だけが(ささや)きあっていた。

 

「…では────、お前は何が好みなんだ」

「キノコだ」

「は?」

 

再び虚を突かれる■■■。聞いたことがあったわけではないが、見た目と違わず肉が好物だったような気がしたのだが…違ったのか。

キノコか…そうかキノコか。

 

ようやく■■■は顔を上げ、獣人の顔に黄金の瞳を向ける。

含みのある視線に、獣人の方もやや不審そうだ。

 

「何だ」

「…いや、我らは長い間共にしたが、そんなことも互いに知らなかったなとな」

「我もあの頃から好みだったわけではない」

「ほう」

「─────の馳走からよ」

 

得心(とくしん)がいった。

そして思う。なんだ、思ったより仲が良いではないか。もっと早く聞き出せていれば、こいつの意外な話が聞けていたかもしれないというのに、惜しいことをしたな、と。

 

■■■は小さく笑う。

思うところがないわけではない。()()()の二の舞は避けるべきだ。親しくなり過ぎることが、破滅に繋がったあの時のようなことは。

 

…とは言え、あの頃とは大分、事情は違っているのだがな。

 

「遠征の食事の彩りとして便利だと、言っていたのを思い出したよ。どこにでもあるからと」

「…」

 

"遠征"…。それを聞いてなのか、獣人が言葉を断つ。

先ほどまでの気安い空気は鳴りを潜めてしまった。

 

■■■はそれをよく理解した上で、羽ペンをゆっくりとペンスタンドへと刺し戻す。

彼女が書状を書き終えたのだ。

 

────それは宣戦布告の詔書(しょうしょ)だった。

 

レアルカリア、いや、リエーニエの全てに対しての。

 

彼女の美しい指先から、黄金の魔力が滲み出る。じわり、と黄金色の王家の徽章(きしょう)が、書状へと刻み込まれる。刻み込まれて、しまった。

 

「遠征が心配か?」

 

誰を、とは言わないが、獣人は理解しているようだ。

 

「奴は戦士、無用な心配は侮辱でしかない」

「そこまであの子は頑なではなかろう」

「こちらが認めてやらねば─────は自分のことを認めぬ」

「そこは頑なだったな、想像がついた」

 

憧れた背中が大き過ぎるからなのだろう。謙遜(けんそん)というよりは、あれは意地だな。当然ながら、そこは()()()()()()

 

■■■がそんなことを考えていれば、獣人の瞳が、しかと彼女の目を捉えていた。

鋭く、とてもではないが身内にするような目ではないな、なんて他人事のように■■■は平然と受け止める。

 

「───よ、我の気掛かりはそちらだ」

 

短い言葉に、()められた意味は多い。

 

けれども■■■はそんなことよりも別の感情に気が付く。

かけられた言葉は鋭さと裏腹に、ほんの少しだけ身を案じるような響きがあったのだ。

 

■■■はそれに気が付いた上で何も答えない。

────の(うれ)いも尤もだと、理解しているからだ。それでも、今は黄金の完全たるを目指さねばならない、そのためであれば■■■は何者でも扱い、何者でも退(しりぞ)け、何者にでも()()

 

()()()の"影"の犠牲を、あいつの絶望を無駄にすることは出来ない。散々と何もかもを退け、そしてここまで来たのならば、歩みを止めることなどありえない。そんな決意が■■■の中で揺るがずギチリと根を張っていた。

 

黄金樹の豊穣は想像よりも早く枯れてしまった…それは"信仰"として根付かせることでより長く人々を繋ぎとめることに成功したが、■■■にこの黄金樹の危うさを認識させるには十分だった。

 

 

次の一手が必要だ。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

 

■■■は立ち上がる。

書状を片手に、誰にそれを任せるわけでもなく、一人部屋の扉へと歩を進めた。獣人の彼は動かない。ここからは、彼の領分ではないからだ。

 

黄金の光が満ちる室内の中央、■■■は一度立ち止まり、振り返ることなく自らの"義弟"へと声をかける。

 

「少し空けるぞ、戻るまで任せる」

「…」

 

返事はない。

確かに、今更なのだ。何度も言い聞かせているのだから。そうしなければいけなかった程に、()()()()()()

やがて待てども応えが来ないことを確認した■■■は再び歩き出そうとして…────

 

 

 

「マリカ」

 

 

 

いつものように平坦で、しかしそこにはマリカにしかわからない激励を感じる声。

 

「待っているぞ」

 

不器用な奴め。半狼というのはどいつもこいつも…

漆黒の鎧の彼と、義姉たる黄金の彼女は、確かに信頼しあっていた。

 

あまりに多くの血で固められた道であろうとも、確かに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我が王よ、"王の戦士"たちよ

 

お前たちから、祝福を奪う

 

そして、その瞳が色褪せるとき、狭間の地を追放する

 

外に戦を求め、生き、そして死ぬがよい

 

────…どう?何か、思い出せそう?」

「…おそらく、ゴッドフレイの追放よりも前の"言霊"だとは思う…これは、予告、ということだろう」

「そうね、奪う、とマリカは宣言してはいるけれど、今すぐの話には思えない」

 

メリナは辛抱強くメリディアンの言葉を待つ。

 

「ああ。だが…やはり…」

 

わかっていたことだ。そう簡単に思い出せるはずもない。

むず(がゆ)さのようなものだけがあり、しかしそれ以上は何も出て来やしない。自らが追放されたことだけはわかっている。記憶ではなく、感覚として理解できる、その程度でしかない。

 

狭間の地、そこを出た先からの記憶はあるのだけれど。…狭間の外で死ぬまでは、全て覚えていたはずだ。死んでから、まるで意図したかのように記憶は焼けた。或いは、祝福によって立ち上がったその時からか。

 

「そう…機会があれば他の場所でも、試してみましょう」

 

────各地に残るマリカの言霊。

 

忘れ去られたそれを、メリナは拾い上げ、再び(つむ)ぐことが出来るということをメリディアンは知る。

 

メリナは以前から狭間の地を一人トレントと共に旅をしていた時期が長く、それもあってかそのことを知っていた…のだが、中々に立ち寄る機会がなく、今の今まで伝える事が出来ずにいたのだ。

 

そもメリナはトレント同じく霊体。実体との間を行き来できるとはいえ、曖昧な存在なのは間違いない。褪せ人久しいこの地でそれでもエルデンリングを求めようとする褪せ人を探して彷徨(さまよ)い、誰の目にすら触れ合うことなく亡霊のように生きてきた。

 

その頃のことを話せなどと、酷ではないか。

 

「ありがとう」

「いえ…私に出来ることは少ないもの。巫女様の導き、その代わりにすらなり切れない」

「十分さ、少なくとも私にとっては」

 

────メリディアンとメリナ…とトレントは、久々に二人と一頭だけで行動している。

 

これはブライヴと合流するまでに、メリディアンの方の目的…"探し人"に関わるかもしれない情報を確かめたかったからだ。

 

メリナの力で"祝福"と"円卓"を経由することで各地に移動することが出来るのは褪せ人たるメリディアンのみ。結果として、リムグレイブまで戻らなくてはいけなくなった以上、アレキサンダーは留守番せざるを得なかった。

 

その間アレキサンダーには結びの教会で()()()()()()()()を一つ頼んでいる。

ミリエルもまた興味深そうにしており、なんだかんだ手伝ってくれるそうだ。頼もしい限りである。

 

「地図の場所はここか…おお、これか」

「転送門ね。ストームヴィル城の神授塔にもあったのを覚えてる?」

「全く同じで大丈夫ということか、わかった」

 

手をかざし、触れるだけ。

ただし、しっかりと地面を意識しておかないと、転送した直後に転ぶなんてことになりかねない。実際に最初に転送門を使ったときはメリディアンは転びはせずとも、中々危うかったのは記憶に新しい。

 

転送先の地面が安定しているとは限らないのが少し怖いところだ。

 

ちょっとだけドギドキしながらメリディアンはしゃがんで転送門へ手を伸ばす。メリナとトレントは霊体に戻り、姿を消した。こうすれば!メリディアンが移動した先で実体になれば転ぶなんてことはしなくて済むのである!ずっこいやつらよ。

 

風が吹くように耳鳴りが強くなり、そして消える。

 

そうすれば、辿り着く先は神殿…だろうか?その内側へと片膝をついていた。

…荒れているが、あまり見覚えのない建築様式だ。メリディアンは興味深そうにぐるりと当たりを見回し…いつの間にか姿を現していたメリナの顔と対面する。

 

「ぉ、…こういった建築に覚えは?少なくとも、リムグレイブや、リエーニエでは見ていないと思うが」

「私も覚えはない、と思う。…ただ、似てる気がする、各地に落ちている、降ってきたとしか思えない遺跡の残骸のものと」

「成程、言われてみればその通りだ…む…」

 

原始的なように見えて、荘厳な気配を持つ神殿。

気になるところは色々とあれど、なんらかの獣を象った彫像、それが立ち並ぶ中央の通路の先に、それはいた。

 

急な来訪者である二人に対して動くこともせず、ただ地面を見つめるように坐す大きな影。

 

その巨体は頭まですっぽりとボロ布で覆われており、どういった存在なのか一目ではわからないが…ところどころから覗く灰色の毛並みや爪から獣人に近いとだけはわかった。

また、ボロ布、とはいえ、所々の意匠から、理性無き獣ではないことぐらいは察することが出来る。むしろ、神殿の荘厳さと合わさってその存在はより浮き立ち、黄ばんだ装束は(しょうぞく)からは神聖な空気さえ感じられた。

 

そして理解する。間違いなく神殿の主…"D"の言っていた獣の司祭、"グラング"こそが彼であると。

 

そう、メリディアンの目的は探し人である"半狼"を見つけるため。グラングの容姿をある程度聞いていたメリディアンはだから彼に興味を持った。

もしや、彼こそがそうなのかもしれないという…淡い期待だ。

 

雰囲気に吞み込まれつつも、彼はメリナを連れてグラングに近づいていく。目の前に来ても、毛ほどもこちらを見ない…いや、スン、と匂いをかぐような小さな音。

 

突如として、彼は興味を示した!

 

「…臭う…死だ…喰らわせろ」

「────…"死"?」

 

何かの比喩なのか。いや、恐らくそうじゃない。Dが言っていた、"死の根"、それのことだろうか。"死に生きるもの"を生み出す源、彼はそう言っていた。そしてそれらを狩り、摘むことこそが使命なのだと。

 

死の根を摘むことを対価に、獣の力をグラングより授けられる。

 

つまりそういうことなのだろう。メリディアンは、死の根を取り出し、グラングへと差し出す。

五本の爪を天へと向けこちらへと伸ばされた、その大きな掌の上に。

 

「ガフ」

 

────お、食べた。

────食べた…

 

食っていいものなのだろうか…いや、彼だからこそ大丈夫というのはわかるのだが…

ブライヴに食べさせようとしないでね。

するわけなかろうて、君は、ブライヴを何だと思ってるんだ。

 

やや引き気味に耳打ちし合う二人を、グラングはようやくボロ布の奥から目を向ける。

 

「褪せ人…もっと死を持ってこい…我が瞳を、爪を、くれてやる…もっと喰らわせろ」

「ああ、協力はしよう…ただ、一つだけ質問に答えてくれないだろうか」

「…なんだ」

 

余計なことを考えるようなやつはいらぬッ!とかいって巨大な爪を振り下ろされなくてホッとするメリディアン。

流石に失礼なことを考え過ぎたなと反省しつつ、彼は言葉を選んでから口を開いた。

 

「妙なことを聞くようなのだが…私と司祭殿は、どこかで会ったことがあっただろうか」

「?…ない。…我に近づいた褪せ人は、全て覚えている」

「そうか…すまない、今のは忘れてくれ」

 

ブライヴと会った時でさえ、一瞬だけ、喉の奥から込み上げてくるような感覚がメリディアンにはあった。

記憶はなくとも、身体が、或いは魂が"何か"を記憶していることはあるのだ。覚えがあれば、必ず何かの()()がある。

 

しかし今回は()()()()

 

────当てが外れたか…

 

以前ミリエルにも言ったことだが、経験から来る第六感はそう馬鹿には出来ない。それは頭ではなく、別の場所が何らかの"答え"を導き出していることが多いからだ。故に侮ることは出来ず、メリディアンもまた少なからず当てにしている。

 

そう簡単に見つかれば、苦労はないのだ。

そもそも半狼かどうかもわからないし…その顔を見せてくれとも流石に今は言えまい。

 

少し気落ちしつつも、グラングとの間に協力の約束を結んだ後、二人は神殿を後にする。

 

首を横に振ってダメだったよと伝えるメリディアン、それを気の毒そうに眼を閉じ返すメリナ。その後姿を、獣は少しだけ覗き見て、すぐにまた地面へと視線を向けるのだ。

 

 

 

その後、まだ少しだけ約束の日まで時間があったメリディアンとメリナ、アレキサンダーの三人は、またもメリディアンの都合ではあるのだが近場の探索を行って時間を潰すことになる。

 

気分の良いものばかりではない。

崩れ去った栄光の跡はメリディアンの心に哀しみを(つの)らせるのには十分であり、その憂いを感じ取れるメリナは言葉少なに労わる。

それに、アレキサンダーのその空気の読めなさが却ってメリディアンにとっては心地よい。

 

壊れた世界。けれども何故こうも美しいとも思ってしまうのか。

或いは美しいものとは、残酷さを秘めてこそなのかもしれない、そう、メリディアンは一人思い至る。

 

緩慢(かんまん)に終わりを甘受する世界。

果たして、エルデの王とは、大いなる意思が臨んだ結末とは、何なのか?この"祝福"が導く先、王となった先、何が残るというのか。

 

メリディアンには、何もわからない。思い出せない記憶と同じように。

 

分からないけれども、やるべきことは既に決まっている。使命が、今では己の意志となった確固たる決意があるのだ。ならば、突き進むだけだ。その先は、共に探せばよい。

 

 

 

約束の日、予定通りの刻にブライヴは姿を見せる。

"四鐘楼"と呼ばれる高い丘の上に。

 

遠くにはレアルカリアの学院、暗い月、降り注ぐ黄金の光。

幻想的な夜の景色を背に、メリディアンはブライヴへと話しかけた。

 

「ブライヴ、持たせたロースト肉は美味かったか?」

「ああ、甘辛いソースがまた絶妙な…じゃなくてな?」

「気に入ってくれてよかった。────…それで、どうなった?」

「はぁ、変わりはないようだなそっちは────会わせる、ついて来い」

「わかった、約束は違えんよ…ところで、何か贈り物でも用意した方がいいだろうか」

「いらん」

 

────律儀な奴め。

だが同時に、やはりメリディアンは半狼…ひいては半狼が仕える存在を理解しているとブライヴは認識する。

 

でなければ、わざわざこんなことを言い出すはずもあるまい。

 

「あぁブライヴ、ちょっと待ってくれ」

「…なんだ」

 

背を向け歩き出そうとしたところを止められるブライヴ。またしても出鼻を挫かれたようでもう一度溜息一つも溢したくもなる。

彼が振り向けば、アレキサンダーからメリディアンが何かを受け取っているのが目に入る。陶片だろうか。ここからではよくわからない。

 

メリディアンが受け取ったそれをブライヴへと差し出した。

 

やはりそれはアレキサンダーの身体と同質の陶片だった。涙の形をしたそれは、彼らの身体に描かれた渦巻くような模様が彫刻されており、中央には円形に溝が彫られている。

その溝に、枯れ葉のような色の編み込まれた髪の毛が沿うようにはめ込まれていた。

 

枯れ葉のような色の髪の毛…髪の毛?枯れ葉色の?

 

「アレキサンダーが私たちのためにと作ってくれたんだ。受け取ってくれ」

 

髪の毛である。多分メリディアンの。

 

 

は、重。

 

 

ブライヴは久々に本気でドン引きした。

こんなの"イジ爺"がカッコウの騎士を執拗にすり潰していた時以来だ。

 

本当に会わせていいのか?とここまで準備したというのに考え直し始めたほどである。

 

アレキサンダーはまだいい。自分の身体の一部をあげる!と壺人に言われても、確かにそういう文化もあったなぁとまだ思える。だがメリディアン、お前はあれだ、その、ない。

髪の毛だぞ?それにタリスマン(首飾り)だぞ?自分の髪の毛を装身具として贈るとか、意味とか、あるだろう色々。なぁ?

 

他の二人は!?

と、素早く視線を飛ばせば、アレキサンダーは紐で壺の持ち手…持ち手??にピアスよろしく引っかけているし、メリナに至っては普通に首飾りとして引っ提げておる。なんだろう、こっちは意味わかってなさそうだ。

 

メリディアンはどうなのだ。分かってやってるのか?分かってないのか??どっちだ!ええい聞けんッ!!

 

ブライヴは幼い頃からある王家にて育てられている。主たる存在に相応しいようにと、粗っぽいようで教育はかなり高い質で行われていた。

要は、オシャンティなものがわかる狼なのだ。ドン引きもひとしおだ。

 

「は、………まぁ、貰っておくとしよう」

 

ブライヴは努めて冷静を(よそお)って受け取る。

俺がおかしいのか…?いや、おかしくないはずだ。だが、アレキサンダーの手製のようだし、言い出しっぺがそちらならばまだ、納得は出来る。いや、する。しなければ。

 

そうだ、全て俺の勝手な思い込みだろう?これは。

 

"アレキサンダーがメリディアンの髪の毛を勝手に回収して使ったのを、メリディアンもメリナも仕方がないと受け入れた"

 

これだな。後でそれとなく聞いておくか…

しかしあまり真実を知りたくない。勘がそう言っている。

 

「メリナに髪の毛を切ってもらってな。何かに使えそうだったから、そこからアレキサンダーと相談して…あぁ!あともう一人協力者がいたんだが、加護が()められたタリスマンとして機能するようにまで持っていくことが出来たんだ。それでな、アレキサンダーは意外と手先が器用でな、こんな立派に仕上げてくれた」

「うむ!中々の出来だろう!ぬくもりすら感じるほどの手製の装身具よ!」

 

お前たちはもう黙れ。

 

 

………いや待て、加護?

 

 

「…で、その加護とやらはなんだ………?」

「ああ、私の場所がわかる!」

「迷子防止か??」

「その通りだ」

 

冗談はよせ!

 

すんでのところで言葉を吞み込んだブライヴ。しかしメリディアンは退かぬ。媚びる。省みる。

 

「ブライヴ、せっかくだから鎧にでも(くく)りつけておこう、邪魔にならないようにするさ。私の位置がわかるならば、今回みたいに合流する時もずいぶんと楽になるだろう?まぁ…なんだ、私の髪の毛と聞けばちょっと、気色悪いのもわかるが…この加護は()()()()()なんだ」

 

自覚あるじゃねぇか、気色悪いって。

クソッ!言ってることはまともだぞ!ええぃッ!腕を掴むな!

 

メリメリッ!っとよくわからない圧をかけてくるメリディアン。

何がそこまで嫌なのだろうと不思議そうなメリナアレキサンダートレント。…トレントまでつけてやがる。味方はいなかった。

 

「貴公、そこまで嫌がることもなかろう」

「アレキサンダー…はぁ………」

「溜息もわかるが受け取ってくれ」

 

分かってるなら、説明の順序を変えろ馬鹿野郎が。そうすればここまで疲れることもなかったろうに。

しかしブライヴの思考速度は中々早いものなので、相当気を使わなければ同じことになっていたのである。「落ち着いて聞いてくれブライヴ」これから始めなくてはいけないことをまだメリディアンらは理解できていなかった。流石に無理がある。

 

ブライヴはもう、切り替える。

さっさと行こう。

 

「そうだ、これを贈り物として渡すというのは」

「殺すぞ」

「すまん」

 

ブライヴは脅して切り替えさせた。

 

「これから行く場所はこれより北西────"カーリアの城館"だ」

「カーリア…女王レナラの生家か」

「おお!黄金の英雄たちに()したというカーリア騎士の城か!」

「…あなた、カーリアの騎士だったの?」

「正確には違うが…それはおいおい話そう」

 

ブライヴが一人で行動し、先んじて話を通していたのには理由がある。如何せん、()()()()()には事前の準備が必要なのだ。…そうでなくとも、今現在、共に肩を並べている存在がいるということは、先に言うのが筋というもの。

 

準備は出来ている。

 

 

あとは、連れて行くだけ。

 

 

「────お前は、信頼できる。少なくとも、今まで見てきた褪せ人の中では。お前が誰かなんぞ、俺にとってそれはどうでもいいことだ────俺はお前を見込んで、会わせたい人がいる」

 

言葉に僅かに緊張が乗っていた。それは迷いからきたものではない。

 

自分が吐いた言葉が、あまり自分らしくないと思ってしまったからだ。群れず、馴れ合わず、そうやって生きてきたブライヴには、この感覚はあまりに違和感があった。けれども、悪くはない違和感なのだ。そう、悪くない。

 

自ら、自分の命よりも遥かに大事な人へと導く。会って間もないはずの褪せ人をだ。

 

己の眼で見てきたものこそを尊重し、信じる。それもある。だが、強く、強く、直感がブライヴに叫んでいるのだ。

 

 

"逃すな"、と。

 

 

そして同時に忠告をもしている。共に歩く道は、生半ではない、と。

だから何だというのだ。道が暗く、険しく、果てしないことなど当たり前だ。そうやって躊躇(ちゅうちょ)なく、彼はより険しく、けれども小さな灯火と行く道を選んだのだ。

 

例え最後には道を別つとしても、だ。

 

ブライヴは確かな決意で彼らを自らの月へと導いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 









サブタイトルは黄下"おうか"とでもお読みください。燈篭は"とうろう"です。
黄色は黄金だったり、月だったり、いろんな象徴の色でもありますよね。

挿絵機能の復旧に伴い、表紙的なものをあらすじ部分に張りましたのでよろしくお願いします。というお知らせついでに一話だけ放り投げておきました。
表紙は全然見なくて大丈夫ですが、一昨年に描いたこの絵が小説を書くにあたってビジュアル的な着想の一つになってたりします。あと一つはある曲なのですが…それについては終盤で。

感想等お気軽にどうぞー!例のごとくDLCの話はご遠慮くださると助かります。私はまだ終わっていないのである。
次話は今度こそ間が空いてしまいます…多分?



■メリディアン
いやぁ髪の毛はキショいよなぁ…とわかってはいるが、それでも皆に持たせておくべきだと判断した。


-メリディアンの灯火(とうか)-

メリディアンの枯れ葉色の髪の毛、それがはめ込まれた陶片
涙を象ったようなそれは、アレキサンダーの手によって渦巻く彫刻がなされている

どのような場所にいようともメリディアンの元へと正しく導く
それは、メリディアンの古い願いだったのかもしれない

いつかこの場所に戻ってきてくれるようにと


■メリナ
記憶がない上にまともな文明で生きてこれなかった彼女に、贈り物の意味とか求めるのは酷である。別にメリディアンも何か意識しての行動だったわけでもない。

タリスマンに恩恵が宿った理由はなんとなくだが理解している。


■ブライヴ
こいつ(メリディアン)やっぱりおかしいかもしれない。
ブライヴのグレソは知力がないと触れない。つまりブライヴは賢い狼なのだ。ゆえに不憫だ。

それはそれとして信頼はしている。だから連れて行く。


■アレキサンダー
そうさ100%善意。だからやり辛いったらありゃしない。
手先が器用で、全員分を彼が作ってくれた。ミリエル監修のため、既存のタリスマンをモデルにしていたり。


■グラング
褪せ人に各地に芽吹いた"死の根"を回収させて、それを喰らい続けている。
グラングは、褪せ人であるメリディアンとは会ったことがないらしい。


□───
かつてのリエーニエ戦役、その戦端を切った。


□────
ただ待っている。血に濡れた吉報を。



-黄金樹の護り-

そのはじまりにおいて、黄金樹の敵は全てだった
数知れぬ戦いと勝利によって、それは律となったのだ


-恵みの雫のタリスマン-

かつて、恵みの雫は尽きぬ滴りであったという
豊穣の時代、けれどそれはごく短く
黄金樹は信仰となっていった


-壺頭-
逆さに被り、頭をすっぽりと覆う壺
鉄拳アレキサンダーの手作り

それはきっと、壺なりの友情の証であり
投擲壺アイテムの威力を高める


-死の根-

死に生きる者たちを、生み出す源

東の果てにある獣の神殿では
獣の司祭が、これを集め喰らっている

陰謀の夜、盗まれた死のルーンは
デミゴッド最初の死となった後
地下の大樹根を通じて、狭間の各地に現れ
死の根として芽吹いたのだ


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