「────そうだな、まずは"母"の話をするべきだろう」
「幼いモーゴットとあなたを会わせたという、母のことね」
円卓の下層、誰も立ち寄ることのないその部屋で、ヘルムを脱いだメリディアンと私は向かい合っている。
────これはかつての記憶。接ぎ木のゴドリックを討ち取った後の、円卓での、二人だけでの話。
「そうだな…顔が似ている、というのは知っていたな。これも、君は知っていることかもしれないが、私は母の名を借りている…自分の名が思い出せないからだ」
「ええ、知っている。…ごめんなさい、勝手に…覗き見るように、知ってしまっている」
「いいさ、むしろ私が思い出していないことを、いつか君が私に教えて欲しい。…そうだな、ならばこれも察しているのかもな」
閉じられる彼の両目。メリディアンは少しだけ言い淀みつつも口を開く。
「母は、永遠の女王マリカと、友人だった…唯一無二、と言ってもいい間柄だ」
「…!」
神たるマリカ、その友。
彼のことが本当ならば、彼自身もまた、黄金に限りなく近しい人間ということになる。永遠の女王の友となれば、その祝福も受けているだろう事は容易に想像できた。であればその子も。
疑問はある。
何故、そんな人の子が追放されたのか。何故、"メリディアン"という名前が狭間の地で語られていないのか。
「生まれを共にし、狭間の地に共に導かれた…過去のことは、私はまだ思い出せない…そもそも、私が彼女たちの過去を知らなかったのかもしれない」
「そう…つまり、夢の中で、あなたの母と話している彼女は…」
「おそらく、マリカ様だろう。君は、彼女の視点から夢を見ているんだったか」
「ええ────これは、どういうこと…?」
「メリナ」
彼女が女王マリカなのは、よい。
けれどもどうして、私は彼女を通して世界を見ているのか。
どうして、彼女の"言霊"を聞くことが出来るのか。
その答えを、メリディアンは言う。
「君は、女王マリカの…恐らく、
「"分け身"?」
「何らかの要因で、マリカ様の
「…あなたは何故そんなことを知っている?」
その私の言葉に、彼は首に巻いていた大布…真紅のサーコートを広げて見せる。
「これは、黄金樹…けれどもその色…黄金樹とは…」
「致命的な組み合わせだろう?呪われた火、禁忌の火、あってはならない炎の中に、黄金樹が描かれているのだから」
それは反黄金律の
この狭間の地では許されざる…大罪の意志。
「これは母から授かったサーコート、王都を追放される時に、託されたもの…そうだ、以前言ったが、私は王都ローデイルの騎士だった。ゴッドフレイの配下、黄金樹の騎士。変な感覚だ、ほとんど覚えていないというのに、その事実だけを覚えている…自身がどういう足跡を辿ったのか…それすらも穴だらけなんだがな…いや、すまない、今は関係なかったな」
メリディアンはつい、感傷に浸ってしまったのを恥じ、話を戻す。
「見ての通り、これは黄金樹への、背信だ。けれども…これは、
「………疑問を挟むと話が終わらなさそう」
「…これも、理由はわからない…推測はいくらでも出来るのかもしれないが、証拠も、確証もないんだ。ただそれを二人から、同じ意志の元に託された、それだけはしかと覚えている」
曖昧な話ばかりですまないが…そう謝るメリディアン。
黄金律の神、マリカ。そしてその友メリディアン。彼女両名が黄金律に対して何らかの反逆の意志があった。果たしてそんなことがあり得るだろうか?…だがエルデンリングは砕け、世界は戦乱に包まれた。そして今や全てが壊れかけている。
それを、望んだ?私と同じ…"魂"の彼女が…?聞けば聞くほど、考えれば考えるほど、荒唐無稽な話に思えてくる。でも、どうしてだろうか…私は彼が、嘘をついているとは思えない。
それは…私が元々マリカの魂の一部だったからだろうか?彼の言葉が本当だと、どこかで理解しているからなのだろうか?…思えば、そういう時はままあった。
彼に対する、
「────話を戻して。私の生まれをなぜ知っているのか」
「ああ。このサーコートを母から託された時に、マリカ様から一つの"使命"を授かった」
今や彼の意志となったという、彼の言う使命。
以前ストームヴィル城に行く前で話した時に、はぐらかされてしまったこと。
「会えるかもわからない、生まれるかもわからない。そんな"子"を、待っていて欲しいと。そしてもしその時が来たのならば、共に歩んで欲しいと…そう、願われた…」
今、私は違和感を感じた。────言えないことが、何かあったのだろう。
彼はそう最初に言ってくれていたし、わざわざそれに踏み込むことを私はしない。
「狭間の地に来て、君に助けられて…そして再び君と出会った時に確信したよ。君が私を見つけたように、エルデンリングを求める褪せ人を待っていたように、
────そして、お前たちが死した後、いつか奪ったものを返そう
狭間の地に戻り、戦い、赴くままにエルデンリングを掲げるがよい
死と共に、強くあれ。王の戦士たちよ、我が王、ゴッドフレイよ
いつか一人での旅路、廃教会で聞いたマリカの言霊を思い出す。
そうか、最初から、メリディアンたちは戻ってくることが決まっていたのかもしれない。戻り、この地でエルデンリングを求めるということが────であれば、エルデンリングを砕いたのは…
そうして、私が生まれることすら、決まっていたのだろうだろうか?
この話を聞いても、やはり、私は何も思い出せなかった。
「あなたの言っていることは、どれも
"神と友が、自ら
"そのために友の子は追放され、いつか産まれる神の子を迎えに戻ってくる"
これが壊れた世界でなければ、きっと美しく感じれただろうか。
であれば、私たちに求められていることは、律を壊すこと…?何も、何も、わからない。
そんなことをする理由も、決意に至った要因も、そしてその先に待っているものも。
きっとそれは、全てではないのだろう。女王マリカの考えることはわからない。本当に私がその別たれた魂だとして、私たちに全てを賭けるとは到底思えない。…或いは、全て失敗に終わり、私たちが最後なのかもしれない。逆に、最初なのかもしれない。何も、何も。
「ああ、私も、言っていて思うよ…そんなことがあるのかと。けれども、初めて立った幼子の頃を覚えていなくとも当然のように歩けるように、そういうものだったと確信してしまっている…私は、自分の感覚が嘘とは思えない」
けれどもどうするかなど、決まっている。
私は、黄金樹の
焼け
私もまた、彼と同じようにそこへ行けば思い出せるのだと、根拠のない確信を持っているのだ。
曖昧なあなた、曖昧な、私…
「私はあなたを信じる」
「…信じれらるのか?…こんな話を?」
「何もないから、私には。あなたは私を黄金樹へと導くと言ってくれた。私はそれに、
「そうだな…今は、きっとそれでいい。…それと、あとは短刀のことだが────」
後ろ向きと、思うだろうか?そう言われようが私は歩み目指す。
辿り着いた時、全てがわかると信じて。
────あの時の、彼の語る言葉のどこかに、嘘があった。
答えにしては、やはりはぐらかされた部分もあった。
私がどうして人として母から産まれたわけではなく、魂が別たれる形で生まれたと彼が考えているのか。それは結局、彼の口から言われることはなかった。
…もう、それは私の気にするところではない。
彼が私に伸ばした手に、嘘などなかったのだから。
『その道行を、黄金ばかり見て歩くには長すぎる。もっと色鮮やかな物を見上げて、見下ろして歩いて行く方が…きっと楽しい』
あの時の彼の言葉を、意志を、思いやりを、私は嘘とは思わない。
…信じるとは、きっとそういうことのはず。
信じなくては、いけないのだ。
「来たか、そっちはどうだ」
「…さっぱりだ。トレントに無理をさせてでも、登れるところは試してみたのだが」
「ヒヒン」
「すまんが、こちらも収穫無しだ。頭の上に"ノクローン"が見えているのに、どうにも手立てが見つからん」
────"永遠の都ノクローン"、それは王女ラニが求める秘宝があると言われる、地下深くの都。
リムグレイブにある"霧の森"、ブライヴとメリディアンらが出会ったそこにある井戸のずっと奥底に、"シーフラ河"と呼ばれる河がある。その上に、ロジェールも語っていた永遠の都の一つがあるのだ。
その都は、ブライヴの言う通り、頭上の
今彼らが立っているのは崩れた遺跡ばかりで、あとは"祖霊の民"と獣たちが住まうのみ。…未だに、手掛かりを見つけられないでいた。
メリディアンは溜息を吐くブライヴに、束ねた二本の骨に肉塊を突き刺した…"勇者の肉塊"という名で振る舞われる肉を手渡した。
香辛料と薬液に漬け込んだ獣肉であり、アレキサンダーがメリディアンの日々の調理の横でひっそり作っていたもの。
これは、彼の置き土産だ。
────ブライヴと共に再び行動を開始したメリディアンは、しかし今度はアレキサンダーと別れることになった。────"戦祭り"だ。それが近づいてきたのだという。
『すまんな貴公!だが、俺も万全な状態で挑みたいと思っている!また会おう!今度は戦祭りで!』
『ああ、行けるかは確約出来ないが…その時は共にまた戦おう』
メリディアンと、そして口に出しはしないがブライヴとて興味はある。
それでも優先順位を履き違えるようなことは二人ともしない。十中八九、祭りには参加できない。この時二人はそう思っていた。
その別れ際に渡されたのがこの肉。
最初、アレキサンダーに振る舞われたメリディアンとブライヴは「まさか…その肉は…!?」と
「転送門も、すべて試してみたのだがな…」
「"竜人兵"に襲われただけだったな…」
「…わざわざ戦わなくてもよかったと思うのだけれど」
探っていたところで出くわしたのが竜人兵と呼ばれる大型の、竜の顔をした存在。足が弱いのか、そとも老いたからなのか、二本の足で立つことはなく這うように攻撃を仕掛けてくるのだ。
メリディアンはその容姿から「半狼っぽさがあるな…半竜と名付けよう!」と遺体を前に宣言したものの、ブライヴがデカい舌打ちしたために、彼は口をつぐむ。
ちなみに名前がわかったのは、ブライヴがラニから知識だけは与えられていたからだそう。
以降、メリディアンとメリナ、ブライヴは二手に別れて捜索を続けることとなる。
祖霊の民と弓合戦が白熱したメリディアンが多勢に無勢でハリネズミにされかけたりと些細なこともあったが、結局はそれ以上のことはなかったのだ。
収穫なし。既に、そうやって数日経過してしまっている。
地下だというのに星々が輝くような神秘的な美しい景色ではあるのだが…時間の経過も分かり辛く、こちらが侵入した側とはいえ、徘徊する祖霊の民にも気をつけなければならない。気が滅入りもする。
…逆に、メリディアンはその地下の星を見上げ、未だに心安らぐような気持でいるようだ。それとも、祖霊の民でも気に入ったのだろうか?
「地下はいいな…昼も夜も眩しくなくて」
とはメリディアン。
…そこに関しては、ブライヴとメリナもあまり共感できないところである。狭間の地は黄金樹によって夜も多少明るいとはいえ、目、弱いタイプだっけ…?
────崖際の崩れた遺跡、目が届きづらい柱の陰で休みながら、メリディアンはちゃっかり回収していた地上では見られない
メリナもせっせと表情も変えずに手伝う。トレントは構わず積まれたそれをつまみ食いしている。
そんな呑気している横で、ブライヴは板についてきたしかめっ面を
「────…セルブス。あの陰湿な男は、何かを知っている風だったが…喰い殺してでも聞き出してやるか…」
「む…仲が悪いのだな」
「お前はあいつと仲良く話せるのか?」
メリディアンは、初見で髪の毛タリスマンを贈りつけようとして多分嫌われた過去の自分を退け、さもみんなそうだよね!みたいに言い返す。
「いや、上手くはいかなかったな」
「まぁそうだろうさ」
「…」
ジト目でメリディアンを見るメリナ、冷や汗のメリディアン。
真実を知れば多少はブライヴはセルブスに同情したかもしれないが、多分知ることはないだろう。
「喰い殺すのはまだ冗談として────」
「まだ」
「…まだ?」
「────もう少しここを調べてみるのが先だろう。きつい崖上など、手を出していない場所はまだある…そういう所は、俺の方が適任だ。ここは俺に任せて、お前はお前で動いてくれ。そして、何か分かったら共有して欲しい」
────だが、どうにも
そんな物騒なことを考えているブライヴの横で…メリナは、ラニの言葉を思い出す。
『我らの運命は星と共にある。星によって動き、そしていつか月へと誘うのだ────』
今回、トレントはメリディアンが乗って崩れた遺跡など危険な場所を走り回っており、なのでメリナは祖霊の民に見つからないようにひっそりと待つことが多かった。…つまり彼女は、じっと考える時間ばかりだけが与えられていた。その中で、気になっていたことがラニの言葉。
カーリア王家の運命を動かす"星"。これが今、彼らが求めていることと関係があるだろうか?
星…と言えば、魔術関連…とりわけレアルカリアの輝石魔術で聞く話ではある。
それ以外と言えば、記憶も乏しいメリナには星砕きの逸話を持つラダーンくらいしか思い至っていない。ラダーンと言えば、アレキサンダーの熱弁は、未だに彼女の中でも強い印象を残している。
『
『わからん!だが、間違いなくそれは当時の人々に強烈に刻み込まれることになった!だからこそ「星砕き」の異名を持つようになったのだ。この偉業をもってしてな!』
『我らの運命は"星"と共にある。"星"によって動き────』
『上辺の忠誠を後悔せぬことだな、"運命"に導かれし褪せ人よ』
『────お前たちの"運命"は、何が動かし、どこへ導くのだろうな』
────…。言うだけ、損はないか…
何を言っているのかと、思われるかもしれない。しかしこうまで埒が明かないのならば…
メリナは、このただの思いつきでしかない、そう自身で侮ったことをブライヴへと伝えることにして────イジーの言葉を、さらに思い出す。カーリアの城館より出発する前に、メリディアン、彼の母について聞いた時の話だ。
「…ブライヴ。イジーお爺さんの言っていたことを覚えている?」
「イジ爺?出立前の…こいつの母についての話か?…何か、関係があるのか?」
「ええ、もしかしたら、だけれど────」
────
────────
────────────
「巨人の友?」
「ええ、そうです。巨人の友、悪神の
「おお!英雄ラダゴンと似た二つ名だったのか!貴公の母は!」
「…赤髪…しかし"冷たい"とは?」
「はい。彼女は巨人の火、その恩恵を与えられながらも、"冷たい炎"をその身に宿したと
絶大な力、黄金樹に仇名す炎の恩恵を神より授けられながらも、彼女が
しかし、何故"冷たい炎"だったのか。
「貴方の疑問は理解できます。それこそが、ラニ様の母、女王レナラ様との縁に繋がるのです」
「…!成程、イジ爺、それが"月の魔術"ということか」
そのブライヴの閃きに、メリナは思い出す。
そうだ、ラニと出会った時の、
今思えばそれは、魔術との、
「………うーむ、貴公ら、つまり?」
「………あー、こう、いい感じに混ざった、とか?」
残念!メリディアンとアレキサンダーは知力が足りなかった!
そもそもメリナのように夢を見て視覚的に理解していない以上、メリディアンには厳しい話である。彼は多少の魔術────あと祈祷もだが────を修めているとはいえ、到底実践で使えるレベルのものはない。彼の努力全ては弓の技術へと投入されているからして。
むしろ、メリナが知り過ぎている、というのが正しい。
「混ざった…確かに、そう言われても違和感はありませんな。メリディアン様は"巨人の火"、"月の魔術"その両方の力を得た後に、そこから別の力を見出したのだと聞きます」
「………あぁ成程、食べている料理に使われている素材から、別の料理を思いつくようなものか」
彼はかつて、変わった調味料を使った料理を食べて、閃くように「これにも使えるのでは?」と思う時が古い記憶にあった気がする。
「面白い例えですね。貴方のそれはかつての調香師に通ずるものがあるようにも思えます。おそらく貴方の言うように、火の熱と月の冷たさの中からそれぞれ何らかの要素…"素材"を看破し、ご自身の力で新たな"料理"として完成させたのでしょう…憶測でしかありませんでしたが、メリディアン様のご子息である貴方が言うならば、あながち見当外れでもなかったのかもしれませんね」
"
…そこで若きメリディアンは後のカーリア王家の女傑、レナラと出会うことになる。
出会い、師と
イジーとメリディアンの出会いも、そうした中でのものであった。
「幼き頃のレナラ様が我らトロルを"盟約の友"としたように、しかしメリディアン様は裏表のない、ただの友人として我らと接した…貴方のように。そこには約束も、誓いも何もなかったのです。ただそうしたいから共に
「イジ爺…こいつとは、契約上の関係だ」
「おや?ブライヴとあろうものが、下手な誤魔化し方をしたものだ。私の眼には、そういう風には見えておらぬぞ?」
「…」
「ハッハッハ!貴公もこうなると形無しであるな!…年長者には逆らえんものだ…俺も大壺の婆さんに見下ろされると身がすくむような気持に────」
「アレキサンダー、お前は黙っていろ」
微笑ましいやりとりをメリディアンは流しつつ、さらにイジーに続きを
「やがて"星"が動きました────レナラ様はその星を見て、山嶺を下ったのです。それにメリディアン様も続きました。レナラ様がレアルカリアを統治、カーリアを王家とされた時…未だ王都ではなかった黄金樹の麓の街、ローデイルにて、新たな神が生まれました」
「神────マリカ様か…む、待って欲しい、"星"、とは?」
さらりと流しそうになったメリディアンだが、すんでのところで彼は気付き、イジーに待ったをかける。
イジーはそれに、少しややこしいのですが…と前置きをした上で答えてくれた。
「"星"とは、カーリア王家にとって、運命の導きなのです。つまり星見とは、己の運命を見定める事に他なりません────かつて狭間の地で"流星"が古い文明を滅ぼし、新たな命を運んできたと聞きます。レナラ様はそこから"星"の持つ力に目をつけ、山嶺で星見を始めた、そう聞いております…やがて彼女はそこから"満月"を見出し己の魔術としましたが、常に、星の流れから目を離すことはありませんでした。一体、彼女が見上げた星に何を読み取ったのか?それは私程度ではわからぬことですが…間違いなく、見たのです。己の運命、それが動く時を」
「運命か…」
「ええ。…そこからは神々の戦い。神人、神の入り混じる、"律"を決める慈悲無き戦い。数知れぬ戦いの末に、巨人戦争が起こり、黄金樹の時代が始まりました────メリディアン様の運命も、そこで大きく動いたのです」
メリディアンは気が付く。
そうか、巨人の友であった母…そしてトロルであるイジーたちは、黄金の光に
そこに裏切りが、あったのだと。
だが、これが"犠牲"の話だというのならば、母は、
「そうです。それが黄金樹の時代の始まり、その陰にあった犠牲の話なのですよ」
────黄金律とは、裏切りの歴史なのだから
メリナはラニの言葉を思い出す。…これのことを、指していたのだろうか?
「メリディアン…の母は、力を与えてくれた神を裏切った…それが友である女王マリカのためだったのならば、まだわかる。でも、貴方たちは、どうして?」
トロルは、レナラの盟約の友。
それだけならば、この戦いで黄金樹側につく理由など、ないはずなのだ。未だ黄金樹と満月は、交わってすらいない時代。メリディアンもこの時は黄金樹と対立する力を持っていたのだから。
「ええ、メリナ様。我らトロルは、レナラ様の盟約の友、しかしそれ以前に、メリディアン様の友でもありました。ただ
「それは…ごめんなさい。良くないことを思い出させた」
「ああ、お気になさらず。このイジーもまたとっかえひっかえと主を変えるような短慮な爺であるからして」
「…えっと…?」
唐突なブラックジョークにメリナが困り果てる。
HAHAHA!じゃぁデミゴッドを殺して回るメリディアンといい勝負だね!なんて返せるようないい性格はしていないのだ。
そこに、呆れ顔のブライヴが助け舟を出した。
「イジ爺、それは笑えないと思うぞ」
たまにイジ爺は、急にこういうことをしでかすから困る。
ブライヴは気を抜いた瞬間に出てくるイジーのブラックな冗談だったり、スプラッタな所業にドン引くことがあるのだ。それと同率にされている髪の毛タリスマン事件よ。
「これは失礼しました。久しぶりの長話…私も、少し楽しくなってしまっていたようです」
「うむ!わかるぞイジー殿!やはり強い戦士とやり合うためなのだろうなその行動の理由も!」
「そこに理解を示すなアレキサンダー…あぁ、いや、そしてそれは多分、理解できていないぞ?」
「む?そうなのか?しかし────」
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『"星"とは、カーリア王家にとって、運命の導きなのです────』
『────間違いなく、見たのです。己の"運命"、それが動く時を』
祝福を経由して移動を行うメリナとメリディアン。ブライヴは一先ず待機させつつ、再びイジーの元まで彼らは戻ってきていた。
先日のイジーとのやり取り、そして将軍ラダーンの星砕きの逸話から、尋ねに戻る価値があると判断したのだ。
「…ああ、そういうことでしたか!軍師イジーとしたことが、こんなことを見落としていたとは!」
────そしてそれは正しかった。
「貴公、よく聞いてください。私が先日話した通り、カーリア王家の運命は、星によって動きます。カーリア王家正統の王女たるラニ様の、運命もまた同じはずです────そして、将軍ラダーンは星砕きの英雄、かつて流れる星に立ち向かい、打ち砕いたとき、星の動きは
ああ、なんて灯台下暗し!そう自身の愚かさに嘆くイジーは、ラダーンを打倒すことに希望を見出した。
しかしラダーンは破砕戦争以降はマレニアと共に消息不明とアレキサンダーは言っていたが…
一先ずは、ブライヴと共有せねばなるまい。
トンボ返りで井戸底へ戻るメリメリコンビ。ブライヴと先ほどのイジーとの話を共有して…と、そこで思わぬ返事が返ってくることになる。
「…ふむ。星砕きのラダーンが、ラニの運命を留めていると…そういえば、戦祭り、かつて最も強かったデミゴッド、ラダーンに挑む祭りだと聞いていたな。符号だな。だとすると、信じてみるのも悪くない。アレキサンダーを追うわけじゃないが、ラダーン祭りに向かうとするか………ん?なんだお前たち、その顔は?」
お前知ってたの?
というダブルジト目に困惑するブライヴ。じゃぁなんでアレキサンダーが戦祭りのこと語った時に訂正しなかったの?と言われればブライヴはこう言いやがる。
「必要ないと思ったからな………わかった、わかった。悪かったな」
とにもかくにも、道は開けたのだ。
さぁいざ行かん!ケイリッドの地へ!アレキサンダーも回収して!
「…剣と牙で道を開く。分かりやすくてよい」
「どうにも、心が躍ってしまうな…」
「ヒヒン…」
「…仕方のない人たち」
小さく笑いながら、地下世界から飛び出したメリディアンは空を見上げる。
赤く、赤く燃えるような空を。
「────星砕きの…ラダーン…」
果てなく赤く、それはケイリッドの地で待ち構える死闘を予感しているようだった。
けれども彼の呟きは、別の色を宿していた。それがなんだったのかは…誰も知ることはない。
今はまだ。
信じられないことに、お気に入り数が700を超え、UAは三万を超え、評価の投票数も50を超えるという…なんだ…どうしたん??赤いあの評価バー的なのが真っ赤になってビビり散らしております。
…皆さんにこれだけ評価されておいて、いまだに全く自信を持てない作者ですが、小鹿のように震えながらもやり切る所存であります!やってやる…!
まぁそんなことは置いといて、前回も誤字報告ありがとうございました!
感想もとても力になっておりますので、雑なものでも気が向いたらぶん投げてやってください。
■メリディアン
神に託された神の子。その友に託された真紅のサーコート。どちらも背負って曖昧なままに歩く。
大罪は確かに、彼女たちの意志だったと確信している。
それは果たして、本当のことなのだろうか。彼自身の、意志なのだろうか。
■メリナ
自身の存在、それが別たれた魂だと言うならば、その使命もまた律に反する大罪なのだろうか?
それを確かめるためにも、あの黄金樹の麓へ。
彼のことを信じたい。信じるべきだと思おうとしている。
彼の母の話をイジーから聞いた後も、未だに疑念は燻っていた。
■ブライヴ
魔術関連にも明るいために頭はいいのだが、やっぱり素が脳筋。
■アレキサンダー
本編でもアレキサンダーは直前までラダーンに挑むことを知らない。
テキストを読むまで勘ぐってしまうやばい名前の肉を置いて一時離脱。
■イジー
母の方のメリディアンを良く知っているも、彼女はその炎を使うことはなかったために人柄などしかわからない。
メリディアンこそが、黄金樹側にトロルがついた決め手となった。
■セルブス
そろそろ田舎者たちが聞きに来るんだろうな………あれ?
□メリディアン
冷たい炎を扱ったと言われる女王マリカの友。
悪神の寵を受け、レナラに師事することでそれは見出されたらしい。
トロルの友であり、もしかしたら自らの子のように、火を囲ってどうでもいい話を楽しんだのかもしれない。
多分マリカは気が気でなかった。
そしてその友のために、全てを捨てたのだという。
-勇者の肉塊-
香辛料と薬液に漬け込んだ獣肉の塊
蛮地では最高のご馳走とされ
特に勇者だけに振舞われる
-大角の頭冠-
黄金樹から距離を置く、祖霊の民は
新たなる芽吹きを待ち続けている
自らの体に、そして魂に
-星の少女の伝承-
星見の少女は、夜空を見上げ歩いた
ずっとずっと、星を追って旅をした
そして満月と出会い、女王となった
-夜と炎の剣-
魔術師の前身たる星見のはじまりは
空に近い、遥か高い山嶺にあり
火の巨人が、その隣人であったという
-巨剣陣-
彼らは、幼きレナラの盟約の友であった
-満月の女王の追憶-
若き日、レナラは卓越した英雄であった
月の魔術で学院を魅了し、その長となり
輝石の騎士たちを率い、カーリアを王家となしたのだ