エルデンクエスト   作:凍り灯

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宵闇炎天下

 

 

 

 

 

「…本当にここにいるんだろうな?」

「ああ、この坑道の中にアレキサンダーはいる、間違いない」

 

────リムグレイブの井戸底から抜け出したメリディアンらは、そこから東のケイリッドへ行くために移動を開始した。メリディアンの巻きつけられたサーコートのような真っ赤な空、(あか)く死んだ大地、腐りながらも適応した強かな植物、大きく凶悪な見た目の烏と犬────そしてそれらに戦いを挑む戦士たち、ラダーン軍。

 

この世の地獄だろうか?と、そう思わずにはいられないような場所。けれどもそこには確かな生命の強さがあった。

耐えきれぬ弱者から死に、強者だけが適応し、生き抜く。生存競争が加速したような様相のこの地に、デミゴッドの一人、ラダーンがいる。

 

…そうして特に問題なくケイリッドに彼らは入ることは出来たのだが、何とか腐らず残った小屋の前でメリディアンが皆を呼び止めた。

 

『おかしい…』

『おかしなものしか見えんぞ』

『アレキサンダーが私たちより西にいる…』

『…は?』

 

メリディアンのタリスマン(髪の毛)、それを持つ者はメリディアンの位置が分かる。というよりいる方角がわかる、というのが正しい。

逆に、メリディアン側からも所持者の方角がわかるのだ。そして何故か、ケイリッドに入ってまだ少しの自分たちよりも、さらにリムグレイブに近い位置にアレキサンダーがいるようなのだと彼は言う。

 

何をしてるんだあいつ…そう溢したブライヴを引っ張り、タリスマン頼りにアレキサンダーを追う三人と一頭。やがて辿り着いたのがここ、"ゲール坑道"だったのだ。

 

正気を失って尚、作業を続ける鉱夫たちの間をそそくさと通り抜け、時に邪魔者を排除しながら奥へ進むと…一枚の扉。どうやら、その先にいるらしい。

三人は顔を見合わせて頷いた。木製の扉越しに、うーむうーむと聞こえてくる。ようやくこれでブライヴもメリディアンのタリスマンの力を信じたようだ。

 

メリディアンが建付けの悪い扉を開く。

 

「アレキサンダー?…何をしてるんだ?」

「…!おお、貴公、どこから現れたのだ?そちらは確か、行き止まりだったはず…」

 

アレキサンダーはそこにいた。うーむうーむと言いながらも、彼にとっては小さな"ヒビ壺"に、火の(くずぶ)る蝶とキノコを詰めている…そう、火炎壺を作っていたのだ。

作業の手を止め、チラと、アレキサンダーが見れば、ちょうどメリナが扉を(くぐ)ってくるところ。

 

「…なんと。いつの間に、扉が現れたのだ!不思議なこともあるものだが、これで、ケイリッドの野に行けそうだな…行き止まりに困っていたのだよ。ワッハッハッハ!」

「…地上を通ってもいけたぞ…?」

「なんと!?」

 

アレキサンダーの驚きにやれやれと眉間を押さえるブライヴ。

とんだ回り道だなと呆れてはいるものの、一先ず役者は揃ったので、それで良しとすることにする狼。一々気にしてはこのメンツでは疲れるだけなのだ。

 

どうやら行き止まりで悩んでいたところ、どうせだからなんか作業しながら考えるか!と思い至り…持ち合わせで作れる火炎壺をひたすら量産していたらしい。大量の火炎壺を自らの内側に流し込みつつ、彼は立ち上がる。

…え?そこに入れるの怖くないか…?

 

そうして再度、木製の扉をブライヴ、メリナ、メリディアンと潜り────ドア周りをぶっ壊しながらアレキサンダーが扉を押し通った。

ベキベキばぎょんッ!そんな音が坑道に響き渡る。

 

さっ、とメリナへ飛んだ破片を払うメリディアン。何か言おうとして………やっぱり口を閉じたメリナとブライヴ。

 

「…」

「…」

「…よし、行くか」

「うむ!行こうか!」

 

一々気にしてはこのメンツでは疲れるだけなのだ。

 

 

 

「ところで、なぜ作ろうなどと?器用だが、普段はあまりやらないだろう?」

「うむ!貴公に触発されて、俺も制作意欲が湧いてきてな!」

 

あーわかるー、人がやってるのを見るとなぁ。なんて、これが後の命運を分けるとは、未だ誰も知らず────

 

 

 

────さて、目的は戦祭り。

 

そうなると赤獅子城を目指すのが道理。間に合いませんでした、じゃあ笑い話にもならないので、寄り道せず、最短ルートでそこを目指す。

生きるのにも苦労しそうな過酷な環境だ、長居したいところでもないというのはアレキサンダー以外の総意。アレキサンダー?彼は腐敗が効かないらしいので特にこの環境に思うところはないようだ。

 

何にせよ、多数決の力で道は決まった。南東を目指して"不落の大橋"へ、"エオニアの沼"は当然通らない。ラダーンが魔法を習ったという"魔術街"もあるようだが…恐らく行くこともなかろう。

 

 

 

…と、思っていたのだが。

 

 

 

星辰(せいしん)が満ちた時、祭りの知らせがもたらされるだろう』

 

 

 

赤ずきんのようにも見える、頭頂を尖らせたボロ布のフード、その内に老いた髭面の仮面を隠した老騎士。鎧はストライプ模様の目立つ、まさに"奇矯(ききょう)"と言う言葉が似合う意匠。

一切の寄り道をせずにケイリッドを数の暴力で突っ切った一同は、その奇矯な騎士である、城主の"ジェーレン"にそう言われて城を一度後にする。

 

────ジェーレンはどうやらイジーの知古、かつてカーリア王家の客人として過ごしたことがあったらしく、しかしブライヴは知らないようだったので、ラニが幼少の頃の話だったようだ。

 

『イジー…?ほう、懐かしい名を聞かせてくれる。おぬしら、ラニ様の配下というわけか。ならば、イジーに伝えておいてくれ。ラダーンの戦祭り、それはきっと、ラニ様の運命を────なんじゃ、そのために来たのか。口煩(くちうるさ)いだけじゃないようで安心したわ。あ奴の打った武器と同じで、老いてなお腐らぬといったところか!なまくらじゃったがな!』

 

余計な一言や二言を挟みつつも、ジェーレンは嬉しそうにかつての日々を想っていた。

人の(えにし)とはわからないものである。

なればこそ、"星辰が満ちる時"それには理由があるのだと納得できるだろう。いくら古かろうが律儀にも約束を果たす、彼らならば。

 

『…ほう、その通り。戦祭りとは、破砕戦争において最も強かったデミゴッド、将軍ラダーンの最後の戦い、弔い、そして大ルーン継承の戦祭りじゃ…だが同時にこれは、カーリア王家への古い義理を果たすためでもある』

 

将軍ラダーンの封じる星、それは然るべき時に開放しなくてはならない。ジェーレンは長い放浪の末に、そしてラダーンとラニ、両名のデミゴッドと関わったがゆえにそれの答えを導き出していた。

 

"星辰が満ちる時"、それはもうすぐだ。だからそれまでそこらへんでぶらぶらしといてね。と追い返され、かくして四人と一頭はケイリッドの野に放たれる。

 

「…おい、城で待っていてはダメだったのか…?」

「ジェーレン殿にも準備があるのだろう…祭りだからなぁ」

「…そういうもの?」

「うーむ、祭りだからなぁ…」

 

手始めに彼らはラダーンが重力魔法を学んだという"魔術街サリア"を標的に、赤く腐り落ちた野を渡るのだ。観光じゃぁないんだよ。

 

 

以下が、その観光の軌跡である。ご清聴あれ。

 

 

 

 

 

「見えない魔術師…?厄介だな…」

 

サリアの街には輝石の魔術師に加えて、姿を消すことのできる魔術師がいる。ブライヴ曰く、気配まで消えていると言うのだから、どれだけ厄介かわかるだろう。幸いなことに、予備動作は分かりやすく、彼らにとっては言うほど致命的ではないが…面倒なのは間違いなかった。

 

「貴公!俺に任せてくれないか!とぅオッ」

「すごい飛んだ…!?以前の比にならない…そうか、"嵐"の力!」

「成程な、ストームヴィルの騎士の力をものにしたのか…面白い」

「暴風を叩きつけるつもりか。よし、それに乗っかろう」

 

打開せんと提案したのはアレキサンダー!

何をするかも言わずに、その巨体を、以前よりもさらに高く跳び上がらせた。強い風圧が、あたりの細かい瓦礫(がれき)を舞い上がらせ、周りの魔術師も思わず、といったように顔を嵐より守りながら後ずさった。

 

彼はストームヴィル城、ゴドリックの戦闘の後に精鋭騎士たちをその中に取り込んでおり、どうやら戦士の壺は取り入れた者の力を扱えるようになるらしい、メリディアンらと離れている間に、彼はその力を己のものとしたというではないか!

これは期待できるぞ…!メリディアンと、実はブライヴも少しワクワクしている!

 

「…」

「…」

「…?」

「降りてこないな…」

 

数秒の、間。

 

「あのバカ…飛び過ぎだな(ドゴンッ!)────遠くに落ちやがった…」

「…取り合えず不可視の魔術師は射貫いた…攻撃する時は姿を現すならば問題ない」

 

少し遠くで墜落する音を背景に、姿を現して魔法を放とうとした魔術師を、メリディアンが素早く撃ち抜く。

首をのけぞらせら魔術師の体は、そのまま背中から地面へと倒れ込み、衝撃で杖が折れた。腐敗によって脆くなっていたらしい。

 

遺体を余所に、周囲を警戒しながらブライヴがつまらなさそうにしている。

ちょっと期待してたのにどっかいったせいでやる気が下がっているように見えなくもない。

 

「そうだな、俺たちだけで問題ないか。さっさと済ませよう」

 

瞬間、再び姿を現した魔術師の一人に彼は襲い掛かった。戦闘が激化していく。

 

「────…おーい、誰かいないかー?助けてくれー、(はま)ってしまったんだー!おーい、おーい、誰かー!…む!おお、貴公、よくきてくれた!俺は戦士の壺、鉄拳アレキサンダー。見ての通り、穴に嵌ってしまってな、脱出を手伝って欲しいんだ。"ゴーリー"殿か!よろしく頼む!…何?無理?…そこを何とか!…おお!お願いとな!任せろ!戦士アレキサンダーに二言はない!…ふむ、"娘"のために朱い"エオニアの沼"に探し物とな!」

「────…おいメリディアン!あいつ大丈夫か!?何か、禄でもない頼まれごとをされてる気がするぞ…!」

「奇遇だなブライヴ、私もそんな気がしていた!だがどうにもこうにもまずここを────ッシ…!────…ここをどうにかしなくては!…メリナ!」

「ええ、探してくる…多分、手遅れだろうけれど」

 

街中の敵対者が集まりつつある中、様々な騒音に負けじと声を張り上げ、二人はそれ以上にデカい声で誰かとなんか喋っているアレキサンダーに嫌な予感。

トレントに(またが)るメリナが、メリディアンの頼みを聞いて大声の主を探しに遠ざかる。

 

…その背を狙う魔術師を射抜きつつ、有翼の、鎌を持った"人形兵"の上空からの奇襲を一歩後ずさって(かわ)すメリディアン。風切り音が目の前を通り過ぎるのを聞き届ける間も無く、空いた手に持った湾曲した短刀を人形の身体の隙間にねじ込み、核を破壊。

 

短刀が突き刺さったままの奇妙な姿勢で機能を停止した人形兵を側に置いて鞘扱いにしつつ、離れたところでブライヴの背を狙った輝石魔術師の胸部に矢を突き立てた。

 

「不治の業病に侵された娘のために必要なのだな!…何!?"母"に似て、優れた剣士…!?確かに、病などで死なせるにはあまりに気の毒だな、せめて剣士として誇り高く戦い、その先に果てねば無念であろうて!よし!このアレキサンダー、腐敗は効かぬ壺の身体!俺()()に任せておいてくれ!」

「────…乗せられてるな!乗せられてるよな!?くそっ、なぜスケルトンまで雪崩れ込んできてやがる…!」

「アレキサンダーの大声に寄ってきてるのかもしれんな…ここはちょうど通り道だ!」

「禄でもないなッ!」

「ははっ…全くだが、準備運動には丁度良い」

「この後も一波乱ありそうだがな────…ッふん!────まぁ、こういうのも、悪くはない」

 

先ほどのつまらなさそうな態度はどこへやら。

 

街の周辺を徘徊していたスケルトン、腐敗に侵された野犬など、見境なく建物隙間から湧き出してくる始末。頭上からは人形兵が飛んでくるわ、休まる暇もないが、ブライヴもメリディアンも的確に排除し続ける。

しかし、メリディアンには問題がある。継戦能力のなさだ。今は短剣を()り交ぜた戦闘をしているとは言え、敵が残っているのに矢が不足して弓が使えなくなれば、少々苦労することになるだろう。

 

「メリディアン!受け取って!」

 

そこを、メリナがカバーした。

ガチャガチャと(やかま)しい異音を響かせる人形兵の頭上を通すように、矢の詰まった矢筒を投げ渡す。

 

「メリナ!ありがとう、そろそろ矢が切れるとこだった!…アレキサンダーは…!」

「諦めた…!もう()()()だと思う、あれは!」

「もういいさ、斬って捨てるまでだ、俺たちの前に立つ奴らはッ!」

「違いない!────…!メリナ!離れていろ!奥から毛色が違うのが来た…!数は二人!」

 

新手。

街の奥から、明らかに雰囲気の違う二人組が現れる。

見たことのない格好だが…。疑問を浮かべたメリディアンに、ブライヴがその正体を伝えた!

 

「あれは…"ノクス剣士"に、"僧"か!厄介な…────」

「ヘイヤァアアアッ!!遅れてすまん!今度こそこの拳、敵を打ち砕こうぞッ!!」

「────やっと来たか!行け!アレキサンダー!」

「何故蹴っ飛ばす!?ヌゥォおおおオアアアあぁあアアッ!?」

「よし、スケルトンといえど、あそこまで粉々になれば動けまい」

「………どちらを優先する」

「アレキサンダーと相性の悪い槌持ちの"僧"から片づける。やつらの得物は"流体"だ、伸びるぞ。間合いを見誤(みあやま)るなよ」

「成程。なら敢えて前に出よう、囮になる。向こうも射程があるならば、面倒な私を優先するだろうからな」

「…失望させてくれるなよ」

「努力しよう」

「────では俺が先に"剣士"に仕掛けよう!今度こそ見ておけよ!この新たな嵐の拳を!ウォオオオオオオ!!!」

「…まぁ、なるようになるさ…ブライヴ、先に行くぞ!────」

 

 

────────────

 

────────

 

────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戻ったか、おぬしら────どうした、ひどい汚れではないか…だが、準備は万端というわけじゃな」

「ジェーレン殿…ケイリッドは厳しいところだな…ラダーン軍の精強さが良くわかる…」

「…そうか…あ奴らも、その言葉を聞けば喜ぶじゃろうて」

 

微妙にすれ違っているような気がしないでもないが、次から次へと沸いてくる敵対者を軒並み斬って殴って撃ち抜いて捨てたメリディアンらは無事、城へと戻ってくることが出来た。

求めていた重力魔法を見ることは叶わなかったが、約束の時間が近づいたために、赤獅子城、その奥の広場の中、その一角を占領して各々装備を整え始めている。…そう、ちゃんとした理由ありきでサリアに行っていたのだよ…何故かエオニアの沼を走り回る羽目になったけどな!

 

…と、その前に、泥遊びでもして来たか?と言うほどの汚れを、メリディアンはお手製の石鹸を使って落とせるところは落としていく。井戸底のシーフラ河で見つけていた(とろ)けたようなキノコを用いたもので、油の性質を持つどろりとした溢液は最適だったのだ。

その横で腕組して堂々たるアレキサンダーを磨いているメリナは、当然ほとんど汚れていない。

ブライヴは(かゆ)そうだ。

 

マイペースに見える彼らだが、僅かに、気を張り詰めさせて周囲への警戒を(おこた)ることはしていない。理由は、()()()()()()()()()()()()だ。

 

ブライヴは、汚れを払う仕草のまま目線をぐるりと巡らせた。

 

────"豪胆ライオネル"、"大角のトラゴス"…それに、刀を持った爺さんも相当出来るな…これは、面白くなってきた。

 

ブライヴはラニの配下たち、その関係上、斥候(せっこう)の役割も担っている。今でこそメリディアンのためと前衛にて暴れまわるイメージが強いが、獣の俊敏(しゅんびん)性や嗅覚、筋肉のしなやかさを活かすにはまさにうってつけなのだ。恐ろしい狼は、何も牙を見せびらかすばかりではない。むしろ、姿すら隠し、必殺の一撃を喉元に突き立てる。ブライヴはそうした一面を持っていた。

 

リエーニエに入った時、デカいザリガニの避け方を知っていたのもその(つちか)った技術の一つ。だが、身体によるものに加えて、知識面でも隙はない。

 

各地で名を馳せた褪せ人…つまり()()()()()()()人物の調査もまた彼の仕事。必然、戦祭りに参加するほどの勇士であれば、見覚えのある者もいるものだ。

 

今は仲間だ。だが、それは()()()()

 

皆が恐らく、そう思っている。気を許すなどと、バカみたいな真似はしない。むしろ途中で脱落者が出ることを望んでいる者もいるかもしれない。ブライヴとてそう思っている。

 

戦いはいい。だが、ラニの障害になるならば、手段など選ぶはずもない────

 

「私はメリディアン、こっちがアレキサンダー、彼がブライヴだ。戦いに参加はしないが、彼女がメリナ。それと馬のトレントだ、よろしく頼む」

「待て、おい、待て」

 

いっちゃん気難しそうで得体のしれない刀のじじいこと"(おきな)"に畳みかけに行くメリディアン。

思わず待ったをかけてしまうのも仕方のないことだろう…こいつ見境なしだよ!

明らかに相手は警戒したままだ、なんなら右手の指先がピクリと動いた。下手すると刀を抜く。それ以外は微動だにしていないが、ひとたび動き出せば一瞬のうちにメリディアンの首を断ち切るだろう…そう思わせる凄味がある。

 

ゆえにブライヴも思わずツッコミはしたが、不用意に近づけない。

達人の間合いに、好き好んで入る愚か者は────目の前にいたわ…

 

離れていたジェーレンすら、急に張り詰めた空気に身構えて静観している中、返事が貰えないと理解したメリディアンは、特に気にした風もなく口を開く。

 

「いつかは刃を交えるかもしれない、けれども今はそれでも共に歩める、刹那の一瞬であろうとも。良き戦いを、良き血を流そう…すまない、邪魔をした。それでも、これだけは言っておきたかったんだ────ありがとう」

 

 

────それは、何に対しての礼だ…?

 

 

何も知らぬ(わらべ)のような歩みで、戦士としての血生臭さを臭わせて、そして本気で感謝している。

まるでラダーンの足元で戦ってきたかのような言葉の重みを含めて。何が彼にそう思わせている?何が彼にそう言わせている?或いは、誰かの言葉を借りているかのようでもある。

少なくとも、今のブライヴの知識では、彼の言動の真意はわからない。

 

不可解な行動、しかも相手が相手なだけあって狂っているようにしか見えない行動。それでも狂っていると感じ取れないのは、それこそがメリディアンの魅力なのかもしれない。何かの理由に裏打ちされたように感じる、この世界では狂気とも言える彼の一端。

…ネフェリはかつて、ゴドリックの戦いの後に戦士の壺、アレキサンダーとの共通点を彼に見出したことはあるが、同じようにブライヴも感じた場面が幾度もあった。

 

しかし、それとは違うのだと、彼は今少し理解する。

 

 

────純粋で…そう、気高いのだ。

 

 

戦士の壺は、そもそもの価値観が違う。

純粋に見えて、あれはそうではない。むしろ詰まった死体から、混沌とした感情がない交ぜになり過ぎて真っ黒になっているようなもの。あまりに暗すぎる黒色は、(かえ)って混ざり物のない"純粋"なものと見える。…あれらは、たっぷり詰まった人格が、辛うじて人としての形を表面上真似ているに過ぎない。

 

内に"黒い部分"を隠し、外に"善良な部分"を見せる、人の縮図。硬い殻が"内"と"外"とを剥離させているからこそ彼らは人の"善良な部分"だけを(まこと)とできる。

 

それも個人差があり、アレキサンダーは人らしい方ではある、というのは蛇足だ。アレキサンダーは、()()()()()がある。それは、珍しいことなのだ。

 

対して、メリディアンはこの壊れた世界で、壺人たちのように澄み過ぎているが、そこには()()()()()()()がある。

 

子供のような純粋さではない、むしろそれこそが壺が近い。真っ黒な無垢(むく)。大人は余計なものを削ぎ落とし、己の色に最適化させる。しかし子供は削ぎ落とすという選択肢すら出てこずに、ごちゃ混ぜな色を撒き散らす。

 

メリディアンのそれは、清濁(せいだく)を呑み込んで、血に(まみ)れて、それでも誰にでも()()()()()()()()()()()()。それが彼の気高さだった。

 

なるほど、確かに彼は戦士なのだ。

 

()()()がないと思っていたが、勇猛な戦士のそれとは向いている方向が違うだけの、そう在りたいという気高さ。

それは彼の揺るがぬ誠実さへと繋がる。彼の矢のような、ブレることのない、真っ直ぐに壊れた世界を貫き進む、"芯"。

 

ロジェールはかつて彼のことを真っ青な青空のようだと評した。

それはある意味で正しい。白ではなくとも、彼の"色"がただただ広く澄み渡っている。気持ちがいい程に、雲すら付け入る隙がない程に。

 

思い込みでもない、盲信でもない。名も無い自分が、それでも誰かであり続けたいと、()()にとっての何かであり続けたいと願っているからこその………ブライヴにはわかる。ブライヴもまた、多少は違えど()()()()()()

 

 

『………聞くのは無粋だぞ』

『無粋なのか』

『あぁ、無粋だ』

 

 

おそらく、隣の彼女こそが…────

 

 

────さしもの"翁"も呆れが勝ったようで、軽く手先の仕草でメリディアンを追い払っただけに留まった。

そこに一礼をして離れ、次の褪せ人へと向かうのを見届けるブライヴ。

 

"怒り"よりも"呆れ"が来てしまうのも、また彼の強さなのだろう。

そんなことをしていればアレキサンダーが黙っているはずもなく、(おだ)やかなのか緊張感があるのかよくわからない空間が出来上がる。馴れ合い…とは違うが、この場でのメリディアンの存在が、誰よりも際立っていくのをブライヴは感じた。

 

ジェーレンはそんな様子を、奥の演説台より見下ろして頷く。

 

これだから、祭りは良いのだと。

 

 

────けれどもメリナは、小さな不安を感じずにはいられなかった。

本当にあの声は、意志は、彼自身のものだったのか、と。

 

突き放したはずの疑念は、彼女に未だに(まと)わりついて離れないでいた。

 

 

 

 

 

星々が満ちる。

祭りが始まる。

運命が、動く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 









改めていつも読んでいただきありがとうございます!
いよいよ大規模戦闘です。果たして期待に応えるものになっているかはわかりませんが、ご照覧あれということで、健気に頑張ってるゴドリックを見る目で見ていただけると嬉しいです。
次の投稿はまた一日あけて日曜日ですかね?ごゆるりとお待ちください。

気軽に感想等お待ちしております!



■メリディアン
"誰か"のために、自分は"そう"でありたい。
生き方の定義を、"誰か"を主眼に置きつつも明確に自身の内に決めている。それがこの世界で貫き通すには、あまりにも奇妙なものだっとしても。
かつて追ったブレることのない背中に、彼が見出した生き方。自分の背中を、"誰か"が見ているならば、最後までそのままで果てよう。
きっとこんな世界でなければ、どこにでもいたかのような存在。こんな世界だからこそ、彼は眩しい。

それはそれとして誰にでも同じ感じでいくのはやめーやとブライヴは思っている。


■メリナ
メリディアンがメリナにまだ言ってないことやり始めるたびにまだまだ疑念がよぎってしまう。
信じたいけれど、あと一歩欲しい。そんなところ。


■ブライヴ
"誰か"のために、自分の全てを投げ捨てでも成し遂げたい。
生き方の定義を、"誰か"に賭けてしまっている。
メリディアンと似ているようで、異なるもの。それは強さであり、危うさであり、この世界では脆いもの。


■アレキサンダー
硬い表皮が文字通り内と外を分ける。詰められた死体の混ざり合ったドス黒い感情は当人も気が付かないままに隔て切り離され、そこから僅かに滲み出た人としての善性が表出し、彼を形作った。
表面上いい顔をする人の、それの表面が本当になってしまったみたいな。
あくまで人ではないので、価値観は存在意義に左右されている。
それでも彼は壺人らしからぬ壺人らしい。

…という感じで考えていたのだけれどDLCェ…怖いわ!?…まぁ、あそことは産地が違う、し…?


■ジェーレン
イジーの知古、かつてカーリア王家に少しお邪魔していた。
カーリアとラダーン両陣営にいたからこそ見えるものがあった。今宵、運命が動く。



-奇矯騎士のフード-

頭頂を尖らせた、ボロ布のフード
騎士ジェーレンの装備
その下には、老いた髭面の仮面が隠されている
ジェーレンは、将軍ラダーンの客将であり
お互いに「名誉の死」を約束したという


-奇矯騎士の鎧-

放浪を好んだジェーレンは
カーリア王家の客人として過ごした後
将軍ラダーンの客将となった
そして根無し草は、律儀にも
約束に縛られていった


-城主ジェーレンのセリフより抜粋-

…ときに、あ奴はまだ、武器を打っているのか?
大きな体を縮こまらせて、窮屈そうに…
口煩いし、まったく変わった巨人じゃったよ
だが、そうよな…、あ奴の武器はなまくらじゃったが
あの朱い腐敗に対してなお、腐ることはなかったな…


-赤獅子騎士-

マレニアの朱い腐敗に敗れ、敗軍となった時
騎士たちは、決意と共に左胸の紋章を焼いた
遥かなる故郷よ、もう戻ることはない
我々は、この地で腐敗を抑え続ける


-石鹸-

汚れたままでは、いつか心まで汚れてしまう


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