エルデンクエスト   作:凍り灯

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消え落ちる星の下

 

 

 

 

 

お前には見えないのか?

こんなにも空が、燃えているのに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紅い。

ただただ、紅い。

 

(あか)よりも(あか)よりも燃えるような(あか)

 

私自身が託されたサーコートと同じように、この空は紅い。ケイリッドの地であるからこそ、余計にそうなのだろう。

 

今宵、運命が動く。この燃え盛る炎の空の下。

…ずっと、ずっと、私にとって()()()()()()()。どこにいようとも、この狭間の地にいる限り、眩しさでこの目を焼きにくる。

火で包まれた空、だからこそ、地下の星空は居心地が良かった。彼らはただ揺らめくこともなく、静かに佇むだけだったのだから。

 

『────メリナ、メリナ、君は眩しくていかんのだよ』

 

君もまた、同じだった。

黄金とは、かくも眩しきものなのか。こうも()()()()()()を視るものなのか。それが私にしか視えていないことぐらいは、わかっていたけれど。

 

「メリディアン」

「どうした、メリナ?」

 

彼女が差し出すのは、トレントの指笛。

彼女に託されたはずの、しかし彼女に持っていてもらったそれ。彼女はもう、あの初めて会った時のように眩しさはなく、ただ燻る火の粉が輪郭を舞う。

 

あの時だ。

 

結びの教会で、髪の毛を切ってもらったあの時。

 

私の未練と共に、メリナも、()()を切り落とした。もう、彼女に眩しく目を細める必要もない。

 

「トレントが、きっと必要になる…あなたには"足"が必要」

「そうだな、共に戦う時が来たんだろう…ありがとう、トレントには悪いが、少し貸してもらおう」

「変なことを言うのね、この子はあなたに託したというのに」

「ずっと君が乗っていただろう?…私は託されたトレントに、君を託したのだから」

「…逆じゃない?」

「そうでもないさ」

 

マリカ様と共にあった霊馬、彼を私が信頼するのは何もおかしいことではない。

メリナを守るならば、間違いなく適任だ。だからトレントには彼女と共にいてもらっていた。

 

今は、共に戦うために。

 

「…待ってる」

「…!…ああ、皆で戻るさ」

 

────メリナが何か、ラニ様と話して以降、迷っていることは知っていた。

目元以外の表情が動きづらい彼女だが、この地に来て以来、見てきたからこそ、わかる。

私自身すらも私のことがわからない以上、きっと彼女たちだけが気が付いた()()があったのだろう。

 

…本当は聞いてしまっても良かった。けれども、私は、彼女自身が打ち明けてくれることを、願っていた。顔と同じで女々しいものだと自嘲(じちょう)する。

ああ、なぜなら私と同じようにずっとふわりと地に足つかない彼女は、今は悩み、戸惑い、それでも自分を信じようとしてくれている。

別たれたがゆえに、マリカ様との境界線が定まらず、しかし今はそれを乗り越えつつある。それを私は、見届けなくてはならない。

 

彼女はまだ、()()()()()()()()()()

長い間、狭間の地を彷徨(さまよ)っていたとは言え、それは今のように実体のままではなかった。

この地で、共に歩き、食し、話し、ようやく彼女が、彼女の意志で、彼女自身のために生き始めている。

 

その歩みを、私が不躾(ぶしつけ)に良かれと正すなどということはしたくはない。

そこに私が原因にあるとしても、その苦悩も、その葛藤も彼女のものでしかあり得ないのだから。

…この共に歩む道は、この道行きこそが、それに答えを出してくれると信じたい。

 

────その答えを、結果として私が踏み(にじ)ってしまう可能性があるとしても…

 

 

たった今、星たちが空に満ちた。────ようやく天地に役者が揃ったのだ。

ジェーレンが広場の奥、その演説台に立ち、剣を構える。

 

 

"流れる星をすら律し、命の灯を高らかに輝かす"

 

 

その言葉は、誰が言ったのだろうか?まさに、将軍ラダーンその人に相応しい言葉と言える。

…その灯も今や、見る影もなく。

 

 

────…祭りの前に、伝えておこう。

将軍ラダーンは、ずっと、彷徨(さまよ)っている。マレニアの朱い腐敗に、体の内から蝕まれ、正気を失い。かつての敵、そして味方の死体を集め、犬のように喰らい。

…空に慟哭(どうこく)しているのじゃ。

 

だからこそ(ほま)れある最期を!

ジェーレンの、ラダーン軍の、彼を(した)った多くの人々の願い。

 

「…では、はじめようか。勇者たちよ、祭をはじめるぞ!」

 

ジェーレンの剣が振り上げられる。炎のような、波打つ刃が満ちた星々を指す。

 

「戦祭りじゃ!」

 

星辰は満ちた!

勇者たちよ、戦いたまえ!誉れと共に大敵を葬り、大ルーンをその手にするがよい!

破砕戦争最大のデミゴッド、将軍ラダーンは、今、おぬしらを待っている!

 

「ラダーン祭りじゃ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────で、パッチ、どうしてここに?」

「ハッハッハ!貴公も祭りが目当てで来るとは、やはり戦士であったか!」

「旦那ぁ!(はか)られたんだよ俺ぁっ!」

「落ち着け」

 

────すかさずメリディアンは自家製の鎮静効果のある香薬を顔面に(まぶ)す。

 

で、しばらくしたら落ち着いて…

 

「何?ラーヤが?」

「…あぁ、あの猫背の女か」

 

こういうことらしい。

 

『そう言えばパッチさん、ケイリッドの東、かの赤獅子城でお祭りがあるそうですよ。ベルナール様がおっしゃっておりました』

『祭りぃ…?』

『なんでも、英雄たちの集う…素晴らしいお祭りだとか』

『祭りかぁ…────』

 

「────祭りは祭りでも血祭りとは思わないでしょう旦那ぁ!」

「お前…アホか…?」

(つくろ)わない罵倒は初めて聞いたな…」

「うーむ、なるほど…なんせ英雄の死体がたくさんあるからなぁ」

「あぁ、よかったな、英傑の遺品を盗み放題だ」

「生きていればな!?」

 

既に転送門を潜った先、引き返すことは出来ないところにまで、彼は来ている。

そこまで来て、ようやく気が付いたらしい。…アホか?

 

騒ぐパッチを他所(よそ)に、トレントを連れたメリディアンは、彼に(くく)りつけた予備の矢筒が外れないかを最後に確認し、(またが)る。

それぞれの褪せ人は互いに距離を取りつつ、メリディアンを囲むように動いていた。

 

それは戦略的に、唯一の遠距離武器、弓持ちの騎士を守るためのものだった。

特に助勢の騎士として知られる"トラゴス"はブライヴ、アレキサンダーと並んで正面から彼を守る位置につく。

そこに言葉などなく、ただ半狼と戦士の壺が守るべきと考える程の騎士、そう判断したからこその動きだ。

 

黒鉄の鎧を着た"ライオネル"、彼は実は魔法を扱うというのは、戦いが始まるまでブライヴを除いて誰も知らない。

そのせいもあってか、比較的後ろの方に彼はいる。しかし一度(ひとたび)近づけばその重刺剣が飛び出すのは容易に想像できる。自由な立ち回りを選択できる、全体を俯瞰(ふかん)する位置にいたかったのだろう。

 

指巫女である"サロリナ"は最も後ろにいた。

まともに交流らしいものをしてくれたのは彼女だけで、聞けばハイレベルな回復の祈祷を扱えるという。役割はまさにそれだろう。最初から目立つ場所にいるわけもあるまい。

 

────実際はトレントと共に飛び出す予定なので、この陣形に大きな意味はない。しかし、それぞれの役割を、互いに意識しているという顕れ。その得も言えぬ一体感は、戦士たちに高揚感を与えた。

それはあの不愛想な"翁"すらも例外ではなかった。

 

彼は、あまりに静かに歩くばかり。

 

「────おお!あれが将軍、ラダーン!」

 

アレキサンダーが歓声を上げる。

 

赤い砂漠、あまりに広いその奥から、最強のデミゴッドが来る。

メリディアンにとっては…幾星霜(いくせいそう)を経ての、()()

 

────その巨躯の背中には多くの槍が突き立てられていた。マレニアの騎士、"貴腐の騎士"たちの槍だ。赤髪をなびかせた、黄金獅子の兜。身に纏う鎧も黄金獅子を象ったもので、それはかつての王、ゴッドフレイを思い出させる意匠。

その身体を支えるのは一頭の痩せ馬。

 

彼の身体を支えるには、あまりに小さく細い。一見アンバランスに見えるが、メリディアンはラダーンが重力魔法によって問題なく馬が動けるように調整しているということを、アレキサンダーから聞いていた。

 

二振りの黒い、肉厚すぎる大剣と、自分のものに比べると余りに大きすぎる大弓。

それを持ったうえで、馬の速力があると考えると恐ろしい。

 

ラダーンもまた、正気を失って尚、戦場の空気を読み取ったのだろうか、その手には、既に大弓が握られている。

しかし、矢はどこにも見られないが────

 

 

「…」

「…っ!」

 

 

 

────眼が、合った。

 

 

 

弾かれたようにメリディアンとラダーンが動く。

 

トレントによって集団を離脱、真っ直ぐとラダーンを目指し、しかし僅かに斜めに進路を変える。

射線をずらしたのだ。メリディアンは他の主力となる褪せ人たちが接近するまでの、時間稼ぎをしなくてはいけない…!あの弓で一方的に射られれば、容易に()()()

 

メリディアンが飛び出したと同時に、ラダーンは()()()()()()()()()()を数本まとめて弓に(つが)えた。

そしてそれは、天へと向けられる。まるで星を落とすように。

ここからでも聞こえてくるほどの弦のギリリと引き絞られる音は、すぐさま岩同士がぶつかったかのような音を砂漠にまき散らした。

 

────"空撃ち"…違うッ!

 

「散れェッ!!」

 

天高く撃ち上げられた数本の槍…ただ落ちてくるだけでも脅威となるそれは、天上で空間を歪める。────重力魔法だ。

メリディアンの叫びから間も無く、戦場の、ありとあらゆる槍が天へと吸い込まれていく。

 

 

それは驟雨(しゅうう)だった。

 

 

真っ赤な空から降り注ぐ夕立。無数の槍。致死の雨。

そのほとんどは、トレントと駆けるメリディアンを追う!

 

「……ッ!!!」

 

(おびただ)しい量の槍が全力で駆けるトレント、その真後ろに降り注ぎ続ける。

その雨の向こうのラダーンから、メリディアンは目を離さない。

 

鼻先を掠める死の大群を貫いて届く眼光。尋常ならざる精神を持たなければ正気すら保てない奔流(ほんりゅう)を意識から切り離し、メリディアンは激しく揺れるトレントの上で黒弓を引き絞った。

左目が、赤熱するように赤く(くすぶ)る。

 

その()()眼光を認めたラダーンは、今度は真っ直ぐにメリディアンへと弓を向ける。互いに視線が弓越しに交差する前に、槍と矮小(わいしょう)な矢が戦場を風で割った。

 

突き立つ槍の軍勢を破壊して、重力魔法をも駆使したラダーンの槍は恐るべき速さでもってトレントの真下を通過する────トレントが空を蹴って跳躍したのだ。

対して一足遅れで飛んで行ったメリディアンの矢は、確かにラダーンの鎧に突き刺さった!

 

────浅すぎる。

 

しかし注意は引けている。

メリディアンは己の役割を間違えない。たったの少しの時間だけであったが、それだけれ十分な存在を、彼はよく知っているのだから。

 

そう、銀の狼(ブライヴ)の牙が、獅子に届こうとしていた。

 

「────ッチィ…!」

 

痩せ馬を狙った一撃は、ブライヴのグレートソード、それよりもさらに巨大な剣によって受け止められる。甲高い金属音は、砂漠の遥か遠くのラダーン兵の元まで届くほど。

次いで明らかに人の速度を凌駕(りょうが)した"翁"が音に紛れて血に濡れた刀を(きらめ)かせるも、これももう一本の大剣にて防がれた。

 

恐らく最速の両名、その初撃は掠りすらしない!

これこそが最強のデミゴット。

これこそが…────

 

 

「────"星砕きのラダーン"…!」

 

 

絶望が英雄たちに笑いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────矢…いや、槍の雨が降り注ぐ前に、メリディアンが気が付いたように、歴戦の褪せ人たちもまた気が付いた。

ここにいる者は指巫女のサロリナ含めて尋常ではない旅と、経験を積んできた者だけ。

それでも紙一重なのだ。それほどにこれは初見殺し。

 

トレントに跨り注意を引くメリディアンがいなければ、恐らくブライヴと翁を除いて全滅していただろう。ほとんどの槍が彼らを追ったために無事なのだ。

 

不注意のパッチとて生中な道を歩いてきてはいない。なんとか、ではあるが槍に串刺しにされることだけは避けることに成功する。

 

 

────しかし、アレキサンダーは、その巨体ゆえに(かわ)し切れなかった。

 

「ぬぅぅ…!これしき…ッ!」

 

壺本体への直撃は避けられた…だが、掠めるように槍は、彼の左脚の根本に当り、ちぎってしまったのだ。彼は壺人だ。脚がとれるくらいは、後で戻せる…だが、それは戦場では時間が足らない!

 

ひび割れた身体。彼の()()が隙間から零れ、砂漠をさらに赤く汚す。

掠めるだけで、これだ。アレキサンダーは()()()()

 

周りの褪せ人やブライヴは既にラダーンへ殺到している。気を遣う余裕など誰にもない。言葉すら吐けぬほどの戦場────そこに、メリディアンがトレントと共に駆けつけた。

 

「アレキサンダー…ッ!無事…ではないが、生きているな!?」

「メリディアン…!俺はまだ、戦えるぞッ!」

 

どう見ても、それは虚勢(きょせい)を張っているだけだ。メリディアンは瞬時に、彼の状況と、その言葉に乗った感情から判断する。

 

 

────今はもう、戦えない。

 

 

その言葉がアレキサンダーにとって、どれ程な残酷か。メリディアンは深く理解している。それでもここは戦場、時間も、余裕も、情すらも切り捨てなければいけない。

だからこそ、彼は情を優先した。ただ彼が彼であったために。

 

「────…アレキサンダー、まだ、私は共に戦いたい」

 

だから選択した…情を優先した、甘い毒を。合理的な非情な友情を。

壺人は、人の価値観とは違う。それでも友情や恐怖は持ち合わせている。

 

特にアレキサンダーは人らしい壺だ。他の壺人ではこうはいかない。

戦い合い、割り合うことをこそを、他者との交わりと見なしている戦士の壺はなんと多いことか。彼が他と違うところは、明確に死への恐怖を持っていること。

他者の死の意味を、戦いの果てに散りたいと考えながらも理解している。まるでそれは人なのだ。

 

そこにメリディアンは付け込む。

命の価値、友の価値、恐怖の価値…それら全てをアレキサンダーの持つ"壺らしさ"と天秤にかけさせた。ただ生きて欲しいがために、苦渋の決断でメリディアンは尊厳を踏みにじる。

 

「まだ、戦い足りないぞ…アレキサンダー…ッ!まだまだ先へ行くのだろう、共に…ッ!」

 

だから言うのだ。

 

()()()()

「………ッ……────」

 

戦場に、次などない。

 

褪せ人は違うだろう。黄金の祝福を得た者は、違うだろう。挟間の地の多くにとって、違うのだろう。

けれども戦士の壺に次などなく、今しかない。今勝たなければ、それは割られて終わりなのだ。確かに、()()()()()()()()はある。

 

…そうではないのだ。覚悟を以って挑んだならば、次などあってはならないのだ。

覚悟とはそういうものだ。死力を尽くし、勝ったものだけが全てを手にし、負けた者は全てを失う、そういう覚悟だ。

それを踏みにじることなど、戦士としてあってはならない。

 

 

────そしてその言葉を、メリディアンに言わせてしまった。

 

 

アレキサンダーは死ぬほど後悔した。

…そしてそれでも尚、メリディアンに()()()()()()()

 

 

「────そう、か…貴公…俺は、邪魔な壺のようだな………ハッハッハ!何!気にするな!貴公らの雄姿は、この目で見届けてもらうからな!勝つのだぞ!メリディアン!」

「………ッ…!…すまないッ…!────パッチ!」

「へいぃッ!?」

 

アレキサンダーの後ろで、バレない様にと隠れていたパッチは、急な指名に驚く。

 

「アレキサンダーを任せたぞ!…アレキサンダーも、パッチを守ってやれ」

 

アレキサンダーのための優しさ(言い訳)が、突き刺さる。

遠ざかるメリディアン。その背中は、ひどく遠いものにアレキサンダーは感じた。

 

「ハッハッハ…"戦士"か………」

 

何が戦士。

パッチの横で、呆然と、それでも安堵してしまった自分がいたことに気が付き、アレキサンダーは絶望した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初手でのアレキサンダーの脱落。

 

なんとか()()()()でラダーンに接近を果たした英雄たち。

俊敏(しゅんびん)なブライヴが翻弄(ほんろう)し、トラゴスは一歩控えて大槌で叩く隙を伺う。ライオネルは魔法による射撃を主軸に距離を取り、鬱陶(うっとう)しがって近づこうとした瞬間に翁が背中を刻みに行く。サロリナは息切れによる脱落者によって包囲網が崩れないように祈祷で全員の疲労を癒し、それに近づこうとすればメリディアンの矢が顔面などを狙い、次いでメリディアンとの連携になれたブライヴが追撃をする。後に続くようにトラゴスが足元を崩しにかかり、ライオネルも重刺剣の鋭い一撃のチャンスを狙った。

 

集団から距離を離せないように、俯瞰して戦場を見下ろせるメリディアンが簡易的な指示を出すことで、勝手に彼らはどうにかしようと隣を見て動いてくれる。

 

英雄たちは精強だ。

 

それぞれの役割を理解し、即席の連携を築き、必殺の一撃を狙う。

()()ならば、これに対応できる者などいるはずもない。ましてラダーンは腐敗によって正気を失っているのだ。全盛期とは、話が違う。

 

当然、それでもラダーンは常軌を逸している。ただの剣技だけならば、これでどうにかなったかもしれない。

 

 

 

ラダーンには、重力魔法がある。

 

 

 

まずはライオネルだった。

 

二人いるうちの遠距離持ち、一人は手の届く範囲にいるのだから狙うのは当然。

…回復持ちのサロリナは後回しにされた。何故なら、()()()()()()のだから、重要性は低い。

 

 

────そうだ、ライオネルはただの一撃で吹き飛ばされた。

 

 

ラダーンが両手の大剣を地面に叩きつければ、彼らに対して強い"引力"が働いた。メリディアンを除く五名全員が、ラダーンに引き寄せられる!

最も近かったブライヴと翁は、密着するほどにラダーンに引き寄せられたが、()()()()()()()()()。吸い寄せられる力の、その勢いのままに、ラダーンの横をすり抜ける。トラゴスもまた同じだ。

 

しかし()()()()()()()()()にいたのはこの三人だけだった。

 

「…!」

「…ッ」

「…!?…まずい!」

 

三者がそれぞれラダーンを中心に反対側へ突き抜け距離を取ったその頃。

サロリナは転倒し、砂漠の上を転がる羽目になったものの、離れ過ぎていたために射程の外────つまりそれよりも近く、且つ遠すぎずに立ち回っていたライオネルは、ちょうどラダーンの剣の間合いのど真ん中に連れていかれてしまったのだ!

 

ブライヴが気付くも、遅い。

 

重力魔法の重みを帯びた大剣が、横薙ぎにライオネルに直撃し、()()()()()()()()

 

その大技の隙をついたのは立て直しの早かった翁だ。

刀に自らの血を這わせ、血の刃となす。

 

交差する連撃。刃の軌跡が赤く宙に傷を残すように、ラダーンの背中を襲った。それは確かに、この戦い初めての有効打。悍ましい血刃はブライヴが追撃を行うのを踏みとどまる程の鮮やかさを見せたのだ。

 

────それが、ブライヴの命運を分けた。

 

絶対の自信。

渾身の連撃。

数え切れぬ人を斬った呪刀の奥義は────しかしラダーンの動きを止めるに至らず。

 

重力の力を帯びた、ライオネルを葬った横薙ぎは、もう一方の大剣の追撃へと繋がる。振り向きざまの大上段からの振り下ろし。

翁はそれを見切り、回避。続く反対の手に持つ大剣の、同じような振り下ろし。これすらも翁は避けてみせた!────しかしそこまでたっだ。

 

重力の力は未だ失われず。振り下ろされた二振りの大剣、それを胸元を開くように天高く掲げれば、剣と砂漠との接地面だった場所から、強い衝撃波が全方位に(ほとばし)る。

 

…ブライヴは、踏み込むのを止めたために、それの回避に間に合った。トラゴスも、サロリナも同様だが、翁は今度は近すぎた。紙一重の見切りの間合い、重力の魔法と、あまりに相性が悪い!

 

重力波によって足元から高く宙に投げ出された翁…それを三度目の正直と言うように、ラダーンは掲げた大剣を振り下ろし、()()()()を作り上げる。

 

────周りの彼らが何もしなかったわけではない。

 

その一連の流れの間に、メリディアンはトレントの矢筒に交換しなければならない程に矢を放った。サロリナは申し訳程度だが投擲壺を投げたし、ブライヴもトラゴスも、翁へのとどめの瞬間、両側面から挟み込むように移動し、攻撃を仕掛けている。

 

 

それを…全て重力魔法が弾いていた。

 

 

「無茶苦茶な…ッ!」

 

メリディアンが思わず毒づく。間違いなく、ここにいる者の総意。

 

ライオネルと翁の脱落。傷は入っている。だが、まだ足りない。

メリディアンの"強射"を剣で弾きつつ、ラダーンは次なる獲物を探した。

 

────残り、四人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…貴公、なぜそこまで怯えている…」

 

アレキサンダーは失意の中、自分の影で戦いの様子を覗き見ているパッチに問いかけた。

パッチは褪せ人だ。何度死のうと祝福の元に蘇る。アレキサンダーの認識はそれだった。何の間違いもない、事実である。

 

アレキサンダーは、普段の熱さが今だけは失われてしまっていた。

それはもしかしたら、中身が零れてしまったことも影響しているのかもしれないが、今のアレキサンダーにはそんなことは関係ない。

 

…それのおかげ、と言っていいのか、パッチの表面上は飄々(ひょうひょう)とした内面を理解するに至る。己に失望してしまったからこそ、普段は見れていない、他者の細かいところまで気が回ったのかもしれない。

 

「あぁ…?…まぁ、あんた壺だもんな、知らんわな」

 

ケッ、とパッチがいつもの妙な"パッチ座り"をしてから語りだす。

 

「褪せ人っつーのはな、何も完全な不死身ってわけじゃねえのよ。いや、いや、黄金の祝福だろ?勿論あるさ、俺にも。言ったろ?()()()()()()()()

 

パッチが言うには、死ぬたびに()()()()()のだそうだ。

それが何になるかはわからない。

 

大事な思い出かもしれないし、嫌いな奴の顔かもしれない。

忠誠を誓った主かもしれないし、階段の登り方かもしれない。

 

個人差はあれど、死ぬたびに少しづつ削ぎ落され…やがて正気を失う。或いは、最早動かなくなる…それは一体、死と何が違う?

 

かつて黄金は永遠だった。

しかしエルデンリングが壊れてから、永遠にヒビが入った。

生きながらも失っていく。何を失ったかも気付かずに。そんな恐怖を抱えて、死の間際にどうか奪わないで下さいと懇願する。

やがて()()()()()()()()()()()()。そんな恐怖。

 

「死んで終わりのあんたには、分からねえだろうよ」

 

死とは、また違った恐怖だ。

アレキサンダーには、その恐怖がどういったものかは理解できない。

 

────けれども、メリディアンもまた、恐怖を感じていたことを理解する。

 

 

『次がある────』

 

 

メリディアンとて、次がないかもしれない上で、あの言葉を吐いたのだ。例えば弓の扱い方を忘れたら?二本の足で立つ方法を忘れたら?…戦士の誇りを、忘れてしまったら?

 

 

────ああ!なんて(むご)い!

 

それならば死んだ方が遥かにマシだ!

 

自分が自分でなくなることの、なんと恐ろしいことよ!

 

 

…だから改めて、メリディアンの勇気と、己の矮小さを悔やむ。何故なら今まさに、()()()()()()()()()()()()。それにすら気が付いていなかった!

故郷への郷愁(きょうしゅう)に心惹かれてしまったように!自分の心の真の弱いところを、アレキサンダーは今、正しく理解した!

 

()()!?なんとぬるい話をしていたのか!

ここで折れれば、二度と、二度と!共に歩もうなどと、()などと言えない!

 

絶望の前に肩を並べずして、何が"戦士"か!!そのままずっと甘えて()()()()()を続ける気か!アレキサンダーッ!!!

 

考えるのだ!!俺の内なる戦士よ!!何でもいい!!かの戦士たちに並ぶ、何か…何かを…内なる────…()

 

 

「────…貴公、頼みがある…なぁに!貴公は安全さ、無茶なことは言わん!このアレキサンダー…必ずや立ち上がってみせるぞ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 









毎度のことながら、読んでいただきありがとうございます!
戦闘シーン書くのって楽しいのですが、作者の引き出しが少な過ぎるという問題が立ちはだかる!ここぞという時に書くしかないのである…良く書けているかの自信はねえのです。

また、いつも感想を書いていただいてありがとうございます!やる気に直結するのは皆さんの声なのだと、とても実感していますね…!
なので感想等は雑にお気軽にどうぞー。お待ちしております!



■メリディアン
今まで彼視点が少なかったのは、そもそも見えている世界が違うため。
ゴドリックを送った時の言葉もこれ関係。
『黄金の君主よ、この空を燃やす炎と共にあれ』

メリナの成長を見届けたい。彼女にこれから生まれる"意志"、それをいつか裏切ってしまうかもしれないとしても。

アレキサンダーの持つ戦士としての尊厳、それが命より重いと知り尽くした上で、メリディアンは私情を通した。昔はそうではなかった。かつての己の戦士たる考えを変えたのは、一重に託された使命ゆえのことであったのだろうか。


■メリナ
トレントを託す。忘れてしまったメリナには、今はそれしか出来ないのだから。
メリディアンは彼女が悩んでいることに気がついている。


■ブライヴ
前衛の要。彼が落ちると途端に戦いが厳しくなる。
周りが減れば減るほど思うがままに戦えるというのもあるので、現状が一概に不利とも言い切れない。勝負はこれからだろう?


■アレキサンダー
どこかでずっと甘えがあった。ここに来てそれが響き始める。
メリディアンの我儘でもある優しさで思い知らされたものの、この恐怖を誰もが乗り越えていたのだと知った時、ようやく向き合えたのかもしれない。

絶望の、なんと生ぬるいことか。


■翁
歯を剥く老人を象った木の仮面をつけた剣士。
人間の速さを凌駕しており、恐らく今回のメンバーの中で1番の腕を持つ。
脱落。


■豪胆ライオネル
丸い黒鉄の鎧と特徴的なハットのような兜の騎士。
重刺剣と魔法を扱い、見た目と裏腹に堅実な戦闘を行う。
脱落。


■大角のトラゴス
大きな角をこしらえた鎧を着る大槌の騎士。"助勢の騎士"の二つ名を持つ。
名の通り即席の連携が得意で、無口に動きを合わせてくれる。


■指巫女サロリナ
導くべき褪せ人と出会えていない指巫女。
戦いには向いておらず、癒しの祈祷を使いサポートする。


■パッチ
迂闊なパッチ。
戦闘に参加する気はない。


■ラーヤ
パッチはなんで「さん」付け?人徳の違い。



-貴腐騎士の兜-

破砕戦争にて最強を謳われた騎士たちは
将軍ラダーンとの大戦を腐りながら戦い
やがて、朽ち果て倒れたという


-星砕きの追憶-

赤獅子の将軍は、重力の使い手でもあった
若き日、ラダーンはそれをサリアで修めた
みすぼらしい瘦せ馬と、ずっと共にあるために


-ラダーンの槍-

それは、彼の身体に無数に刺さっていた
貴腐の騎士たちの槍である


-ラダーンの驟雨-

低い姿勢で弓を構える戦技
構えながら、多数の矢を一気に空に射る
それは、驟雨しゅううのごとく敵に降り注ぐ


-ライオネルの鎧-

軍旗を背負った丸っこい鉄の胴鎧
豪胆ライオネルの装備
怖れを知らぬ気取った騎士は
故郷を追われたフィアに出会い
彼女の父たるを、自らに任じたという


-屍山血河-

葦の地の大剣客、「翁」の得物
数え切れぬ人を斬った呪刀
翁の剣を、狂気をその身で知ったとき
血の君主モーグは、提案したという
与えようぞ。渇くことのない修羅の生き様を


-グラビタス-

石の肌を持つ白王に由来する戦技
武器を地面に刺し、重力波を発生させ
ダメージを与えると共に、敵を引き寄せる


-星砕きの伝承-

デミゴッドで最も強いとされた英雄は
降る星に一人で挑み、これを砕き
以来、星の運命は封印されたという


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