サロリナが倒れる。
重力魔法によって生み出され、ばら撒かれた巨大な石の塊。純粋な質量弾はそれだけで人を死に至らしめる。
塊それ自体が直撃こそしなかったものの、砕けた破片が頭部を強かに打った。破片、それすら、拳大の石なのだ、苦しむ間も無かっただけ、救いだったかもしれない。
「シィッ…!」
名を叫ぶ代わりに、鋭く、歯の隙間から短く息を吐き出す。報いるならば、弦を弾くしかない。
それは石塊を
安定するはずもない空中で、メリディアンは神業めいた弓
次いでトレントの着地と同時に、もう一射。
"宿し撃ち"、モーゴットにも一撃を入れた、通常では在り得ない曲線を描き標的へと向かう戦技!
それを理解しているブライヴが自ら射撃の直前にメリディアンの目の前に飛び出すことで、相手に矢の軌道を隠すという、彼らが考えた連携。ラダーンに直進するブライヴの背後から矢が突如飛び出し、さしものラダーンも、ここに来て完璧なタイミングで足並みを揃えた攻撃に、さらに矢の直撃を許す。
…それでも、胸部に突き立てられようとも、未だ止まらず。
メリディアンもそれは理解していた、つまりこれもあくまで
ラダーンはまだ、たった今喰らった矢の衝撃と、首を
ほとんど反応がないように見えるが、僅かに、耐えるような仕草があったのを正面にいたブライヴは見過ごしていない。
迫るブライヴの、冷気を
踏み込んだ右脚が足下の砂を噴き上げるように舞い上がらせる。
だが、腰の入ってもいないそんなものなど…!ブライヴは視界を埋め尽くした大剣諸共、弾き飛ばすつもりで遠慮なく振り抜いた。
肉厚の大剣はブライヴの剣に押し出され、宙を舞う。
────直後、再び地面から"波"が爆発した。
「…っ拳で…!」
メリディアンは見た。ブライヴの剣とラダーンの剣がぶつかり合う直前に、ラダーンは大剣を手放していた。
そこから繰り出すのは、重い剣を振るうよりも遥かに早い
体勢を崩しながらも振り抜かれたグレートソードは巨大な剣を弾くことに成功したものの、それだけだ。
宙を舞う大剣。背後より奇襲するトラゴス。
大剣は、トラゴスの頭上を通り過ぎ────その前に重力魔法によって
「…ッ!?」
間一髪、トラゴスは脳天を割られるのを回避するも、右腕を深く抉られる。これでは、大槌を満足に振ることができない!
転倒しかけたブライヴよりも、確実に手負いのトラゴスを仕留めるためにラダーンがもう一本の大剣を振り向きざまに振るう!
「…────」
────メリディアンは
左目は、確かにラダーンの身体より
────それは"傷"だ。
傷より溢れ出る光、吹き出す黄金の祝福、それは狭間の地を生きるものたちが持つ、輝ける魂そのもの。
硬い殻の剥がれた場所、命に届き得る、剥き出しの"生命"!
ひび割れた器から水が
ラダーンの背に突き立っていた槍の刺し傷、翁が刻んだ連撃、それぞれが浴びせた技が与えた傷、その
背中より溢れる、夜に
まさに、吸い込まれるように、矢は傷に深く突き刺さった。
「………ッ■■■■■■■■…っ!!??」
言葉をなさない叫びが響く。
暴れるように大剣を振り回したラダーンから距離を取るブライヴとトラゴス。トラゴスは左腕のみでどうにか大槌を支えているが、それが全く役に立たないと悟ると大槌を手放し、変わりに無数に砂漠に突き立てられていた古びた武器を一振り、抜き取った。
ラダーン兵が使う、ウォーピックだ。古く、手入れもされていないと言うのに、不思議と腐りもせずに頑強さを保っている。
「すまん、遅れたわい…全く、年寄りにはここを走るだけでも辛いと言うのに」
「ジェーレン殿、切り込みを任せられるか…?」
「年寄りじゃ、長くは保たんだろうがのぅ…とはいえ若人に遅れを取るのも、まだもう少し先だと思いたいでな。任されよ」
「爺さん、邪魔はするなよ」
「噛み殺されるならば狼ではなく獅子だと決めておる、安心せい」
「トラゴス殿、少し下がって立ち回れるか?」
「…!」
「ありがとう」
ジェーレンが合流し、トラゴスの穴を埋める。ブライヴは息を整え、獣の如く姿勢を低くして備えた。
トラゴスはメリディアンの要請にグッ!とぶら下がった右腕のままに手振りで応え、それを確認したメリディアンはトレントで走り出そうと手綱を握り直す。
────次の瞬間、ラダーンが飛んだ。
「…っ…!?………どこにッ…!」
一瞬で姿を見失うほどの、重力魔法を駆使した大跳躍。
空を見上げる四人。メリディアンもまた同じように見上げ────思わず目を細めた。
空が燃えている。彼の目には、いつだってそうだった。眩く燃え上がる炎の空は、メリディアンからラダーンを見失わせてしまう。
デミゴッドの戦いを祝福するかのように、いつもよりも
「後じゃッ!」
ジェーレンの警告が耳を打ち、皆が、そしてメリディアンが振り向き見上げた。
────それが、致命的な隙になった。
"流れる星をすら律し、命の灯を高らかに輝かす"
己の命を燃やしながら"星"となったラダーンは、彼にはあまりにも眩しすぎた。全身より吹き出す彼にしか見えない炎。眩い空に、それ以上に輝く一等星が、メリディアンの左眼を焼く。思わず、仰け反ってしまうほどの極光。
星が、落ちてくる。
「────メリディアンッ!?」
その場を飛び退くブライヴが、一歩出遅れたメリディアンに叫んだ。彼の事情など知るはずもなく、メリディアンの致命的な遅れに対応できない。
ブライヴは見送るしかない…────だから、
ほんの少しでも、遠ざけようと、メリディアンを振り落とす。砂漠では足が取られ、初速が遅くなってしまうため、走り出すよりもこちらの方がよいと判断したのだ。
暴れ馬に吹き飛ばされるように、メリディアンが飛ぶ────それを、トラゴスが
ウォーピックを鉤のように見事に使いこなし、メリディアンの脇下に引っ掛けて投げ飛ばす。最早片腕となった自分が役に立てることはないという自身への認識が、助勢の騎士としての生き様が、無意識の内に身体を動かしていたのだ。
空中で、メリディアンがなんとか見る事が出来たのは、燃え上がる流星の炎の尾が、無慈悲にも通り抜けた残光のみだった。
「おい!本当にいいのかよ…!?」
「うむ!準備万端だな!」
「どうなっても知らねぇからなぁッ!?」
「大丈夫だ!俺は火に強い!さぁ!星が落ちたのなら、俺もそれに
空間が歪む。
紫電を
軽い、独特な足取り、地面を滑るような跳躍で後退する紅い騎士。
…やけに、ヘルムの側面を流れる風切り音が大きく聞こえた。己の息遣いすら聞こえてきそうな静寂の中で、パスンッ、と溜めた力が解放される快音が鳴る。
波打つ刃を赤髪の巨躯に突き立てようと踏み込んだ老人を狙う、太い腕の
鈍った動きから、紙一重で逃れる老人。
狼が冷たい長大な剣で足を切りつける。
怯んだその瞬間に老人はさらに脇腹を切りつけた。
止まらない。
すぐさま両名は離脱。
浅紫色の光が巨躯の周辺を圧し潰す。
光が収まるのを待つことなく半たれた矢。指先の感覚すら消えつつある極度の疲労感の中でもブレることのないそれは、しかし鎧の部分で強引に受けられる。
刺さりはするが、致命傷には程遠い。
「■■ッ■■■■■■!!!!」
止まらない…!
元より
ようやく、明らかに精彩を欠いた動きをするようになった今でも、その暴力が止むことはない。
メリディアンを狙った巨岩が複数飛来し、それらの隙間を縫うように身体を滑り込ませる。
死が身体の両面を掠って通り過ぎ、背後に着弾した轟音すら、鳴り続ける耳鳴りの音に勝らない。
極限の集中は、脳に多大な負担をかけ続けており、キィン、と頭の中で脳を痛め続ける不快な音が思考を奪おうと暴れまくる。それを出血するほど舌を噛むことで黙らせた。
────トレントは、永遠の女王マリカ、その直接の祝福を受けた霊馬、直ぐに復帰することは無理でも、死ぬことはない。
そう、トレント、そしてトラゴスに詫びつつも無理やり己を納得させ、精神を安定させる。
「オォォゥァッ!!」
重力魔法を使った後の硬直を狙い、ブライヴが獣の如き咆哮を上げて頭上から大剣を振り下ろす。刃は迎撃のために振り上げられたラダーンの剣と接触、その側面を火花を上げながら切先が滑り、交差。
互いの剣先は空、そして地面を突き刺すだけ。
次いでブライヴは砂漠に突き刺した
────反射的に、ブライヴは大剣を手放し、その場を飛び退く。目眩ましも含めた局地的な氷の嵐は、それでもラダーンがブライヴを見失うには弱すぎたらしい。頬を、一撃必殺の大振りが掠り、凍った汗が、ゾッと背中を冷やし尽くす。
だが、もう一人の剣士、ジェーレンが死角より接近するには十分な嵐。
炎を象った大剣が、ラダーンの背に突き刺さった!…いや、これは…!?
「
「────…クァッ!?」
メリディアンの警告は、彼の耳に届くには遅すぎた。
背を
彼の剣は、老いて尚鋭さを失ってなどいなかったが、老いたゆえに単純な力が足りていない…!急所を破壊することのない剣では、落ちる星は止められないッ!
大剣の
砂漠を転がり、痛みに
ラダーンは戦闘不能の老人を放置。これで、立っているのはもう、メリディアンと、ブライヴのみ。なんとか剣を回収出来たブライヴが、メリディアンに背を向けたまま、息も絶え絶えにそれでも笑った。
「面白く、なって、きたなッ…!」
「…ハ、…ハッ…!」
メリディアンは、言葉を返す余裕すらない。
ただブライヴに同調するように、短く笑って応えた。
状況は全く笑えない、それでも笑う。
ブライヴの背に、古い記憶が、古い血が騒ぐのを止められないから。獅子の背中、狼の背中、そしてここケイリッド。嵐を統べる王との最後の戦いを!
────静けさが、唐突に訪れる。
ラダーンとて、感覚や正気を失っているとしても、呼吸は乱れる。
それは彼が未だに跨っている痩せ馬も同じなのだ。示し合わせたかのように、呼吸を整えるための間が生まれた。
一部の隙もなく、向かい合う役者たち。誰のものかもわからない規則的な呼吸音をすぐ間近にあるように感じ取る。夜の静寂だけが、この祭りを見届けんと騒ぎ立てていた。
チリリと、果てなく続く砂漠の砂も、通り抜ける風も、燃える空も、星も、月も、黄金樹も、この三人から遠ざかろうと外へ外へと
後方へ大きく跳躍するブライヴ。
直後、周りの景色がラダーンへと吸い込まれる。
それに身を任せ、ラダーンの想定以上の速さでメリディアンは接近、彼の不動の身体を蹴り、勢いを殺さずに反対側へと突き抜けた!砂塗れになりながらも転がり、無理矢理に体勢を立て直す。
ブライヴたちが行った引力を活かした通り抜け、それをさらに洗練させたもの。
…しかしラダーンは最初からブライヴが狙いだったのか、背中を通り抜けたメリディアンのことを置いて跳躍。肉厚な剣の腹、それを壁に見立てて面によって圧し潰そうとする一撃に、やむを得ずブライヴは後退。そしてそれを、さらに追うように大きく前進するラダーン。
メリディアンとの距離が、
────距離を離すつもりか…!?
本来であれば、弓の達人より距離を離し、背中を向けるなど自殺行為。
しかしそもそもの身体の強靭さが違う上に、今は射撃をサポートする存在がほぼ皆無。距離を離した上で動き回っていれば、急所を突くことは至難の業!────短期決戦…ラダーンは、最優先でブライヴを落とすことに決めたのだ。
馬に乗ったラダーン、獣の素早さを持つブライヴ。
トレントを失ったメリディアンが追い付くには、速さが足りない…!砂上の走り辛さがまた邪魔をして、メリディアンは焦る気持ちを抑えられない。
ブライヴは、もう、限界が近い。
彼は、既に周りを見て動ける余裕など持ってはいなかった。
それでもメリディアンならば、やってくれると。ここまで築き上げた信頼が、
「ブライ、ヴッ…!」
出来得る限り張り上げたメリディアンの声、それすらも、彼の耳には…
────
「…ッ!?…ッメリディ────」
ブライヴは気が付いた。気が付いてしまった。
意識が目の前からメリディアンへと一瞬、向く。
集中が切れる。
漆黒の剣が襲う。
「ァガッァ…!!??」
「■■■■■■■■!!!!!」
────辛うじて、グレートソードで受けるブライヴ。その威力たるや、想像を絶するもの!…カーリア王家の剣は、それでも耐え切った…が、ブライヴは耐えきれずに真横へと吹き飛ばされてしまう!
強かに頭を打ったのだろう、這いつくばるばかりで、すぐに起き上がろうとしない!
なんとか、長弓の射程圏内にまで喰らいついていたメリディアンが矢を放つも、ここに来て
動揺。
心の乱れが、保たれていた極限の集中力を削ぎ、矢はそれを反映したかのようにラダーンの顔の真横を素通りする。メリディアンもまた、ブライヴを
ラニとの対話、あの時、メリナのために無意識に神経を尖らせたように、ブライヴもまた、彼にとって、同じくらい大事になった、なってしまった。それが生み出した致命的なミス。
────ダメだ…ダメだ…!
両断せんと振り下ろされる剣。
ただ懇願するように、メリディアンは彼の名を叫ぶ────
「ブライ「英雄ラダーンよッッッッ!!!!俺の名はアレキサンダァァぁぁァぁぁぁァぁぁぁアあぁぁあ!!!???」
────…彼の声は横合いから凄まじい勢いでカッ飛んできた壺によって掻き消されたのである。
『パッチよ!ここに大量の火炎壺がある!』
『なんでぇ?』
『さぁ!これを爆破するのだ!!』
『なんでぇ??…おいおい、どんだけ持ってんだよ…嘘だろ…?これを壺の内側に入れながら戦ってたのかよ…』
『油壺を持ってるならそれも買い取ろうではないか!』
『メリディアンの旦那にツケとくぜ…くそッ、これで死んだら、マジで鍋壺にしてやるからな…!』
────凄まじい爆発の力、加えて起爆と同時に使った嵐の力の勢いをそのままに、高速回転、かつ細かくバウンドしながらも突撃するアレキサンダー。上も下も何もわかったもんでもないが、
燃えながら回転しながら叫びながら決まったアレキサンダーのパンチは、ラダーンの左肩に直撃!あまりに強すぎるためにアレキサンダーの腕ごともぎ取って、一度も倒れていないラダーンをついに転倒させたッ!!
アレキサンダーはその勢いのまま、激しい砂埃と共に転がっていき………遠くの方で激しい水飛沫があがる。…おそらく、河の方に着水したのだろう。
アレキサンダーのもげた腕は、砂漠に
「────は、はっはッ…────戦士よッ…!!」
呆然としたのは一瞬。
言葉にはならない敬意を胸に、ついに湾曲した短剣を取り出す。体勢の崩れたラダーンの背より、立ち昇る…
未だに上手く立ち上がれないラダーンとブライヴ。たった今、投げ捨てた弓が砂の上を滑るよりも早く、黄金の炎を纏った刃が、ラダーンの背中へと
「■■■■■■■■!!!???」
燃える、燃える、燃え上がる。
一体、今の声は自分か、それともラダーンか?どちらの叫び声かもわからない。
度重なる戦いに歪んだ獅子の鎧を掴み、死んでも離さんとしがみつきながら刃を押し込む。ラダーンはまだ無事な右腕に持った剣を振り回しながら、メリディアンを引き剥がそうと暴れた。
「■■■■■…■■ッ!!!!!」
黄金が輝き、眩しい炎が巨躯を内側より燃やす…!そして…────
────彼は砂漠の上で星を見上げていた。
「────…?」
身体が動かない。
視界は開けている。ヘルムを、いつ取ったのだろうか?
焼けた夜空が眩しい。
思考が定まらない。
アレキサンダーは、立ち上がってくれた。
何故、私は立ち上がれない?
ブライヴは、どこだ?
そうだ…ブライヴ…!
地面を踏めない。
足が、ない。
足が…ッ!?
「────~~~~ッ…!!」
身体から溢れ出す黄金の炎、燃え上がる身体をそのままに、立っていたのはラダーン。焼けた空の下、最強のデミゴッドは倒れず。
近くにはひしゃげたヘルム、散らばる矢、突き刺さったアレキサンダーの腕、誰かの…いや、メリディアンの
ラダーンはあの状態からですら、
立っていることが不思議なほどだが、それでも両足を失い、倒れこむメリディアンと比べれば一目瞭然だろう。
短剣は、ラダーンを挟んだ反対側へと、黄金の残り香がを漂わせながら転がっている。
ラダーンはその短剣を見て────その近くにいたブライヴに視線が流れた。
ブライヴはなんとか、立ち上がろうとしているが、あの一撃が相当響いたのだろう、這うようにしながら鋭い眼光を、赤髪の獅子に向ける事しか出来ていない。その視線すらも、まともに定まっているとは言えず。
ゆっくりと、ふらつきながらも近づくラダーン。
足を失ったメリディアンなど目もくれず、
「─ラ─イ──、──…ッ…!」
声が、出ない。
掠れ切った声、喉の奥から内臓まで全て乾いてひび割れたような痛みが走る。足の痛みは、幸いにもまだ麻痺しているのか熱だけを感じるのみ。それでも、全身が悲鳴を上げていた。
左腕も、まともに動かすことが出来なかった。
残った右腕で、側に突き刺さったアレキサンダーの腕を支えに動こうとするも…身体のバランスが取れずに倒れこむ。なんとか膝立ちになり、乱れた枯れ葉色の頭髪を
血で染まる真っ赤な砂を、握りしめた。
────死ねばメリディアンの足も、傷の何もかもが元に戻るだろう。死ねば、
馬鹿なっ…ダメだ、今は死ねないッ!!
ブライヴが、死んでしまう…!
それではダメだ。ダメなのだ。
自分だけが生き残り、その果てにエルデンリングに見えたとしても、そんなものはダメなのだ。
メリディアンは、それを許さない。そんな末路は、
駆け回る痛みに、血か何かもわからないものを地面へ吐き出しぶち撒ける。
チカチカと真白に染まる視界を払い除け、重力に屈しようとする
────数知れない血で育った黄金樹、その"律"。
それを否定せんと託された私は、なればこそ
『────…待ってる』
『…!…ああ、皆で戻るさ────』
その言葉を、思い出す。
足がないからなんだというのだ!アレキサンダーは
口から溢れる血をそのままに、砂漠に突き刺さった古い錆びついた刃の欠片を、自らの手を傷つけるのに構わず握りしめ、赤獅子に投げつけるために振り上げた。
その瞬間。
「────受け取れィッ!!」
「…!」
張り上げられた、
両腕を破壊された。しかし大剣は振れずとも、弓を投げ渡すくらいは出来る。捨て置かれたジェーレンは、メリディアンの弓を回収してくれていたのだ。
手より血と共にポタりと落ちる錆びついた刃。
そのまま伸ばし掲げた右手で弓を受け取り…────しかし、動かない左腕。どうやって、射ればいい…?
ジェーレンと私を含めても、使える腕は一本だけだ。
────…!…いや!ある!
散らばった矢、その一本を引き寄せ。手にした弓を
「ええぃ無茶をする…!これで良いかッ!?」
それをジェーレンが支えた。
最早まともに動かない彼の両腕はぶら下がったまま、なんとか身体でアレキサンダーの
天高く伸びた腕、その拳に掛かる黒い弓。右手に矢を持ち、弦に指をかけ、ただ体重によって下へ、下へと引き絞る。
キリリ、と静かに、弦が音を奏でた。
暗く青い右眼が夜空に満ちた星々を射抜く。赤熱する左眼が燃え盛る空を貫く。
ラダーンも、ブライヴも、その両目には映していない。けれどもメリディアンは確かに、暗くも眩い空に
彼の積み上げた経験が、極限の精神状態が、吹き抜ける風を、巻き上がる砂を、それによって引っ張られる矢の軌道を幻視させる。
真っ直ぐに射る事も満足に出来ない状況だというのならば、
「…」
────今宵、"
彼の左眼の如く、赤熱するような色を帯びた鏃に、ジェーレンが目を見開く。燃え上がるような勢いもない。焼き払うような強さもない。
ただ、
揺らめくことのない冷たい鉄に宿った、
ヒンッ、と、夜空にメリディアンの"灯"が放たれた。
高く、高く、高く。
真っ直ぐに、どこまでも行けるよと言うように。小さくとも確かに、夜空を人々が見上げるには十分すぎる"導き"が昇っていく。
祝福の元に戻った
導きを失ったネフェリが、夜に静かに涙ぐむトープスが、旅立ちを前に故郷を惜しむミリセントが、楽器を穏やかに奏でるカーレが、火を囲うエドガーとイレーナの親子が、夢に沈み込んだラニが、城で祈るように目を閉じていたメリナが…小さな小さな灯火を見上げた。
黄金樹よりも高く、星よりも暖かく、月よりも寄り添ってくれるその灯を。
────それを見届けたメリディアンは崩れ落ちる。
その今にも閉じそうな燻る左目で、彼はラダーンを転がりながら見やった。
…ラダーンは全身から、彼にしか見えない炎が溢れだしていた。生きていることが不思議なほどの、小突かれただけで倒れてしまう程の、激しく燃える風前の灯火の"生命"。
「私たちは、星を落とします。"ラダーン様"…────どうか、ゆっくりと…お休みください」
天より、細く赤い尾を引いた星が、落ちた。
「…─?──!────────────────!」
「はい、お久しぶりです、ラダーン様も変わりなく」
「───────…───、──────?────」
「はい。王ゴッドフレイと我らその騎士は、必ずや嵐の王を討ち取るでしょう」
「──…────────、───────、───────」
「私もそう思っております。勇猛な者ばかりですから」
「──、─────?──────、───────────!」
「私ですか…?いえ、私は、皆の後ろから、弦を弾くばかりしか能がありませんので」
「────────────、───────、─────────────」
「…そうですね、そう見えていたのならば…私も嬉しい限りです」
「─────!────────────────────!─────!」
「貴方には、敵いませんね…では、しばしお別れです」
「いつか、貴方と共に戦える日を、心待ちにしております、ラダーン様」
果たされなかった願いが、遠く、遠く、夜空に翔けて見えなくなった。
まずは、いつも読んでくださる読者の皆様に感謝を。
これにてラダーン編を無事終えることが出来ました。
以前お伝えしました通り、これからまたしばらく間をあけてからの投稿になってしまいます。
…しかも、ちょうど繁忙期ですので、以前よりもずっと時間がかかってしまいそうです…そこは大変申し訳ないのですが、ご了承ください。
ただ、次の話だけはもしかしたらどこかでふらっと投稿するかもしれません…未定!
さて、ようやく折り返し地点が過ぎたくらいですが、省けるとこは出来るだけ省いて無駄をなくしていきたいところ…テンポを大事にしたいですね!全然守れてないけど!!
改めていつも感想を書いていただいてありがとうございます!
投稿していない間も、遠慮なく雑にぶち込んでください!喜ぶぜ!
■メリディアン
ラダーンがまだ若く、重力魔法も学んでいない頃に少しだけ交流があった。
彼の成した英雄譚も何もかも、メリディアンにとっては知らぬ話で、ただもう二度と肩を並べることはないという事実だけがそこにはある。
私たちは星を落とします。どうか、あなたがこの空を燃やす炎と共にあらんことを。
■メリナ
待つだけしか出来ない者は無力なのか。
よくある話だが、待っている人間がいるだけでそれは力になる。メリディアンもまた、それは例外ではない。
彼女が待っているからこそ、生き足掻ける。皆で戻ると、何気なく口にした言葉を守るために。
■ブライヴ
共に戦うのは存外悪くはない。
最後に立ったのはやはり俺たちだった。高揚感は隙となり地を這う羽目になってしまう。
その中で見上げた灯は、あまりに美しく目の前で落ちて見せた。
ああ、きっと俺たちならばやり遂げられる。
────そう、思っていたというのに。
■アレキサンダー
足がなくとも立ち上がれる。
それを見たメリディアンもまた、失おうと立ち上がるのだ。
人はなぜ堕ちる? 這い上がるためだ。
■ジェーレン
間近で見上げたそれは、特別な力があったわけではない。
けれどもその灯に、確かに導きを見た。
■ラダーン
古い無数の槍による刺し傷。身を蝕む腐敗、数えきれない切り傷、裂傷、突き立てられた矢。
満身創痍、正気を失い尚その強さは比類なきもの。
かつて見た弓に、その矢に、彼は敗れたのだからきっと本望だろうか。
□ラダーン
ゴッドフレイに憧れ、その戦士たちに憧れた。
母の友人、その子であるという彼とは、少しだけ話したことがあるが、なんとも獅子の配下らしくない心根まで穏やかな人物。
それでも戦士としての苛烈さがあることを知っている。斧で叩き切るだけが戦士ではない。あのような美しく黒い弓を、いつか引いてみたいものだ。
-指巫女サロリナの傀儡-
導くべき褪せ人に、出会えなかった指巫女の霊体
回復の祈祷に加え、聖水壺を用いるが
生来穏やかで、あまり戦いに向いていない
褪せ人のいない巫女、巫女のいない褪せ人
だが導きが、両者を結ぶことはない
-大山羊のタリスマン-
大山羊は、ある騎士の名で知られる
太く、強く、決して怯まぬトラゴスは
戦う者の、物言わぬ友であるという
-大山羊の兜-
トラゴスは、助勢の騎士として知られる
多くの褪せ人が、大角の助けを得て
狭間の脅威に対してきたのだ
-フランベルジュ-
炎のように波打つ刃を持つ大剣
赤獅子城は、炎により朱い腐敗に対している
故に、このジェーレンの愛剣は
いつか城の象徴となった
-王家のグレートソード-
カーリア王家の意匠が施されたグレートソード
半狼のブライヴの得物
生まれ落ちた運命に背き
ブライヴが、ラニだけに仕えると誓ったとき
この剣は誓いの証となり、冷たい魔力を帯びた
-岩石弾-
大地から岩塊を呼び、それを放つ
若きラダーンが修行したという重力の技
その師は、石の肌を持つ白王であった
-ラダーンの獅子鎧-
黄金獅子は、最初の王ゴッドフレイと
その宰相の獣、セローシュに由来するという
幼き日、ラダーンは戦王に心奪われたのだ
-星砕き-
若きラダーンが極めたという重力の技
師よ、感謝する。今こそ、我星に挑まん
-獅子の大弓-
将軍ラダーンが使った黒鉄の大弓
獅子の
※以下DLCのネタバレを含む作者の感想?なので、クリア前の人はご注意ください!
文字を白色にして一応隠しますので読む場合はお手数ですが、携帯ならば画面長押しで"選択"することで見ることができます。
ダークモードの方は普通に見えてしまうのでそこもご注意ください!
以前言いました通り、この小説はDLC発売前のプロットや流れでそのまま進めております。
ラダーンは正気を失ってなお最強!という風に書くつもりで、一連の決着までのそれぞれの流れも決めておりました。いやーなんとか締める事が出来てよかったかも!
D L C ラ ス ボ ス (デーン)
ミケラおま…!お前…!?
私はこの小説を書いていたせいで二重の意味で驚きましたよ!でもこの後さ…って気分になるんですもの!見抜けなかった私の負けか…!予想外なことが起きるのは非常に喜ばしい事なので…いやでも複雑ッ!