エルデンクエスト   作:凍り灯

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点る運命

 

 

 

 

 

────星々が動く。

 

夜空を横切るそれらはまさに流星群。

砕かれた"星"、その破片たちの行進。

 

メリディアンが星に届けと昇らせた"()"、見上げた視線をそのままに、ラダーンに敗れた祭りの勇者(褪せ人)たちは黄金の祝福の元から目撃する。

そして祭りを戦い抜いた者たち…アレキサンダーが海岸の浅瀬でプカプカと浮きながら、ブライヴが荒い息を隠しもしないままに片膝をつきながら、その美しくも恐ろしい光景に魅入られてしまっていた。

 

…ただ、"赤獅子城"から砂漠へ飛び出した薄赤髪の黄金の子だけは、夜空を横切る無数の子午線(しごせん)に目をやることもなく、砂の上をひた急いでいたのである。

 

 

この地の多くの者が空を見ていた。

正気を失った狭間の地に蔓延(はびこ)る者たちもやはり例外はなく、そうして理解する。掠れ切ったはずの心の欠片のどこかで。

 

 

星砕きの英雄が敗れた。

大ルーンが受け継がれた。

 

 

…間もなく一際大きな流星が、空を真っ直ぐに割る。

 

 

ああ、()き止められていた運命が再び、ゆっくりと流れ始めるのだ。もう、この流れは止まりやしない。

川を()き止めた英雄は、夜空へ旅立ったのだから。

 

 

────人々が夜空を見上げる中、メリディアンもまた掠れゆく意識の中で、それでもはっきりとその瞬間を見届けている。

 

 

遠くの空が白く光る。たった今"星"が、落ちたのだ。

 

 

本来であればサリアに落ちるはずであった"星"、しかしそれは砕かれ、封じられる。その結果、滅びゆく街の運命を変える代償だとでも言うように、ラダーンの家族(ラニ)の運命を止めてしまった。誰も気づかぬままに…

もしかしたらそれこそが、"誰か"の望んだ"結果"だったのかもしれない。

 

幾星霜(いくせいそう)を経て、ようやく動き出した。月の王女が望んだ暗き路への門は、この瞬間に開かれる。

さぁ割薬(わりやく)を詰めよ、英雄に残燭(ざんしょく)弔歌(ちょうか)を、(くすぶ)りの剣に(ふいご)をけしかけろ。

そしてまだ見ぬ果ての灯火へと漕ぎ出していけ。殺し、奪った血の川の上を征きながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は。

なぜ、()いている。

死なせることなぞ、わかっていたことだ。

この道は…

王を目指すこととは、つまりそういうことだと。

生きながらも失っていく。何を失ったかも気付かずに、そういった道なのだ。わかって、私は彼の手を引いたはずだ。なのになぜ、こんなにも、今更こんな、にも。

 

ああ、そうか。

そうだった。

彷徨うだけの私に、私に人の道を与えてくれたのは、あなただったのだ。あの日々の記憶を、持って行かれてしまうのではないか。

…私のことを忘れてしまうのではないか。

未だかつて一度も感じたことがない、"恐怖"がある。

 

感じている、これは、私自身だけの感情ではない。

メリディアン、彼の母、赤髪のメリディアンを失うことを恐れた女王マリカの恐怖、それを確かに感じる。重なる、重なってしまう。

そうだ、だってメリディアン()を殺したのは…────(マリカ)だったのだから。

私のせいで…

私が、私が…!ああ!私がっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

炎のようにそれは熱く、燃え落ちる星のような激しさ。

 

「    」

 

ラダーンの"大ルーン"。

メリディアンは、それを両手で包んで抱きしめた。どうかゆっくりとお休み下さいと。

 

「────」

 

どうか、あなたがこの空を燃やす炎と共にあらんことを。

 

「メ────」

 

 

 

 

 

「…────────い…────おい…────おい!生きてるか…?」

 

暗闇に落ちかけていた意識が、自らを呼ぶ声で浮き上がる。激痛と共に。

 

「ブライ、ヴ…」

「…すまんな、わしは祈祷も使えぬ身。流石にこれは…手の施しようがない」

 

死に際のメリディアンの元へ、ある程度動けるようになったブライヴが一足先に駆けつける。

 

四肢は機能のほとんどを失っており、ラダーンから引きはがされる時に強かに頭部を殴られでもしたのだろうか。普段は彼の枯葉色の頭部を隠すヘルムはひしゃげ、跡形もなく飛び散っていた。

当然に守られるべき頭部も無事なわけがなく、大量の血によって赤く染まった髪の毛は、砂漠に力なく埋もれるばかり。

内臓もひどくやられているのだろう、唇より溢れ続ける血が真紅のサーコートを赤黒く(むしば)む。…最早、なぜまだ生きていられるかわからない程である。

 

この悲惨な状態に、最早一度死ぬしかないとジェーレンは割り切っており、当然メリディアンもまた諦めていた。

 

"どうしようもない"。なればこそ、時に介錯が必要な時もあるだろう。

 

しかし褪せ人は死ねば()()()()()、場合によってはその介錯こそが()()()となり、意志を失った()()()として蘇るかもしれない。その"責"を、メリディアンは誰にも与えたくなどなかった。僅かでも可能性があるというならば。

 

"苦しみから解放する"。ジェーレンのその提案をメリディアンは跳ね除け、ブライヴもまたメリディアンのその意志を尊重する。人は死に際に己の本性を(さら)け出すなどと言うが、メリディアンはどこまで行っても彼でしかなかった…半狼は、彼の飛び出した矢のようにぶれることのないその心に敬意を払い、黙して受け入れる。

 

つまりこの瞬間、二人は彼の看取り人となったということだ。

 

何度でも死ねる、しかし、()()()()()()()()()()()()()()。これが本当に、最後かもしれない。褪せ人の多くが持つ、"恐怖()"が間もなくやってくる。

 

…とはいえブライヴは、メリディアンが再び立ち上がる事を確信していた。

 

彼は運命に導かれている。いや、()()()()()()()()気がする。それは与えられた()()なのか、それとも彼だからこそ成せることなのかは勿論わからない。

リエーニエで一度死んだ時もそうだ、不思議と、大丈夫だという安心感が彼の中にあった。

 

────信頼…なのだろうか…?これは俺の、ただの願望なのだろうか?

 

ブライヴは明確に言葉を見つけられない。

そうさ、まだまだ戦えるはずだ、そうだろう?そんな身勝手な期待なのだろうか…

 

…だとしても、その死に際、凄惨(せいさん)な姿に、思うところがないほど、ブライヴも薄情ではない。過度な同情などありはしないが、(ねぎら)いの言葉くらい、どうしても出てくるものだ。

 

浅い呼吸を繰り返すメリディアンの横へしゃがみ、彼は静かに語りかける。

 

 

「────この祭りの誉れは、間違いなく、ラダーンと、そしてお前のものだ」

 

 

本心から、彼はこの称賛を投げかけた。

ブライヴは、誰が何と言おうと自身の言葉が正しいと信じている。

 

最初から、ラダーンは妙にメリディアンを意識していたように感じた、ということもある。

槍に貫かれてでも立っているような巨漢が、対峙したばかりの弓騎士を狙うには妙な違和感があったのだ。

そもそも最初から前衛組にあの驟雨(しゅうう)の如き矢の雨を集中させていれば、幾らブライヴでも危うかったというのをあの瞬間ですら冷静に感じ取っていたのを覚えている。

…それでもラダーンはメリディアンを、正気を失って尚真っ先に狙ったではないか。

明らかに有効打になりうる大剣を持ったブライヴが全速力で近づき続けているにも関わらず、だ。

 

────そうしてブライヴが不覚にも一撃をくらい、動くこともままならぬ死の間際で…けれどもそれ以上に血に塗れていたメリディアンは()()()

 

多くの偶然が重なったから?いや、()()()()()()。そうなったのはメリディアンの行動ゆえだ。

アレキサンダーが立ち上がったのもその一つ。彼の言葉が、かの戦士の壺をこの戦いで成長させるに至る。メリディアンの言葉だからこそ、だ。パッチがアレキサンダーに賭けたのもそうだ。戯言と切り捨てずにいたのは、彼らの繋がりがあってこそだろう。

トラゴスやサロリナがこちらの動きに合わせてくれたのも、彼らの役割、それだけではないはず。()()に勝機を見出したからこそ、メリディアンを中心にこの戦いは回ったのだ。でなければ彼の言葉を、聞くはずもないだろう。

 

ブライヴらがメリディアンを信頼するように、彼には会ったばかりでもどこか人を信じさせるところがある。この地では酔狂な、彼の在り様がそれを助長していたのかもしれない。

 

か細いなれど確かに因果があり、やがて一本の矢となって勝利したのだと、そう思う。思いたい。

 

そんなブライヴの言葉を聞き、メリディアンは血を溢れさせながらも、小さく笑う。

 

────全く、本当に、お前は………

 

無意識に、右腕が半狼へと伸びる。

 

胸元よりほんの少しだけ高く上がった腕は、やはりそれ以上は上がることなく────落ちる前にメリナが両手で受け止めた。

 

「────…」

「…────」

 

両者の間に、言葉はなかった。

乱れた息遣いは、きっと自分のものだったのだろう。

 

どんな表情を彼女はしていたのだろうか?最早、その目は何も映していない。

空の()()()も、夜の星々も、ぼやけるばかり。

けれども痛みすら失くした右手を包んだ温もりだけは、しかと感じ取れたような気がした。

 

彼女のその、不安も。

 

 

「────すまん…限、か…ぃ、だ」

 

 

そうして彼の意識は今度こそ暗闇に落ちる。

 

…その前に。

彼女を、あんしん、させなく、ては。

 

 

「かなら、ず、もどる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ほら、また。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

くらい。

真っ暗だ。

暗闇は続く。

歩けど歩けど。

一体、どこまで。

ああ、覚えている。

そら、やつらが来た。

あの黒い木が、燭台が。

ぼつりぼつりと並んでる。

おいでおいでと言うように。

からすが鳴いて、羽音がした。

どこにもそんなのはいないのに。

そうして、やっぱり列は途切れて。

ぱさりとあれらは暗く消えてしまう。

羽音だけが延々と耳の奥にこびり付く。

しかしおかしい、何時までたっても何も。

そうだ、何にもこの身には起こりやしない。

砕けた女の人が一人、背を向けて立っている。

いってらっしゃい。私に青白く手を振り続ける。

手を伸ばし、私は叫ぶ「待って、もう少しだけこ

 

 

「─────」

 

 

彼方から、自身を呼ぶ遠吠えに振り向く。一体誰の。

 

そうして夢のように全てを忘れてしまったから。もう振り返らなかった。

最後に一度だけ、優しい青い炎が、身体を包んで背を撫でた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────あぁ、戻ったか…大事ないな?」

「………お前…ブライヴ、か?」

「…?…妙なことを聞く。見ればわかるだろうが」

「────…あぁ…あぁ、そうだな、そうだった…大丈夫だ、この身体はまだ、戦うには支障ない」

 

(まぶた)に張り付いた暗闇を払いのけ、メリディアンは砂を踏みしめて立ち上がる。

払いのけた暗闇に、どこか…ブライヴとは違う()()を見た気がしたが、それは、気のせいのはずだ…思考を切り替えろ。

 

目の前には細い祝福の光。見上げればアレキサンダーに手足をくっつけているブライヴとジェーレン。「もうちょっと上だ貴公!」「ここでよいか?」「もっと下だ貴公!」「どこでもよかろう!」「良くはないだろう…」そんなやり取り。

 

その隣でメリナは呆れたようにトレントを撫でていて…そうだ、トレントっ!

 

「トレント!…すまん…!無事か?」

「ヒヒン」

 

急いで近寄って首周りを撫でてやれば、いつも通りの反応が返ってくる。

 

死んで無事か?とはおかしなことだが、どうやらトレントも問題なく戻れたらしい。如何せん、意志疎通には限度があり、その帰還の仕組みもわからない。褪せ人のように、失うのか、そうではないのか。壮健な様子に安堵し、そして自分のことにようやく思考を回す。

 

 

私は一体、何を失った(置いてきた)

 

 

何を失ったかも、わからない。背に隙間風が入り込むような、つい震えてしまうような不快感。

けれども戦い続けることが出来るならばそれでいいではないか。使命を、目的を果たすまで動けるのならばと、自らを納得させる。

見ることも出来ないならば、今は見えないままでいい。何かを忘れていたとしても、忘れていることを認識できないならば、忘れたままでいればいい。少なくとも、メリナたちのことを忘れてはいないのだから。

 

恐怖はあらゆるものを鈍らせ、また手先を震えさせる。ゆえに忘れよ、されど忘れることなかれ。

言葉遊びではない。

メリディアンはいつだって怯えながら、思考の外にそれを追いやり続ける。誰だってそのはずなのだと、信じている。恐怖とは克服するものではなく、立ち向かい続けるものだ。ましてや褪せ人、幾度と死ねる身を持っていてその程度でぶれる矢など。

 

…沈んだ思考を引き上げたのは、ジっと、隣から突き刺さる視線。顔を横へ向けるとメリナが、得も言えぬ顔でこちらを見つめていた。

 

ややハの字に寄った眉、少しだけ開いた唇は、何か、言葉に困っているようにも見える。

…彼女がそうでも、私が言う言葉は、既に決まっているのだ。

 

「戻った…ちゃんと、皆で」

「ええ………おかえりなさい」

 

全てを呑み込んで、メリナが応えてくれた。きっと言ってやりたいこともあったろうに、なんとも珍しく、小さな笑みを添えて。

ようやく、戦いに勝利したのだと、私は実感できた気がした。

 

「もう少しだけ右だ!…ん?…ああ、貴公、戻ったか!見事な戦いであったな。貴公こそ、英雄よ!」

 

動くな馬鹿。そうひっぱたくブライヴに構わずぐるりと顔…顔?を向けるアレキサンダー。

その声色は、今までとはどこか違う、静かな決意を(まと)う。

 

「アレキサンダー…?」

「…それに比べ俺は、ダメ壺であった。一撃でひび割れ、中身がかなりこぼれてしまって…そこからは、ただの臆病者だった────…ああ、だが、俺は諦めなかったぞ、貴公…諦めなかったぞっ…!」

 

────震える声は、恐怖を思い出すから。

残った左腕をも震えるのは、その拳が恐怖を凌駕(りょうが)した喜びからか。

心は怯え、けれども身体は立ち向かう覚悟を宿す。壺らしくもなく、硬い陶器の殻の内に納まりきっていなかった彼の感情(恐怖)は、確かに彼を"戦士"として昇華させた。

 

"戦士の壺"、しかし善良な()()のそれが、どうして戦士と言えようか?

名は体を表すと言うが、それは思い込んでいるだけの、ただの戦える壺でしかなかったのだ。誇りも何もかも、内に仕舞いこんだ死体から滲み出た"借り物"でしかなかった。

「戦って強くなる」その先は?そんなもの、なかったのだ。()()()()()()()()()。アレキサンダーも他の戦士の壺と同じく、そこは変わることなどなかった。

今までは。

 

彼は、"(中身)"からではない、"外"からの、仲間と歩んだこの道そのものによって答えを得た。誰かからの残り物でも、借り物でもない、彼自身の答えだ。

 

『────…アレキサンダー、まだ、私は共に戦いたい』

 

脳裏に焼きついたメリディアンの言葉。

そうとも、”共に歩む”

 

そのためにこの拳を振るう。

 

「貴公、俺はもっと強くなるぞ…楽しみにしていてくれよ!」

「おぬし、動くなと言っておろうに」

「おい…いい加減にしろ、片手片足でいいんだな?」

「良いわけなかろう!貴公らは少し空気を読んでくれ!」

あ゛??(てめぇが言うな)

「おお…ブライヴがキレた」

「ちょっと、落ち着いて」

「ヒヒン…」

 

何かを失ったのかもしれないが、それ以上に、私たちは確かなものを得たのだと、メリディアンは満足して笑えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜が明け、空が再び赤く染まり、それが幾度か繰り返した頃。

城の中で休息を取っていたメリディアンたちは、ジェーレンに別れを告げる。アレキサンダーの手足は元に戻り、ひび割れた身体も見た目こそ危ういままだが、実はぴったりとくっついているらしい。摩訶不思議壺人の神秘なり。

 

城で体を休める合間、メリディアンは一度円卓へ赴き、装備を整えている。

砕けた手甲と足甲は一新され、銅鎧は鍛治師ヒューグの手によって修復されているのだ!ヘルムは以前と同じどこにでもある汎用の騎士兜である。心機一転といったところか。

 

これら装備は円卓の"双子の老婆"より仕入れたものであるが、かの老婆たちは二本指の言葉を伝える"指読みのエンヤ"と同じように、黄金樹に刻まれた"追憶"より品々を取引しているらしい。名もなき英雄の力を受け継いでいる、そう思うと何やら出てくるやる気というのもあるものだ。

 

 

「────勇者よ。おぬしに感謝しよう。素晴らしい戦祭りであった。将軍も、きっと喜んでおられる…腐敗に侵され、狂い(ただ)れていくよりも、よほど誉ある最期だったろう…さて、ようやく、儂の役目も終わった」

 

肩の荷が下りたのだろう、彼の声からは燃えるような気迫が抜けつつある。

当然だ。とてもとても長い間、ラダーンが朱い空の元より解放される時を待っていたのだから。

誰もが正気を失っていく中で誇りを守り続けるのは思っているよりずっと難しい。炎には薪が必要なように、それは放っておいても燃え続けていられるものではないのだ。

 

「もうこの砦に残る理由もない…旅に出ようと思っている。儂にも、儂だけの、古い思いがあるのじゃよ。縁があれば、またどこかで会おう」

 

一抹の寂しさを背に、ジェーレンはくしゃりとメリディアンたちに笑いかけた。

………その時チラリ、とメリナとブライヴとアレキサンダーはメリディアンを横目で見やる。

 

『ジェーレン殿、その道行、やがて別れるまでだとしても一緒に来ないか?』

 

…的なことを言うのかな、と考える一同。

 

「ジェーレン殿、その道行、或いはその果てで再び相見(あいまみ)えんことを願って」

「ああ、さらばじゃ。灯火の勇者よ」

 

────言わないのか…

というのも、なんとこいつ魔術街サリアで隻腕の剣士、"ミリセント"を助け起こした時には彼女を旅に誘っている。それは当人から断られてしまったのだが…いやしかしどういう基準で勧誘しているんだ…?謎は深まる。

疑問に思いつつもわざわざ聞く程に興味があるわけでもなし。まぁいいかと忘れることにしたのはブライヴ。

 

一先ずケイリッドを抜けるべく、相も変わらず目に痛い風景を進む中で…アレキサンダーが切り出していく。

 

「なぁ貴公、騎士ジェーレンをこの旅路に加えなくて良かったのか?」

「…それは、私も気になっていた…あなた、誘う時と誘わない時があるけれど、どうして?」

 

…「興味がない」と思ったはいいものの、その話題があがってしまうのならば気になるのが狼生。ブライヴもピロリと耳を動かしメリディアンの答えを聞く構え。

 

「うん?…旅に出ると言うからには、邪魔するわけにもいくまい…一人秘めた古い約束があるようだし、それは彼だけのものであるべきだ」

「ミリセントは?」

 

彼女もまた、旅に出ると言っていたはず。とはメリナ。

 

 

『…私は、旅に出ようと思う。あの"針"を身体に入れてから、(おぼろ)げに思い出してきたんだ、自分の宿命を…ああ、それもすべて、君のおかげだ。私はミリセント。いつかどこかで、また会おう』

 

 

メリディアンはミリセントのこの言葉を思い返す。

 

サリアの街での戦闘、その時アレキサンダーが賢者"ゴーリー"と約束してしまったがゆえに助けることとなったミリセント。一人教会で"腐れ"に侵され、死を待つだけだった彼女。腐敗が溜まり切ったエオニアの沼の中心で、腐敗の病を抑えるという"無垢金の針"を四苦八苦しながらも探し当て彼女を救った後に、そんなやりとりがあったのだ。

 

彼女のことは誘ったでしょう?という問いにメリディアンは。

 

「宿命を背負った彼女だが、幾ら強かろうと片腕で渡るにはこの地は厳しいだろう?せめて失われた腕の代わりがあるべきだと思ってな…人に甘えたままだと、意志も剣も鈍ってしまうかもしれないと断られたが…」

 

旅に必要な日用品とかその他諸々を押し付ける事しか出来なかった!と残念そうなメリディアン。

…真っ当過ぎる理由だ。秒速でアレキサンダーを勧誘していたことが記憶に残っているせいか、条件反射で言っているという錯覚に陥っていたのかも知れない…いや、彼らはメリディアンのせいで麻痺しているが、この狭間の地で自然と助け合いの精神で行こうとすること自体は珍しいので、ある意味真っ当ではないのだが…

 

「…戦士の…ネフェリは?」

「彼女か…」

 

 

『…ああ、お前だったか。お前は、どう見る?この村の惨状を…幼き日、同じ光景を見たことがある。弱き者たちの蹂躙(じゅうりん)、略奪、殺戮(さつりく)を…人の世の悪夢を』

 

 

────日陰に覆われた"しろがね村"そこで再開した彼女と共に、村を(むご)たらしく襲った襲撃犯を成敗。それでも心が欠片も晴れた様子のない彼女を、メリディアンは気遣いながらも共に行こうなどとは言わなかった。それはゴドリックを共に打倒した時もそうだ。

 

「彼女は、エルデの王を目指していた…いや、あれは…彼女本人というよりは…────ともかく、王を目指す褪せ人であるならば、いずれ道は別たれる…それはいい。だが、褪せ人同士の確執などどいう理由で、メリナたちまで巻き込みたくはない。我々は目的は違えど、いや違うからこそ、共に歩めると思ってるのだ」

 

褪せ人を誘わないのはそういう理由か…やっぱり真っ当な理由だった…

 

「お前…ちゃんと人を選んでたのか…」

「何だと思っている?」

 

え?見境なしだと思われてる?私??

いやいや命を預ける相手なのだから適当に話しかけたりは…

赤獅子城での広場(翁へこんにちは)の時?肝を冷やした?…いや、すまん…どうしても言っておきたくて…いやその…すまん…性分なのだ…多分、またやるかな………頬をつねるなメリナ、よく伸びるとはいえ…アレキサンダー、お前の手ではシャレにならないからやめてくれ。

 

 

────なんて(たわむ)れながらも目指すはカーリアの城。まずはイジーに報告せねばなるまい。

 

 

大きな戦いの後の安堵のせいか、いつもより中身のない会話を楽しみながら赤い世界を横切っていく。抜けるのも一苦労。

やたらデカいカラスや犬はジェーレン(いわ)く特殊な方法で"腐れ"を抜かねばならないといけないと食えないらしく、ブライヴはご立腹。

中身が減ったり増えたりしたアレキサンダーは戦い方の調整中なのか手探りで危なっかしい。

トレントは一度死んだことがやっぱり怖かったのか、くっつき気味。

メリナは…メリナは以前より、不安そうな目で見てくるようになった。それが何故なのかは、ゆっくり知っていけばいい。急ぐ必要などないのだ。

 

そう、大ルーンを二つ得たとはいえ、まだまだ先は長いのだから…

 

皆が身体を休める中、ひっそりと、メリディアンは己の内に意識を飛ばす。

そこに確かにある(◽️)の温かさに、彼は儚く笑って虚しさから天を見上げた。既に日は落ち始めていて、彼らが向かわんとする道の先は暗がりと月が空に浮かび始めている。

 

その(よい)の青さも、メリディアンだけは見ることが叶わない。

空はいつだってこんなにも燃えているのだ。黄金は、いつだってこの目に燃えゆく運命を幻視させるのだ…ただ一人私だけの、赤く眩しい世界。

 

彼はこの胸に抱きつく寂しさを、一人抱え直して夕闇を見届けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 









一応、サブタイの"点る"は"ともる"と読みます。
火がついた、とでも思っていただければ。

…皆様お久しぶりです。
ナイトレイン発売前に生存報告を兼ねて前回の話のエピローグ、兼これからのプロローグとして出させていただきました。
目下製作中ですので、少し…どころか、またほどほどに待たせることになると思いますがよろしくお願いします。石は投げていいです、気合いで受け止めましょう。

一応最終話までの主要な会話部分は出来上がっており、その肉付け(これが一番大変)に奔走してる最中です。(絶対途中で書き直しが増えるやつ)
まとめて書き終わらないと作者の頭では整合性がとれない場所が出てきそうと恐怖しておりますので、本当は現段階でもあと5話くらい出せるのですが…ここで一旦ストップ。

ナイトレインも遊びたいのでさらに時間がかかりそうで申し訳ない…どうか気長に待っていただけるとありがたいです。感想お待ちしております。

あと、キャラや物語…というかオリジナルの要素もあってか複雑化しているので、各キャラの情報をまとめる話を入れるかどうか迷っています。
ちなみに、私はあまりやる気はないので(読み辛くとも雰囲気を重視したい)欲しい!という声がない限りはこのままで行かせていただきます!

前半エピローグとしてのイメージ楽曲は日食なつこ氏の「ハッカシロップ」です。
この方の曲を聴きながら考えたやつなので、イメージ曲は全てそちらから拝借しております。たまに布教してくよ。



■メリディアン
何かを失い戻ってくる。恐怖はあれど、その程度で鈍ることなし。
あと装備を一新。
すぐナンパするやつとか思われていてショックだった。ちゃんと彼なりのロジックがある。
彼にしか見えない燃える空に、どこか孤独を感じている…そのことすら、いまだ誰も知らず。


■メリナ
自身が分たれる前の魂、マリカの記憶に悩まされる。
失う恐怖を得つつある。それは良いことなのかそれとも…


■ブライヴ
メリディアンこそが運命を切り開き、突き進む矢なのだと確信した。
けれども彼の"運命"もまた、すぐそこにまで迫ってきている。


◽️アレキサンダー
そうあれかしと作られた戦士の壺。
戦うことは当たり前で、本来プログラムされた"習性"でしかなかった。
恐怖と普遍を超えて、戦う理由を彼は見つけた。


◽️ジェーレン
メリディアンの"灯"を間近で目撃したため、メリディアンが何かを成すと期待している。
古い約束を守るために、旅立った。


◽️ミリンセント
メリディアンらが助けた隻腕の赤髪の剣士。
メリナと彼女は互いに何かシンパシーを感じていたようだが…?旅の同行は断り、一人使命に走る。
そして夜空に昇る"灯"を見た。


◽️ネフェリ
失意の中の彼女、それでもメリディアンは手を伸ばせなかった。
メリディアンは特に褪せ人を旅に連れていくことに抵抗があるようだ。純粋な黄金の使命を目指すものならば、尚更に。
彼女はあの"灯"を見なかった。



-星砕きの戦い-

ラダーン、サリアの護りとなり
唯一人星に対し、それを砕く


-ラダーンの大ルーン-

その大ルーンは、赤く燃えている
朱い腐敗、その浸食に抗するために





-爆ぜる霊炎-

まだ黄金樹無き頃、死は霊炎に焼かれた
死の鳥は、その火守りなのだ


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