「ブライヴ…ブライヴ」
「────ああ、お前か。手間をかけさせたな。約束の礼だ、貰ってくれ」
少しだけ、裏切り者の"ダリウィル"のことで上の空だったブライヴは、メリディアンの姿を認めるや否や淡々と話を進めていく。さっさと別れるか、そういう言葉が次に続きそうだ。
────感傷はある、だが切り替えが早い。やはり良い。
そんな考えを目の前の男がしているとは知らずに、ブライヴもまたメリディアンを改めて見返す。
────全く不快感のない弓
ブライヴはかつて起こった"破砕戦争"のような集団での戦闘の経験はない。一匹狼、稀に組むことはあれど、基本的にはその在り様は変わることはなかった。
かつて共に任に当たった者もいた。そいつはメリディアンのように弓を扱っていたのだが、どうにも嚙み合わなかったのだ。
踏み込む直前に矢が敵に差し込まれれば確かに必殺の連携となるだろう。だがそこに信頼がなければ形として理想的でもやり辛い…つまり気が散る。
ブライヴにとってこれが気に入らなかった。
戦いに正々堂々も何もないが、
好きなように互いにやる。
その上で、互いの邪魔はしない。
求めていたのはこれだ。それをメリディアンはやって見せた。
…そのメリディアンが、ブライヴに気を使ってこのようにやったのは言うまでもない。営業とはそういうものであるからして。
組まない男が何を嫌うか、ということはよく知っている。正確には「集団を率いてはいるが単騎無双できる者が、背中を任せる者に何を求めるか」ということなのだけれど。求めるものは両者とも同じ。メリディアンはその豊富な集団での実戦経験からそれを良く学んでいた。
つまりブライヴからの評価点は上がったと見ていいだろうと、メリディアンはヨシと考える。
封牢の外でトレントと待っていたメリナは、戻ってきてから二人の空気が少し変わったのに気が付いた。なんだろうか、小さな…信頼?だろうか。
戦いを通して、二人は互いに何か感じ入るところがあったらしい。
「礼のことなんだが、相談がある」
「…相談?」
「単刀直入に言おう。共に旅をしないか?」
「は?」
怪訝そうな声、メリナはなんかいい感じの信頼感が霧散するのが目に見えるようで眉間に皺を寄せた。
…口を挟んだ方がいいのだろうか?そんな心配の視線はメリディアンには伝わらずに話は進む。
「────で、どういうつもりだ」
「私は褪せ人だ、エルデンリングを求めて旅をしている。率直に言ってこの旅に前衛を務める人材が欲しい」
ブライヴはメリディアンの言わんとしていることは理解した。理解したが、頷くかどうかは当然別の話であって。
「断る。俺にはやることがある」
「それを私も手伝う。今回のように、お前が求めることは私たちが協力する。だから私の求めることにも、協力して欲しいんだ」
私も入ってるのか。
そんなことをこっそり考えたメリナの前の半狼は、しかし少しだけ考えるそぶりを見せた。
「つまり、契約か」
「持ちつ持たれつ…お前にはまだやることがあると見た。憶測だが私たちのように人手が足らないんじゃないか?もしそうならば、悪い話でもないとは思う。矢面に立つのはブライヴの役目になってしまうが、いざという時は私を盾にすればいい。褪せ人だ、何度死のうと構いやしない…どうか検討して欲しい」
あと食事はこっちで確保するよ?
地味に最後の奴が魅力的だったとは明かせないが、ブライヴはそれを
「贅沢なやつだ。回りくどくない奴は嫌いじゃない。だが、わざわざ付き歩く理由もない…時間の無駄だったな、だが協力の話は覚えておくとしよう」
「…む」
────引くべきか、押すべきか。
ここが肝心だ。悪い印象を与えすぎるのは良くはない、また次の機会を狙う方が良いのではないか?
…だが、ここで引けばいつ会えるかもわからない。最悪ブライヴが死んでいる可能性だって幾らでもある。作戦変更、押してダメなら…引いた振りをして押せ!
「────そうか…そうだ、別れる前に一つひとつ聞きたいことがあったんだ、
「ほう…?何故そんなことをお前が気にする」
興味を引くため半分…そして、自身の
騙すようで悪いが、だが聞きたいことでもあったのも本当のことだ。メリディアンの質問に、メリナも少し興味を持つ。カーレの所で話していた「聞きたいこと」を聞くのだろうか?と。
そんな内心を余所に、ブライヴの目は鋭い。一体、この褪せ人は何を知っているのか。
興味は容易にするりと警戒へと移り始めた。しかしメリディアンが語るのは予想とは全く違う内容。
「生きているかどうかもわからない半狼を探している…もし、お前に主がいるというのならば、知っているかもしれないと思ってな。悪いが、名も姿も、思い出せない」
「半狼の知古がいるのか」
その言葉が本当ならば、俺と同じように、探し人か。
…確かに、同じ半狼ともなれば手掛かりになるかもしれないと考えるのもわかる。奇しくもブライヴがメリディアンらに頼んだように、こちらも漠然としている。
メリディアンは、思い出せないのだ。
────褪せ人となり、死にきれずに蘇った時、彼は記憶の多くを失っていた。それはこの地に来ることで幾つか思い出すことが出来たとはいえ、未だ多くが虫食い状態。褪せ人の中には、そういった人間は多い。死を繰り返す過程で失っていくのだ、彼もその一人なのだろうと、ブライヴは思う。
ブライヴはこうも考える。
"半狼"とは、時に特殊な出自として名が挙がる。
例えば、よく知られているのは"神人"に付き従う"影従の獣"という存在。神人とは次代の"神"の候補…つまり、今であれば神である女王マリカの後継者として"大いなる意思"より選ばれた者。影はその神人に"大いなる意思"が与える獣人。多くが狼との半狼であり、実際にそれ以外の例は言い伝えられてはいない。
そしてブライヴもまた、さる"神人"に仕えている"影従の獣"…今回のダリウィルの抹殺もその人のための任務なのだ!なんてべらべら喋るつもりはない。
ともかく、この狭間の地の根幹に関わる話で、ただでさえ手掛かりが手に入り辛い話だ。元々こちらが本命だな?
などと勘違いしてしまった半狼一名。
ある程度の誠実さを見せられているブライヴは、最低限の礼儀として無下にこそしないが…残念ながら自分以外の半狼のことなど知らない。
「悪いな、俺は他の半狼など知らない、だが────」
だが、である。
ブライヴは、思っている以上にこの褪せ人が自分たちの道に深く関わって来そうだと予感した。今時珍しい巫女を連れた褪せ人、弓の腕は確か。カーレにも多少信頼されており、また自身の力量を過信してもいない────何より、半狼という存在の、意味を恐らく正しく理解している。つまり、最近外から来たにしては
────見極める、べきだな…
"ラニ"の行く道に転がる
現状の俺たちの状況は行き詰っているが、なればこそ打開する一助となる可能性があるならば利用しよう。なに、どうせこの狭間の地は
「────気が変わった」
「…!」
「…?」
「ヒヒン」
メリディアンは驚きを、メリナはその急な心変わりに疑問を持つ。
…この時、メリディアンは話の進みが早すぎて逆に困惑していた。もうちょっとじっくり攻めるつもりが、騎兵に急遽転身されて突撃された気分だった。嬉しいことに変わりないが、ちょっと怖くなって、ブライヴへの内申点が少し下がった。ひでぇ男である。自覚はあるので、多少マシだろう。
メリナの疑問とは、そのメリディアンがビビった心変わりについてなのだが…なんとなくこれは監視というか、彼への不審から来たものなのだろうなと早々に理解した。
トレントは空気を読んで鳴いただけだ。
確かにメリディアンはちょっと不審だ。本人に言えば静かに落ち込むだろう事だが、不審なのである。二度も言った。
初めて会った時から、メリナはメリディアンに得も言われぬ感覚を覚えていた。
それは彼に対する、自身の心の在り様だ。
彼ならばエルデンリングを求めるという「確信」。
彼ならば黄金律を外れようが進むという「信頼」。
彼ならばトレントを任せても良いという「安心」。
或いはこれは…懐かしさだろうか?
そんな感情を持ちつつも、最初はそれでも本当にこの褪せ人がエルデンリングを求めるのか疑い…そしてやがてそれを恥じた。
私は不実だった────
トレントは最初から彼を信じていたというのに…
弓という、一人で戦うには無理がある状態をどうにかしようと戦い、悩み、今は協力者を手に入れようとしている。本気でどうにかしようとしているのが伝わるのだ。
以降、彼のことを最初感じた直感のままに信じることにした。きっと、私の目的である黄金の
────それはそれとして不審なのである。三度目の訴えにメリディアンはいよいよ項垂れるかもしれない。
記憶を思い出せないのは本当だろうけれど、明らかに隠し事がある。口にしなければいいのに、意味深長に何か溢すものだから嫌でも気になる。最後まで言いなさい。それを指摘するほど、親密ではないのだけれど。
その不審さは、逆に興味を惹かれるというのは少しわかる。不審だが、感情は結構読みやすいし、そういう意味では裏表はあまりない。五度目の言葉にメリナの中のメリディアンはメリメリと地に沈んだ。
まぁ、そんなこんなで────
「これからよろしく頼む、ブライヴ」
「そうだな、短い付き合いかもしれんが、よろしく頼む…メリナ、だったか…メリメリと言い辛いなお前たち」
「そういうこと言ってしまうんだ?」
「何、多少は腹を割るべきだろう?少なくとも、共に戦うならば」
ちょと怖いなこいつ…
さっさと真意を知りたいブライヴと、誘ったはいいが快諾な上に急に詰めてきたことにビビるメリディアンの二人はすれ違う。
メリナは思った。
これは最初と立場が逆転してるな…と。
似た者同士なのだろう、カーレが気が合いそうという審美眼は正しかったのだ。そう思うことにして、大きな欠伸をしたトレントをゆったりと撫で続けるのだった。
こうして三人と一頭となった一行は取り合えず、誰のせいか自然破壊で忙しいカーレに挨拶に戻った後、ストームヴィル城へと歩を進めた。矢は相場の三倍になっていた。
「…ああ、それから、もしお前がこの地の北、レアルカリアで少しばかり大きい鍛冶屋の爺様を見かけたら…俺の紹介だと伝えるがいい。きっとよくしてくれるだろう…お前には手間をかけさせたからな」
「ブライヴ、お前もそこまで来るんだぞ?」
「いや、そこまで同行するつもりは…」
今度は急に距離離し始めた…!?
微妙に冷静さを失ってることに気が付いていない二人はすれ違う。
※あとがき最後に参考にしたフレーバーテキストを追記しました。240620
今日みたいにどこかで1日に二話連続とかもあるかも?
ちなみに作者は弓好きなのはそうなのですが、デュエリングシールドが気になっています。
でも1番使うのはハルバードですよ!
■メリディアン
半狼に対して評価が高いのは過去も関係ありそうだが…?
記憶は穴抜けだが隠し事があるらしい。
■メリナ
奇妙な友情を感じる。トレントは独占する。両方やってしまうのが、うちのメリナのすごいとこだ。
メリディアンが意味深長な言葉をうっかり溢してそのままなもんだからメリナは「あ、言わないんだ」ってなってる。これからもしばらくはなる。
■ブライヴ
信頼している奴の裏切りとかあって色々深読みし過ぎているが、多分メリディアンとは似た者同士。
理想的な後衛がいて実は少しワクワクしているかもしれない。
破砕戦争には立場上、ブライヴは参加していないので集団戦の経験はあんまりない。
■カーレ
斧を振り過ぎて筋力が上がった、かもしれない。矢は値上がりしたが良心的。
彼から他の商人に今のうちに矢を用意しろ!と知らせが行ったとか。
-メリナのセリフより抜粋-
────…大丈夫よ、トレント。まだ、助けられるわ
やっと見つけたのだから
この人はきっと、エルデンリングを求める
…黄金律をはずれても
────…だから、私を連れていってほしい
あの黄金樹の麓に
────…私の話?
…探しているの
かつて、黄金樹で母から授かったはずの、私の使命を
焼け爛れ、霊の身体となってまで、生き続けている理由を