エルデンクエスト   作:凍り灯

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灯明邁進

 

 

 

 

 

「…いや、酷い目にあったな…こうまで私と相性が悪いとは」

「あー貴公、すまんな…はしゃぎ過ぎていたかもしれん」

「けれども、あなた(メリディアン)()()されていても厄介なことに変わらない」

「模倣対象と同じことが出来ると言うことは、少なくとも記憶の一部までは模倣していたと見るべきだろうか…そうなると問題は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()かどうか、か…」

 

あまりに広大な、星々が浮かぶ地下の大空洞。

かつてブライヴを連れて調べ回ったシーフラ河は遥か下に見える位置に。そんな高所の石橋の隅で、彼らは疲れた様子で身体を休めている。行なっているのは先の戦いの反省会。相対したのは、"永遠の都ノクローン"を探索する中で出会った、"銀の雫"と呼ばれる不定形の存在。

 

イジー曰く、それは生物と物質の中間である存在らしく、無数に蔓延(はびこ)るそれらを退けつつも地殻変動でも起きたのかと思わざるを得ないほど崩れて滅びた街を彼らは進んだ。

この銀の雫、どれもこれもパンを焼く前の生地みたいなもっちりとした形状をしているわけだが幾つかの種類に分けられる。

何より恐ろしいのは"模倣"する個体。

 

その"模倣"、対象を選ばず。

 

…厄介なのが人…どころか、トロルや巨人すら模倣した個体がいたことがかつて確認されていたことらしい。そして模倣対象の技術をそのまま引き継いで扱ってしまうのだ。強度が元の"銀の雫"の限界を越えることがないのが救いだろうが…

ラダーン将軍百連発などやられては終わりであるからして。流石にデミゴッドのような存在は模倣しようがないはず…ないよな?

 

「成程…それは心躍るところもあるが、厄介極まりないな!急に我らも、貴公自身にも覚えのない技を繰り出されても恐ろしい!」

「………それと似たようなことをしたのは、誰だ?」

「言ってみなさい?」

「いや、うーむ………すまん」

 

で。

そんな地上で受けていた説明を改めて皆で再確認して挑んだ…わけなのだが、ヤツ(アレキサンダー)は弾けた。

ラダーンとの戦い、その初手で行動不能になってしまった負い目もあったのだろうが。

 

 

『貴公!任せておけ!ブライヴがいない分の活躍は保証しよう!何と言ってもかの赤獅子の騎士たちがついている(取り込んでいる)からな!楽しみにしておけよ!』

『おお…!また新たな力を得たのか!素晴らしきかな戦士の壺…そういうことならば、任せよう。私が合わせるから自由に動いてくれ』

『…ねぇメリディアン』

『ワッハッハ!行くぞっ!』

『ああ!────どうしたメリナ?』

『一つ、不安があるのだけれど、"銀の雫"はアレキサンダーを模倣できるのだろうか』

『ぬおおおおおおお!!』

『どう、だろうか…聞いた話では人型が基本に思えたが、元が不定形、出来ると考えておいた方がいいのかもしれん…────メリナ、矢筒を』

『へいやあああああああ!!』

『はい────…だったら、彼が得た新しい力が一体どんなものか、共有しておいた方がいいと思うのだけど』

『…確かに初見殺しは防ぐべきか…そうだな、一旦呼び止めよう』

『ぬおっ!?俺がもう一人!?』

『…』

『…』

 

 

銀の雫…敵となった初見アレキサンダーは嵐と炎と火炎壺をフル活用した爆発ゴマと化して回りに回って彼らを苦しめたのであった…

メリディアンは天を仰ぎたかったが、そんな暇なんぞあるわけもない。目の奥が焼けんばかりの爆発の閃光を凝視しながら彼は弦を引き絞る。

でも高頻度で回転してるから狙いが定まらないし、矢が通りづらいしでついに天を仰いだ。

 

…最終的には回りすぎて視野が狭くなっている銀の雫(アレキサンダー)に、アレキサンダーが直上からの急降下パンチを浴びせることでなんとか決着。

その間、囮になったメリディアンは爆炎に晒されすぎて(すす)だらけである。

 

そんな煤の騎士ことメリディアンは、二人から少し離れたところで広げた深紅の大布をバサリとはためかせながらしみじみと呟く。

 

「まこと恐ろしき戦士の壺よ…仲間との同士討ちを考えなければ、ああも立ち回れるのだな…一考の価値ありか…」

「貴公にそう言ってもらえると、俺も鼻が高いな!…あたっ」

「…ぅ!」

「メリナ…大丈夫か?幾ら何でも殴るのは得策ではないぞ…」

 

珍しく、本当に珍しく手が出るほどちょっと不機嫌気味のメリナを(なだ)めつつ、メリディアンは先ほどのアレキサンダーの戦いを思い出す。

そうだ、まるであれは…ストームヴィル城で戦った"ゴドリック"のような炎の渦だった。

少しだけ…かつての戦士(ゴドリック)の面影を見たようで、メリディアンの口元が緩んでしまう。

 

…その様子を見たメリナの眉間の(しわ)がさらに深くなる。

今日はどうやら、何かが(かん)に障ったのかもしれない。やや低く抑えた声がメリディアンたちを射貫く。

 

「メリディアン…貴方はアレキサンダーを甘やかしすぎる」

「なぬ!?」

「む?いや、私はそんなつもりは…」

 

キッ!と睨まれたメリディアンはしおしおと小さくなっていき、アレキサンダーは何でメリナが不機嫌なのか分からずあたふたする始末。

 

…が、そんな二人の様子を見て、メリナは自分の頭に少し血が昇っていることをようやく自覚していた。感情の制御が、どうにもうまくいっていない…?

落ち着くために小さく息を吐く。迷惑をかけたいわけじゃないのだ、だからただ、伝えたかったことを伝えることにした。

 

「…もっと、命を大事にして」

 

────不安だったのだ。以前は、こんなことは感じなかった。

 

彼らがちゃんと自分たちの力量を把握し、立ち回っていることなどわかっている。ましてや戦いのすべてを任せきりにしているのは自分でしかない。何もしていないのは自分なのだ。

そう、つまり自分が言っていることは余計なお世話でしかないのだ。自分勝手とも言えるような、我がままだ。こんなこと言うべきではない。

 

…それでも、言いたくなってしまった。

 

何をでしゃばっているのか。

 

ついに顔を逸らし、メリナは己を恥じた。黄金樹に導いたのは自分で、戦わせているのも自分で…何も言う権利など、ないと言うのに。例えメリディアンが自分と出会わなくとも、結局は王都へ向うのだとしても。

 

暗くも明るい、偽物の星が瞬く地下深く。

大空洞の静寂で顔を(うつむ)いた彼女の願い、葛藤。それは戦いの熱に浮かされてしまっていた二人にも、ちゃんと伝わっている。

 

「…あぁ、そうだな…その通りだ。メリナ、君が正しい。すまなかった」

「…うむ、やはり我らは少々考えなしだったな。このアレキサンダー、二度とこのようなことを起こさないと誓うぞ!」

 

アレキサンダーがラダーンとの戦いのせいで気張ってやらかしてしまっていたように、メリディアンもあの戦いに当てられて高揚していたのは事実。かつての古い記憶にあった血のざわめき、仲間との一体感。

ああ、だが最早あの日々とは何もかもが違う。背を追った王はなく、肩を並べた、率いた戦士たちはいるはずもない。

…ならばブライヴがいない今こそ、もっと慎重に立ち回るべきだったのは間違いないのである。

 

メリディアンは、メリナが何も言わないからと甘えていたのだと自覚する。

今はブライヴがいないが、私たちは四人で一つのパーティなのだ。戦いだけでなく、共に過ごし、支え合い…そうやってあの黄金樹を目指すと決めたではないか。

生半な道ではない、だからこそ一人一人の意思は、(ないがし)ろにしていいわけがない。メリディアンは自身もまた浮ついていたことを恥じた。

 

アレキサンダーは、以前よりずっと「共に歩む」ということがどういうことかを理解しようと努めている。まだ人の価値観に合わせるのは難しいのだけれど、今回の行動があまり良くないことだというのは分かりかけてきていた。

 

そんなアレキサンダーの努力に気がついたメリディアン。それもあってか今…むしろ心は穏やかな暖かさを感じ始めてもいた。あぁ、それに…

 

────正直、心配して貰えたことが嬉しかったのだ。

穏やかな笑みを隠さないままに、落ち込んでしまったメリナを励まそうと手を伸ばす。

 

 

パシリ、とその手がメリナに弾かれメリディアンの思考は笑顔のままに停止した。

 

 

「…あ、ごめんなさい…その、煤がひどくて…つい…」

「………………いや、その通りだ」

 

メリディアンはアレキサンダーに慰められながら煤をさらに払った。

「何をやってるんだお前らは…」そんな半狼の呆れ声が、布のなびく音に紛れて聞こえてきそうである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて早くも、既にそのノクローンからの帰り道である。

なんと迅速なことか!既に、()()()()()はこの手の中に。

 

ノクローンの秘宝を手に入れるために"夜の神域"と呼ばれる場所を目指して街にたどり着いたメリディアンらは、多数の、人に変体した銀の雫を相手取ることになった。

その他にもケイリッドにある"魔術街サリア"で戦ったノクスの剣士たちもいて、中々に分厚い警備体制が敷かれていたので一筋縄ではいかないことがわかるだろう。

 

…ところで、街に入る際に、地形の問題上、どうしても崖上から屋根上に飛び乗って街に入らざるを得ない状況になっていたのだが…それをそのまま利用して、メリディアンが上空から蔓延(はびこ)る銀の雫を射抜きまくる、なんて一幕があったのだ。

 

中にはトロルに変化し襲ってくる個体もいたはずなのだが…銀の雫は戦闘態勢に入る時に変体を行う習性があったようで、その前に仕留めることで戦力を大幅に削ることに成功。

秘宝を奪い取るという行為に多少の罪悪感もあったので出来るだけノクスの剣士などのノクスの民は殺傷せず────果たして正気の者がいたかはわからないが────保管されていた宝箱ごとアレキサンダーに掠め取らせてさっさと全力で逃走した次第である。

 

神域の結界によりトレントを召喚できなかったために、アレキサンダーが宝箱を掲げながら、メリディアンはメリナを担ぎながらもワッハッハと駆けていく様は、大怪盗さながらの逃走劇のよう。

ノクスの民からすればたまったものではないが…結果的に、彼らの"悲願"の一端を担いでいるわけでもあるのだから皮肉なものである。

 

…急いでいた、というのもあるのだろう。メリディアンは、どうにもブライヴと別れた時の胸騒ぎを気にしていた。ゆえに慈悲はあれど無駄のなくなった(やじり)は永遠の都に確かに傷を刻むことにもなったのだ。

 

 

…そういうわけで今、メリディアンとメリナは身を寄せ合っていた…アレキサンダーの蓋の上で。

………どういうわけだ?

 

一体何をしようというのか?よく見ればメリナの首元には、"長尾猫のタリスマン"が愛らしくぶら下がっているではないか。

このタリスマンは、高低差がある場所から飛び降りた時の衝撃を緩和するという、特別な猫の加護が宿っているのだ!

 

用意できたタリスマンは一つだけ。だが、実はタリスマンの影響範囲というのは意外と曖昧であったりする。

それを利用して二人で使う手段がこれなのだ!どうにも締まらないように見えるが…

 

実際のところ、メリディアンも乗り気とは言えないようで…?

 

「なぁアレキサンダー…やはりこれはやめておいたほうが────」

「行くぞ!!」

 

問答は無用。というか話を聞いていない。いざ蓋の上に乗ったメリディアンが、ここにきて正気に戻ったところで時すでに遅し。

ガゴン!っと大きくアレキサンダーが踏み込む。

 

メリディアンはその強い体幹によって大丈夫だったのだが、メリナが予想以上の衝撃に目を見開き、体勢を崩した。

それを見てメリディアンは察する。

 

────あぁ、これはダメなやつだ。

 

「アレキ────」

「とぉおおおあああああああ!!!」

 

咄嗟(とっさ)に、メリナを蓋に仰向けに押し付け、その上に覆いかぶさるように壺のふちに掴まった。頭をぶつけないように丁寧且つ素早く。さらには彼女の驚いた顔という、珍しい表情を浮かべた顔に小石などがぶつからないように(ひるがえ)したサーコートを被せた上で。

 

咄嗟にしては、恐らく百点の動きと言えよう。

だが、続くのは容赦のない加速度()

 

「おおおおおおおおおおおお!!!」

「〜〜〜〜〜〜っっっ!!!」

「────〜〜!!!???」

 

人とは、凄まじい勢いに身を晒されると、反応が別れる。

 

叫ぶやつ。

声も出ないやつ。

 

メリメリは両名後者だった。

 

「…ぉぉぉぉお!…よし!次に行くぞ!!」

「アレ────」

 

着地、間も無く再びの跳躍。

 

メリディアンの訴えは挟む余地などなく、上へ参ります。

彼はメリナごと振り落とされないように必死で四肢で蓋に張り付くばかりで、そのメリナはサーコートで何も見えなくなったせいもあって最早メリディアンにしがみつくしかない。

というかメリディアンが右手で彼女をきつく引き寄せているので体勢を変えようがないというかそもそもの選択肢がないというか。

 

「へェいよぉおおおおおおおお!!!」

「〜〜〜〜ッ!!!」

「〜〜〜〜!!!!」

 

大きく跳んでは着地、大きく跳んでは着地を繰り返すアレキサンダー。そうつまり、彼らは地下世界より脱出しようとしていたわけだったのだ!丁寧に地上へ戻る梯子などあるはずもないゆえに。

 

猫のタリスマンのおかげで、着地の衝撃は緩和されている。

さりとてそれは着地の衝撃だけであって、勢いよく吹き飛んでいる感覚はダイレクトに伝わる。

…これがトレントを駆って、自分の意志で"霊気流"に突っ込むならば、いい。

────…そうだ、あれはとても気分がいい。

身体中に感じる風圧の感覚、ただ走るだけでは得られない開放感。

ちょうどこの浮遊感みたいな────

 

「そぉぉぉぉぉおおおいやぁあああああああ!!!」

「…………………………ッ!!!」

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!」

 

メリディアンは現逸逃避気味に受け入れた。それでも怖いものは怖い。

メリナは全然余裕がなかった。怖い。

そのメリナの必死な様子を腕の中でメリディアンは感じとって、意外にこういうの苦手なんだなぁと思った。悟りの境地。

 

 

 

 

 

「よし!着いたぞ!」

 

ドスンと着地するアレキサンダー。

べチャリとその上から落ちる二人。

 

勿論メリナを下敷きにしないように、背中からメリディアンが転がり落ちることを忘れない。痛そうだが、呻き声ひとつない。猫の加護に感謝あれ!

 

今は朝…だろうか?霧の森が近いからか、陽の光が(さえぎ)られており、冷んやりとした空気が肺を出入りする。途中で呼吸が止まっていたのか、別に動いてないのに全力疾走した後かのように大きく上下し始めたメリディアンの胸。

…しばらくすれば急に動きが途絶えた…多分死んでいる。

メリナはその胸に顔を埋めたまま死ぃんと沈黙したままだ。多分死んでいる。

 

重なって死んだ二人を、アレキサンダーが覗き込みながらこう言いやがった。

 

「うむ!中々どうして、跳ぶのも悪くなかろう!ただ走るだけでは得られないこの開放感よな!」

「……………」

「……………」

 

────この壺野郎。

 

二人の死体の脳裏に同じ罵倒…罵倒?が()ぎった。

しかし流石のアレキサンダーも打ち上げられて干からびた魚の如く動かない二人を見れば、なんとなく察するものもあったようで。

 

「うーむ、しかしどうであった?…乗り心地が悪かっただろうか?」

 

メリディアンは思った。二度と乗ってたまるかと。

メリナは思った。絶対に、もう、乗らないと。

 

けれどもメリディアンは、そんなアレキサンダーの不安そうな子供のような問いに、ついつい甘い顔も出てしまう。メリナが指摘した通り基本的にメリディアンはアレキサンダー…どころか身内に甘い、それがこうも無垢純粋な戦士となれば尚のこと。…そもそも祝福で移動して上で待っていればよかったのだ。アレキサンダーの誘いに興味が湧いてしまった自分の負い目も大きい。

 

メリナもまた、しょうがないことだと割り切る。祝福で移動しなくとも、霊体となっておけば良かった話なのだ。ただ、アレキサンダーの楽しそうな声色に、否と言えなかった自分が悪い。

甘いのはお互い様なのである。

 

メリディアンは仰向けのまま、優しい笑みでアレキサンダーを見上げ、メリナはメリディアンの胸に顎を乗せ直して上目遣いで見上げる。

彼らは迷うことなくこの言葉を選ぶのであった。

 

「二度と乗ってたまるか」

「絶対に、もう、乗らない」

「そうか……………」

「ヒヒン」

 

アレキサンダーは落ち込んだ。

どうしても看過できないことも、あるのだ。トレントが慰めるようにアレキサンダーを一舐めしておく。

「本当に何をやってるんだお前ら…」そんな半狼の呆れ顔が容易に浮かんでは消える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…おかしい」

「どうしたのだ貴公?」

「ブライヴが、同じ場所から動いていない」

 

メリディアンの髪の毛を編み込んだ、雫型のタリスマン。アレキサンダーと司祭ミリエルとの共作のそれは所持者の互いの方角、位置などを把握できる加護を持っているだけの、彼らだけの奇跡。

 

ノクローンの秘宝を持って地上に上がるまで…時間感覚が失われる場所であるので断言はできないが…確か十日程はかかっていたはずだ。

急いだとはいえあまりに広大な地下世界、場所がわかっていてもどうにも時間はかかるもの。こんなに時間が経っていればブライヴほどの駿狼ならば違うところにでもいそうなものだが…

 

「考え、すぎか…?」

「うーむ…俺のように穴に(はま)っているのかもな」

「…穴かどうかはともかくトラブルの可能性もあるけど」

「誰かを待っているだけならば、或いは待ち伏せしているとかならば、おかしくはないのだがな…」

 

幾らでも理由など思いつく。

 

ブライヴはブライヴの仕事をしているのだから、それを邪魔することの方が問題だ。それでもメリディアンはそわそわと彼のいる方向を気にしてばかり。

見かねたメリナは口を出す。

 

「何か、心当たりがあるの…?」

「すぐに追いつくと、あいつから言われていたからな。やはり追いつけなく()()()()()()()可能性を考えてしまうのさ」

「貴公、気になるならば深く考えずに行ってしまうのもいいと思うぞ!」

 

母と同じで心配性なやつめ、とはラニが言ったことだが、確かにここが狭間の地である以上何が起きてもおかしくないのは間違いない。

イジーはブライヴの言葉と違って、いつ終わるかもわからない任務と言っていたのでやはり考え過ぎなのだろう、けれど…

 

タリスマンは所持者の生死は問わないのだ。

死んでいても、そこを指し示し続ける。或いは落としただけでも同じことではある。結局、何もわからないわけなのだが…

 

「行きましょう」

 

メリナは、彼の本心の部分をそっと後押しすることに決めた。

 

「きっと、許してくれると思う。また最初みたいに、厚かましくいけばいい」

 

今更なのだ。

 

利害の一致で共に歩き始めた仲。だが、この道行はまだ短くとも、それでもここまで共に戦い乗り越えてきた。

もう、そんな遠慮など、今更なのだ。メリナでさえ、そんな風に思えてしまう程に。呆れかえって、笑ってしまうしかない程に。

 

「メリナ…うん…そうだな、行こう。行ってしまおう────…待ってくれ、厚かましいと思われていたのか私は??」

「遠慮がないのは本当でしょう?」

「ああ!全く持ってその通りだぞ貴公!」

「確かにそうか…」

 

いや、流石に多少の自覚はあるが…うむ…とやや気落ちするメリディアン。

ちなみに二人ともこれでも褒めているつもりである…一人(メリナ)は皮肉混じりとはいえ。

この無遠慮な優しさこそが彼の美点なのだ。それにメリナは手を引かれ、ブライヴは相棒を得て、アレキサンダーは"芯"を得た。

 

ならばそうすればいいに決まっている。ダメだったら…みんなで謝ればいい。ただそれだけの、当たり前のことなのだから。

 

私たちは、それでいい。

 

 

 

 

 








サブタイトルの「灯明(とうみょう)」は灯火を掲げる事。「邁進(まいしん)」はまっしぐらに突き進むことを意味します。

言うまでもなく話数が想定より増えつつあるので、章管理とかもどっかでやろうかなとは思っております。やったことないので恐る恐るですが…

感想等、なんでもお待ちしております!どうぞお気軽にぶん投げて下さい。
次回もまた一日開けて投稿予定です。しばらくはそのペースでやっていくと思いますので、ご了承ください。



■メリディアン
腐敗の地での死闘に、心を少し持っていかれていた。
例えばそれが本来の自分の"(さが)"なのだとして、果たして記憶とは、思い出すことが正しい事なのだろうか。


■メリナ
ケイリッドの戦いでしか得られなかった戦士たちの見えない繋がりを、メリナはわからない。
灯火を掲げ高揚のままに死へと突き進むことは、きっと美しい事なのだろう。
けれども今ではもう、無関心でいられないのだ。
私に何も言う権利など、ないというのに。

蛇足だが、マリカの記憶のせいでメリディアンとの距離感が姉妹のそれ。


■アレキサンダー
共に歩むと決めた時から、少しずつ人の機敏を理解しつつある…のかもしれない。
とりあえず人を乗せて動くのはダメだと理解してくれた。



- 写し身の雫 -

召喚者の姿を模倣し、戦う霊体
ただし、その意志までは模倣できない
永遠の都が、王を創らんとした遺物である


- 長尾猫のタリスマン -

長尾猫のラクリマを象ったブローチ
落下ダメージを完全になくす
ただし、落下死亡を防ぐことはできない

それは、レアルカリアのお伽話に登場する
大鐘楼に遊ぶ妖精猫である


- 夜巫女の双冠 -

太古、大いなる意志の怒りに触れ
地下深くに滅ぼされた、ノクスの民は
偽りの夜空を戴き、永遠に待っている
王を。星の世紀、夜の王を

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