エルデンクエスト   作:凍り灯

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夜を見上げれば

 

 

 

 

 

水面に一脚の椅子が(たたず)んでいる。

元は背もたれの長い椅子であったそれは、根本あたりから背板がへし折れた上に、本来あるはずの(つつ)ましくも豪華なカーリア家の装飾は見る影もない。

壊れかけた腰掛けと化した椅子は、ただささくれ色褪せた王家を象徴するかのように埋め込まれていたはずの輝石ごと失われているのである。

 

しかし円に張られた水面と、その(ふち)をぐるりと囲んだ数多の主無き椅子たちが、中央の朽ちた椅子を特別なものだと訴えていた。

 

ここはカーリアの城館上層、"王家の月見場"。

 

かつてカーリアの最盛期、満月の女王レナラは多くの臣下と共に星を見上げた場所。

"星見"と呼ばれる、星より世の理を読み取り、己の、或いは世界の運命を書き記す太古より続く儀礼。空に近い、遥か高い巨人たちの住まう山嶺(さんれい)より延々とあったもの。

…この椅子は、代々カーリア家の女王のためのものであった。

 

今、その水円の中心、朽ちた椅子の上に、枯れ葉色の男が腰かける。

 

冷たい赤髪の子、狼の子。されど何も両親より受け継がなかった…いや、()()()()()()()()()()()()()子。

 

彼の背に立つのは永遠の神の別たれた魂を持つ彼女。何を切り離したのか、何を思って産み出されたのか、真意は未だに知る者は少ない。

…どこかで、この光景に見覚えがある気がする。

そうだ、かつて"結びの教会"で行われた、ただ他愛ない髪の毛を切っただけのあの行為を意図的になぞらえているのだ。

 

メリディアンは、あの時、あの場所で、あのラダゴンの婿入り道具である黄金のハサミによって起きた奇跡をメリナに語る。

タリスマンに編み込まれた枯れ葉色。紛れもなく、あれは"奇跡"だったのだと────

 

「私は…一体、あの時どうやったのかもわからない」

 

今の今まで、それが自分の起こしたことなどと考えもしなかったメリナ。

確かに自身が特別な出自を持つことは理解はしている。けれどもそこに実感などあるわけもなく。そんな立ちすくむ彼女に、ラニが立ち並び背を押すための言葉を送る。

 

「何を考えていた?何を感じた?その感覚こそが重要だ、それが入り口になる」

「感覚…」

 

あの時、何気ない一言から彼の髪の毛を切った。なんてことのない、特に理由もない気まぐれのような感情だった気がする。

 

いや…

そうだ、メリディアンが寂しそうにしていて、それで…放って置けなかった。少しでも気が紛れればと、思った。

 

何か自分でも、彼の役に立てるのではないかと、そう思ったのだ。

 

思考に(ふけ)るメリナをラニは、ただじっと静かに見届ける。

彼女の目は、メリナの確かな変化を捉えていた。じんわりと暖かな、それでいて冷酷な黄金の気配。

それが彼女の内より湧き出るのを感じ取った。

 

「見つけたか」

「…」

「想え、途切れさせるな。内から湧く衝動を抑えるな。抑える必要はない、いつまでも抑えずに解き放ち続けろ。()()はそれでいい。その感覚を盲信しろ。絶対的なものと思い込み、一片の間違いもあるはずがないと豪語しろ。確かにお前の中にある力に、疑問など抱くな。お前のものだ、全てが、その手のひらの上にある…そうだ、借り物だとか、自分のものではないとか、そんな言葉は全てが間違いだ…────そら、()()()()()()()()

「…っ!」

「…信仰に、"祈祷"に、疑問などいらない。()()()それでいい…そこから何を見出すかは、お前次第だ」

 

過ぎた愛は信仰となる。その"愛"がどんな些細(ささい)なものだとしても、盲目の祈りの果てに物語は編み込まれ、"祈祷"となす。

さらにその果てに何を見出すかはその当人次第。

預言者は信仰の内に滅びの火を垣間見、そして故郷を追われるという…聖職者の中でも有名な話だ。

愛し、信じ、停り、腐り…────

 

 

────この少女は、黄金の子は、一体これから何を"見る"のだろうな。

 

 

準備は、できた。

 

「やれるな?」

「…ええ」

 

言葉少なに、彼女たちはその役割を全うしようとする。

メリナが黄金のハサミを、メリディアンの頭上へと水平に突き出し、その刃を開いた。そこには何もないように見える。しかし彼女は見えていた。

 

「…」

「…?」

「メリナ、どうした?」

 

メリナには見えた。

 

メリディアンの"灯"が。揺らめき立ち昇る小さな炎が。

 

そうして彼女は躊躇(ためら)う。

 

何か、自分は取り返しのつかないことをしようとしているのではないか、と。

髪の毛を切り落とした時とはまるで話が違う。

彼の一部…もっと大事な部分を切り離してしまうのではないか?そういう予感。考えすぎだ。だってメリディアンもラニも、そんなリスクの話は一言だって…

でも。

彼ならばきっと────

 

じんわりと、嫌な汗が首元を湿らせるような感覚がする。宙へと伸ばした刃先が心なしか震えているようだ。心音は平常を保つが、意図的に息を深く吸って吐かなければ肺にまで空気が行き届かないのではないかと思うような息苦しさがせり上がる。

 

「メリナ…────頼む」

 

目の前には選択肢があった。

彼は強制はしなかった。ラニもまた、ブライヴの命が懸かっていると言うのに静かに目を閉じるばかり。

そこには懇願(こんがん)だけがある。選択するのは、メリナの意志。

 

「────」

 

 

 

 

 

 

 

ハサミが、静かに閉じる。

 

それは選択の音。ラニが小さな吐息とともに視線を下げる中、メリディアンが、メリナに背を向けたまま静かに微笑んだ。

月の魔女、彼女の心中は果たして安堵か諦念か。

 

 

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

────────

 

 

 

 

 

────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レアルカリアの大書庫とは女王レナラが幽閉されている城館最奥の叡智(えいち)の貯蔵庫。

古くは月の魔術で学院を魅了し、その長となった彼女の栄光ある書庫であったそこは、今では許されぬ術たる"産まれ直しの秘術"の儀式場と化してしまっている。

幾人もの、術に魅入られた学徒が幼く這いつくばり、生と死が繰り返されるだけの(おぞ)ましい部屋。

しかし現在はラニによって部屋は掌握され、学徒たちは眠らされて部屋の隅に転がされていた。

 

いつも通りに、女王レナラが天窓より降りる月光に照らされながら安楽椅子に揺られている。その目にはやはり、大事そうに抱え込む"琥珀の卵"すら映してはいなかった。

 

ふあり、と彼女が椅子ごと少しだけ宙に浮き、部屋の中央からずれた位置へと降ろされる。ラニの魔法だ。中心から対となる位置にラニが立ち、メリナとメリディアンもまた中央に立つ"彼"を囲むような場所へと歩いていく。

 

その中央、レナラいた場所に立つのは半狼のブライヴ。ラニの影従の獣、二本指の呪いを宿す銀の狼。その手には、琥珀の卵より抜き取られた産まれなき者の大ルーンがある。

 

彼の頭には鏡兜を作り直したかぼちゃ頭があった。

かぼちゃ頭があった。

…そう、鏡できらきらのかぼちゃ頭が、あった。

 

ラニは実は、その姿を直接見るのは初めてであるからして。

 

「う、うむ」

 

笑ったな…

笑ったわね…

 

「………ブライヴ、そのふざけた兜を取れ。私に恥をかかせたいか」

「俺のせいか…!?」

 

大書庫の大扉の外側。何人(なんびと)にも儀式を邪魔させんと護りについているイジーはどこかで悪口を言われたような気がした。こう、自分の作品を(けな)されているかのような…知らない方がいいことも、きっとあるのだろう。

ちなみにアレキサンダーはさらにその下層、昇降機前に陣取って、カーリア騎士のムーングラムと共に見張りをしている。すごい蛇足だが、ムーングラムは壺からめちゃくちゃ話しかけられて困っていた。

 

…ああ、ラニもまた不安なのだ。こうやって自らの無意識の緊張感をほぐそうとしてしまう程に。まるで少女人形の姿に精神を引っ張られているようだなと、ラニは冷静に自身の不安定さを笑い飛ばし、意識を切り替える。

 

甘えるのもここまで、これより先は未知の領域。一つの些細なミスがブライヴの魂を(むしば)む。そうでなくとも想定外の外的要因で失敗する恐れがあるのだ。

ラニは、母レナラの行う儀式の最初から最後まで全てを掌握し、自身の想定する"流れ"から外れないようにしなくてはならない。

 

「────始めよう」

 

月の魔女。

満月の女王。

黄金の子。

神の友の子。

月の半狼。

 

産まれ直しの儀式が、始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

銀の雫、それは物質と生命の中間の生命。

 

ブライヴとはそれを模した存在。()()()()()()()()()。であれば何をモデルに今の姿となっている?

メリディアンはこの時、既に思い出していた。

 

マリケスだ。

 

マリケスはかつての先史時代…つまり黄金樹が台頭する以前の、"竜王"が君臨する時代から生ける獣の司祭。

ゆえに"影従の獣"という立場でありながら、明確に大いなる意思から、二本指から送られたわけではない存在だった。

かつて女王マリカが自らの手で、自らのもとに取り入れた獣。それを指してマリカは"影従の獣"と呼び、二本指はそこに目をつけた。

 

マリカとマリケスの主従。

さらにはゴッドフレイと共にある獅子、"セローシュ"。彼は王となるを誓ったとき沸々(ふつふつ)と滾り続ける戦意を抑えるため、"宰相の獣"という形で獣を背負っ(己を律した)たという。

 

神と獣、王と獣。

 

それはあまりに象徴的で…ゆえに"模倣"した。その結果がブライヴのような、獣。

二本指は人の心のなんたるかを心得ている。

人々はその関係に、一種の英雄的物語を想起するのだ。ラダーンが後に獅子に憧れたように、それは何も間違っていない。…間違っていたとしたら、その存在を、(メリディアン)に与えたことだろう

 

ブライヴ。

お前はきっと父と似ている。

姿や顔がどうとかではないぞ、その心の有り様が。気高く、誰かのために剣を振るう半狼よ。

 

マリケス────我が友。

友であり、ずっと我ら親子を守り続けてくれた恩師。

今、お前はどこにいるのだろうか?

 

彼の姿()を模倣し、産まれた我が父よ、ブライヴよ。

そうだ、私たちは繋がっている、想像しているよりずっと強く、強く。

私は狼の血を引く者。

私は永遠に弓引く者。

この身に牙はあらずとも、父が見出した"メリディアン(母を想う願い)の灯"は私の中にある。

 

私に(なら)え、私を(なら)え。"灯"はメリナが私より断ち切り、お前に"接ぎ木"した…私の"器"もまたお前の中にあるんだ。

それがあることでお前は私に近づいた…つまり擬似的な"褪せ人"となった。少なくとも、儀式の"入り口"はこれで確保されたはず。"贄"たる銀の雫ではなく、儀式の対象たる褪せ人(王の器)へと。

そして産まれなき者の大ルーンを抱いたお前を、ラニ様とその母レナラ様が造り替える。

 

黄金と満月、再びそれをここで結ばせる。

 

これよりお前は銀の殻を破り、新たな"模倣"を経て産まれ直す。

 

"王の器"も持つ存在…お前に継ぎ足した"褪せ人"である私の器を(いしずえ)に形作ることが出来る。"型"があればより確実にそれは成されるのだ。…しかし私と違い、"祝福"からは切り離さなくてはいけない。でなければ再び呪いに侵されるからだ。

 

…だが、そうなれば今度はお前は"黄金律"たる祝福も導きも、何もかもが"霊界"では助けてくれないだろう…ただ迷い失うのみ────だから私の"灯"が導こう。

 

 

どこにいようとも、ただ私の居場所を教えるだけの"灯"

 

 

────産まれ直しの秘術、その儀式の場は同時に新たな"王"を産む儀式へと昇華する。

即ちそれは"王の再誕"。

 

新たな"王の器"がここに産まれるのだ、黄金律に属さない、ノクスの民が望んだ"夜の王"が。

 

 

…だが、と、メリディアンは傲慢(ごうまん)にも訴えかける。

 

()様にお前が必要なように、私にもお前が必要だ。

私の剣よ、戻ってこい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブライヴは真っ暗闇の中で、暖かな灯を見た。

 

青白い尖塔の灯とは異なる、冷たさのない。

 

何故ここにいるのか思い出せないけれど。

 

この灯を辿らなくてはいけないはずだ。

 

行くな行くなとカラスが喚き飛び回る。

 

足元の雪が舞い、視界を阻もうとする。

 

喧しい。もうしばらく大人しくしていろ。

 

ラニが成す。遠くへお前たちを連れていく。

 

夜よ、死よ、暗きに行く路に、月光を道標に。

 

俺たちは成す。この遠吠えに震え、従うがよい。

 

 

 

「邪魔だ」

 

 

 

家族に、戦友によって支えられ、望まれた生。

こんなところで(つまづ)くようならば失望されてしまうだろうが。

 

 

やがて、名もなき誰かの心が流れ込んできた。接ぎ木された"灯"から、あいつの寂しい程に切実なおもいが。

 

 

 

────影従の獣…その最初の()()は父だった。

 

────父は二本指の思惑通り母に忠誠を誓い…そして思惑を遥か超えて愛を知ってしまった。それはまだ良かったのだろう、二本指はそれすら利用しようとしたのだから。

 

つまり父のために、母がマリカと対立し…そしてその戦いの果てで母を死なせるために。

 

古き律の力を宿した…黄金樹を、それどころか黄金の律を焼き得る力を持った存在である母を排除すること。…父はそれを阻止するために、自ら命を断った、二人を争わせないためだ。

 

当然母はそんなこと望んでいなかった、だが父の考えた通りに…いや無駄にしないために母は巨人を裏切り、黄金樹へと(かしず)いたのだ。

二本指は人の心のなんたるかを心得ている…だから再び影従の獣を送り込んだところで母が同じように愛し、争うことはないと理解している。ゆえに手を下すことはできずにやむなく母は生かされていた。

 

加えて、マリカの影従の獣であるマリケスは二本指の傀儡ではない。だから彼は、陰ながら母を守り続けてくれたのだ。

 

やがて私が産まれる。

 

私は確かに、そこにいたんだ。

いたはずなんだ。

なのに、みんなの顔は真っ暗に穴が空いたように。

 

思い出せない。

 

何をしていたかを思い出せても、あの戦いも、酒場で奏であった日々を思い出せても。

顔と、名が、声が思い出せないんだ。

 

ブライヴ。

お前には、忘れて欲しくなどない。くだらない呪いなどにくれてやるものか。

こんな世界でもう二度と、家族は。引き裂かれるべきではない。

 

行かないでくれ。

戻ってこい。

 

 

 

────ブライヴの脳裏に、そんなメリディアンの…いや、名もなき男の声が響くのだ。

 

そうか、お前は。

ただ。

 

誰かの記憶にいたかったのか。

 

 

 

それは使命も何もなかった彼が、それでもこの地に戻った理由。

死してすべて忘れた彼の(よすが)

 

 

 

…かつて神人として女王マリカと神の座を奪い合わされたマリカの友は、自らの影が命を絶った時に全てを捨て、彼女の傍に寄り添った。

愛する人の残した子と、その内に宿る灯を消したくなかったのは勿論のことで、けれども燃えるような情も、凍えるような力も、彼の死と共に壊れてしまった。

 

結びは、それが反故にされたとき、より惨たらしく壊れる。女王レナラがそうであったように。

 

心は壊れずとも、折れてしまったのだ。

 

…だからこれ(子に宿る灯)は、メリディアン()の古い願いでもあるのかもしれない。

いつか…いつか"()"がこの場所に…自らの影が私の傍に戻ってきてくれる道標になるようにと。

 

────願いが叶うことはなかった。

しかしこの小さな灯火は、彼女の子へと受け継がれ、ついに形を成したのだ。

ラニの影は確かに、ここに戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「────貸し一つだぞ。まったく…お前は"剣"を持とうと思わなかったのか?」

 

柔らかく、月光が降り注ぐ中で、狼が名も無き男に問うた。

 

「私はなブライヴ。誰かの背中を、見ていたいのさ」

 

かつての我が王、ゴッドフレイのように。

その立ち位置こそが、最もブレることない矢を放てると確信しているから。その()()()()()()に、ブライヴが相応しいと思っているから。

 

呆れたように、ブライヴは顔を揺らした。

 

「…全く仕方の無い…今は俺は、お前の剣らしいからな…少なくともこの旅を、終えるまでは」

 

満足げに微笑んだメリディアンが、おもむろに顔を天窓へと向ける。

その様子を見て、つい、ブライヴもその先へと目をやったが、そこには変わらず青白い月光が降り注ぐのみ。

 

「…?空に、何か変わったものでもあったか?」

「────…いや、何でもないさ」

 

彼の灯を継ごうとも、いまだ燃える紅い空は彼だけのもの。

空はいつだってこんなにも燃えているのだ。黄金は、いつだってこの目に燃えゆく運命を幻視させるのだ。依然、私だけに。

 

ゆえにこそ己の役割を強く理解する。それは変わることのない、しかし望んだ役割だ。

 

 

 

 

 









夜の王関連は、まさかナイトレインで出てくるとは思わず、現在は色々と齟齬があるのかもしれませんが、元の設定のまま貫かせていただきます。
…そもそも今回使った夜の王と言う言葉は、あくまでラニの律に寄り添う強者が生まれた!みたいなニュアンスなので、思うより深い意味は、多分、ないのです。

ちょっとした裏話ですが、ここらのラニ関連の話は少し童話らしいサブタイトルにしていたりします。

さて物語はちょっとだけ一区切りしましたね。次回から旅が再開されますが、今週来週はちょっと…いえかなり多忙ですので、あまり投稿は出来ないかもしれません。(未定)
もしよければその間に皆さまの感想等を聞かせていただけると、大変力になりますので(割とモチベーションの全て!)、てきとーにぶち込んでくれればと思います!



■メリディアン
郷愁(きょうしゅう)からこの地に戻った名も無き男。すべて忘れ、残った僅かな記憶を頼りに辿り着いた先、そこには既に母は亡く、やっぱり何も思い出せなかった。
だからこそ、ここで出会った全てが彼の全てだ。

ただ導くだけの灯。それだけだったとしても、迷子の友の手を引くだけならば出来るのだ。
おかえり、私の剣よ。


■ブライヴ
暖かな灯に導かれて、伸ばされた手を彼は握りしめた。
いつか道が別つとしても、ずっとただ"剣"であり続けると誓う。ラニに、そして彼に。
目覚めに降り注いだ柔らかな月光が、記憶に刻まれた。


■メリナ
剪定(せんてい)と接ぎ木。
黄金の血筋に宿る、ゴドリックも扱えた力、それよりもさらに完全なもの。身体ではなく、内に宿す恩寵も器をも継ぐ、本来の力。

…切り離したこと、それは何かを間違えたわけではない。そのはずだ。
だというのに、得も言えぬ違和感が拭えない。
今はそれを忘れ、ただ祝おう。


■ラニ
母に、家族に、そしてこの奇妙な縁に感謝を。
最早迷いなどあろうはずもない。


■アレキサンダー
何も心配などしていない。
彼らは成す、それを待っていればいいだけなのだ。


□マリケス
ただ一人、王墓にて、



-メリディアンの灯火(とうか)-

メリディアンの枯れ葉色の頭髪、それが埋め込まれた陶片のタリスマン
涙を象ったようなそれは、アレキサンダーの手によって渦巻く彫刻がなされている
どこにいようとも、ただメリディ()アンの居場所を教えるだけの"灯"

子に受け継がれた、彼の父である名も知れぬ影従が見出した祝福
同時にそれは、"メリディ()アン"の古い願いでもあったのかもしれない

いつかこの場所に戻ってきてくれるようにと



- ラダーンの獅子鎧 -

黄金獅子は、最初の王ゴッドフレイと
その宰相の獣、セローシュに由来するという
幼き日、ラダーンは戦王に心奪われたのだ


- ゴッドフレイの肖像 -

ゴッドフレイは、猛き戦士であった
けれど、王となるを誓ったとき
沸々と滾り続ける戦意を抑えるため
宰相の獣、セローシュを背負ったのだ


- 夜と炎の剣-

魔術師の前身たる星見のはじまりは
空に近い、遥か高い山嶺にあり
火の巨人が、その隣人であったという


- 銀雫の殻 -

銀の雫は生命を模倣する
模倣はやがて再誕となり
いつか、王になるのだという


- ノクス僧のフード -

大古、大いなる意志の怒りに触れ
地下深くに滅ぼされた、ノクスの民は
偽りの夜空を戴き、永遠に待っている
王を。星の世紀、夜の王を

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