エルデンクエスト   作:凍り灯

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残燭の弔歌を

 

 

 

 

 

「メリディアン、お前は何のためにエルデンリングを求めているんだ?」

 

祝福のすぐ横、そこで焚火(たきび)(おこ)し、いい具合の焼き加減の肉────ブライヴはレアどころかブルー(炙っただけ)が好みらしい────が刺さった串を頬張りながら、彼はメリディアンに尋ねていた。塩加減はまぁまぁのようだ。

 

ここは"嵐の丘"、比較的今は風が弱まっているが、絶えず横殴りの鋭い風が砂や小石、死臭を運んで来る。近場の小屋を風除け代わりに、追加で木板で作った簡易的な囲いを立てることで一応の無風地帯を作り上げていた。

 

食用の野草に塩漬けにした薄切りキノコと茹でたロアの実を和え、最後に刻んだヘルバを(まぶ)した上に、アルテリアの葉をふんだんに使ったやる気が(みなぎ)る効能があるとか言うドレッシングをかけたサラダ。それを私のプレートに盛り付けつつ…メリディアンはヘルムを外したことで(あらわ)になった枯れ葉のような薄茶色の頭髪を揺らした。騎士を自称した割にらしからぬ長髪、それを総髪(ポニテ)にした、整った…悪く言えば女顔。その振り向いた顔に、やはり私はどこか見覚えがあったが…どうにも思い出せないまま。

 

彼の両目、青と赤の金銀妖瞳(きんぎんようどう)が手元の野菜に向けられる。

深紅の大布はそのままに、上から調理用と思わしき、質素ながらも品のある前掛けをすっぽり被して様子の変わったメリディアンは、手甲を外した手をブライヴの前に突き出した。

 

「ほら、サラダだ」

「あぁ、すまん…で、どうなんだ?」

 

それは私も少しだけ気になっている、とメリナはサラダをシャクシャクと嚙みながら思う。少しピリッとしてこれが癖になる。雷花の花びらを刻んで隠し味にしているとメリディアンが………ではなくて、気になっているという話だ。

 

そもそもの話、私と彼の関係は互いに契約、目的を果すためだけの乾いた関係…になるだろうなどと思っていた私は、最早その最初の考えは彼方へと放り投げた。まぁ見ての通りである。

どうにもメリディアンからの押しが強い。いや、彼はきっと誰にでもこうなのだろう。だからこそ祝福より少し離れた小屋の壁際にいる金髪の女性────"ローデリカ"も戸惑いながらも、恐る恐るだが特製サラダを口にしている。

 

話の輪には入ってこようとしない、仲間をストームヴィル城で失って絶望から途方に暮れている所を急に押しかけて来てこれなのだから当然と言えば当然。

デリカシーがない、と言ってしまうには気が利くのがメリディアンだ。思うところがきっとローデリカにあったのだろう。

 

────それで、だ。

遠慮などという言葉は早々に崩壊し始めた今日この頃、いっそ少し踏み込んだ話を聞いてみるのもいいかもしれないと思い始めていた私がいた。割とどうとでもなれの精神である。

こうなったのも「どうせ旅をするならば、少しでも楽しい方がいい…何度も死ぬ分楽しまなければ割に合わない」なんて言い出して渋々食事を共にし始めたのが最初のきっかけか。一緒に食事することが、彼の楽しみなのだろうか?

そもそもの話ではあるが食事など、"霊体"であり、体を持たない私には可能であれど、必要ないものだ。

しかしだからこそやろうと彼は言う。

 

────そしてその言葉に頷いてしまった自分に驚いた。

何を根拠に、一体、何故それでいいのだと、思ってしまったのか。

 

メリディアンのように私もまた、多くの記憶がない。ただ使命だけがこの身を焼き続ける。

 

答えが欲しい。だから黄金樹の(ふもと)へ行くのだ。そんな私に彼はこうも言った。その道行を、黄金ばかり見て歩くには長すぎるのだと、もっと色鮮やかな物を見上げて、見下ろして歩くのだと、彼は言って聞かない…何が彼にそう()()()()()()()()()のか。

 

今ならば分かる。彼は、見つけようと、或いは見つけさせようとしている?探し人の半狼の話ではない、もっと明確ではない、何か。

 

 

私もまた、こうやって考えてしまうくらいには、彼の真意が少しだけ知りたかった。

 

 

シャクリシャクリと小気味良い音が風の音に搔き消される。其処ら辺の小屋の板を使って作った簡易的な風除けに小石が当たる音がした頃に、メリディアンはサラダを飲み込み終え、ようやっと喋りだした。

 

「…元は、そうだな…まだ瞳が色褪せる前、遥か昔に置いてきた、かつての故郷であるこの地と、"王都"を見たかったんだ…こんな遅い目覚めになってしまったが────何もかもあの頃より…かつての姿とかけ離れたように壊れてしまったとは言え、それでも故郷とはいいものだ」

 

懐かしむような、悲しむような、哀愁(あいしゅう)を漂わせた彼の声は確かな実感が(こも)っている。それが意味するはつまり、彼は褪せ人の"末裔"でなく、かつてこの狭間の地に生きていた古い人物そのものだということ、さらには"王都ローデイル"の出身と言うではないか。

真実か、妄言か、それは多少なりとも周囲に驚きを与える。

 

「…ほう、お前、それは大きく出たな」

「…メリディアン…あなたそれは…」

 

ずいと、メリディアンはローデリカに視線を飛ばした。

 

「え…っと…、その…何と言ったらいいのでしょうか、いいと…思います、よ?」

「ヒヒン」

 

誰も信じてねぇ。そんな表情をしたメリディアンは少しだけ落ち込んだようだが、構わず続けようとする。私は納得したゆえの言葉だったから、誰も信じていない、と言うのは彼の勘違いなのだけれど。

古くに生きていたのならば辻褄(つじつま)が合うこともあった。それは彼の表情だ…普段はフルフェイスのヘルムで顔は分からないので、これは言葉の端々に現れる感情のことを言っている。

 

彼の、この狭間の地を見て回った時に溢れた言葉は、やはりどれも重く実感が(ともな)っていた気がした。付き合いの短い私ですらわかる程に。他にも例えば、この料理だってあまりに手馴れている。明らかにそれぞれの植物の特性を理解し過ぎていた。この地の植物は、閉ざされているゆえに外の世界より多くが古く、だからこそ全く違う植生となっているのだから、普通ならば知るはずもない。

 

「…いや、まぁどちらでもいいさ。今は…そうだな、エルデンリングを求める使命を、この地に来てから思い出した」

「…使命?」

 

聞き返した私に、彼は頷き私を見つめ返す。

 

「使命…いや、今ではそれが私の意志になった」

「………?…何…?」

 

また意味深長なこの視線はなんなのかと、私はジトっとした目で怪訝そうに赤と青の瞳と視線を合わせた。察しろ、というよりは気づかなくていい、というような空気に少し不機嫌になったのは仕方のないことか。

 

「………聞くのは無粋だぞ」

「無粋なのか」

「あぁ、無粋だ」

「…!ヒヒン」

 

と、今度はブライヴ。

え?…え?と視線を目の前の三人に行ったり来たりさせるローデリカ。

これ以上言うことはないと言わんばかりにメリディアン。

ブライヴが私をチラリと見て…そして、はっと何かに気がついた。

 

「…あー…あぁ、無粋かも、な?」

「そうだろう?」

「何なの、あなたたち…目を逸らさないで」

「メリナ、メリナ、君は眩しくていかんのだよ」

「わけの分からないことを言う」

「………え?」

 

これ以上はダメか、と私は諦め、ミディアムレアの肉を噛み切る。

ローデリカは終始困惑していた。しかし、はたと、またもやブライヴのように何かに気づいた顔をして、それきり黙ってしまった。何なの、あなたたち。

 

不機嫌なことを察したトレントは、ロアの実を口の中でもごもごとすり潰しながらも私に寄り添い、私もまたトレントを撫でることで忘れることにした。

しばらくすればメリディアンなど、今まであまり出す暇のなかった手持ちのハープ(ハープボウ)を弾き始めて、「これが王都で少しは有名で…」「あぁそうだなわかったわかった」とブライヴとじゃれつき始める始末。風が演奏の邪魔をするが、それすらも音の一部と受け入れてメリディアンは弾き続けた。

 

────不思議と、その音色はノスタルジックな気分にしてくれる。思えば商人のカーレとも、最初は楽器の話で打ち解けていたのだったっけ。

蛇足だが、今手にしているハープは楽器でもあるが、弓としても使える予備兵装らしい。

…あぁ、もしかしてこれはレクイエムのつもりだったのかもしれない。ローデリカの今は亡き仲間に対する、彼ならばやりそうだ。

 

気づけば多少の機嫌の悪さなど気にならなくなっていた。

 

演奏は止み、風が拍手する。

 

誰を思い出していたのか、目の端に涙を留まらせていたローデリカもそれに(なら)って小さく拍手を送った。彼女の後ろにいたクラゲの霊も喜んでいるように見える。

少なくとも、彼は彼女たちに小さな勇気を与えられたのかもしれない。

 

私が彼の方へと顔を向けて、偶然、その目と目が合った瞬間、一つ、思い出した。目の前の景色がそれに塗りつぶされるように、鮮明に。

 

 

夢、だ。

 

 

夢の話だ、いつもはほとんど忘れてしまっているが、今はっきりと思い出した。何故、今なのか。

思わず、私はメリディアンに勢いのままに聞いてしまう。ブライヴもローデリカもいたが、不思議とこんなことを言うというのに気にならなかった。

 

「ねぇ、メリディアン…今、少し思い出したことがある。…私の、夢の話を聞いて欲しい」

「夢?」

 

今はヘルムを被っていないから、虚をつかれたような表情がよく見える。

今度は何なんだお前たちと呆れ顔のブライヴを放って私は語った。

 

 

────あまり多くを覚えていられないが、いつも似たような夢を見る。同じ人物が…ある特定の人物たちばかりが出てくる夢だ。

そこで"メリディアン"という名前を、何度も聞いた。

黄金の髪の女性が、そう呼ぶのだ。私はその人物の目を通して夢の世界を見ていた。

 

 

どうにも、夢にしては懐かしい気がするのだ。

 

 

「────親しげに話すのだ…メリディアン…()()()()()()()()が、()()。…ねぇ、(■■■)と、昔会ったことがあるの?」

 

チカリと、光が視線の端に走った気がした。次いでぼやりと目の前が(かす)みがかり始めたその時、いつの間にかメリディアンが私の目の前で膝をついて顔を覗き込んでいた。その後ろで、ローデリカも立ち上がって心配そうに見ている。しかめ面のブライヴは、怪訝そうに座り込んだままだ。

 

メリディアンは私の肩に手を優しく置いてから、その疑問に、しかし彼はきっぱりと答えた。

 

「いいや、ないよ。それは間違いない。君は"メリナ"だろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()

 

「───、───」

「なんだ、メリディアン」

 

けれども、少し違う。

 

黄金の光はそこにはなくて、とても暖かな、そう、自然な光が降り注いでいるだけの庭園。

素朴なテーブルは変わらないが、今までと打って変わって質の良さがあまり見えない。傍に控えていた獣人もおらず、ただ二人だけがそこにいた。

(女性)もどうやら以前よりも質素な衣服を身に着けている。より厚手で、動きやすく、着慣れていて…あぁ、これは(メリナ)が普段から着ている、旅の服に似ている。

多分、これは、いつもより昔の()()

 

目の前の女性────()()()()()()も同様の衣服を身に纏っている。

…そうだ、忘れていた。彼女もまたその名で呼ばれていた。()()()()()()で。

 

普段夢に見る時の満月色のローブも、黒いヴェールもそこにはない。惜しげもなく金色の長髪を広げたその顔は…やはり、メリディアン()とよく似ている。()()()()()()

 

そうしている間に、二人の会話は幾分か進んでいた。

 

「メリディアン、また"山嶺(さんれい)"へ行くのか」

「あなただって"アズラ"へ行くのでしょう?」

「…君の好きなようにすればいいとは思う、だが、あそこの住人とは…私()()とは相容れない」

()()()()()()とは、でしょう。…ねぇ───、あなたの目指すべきものは確かに私たちを救うかもしれない」

 

(うれ)いを()めた言葉は、しかし私には全ては伝わっていない。わかって欲しい、メリディアン…今の私たちには────違う、これは(メリナ)ではない。

 

「これは希望だ。この地に導かれて()()()()私たちは、最早戦い、勝ち取るしかない…そのためであればメリディアン、私は何者でも扱い、何者でも退(しりぞ)け、何者にでも成る」

「知ってるわ、───って、そうだもの。ねぇでも───、覚えておいて」

 

一歩、私から距離をとった彼女は、それだけで木々の影の下へと身を滑り込ませる。顔に暗い影が落ちる…黒いヴェールを身に着けていたあの夢のように暗く。

私は…それを追おうとして…

 

「希望だけじゃ、生きていけないのよ」

 

拒絶の言葉が、胸をゆっくりと刺した。

しかし胸の痛みを感じる前に、"誰か"の言葉が小さな導きとなって私を夢から引き上げる。

 

『君は"メリナ"だろう?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








※あとがき最後に参考にしたフレーバーテキストを追記しました。240620

今日はこれ一話だけにしようと思いましたが、序盤の進みが緩やかなこともあって後ほどもう一話投稿します。

ちなみにサブタイトルの「残燭の弔歌」は「ざんしょくのちょうか」と読みます。


■メリディアン
自称だが王都出身。
調理も出来、それなりに凝っている。ハープボウを持ち、楽器として弾くのも得意。
狭間の地に入ってからある使命を思い出した。


■メリナ
夢の"誰か"と自分を混同する時があるようだ。
"誰か"の燃え残った感情が影響しているのかもしれない。


■ブライヴ
ちゃんと出されればサラダも食べる。


■ローデリカ
ストームヴィル城で仲間を失い、失意のままクラゲの霊と共に小屋で座り込むだけだった女性。
メリディアンは彼女に何か思うところがあったようだ。


□──────
夢の中でメリディアンと呼ばれた女性。
また、褪せ人のメリディアンと顔が似過ぎているらしい。


□───
メリナは彼女の視点から夢を辿っている。





-霊クラゲの遺灰-

ふわふわと辺りを照らす霊体
遠い故郷を探す、泣き虫な少女のクラゲであり
けなげに毒液を吐いてくれる

名をクララというらしい


-ハープボウ-

吟遊詩人の竪琴を、弓としたもの
矢を射ると、まだ美しい音を奏でる

吟遊詩人は、英雄たちを歌った
誉れある、黄金樹の英雄たちと
誉れ無き、冒涜の英雄を


-メリナが伝えるマリカの言霊より抜粋-

黄金樹は、すべてを律する。選ぶがよい
我らの律の一部となるか?それとも律の外にあり…
何の力も持たぬ、辺境の傍流となるか


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