エルデンクエスト   作:凍り灯

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枯草露草若草の輪

 

 

 

 

 

崩れた石造りの廃墟の(かたわ)ら。

まるでたった今来たばかりのような物腰で、ラーヤは手を伸ばしながら私たちに話しかけた。

 

「お待ちしておりました。やはり、私の信じたとおり、貴方は英雄たる方々です。改めて、あなた方を"火山館"にお招きします」

「ラーヤ、そのことだが、しばらく待って欲しい…私はこの"アルター高原"を知らなければならない」

 

きょとん、と彼女の爬虫類じみた目が疑問を宿す。こんな場所でも身綺麗なまま若草色を(まと)ったままのラーヤは、どこか幼さを残す声で理由を問うてきた。

 

 

────私はラーヤの所属する"火山館"についてブライヴから聞いて把握している。

 

"第二次ローデイル防衛線"…法務官ライカード率いるゲルミア軍とローデイル軍の衝突。

やがて終わりもない惨戦と呼ばれた"火山館攻略戦"の始まり。

 

ラニ様の兄弟であるライカード様。彼は破砕戦争の時からずっと、黄金に弓引き続けた男。

 

…私もまた、若き彼とは会ったことがあった。

 

ラダーン様のように、戦いの場に身を置くような方ではなかったから見ることすらほとんどなかったけれど…勤勉で真面目、そして古い魔術や呪術に強い関心を持った青年だったのを覚えている。

 

『法務官ライカードは、ゲルミアの火山館の主。慈悲なき裁判官にして、責問吏(せきもんり)たちの長。蛇のように忌み嫌われた男。ゲルミア火山は、黄金樹の大地、アルター高原の西にある破砕戦争で最も凄惨な戦いの舞台となった場所だ。…ライカードは、冒涜の罪を侵したのだよ。そして、許されざる敵となったのだ』

 

円卓の導き手、ギデオン殿は私にこう語った。

私の古い記憶を頼りに当時の面影を探すことなど、きっとしてはいけない。

 

それにラニ様とライカード様は"陰謀の夜"、協力関係だったことは本人が認めているのをメリナ()てにも聞いていた。

…一体そこで何があったかのか、何の取引をしたのかは詮索していないからわからない。ずけずけと過去に触れることは、出来ればしたくないから。

 

しかしこれらの情報だけでも、ライカード様が狡猾であり蛮勇であり、恐ろしく執念深いことは明らか。とはいえ口伝だけでその人となりを判断するつもりは毛頭ない…だから今の彼を見極めることが必要だと思っている。

ラーヤは()()()火山館へ招く方法を知っているようだが、私としては己の心の整理も兼ねて、このアルター高原でいかな戦いがあったのかを見て回り、納得がいった上で会うべきだと判断した。

 

…それが協力にしろ、敵対にしろ、だ。

 

「────…成程、英雄たる道を征くために、苦難を受け入れ突き進むのですね…このラーヤ、感服いたしました。褪せ人様、せっかくですから今回も知見を深めるためにも同行致します。必要であれば案内はお任せください」

「ありがとうラーヤ。…お前たちはどうする?」

「あぁ…あんたらについてくと、また古竜みたいなとんでもないやつらと会いそうだから遠慮しておくぜ」

「も、もう行かれるのですか?でもオイラじゃ流石についていけないですから…」

 

また巻き込まれたら命がいくつあっても足りねぇよ、とうんざりした様子のボギーと、対照的に寂しそうに別れを惜しむボック。

むぅ、そうだな、急ぐこともないか…

 

「確かに、急ぎ過ぎも良くないか…────ブライヴ?」

「………ん?なんだ急に、話は終わったか?」

 

ちょうど小振りな草食動物を片手に戻って来たブライヴに、私は成果を問う。

 

「どうだった?」

「あぁ…まだコイツ一匹だけさ」

「そうではなくてな?」

「わかっている────東には王都の兵によって陣が築かれているな。厄介なのは、遠くにバリスタが数門あることだ。周辺にも哨戒(しょうかい)兵が行き来している。忌み子の集団も見た…さっきとは違うグループだ。…遠目に、混種たちの住処も見たな」

「短い時間で流石だな…いつ動くのがいいと思う?」

「日が落ちかけてる。ここは黄金樹が近いから言う程暗くはならないが…正気を失った兵とは言え、夜で送る合図くらいあるだろう…見えるか?まだ明るいのに松明を持っている兵だあれはバリスタの射撃のための"観測点"だろう。要は狼煙(のろし)だ」

「"鳥の遠見"を利用した高高度観測か…」

「お前、王都の弩砲(どほう)術は?」

「多少ならば…どちらかというと大弓の運用の方が詳しい。しかし私は前線の先駆け弓兵だからな、部下に任せてばかりだった。そもそもの立ち位置もかなり特殊な部隊だったしな…」

「ゴッドフレイ直属の弓兵部隊か…さぞかし暴れまわったことだろうな」

「そこの記憶が全部はっきりしていればな…」

 

と、つい話し込んでしまったのに気が付いて咳ばらいを一つ。

 

古い英雄の話に興味のあるラーヤはともかく、ならず者はなんだかすごいやつだったんだなー的な顔で聞き流しており、ボックは会話の内容をイマイチ理解できていない。

メリナはいつも通り静かに耳を傾けてくれている。

アレキサンダー?

彼は今、小動物が捕まえられなくて「ぬぅぅぅぅぅうううん!」と唸りながらひっくり返ったばかりだ。

 

「────…とにかく、今動くのは危険だから、ボックの言う通り急がずにここで野営しようということだ…君もどうだ、ミリセント」

「────これまた…賑やかなことになっているな、君の周りはいつも」

 

近くの廃墟、そこで彼女は偶然休んでいたのだそう。

 

流石に顔を出さずにいるのは礼節がなってないと思ったのか、ミリセントが自ら足を運んでくれたのだ。

…大勢とはいえ溶岩土竜との戦いは消耗する。遠くまで一気に行くには、誰だって厳しいものがある。初見の場所であるならば、尚更に。

 

「ふぅむ…つまり、俺の鍋の出番ということか」

「そういうことだ。陸ダコの残り、あるか?」

「人数分はねぇな…ありゃぁ皮が厚すぎて食える場所があんまねぇ」

 

べろべろと、切り落とされあ子陸ダコの足見せつけるボギー。

確かに陸ダコは昔から食用に向かないと言われていたし、ボギーならなんとかしてくれると思ったが…ダメだったか。

 

「赤獅子城で貰った鶏肉がまだ少しあったか…」

「メリディアン、レアルカリアから持ってきた閑古蕪(かんこかぶ)ならあるわ」

「なら青蕪(閑古蕪)のスープにするか」

 

青蕪と呼ばれる閑古蕪は育成が難しいゆえに流通が限られるが、高い集中力を得られる効能があるのだ。主に魔術師に好まれるために王都軍ではあまり見たことはないが、レアルカリアの魔術師たちがかつて分けてくれたので印象深く記憶に残っている。

 

…全く、こういったことばかり覚えていてもな。

けれどもかつて、黄金と満月は結ばれていた。ラダゴンがラニ様の母である満月の女王レナラと結ばれたことで、対立していた私たちは、それに納得がいっているいないに関わらず歩み寄った。

 

 

 

────そうしてまた、この疑問に立ち戻る。なぜ私はラダゴンとの記憶がないのだろうか?

 

 

 

リエーニエにある結びの教会、司祭ミリエルの語るラダゴンの物語。

あの時はまだ、そんな大事なことすら忘れてしまったのかと己に嘆くだけで済んでいたが、今では不可解な疑問ばかりがつきまとう。

 

忘れているだけ?そうかもしれない、しかし朧げながらも多くを思い出してきた記憶の中に、全くといっていいほど痕跡が存在していない。

 

腐っても私はゴッドフレイ直属の数少ない部隊の長。共に、戦場で戦っていたはず。ほんの少しぐらいは面識があるはずだ、なくてはおかしい。まるで意図的に切り取られたかのようにすら錯覚してしまう。

この答えもきっと、あの黄金樹の麓にあるのか。

 

そんな悩む私にまぁどうにかなるさ!と言わんばかりの陽気なアレキサンダーの勝鬨(かちどき)が。

 

「おうい!捕まえたぞ!動く花(ミランダフラワー)だ!!」

「どっから捕ってきた??元の場所に返してきなさい。蕪は…まだそれなりにあるな」

「それとカニだ!」

「馬鹿野郎それを早く言えでかした壺野郎鍋にぶち込め」

「落ち着けボギー」

 

さらに半狼も輪に加わる。

 

「おいメリディアン。もう一匹捕まえて来たぞ…なんだ、今日は随分と豪華になりそうだな?」

「…君たちは妙に手慣れているな…私も邪魔して大丈夫なのだろうか」

「こういうのは流れに乗るのが肝心なのです。ラーヤはそれを学びました」

「ねぇラーヤ。蕪の葉を下茹でして欲しいのだけれど、頼める?」

「巫女様、その程度ならばお安い御用です。お任せください」

「ご、ご主人様!オイラも手伝います!」

「よしわかった、ブライヴと獣を(さば)いてくれ」

「え゛」

「…あぁ君、私も手伝おう、どうすればいい?」

 

夜が見下ろす黄金の大地、崩れた廃墟の中で、今日も炬火(きょか)を囲い話し声。

当たり前の、いつからか当たり前でなくなった情景。まともな存在など何一つなくとも、互いに互いを知らずとも、いつか互いの道がぶつかってしまうのだとしても、きっとそれで良いのだ。

 

私は、そうあって欲しいと願っている。

 

「よし、じゃぁここらで一曲…」

「褪せ人様、王都の音楽も良いのですが、異国のものは弾けるのでしょうか」

「カニ好きに悪い奴はいねぇ…どうだ半狼、前言った通りの美味さだろう?」

「これは…っ!」

「ねぇボック、実は私たちからあなたに渡したいものが」

「えっと巫女様?オイラなんかに一体何を…?」

「貴公、隻腕でこの地に至るとは相当できるな!」

「どちらの腕も健在であれば、もう少し君たちの助けになれたというのに…歯痒いよ」

 

こんな夜がずっと、続いてくれればどんなに幸福か。

 

 

 

 

 

 

 

 

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────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

火も消え、静けさが支配する時間。

降り注ぐ黄金と月明かりを遮断するために、背の高い廃墟の壁とタープ(簡易の布屋根)の陰で各々が休んでいる。

 

…私はそこで、寄りかかっていた眠るミリセントを静かに横たえ、誰も起こさないようにと実体を失い歩く。

 

音なき歩み。

見えているはずの地面を、ちゃんとこの足で踏みしめているのか?その感覚すら忘れそうになる浮遊感に、どうにも収まりの悪さを感じ、皆が眠る場所を離れた時点で再び足の裏の感触を取り戻させる。

ずっと、そうしてこの地を彷徨(さまよ)ったと言うのに、今はどうしてこうも落ち着かないのか。

 

ふらりと歩みを進めた先。

黄金樹と王都を一望できる場所まで歩いていく。

 

途中、静かに壁の角に収まるアレキサンダーがいた。彼は眠りを必要としないが…少し変化があったのだろうか?

そういえば彼は、内なる戦士と向き合うために、より力を引き出すために瞑想というか対話というか…今まではしてこなかった、考えつきもしなかったことを試みていると言っていた。それはラニからの助言だ。

きっと今がその時間のなのだろう。

 

そうして辿り着いた崩れた壁の上、彼がいる。

今が彼の見張りの時間だと知って、足を運んだのだから当然なのだけど。

 

メリディアンは、壁の上、よく周りを見渡せる高所で目を光らせていた。

片膝をつくように身を乗り出し、表情は、ここからじゃわからない。

 

私は彼の邪魔をするのは良くないと思いつつも…結局は静かに足元まで来てしまう。そして、せめて彼の方を見上げずに黄金樹を望んだ。

すぐそこで丸まって横たわるボックの小さな寝息が大きく聞こえるほどの静寂、夕闇の喧騒も、今は火もなく黄金と月だけ。

 

 

「眠れないのか?」

 

彼が言う。

 

「…ミリセントといたのだけれど、彼女、座ったまま私に寄りかかって眠ってしまって」

「余程君の横が心地よかったんだろうな。気の抜けない一人旅だったんだ…それはとても、いいことだ。それで君は眠れなかったんだな」

「いえ、私は…」

「…そうか、眠り慣れていなかったんだったな、すまなかった」

 

私はその全ての眠りを霊体のまま過ごしてきた。

一度だけ…円卓の下層で眠ってしまったことがあったけれど、それだけだ。どうしても、眠る時に身を晒すのはまだ落ち着かない。

 

見上げれば、メリディアンは広い視野を確保することを前提としているためか、ヘルムは被ってはいるものの、バイザーはあげていた。

その目は刺すように鋭く辺りを見回す。

 

「ごめんなさい、邪魔をした」

「やめてくれ、そんなことは欠片も思ってないさ…むしろ、ありがたい。いつも助けられている」

「私は、あなたを見つけたあの時から、何も出来ていない」

「そんなことはない。と言っても納得してくれなさそうだな君は…今は、納得出来なくてもいい…だから受け入れてくれ」

「………わかった」

「ありがとう」

 

全然納得いってないな、と彼は苦笑いをする。

納得など、いくはずがない。けれどもこの道に引き込んだのは私なのだ、否定することもできない。ああ、今でも本当にこれが彼にとって良かったのか迷う時が、ある。

 

やや気まずい空気が流れる。つい、いまだ周囲に視線を回す彼の枯れ葉色を目でなぞった。

しばらくの沈黙の後、彼は私に納得出来るようにと言葉を重ねる。

 

「単純な話なんだ。誰だって出来ることと出来ないことがある。君は私を見つけた。それがなければ、私の使命は始まらなかった。…言っただろう?君と…この言い方は好きではないが、マリカ様の分け身と出会って私の使命を思い出したんだ。そうしなければこの旅は、きっとどこにもなかった。…それに君だって出来ることを探して、色々やろうとしてくれてるだろう?」

「…」

「頑なだなぁ…人このことは言えないが…」

「それは本当にそう思う」

「いや、うん、すまん」

 

彼は自身の感情をあまりうまく隠せない。

分かっている、あれは癖のようなもの。けれども直すことも出来たはず。私の産まれるずっと前から言われていたはずだ、それでも今の今までそのままなのだ。

頑なに、知りもしない人たちからすれば「そんなこと」を貫き続けている。でもそれが、この壊れた地で"誰か"を救っているのは間違いない。

 

彼が円卓で語ってくれた昔話。彼の王、ゴッドフレイが彼に残した言葉。

 

『────お前はお前のままでいればよい』

 

きっとそれだけじゃないのだろう。その言葉が彼を今のように頑なに…それでいて尊いものへと昇華してしまったのは。遠い遠い昔、()()があったのだろうか。

 

「ああ…あったさ」

 

いつの間にか、メリディアンがこちらを見下ろし微笑んでいる。月と黄金樹の光を浴びて、ヘルムから垂れた枯葉色が黄金の輝きに塗り替わっていた。それは儚くとも(あで)やかともとれる笑み。

緩く弧を描いた唇に、目がいく。

 

「はは、君も大概分かりやすいぞ?────"何かあったんだろう、でも聞かないでおこう"、とね」

「…あなたに分かりやすいと、言われるなんて………」

「流石に傷つくが?」

 

シナりと、いつもの通りのどこか締まらない雰囲気が戻って来て「ほんとに傷つくが??」私はほっ、と安心する。

その時。

 

「母さま…」

「!」

 

ボックが、小さな寝言をポソリと溢した。

メリディアンは聞こえてなかったようで、一人いじけたまま。でもすぐに私の視線で気がつく。

 

「ボックが…どうかしたのか?」

「ただの寝言…彼は、お母様が恋しいのね…」

「メリナ」

 

気遣うような彼の声。

察しが良すぎるそれになんて返せばいいかわからずに、私だけが聞こえる小さすぎる寝言をなぞる。

 

「美しいと、言って欲しいって…」

「…」

「…母」

 

私には、わからない。

 

あの日、ゴドリックを打倒した日の円卓の下層でメリディアンに言われる前から、自身がまともな産まれでないことはなんとなく理解していた。

 

わかりたいと思ったことなど、一度もなかった。知らなかったから、そんな感情すら。

今でも、大して思わないのだ。それは私が…母の腹から産まれなかった存在だからだろうか?

多少は気にするようになったのは…彼と旅をしてから。

 

トレントと彷徨(さまよ)っていた頃には考えもしなかったことが、小さな虚しさがこの胸に穴を穿(うが)たれている。

たくさんの物を詰め込んで貰ったけれど、それでも、気のせいかと思ってしまうような音もない隙間風が、心のどこかを不快に冷やし続けている感覚が離れない。

 

生命の輪を通らず生まれた自分という存在。今になって、私は…

 

「…母とは、母から産まれるとは────ねぇ、皆、そういうものなの?」

「美しい…か。どう、だろうな…私も、考えたことはなかった、が…」

 

その奥歯に物の挟まったような言い方に、ついメリディアンの顔を見上げれば、それはそれはとてもしょっぱい顔をしていた。

 

「………………なに…?」

「あぁいや…すまない、ちょっとだけ昔を唐突に思い出してな…雰囲気も何もあったもんじゃないし、そもそも全く関係もない話なんだが」

「…?別に、大丈夫よ。聞かせて」

「…笑うなよ?活気があった王都で、こんな顔だからな、隊員と歩いてれば、そいつの奥方に女性と間違えられて…」

「うん…」

「普段は隠しているんだが、その時は色々あってそのままだったんだ…で、だ。"こんな美しい人といるなんていいご身分ね!"なんてあいつは言われててな」

「うつくしい」

「…それを助けるために横槍を入れたら、ほら、急に女だと思ってたこの顔から男の声が飛んでくるわけだ…大層混乱しててな」

「そうでしょうね…」

「そしたら"女みたいな男が趣味なの!?"っとな…あげくどうなったと思う?風紀が心配だから上司を呼べと………私なんだよ、その上司(隊長)は」

「………」

「………」

「………ふふっ」

「笑わないでくれな?」

「…?…見間違いだと思う」

「君も言うようになったな??────…不思議と顔も名前も声すら思い出せないが、たまに過去の記憶が()ぎるよ…以前よりずっと」

 

褪せた本を(めく)るように。まるでただの文字で書かれた"記録"のように。彼は以前そう語ってくれた。

 

その王都はもうすぐそこに。

だけど、彼の思い出にあるものは恐らくどこにも…

 

「それでも行かねばならない…君を連れていくという約束もある。それ以前に、私は知らねばならない、全てを」

 

静かな覚悟に…何か、何か言わなければいけない気がした。

気の利いた言葉も、彼が求める言葉もわからないままに自然と唇が動く。

 

「あなたらなら、大丈夫…今は一人じゃない」

 

驚いたようにいつもより見開かれた彼の目、やがて彼はとても嬉しそうに笑った。

この笑顔を見て、何故か、同性相手でも凄まじく心を揺さぶりそうだなと、他人事のように思った。

 

「そうだな、君たちがいる」

 

…言葉は、どうやらこれで良かったみたいだ。

結構上機嫌になった彼は、ニコニコと自ら腰を折った話を元の話題に戻していく。

 

「母から産まれるとはどういうことか、だったか…そうだな、知っての通り少し複雑な家庭から話さないといけない。長くなるが…」

「うん、聞かせて」

 

 

アルター高原に昇ったとはいえ、まだ王都も遠く、黄金樹の麓への旅は長くなるはず。

きっと多くの寄り道をしてしまうのだろう。だがそれは、私たちにはきっと必要なこと。

 

この道行を、黄金ばかり見て歩くには長すぎる。もっと色鮮やかな物を見上げて、見下ろしながら歩き続けるのだ。

 

 

 

 

 









誤字報告いつもありがとうございます。
ちゃんとチェックし切れなかった悔しさ半分、でもちゃんと見てくれる人がいるんだなと嬉しさ半分の複雑な心境だったり。わざと間違えようかな!(やめろ)

何事かと思われるサブタイトルの読み方は、枯草露草若草の輪(かれくさ、つゆくさ、わかくさのわ)
となっておりますが、簡単に言うと黄色、青色、緑色ということ。
黄色と青色が混ざれば緑色です。これらはラーヤの色か、高原の色か、夜空の色か、瞳の色か。



■メリディアン
とんだ修羅場に巻き込まれたことがある。
王都では、普段は顔が隠れやすいものを身に着けていた。別にヘルムを普段着の上から被ったりはしていない。つば広のハットとか。でもやっぱり知らない人から見たら男装の麗人。
しかし美味いなこのカニ…


■メリナ
世界とは。こんなに壊れてしまっていても、強かに命は生き続ける。
鮮烈に、鮮やかに。
それを今まで、見えていないままに生きていた。
カニは、美味しかった。


■ブライヴ
ブライヴは感動した。
カニってこんなに美味いのかと。


■アレキサンダー
アレキサンダーに味は分からぬ。
しかし内なる戦士が語り掛けてきた。
カニは、美味いと。


■ラーヤ
何故だかなんとなく、そろそろ来そうだなと思って出迎えたらちょうど来た。あの赤い流れ星といい、不思議なこともあるものですね。
また賑やかになってるなぁと思いながらも、苦難に立ち向かう姿に感銘を受けて同行を申し出た。
それはそうとカニがこんなに美味しいなんて…


■ミリセント
ついに追いつかれてしまったが、自分に厳しいだけで、別に逃げていたわけではない。
しかし、カニか…


■ボック
普通に美味すぎるカニを食べてびっくりした。同じように感動していたブライヴを見てようやく親近感を得たことは秘密だ。
ちゃんとご主人様の蕪のスープも美味しかったです!とフォローした。


■ならず者
わかったなら、二度とオレに歯向かうなよ。
皆が神妙に頷いた。



- "剣の碑"より抜粋 -

火山館攻略戦
穢れた者たち、疫病、冒涜
名誉なく、終わりもない惨戦


第二次リエーニエ戦役
黄金と月に勝者はなく
だが(あがな)いと、結びが生まれた


- ゆでカニ -

茹で上げられたカニの身肉
プリプリとして汁気もある見事なもの
これもまた、塩加減にコツがあるらしい

エビとは違い、これは確かにカニである
まあ、美味ければそれでよいのだが

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