エルデンクエスト   作:凍り灯

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羽なき黄金の鳥

 

 

 

 

 

"確かめに行かなければいけないことがある"

 

メリナはそう言い残した。

 

本来、彼女は実体のない、霊的存在。しかしその出自ゆえなのか、まるで身体を持っているかのようにこの世界に"在る"ことが出来る。霊馬トレントもまた、例外的存在なのだろう。

 

彼女たちは、どういうわけかアルター高原を降り、そこから戻ることができずに彷徨(さまよ)い続けた。そしてずっと、黄金樹の麓(ふもと)へ連れて行ってくれる褪せ人を探し続けた。黄金律をはずれようとも、エルデンリングを求め王都を目指す存在を。

 

…思えばおかしな話だ。

彼女が一体いつ生まれたのか、或いは解(・)放(・)さ(・)れ(・)た(・)のか。エルデンリングが砕けてからとても長い時間が経っている。だというのに、彼女はただの一人も導くべき褪せ人を見つけることが出来なかったなど。

 

私はそのことを、彼女が言うまで聞かないことにしていた。けれども。

彼女と私の出会いが作為的であったことは、理解している。

 

これは黄金律ではなく、神(マリカ様)の意図なのだと。

 

ああ、全て覚えていなくとも、覚えているとも。そしてその意図は、本来使(・)命(・)な(・)ん(・)て(・)も(・)の(・)で(・)す(・)ら(・)な(・)い(・)ことぐらいは。だが、今では私の"使命"となった。

 

『…メリディアン、ありがとう。ありがとう、みんな。私を黄金樹の麓まで連れてきてくれて。ここなら、私も自由に動ける』

 

彼女たち(メリナとトレント)は互いにあまり遠くまで離れることが出来ない。見えない鎖で繋がっているとでも言うべきか、「これ以上は離れられない」というラインが存在するらしい。

ゆえにトレントを他人に託すということは、彼女にとって一蓮托生を意味するに等しいのだ。

 

その制約が、王都では緩むのだと、いつか教えてくれた。

 

『契約は終わり、なんて言わないだろう?』

『…確かめに行かなければいけないことがある。私は…私の使命を確かめに行く』

『最初に交わした約束だ、止めやしないさ。また後で落ち合おう。だから、トレントは君が連れて行ってあげてくれ』

 

それでも私はトレントを彼女に任せる。また、ここに戻ってきてくれるようにと。

そしてトレントにもまた、彼女を任せた。どうか連れて戻ってきてくれ、と。

 

『…わかった。ねぇ、メリディアン?』

『ん?』

『────貴方の名前、もしわかったら、伝えに行くね』

『!…ああ、もしその時は頼むよ、メリナ』

 

 

 

そうやってメリナは私たちと、一人別れた。必ず戻ると言い残して。

 

 

 

王都のメインストリートを抜け、開(・)け(・)放(・)た(・)れ(・)た(・)正門を潜る。

そうだ、この門は、私が王都に入った時に開けられた。王都の兵もまた、同じように武器も構えず道を空けていく。

真白な使者たちの調子外れなラッパ音だけが、いまや無音が埋め尽くす黄金の都を賑やかせた。

 

…本来の目的の場所は、この先にある王城ではない。目指すべき黄金樹の麓はこことは違う道を通らないといけないのだが、メリディアンもメリナと同じく一つ、確かめておきたいことがあった。

 

王都、城館の一階、謁見の間。

 

記憶と相違ない。ここは"円卓"の元となった場所。当然ながら大祝福のあるあの"円卓"と違い、まるで人の気配などありはしないのだが。

 

「前に話したのを覚えているか?…ここが、褪せ人が集う"円卓"、そのオリジナルだ」

「ほう…しかし黄金樹の膝元というのに、窓一つないとはな。余程隠したいものがあったと見える」

「おおブライヴよ、勘ぐり過ぎではないか?黄金樹が近すぎるせいで、眩しさのあまり眠れないからだと俺は思うぞ」

「眠らないお前から恐ろしい程常識的な意見が出て来たな」

 

はた、と。ブライヴが足を止める。

 

人の気配はない。だが、血の匂いは、ある。まだ比較的新しく流れたものらしい。

 

雑談を交えようが元より警戒を怠ってなどいないが、私たちはさらに目を鋭くさせ、窓のない屋内の隅々まで気を張り巡らせていく。だが、ついに襲撃者など、戦いも何も起きなかった。

代わりに見つけたのは、二人の亡骸。

 

一人は、恐らく魔術師。

もう一人は、長大な大剣を扱う戦士だ。刃の螺旋が織りなす独特な形状の大剣は、微(かす)かに黒炎の残り香を宿している。かつてアルター高原の風車村、そして火山館の大聖堂で対峙した"使徒"たちと同じ。

 

二人は、とても重い槌で叩き潰されていた。

 

尋常ならざる者たち同士の争い。思い当たるのは、背律を掲げた火山館にいた"彼"。早計だろう、この世界では、互いに殺し、奪い合うことなど珍しくはない。

 

私たちはその場を後にし、別の部屋を目指して歩みを続ける。

 

 

 

 

 

────放置されて久しい鍛冶道具。

────暗く奥まった部屋に佇む玉座。

────血で荒れ果てた書庫。

────"円卓"の外にある裏庭。ああ、ここだけは最初からよく覚えている。

メリナが記憶でも度々見たという、マリカ様と母が会話を交わしていた場所。

…マリケス、ここにお前もいたのだろうに。一体、どこにいるというのだ。やはりお前も、もう…

 

何か、記憶の断片でも見つかる可能性はないものか。

あの時、私が思い出せたのは"友"との記憶が大半であり、それ以外に戻って来たものは決して多くはない。思い出したところで、私の"使命"が変わることはないのだが、あまりに久しく戻った故郷でもある。

 

使命も何もなかった頃、元は郷愁(きょうしゅう)で戻った狭間の地。

全てを思い出すきっかけがあるとするならば、最早この黄金の都しかないのだ。

 

だが、思い当たる城館の部屋を回っていくも、結局はそんなものはどこにもなく、最後に訪れたのは謁見の間の袖にある部屋。

 

見つけたのは、絵だ。

 

「この絵は…前も似たようなものを見たな…」

「ん?…あぁ、"放浪の画家"の作品とやらか。こんな所にまで出張ってるとはな」

 

狭間の地の各地で見られる絵画。作者であるその画家は、死して消えゆく者たちの最期の景色を描くのだと、誰が噂したのかそんな逸話が長く残っているのだとブライヴは教えてくれる。

まるで先ほど描いたかのような乾かぬ湿度を保った絵画は、不思議なことに誰に持ち出されることもなく画架(がか)に立てかけられたままそこに在り続ける。

 

見ればわかる。

籠(こ)められた不思議な魅力が。

…だが、それ以上のことは何も読み取ることはできない。個人的な解釈のみが心に宿るが、絵は黙したままでそれ以上のことは、何も。

 

「ここはもしや、ミリセントと別れた風車小屋のある(村風車村ドミヌラ)の丘、か?」

「おお!どうりで見覚えがあったわけだな!見事な出来ではないか、芸術に疎い俺でも心がざわつくのが分かるよ」

 

黄金樹を大きく見上げる画角で描かれた絵は既視感があった。本当にあの村から描かれたものかはわからないが、周辺であることに違いはない、はず。

 

つい、ジロジロと絵を楽しんでいれば、私は絵の隅に小さく美しい文字でタイトルが記されているのに気がついた。

 

 

 

『飛べない鳥』

 

 

 

ここは私とメリナが"円卓"内部で交流する場所でもある。

それはある意味示唆的である。ただの偶然だ、恐らくきっと。

 

「…」

 

それ以上絵画に触れることはなく、私たちは城館を去った。

 

 

 

 

 

────放浪の画家が描いた最期の景色。彼はそこで倒れた預言者の景色を描いていた。

 

預言者の遺体に刻まれた、最期の瞬間に見出された祈祷は『火の大罪』。

もうすぐに、種火が滅びを燃え上がらせる。その絶望を、画家はただキャンバスに描くのみ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『戦士は孤独なものだ』

 

故郷の子供(小壺)に語った言葉は真(まこと)本心であった。

しかしそれは未熟な己の、思い上がった恥ずべき心構えでしかなかったのだと、この旅で気付かされた。

 

そう言えばあの小僧はどうしておるのだろうなぁ。

 

今こそ、あの時とは違う戦士の言葉を、教えてやれることだろう。"孤独"とは、知らぬ者の強がりでしかなかったのだと。

目の前のメリディアンを見ていると、ふと、あやつを思い出した。

 

「メリディアン、貴公、調子がもどっていないのか?」

「アレキサンダー…?」

「…俺には、そうは見えなかったがな」

「あぁ、うむ、戦いの話ではなくてな…うーむ。なんとなくそんな気がしたのよ」

「…」

 

"ゴッドフレイの幻影"

黄金樹の大聖堂。正規のルートで辿り着けなかったそこは、巨大な木の根を伝うことで入り込むことができた、黄金樹を目の前にした聖堂。

果てしてその入り方が良くなかったからなのかは、わからない。黄金の光より、女王マリカの伴侶であり最初の王、ゴッドフレイの霊体が現れたのだ。

 

動揺していた。

瞬きの間だけとはいえ、メリディアンの拳に力が入ったのを、アレキサンダーは気がついたのだ。

それは王都のあの悲劇を、目にしていたから気づけたのかもしれない。

本来そのような一挙手一投足をアレキサンダーは気がつけない。けれどもメリナ嬢の胸の中で無念を噛み締めるあの姿を、どこか故郷の悩める子壺に重ねたのだろう。

 

以前よりも、アレキサンダーは彼の細かい仕草が目につくようになっていた。

 

意外そうに、ブライヴはアレキサンダーを横目で見る。だが同時に、ブライヴもまた、アレキサンダーに言い包(くる)められた封牢での記憶が過(よぎ)って納得した。

こいつは思う以上に、人を見ている。見るようになっている。

 

だからその言葉を、気のせいだと一蹴(いっしゅう)することはない。

 

今更、隠すことも強がることも必要ないのだとメリディアンは思ったのだろう。素直に、彼は弱音を吐いた。

 

「…やはりかつての王都の姿を知っているから、何を見るにもやるせなくてな…ゴッドフレイは、我が王は…誰にも言ったことはなかったが、父のように思っていたんだ」

「周りには筒抜けだったろうな」

「貴公、俺もそうだったのだろうなと、言わざるを得ない」

「私も今ではそうだったんだろうなと思えて来たからすごい恥ずかしい」

 

マリカ様も母もゴッドフレイもマリケスもそういう目で見てたのかと思うと、こう、な?

 

コホン。

話題を戻して。

 

「だから、そうだな。少し…参ってるよ」

 

儚く笑う彼は、疲れたように呟く。

言葉や所作とは裏腹に、その暗青色の目は相変わらず強く先を見据えたままで。

 

メリナ嬢がいないからだろう。そこでしか出せない弱音もある。

ましてやメリディアンが誰よりも彼女を大切に思っていることは側(はた)から見ても明らかであるからして。やはり、強がりたいのだろうなぁ。

 

このアレキサンダー、そんな所にも気がつけるようになったのだ!

 

なればこそ、そう今こそこれを渡す時というわけだ!!

 

「メリディアンよ、貴公のために旅をしながら作ってみたのだ…受け取ってくれ。きっと似合うし、元気も出ると思う!」

「こそこそ作ってのはそれか…」

 

それは壺だ。壺頭だ。

 

メリディアンの顔は引き攣(つ)った。対してブライヴはそれはそれは悪そうに笑った。

………うーむ、思っていた反応と違う気がするな…

 

「ほう?…いいじゃないか、アレキサンダーはいい仕事をした…。素晴らしい出来栄えだ。見事と言う他ないな。そうだろう?メリディアン。覚えているか?忘れるわけないものな。イジ爺が作ってくれたあ(・)れ(・)も実に素晴らしかったな」

「………………いや、そう、そうだな、良く出来て、いる。意匠もこのタリスマンの、よう、でとても良い………良い、のだがな?もちろんこれは、あのかんぼちゃ頭の兜の代用品として、だよな?ほら、被るのではなく、あくまで物入れとして、と言ってくれないか」

「うむ!是非とも被って見てくれ!」

 

狼があまりに雄弁に喋る。凄まじい私怨のもとに。

褪せ人は切実に訴えた。これ被り物じゃないよね??

壺は無常にも答えた。被れ。

 

「…」

「…!…っ!………。…ッッ!」

「…???」

 

狼が圧をかける。

褪せ人は葛藤した。

壺は首を傾げる。

 

結局、メリディアンは壺を被った。

ブライヴは無言でその壺頭を抑えてぐりぐりと回している。そしてやはりアレキサンダーは首を傾げて傾げすぎて高所の大聖堂から真っ逆さまに転がり落ちそうになった。

それを止めようと、慌ててアレキサンダーを掴もうとして、でも前が見えないから足を踏み外し一緒に落下しそうになったのをブライヴが必死に引き上げる、なんて一幕もあったそうだ。

 

何をしてるの貴方たち…

そんなメリナの呆れた声が、聞こえてくるようだ。

 

 

 

 

 

『戦士は孤独なものだ。だが、真に己の力を引き出せる時は、寄り添う戦士たちが共に戦ってくれる時なのだと、俺は思うよ』

 

己の内に、己の横に、戦士たちの"声"がいつだって感じれる時こそ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パチン。

 

 

神託の使者たちの笛から鳴り響く調子はずれのラッパ音が、この部屋まで届いてくる。黄金のシャボン玉がぱちんと弾けるその音までも。

…ここは王都の裏門、その先にある"禁域"に繋がる大昇降機横の隠し部屋。知るはずもない部屋を、最初からここに隠されているとわかっていたかのように私はふらりと導かれた。

 

私の記憶ではない。神である、永遠の女王マリカの記憶だ。

ここに、彼との旅、その目的の答えがある。

 

狭い通路に座したまま死んだ官吏(かんり)を横切り、鉄格子の嵌められた木製のドアを開ける。深紅に金の意匠があしらわれた絨毯(じゅうんたん)が奥へと続く部屋、窓一つだけの閉塞感のあるここはしかし意外にも質の良いソファや本棚が並んでいた。

最奥にはシンプルな長机が一台。古びた本が積まれ、生活感を少しだけ感じることが出来る。

 

机の前、その足元の絨毯は、元の深紅の美しい色を一部黒く変色させている。血の跡だ、大量の。

 

私はその血の跡の前でしゃがみこんだ。言葉は何も出てこず、ただ急に胸が苦しくなり、息を大きく吸って吐きだす。

 

目を閉じ、ゆっくりと立ち上がった私は何故か、私はローブの内に隠した"使命の刃"が気になった。

この机の上に、これと同じものがかつて置かれていた、そんな気がしたのだ。それは私の持っている刃ではなく、もう一振り…そう、メリディアンの持っているものが。

 

私は確信する。彼の使命の刃の古い持ち主が、かつてここにいたのだと。

次の瞬間、あのブライヴの封牢の前で見た白昼夢のようなマリカの記憶が蘇った。

 

 

────いや…これは…?

 

 

今までずっと、マリカの目線で見ていたはずの記憶。だがこ(・)れ(・)は(・)違(・)う(・)。何故なら、私と重なっていたマリカが私から剥(・)離(・)し、机の前まで歩み始めたからだ。そしてこちらを振り返った。黒い血の跡の上に立ちながら。

 

…私は初めてマリカの顔を直視した。どこか自分の面影を感じるが、その目はあらゆるものを混ぜ込んだかのような、極彩色(ごくさいしき)の黄金が輝いている。今まで見た誰よりも強く、今までも見た誰よりも苦悩が、憎しみが、愛が、諦観が入り混じる坩堝の瞳。

それは円だ。

終わることのない"環"、始まりがどこかも忘れられた、終わりなき循環。"永遠"。そういう逃れられない世界に身を投じた、目。

 

黄金樹の光などまるで入ってこない曇り窓を背に、彼女はついに語りかけてきた。

 

『我が魂の欠片よ………この記憶が、この言葉が正しくお前に届いていると願う────そしてその隣に、あ(・)の(・)子(・)がいるならば…』

 

言葉は澱(よど)んでいた。

疲れ果てた女の、声だった。

 

『ここに来たということは、恐らく多くを忘れているのだろう。肝心なのはきっかけだ、それだけでお前は全てを思い出す…その残酷な運命を受け入れられるならばこのまま聞くがよい。恐れたと言うのならば、部屋を出よ。ここは狭間の地に散らばる私の名を冠した教会のように、私の言霊によってお前(私)の記憶を呼び覚ます場所。立ち向かわなければ、思い出すこともあるまい』

 

そうして一度、彼女は目を閉じる。

選択肢を与えられた。そして私(欠片)の選択を、待っている。

 

その時衝動的に考えたのは、このまま何も聞かずに立ち去ること。

 

…これは…私は恐怖している。私はまさに恐れていた。

 

思い出すことによって失われる物もあるのではないか。思い出すことは、少なくない変化が訪れることを意味するからだ。自身が変わってしまうということは、今までの旅のような歩みがもう二度と出来ないかもしれないということだ。

私は、それを何より恐れていた。

 

何を言っているのか、メリディアンは黄金樹に辿り着いた。ならば、この旅は終わりではないか。続きなど、ない。まるでまだ先があるかのように錯覚していた自分に驚き、虚しさが込み上げ、それでも、それでも。

 

それでもここから離れるわけにはいかない。

 

アレキサンダーが、自らの出自ゆえに有していた中身のない本(戦士とはこうあるべき)能を、"誰か"と共に歩むための意思へと昇華させたように。

ブライヴが、何よりも大切な家族だけに捧げる剣を、今だけは"誰か"のための剣となることを誓ったように。

…あの人が、名も無き灯(メリディアン)が過酷な現実を前に歩みを止めなかったように。

 

私も、誰か(あの人)のために全てを受け入れ、先へ征く。共に歩むために。共に、そう、共に…!

残(・)酷(・)な(・)運(・)命(・)?運命など、あ(・)の(・)人(・)は(・)覆(・)し(・)て(・)見(・)せ(・)た(・)。そうやってブライヴは"剣"となった。アレキサンダーは真の戦士となった。

 

例えこれから思い出す"何か"が、抗いようのない残酷ものだったとしても…彼のためになるならば、失っても構わない。甘い"停滞"を、選ぶわけにはいかない。

 

ただその渦巻く黄金の瞳を見返す。そうすれば、彼女は悲しそうに頷く。

 

『よい。では、この言葉を受け入れろ』

 

 

 

『"炎"と共に歩む者…いつか、運命の死に見えん』

 

 

 

その言葉が、私に全てを思い出させた。

 

 

 

 

 

パチン。

 

 

 

 

 

『…もし律の壊れた後、いつかその子が黄金の枯れた先、永遠からこの世界が落ち流れ始めた時代…この地に導かれた時にこれは役に立つはず』

『私(メリディアン)の火を?』

『きっと辛いだろう…永遠に燃え盛る炎を宿すことは。見えるということは、ひどく世界を変えてしまう』

『…』

『それでもこの子は諦めないさ、君の子だ』

『…そう願っているわ、マリカ。…ああ■■■■■、どうか慈愛を持って、焼くだけしかできない燃え盛る炎でないことを』

 

 

 

パチン。

 

 

 

マリカと"メリディアン"の声が、どこか遠くから聞こえた気がした。調子はずれのラッパの音も遠く、ただシャボンの弾ける音だけがパチンと大きくこだまする。

目の前のマリカは、もう一人の彼女…赤髪のメリディアンと並び立ち、自嘲するような儚い笑みで未来を憂う。

 

『…あぁ、そうだな────この黄金の地で、親のエゴほど、醜いものはないというのに』

 

 

 

パチン。

 

 

 

マリカと、跪(ひざまず)いた■■■■■が言葉を交わす。

 

『────果たしてお前が会えるのかもわからない。果たして本当に生まれるのかもわからない。そんな寂しい運命を背負わされるであろう"子"を、待っていて欲しい。…そしてもしその時が来たのならば────』

『…マリカ様。             』

 

 

 

パチン。

 

 

 

『…私を殺しに来たのね』

『…』

 

『お前が邪魔だ』

『…そう、マリカ、マリカ?まだそこにいるのね』

 

陰謀の夜、それまでは幾度と機会があったにも関わらず、マリケスが彼女を守っているために手を出せなかった。

しかし狭間の地が混乱に落ちた今ならば、マリケスのいないこの時ならば、殺すのは容易い。

 

『忘れないで』

 

黄金樹の光などまるで入ってこない曇り窓を背にした忌々しき彼女に、ついに槌を振り下ろす。

 

『希望だけじゃ生きていけないのよ、黄金の英雄(黄金律の狗)』

 

 

 

パチン。

 

 

 

『"どうか幸せに"…母が子に思うことは、ただそれだけであるべきだった…そんなことも、私はわかっていなかった』

『貴様のエゴが、友(メリディアン)と子(■■■■■)を殺した』

『…だからこそ、私は神(狗)になどなるべきではなかった────砕けよ、我が永遠』

『■■■■■■■!!!』

 

 

 

パチン。

 

 

 

彼女の目は、私を見ていた。

磔(はりつけ)にされた彼女が、砕かれた彼女が。抗いながら、身を委(ゆだ)ねながらも、微笑んでいる。

 

『導きに従いなさい、トレントがきっと"彼"を見つけるだろう』

『炎を宿す者と共に歩み、そして運命の死に見えるのだ。共に、そう、共に』

『それこそがお前に与える私からの"探究"の使命…よい、旅を…メリナ。いや、私の────』

 

 

 

パチンッ

 

 

 

そして目が覚める。

 

 

 

気付けば私は部屋の中央で横たわって眠っていた。

先ほどまでの記憶の何もかもが夢のように弾けてしまったが、確かに鮮明に、元々私の内にあった記憶が、与えられた使命が、運命がこの身に、ある。

 

かつて、黄金樹で母から授かったはずの、私の使命。

焼け爛(ただ)れ、霊の身体となってまで、生き続けている理由。

巫女ではなく、そして使命を失くしてしまっていた私は…これでようやく、あの人を導ける。

 

ひどく、ひどく、重くのしかかる運命を噛みしめ、それでも吸い付くような重力に抗わんと立ち上がり、深呼吸をした。

ローブに隠した短剣、使命の刃を鞘より抜き取り、その刃を見る。汚れ一つなきそこに映る私の右目は、未だ燻(くすぶ)る心の中の迷いと裏腹に覚悟を決めていた。強い目がそこにはあったのだ。

 

黄金の中に、小さな小さな"火"が見える。

 

そうだ、もう決めている。

あの人のために、私(・)は(・)消(・)え(・)る(・)。

 

それが私の使命なのだ。

 

 

パチンッ

 

 

メリナの中にあった運命に抗わんとする意志(共に歩まんとする欲望)は、泡のように弾けて消えた。

記憶を思い出したから、だけではない。むしろ、彼らとの歩みこそがこの意志をより強靭に鍛え上げてしまった。

 

だから最後に、少しだけ…ここで弱さを吐き出してから歩こう。

 

パチンッ

 

それは喧しい笛から溢れる泡の音か、それとも足元に落ちた涙の音だったのか。

 

 

 

瞳に、刃(心)に、黄金の熱が宿った。

 

 

 

 

 









黄金の雛鳥にも羽はなかった。

連続での投稿も残り2話となりました。
もうしばらく、この物語にお付き合いください。



■メリディアン
戦いすらそこにはない。ただ虚ろに道を空けられるのみ。
記憶は多くは戻らず、ただ絵画に不気味な予言を見た。
得も言えぬ寂しさはあれど、それでも彼らがいるならば笑って進める。


■ブライヴ
かぼちゃ頭の意趣返しがしたかったが、覗き穴も何もない壺だったので流石にこれ以上はやめておいた。後で穴を開けておこうと心の内に隠して。


■アレキサンダー
かつてのラニの助言を理解しつつある。
それは結果的に、人とはどんな存在なのかという理解へと繋がっていた。


■メリナ
マリカの記憶が断片的なのは変わらない。メリナはメリナでしかなく、ならばこれは彼女の記憶ではないからだ。
しかし今まで忘れていた、自分の生まれと授けられた使命を思い出し、決意に目を染め上げた。


□永遠の女王マリカ
かつて、メリナの記憶でこう彼女は口にした。
『この地に導かれてしまった私たちは、最早戦い、勝ち取るしかない…そのためであればメリディアン、私は何者でも扱い、何者でも退しりぞけ、何者にでも成る』
その黄金(決意)は、欠片たる彼女の中に宿ってしまっていた。



- 戦鬼の鎧 -

円卓を訪れた、最初の褪せ人たちの一人
狼の戦鬼バルグラムの胴鎧

古い伝承によれば、狼は神人の影であり
バルグラムもまた、そういうあり様を望んだ


- はぐれ魔術師のローブ -

変哲もない厚布のローブ
円卓を訪れた最初の褪せ人の一人
はぐれ魔術師、ヴィルヘルムの装束

魔術の源流にさえ触れた、静かなる求道者は
導きの果てに、友たるバルグラムと相討ち
そのまま円卓に囚われたという


- 壺頭 -

逆さに被り、頭をすっぽりと覆う壺
鉄拳アレキサンダーの手作り
それはきっと、壺なりの友情の証であり
投擲壺アイテムの威力を高める


- 小壺のセリフより抜粋 -

そういえば、お兄ちゃん、アレキサンダーのおじちゃんは知ってる?
昔はこの村にいたんだけど、英雄になるための旅に出ちゃって
連れてってって言ったんだけど、「戦士は孤独なものだから」って…
寂しいけど、すごくかっこいいんだよ


- 火の大罪 -

もっとも不吉な預言に由来する祈祷
周囲と共に、自らを激しく焼く

預言者は、黄金樹を見上げ絶望する
もうすぐに、種火が滅びを燃え上がらせる

…黄金樹を焼くは、原初の大罪
人の身には決して許されぬことじゃ


- ラダゴンの爛れ刻印 -

強き使命は、その主を蝕む
まるで逃れ得ぬ呪いのように


- 使命の刃 -

使命に旅立つ者に与えられた短剣
この一振りには、その古い持ち主たる
種火の少女の力が残っている

炎と共に歩む者
いつか、運命の死に見えん


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