ローデリカのいた小屋を後にし、一行は目の前のストームヴィル城…ではなく、少し外れた道を進む。
というのも、ストームヴィル城こそ砕かれたエルデンリングの一部、大ルーンを持つデミゴッド"接ぎ木のゴドリック"の根城、つまり目的の一つであれど、メリディアンは名も姿も忘れた半狼を探すことも目的にあった。
多くの狼が徘徊し、時に樹木の上で待ち伏せしてくるここは、半狼である探し人の手掛かりに…なるかはさっぱりわからないけれど少しの手掛かりでも欲しい。
真っ直ぐ向かうだけでは見逃してしまうかもしれない…などと危惧したメリディアンはあれよあれよと道から外れてしまい、やむを得なくメリナとブライヴが後を追う形だ。
ちなみに狼たちはブライヴの顔を見るか、一吠えするだけで漏れなく一匹残らず逃げて行った。狼とは賢い生き物なのである。
正気を失った住民の方が獣じみているとはこれ如何に…いやまぁ正気失ってるしそんなもんか。
一目散に逃げていく狼を見て、そうだ!とメリディアンが自信ありげに狼の遠吠えの真似をした。なんと、周辺の狼はさらに遠くへ逃げ出すではないか!
あまりに
途中、黒髪無精髭の"ベルナール"と名乗った"戦技"に詳しい男にも彼らは出会った。
幾匹も集う獣が刻まれた独特な鎧は立派なもので、かなりの使い手であることをメリディアンとブライヴは一目で見抜く。
────ブライヴは淡々としつつも、なんだかんだ戦いというものに一種の理想のようなものを求めている節もある。渋りつつもメリディアンとベルナールが話をしているのを後ろで黙って聞き…結局息の合った三人はメリナとトレントを置き去りに戦いの話で盛り上がっていた。
メリナも彼らの言うことが分からないわけではない、多少の剣技を修めている身であるからして、興味が全くないと言えば噓になる。
それでも夜が明けるほどとは思わなんだ。
女性の買い物は長いというが、男性の戦語りは長いと、今回ばかりは大きな溜息を吐いたのも仕方あるまい。
呆れながらも、メリナは気が付いた。ベルナールという男が、こちらを見て…いや、私とメリディアンを見て眩しいものを見るように目を細めていたことに。
メリナは理解した。
意味深長なのは野郎どもの特権なのかもしれないと。メリディアンしかり、カーレしかり、ベルナールしかり。一々気にしても疲れるだけだと、もう一度溜息を吐いたのも、きっと仕方のないこと。
夜が明け、日が高く昇ってからようやく動き出す三人と一頭。
トレントから軽い頭突きを貰ったメリディアンは、そこで初めて話に熱中し過ぎたと気が付き、メリナに謝罪した。許されたどうかは彼らしか知らないことだ。
ブライヴはたまには寄り道もいいのかもしれないとちょっと思っていたが、流石に口にはしなかった。狼とは賢い生き物なのである。
さて、壺である。
「壺か?」
「"壺人"だな」
「埋まっている"壺人"ね」
「ヒヒン」
「おーい!俺の後ろにいるんだろう貴公ら!…ん?何故後ろから動かない?」
順にメリディアン、ブライヴ、トレントに座ったメリナ、トレントである。そして半分地面に体の埋まった"壺人"。一体どうやってそうなってしまったのか疑問だ。
「罠かもしれんだろう」
「壺人は基本的に善良だぞ…が、たまに自爆特攻するからな…あれはなんでだ?」
「あれは彼ら火炎壺としての
「ヒヒン」
「そうか!あいつらを知っているのか!…そうではなくてな、見ての通り
三人と一頭は動かない。
「なら大丈夫なのか?…私はメリディアン。横の半狼がブライヴで、彼女がメリナ、そして馬のトレントだ」
「多分背後だから見えてないぞ…目がないのに、何故前しか見えないんだろうな」
「それは私にもわからない」
「ヒヒン」
「そうか!見えんが、俺は戦士の壺、"鉄拳アレキサンダー"!よろしくな!」
間抜けな絵面のまま、話は進む。
「戦士か!鉄拳アレキサンダー…いい響きだ」
「どうする?脱出を手伝えということだろうが」
「彼に害はないと思う」
「ヒヒン」
「あぁ話が早いな!すまんが、抜け出すのを手伝ってほしいのだ!」
メリナが言うならいいか、とメリディアンはアレキサンダーの提案を受け入れる。やって欲しいことは尻をぶっ叩くこと。なんか大きいもので。
二人と一頭の視線がブライヴへと向く。
「…まぁ、俺か」
「ブライヴ、すまん。お前しか出来ないことだ」
「ヒヒン」
「おお!素晴らしい得物を持っているようだな!見えないが!」
「…大丈夫なの?」
素晴らしい得物。そうだろうさ。
それは剣というにはあまりにも大きすぎた…
大きく
分厚く
重く
そして大雑把すぎた。
────それはまさに鉄塊だった。
ブライヴはぬらりと刀身だけで2m超えの
「なあに、俺は丈夫だ!鍛えているからな!」
「大丈、夫…だよな?ブライヴ…?」
「…手加減はしよう」
「鍛えたらこれに耐えらえるほど固くなるの?」
「ヒヒン…」
「………なんか心配になってきたな!見えないからわからんが…いい感じで頼む!」
取り合えず、ブライヴがいい感じになんとかしたのである。ありがとう!
「あぁ!貴公、見事な一撃だったぞ!このアレキサンダー、危うく割れるところであった!ワッハッハッハ!」
「…よし!近場のデミゴッド、"黄金のゴドリック"を下すから取り敢えず一緒に来ないか?」
「直球過ぎない?」
「回りくどくないやつは嫌いではないとは言ったが、手順は追え。そもそも急に話を進めるな」
「いいぞ!」
「いいわけあるか。待て…待て待て、行こうとするな、
「ヒヒン」
一行…首根っこを掴まれて宙ぶらりんになった猫よろしくメリディアンは、一先ず落ち着いて話をするために一度、ベルナールの所まで戻って揃って小屋の外で腰を下ろした…なぜ俺のところに…?
流石に訝しむベルナールに再度なんとか了承を取ってから、メリディアンは改めて勧誘を始める。
「奇妙な一団に見えるかもしれないが、私たちはデミゴッドの一人、ストームヴィル城の城主であるデミゴッド、"黄金のゴドリック"の命を狙っている」
「…"
というベルナールのぼやきもあったが、ともかく。
「アレキサンダー、先ほど道中で聞いたお前の目的と、ある程度は合致していると私は思う」
「うむ!己を鍛えるために、東の"ケイリッド"、そこの南端にある"赤獅子城"を目指していた。…のだが、恥ずかしいところを見せてしまったな!」
「ほう…かつてのデミゴッド最強の男、"ラダーン"の城か…!」
「ああ!そこで戦祭りが開かれると聞いてな!伝承でしか聞かなかった祭りだ…なんとも心が躍るではないか」
「ラダーン…"マレニア"と相打ったという将軍ね」
「────…"
その"破砕戦争"を、メリディアンはほとんど知らない。メリナから多少は聞けたが…そのメリナもまた記憶のほとんどを失っているのだから、ちゃんと知っているのはブライヴとアレキサンダーの二人…二人??だけだろう。
「────そうか貴公、外から来た褪せ人、詳しく知らなくとも無理はあるまい」
「あぁ、伝承すらまともに知らない身だ、狭間の地のことはある程度はメリナが教えてくれたが…」
「少なくとも"星砕きのラダーン"については、あなたたちの方が詳しいはず」
「…」
「うむ!では俺の知っている限りであれば教えよう」
「星砕きのラダーン」、「将軍ラダーン」、「星砕きの英雄」…数々の異名を持つ、デミゴッドの中でも最強と
────"星砕き"とは?
言葉通りの意味だ…ある時、ケイリッドの"魔術街サリア"に向かって降ってきた"星"に対し単身で挑み、それを破壊した!
────
わからん!だが、間違いなくそれは当時の人々に強烈に刻み込まれることになった!だからこそ「星砕き」の異名を持つようになったのだ。この偉業をもってしてな!
破砕戦争の終わり。この戦の最後に、にケイリッドの中心である"エオニアの地"にて、ラダーンと同じく最強のデミゴッドと呼ばれた"ミケラの刃マレニア"と一騎打ちとなった。
────…そして誰も勝たなかった。破砕戦争に勝者はいないと聞いた。
そうだ。両者相打ち、ケイリッドは腐敗に沈み、以降ラダーンもマレニアも、その消息は途絶えている。
────赤く汚れた大地だけが、残ったのか。今も尚続くほどに。
恐ろしい話よ…俺は壺だから問題ないがな!…そうしてその話を知る当事者も久しくなったこの時に!かつて将軍ラダーンの下で行われていたという"戦祭り"が開かれるというではないか!
そこで意気揚々と向かったところで!
────嵌ったのね
ワッハッハッハ!
「────"戦祭り"、戦士のための誉れある戦い…」
メリディアンは一人呟く。
────戦士。そう聞いて思い出すのは、父のような存在だった人物。
憧れも何もかもがあの背中にあった。
だからこそ追い抜こうとしたのではなく、その背中を見ていたかったのだ。それを笑うことを、あの人はしなかったけれど。
────本当は、どう思っていたのだろうな。
『────弓であろうとお前は戦士には変わりあるまい!なぁに安心しろ、このアレキサンダー、貴公に恥じぬ背中を見せてやるからな!』
あの後、アレキサンダーはこう言って、旅への動向を了承した。対してこちらが差し出すのは、彼が鍛えるための…彼の言う"試練"を与え続ける事。戦いの
今回、まさに互いの利害が一致したと言ってもいいだろう。
ブライヴとの相性も悪くない…共に前線を戦う上でややデカいことに不満げだったが、性格的な問題では大丈夫そうだった。後は上手く擦り合わせていくしかあるまい。
四人…四人…?三人と
まぁ、あそこの竜くらいいけるやろという軽い気持ちのまま、途中デカすぎる
焼けた巨大蟹を食べようか悩んでいるブライヴをメリディアンとメリナが引っ張りつつ、ついでに以前ダリウィルを探しているときに見つけた洞窟へと足をんだメリディアンら。
アレキサンダーとメリナは外でお留守番である。
「…わざわざここに来る必要が?」
「ちょっと用がある奴を思い出してな────おーい"パッチ"、来たぞ」
「おんや!あんたこの前のメリディアンの旦那か!待ってたぜ、一緒にいた嬢ちゃんは…ぅお、半狼のお連れとはまた、珍しい客だ…」
洞穴の最奥で焚火の横で独特なしゃがみ方をした禿げ頭の男ことパッチが、私は詐欺師です!と言わんばかりの笑みで二人を迎え入れる。
この男…意外に鍛えらえているな、ブライヴはそういった観点から少しだけ警戒度を上げたが、逆にパッチは巨躯を持つ半狼のしかめ顔にまぁまぁビビった!ましてや
しかしメリディアンの雰囲気から、それはないなと冷や汗のままに安堵するパッチ。
「あぁ…こいつか?」
「
「そうだろうな」
さもありなん。
そろそろエレ教会周辺が更地になってしまう、というのは言い過ぎにしても、矢を買いに行く頻度が高く供給がギリギリなのは間違いない。カーレも商人だ、意地も誇りもある、必ず用意してくれるとは言え、毎回、というわけにもそろそろ行かなくなってきた。
そこでパッチの出番、ということなのだろう。
「へへへへッ…急ごしらえだが、決して損はさせないぜ?」
パッチ商店にようこそだ!そう言って並べられた物は成程、言うだけはある品々が揃っていた。
野草など雑多な物までなんでもござれと、統一感はないが、褪せ人相手はこれくらいがいいというのは正しい。ブライヴもまた、珍しい暗器に感心したように持ち上げていた。
通常の矢ではなく、大矢があったことにメリディアンが物申す場面はあれど、それは今度どうにかすると約束させたので問題ないとか。
そんな中、メリディアンはある物に目が行った。
「────これは」
「おや?それに目をつけるとはお目が高い!────そいつはね、黄金の魔力を帯びた呪物ってやつだぜ」
内緒話をするように耳打ちをするパッチ。あまりにこしょこしょ話すものだからしっかりとヘルムを被ったメリディアンは聞き逃すところだった。
曰く、"忌み子"のための呪物…さらにその中のただ一人を拘束するための拘束具。その魔力は未だ
如何にも怪しさ満点という話に、ブライヴは眉をしかめる。たった一人の忌み子など、誰かもわからないそいつのためにわざわざ買うやつがいるのか?確かに、わざわざ強い黄金の魔力が
この禿げ頭の男の口から飛び出す言葉は話半分ぐらいが丁度いいと、ブライヴは早々に気が付く。
「よし、買おう」
「…!毎度あり!二言はなしでお願いするぜ!」
まさかメリディアンがこの話を信じて買うわけが…ん?
「いいのか?」
「あぁ、本物かどうか興味が湧いたからな。矢がなければ他に今は入用はない以上(おいおい旦那!そりゃないぜ!)、だからといって何も買わないのは礼儀に欠ける」
「流石旦那だぜ…!ところで、旦那、そんな上客のあんたに話が有ってな…あっちの宝箱なんだが────」
「よし、行くかブライヴ」
「ああ、そうするとしよう」
「あのいと美しき宝箱についてなんだが────」
「またなパッチ、矢のことは頼んだぞ」
「またな」
「……………えぇい!またのお越しをォッ!」
そもそも初対面の時点で宝箱を無視して帰ろうとしたメリディアンとメリナである。
「…いや、開けるだろうが普通はよぅ!」と颯爽と頭上から登場したパッチを着地狩りよろしく蹴飛ばしたのはメリナだったりするが、この手の宝箱にあまり手を出さない妙なモラルを持つ彼に、パッチのその手は通用しないのであった。
蛇足だが、あの宝箱を開けるとどっかに転送される。この転送罠は、一度発動すればもう起動しないので、パッチは誰かに開けてもらってから、中身を安全に欲しがったのだ。他の犠牲者に期待しよう!
でもメリディアンとて人や亜人がいない場所では開けるのでケースバイケース。ここに住んでる人のものかもしれないしなぁ、と思って開けないだけである。それでも褪せ人か。
そのパッチの負け惜しみを背に、洞穴の暗く狭い帰り道で、ブライヴはメリディアンにこっそりと尋ねる。
「…それで?"本物かどうか興味が湧いた"というのは嘘だろう?」
「…わかるか?」
「お前はどうも、
「自覚はあるがな…」
何か思うことがある時は、メリディアンは顔というか、その雰囲気に出てくるのだ。短い間とは言え、わかりやすいもんだからブライヴですら既に理解している。メリナは言わずもがな。
互いにあまり詮索をしないゆえに
「この魔力は間違いなく黄金の一族の手によるものだと分かったのさ」
「ほう…知人か?」
「かもしれない。これほどの強力な魔力の残照…覚えがある。…だが、"感覚"としては覚えているが、"記憶"としては、ない」
「手掛かりになるやもしれんということか、記憶を思い出す」
「…必ず思い出したいというわけではないさ」
インクが日の光で焼き消えた、褪せた本のページを懐かしみ撫でるような…そんな手つきで呪物を布で包み隠す。
ブライヴはそれに対して何も言わない。言うような男でもあるまい。
それが、メリディアンには心地が良かった。
洞穴を出れば、彼女らが視線をメリディアンに寄越す。
矢も買わずに結局何をして来たのか、などとメリナは言わない。言うような女でもあるまいて。
「収穫はあったようだな!」となぜかうんうんと納得しているアレキサンダーと、無言でトレントと共に付いてくるメリナ。その顔はやはりどこか納得しているようで────あ、やっぱ私って分かり易いんだ…と若干落ち込んだのを…まぁ皆気が付いてるのだが何も言わずに丘を登る。
「ヒヒン」
「もしかして、お前もそう思うのか、トレント…?」
「────ふふっ」
メリディアンは
馬上の小さな笑い声は、丘に吹く風と共に流れ、誰の耳にも届かない。
運んだ先は、遠い未来だろうか、それとも────
※あとがき最後に参考にしたフレーバーテキストを追記しました。240620
本日は二話連続投稿になりますのでご注意ください。
ちなみにサブタイトルの"割薬"とは花火に使う火薬の一種です。
打ち上げ花火で目にする綺麗な光、あれを出す火薬である"星"、それを飛ばすために詰め込まれた火薬のことを割薬と言うそうです。
■メリディアン
別に大げさな反応や言動をしているわけではないのだが、言葉や空気感に感情が表れやすい。そういう体質というか魂質。
"戦士"に対してもまた特別な感情があるらしい。
さぁ行くぞ!ゴドリックはさぞ強いんだろうなぁ!
■メリナ
男ってやつは…と思いつつ口出ししない。
長話に霊体にならずに律儀に座って待っていた。なんだかんだ話は聞いていたのである。
■ブライヴ
普段は抑えているが、結構脳筋思考なところがある。
食い意地もある。
■アレキサンダー
ムードメーカになりそうなデカい戦士の壺。
そもそもの価値観が違うところがあるのでパーティーの良心とかではない。
英雄譚が好き。
■ベルナール
カーレと同じように巫女連れの褪せ人に思うところがあるようだ。そんなやつばっか!
■パッチ
初対面時はメリナに蹴飛ばされて転ばされた後にメリディアンの早撃ちの矢が顔の真横両側に二本突き立てられた。
土下座する隙がなかったので五体投地した。
-マルギットの拘束具-
黄金の魔力を帯びた呪物
忌み子と呼ばれる呪われた者たち
そのただ一人を、特に厳重に拘束するもの
-剣の石碑より抜粋-
星砕きの戦い
ラダーン、サリアの護りとなり
唯一人星に対し、それを砕く
エオニアの戦い
ラダーン、マレニアと相討ち
朱い腐敗の花が咲き誇る