エルデンクエスト   作:凍り灯

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老木たちの邂逅

 

 

 

 

 

────褪せ人よ。

 

メリディアンは思わず目を見開いた。

この御仁は、何故、ここに…!

 

────愚かな野心の火に焼かれ、お前もまた、エルデンリングを求めるのか?

 

覚悟はしていた、いつか相まみえるのだと。だが、()、なのかッ!

 

「────ならば、その火ごと消してくれよう…"忌み鬼のマルギット"が」

 

ボロ布を(まと)った巨躯(きょく)が降り立つ。節くれだった身の丈ほどの大杖を片手に。

その威圧感、この姿と声、間違いない!

 

「…ッ!得物()以外にも、黄金の祈祷(きとう)で多様な武器を召喚して扱うぞッ!」

 

簡潔な情報伝達。目の前の威圧的な存在に加えて、あまりに切迫したメリディアンの声に、ブライヴとアレキサンダーはすぐさま最大限の警戒と戦闘態勢を整える。

 

メリナの退避は…間に合わないか!

城や砦の結界は、霊馬の侵入を阻む以外にもメリナに対してもデメリットがあった。彼女は霊体だが、実体と霊体を行き来できる特殊な存在。しかしそれは結界の外での話、内であればその取捨選択の自由は失われ、霊体として声だけを届けるか、実体として地に足をつけるかの二択を強いられる。()()はあれど、基本的にはこれだ。

 

たった今、目の前の()()()()()の出現に合わせて結界が構築され、メリナ諸共閉じ込められてしまった。相手の意識したことではないだろうが、これは正直、あまり良くない。

彼女を、戦いに巻き込むわけにはいかない。何より、今、目を付けられるわけには────

 

────ここで…ここで、確実に…仕留めるッ!

 

今までにない殺気を静かに放ったメリディアンを、マルギットはその半分が忌み角に覆われた老顔を向けた。自身の情報を持っており、且つこの姿を目にしたことで威圧感が増した。

知っているな?あの褪せ人は。

 

「…私のことを、どこで知ったのか…生かして返したものなどいないはずだがな…?」

 

彼の手にはいつの間にか数本の黄金に光るナイフ。ナイフと言えど侮ることなかれ、その大きな手に比例するかのように、それぞれが直剣ほどのサイズがある!

しかしマルギットが次の動作に移る前に、メリディアンは叫ぶ。

 

「投げナイフッ!」

「…!」

「おおッ!」

「…ほぅ?」

 

やはり知っている。

 

連続で投げ飛ばしたナイフは、しかし半狼と壺人によって弾かれ光の粒となって霧散し、弓の褪せ人はそれを容易く最小限で(かわ)す。

意外にも女の方も()()()()()()()()だ、戦う気はないようだが…

数の利が褪せ人側にある以上、マルギットと言えど油断は出来ない。特に半狼は最も余裕をもって対応してきた、かなり厄介な相手だ。

 

褪せ人は何度でも蘇る。女の方は多少妙なことになってるようだが、今は同じとみるべきだろう。

で、あれば────

 

「割るか」

 

マルギットは最も攻撃を当てやすく目障りな壺人に狙いを定めた。

そこに割り込む銀の影。重い杖の一撃を、それ以上に重い大剣で斬り上げる。しかし力は拮抗し、鍔迫(つばぜ)り合いに持ち込んだ!

 

「メリディアン!」

「アレキサンダーッ!」

「おう!」

「!」

 

互いに名を叫ぶ。マルギットに矢が迫る。

 

瞬く間に三連射された矢は正しくマルギットの頭部へと突き進み、鍔迫り合いの力を弱めることで自身の位置をずらして躱し切った。

ブライヴは押し返す力が弱まったことを利用し、さらに一歩、ボロボロの石畳を粉々に砕き割る踏み込みで、必殺の横薙(よこな)ぎに繋げる。

両足を刈り取る、下払いの回転撃。

 

「オォッ!」

「…ふん」

 

()()()()()をマルギットは理解していた。

 

払いを躱そうと飛び上がれば、そこをメリディアンは空中のマルギットを撃ち抜くだろう。加えてアレキサンダーはその巨体をものともしない大跳躍で既にマルギットの頭上を取っていた。中途半端な後退は畳みかけるような多種多様な攻撃によって致命傷になり得る。

飛べば詰み、下がれば良くて仕切り直し…しかしわざわざ相手に望む時間を与えるほど、"忌み鬼"は生ぬるくなどはない!

 

マルギットは軽く()()()()()と、祈祷により光の槌を召喚。その先端を地面へ接地、まるで槌で地面から空中で支えられているような体勢になった。だがブライヴは構わず、まずは槌の柄を断ち切るつもり剣を振りぬく。

その一撃は容易に光の槌の柄を消し飛ばし…いや!まずい!

 

「アレキサン────ッ」

「カッッ!!」

 

ブライヴの横薙ぎを柄にわざと当て、衝撃を利用して空中の巨躯ごと回転させたのだ!槌は敢えて消し去ることで身体に伝わる威力を調整!

既に放たれていたメリディアンの矢がアレキサンダー、ブライヴの横を通り抜けてマルギットに突き刺さるも、回転した体に狙いが付くはずもない!当たりはしたが、浅く、致命傷には程遠かった!

 

────そして回転したマルギットに()()()()()()()のはアレキサンダー!空中で止まることなど出来るはずもなく、覚悟を決めて彼は拳を振り下ろす。それよりも早くマルギットの重い杖の一撃がアレキサンダーを襲うだろう。リーチの差が、ここで致命的となる!

 

それをさせないのがブライヴだ。

回転の勢いから放たれる神速の杖先をずらすため、驚異的な反応速度と身体能力が捨て身のタックルを選択させた────(きり)もみしながら地面へと倒れこむマルギットとブライヴ。

ブライヴの選択は正しかった。辛うじて、マルギットの杖先はアレキサンダーの壺の身体の表面をゾフリと()()、凄まじい土煙を上げて地面を粉砕するにとどまったからだ。

 

その隙を逃すメリディアンではない。

────"宿し打ち"、そう呼ばれる技術、"戦技"がある。

矢に霊を宿して射るという、"祖霊の民"と呼ばれる存在が主に扱う戦技だが、これは矢が()()()

 

(わず)かに斜め上に放たれた矢はその勢いのままに、立ち昇る土煙に穴をあけながらマルギットと射線上に()()()()()()()ブライヴを乗り越え、急降下、本来その速度ではあり得ない山なりの軌道を取ってマルギットに突き刺さる。

 

「ぬぅ…!」

「左腕だ!」

「…!庇ったか…!」

 

体勢を整えたアレキサンダーの報告により、マルギットが咄嗟(とっさ)に左腕を犠牲に防いだことをメリディアンは理解した。

 

蹴り飛ばされ、剣を持っていない左手の爪を地面に突き立てて獣のような低姿勢で急制動したブライヴはアレキサンダーと並び立つ。その額には冷や汗。

 

────何て奴だ…!あまりに対応が早い!

 

のそりと、しかし一分の隙も無い動きで立ち上がったマルギットは左腕の矢を引き抜くも、その矢が与える()()()()へのダメージが予想以上に大きいことに気が付き、感心した。

 

「…ほう、侮れぬものだな…やはり褪せ人は、戦士の末裔(まつえい)ということか」

「…」

 

再び目を向けられたメリディアンは対して、それに答えることはない。

何を考えているのか、それを知るのは当人だけ。

 

細く吐かれる息、矢は黒い弓の上を滑り、弦がキリリと張り詰める。

ゆったりと間合いを測るマルギットに向けられた、鉄兜に隠され彼の左目は…静かに赤熱するような色を写していた。

 

 

────この後の戦いは、静かに、冷静に壁際で見守るメリナだけが見ていた。マルギットもまた、最後まで戦意のないメリナを狙う暇などなかったのだ。

 

誰一人欠けることなく、戦いは終結した。

 

 

 

 

 

静まり返った城門前の広場。

 

マルギット、彼は一定の手傷を負わせた所で、黄金色の光と共に飛び散って消えた。虚をつかれたように一斉に動きを止めたブライブとアレキサンダー。これにメリディアンは、それが本体ではなかったと気がついた。

霊体…しかも、当人がおそらく遠距離から操ることのできる、高度な術だ。メリディアンは手応えの違和感からその可能性を考えていたため、事情を二人に説明し、一先ずは警戒を続けながら一同はその場に身を崩す。

 

「────また、王都で会いましょう。次に剣を交わす時は…おそらく…」

 

スカーフのように首に巻き付けられた真紅の大布を、メリディアンは握りしめる。

片膝を突き、鎧の内側は汗で不快感で満ちていた…不快感を感じれるほど、余裕が戻ってきたと認識して、彼はようやく息を乱した。

 

「っぅ…はぁ…はッ…────どうにか、なった、か」

「………メリディアン、俺は力不足を感じたぞ…!強くならねばな!」

「……………それよりもお前…あいつのことを、どこまで、知っている」

 

疲労のまま地面に座り込んだ三人。比較的まだ余力を残していたブライヴがメリディアンに尋ねた。聞きたくもなるだろう、明らかに強力な存在と対峙し、そしてメリディアンは知っている素振りをみせたのだから。

ブライヴの問いにメリディアンが答える────前に、メリナがゆっくりと近づいて口を開いた。

 

「"忌み鬼のマルギット"…破砕戦争…"ローデイル防衛線"で多くの英雄を刈り取った、王都の守護者」

()()()()()は知っている。その様子だとお前も、()()()()()()()()?」

「私は…彼は…どこか…────知って、いる…?」

 

先ほどの冷静な立ち姿はどこへ行ったのか、突然困惑し始めた様子のメリナに、さしものブライヴもそちらへの追及はやめにした。一体どうしたんだと、そう問いかける間も無く代わりに応じたのは、最初に聞かれていたメリディアンだ。

 

「────"モーゴット"…今ではどう、言われているのかはわからないが、彼の名はモーゴット…女王マリカと、その王配"ゴッドフレイ"の間に産まれた、デミゴッドだ」

「!…あれが、"姿なき王"…!そういうことか」

 

顔の一部を覆うようなあの"忌み角"…黄金律の下では"忌み子"と(さげす)まれる存在が、まさか最初期のデミゴッドにいたとは。

王家の忌み子は殺されることなく幽閉されるなどと聞いたことがあるが…なるほど、どうやらそれは本当らしいとブライヴは心の中で頷いた。

 

"姿なき王"と言われているのも納得だ。よりによって黄金樹の加護に最も近い王都の民に、自らの王が忌み子だとは打ち明けられまい。…そうやって、姿を隠しながら王として振る舞い、時に"忌み鬼のマルギット"として王都を守り続けていたということか。

 

破砕戦争を詳しく知らないメリディアンも、ブライヴの「姿なき王」という言葉ですべてを察してしまった。

清涼な空気を大きく吸うために、バイザーを上げたことで覗いていた彼の表情が曇る。

 

「彼は、それでも愛したのか…?」

 

黄金律を?黄金樹を?王都を?或いは、母である女王マリカを?()()()()()()()()を受けて、砕かれて…それでも?

 

重い。なんて、重い。

情で指先が鈍ったことはない。次に会う時には、まず問題なく戦える。だからと言って、何も感じるなというのには無理がある。

やがて説明を求める視線に気づいたメリディアンは、息を大きく吸い込み吐き出してから、その重くなっていた口を開けた。

 

「…彼は、モーゴット()は、皆の想像通り忌み子として幽閉された王族。そして私は、その幽閉されている間に、幾つか言葉を交わしたことがある…あるはずだが、内容までは…」

「そこは、思い出せないのね」

「お前、ほんとに王都出身だったのか」

「そう言えば疑われてたままだった」

 

気を取り直して。

 

「"母"の手引きで、本来は固く禁じられていたが会ったことがあるんだ」

「うん?貴公の母上か」

「そうだ、母の話はややこしくなるから流してくれ、また後でしよう────話した内容を覚えてはいないが、あれはひどいものだった」

 

我々がやっているのだと、黄金の影の下では、こんなことがこうも許されてしまうのかと、足元が崩れた心地になったのを覚えている。

だから母は知っておくべきだと、私を地下へと送り出したのだろう。

 

『光を望まない人たちもいる、その絶望を…あなたも知らなければならない』

 

母は確か、そう言ったはずだ。聞きなれたはずの声を思い出せないが、言葉の意味だけは、確かにまだ刻まれている。

 

 

────だが、モーゴット様は光を望んだ。それこそが、彼が王たらしめた由縁なのだろうか。

 

 

「私が幼い彼()を見たのは、それが最後だ。次に見たのは青年となった頃、彼は確かその時でも私のことを覚えていて────」

「…ん?()()…?待てお前…いつから生きている?」

「────………そういえば私は一体どれくらい生きているんだ??」

「私の方を向いて聞かないで、知ってるわけがないでしょう」

「ワッハッハッハ!見た目と裏腹に、意外に老人だったのだな!貴公!」

「狭間の地の外で死んでた期間が長いから何とも言えんな…どうなんだろうか??」

「だから私に言わないで。適当に言えば満足する?おじいさん?」

「あ、待った、じじいと言われても平気だと思ったが、メリナ、君に言われるとなんだ…落ち込むな、意外と………」

「おい、メリ(じぃ)、そんなことはいいから続きを頼む」

「あぁ、そうだった。わかった、それで────」

「…待って、私にも掠ると思うその言い方は…やめて」

「────心底嫌そう!…?何でこんな苦しい想いをしなければならないんだ?激戦の後に?」

「ワッハッハッハッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだ、あの呪物もしや」

「…あ、ぁ…」

「んん?どうした貴公ら」

「…呪物?」

 

二人の「もしや…」という焦りと二人の「何の話?」という 疑問が生まれた。

パッチから買い取った呪物、それはまさしくマルギットのために作られた物だったのではないか?なんて。

…余裕がなかったから仕方ないよまぁ、とはなった。そもそも使えるか分からないし?

 

とてもいい、仲間たちである。

 

協議の結果、これはきっと使えたもんじゃなかったと、全てをパッチのせいにすることで話はまとまった。ひどくねぇか旦那!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…覚えたぞ、褪せ人よ

野心の火に焼かれる者よ

怯えるがよい、夜の闇に

忌み鬼の手が、お前を逃しはしない…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








※あとがき最後に参考にしたフレーバーテキストを追記しました。240620

全体通して戦闘シーンとかはあまりないのでそこはご了承くだされ。
でも書いてて楽しいところはある。(しかし完結させること優先したいのでほどほどにしておきます)


■メリディアン
かなり昔に産まれていた。
マルギットのこともそれなりに知っていたようで、多少覚えていた。
連携する上では当然後衛からの射撃。
前衛に誘導させて仕留めるというよりは、前衛がある程度好きに動いてるところを、前衛の隙を潰すように立ち回ることが多い。でもチャンスがあれば曲がる矢とかで視界外から確殺を狙いもする。

死線を通してちょっと仲良くなったかもしれない。


■メリナ
レガシーとか砦系のダンジョン内だと、姿消してるか出してるかどっちかしか選べない。
マルギットを知っているような、曖昧な感覚だけがあった。


■ブライヴ
連携する上では切り込み役。
早さと力強さどちらも併せ持ってるので、強みを潰さないように好きに動いていいと言われている。
メリディアンとブライヴだけならば、何も知らない人が見れば連携というよりはまるで獲物を仕留めるのを競い合うような形に見える。


■アレキサンダー
連携する上での陽動役。(結果的にそうなっただけ)
デカい上でにそれ見合った力や、人型には出来ない予想外な動き(駒みたいに回るとか)出来るのでヘイトが向きやすい。硬さもある。
今回は別の理由で狙われた上に、マルギット相手では強度も十分とは言えなかった。


■忌み鬼のマルギット
またの名をモーゴット、デミゴットの一人。
今回は分身みたいなものだったので、一定のダメージで消えた。
メリディアンが何者かは気が付いていない。



-王家の忌み水子-

王家の忌み水子は、角を切られることはない
その替り、誰にも知られず、地下に捨てられ
永遠に幽閉される


-剣の石碑より抜粋-

第二次ローデイル防衛戦
忌み鬼、英雄の屍を築く
黄金樹に揺らぎなし


-百智卿、ギデオン=オーフニールのセリフより抜粋-

────祝福のモーゴットは、王都ローデイルの主
アルター高原の東、黄金樹の麓にその都はあるが…
二本指は、我らがそこに近付くことを許していない
エルデンリングの修復、そのために必要な、複数の大ルーンを持たぬ内はな
故にこの姿なき王は、当面の狙いとはならぬだろう


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