エルデンクエスト   作:凍り灯

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腐朽

 

 

 

 

 

ストームヴィル城内部に入ろうとした一行は、城主であるゴドリックを嫌う門衛の"ゴストーク"の手引きによって裏口から…行くところを正面から押し通った。

 

何故ならアレキサンダーが裏口の細い道を渡れないからである!城内に侵入するにも行けるところは限られる。必然、正面突破しかなくなってしまった。

 

これにはメリディアンもブライヴもあまりの無謀さに唸ることになったがどうしようもない。選択肢はなかった。

 

…仕方ない、とは言っても、開いた正門の先に見えるのは準備万端のバリスタ数問だ。

心なしか、配置された、メリディアンと似た姿格好の"流刑兵"である弩弓(どきゅう)兵も撃ちたくて撃ちたくてウズウズしてるように見えなくもない。錯覚である。

さて、これを超えるのは中々に厳しい。

 

そこで閃いたブライヴは提案する。

 

「アレキサンダー…責任を持って、お前はバリスタからの盾になれ」

「いいぞ!」

「正気か、流石にそれは────いいのか…待て待て待て二人とも、せめてもう少し話を詰めてから行こう」

「結局そうするのね」

「…なぁあんたら、やっぱりやめておいた方がいいんじゃないか?」

 

と、遠慮気味に、話を聞いていたゴストークが無茶無謀を(たしな)める。

なんと善良な男か!しかし現実は侵入者から追い剥ぎしては売り(さば)くような男である。正門に死体が転がったら!他の兵がいるから漁りにくいじゃない!と内心思っていることは誰も知らない。

 

そんな彼は置いといて、ブライヴがアレキサンダーの背中を押しながらバリスタを防ぎつつ進む、メリディアンがリロードの隙をついて出来うる限り遠距離から無力化。接敵後、後は手当たり次第薙ぎ払う。霊体に戻れないメリナはここで留守番、片付いたら呼ぶね。大体こんな感じになった。完璧な計画だ、狼は賢いのだ。

 

正門に縦列に並び立つ三人。メリディアンがタリスマンを大きく頭上へ掲げ、彼の黄金の祈祷(きとう)によってアレキサンダーとブライヴに加護を与えた。

少しだけ、打たれ強くなる程度だが、ないよりは遥かにマシである。

 

「よし、行くぞ。メリディアン、任せたぞ」

「一度目の装弾で半数減らす…今ッ!走れ!」

「オオオオオオオオおおおおおおおおぉぉぉ(ズガガガッ!)ぬぉおッ!意外と痛いぉおオオオッ!?」

「馬鹿野郎コケるな!クソッ!転がしてくぞ!」

「ヌァァぁあぁァぁぁぉォオオオオァああッ!?どっちが空だ!?」

「弩弓兵三分の二を無力化!…こっちに転がってくるな!?」

「ええいメリディアン!先に前衛の槍兵を崩すッ!行け!アレキサンダー!」

「待て、地面が下にあるからこっちが────ドオァワアアアアああああァッ!?」

「蹴り飛ばしたァ!?…だが大質量弾(大壺シュート)で前衛は総崩れだ、やるぞ!」

「盾持ちは俺がやる」

「ああ、背中には近づかせん」

「おぉい!今俺はどっちを向いている!?とにかく敵はそこだな!」

「それは俺だ!?」

「新手!奥から次々くるぞ!」

 

 

 

 

 

ブライヴの完璧な計画を見事成し遂げた三人は息も絶え絶えだが、派手に暴れた敵陣で休むわけにもいかない。

取り敢えず終わりよければなんとやら、メリナと合流し、急ぎ城内へと突き進む。負傷はメリディアンの祈祷で最低限の処置を施した。まぁ敵陣に切り込む弓兵なんてヘイトが向きやすいので、一番傷だらけなのはメリディアンなのだが。

 

それでも大した怪我を負ってないあたり、実力の高さが垣間見える。

 

正門付近の広場はこれで制圧出来た、次いで階段上の広場まで直進する。長い階段脇にはバリスタがまた嫌らしく配置してあり、これに当たったアレキサンダーが階段下にすごい勢いで転がり消えたりしたが、(おおむ)ね問題なく制圧。

さらにその広場ではバリケードが多く、かなり厄介な布陣を敷いていたが、これにはアレキサンダーが突撃して壊すことで道を強引に開いた。

 

幸いなのは、そこに先の広場ほどの人数がいなかったことだ。

 

中央突破、反転からのアレキサンダー大回転によって布陣も何もなくなった状況は最早狩場。程なくして制圧され、メリナと合流した四人はそのまま集結される前にと奥へと進行した。

 

しかし道中の敵兵が、明らかに少なくなっていることに胸騒ぎがする三人。

そんな中、大通り脇の小部屋の中である褪せ人と出会うことになる。

 

"ネフェリ・ルー"

 

彼女は、そう名乗った。

メリディアンはその名に、思わず目を細める。

 

 

 

────"ホーラ・ルー"

或いは、彼と共にあった戦士たち。

 

その血筋である戦士たちには彼の姓が与えられた。

 

いつかまた戻るその時まで、全てを忘れ、ただ戦いのために死ぬことができるか。

この名に相応しく、引き裂き、貫かれ、砕き、折られ、惨めに美しく死ぬ覚悟はあるか。

 

鎧を捨て、剥き出しの肉体で試練に挑まんとする"戦士"たちは、その多くの数を減らして蛮地を征するに至ったと言い伝えられている。

 

そして死んだ。

何故、どうやって、誰によって?メリディアンは、いや、誰もその最後を知らない。それでも(たけ)き戦士であるホーラ・ルーの名は、延々と語り継がれ、受け継がれている。

 

ネフェリ・()()、彼女ら戦士の末裔の存在が、その証である。

 

 

 

 

 

「────…それにしても酷いものだ」

 

ゴドリックの(おぞ)ましき所業、"継ぎ"。強さを求めるために見境なく強者の身体を切り取り、己に繋ぎ続ける禁忌。ローデリカの仲間もまたこの継ぎの犠牲となったことを、メリディアンたちはその形見を見つけてしまったことで理解した。直接見てしまえば、尚更のことに。

 

壊れた世界とはいえ、多少の倫理観でも残っているならばネフェリのような感情を抱いてもおかしくはないはずだ。

 

「…成る程、お前たちもゴドリックに挑むのだな。…であるならば私も共に戦わせてくれ。あれは、風を汚しすぎる。助太刀くらいは、きっと養父も許してくれるだろう」

 

養父、というのが誰かは分からないが、共に戦ってくれるというではないか!

この"戦士"という存在に、思わずメリナとブライヴはメリディアンの方をチラリと盗み見た。

 

「あぁ、ありがとうネフェリ。是非ともその猛き戦士の力を貸してくれ。短い間かもしれないが、共に肩を並べなられることを光栄に思う」

 

────やはり、"戦士"に対して好感度高いな…

アレキサンダーの時しかり、"戦祭り"の話を聞いた時しかり、メリディアンは"戦士"に憧れのようなものを抱いている節がある。────問題は、同行者を増やそうとする言葉が彼の口から飛び出すか否かだった。

 

多ければいいもんでもない。互いの目的がバラバラである以上、増えれば増えるほどややこしくなるのは言うまでもないだろう。メリナはともかく、ブライヴとて急いでいないからといってあちこちに行ってやる義理もない。

 

共に戦うのは、悪くはなかった。だが、どこまでも付き合うつもりは元よりない。これ以上余計なことするなら考える必要があるな…、なんて思っているブライヴの目の前で話は進む。

 

「────では、いつか道は違えるかもしれないが、今は一時の盟約が結ばれたことを喜ぼう」

「そうだな、こちらからも感謝する。互いに褪せ人、いずれ矛を交えるとて己が導きを信じ行くとしよう…そしていつか、エルデの玉座に」

 

────…戦いの後に、高揚感のまま勧誘するつもりか?

 

完全に疑われているのである。

メリディアンはとある理由からネフェリを誘うつもりはないのだが、それを知るのはもう少し先の話。メリナですら「いつ言い出すんだろう?」と思っている始末であった。アレキサンダーは元気に挨拶していた。

 

道中、戦士の壺の一団を相手にアレキサンダーが仲睦(なかむつ)まじく割り合う光景が見られたが、ゴドリックがいるという玉座はすぐそこまで迫っていた。

敵兵の配置が多く打ち倒したとしても少ない、という嫌な予感はここで当たることになる。玉座の間がある区画、その目の前の開けた広間には、ゴドリックの精鋭である騎士たちが立ち並んで待っていたのだ。

 

かつて故郷を失ったという、斧槍や大剣を持った"失地騎士"。失って尚一騎当千の猛者であったために彼らは騎士に(じょ)されたという。

 

そしてその後ろで大斧を打ち鳴らす城主、デミゴッドである接木のゴドリック。

 

「薄汚い褪せ人どころか、獣にガラクタ()…あまりに不遜であろう…!我こそは、黄金の君主なるぞ…っ!それを…こんな珍妙な寄せ集め風情が、どこに足を踏み入れていると思っている!」

 

怒りがゴドリックを震えさせる。

なんてふざけたやつらだ、と。全くもってその通りなのかもしれないが、その実力は厄介極まりないことも理解していた。だからこそ、彼は許せない。

 

力に飢え、追い求め、それでも尚届かない頂がある。

泥を食らう方がマシとも言える屈辱を受け入れて生き延び、より貪欲に求めどそれでも指先一つかけられない彼方に座す御方がいる。

ただひたすらに伸ばし続ける手を、横合いから殴られた。嘲笑うように馬鹿みたいな集団が城を荒らし、精鋭を集めて迎え撃たなければいけないほどに()()()()()現状に、怒髪天を衝くとはこの事だ。

 

 

 

────"第一次ローデイル防衛線"

 

破砕戦争の初期に勃発(ぼっぱつ)した、王都の"ローデイル軍"に対する"君主連合"が攻め込んだ大規模戦闘。王都の騎士が守りに秀でていたとは言え、この時、幽閉されていた忌み子を戦線に投入するほどに追い詰められていた。

しかしここで君主軍が"血の陰謀"と呼ばれる策略により瓦解(がかい)し、ゴドリックの接ぎ木の先駆者でもあったゴドフロアは封牢へと幽閉。当時"継ぎ"の力へと手を出していなかったゴドリックは王都から逃れる女子供に混じって逃げ出した。

 

これが最初の屈辱、しかしまだ終わりではない。

 

ストームヴィル城へと逃れたゴドリックは、敗走した君主軍、城に留まっていたはぐれ者たちである失地騎士などを見事懐柔し、自身の配下に加えることに成功。自らの出自だけではなく、当人が認めたくはないことだが、弱者、敗者としての彼らへの理解の強さが心をつかむに至る。

瞬く間に一つの勢力を築いた彼は、ついに"継ぎ"の力に手を出した。

 

「いつかまた、共に帰らん、黄金の麓、我らの故郷に」

 

ただ己の弱さゆえに、一族が手を出した古い力に吞まれていく。

ゴドリックは力を求めた。

 

この頃、瓦解した君主軍の中でも、デミゴッドである"法務官ライカード"率いる"ゲルミア軍"だけが果敢にローデイルへと挑んでいた。

 

"第二次ローデイル防衛線"の始まりである。

 

しかしこれは忌み鬼マルギット…つまり姿なきモーゴットの活躍によってゲルミア軍は惨敗、拠点の"火山館"への撤退を余儀なくされていた。

 

名誉なく、終わりもない惨戦と呼ばれた"火山館攻略戦"、この最中に、ゴドリックにとっての悪夢が南進を始めていた。

 

"欠け身のマレニア"或いは"ミケラの刃マレニア"、彼女の目的は未だわからない。

 

何故、この時期に王都ローデイルを素通りし、ラダーンのいるケイリッドを目指したのか?

何故、最強と(うた)われた二人のデミゴッドはケイリッドで戦わなくてはいけなかったのか?

 

マリカと、ゴッドフレイが褪せ人として追放された後の王配である"ラダゴン"の間に産まれた双子の片割れであり、また大いなる意思より"神人"と定められたデミゴッドである彼女は突き進む。

"アルター高原"を降り、"リエーニエ"を南進、それぞれの勢力の事情からその行軍を阻む手はなく、当然、途中にストームヴィル城のあるリムグレイヴをも横切る────そこで、ゴドリックは、()()()()()()()()()

 

継ぎの力を得た高揚感、慢心、蔑視…破砕戦争にも加わらずに遥か北の"聖樹"に双子仲良く引き籠った臆病者。片腕のない醜い女。ゴドリックは、その強さを聞いていて尚、今ならばと、今ならば届くかもしれないと、思ってしまった。

 

────結果は惨敗。鎧袖一触(がいしゅういっしょく)にて敗走し、ゴドリックは生きるために己の矜持など投げ捨てて震えて命乞いをした。

 

マレニアは、そんなゴドリックを見もしなかった。

 

惨めにひれ伏したことよりも、それがただただ屈辱だった。

 

ゴドリックは力を求めて()()

 

あの頃からもずっと"継ぎ"のために人狩りの部隊を派遣し、哀れなる褪せ人を集めては手足を切り落としている。偉大なる父祖ゴッドフレイの肖像画を見上げ、届かない果てを夢見ながらも、彼はずっと変わっていなかった。

幾ら"継ぎ"を行おうと、"嵐"の力を手にしようと、何も変わることが出来ていなかった。

 

あの時の敗北が、あの女の遠ざかる背中が、ずっと自分を縫い留めつづけている。

 

ゴドリックは怖かったのだ。それが、認められずに今日まで生きていた。

そして今日、それを認めてしまった。()()()()()()()

 

真正面から城の兵を打ち破り、押し通る彼らを。()の体現者たちを。

 

ゆえにゴドリックの怒りは頂点に達していた。今までにないほどに、激しく。

 

 

ひりつく空気の中、メリディアンはかのデミゴッドの姿を目に焼き付ける。黄金の一族、その末裔ゴドリック。悍ましい所業はしかし力を求めるためならば何者にでも成り、何者でも退けると言うかつての黄金律の在り様そのもの。

例えそれが許されないことであろうと、黄金律とはそういうものであったと、メリディアンは掠れた記憶から思い出していた。

 

 

正しく彼は黄金の末裔である。

 

 

ゴドリックを蔑むネフェリの横で、メリディアンはネフェリの心を理解しながらも、それでも小さな敬意を持ってその鎧に隠れた自身の左目をより赤く染め上げた。

 

────開戦の合図は神速の矢が、ゴドリックの騎士の頭部を貫く音。血飛沫を含んだ風が歓声をあげ、場は敵味方入り乱れる混戦状態へとすぐさま移行することになる。…最後に地に伏せていたのは────黄金の城主であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴッドフレイに近づかんと醜くも純粋に"力"を求めたあの時。

彼は正しく背を追っていた。

やがてマレニアの恐怖、"死"から自分を遠ざけようと"殻"を求め始めたあの時。

誇りは失われ、憧れた背中は見果てぬ夢となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 









でもエルデンリングで一番好きなボスデザインはゴドリックです。

今日は二話投稿しますのでご注意ください。
それと今回から、あとがき最後に参考にしたフレーバーテキストを一部載せていきます。本作は物語を作る上で色々脚色していますのであまり意味はないのかもですが…一応何かの参考になれば。

これより以前の話のあとがきにも追加しておきます。

あと腐朽とは腐って形が崩れるという意味です。


■メリディアン
戦士に対して色々思うことがある。
ゴドリックもまた、彼にとっては蔑むだけの対象ではない。
ネフェリを勧誘しないのには理由がある。


■メリナ
基本的に戦闘時はまだ出張りはしない。


■ブライヴ
自分の強さを押し付けるタイプ。強敵相手以外は結構雑である。


■アレキサンダー
盾でもボールでもないぞ。


■ゴストーク
ブライヴとメリナ以外にはいい人だなーくらいにしか思われていない。
流石に二人は警戒している。いや、メリディアンも全くしてないわけではないけれど。


■ネフェリ・ルー
蛮地の王、ホーラ・ルーの、或いはその戦士たちの末裔。
誇り高く、また純粋過ぎた。


■接ぎ木のゴドリック
怒りが力に変わることはなかった。
屈辱を味わったあの時から、心は留まり腐り始めていた。まるで腐れに呑まれたように。


-ゴドリックの王斧-

それは、黄金の一族の父祖にして
最初のエルデの王、ゴッドフレイの力の象徴である
不遜であろう。我こそは黄金の君主なるぞ


-勇者の頭環-

蛮地にて勇者にのみ許される頭環
多くの敵を屠った証

そして勇者は、余分なものは纏わない
彼らの王、ホーラ・ルーのように


-大樹と獣のサーコート-

接ぎ木のゴドリックに仕える兵たちの胴鎧

サーコートには、遥かなる黄金樹と
黄金の一族の象徴たる、宰相の獣が描かれている
どちらも、今はなき過去の栄光である


-剣の石碑より抜粋-

第一次ローデイル防衛戦
君主連合、内から瓦解し敗軍となる
血の陰謀、その痕跡あり


第二次ローデイル防衛戦
忌み鬼、英雄の屍を築く
黄金樹に揺らぎなし


火山館攻略戦
穢れた者たち、疫病、冒涜
名誉なく、終わりもない惨戦


マレニア南進の碑
ミケラの刃、貴腐の騎士
その翼を阻むものなし


黄金のゴドリック、屈辱の戦
ミケラの刃に、散々と敗れ
ひれ伏し、許しを請う


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