エルデンクエスト   作:凍り灯

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炬火を囲う

 

 

 

 

 

「…!ああ!ご主人さ…うひぃ!」

 

彼にはトラウマがある。自分を痛めつけた親分たち…ではなく狼だ。

 

同じ亜人のくせに行儀よく裁縫なんてものを(たしな)む彼を、やっかみの意味も込めて(しいた)げ、追い出した。もちろん裁縫道具を奪い取ってコレクションにしてからだ。

そして哀れにも取り戻しに戻ってきた彼を、飼っていた狼に襲わせて半殺しにしてまた放り出したのである。

 

亜人の"ボック"はそれがトラウマになってしまったのだ。

メリディアンが()らしめ、道具を奪い返してくれたが、それで治るならば苦労はしない。

 

今、デカい狼が彼を見下ろしていた。彼の名はブライヴ、この怯えように、見事なしかめっつらであった。

つまり効果はバツグンというやつだ。ボックは気を失った。

 

皆の視線がブライヴへと集中する。

 

「…いや、俺のせいか?」

「そう、らしいな?」

「うぅむ、これはどう見ても」

「あなたでしょうね」

 

こんな時のために!とメリディアンが調理道具入れとしてトレントに預けていた特徴的な兜を取り出した。

 

すっぽりと頭を(おお)う楕円形の兜だ。とても重く、とても硬いのが特徴────そう、かぼちゃ兜である。これを被った兵から頂いた、一応きちんとした装備であった。

 

メリディアンはそれをボックにいそいそと被せに行こうとする。

 

「待て待て待て、何してる」

「見えなければ怖いものなどない」

「極端だな?大分重いだろう、無理じゃないか?この非力そうなやつは」

「まぁブライヴ、しかし彼の顔をよく見ろ、この世の恐怖を煮詰めたような表情で気を失っている」

 

ほら、よく近づいて。とメリディアン。

そこまで言われればブライヴも少し興味が沸く。なんだよこの世の恐怖を煮詰めたって、そこまで俺の顔が怖いのか…?

 

少しだけ体を屈ませて覗き込もうとした彼に────メリディアンが動いた。

 

「そこッ!」

「うぉう!?」

 

かぽり、と手に持っていたかぼちゃ兜をメリディアンはブライヴへと被せた。意図を理解したアレキサンダーが、外そうとするブライヴを抑え込む。

偶然にも、人とは違う顔の形の半狼ブライヴでも、つっかえることなく被れる兜だ。ジャストフィット!

 

「おい!ふざけているのか!?離せ!」

「私たちは本気だぞ…!」

「私を入れないで」

「ワッハッハッハ!実によく似合っているぞ貴公!俺も壺を被せてやった"壺師"の連中を思い出してな…素晴らしい装備ではないか!」

「勝手に感傷に(ひた)るな!?」

「ブライヴ…お前が今言ったばかりだろう、ボックには重すぎると…責任を取れ」

「俺のせいか!?違うよな!?」

 

ブライヴは思わずメリナへと助けを求めた。しかしクソッ!見づらくてどこにいるかわからねぇ!虚しく自身の大声が兜の中で反響する。ちなみにメリナは気を失ったボックを助け起こしていた。

 

そこで、ふぅっとブライヴは一度息を吐きだして冷静になる。

 

ここで無駄な体力を騒いで使うのもバカバカしい。要は今ここだけ、少しの間だけ被ってれば解決する話。これ以降、こんなものを被ることはない。ないはずだ。ないよな??それに何度もまた気絶されても面倒だ…

 

そう自身を納得させ、ドカリと近場の倒れた丸太に腰かけた。

 

「ぉぉ…分かってくれた、か…?」

「この装備の素晴らしさを理解したか!」

「ちょっと、あなた、大丈夫?」

「うぅん…母様…ボックは元気に狼のおやつです…」

 

イラっとしたが、ブライヴはむっつりと黙って耐えた。なんで俺がこんな目に…考えてはいけない。考えるな!ブライヴ!

 

そうこうしてる間に意識が朧気(おぼろげ)だったボックが飛び起き、辺りを見回す。

 

「────うわぁ!…あ!確か狼が…あれ?ご、ご主人様!…あの、狼がさっき…あれ?」

「狼なんぞいない」

 

とはブライヴ。ヤケクソである。

いるのはかぼちゃ兜のデカい誰かだ。Shit!

 

「久しぶりだな、ボック…紹介しよう、メリナとトレントは覚えているな?壺の彼がアレキサンダー、半ろ…かぼちゃの彼がブライヴだ」

「よろしくな!貴公!」

「……………」

「あ、えっと、よろしくお願いします。オイラはボック…と言います」

 

言葉遣いに違和感。以前はこんな畏まっていなかったが…

 

「…それで、"ご主人様"とは?」

 

その言葉に、意を決したようにボックが声を絞りだした。

 

「お願いします…!お針子として、あなたにお仕えさせてください」

 

勢いのままに、彼は続ける。

 

「まだ、ゼロから仕立てることは出来ませんが…衣装の調整ならなんなりとお申し付けくださいませ!…あ、も、もしかしたらご主人様はご自身で衣装の調整をなさるのでしょうか?ああでも!それでも、出来るだけボックめにお申し付けください!なんにも頂いたりしませんし、それに…オイラはご主人様のお針子なんですから??」

「落ち着け」

 

────すかさずメリディアンは自家製の鎮静効果のある香薬を嗅がせる。

で、しばらくしたら落ち着いて…

 

「よし、いいぞ」

 

いいということになった。

 

詳しく聞けば、亜人の身でありながら人のためにゼロから仕立てられるほどの腕と信頼を得ていた母を見習い、決心したらしい。もうずっと前に人の村ごと燃えてしまったけれど、いつか母のようになりたいと夢見ていたのだ。

取り戻してもらった道具を手に、メリディアンのために仕え、オイラも母のようにと。

 

ボック自身が気がついていないが、それはある意味では自分本位でしかない願いだった。やりたいことのために、許してくれそうな人を利用する。けれど、それのどこが悪いのか?こんな壊れた世界で、それが拠り所となるならばと、メリディアンは頷く。

彼には他にも理由があった。

 

"母"

 

やはり思うところが、あったのだろう。

 

「ありがとうございますご主人様!」

「せっかくだから頼もうか。ブライヴ…は、今はやめとくか…アレキサンダー…は何もなかったな。メリナ…は必要ないのか?」

「私は、そうね…残念だけどこの身には必要ない…」

 

霊体だからなぁ…

 

特殊な立ち位置とはいえ、そこは変わらないのだろ。

そうなると必然的に一人になるわけで。

 

「そうだな…ではこれを頼むか。大切なものでなこれは」

 

流刑兵のように体に巻かれた真紅の大布、それを解いた。

大布の下はスケイルアーマー、またはラメラーアーマーと呼ばれる、小さくも厚手の皮や金属板を紐などで張り合わせたどこにでもありそうな鎧だった。

軽く、動きやすい。戦場のど真ん中で弓を扱う彼にはきっとちょうどいい。

 

しかし注目すべきでは鎧ではなく、真紅の大布。一同はそれが広げられたのを初めて見た────円卓で見せてもらったばかりのメリナを除いて。

 

流刑兵のものとは全く違う。袖なしの外衣、つまりそれは"サーコート"だった。深紅の布地に描かれていたのは、白い黄金樹。それ自体はよく見る模様とあまり違いはない。だが、少なくとも王都で一般的に使われていたものではないと、ブライヴは気が付く。

 

それは色だ。

 

"真紅"…赤は黄金樹信仰では不吉な色。それは樹を燃やす火を、或いは"火の巨人"を思い出すからだ。

英雄"ラダゴン"が自らの髪色を嫌悪したのもそれが理由だ。このように赤い頭髪は、マリカがかつて打倒した巨人たちの呪いだと忌み嫌われることもある…もっとも、ラダーンはむしろ父であるラダゴンと同じ髪色だということで誇りに思っていたようだが…

 

ただ赤いだけの布ならば、なんら問題はない。問題なのは、赤の中に描かれた"黄金樹"。これを見たブライヴはやっぱりこいつの王都出身ってのは嘘なんじゃ…と思い始めていたりする。

破砕戦争の前に追放されたのならば、表立ってこんなものを身に着けるのは頭がおかしい。散々な評価である。

尤も、これを盗品だと思われない程度には、ブライヴからの信頼はあったわけだ。

 

 

────チクチクとほつれを直していくのを尻目に、祝勝の晩餐(ばんさん)をやろうとメリディアンが提案。近場のイリス教会で座り込んでいた魔術師も巻き込んで、さっさと行きたがるブライヴに、こういうのが大事なのだと押し切って。メリナもアレキサンダーも反対しないものだから、最初から多数決では負けていた。

 

食材はストームヴィル城の食糧庫から失敬してきた肉塊、作っているのはそれをローストしたもの。

騎士道精神はどうした?背に腹は代えられぬのだ。円卓にメリディアンらが行っている間に勝手に取って来たブライヴに文句を言いなさい。結局一番乗り気なのは実は彼であるが、言わないであげるだけの良心をみんな持っている。

 

「貴公!やはり乗り気だな!遠慮する必要なんてないのだぞ!」

 

………一人を除いて!

 

ブライヴがさらに無言になったのを見届けつつ、メリディアンはいそいそと調理を続ける。

 

まずはロアのオイルと塩胡椒などで下味をつけ、炭火を使って遠火で加熱、その後食用には向かないロアの葉で包んで冷ます。常温に戻したら今度はメリディアンはトレントの鞍嚢(あんのう)から一つの壺を取り出した。

 

冷気が漏れ出たままの、所謂"氷結壺"だ。これがまた旅に欠かせないもので、食材の保存も担っている重要な壺!

 

それを先ほど冷ました肉塊たちと一緒に包んで再び元に戻していく。

 

ブライヴは思った。

あれ?今食えないやつでは?

 

その通りである。明日の朝がせいぜいだろう、諦めたまえ…と言いながらもメリディアンは今度こそ今回食べる肉を調理し始めようと新たな肉塊を切ってゆく。

 

単純に豪快に、敷いた鉄板(拾った盾)で肉を焼く…ステーキだッ!!…さらに閃いた!シールドステーキと名付けるのはどうかな!?

ステーキと聞いてブライヴの機嫌は元に戻った。

 

傷みそうだった野菜も一緒に火にかけ、肉とは別に野菜炒めを作りつつ、塩胡椒。

そして前回のキノコの余りでこっそり作っておいたキノコソースの入ったフラスコ型の瓶を取り出す。気の利いたことに少し辛みの効いたソースと、甘みが強めのソースと二種類用意してあるというではないか。

巻き込まれた魔術師の"トープス"とメリナが甘め、ブライヴとアレキサンダーとボックは辛めが好みらしい。メリディアンは辛めが好きである。

 

そしてブライヴは思う。

そうだ、この兜(かぼちゃ)が邪魔だ。

ブライヴの機嫌は下がった。

 

「お前さんたち…すまんね、関係のない私まで…」

「たまにはいいものだろう?横で知らん振りをして騒ぐのも、こちらとしても気が引ける」

 

禿頭と立派な顎髭(あごひげ)を持った魔術師の"トープス"が遠慮気味に野菜をつつく。

聞けばこの先の"湖のリエーニエ"の中央に(そび)え立つ学院、"レアルカリア"で輝石の魔術を学んでいたとか。

メリディアンはメリナから聞いたことを思い出す。

 

「レアルカリアは破砕戦争で不干渉を貫いたのだったか」

「ああ…この地に繋がる南門と、王都に繋がる東門を共に魔法で封印したのだ…未だに、その封印は解かれていない」

「ほう、それで学徒であったはずのあんたも追い出されたままだと」

「"輝石鍵"がなければ、学院に入ることも出来ぬのだ。…私も、ただの下級魔術師、望むべくもなかった…」

 

微かな望みにかけて輝石鍵を探しにいったことも何度もあった…結果は現状が教えている。そも学院に近づこうにも、学院が雇った傭兵、カッコウの騎士たちが行く手を阻む。

荒れくれものと名高い傭兵の前にトープスは諦めるほかなく、失意の元に彷徨(さまよ)っていた。そして後はずっと、ここにいるままだという。

 

「ふん、野蛮なレアルカリアなど放っておけばいい。どうせ何もせずとも、勝手に干からびていくだけだ」

 

そこから続くレアルカリアへの暴言の雨霰(あめあられ)

 

やれ「大ルーンを持つ女王レナラを幽閉し、それで思い上がり、優越感に浸っているだけ」だの、やれ「騎士様ごっこを楽しんでいる恥知らずの傭兵を雇うことでしか力を振りかざせない」だの。

 

メリディアンの隣に座るトープスはブライヴが口を開くたびに肩身が狭くなり、どんどん小さくなっていく始末。余程の恨みがあるのだろうか、世間話のように淡々としているくせして、言葉は本当に途切れない。

 

無口だと思っていた人が急に恐ろしいことを言い出したのにボックは驚いて、何故かトープスと一緒に小さくなっていく。

 

それくらいにしておけ、とメリディアンはブライヴを(たしな)め、ブライヴもまた流石に喋りすぎたと素直に反省する。機嫌が悪いのは絶対レアルカリアのせいだけではないのは明白であるが、実はブライヴ、そう言う愚痴のような言葉を聞かせられる人間はあまりいないのだ。それもあってらしくもないことを口走ったな、と自己分析。

 

一匹狼で居続けるのも、気苦労が多いのだな…とメリディアンは頭に被らせたものから目を逸らして同情する。

 

────咳払いを一つ、ブライヴは話を変える。大事な話だ。

 

「おいメリディアン。そろそろこちらの仕事を手伝ってもらうぞ…忘れたとは言わんだろう?」

「当然だ、これは契約…そうでなくとも、お前との約束を破りはしない」

「…言っておくが、容易ではないぞ。前払い(旅の同行)をしているのだ、途中で投げださせるつもりもない」

「ブライヴ、安心してくれ、と言ってもダメだろう。言葉ではなく働きで示してみせる」

「そう願ってるさ」

 

真剣なのだが、かぼちゃ頭である。違和感がすごい。

 

やはり、それは外した方がいいのでは?

メリナはつい、一言だけ溢しそうになって、流石にやめた。今言う必要なんてないからだ。

メリナは空気を読める女なのだ。

 

「貴公…かぼちゃ頭だと尚更勇敢によく見える。俺が今度貴公にピッタリな壺を作ってやろう!」

ブライヴはこの言葉が「なんてまぬけな頭だ!もっとまぬけに見える頭をあげるね!」と言われてように聞こえてピキった。疲れてるのかなぁ、こんなことでいちいち乱すなブライヴ、と彼は自身に言い聞かせる。

アレキサンダーは空気が読めない壺なのだ。

 

今の話と本当に関係ないしな!

 

「ご主人様!オイラこのキノコソースとても懐かしい味がしてすごい好みです」

「あんた、調理の手際がとてもいいね。その前掛けといい、かつての王都の"調香師"を思わせるよ…あれらも、初めは台所から始まったと聞くからね」

「…待てメリディアン、その、ソース入れのガラス瓶…本当に調香師の使う瓶じゃないか?」

「良くないとは思ったんだが…ちょうど良くてな」

「道具は投げ壺のように使ってこそだ!捨て置かれるより瓶も喜んでいると思うぞ!」

「あなたが言うと説得力がすごい」

「ヒヒン」

「あぁトレント、済まない。今日はレーズンを多めにしよう、明日からまた良く動くことになる」

「貴公!また楽器を聞かせてくれないか、あれはいい…俺の中の戦士が喜んでいるような気がする」

「ああ、それはいいことを聞いた。…そうだな…これは当時の王都で流行った────」

 

湖を見下ろせる丘の上は、星が瞬く時間であろうと遠くの黄金樹が輝き光を届ける。

彼らの輪の中で揺らめく炎と共に、黄金もまたそっと見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 









まだDLCは触りしか出来てないどうも作者です。これからやります!
感想等お気軽にして頂けると嬉しいのですが、DLCのネタバレだけご注意ください!

明日は投稿できないかもなのでその時は申し訳ないです。


■メリディアン
真紅の中に黄金樹を描かれたサーコートを巻いていた。今は正しく身につける気はないようだ。

古い王都の人間だからなのだろうか、人を傷つけない調香も簡単な奴だけ出来る。
かぼちゃの兜はアレキサンダーに合う前、ブライヴ加入直後に啜り泣き半島に行っており、そこのモーン城で手に入れた。


■メリナ
メリナは、メリディアンやボックに対して思うところがあるようだ。
母とは…母から生まれるとは…


■ブライヴ
弱音など、吐いてなどいられない。
そんなふうに、重責が一人彼を蝕むこともあったのかもしれない。


■アレキサンダー
煽ってるわけではないの許してやってほしい。


■ボック
母に想い入れが強いということでメリディアンは共感がある。


■トープス
久々に人の暖かさに触れられた。



-巨人の赤髪-

巨人たちは、皆一様に赤髪であり
ラダゴンは、自らの赤髪に絶望したという
それは巨人の呪いだったろうか


-ラダーンの赤髪兜-

父ラダゴンから受け継いだ、燃える赤髪を
ラダーンは、英雄の象徴として誇っている

我こそは、英雄の子。そして戦王の獅子である


-火付け-

滅びの火は、黄金樹の禁忌であり
預言者は信仰の内にそれを垣間見る
そして、故郷を追われる


-火よ、(はし)れ-

巨人の火とは、黄金樹を焼く滅びの火である
それ故に、巨人戦争の後に封じられ
監視者たちが生まれたのだ


-壺頭-

逆さに被り、頭をすっぽりと覆う壺
鉄拳アレキサンダーの手作り

それはきっと、壺なりの友情の証であり
投擲壺アイテムの威力を高める


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